聖杯戦争より五年。私こと遠坂凛が、倫敦に渡って四年が経とうとしていた。聖杯戦争の生き残りとして、特待生という待遇を与えられたのは正直気に喰わない。ただ、利用できる物は利用する。それも魔術師の正しい資質の一つだろう。

五年。それが、私が時計塔ですべき事に掛かる時間の目算。けど、その予測は一年近く短縮されていた。その理由。

ルヴィアゼリッタ・エーデルフェルト。

遠坂凛の総てに賭けて、負けられない人間。魔術の祖である大師父を同じくし、同じ「五大元素」の属性を持ち、同じ鉱石学科で、時計塔主席を毎回争い、民族の違いはあれど容姿は拮抗。ついでに、被ってる猫の数も甲乙付け難い。だと言うのに。

なぜ、そんな奴と隣り合って座っているのだろう?



錬剣の魔術使い・序話



この状況に至った経緯を思い起こす。

話は三年ほど前に遡る。時計塔にある噂が流れた。あの「ミス・ブルー」が弟子を取ったと言うモノ。彼女の事を僅かでも知ると言うか、知らない者など居ない時計塔に於いて、この噂は失笑を買うものだった。協会に届出も無い事から、三日後には話題に上る事も無くなった。
しかし、半年前に噂が再燃した。ミス・ブルーに協会が依頼した幻想種の退治を、件の弟子が遂行したと言うのだ。ミス・ブルーに依頼した仕事は、協会の戦闘専門の魔術師の精鋭数人が、犠牲を前提に事にあたらなければならない程らしい。それを五体満足で成し遂げた人物に、協会は注目。協会への登録をミス・ブルーに促したのだが、

「あの子は魔術師じゃないから、協会に所属する必要はないわ」

この返答に、当然協会側は抗議したが、

「あんまりしつこいと、時計塔、更地にするわよ?」

これにより、時計塔は沈黙せざるを得なくなった。それから、ミス・ブルーは、退治の依頼を積極的に受け、弟子に解決させていった。ミス・ブルーとその弟子は行動を共にしており、接触は困難を極め、存在を確認されて半年が経過しながら、「彼」について分かった事は、身長190cmに近い長身、白に近い銀髪で、褐色の肌をしており、青い外套を纏っていると言うことだけである。名前も出自も分からい。ただ、協会としては、その弟子が如何なる魔術を行使するのか位把握していなければ、面目が立たない。けれど、ミス・ブルーも刺激できない。
そんな中、進展があったのが昨日。時計塔ですべき事の大詰めに入っていた私は、突然執行部に召喚された。何事かと困惑する私に、幹部の一人が説明した。

「ミス・ブルーの弟子が一人で、君の管轄地であるフユキに入ったという情報を得た。君には彼と接触し、最低でも彼の魔術が如何なるモノか探って貰いたい」

と、その日の内に、機上の人となったのだ。戦闘専門の魔術師を動かせば、時計塔が更地に成りかねないので、冬木に行くのが自然な私に、白羽の矢が立った訳だ。そこまでは良い。そりゃ、後二ヶ月程で、冬木に帰れるくらい研究が進んでいて、波に乗っている所を止められたけど、報奨もそれなりだし、おかげで目を付けていた宝石のローンを組むことができた。だから良い。魔術を行使する者同士の交渉が、穏やかで無い事も分かっている。幹部連中が、手持ちの最良の札を出したい気持ちも納得できる。だからと言って、

「あら、どうかしまして、ミストオサカ?」

なんで、コイツと里帰りしなけきゃなんないのよ。

「いいえ、何でもありませんわ、ミスエーデルフェルト」

ファーストクラス。本来ならば、優雅な旅を満喫できるはずの乗客と、それを演出すべき乗務員は、ハイジャックが些事の如き緊張の中に居た。その緊張の中心は、見目麗しき二人の女性。微笑みながら和やかに会話している様が、余計に恐ろしかった。そんな周りの恐慌など眼中に無い様子で、遠坂凛は再び思索に耽る。
ミス・ブルーの弟子が冬木に入ったと聞いて、頭に浮かんだ人物。半人前で、へっぽこで、弱っちい癖に、私が知る中で誰よりも強い少年。高校卒業後は、私の誘いを断り、長年見守ってきた姉のような人、家族として受け容れられていた後輩、血の繋がりの無い妹に、泣きながら引き止められるも、結局自身の理想ユメを叶える為、旅に出た戦友。のようなもの。

「遠坂も頑張れよ。応援してる」

お互い発つ時、握手して別れた。この時の事を思い出すと、なぜか右手と頬が熱くなる。首を振り、熱を振り払う。C.Aに毛布を貰い、日本までの長い時間を睡眠で潰す事にした。あいつが、「彼」だと何故か確信していた。だが、確証は無い。まあ、確証は冬木に帰れば、手に入る。全ては向こうに帰ってから。今は、滅多にと言うか、初めて利用するファーストクラスのシートの心地良さを満喫しよう。


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