「ところで、桜と藤村先生には、その髪と肌の事を、どう説明したの?」

「事故で、化学薬品を引っ被った事にした」

「余計に心配かけてどうすんのよ!?」

「うん、その日の内に病院に押し込められた。翌日、師匠に拉致されたけど。そのせいで、次に帰った時、酷い目に遭ったよ」

「自業自得ね」

「む」




錬剣の魔術使い・第六話




昼食は、本格的な広東風焼きソバ。台所に入ろうとした士郎を、ルヴィアゼリッタが舌を巻く程のガンドで、大人しくさせた凛が作った物だ。ちなみに、ルヴィアゼリッタは箸の扱いも優雅で、それに凛が舌打ちしていた事を除けば、和やかな食事の時間だった。

そして、腹もこなれた頃、

「さてと」

士郎が、庭に降りる。

「士郎?」

間接を解し始めた士郎に問い掛ける。

「何する気よ?」

「鍛錬」

「あんたね、少しは安静に―」

「悪い、遠坂。俺には才能が無いから、怠ける訳にはいかない。まあ、今日は軽く流すだけにするから、見逃してくれ」

と、真っ直ぐとこっちを見ながら言う。

「無茶だと思ったら、すぐ止めるから」

フンッとばかりに顔を背けながら答える。
縁側に座る五人。庭に立つ士郎。

「投影、開始」

士郎の手に握られる夫婦剣。そして、士郎の鍛錬が始まった。
イメージの敵は、武装した複数、人外、幻想種。剣を振るいながらも、剣術ではない動き。肘、膝、蹴り、果ては柄を握ったままの拳打が混ざる。止まらない。全ての動きが繋がっており、間断なく繰り出され、激しさを増す。気付けば、握っているのは、王者の剣。夫婦剣に劣らぬ冴えを見せる。
愚直で、無骨。群青の侍のような優雅さもなければ、青の剣士のように洗練されてもいない。不意に頭に浮かぶのは、赤い夕焼け。そして―

「破ぁぁぁぁぁ!!!!!」

渾身の平突きを繰り出して、士郎は鍛錬を終えた。およそ一時間。汗をかいているが、息は僅かに早いだけ。負傷していなければ、それすらないだろう。

「はい、シロウ!」

「ありがとな、イリヤ」

イリヤからタオルを受け取り、汗を拭く士郎。と、こっちを見ると、

「遠坂、エーデルフェルトさん、どうかしたのか?」

不思議そうに聞いてくる。

「な、なんでもないわよ!!」

赤面しそうなのを、誤魔化すために大声を出す。

「え、ええ、その通りですわ!!」

何故か、ルヴィアゼリッタまで大声を出す。首を傾げる士郎。そこへ、

ピンポ〜ン。

来客を告げる呼び鈴が鳴る。ただ、訪問者はそのまま扉を開け、居間にやって来た。

「セラさん、リズさん、お土産持って来ましたよ」

と、誰もいない居間から、縁側にやって来る。そして、訪問者が庭に立つ士郎を認めた時、その手からお土産の箱が落ちた。

「せ、先輩?」

「おかえり、桜」

次の瞬間、桜はそのまま庭に降り、士郎の胸に飛び込んだ。

「先輩、先輩、先輩、先輩、先輩!!」

「さ、桜!?」

「たくさん、たくさん心配したんですよ!?」

「ご、ごめんな、桜。それと、ただいま」

「おかえりなさい、先輩。……もう少し、こうしてて良いですか?今、わたし、ヒドイ顔になっていますから」

「うん、もちろんだ」

桜が落ち着くまで胸を貸してやる。と、不穏な視線を感じて顔を上げ、縁側を見ると、遠坂とイリヤ、そして何故かエーデルフェルトさんの眉が吊り上っていた。なんでさ。
この時、誰も気付かなかった。士郎が桜を抱きとめた時、桜に心配をかけている事にすまなさそうな表情をする前、ほんの一瞬、深い後悔と自責の念がない混ぜになった表情を士郎がした事を。



あの後、桜のお土産をお茶受けにお茶にした。温泉饅頭だったので、全員緑茶。エーデルフェルトさんも気に入ってくれた様だ。エーデルフェルトさんの紹介も終わり、桜に旅行の話を聞いた。

「楽しかったか、桜?」

「はい!驚いた事もありましたけど」

「驚いた事?」

「その、プ、プロポーズされたんです、わたし。旅行先で知り合った人に」

「「「プ、プロポーズ!?」」」
ズズ〜×3

反応する俺、遠坂、イリヤ。無反応のエーデルフェルトさん、セラ、リーゼリット。


聞けば、パック旅行で同じ旅館に泊まってた、その頭をオレンジに染めた男と雷画爺さんが意気投合。食事に同席して、桜に一目惚れ。

「桜ちゃん、君こそ俺の運命の人!結婚してくれ!」

「え、ええ!?」

混乱する桜。ひとしきり混乱した後、深呼吸。そして、

「ごめんなさい!わたし、好きな人がいるんです!」

真っ直ぐに相手を見て、言い切った。

「オウ、ジーザス!!なんで、俺が好きになる子には、好きな相手がいるんだぁぁぁ!!!」

「元気出して下さい。わたしが憑いてますから」

「ガハハハハハハハハ!!まあ、桜ちゃんは一途に、しろ坊を想っとるからなぁ!!しょうがないわい!!まあ、呑めぃ!!」

「ら、雷画さん!?」

「呑まいでかぁ!!!それじゃ、桜ちゃんに一途に想われてるしろ坊とか言う野郎の幸運と、想い届かぬ俺の不運に乾杯!!!」

「乾杯!!!」×藤村組一同。

「無視しないでくださいよぅ〜〜」

こんな具合に酒盛りとなった。


「面白い人でした」

桜にしては珍しく、笑いながら話してる。よっぽど、面白い人だったんだなぁ。

「楽しかったみたいだな。ところで、桜?」

「はい、なんですか、先輩?」

「桜の好きな人って誰なんだ?」

居間が凍り付く―

「内緒ですよ、先輩♪」

笑顔で答えてくれる桜。いつもは心温まるはずの笑顔が、今は絶対零度。

「あ、あの、桜?」

「どうかしました、先輩♪」

「イ、イヤ、気ニシナイデクレ」

周りを見ると、皆大仰に肩を竦めたり、溜息をついたり。桜の兄代わりとして、聞こうと思っただけなんだけどな。ストレートに聞くなんて、デリカシーに欠けてたか?と的外れな反省をした士郎だった。



夕飯は、流石に作らなくちゃなと台所に入ろうとした士郎だが、桜が、

「わたしに作らせてください!!」

と、強硬に主張。先ほどのデリカシーの無い発言の事もあり、譲る事にした。ちなみにメニューは、チキンクリームシチュー。ベシャメルソースも手製の桜の力作だ。

「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

「うんうん、おいしいよぅ。桜ちゃん、おかわり」

「って、もうか、藤ねえ!?もう少し味わって食べろよ」

「おいしいから、たくさん食べたいんじゃない。ところで士郎」

「ん?」

「この外人さん誰?」

と、スプーンでエーデルフェルトさんを指し示す藤ねえ。失礼だろ!どうして、このトラが教師になれたんだろ?

「藤ねえ、スプーンを下ろせ。失礼だろ、まったく。この人はルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトさん。遠坂の倫敦の友達だよ」

「初めまして、ミス・フジムラ。ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルトと申します。ミス・トオサカとは、同期、ですわ」

「同期」を強調するエーデルフェルトさん。二人の間に火花が散ってるのは気のせいだ。そうに決まってる。

「こちらこそ。ああ、ルヴィアちゃんで良い?で、士郎。なんでルヴィアちゃんが、家に居るの?」

「え、それは―」

ヤバ、考えてなかった。どうしよう?

「私、日本家屋に興味がありまして。それで、ミス・トオサカにミスタ・エミヤを紹介していただきましたの。おかげで、有意義な時間を過ごさせていただきました」

「なるほど。外人さんには、日本の家は珍しいもんね〜」

エーデルフェルトさん、やっぱあんた、天使様だ!トラの暴走を未然に防いでくれるなんて!
だが、次の瞬間、てんしは、

「ですので、昨夜に引き続き、しばらくここに滞在させていただきます」

あくまの本性を露にしました。

「ダメーーーーーー!!!」
「ダメに決まってんでしょ!!!」
「ダメです!!!」


すぐさま反応するイリヤ、遠坂、桜。そして次の瞬間、

「どういうことぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!しろうぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!」

虎が吼えた。

「お姉ちゃんは許しませんよ!!!国を遠く離れて心細い思いをしているところを、優しくして恋に発展だなんてベタな展開、絶対に許さないんだからーーーーー!!!!!」

うおぉぉぉぉぉ、藤ねえ、絞まってる絞まってる!あ、オヤジ、ひさしぶりー、今そっちに逝くよ―

「ミス・フジムラ、そのままでは、ミスタ・エミヤが死んでしまいますわ」

「ルヴィアちゃん!年頃の若い男女が、同じ屋根の下で寝泊りするなんてダメよ!そうだ、日本の家に泊まりたいなら家においでよ。うん、それが良いよぅ!」

俺の首から手を放した後、エーデルフェルトさんに向き直り迫る藤ねえ。

「その申し出は大変ありがたいのですが、私、この家に滞在したいのです。この家の主は、ミスタ・エミヤ。ミスタ・エミヤがダメだと仰るのでしたら諦めますが」

「「士郎?」」
「「「シロウ?」」」
「先輩?」


一斉に俺を見る女性陣。断れと、その視線が雄弁に語る。
だが、俺が口を開く前に、きんのあくまは爆弾を投下した。

「私、男性に抱き上げられたのは、初めてでした。しかも、二度もミスタ・エミヤの逞しさを感じましたわ

恥らう演技をしながら、それはもう楽しそうに言うきんのあくま。

オウ、ゴッド。どうして、俺の周りにはこうもあくまやまじょが集まるんですか?教えて下さい。

「ふん、雑種が!我の物に手を出すから、女運が下がるのだ!」

今なら、やっちゃえるなぁ、カミゴロシ。……先に、俺が死ぬかなぁ?



ミスタ・エミヤの尊い犠牲で、場の主導権を握り、エミヤ邸への滞在を認めさせました。一番、警戒していたミス・トオサカも面白いくらい冷静さを失くし、事を思い通り運べました。ただ、ミス・トオサカ、ミス・マトウもエミヤ邸に滞在する事になりましたが。まあ、許容範囲内ですわ。

「エーデルフェルトさん?」

私の前方を、わたしの荷物を抱えて歩くミスタ・エミヤが振り返る。滞在していたホテルから荷物を取りに来たのだ。帰りは、歩きを主張した。その途中、いつの間にか立ち止まっていたらしい。

「何でもありませんわ、ミスタ・エミヤ」

言って、ミスタ・エミヤに並ぶ。隣のミスタ・エミヤに目を向けながら歩く。

私を遥かに上回る戦闘能力を持ちながら、朴訥で人の良い青年。そして、決して届かないと分かっている高みへ、鋼の意志で挑み手を伸ばし続ける男。いつか届く、いや届かして見せると。
私は何でもそつなくこなせる。人が欲する物の大半が、生まれながらにして用意されていた。だからこそ、私は自分の「分」と言うものを知っている。それを越える事は私にとって無駄なこと。だからできない。彼のように挑む事は。
だから、興味を惹かれる。「持たざる者」でありながら私にできないことができる彼に。昼、愚直に高みへと手を伸ばす彼の姿を尊いと思ったから。

「エーデルフェルトさん、俺の顔に何かついてる?」

「いいえ、少し見惚れていただけですわ」

「からかうのは、止めて欲しいんだけど。命に係わるから、ホント」

「フフ、善処いたしますわ。その代わり、お願いがあります」

「まあ、俺にできる事なら」

「あなたのこと、シロウと呼ばせていただきます。ですから、あなたも私の事をルヴィアとお呼びください」

「あ〜、うん。分かったよ、ルヴィアさん」

「さん、はいりませんわ」

「いや、流石に、それは」

「確かに、シロウの性格ではすぐにと言うのは難しそうですわね。しょうがありませんわね。ですが、努力はなさってくださいね」

「あ、うん、了解」

二人は、笑い合って歩いていく。
ルヴィアゼリッタは、道すがら自分の事を話し、士郎の事を聞く。純粋に士郎の事を知りたくて、士郎に自分の事を知って欲しくて。自分が、初めて抱く感情に戸惑いながら。



私は苛立っていた。ルヴィアゼリッタの滞在先であるホテルから、わざわざ歩いて帰ってきた二人は、道中何があったのか名前で呼び合うようになっていた。ムネガイタイ。私、桜、イリヤの三人で詰め寄ると、

「いや、頼まれたから」

と、何でもない事のように言う。ムネガイタイ。ルヴィアゼリッタの士郎を見る目にどうしようもなく苛立つ。ムネガイタイ。あいつは「彼女」の事を知らないから、考え無しにそんな目を向けれるのよ。ムネガイタイ。そんな目?ムネガイタイ。それってどんな目?ムネガイタイ。それは。ムネガイタイ。それは?ムネガイタイ。私と同じ―


風呂に入る。いつも以上に念入りに洗う。風呂から上がる。着替える。軽く香水を吹きかける。風呂場を出る。薄暗い廊下を歩く。襖の前に立つ。ゆっくりと手を上げる。下ろす。それを数度繰り返す。襖に手が当たる。ノックする。

「誰だ?」

応える優しい声。自分が何をしているか分からない。自分がどこに居るのか分からない。頭はパンク寸前。心臓は爆発五秒前。
手が動く。私の意思を離れて。襖が開かれる。窓からは、仄かに差し込む光が、部屋の中を照らす。部屋の主も。後ろ手に襖を閉める。同時に結界を起動。

「遠坂?どうした、こんな時間に」

部屋の主は不思議そうに聞いてくる。息を忘れるくらい麻痺していた口を動かして、言葉を紡いだ。

「等価交換しに来たの」


バック  ネクスト
書棚
風俗 デリヘル SMクラブ