志貴さんが昼食後、旅先でフラれた友人の自棄酒に付き合うために出かけてから、厨房を借り受けた。

「ところで、何で琥珀さんに習わないんです?」

「そ、その、琥珀に習うと、ろくな事になりませんので」

「姉さんに習うのに、間違いです」

あ〜、何となく察しが付く。昨日、凛をダシに俺を、俺をダシに凛を楽しそうにからかう琥珀さんを思い出す。しかし、実の妹の翡翠さんに断言されてるなぁ。文法、妙だけど。




錬剣の魔術使い・第十一話




「じゃあ、さつきさんに習わないんですか?」

彼女なら、チョコの作り方を真面目に教えてくれそうだけど。

「使用人に教えを請うなど、遠野の人間として容認できません。……ライバルなのですから尚更です

む、何か俺の分からぬ事情がある様子。まあ、断る理由なんて欠片も無いしな。

「それじゃ、始めます」

「「「よろしくお願いします」」」

応える三人の声。……三人?

「シオン!?何故、ここに!?」

「私もチョコの作り方を習得したいからです、秋葉」

「まさか、エーテライトを…」

「違います。単にあなたの行動を予測しただけです、秋葉」

「……そうですか。衛宮さん、シオンにも教えていただいてよろしいでしょうか」

「ええ、俺は構わないですけど」

「教授、お願いします、士郎」

「ええ。で、本番は明日なので、今から凝った物は無理です。そう言う訳で、チョコフォンデュにしようかと思うんですが」

気合の入っている秋葉さん、翡翠さん、シオンさんを前に提案する。

「…チョコフォンデュですか?」

「「分かりました」」

不服そうな秋葉さんとすぐに了承してくれた翡翠さん、シオンさん。勿論、このチョイスには理由がある。
聞いた話なら、バレンタインはいつも騒動が起き、その騒動が治まってから、志貴さんはチョコにありつけると言う訳だ。その中で、チョコは大抵原型を留めていないらしい。それならば、騒動が治まってから用意できる物が良いし、手順自体は複雑じゃないから、一夜漬けに適していると言える。

「ですが、あまりにも単純すぎませんか?」

別の物にしようと言わんばかりの秋葉さん。ま、実際に確かめてもらおう。
俺と一緒に三人にも、チョコをフォンデュ用に溶かしてもらう。湯煎を先ず教える羽目になったが。

「そんな、こんなに違うなんて…」
「素晴らしいです、衛宮様」
「単純ですが、奥が深い。興味深いものです」

そう、チョコを溶かすと一口に言っても技術が要る。自分たちの分と、俺の分との口当たりの違いに、三人は納得してくれたらしい。そして、黙々と真剣にチョコを湯煎する。元々不器用な感じの秋葉さん。掃除はこなすが、料理に関しては別人のようになるらしい翡翠さん。そして、淀み無く正確な手つきのシオンさん。

「シオンさん、上手じゃないですか」

「こう言う作業には、慣れています」

作業、まあ、作業だよなぁ。

「これなら、志貴さんも喜んでくれると思いますよ」

「志貴が喜ぶ……」

シオンさんの手が止まる。そして、しばらくそうしていたと思ったら、突然、ボンッとシオンさんの全身が真っ赤に染まる。

「シ、シオンさん?」

「カットカットカットォォ!!」

叫んで、肩を上下させながら息をするシオンさん。……焦げ臭い?

「シオンさん、焦げてる焦げてる!!」

「え?ああ!!」

結局、シオンさんのチョコは焦げ付いた。

「作業を再開します」

気合を入れ直すシオンさん。先ほどの俺の「志貴さんが喜びますよ」発言から、秋葉さん、翡翠さんの気合も二割増しって感じだ。そうやって時間をかけて、本人達が満足できるレベルにはなった。次はフォンデュする物を選ぼう。

「定番ですけど、イチゴやバナナと言ったフルーツは欠かせないですね。後は、胡桃やアーモンド、ナッツ類を加えましょうか」

ヘタを取ったり、皮を剥いたりと言った下拵えの準備をする。ふと、翡翠さんが棚から何かを取り出しているのが目に止まった。それは壺だった。翡翠さんが蓋を取り、それが何か分かった時、俺は手に持っていたイチゴが入ったパックを落とすとこだった。何故なら、その壺の中身は、

梅の実を塩漬けにして発酵させた食品―梅干し―だった。

「ひ、翡翠さん、そ、それは?」

「志貴様は梅がお好きなのです」

迷いのない目。退かぬ、媚びぬ、顧みぬって感じだ。秋葉さん達に目を向けると、

「ひ、翡翠は少々、独特な味覚を持っていまして」
「翡翠の味覚は、私にも解明不能な事象です」

と、微妙に目を逸らしながら言ってくれた。う〜〜ん、困った。翡翠さんは、純粋に志貴さんが梅が好きだから、梅干しを使おうとしているんだろう。けど、志貴さんはオニギリの具としてとか、梅肉を混ぜ込んだ梅の風味がする料理が好きとかじゃなかろうか。秋葉さんも、「翡翠は」と言ってたし。シンパシーを感じた俺には分かる。今までも志貴さん、頑張って食べてたんだろうなぁ。でも、これは志貴さんにとっても、翡翠さんにとっても良いことじゃない。

料理ってのは、作る側も、食べる側も幸せなのが一番なんだ。

「翡翠さん、梅干しは使わないほうが良い」

「何故でしょうか?」

これだけは譲りませんと言った感じの翡翠さん。しかし、俺の料理に対する信念にかけて、俺も退けない。

「チョコと梅干しの相性は良くないんだ」

「相性ですか?ですが、志貴様は去年も、梅を使ったチョコを美味しいと言って下さいました」

「……なるほど。でも、チョコフォンデュには向いてないよ」

「そうなのですか?」

心配そうになる翡翠さん。よし、ここが勝負所だ!

「チョコとは別に、梅を使った料理を作るのは?チョコばかりじゃ、志貴さんも飽きるだろうし」

老師と師匠の下で磨いた話術で、翡翠さんを誘導する。そこはかとなく悲しいなぁ。

「…分かりました。それでは、梅サンドを作ろうかと思います」

「それじゃ、俺も手伝うよ」

「いえ、そこまでは」

「良いから良いから」

まだ、危機は脱してない。翡翠さんが作る梅サンドが如何なる物か、確認しなければ。


想像以上だった。悲しそうな翡翠さんに罪悪感を覚えたが、翡翠さん謹製梅サンドは処分。そして、梅の使い方を、翡翠さんに伝授した。結果、間に挟んだ具材に梅の風味が薫るサンドウィッチが出来上がった。何となく不満そうな翡翠さんの様子が、気に病まれたが。
で、明日の準備が済んだ後、秋葉さんに、

「琥珀の代わりに家に勤めませんか?」

と、真剣に勧誘された。……琥珀さん、あなたの普段の勤務態度ってどんななんです?

それから夕食の手伝いを、琥珀さんに申し出るが断られた。…微妙に視線がきつかった気が。そう言えば、琥珀さんとルヴィアさんがいつの間にか仲良くなっていた。夕食後、凛とさつきさんが厨房に篭った。覗こうとしたら、ガンド撃たれた。なんでさ。そして、やる事も特に無いので、就寝する事にした。

しかし、志貴さんも大変だよな。もてるのも良い事ばかりじゃないらしい。まあ、シンパシーを感じたとは言え、俺には縁遠い話だな。

なんて事を考えながら、眠りについた。



ドゴォォォォォォォォォォン!!!!!!!!!!

そんな音で目が覚める。すぐに部屋を出て、音の発信源を探る。その後同時に両隣の部屋から、凛とルヴィアさんが出て来る。

「士郎、今の音」

「ああ、外だ。二人は琥珀さんと翡翠さんの事を頼む」

「シロウはどうするのです?」

「外に出る。多分、アルトさんが来たんだ」

言って、音の発信源と思わしき裏庭に向かう。そこには、

「妾の邪魔をするな、アルクェイド」

「引き裂いてあげるわ、そのチョコを」


世界を軋ませる程の緊迫感を持って、対峙している黒と白の姫君がいた。

「ス、ストップ、ストップ!!二人とも止めてください!!」

満ちる殺気に怯みながらも、何とか仲裁を試みる俺。

「士郎ではないか、何故ここに居る?」

チョコの入った箱を脇に抱え、小首を傾げるアルトさん。

「士郎は私の味方よ!!」

胸を張るアルクェイドさん。と、

「士郎、士郎君が居るのかい?」

アルトさんの後ろに控えていた奴が声を上げる。しまった!アルトさんが居るなら、当然コイツも居るんだった!

「逢いたかったよ、士郎君♪」

「俺は会いたくなかったぞ、フィナ」

「つれないねぇ〜。君になら僕の純ケツを捧げても良いと、常々思っているのに〜」

「お前、ショタだろうが!!!って言うか純潔のニュアンスが何か微妙に違うぞ!!!」

「だ・か・ら、君が相手なら僕が受け―」

「だぁぁぁぁ、それ以上言うなぁぁぁぁ!!!!」

「少し黙っていろ、フィナ。…士郎よ、真祖の姫が言った事は事実か?」

話を戻してくれるリィゾさん。白一色のフィナと対照的な黒一色の出で立ち。ちなみに、中身も対照的だ。

「いや、この場合、穏便に事を治める為の調停役と言いますか、志貴さんの味方と言いますか」

迂闊な事を言って刺激できない。火薬庫で、火遊びしてる気分だ。……いや、危険度は桁違いだな。

「つまり、汚らわしい吸血鬼はとっとと帰りやがれということです。そうですよね、衛宮さん?」

いきなり現れて、何を仰るんですか、シエルさん?

「そうか、妾の前に立ち塞がるというのだな?ならば、容赦はせぬぞ、士郎?」

「い、いや、ちょっと、待ってくだ―」

「それなら、士郎君の相手は僕が。フフフ、さあ、僕の溢れんばかりの君への愛を受け取っておくれ♪いざ、僕と君だけのエデンへと―」

「黙れぇぇぇぇぇ!!!!!突き穿つ死翔の槍ゲイ・ボルク!!!!!」

鳥肌が全身に出るほどの悪寒を振り払うかのように、投影した赫き魔槍を投擲する。

ズドォォォォォン!!!!!

「ああ、痛い!!この痛みこそが、君の愛なんだね、士郎君♪感じる、君の愛を感じるよぉぉぉぉぉ!!!!!」

幽霊船団パレード」の団員を盾に赫き魔槍を防ぐフィナ。防ぎきれずダメージを受けてるのだが、……めっさ、嬉しそうである。

「し、しまったぁぁぁ!!!」

嫌悪感にまかせて、攻撃しちまった!!!敵対意思を示してどうすんだ!!?

「我が主に仇なすものに容赦はせん」

うわ〜い、リィゾさんまでやる気になっちゃってる。………どうする、どうする?

「アルトルージュとプライミッツ・マーダーは私がやるわ。士郎は白いのと何か相性悪いみたいだから、黒いのお願い。シエルは白いのね」

指示を出してくるアルクェイドさん。

「い、いや、話し合いによる解決をですね―」

「まあ、妥当な判断ですね。命令されているみたいで、気に食いませんが」

…止められそうにないカンジ。いや、諦めるな、俺!!諦めたら、そこで試合終了?なんだから!!

「それでは行きます!!!」

最初に動いたのはシエルさんだ。

「僕のダンス・パートナーに、君では役不足だよ!!!」

「試してみなさい!!!」

激突しながら、林の奥に消えていくシエルさんとフィナ。

「では行くぞ、士郎」

魔剣ニアダークを構えるリィゾさん。

「ちょ、ちょっと、待ってください!アルトさん、アルクェイドさんも!バレンタインのチョコを渡すのに、何で戦わなくちゃならないんです?落ち着きましょうよ、ね!」

「それはできないわ、士郎!!!何故なら、これは女の聖戦だから!!!」

握り拳を振り上げて断言するアルクェイドさん。そげな事を言われても。

「そうじゃ!!!妾も退く訳にはゆかぬ!!!」

二人とも理不尽に興奮状態だ。何だって、コンナコトにぃぃぃ!!!

「士郎よ」

周りの興奮とは一線を画す静かなリィゾさんの声。

「私は、姫様の剣だ。姫様の前に立ち塞がる者は何者であろうと斬る。だが、それとは別に、一人の戦士として、お前と刃を交えたいと思っていた」

殺気が膨れ上がる。この前の死徒とは比べ物にならない。冷や汗が噴き出す。

「私は、全力を以ってお前と闘おう。お前も全力を以って、来い」

動かない。つまり、こちらの準備が整うまで待つと言うことか。

「避けられませんか?」

一縷の望みをかけて聞く。

「最早、始まっている」

にべも無い返答。次に余計な事を言えば、魔剣に首を落とされる。
相手は、死徒二十七祖第六位リィゾ=バール=シュトラウト。力を出し惜しみできる相手じゃない。ならば、衛宮士郎の全てを以って対峙しなければならない。

士郎の27本全ての魔術回路に魔力が奔る!!

I am the bone of my sword体は剣で出来ている

Steel is my body,and fire is my blood血潮は鉄で、心は硝子

I have created over a thousand blades.Unaware of loss.Nor aware of gain幾たびの戦場を越えて不敗。ただ一度の敗走もなく、ただ一度の勝利もなし

「アルクェイドよ。妾達は一時休戦と行かぬか?お前も士郎の真の力に、興味があるであろう?」

「そうね、興味あるわ。良いわ、乗ってあげる」

Withstood pain to createweapons.waiting for one's arrival担い手はここに孤り。剣の丘で鉄を鍛つ

I have no regrets.This is the only pathならば、我が生涯に意味は不要ず

My whole life was "unlimited blades works"この体は無限の剣で出来ていた

瞬間、全てのものが破壊され、あらゆるものが再生した。奔る炎が境界線となる。世界が塗り潰され、異なる世界が顕れる。

―黄金の朝焼けの下、無限の剣が突き立つ丘―

「「「固有結界!!!」」」

驚く白き姫、黒き姫、黒騎士。

「まさか、人の身で固有結界を有しておるとはな」

「うわ、宝具級の剣がたくさん突き刺さってる。すごーい」

その世界の主は、穏やかに闘いの始まりを告げる。

「――行くぞ、黒騎士。時の呪いは健在か」



闘いは始まった。降り注ぐ剣弾。その間を縫って振るわれる剣撃。衛宮士郎は、この剣の丘の王にして支配者。この世界に在る全てを知覚し、認識し、把握する。故に、雨と降り注ぐ剣弾の中、自身も剣を振るえる。剣弾と剣撃による波状攻撃。これこそが、衛宮士郎の固有結界内での闘法だ。

「ほえ〜、士郎、なかなか強いねー」

「うむ。ますます、士郎を妾の死徒にしたくなったぞ」

「いえ、彼は、埋葬機関でこそ、その真価を発揮できるでしょう。………ここに刺さってるの、何本か貰って行っても構いませんよね?」

「あ〜〜、士郎君!!凛々しいよ、雄々しいよ、君の雄姿は!!ああ、僕をこんなにダメにして、イケナイ人だね、キ・ミ・は♪」

いつの間にか観客に納まってる白黒黄?白。

「し、士郎!?」
「シ、シロウ!?」

駆けつけて来た凛とルヴィアが驚く。当然だ。元は悪魔や妖精の異能。魔法に最も近い魔術。禁呪。名の通ったそれの使い手が人ではない事を考えれば、驚かない方がおかしい。
だが、凛とルヴィアの驚きは質が違った。ルヴィアは、士郎が固有結界の使い手である事に驚き、凛は、もう剣の丘に到っている事に驚いた。

聖杯戦争の後に知った、「あいつ」と士郎の繋がり。

イリヤから聞いたバーサーカーとの戦い。同じ二つのペンダント。そして、英霊の座の特質。

目の前に広がる、黄金の朝焼けに照らされた剣の丘。
かつて夢に見た、軋む歯車を天に抱く朱い剣の荒野。

似ているが、間違い無く異なる世界。「あいつ」と士郎は違うと確信する。……だが、固有結界は心象世界の具現。黄金の朝焼けが、黄昏の朱に染まる事もあり得ない訳ではない。

士郎を「あんた」にはしないわ、絶対に。それが、私、遠坂凛の違える事の無い誓い。

朝焼けの向こうで、「あいつ」が微笑んだ気がした。


リィゾ=バール=シュトラウトは、剣を「使う者」である。ただ、彼は知っていた。己が、剣の道で「頂点」に立つ器では無い事を。しかし、彼は磨いた。主君の剣として、不器用に、一心に。その姿勢は、衛宮士郎と同じと言える。鋼の意思で、数百年もの間、己が技を磨き上げてきた。故に、重い。彼の一撃、一撃が。剣弾を、剣撃を徐々に押し返して行く。数百年の研鑽と、三年余りの鍛錬。その差が現れ始めていた。
無論、それだけではない。黒騎士を縛る忌まわしき呪い。しかし、皮肉な事に、その呪いが彼を護っている。かの英雄王に匹敵する攻撃ですら、決定打にならない。

ならば。

ドンドンドンドン!!!!

剣弾を放つと同時に、距離を取る士郎。そして、

I am the bone of my sword我が骨子は捻じ凶る

再び、呪文を詠唱した。魔力が奔る奔る奔る!!!異界に在りながら、更に異常を重ねる。

―創造の理念を狂わせ―
―基本となる骨子を捻じ曲げ―
―構成された物質を捏造し―
―製作に及ぶ技術を誤らせ―
―成長に至る経験を偽り―
―蓄積された年月を騙し―
―あらゆる工程を乱し尽くし―
―ここに幻想を歪めて剣と成す―


凶々しくも、神々しき光溢れる金の刃
神々しくも、禍々しき闇湛えし黒き刃
聖と魔、絡み合う二重螺旋
在り得ない、在ってはならない剣
歪んだ幻想ディストーション・ファンタズム

「「「「「「「なっ!!?」」」」」」」

その場に居る者は驚愕する。その歪な剣の持つ力に。

「ク!!!」

士郎が黒き洋弓に剣を番えるのと同時に、リィゾは剣を防御の為に構える。外す事は無く、避けられないと解ったから。

虚・螺旋剣エクスカリバーU

そして、真名と共に放たれた、歪んだ剣。

尋常ならざる回転が竜巻を生む。竜巻は大気摩擦により放電。放電現象は集束し雷となる。
それは、雷の嵐サンダーストームを纏い翔ぶ魔弾。

「雄ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!」

ニアダークで魔弾を受ける。だが、容易く弾かれる!!

「グオォォォォォォォォ!!!!!!!!」

リィゾの体を剣が抉り、削り、砕き、刃風が引き裂き、雷が灼く。
魔弾過ぎ去りし後、残ったのは帯電する空気と、弾かれて地に突き立った魔剣のみ。

「「やった?」」

ボリボリボリボリ!!

凛とルヴィアの呟きと、観戦組が興奮気味に食べるカレー味のスナック菓子の咀嚼音が響く。
と、士郎が剣を取り、突き立ったニアダークに目を向ける。

そこに異常があった。

雷に灼かれ、刃風に引き裂かれ、剣に砕かれ、削られ、抉られた時が逆巻く。瞬く間に、寸暇も負わぬ黒騎士がそこに佇んでいた。

ザッ!!!

魔剣を引き抜いたリィゾが、士郎に迫る。

ギィィィィン!!!!

歪んだ幻想を投影した代償は重い。魔力は尽きかけ(とは言え後五分は固有結界を維持できる)、体は悲鳴を上げている。

「ハァ!!!」

裂帛の気合を込めて繰り出される一撃を受ける。耐え切れず、剣を離す。剣を引き抜く。追撃。飛ばされる。引き抜く。追撃。飛ばされる。引き抜く。追撃。飛ばされる。そして、

「うわ!?」

不意に膝が崩れる。その隙を見逃すリィゾではない。上段に振り上げられる魔剣、真性悪魔ニアダーク。

「終わりだ、士郎」

そして、振り下ろされた。

「「イヤァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!」」

悲鳴が、剣の丘に響いた。




虚・螺旋剣:エクスカリバーU。士郎が修行中に創り出さざるを得なかった歪んだ幻想。「必要こそが、創造の母。」との事。星が鍛った神造兵装を歪めた為、世界からの修正が強く、「無限の剣製」内に於いてのみ投影可能。士郎に対する負担も大きいと制約が多いが、威力は折り紙つきである。ランクはA++。これは複製ではなく、聖剣を元にして全く別の剣を創造したと言えるからである。士郎の切り札。


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