三咲町に着いたのは、交通機関の関係のため夜遅くになった。今夜の寝床は曰く付きのシティホテル。何でも六年ほど前に、宿泊客百名近くが一夜で行方不明になったらしい。そうなると廃れるのが普通と思うが、ミステリースポットとして有名になり、廃業の危機を乗り切ったそうだ。世の中って想像以上だなぁ。そのため、深夜でも、チェック・インを受け付けてくれる。
そして俺達は、部屋に荷物を置いた後、ホテルの事を教えてくれた銜え煙草をしたポニーテールの女の人が薦めてくれた屋台が出てる場所に向かっていた。




錬剣の魔術使い・第九話




屋台が出ていたのは公園の近く。薫るスープの匂い。うん、当たりだ、この屋台。

「このようなところで食事ですか?」

嫌そうな表情のルヴィアさん。

「しょうがないでしょ。こんな時間にやってる店なんて無いんだから」

たしなめる凛。

「まあ、でも教えられて良かったと思うぞ。ここ、間違い無く美味い」

料理人魂が疼く俺。

「ふ〜ん、美人に教えてもらったからかしら、ねぇ、衛宮君?」

「シロウ、少々みっともなくてよ」

何故か眉を吊り上げる二人。

「いや、スープの匂いで分かるんだって。是非、味を盗んでいかなきゃな」

意気揚々と座る俺。俺に続く凛。渋々と座るルヴィアさん。

店主は寡黙だったが、良い人だった。俺にチャーシュー、凛とルヴィアさんに煮卵をサービスしてくれた。ルヴィアさんは、

「野蛮な料理ですわね」

なんて言っていたが、一口、口にした後は無言で箸を止めることなく食べて、

「美味しい…」

食べ終わった後、そう呟いていた。



屋台を出た俺達は、公園を歩いている。あの味を、あの値段で提供するなんて。チャンスがあれば、帰る前にもう一度食べたいな。しかし、凛とルヴィアさんは、ラーメン食べる姿も絵になるよな。

「屋台のラーメンも侮れないわね」

「中々でしたわ」

「さて、ホテルに帰って早く寝よう。明日は、朝から動くから」

「それなんだけど、なんで私がルヴィアと同じ部屋なワケ?」

「しょうがないだろ。二部屋しか空いてなかったんだから」

ちなみに俺がシングル、二人がダブルの部屋だ。

「別に、私と士郎が一緒で良いじゃない」

「…あのな」

「あら、シロウをミス・トオサカの毒牙に晒す訳にはまいりません。シロウ、私と同室なら安心ですわよ」

「…だから」

「言うじゃない。覚悟は良い?」

「そちらこそ、良ろしくて?」

「二人ともいい加減にしろ!言う事は聞く約束だろ?部屋割りは変えない。これは決定。ほら、ホテルに戻るぞ」

「ちょ、ちょっと、士郎」
「ま、待って下さい、シロウ」

二人を置いて歩きだす俺。そんな俺を慌てて追いかけてくる二人。
だが、その歩みは、

「良い夜ね。」

そんな鈴を転がすような声に、凍らされた。

―煌々と輝く月を背に、街灯の上に立つ白き絶対者―

それは、神々しく荘厳な一枚の絵画。言葉も無い。心は奪われ、魂をも震わせる美しき光景。
だが、その美しさと同じくらい、

ヤバイ。

そう、あれは、ヤバイ。殺される。俺達は間違い無く殺される。

チガウ。

あれは、チガウ。俺達とは圧倒的なまでに違うモノだ。

ニゲロ。

逃げられない。どうにもならない。アレに出遭ってしまった以上は。

背後の二人の震えが伝わってくる。分かってるんだ。今の状況が、どれだけ絶望的かを。

「協会の魔術師が、この町に何の用?」

純白の死が、街灯から同じ地面に降り立つ。

たったそれだけで、自分のあらゆる「死」を幻視した。

ギリッ!!!

奥歯を噛み締める。動かない体に喝を入れる。背後にいる二人を護るため、俺は前に出る。

俺の敵は、常に自分自身。呑まれるな!!

「し、士郎」
「シ、シロウ」


二人の声が耳に届く。いつもの自信に満ちた声ではなく、弱々しい声が。
相手を見据える。肩口までの金髪。白のセーターと、紫のスカートに包まれた完璧な肢体。赤い瞳。見かけとは桁違いの圧力。俺にどうにかできる相手じゃないな。でも、

護ってみせる!!!

心の中で叫び、想いを確かにする。

「投影、開始」

顕れるのは宝石剣。背後の凛に投げる。

「俺が時間を稼いでいる間に、二人は逃げろ」

端的に話す。

「「ダ、ダメ」」

二人の台詞は、こんなときまで一緒だ。ホント似てるな。

「死ぬ気はない。…行け!!!

死ぬ気はない。けど、生き残れると思えるほど楽観してない。だが、二人を逃がすくらいの時間なら稼いでみせる―

「投影、開始」

黒白の夫婦剣を投影し、女性に向けて踏み出して、

「ねえ、もしかしてあなた、シロウ?」

出足を思いっきり挫かれた。

ズッシャァァァ!!!

「ずぅおぉぉぉぉ!!!」

バランスを崩し、思いっ切りすっ転ぶ。

「あはははは、面白〜い」

先程までの圧迫感を消失させ、俺のすっ転び様を楽しげに笑う女性。ギャップ有り過ぎ。

「で、あなた、シロウなの?」

笑いながら聞いてくる女性。

「そ、そうだけど、なんで、俺の名前を―」

「うん、爺やの手紙に書いてあったのー」

「爺や?」

「うん、ゼル爺」

「老師!?老師の知り合いなんですか?」

「うん。爺やはね、私の世話役だからー」

「「え、ええ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」」

「「わっ」」

驚く俺と女性。それにしても、さっきまでの緊迫した空気は微塵も無いな。

「どうしたんだ?凛、ルヴィアさんも」

「どうしたじゃないわよ!!大師父が世話役やってるって言ったら、」
「真祖の姫しかいないではありませんか!!」

真祖の姫。「こちら側」の超VIPだな。……ん、という事は、あの人の妹さんでもあるわけだよな。

「あ〜、先ずは、初めまして。衛宮士郎って言います。よろしくお願いします」

初対面だからな。ちゃんと挨拶しなきゃ。……何故か背後で二人が硬直してるな。何か失礼なとこ、あったかな?

「こちらこそー。あ、私の事はアルクェイドで良いよー。でも、士郎凄いねー。爺やの宝石剣、投影するなんて。ホントに人間?」

「あ、あははは、一応そうですけど。で、宝石剣を投影したから、俺のこと分かったんですね。老師、俺のこと、手紙に何て書いてたんですか?」

「えーと、スパイシーな面白さを持った弟子だって書いてあったよー」

スパイシー!?…一味違うとか言いたいんだろうか、あの爺さんは。

「ねえねえ、士郎は何でこの町に来たの?」

人懐っこい仕草で聞いてくる真祖の姫。VIPとは思えない気さくさだな。

「ちょっとした頼まれ事で」

「何かの調査とか?」

「いや、メッセンジャーボーイみたいなもんですけど」

「ふーん」

何か考え込むお姫様。ま、嘘は言ってない。それだけで終わるとは限んないけど。しばらくして、まだ硬直している二人に視線を移し、

「あそこの協会の魔術師は?」

「え〜と、付き添いみたいなもんです」

「士郎、二股かけてるの?」

「ち、違います」

「あははー。顔、真っ赤だー」

「勘弁してください」

「ごめん、ごめん。…それじゃ、士郎の目的も分かったし、もう行くねー」

「え、あ、はい」

「それじゃー、ばいばい」

と、トンとジャンプして、一気に公園の外に消えていく。

「やっぱり、人間じゃないんだなぁ」

あんな軽い感じのジャンプで、どれくらい跳んだんだろう。

「「………」」

む、まだ呆けているな。

「お〜い、戻って来い、二人とも」

ひらひらと二人の顔の前で、手を振る。

「あ、士郎」
「あ、シロウ」

お、戻ってきた。

「は〜あ、何か異様に疲れたわ」

「同感ですわ」

二人揃って肩を落とす。

「それじゃ、早くホテルに戻ろう」

歩き出す。ただ、続く足音が無い。

「どうしたんだ?」

振り返り尋ねる。目に映るのは、地べたに座り込む二人。

「そ、その、腰が抜けて」

「あ、足に力が入りませんの」

俯きながら言う二人。あ〜、なんとなく次の台詞に予想がつく。一人ならどうにかなるんだけどなぁ。

「士郎、抱っこして運んで♪」
「シロウ、私を抱き上げる事を許可しますわ♪」


やっぱり。物凄く似た者同士だなぁって、しつこい?

「二人いっぺんに抱き上げるのは無理だぞ。できるけど、通報されそうだろ、見た目的に」

かと言って、どちらかを先に連れて行って、もう一方を後から迎えに来るなんて言ったら、血を見るのは間違いない。主にと言うか、俺が。う〜〜ん、アレしかないな。

「じゃ、こうしよう。一人を抱き上げて、もう一人をおんぶして行く。…どうする?」

共に、二天を抱かずって感じに睨み合う二人に提案する。予想通り、二人とも、抱っこを主張。平行線を辿るだけなので、凛におんぶで我慢してくれるように頼む。渋々ながら了承してくれる凛。勝ち誇った笑みを浮かべるルヴィアさん。いや、挑発するのは止めてください。

「士郎の背中って、広いね♪」
「シロウの力強さを、感じますわ♪」


凛さん、背中に柔らかいものが、ぐにぐに押し付けられているのですが。ルヴィアさん、意味ありげに胸を指先で撫でるのは止してください。ふぉ、息子よ、将軍にクラスチェンジしてはいけません!!!色欲煩悩退散、喝!!!

速やかに移動し、ホテルに着く。フロントの人に怪訝な顔をされたが、無視!!凛達を部屋に押し込める。

「ちょ、ちょっと、士郎、もう少し丁寧に」

「も、もう、シロウ、乱暴ですわ」

「そ、それじゃ、俺、疲れたから寝る!!おやすみ!!」

「「―」」

二人が何か言っているようだが、無視して自分の部屋に向かう。そして、部屋に入ってすぐ、ベットに倒れこむ。

「真祖の姫、かぁ」

今回の師匠の用事に、何か係わりがあるのは間違い無いだろう。偶然、この町に居たと言う事はまず無い。

「せめて、アルクェイドさんが敵に回りませんように」

切実な祈りを口にして、目を瞑る。先ほどの邂逅に気付かぬ内に、大分消耗していたんだろう。容易く、眠りに堕ちていった。


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