麻帆良の学生の中でも抜きん出たバイタリティを持つ3-Aではあったが、麻帆良から京都までの長距離長時間の移動と、「音羽の滝」で飲んだ酒で騒動を巻き起こす時の主要メンバーが酔いつぶれたことで就寝時間前に大半の生徒が寝入っており、「ホテル嵐山」は静かな夜を迎えていた。
そんな就寝時間間際、静まり返った廊下を誰にも見つからないよう気配を消しながら足早に行く影が2つあった。そして、その影は目的地が同じであるが故に鉢合わせする。
「「真名っ/楓っ!?」」
互いを認識した瞬間、後ろに跳び間合いを取る2人。言葉など要らない。視線が交錯しただけで互いの希は知れた。ならば、すべきことは唯一つ。
「「シッ/フッ!!」」
邪魔者の排除だ。何故なら、士郎との二人きりの時間は唯一人にしか与えられないものなのだから。
裂帛の呼気と共に放たれた10円玉手裏剣と10円玉指弾が二人の間の空中で激突し、澄んだ金属音を響かせて廊下に落ちていく。熾烈な攻防。だが、その終幕は2人以外の人物の手で齎された。
「龍宮っ!! 長瀬っ!! 廊下で何をしとるっ!!」
「「に、新田……先生!?」」
10円玉の撃ち合いが生んだ騒音が新田先生の耳に届いてしまっていたらしい。本来なら彼の接近に気付かない2人ではないが、互いに互角の力量を持つ相手に集中していたことと教員の部屋が現場のすぐ近くだったことが原因だろう。
「ばかもんっ!! お金は玩具ではないぞっ!!」
廊下に散らばったたくさんの10円硬貨と楓と真名の姿をしっかりと見据え新田先生が2人を叱る。新田先生には2人が遊んでいるように見えたようだ。実際は真剣勝負だったが。
「龍宮、長瀬、良く聞きなさい。お金と言うものはな…………」
「「……くぅ、不覚」」
楓と真名は素行は良いと言うかあまり問題を起こさない生徒だ。なので、即正座を言い渡されたりはしなかったが、2人は延々とお金の大切さを説教され、今夜士郎と共に過ごすという計画が頓挫してしまったのだった。
立派な魔法使いと錬剣の魔法使い・第8幕 「第一次乙女戦争」 <九頭竜さん>
「あれはっ!?」
屋根の上で周辺を監視していた士郎は、木乃香を腕に抱えた着ぐるみがホテルから跳び去っていくのを目撃する。
「ッ!!」
しかし、士郎は木乃香を連れ去った着ぐるみを追うことが出来なかった。士郎が着ぐるみを追おうとした瞬間、投槍や矢と言った武器が少女達が眠る部屋に向けて飛来したからだ。
「ハッ!!」
着ぐるみを追う明日菜と刹那を視界の端に捕らえつつ、指の間に投影した黒鍵を投擲しこれらの武器を撃ち墜とす士郎。そして、士郎の鋭い鷹の視線が見据える先には、翼を広げ上空に滞空しながら攻撃を仕掛ける9体の悪魔の姿があった。
「クッ、俺の足止めが目的か」
絶妙な時間差を以って繰り出される波状攻撃を撃墜するため、士郎はその場を動けない。しかも狙いは依然少女達が眠る各部屋のままで、わざと隙を見せて誘っても士郎を攻撃する気配は無い。自分が狙いならある程度の負傷も辞さずに反撃するが、この状況では敵の攻撃を迎撃することに専念せざるを得ない。
加えて士郎には独力の飛行手段が無いので、隙の無い波状攻撃の合間に空を飛翔する悪魔を攻撃するのは現状で不可能に近かった。
「衛宮君っ!!」
しかし、それは士郎が1人である時の話だ。瀬流彦の呼び掛けと共に風の結界が「ホテル嵐山」を覆い、悪魔の攻撃を防ぐ。そしてその一瞬の間隙を逃さず、士郎の神速の三連射が3体の悪魔を貫いた。
「遅くなってごめん、衛宮君。新田先生と一緒に居て、どうしても動けなかったんだ。まあ、今は新田先生が見回りに出てるから、こうして出て来れたんだけど」
現在、新田先生はお金の大切さについて説教中である。
「いえ。助かりました、瀬流彦先生」
悪魔たちは、瀬流彦がこの場に加わった時点で足止めが不可能になったことを悟った召喚主がすでに退かせていた。だが、相手側の目的である士郎の足止め自体は成功だろう。何故なら、今頃京都駅で怒り心頭のネギ・明日菜・刹那に木乃香をさらった人物が吹っ飛ばされていたのだから。……本当に士郎の足止めだけが成功していた。
「瀬流彦先生、俺は木乃香を攫った奴を追います。こちらの事は頼みます」
「了解。こっちの事はまかせといて」
瀬流彦にホテルの守りを託し、士郎は着ぐるみが消えた方向に跳ぶ。追跡の途中、木乃香を救出したがその場から逃げ出した刹那と会って、ネギ・明日菜・木乃香の居場所を聞いた士郎が3人を「ホテル嵐山」に連れ帰ったことで、慌しかった修学旅行一日目が終わりを告げたのだった。
夜が明けて翌日。修学旅行2日目であるこの日は奈良で班別行動となっていた。
「――今回、動きを見せている連中の狙いは十中八九、木乃香の身柄と見て間違いないな」
「……衛宮さんも奴らの狙いは親書ではないと?」
エヴァと茶々丸、そしてもう1人ある生徒が修学旅行を欠席したため人数が足りず解散した6班から刹那が加わった3-A5班と、朝食の時にのどかに誘われたネギと共に士郎は奈良公園に居た。もちろん、木乃香たちからは距離を置き陰から見守っている。そんな士郎に木乃香を式神に任せた刹那が意見交換のため接触していた。
「ああ」
「何故、そうお考えに?」
「そもそも東西の友好を邪魔したいなら親書を奪う必要は無い。「関西呪術協会」であることを堂々と宣言しながら親善の特使であるネギ君を攻撃するだけで事足りる。それにネギ君に昨日の話を聞いたが、その呪符使いは木乃香を人質に親書を要求しなかったんだろう? なら、連中にとって親書はそこまでして確保する必要がない事になる」
「……ならば奴らの真の狙いは、やはりこのかお嬢様なのですね」
そう口にして、抑えきれぬ怒りを込めてギリッと歯を食いしばる刹那。
「……ところで、刹那」
「はい、何でしょうか?」
「何故、木乃香を避けてるんだ? 幼馴染なんだろう?」
「そ、それは……」
士郎の問い掛けに、先程までの怒りは形を潜め刹那は俯いてしまう。
「とにかく周囲の警戒やクラス全体の護衛は俺に任せて、刹那は傍で木乃香を護ってやれ」
刹那は陰陽術を使えるとは言えあくまで補助程度のもので、その本領は剣士である。能力の関係から刹那が木乃香の傍で、士郎が周辺の警戒及びクラス全体の護りに付くのは至極真っ当な判断だ。
「……いえ。式神も放っていますし、傍に控えなくとも陰からしっかりお守りいたします」
そう頭で解っていても、感情を御しきれずにいる刹那であった。
「だが、相手の狙いは木乃香だ。万全を期すためにも傍にいて護る方が確実だろ?」
「そ、それでしたら、衛宮さんがお嬢様の傍に」
「……何でそこまで頑なに木乃香を避ける? 木乃香のことが嫌いなのか?」
「そ、そんな訳ないでしょう!」
「なら問題ないな」
「えっ、だ、だから、それはっ」
士郎は刹那の事情を知らない。だが士郎の目から見ても、刹那も木乃香と気持ちを同じくしていると解る。となれば、刹那に必要なのは自分を見つめ直す時間と踏み出すキッカケだろう。
「木乃香のこと頼んだぞ」
「……あっ」
落ち着かせるように刹那の頭を撫でてからその場を後にする士郎。生い立ちからそういった事をされることに慣れていない刹那は、士郎を呼び止めるタイミングを逃してしまう。
「「刹那/桜咲さーん!」」
「ネギ先生、アスナさん」
そんな刹那の許にネギと明日菜がやって来る。
「刹那さん、今のところおサルのお姉さんは来ませんねー」
「おそらく今日は大丈夫だと思いますが」
「ねえ、桜咲さん。しろ兄は?」
「……衛宮さんは周辺の警戒と陰からクラス全体の護衛をなさっています」
「それなら桜咲さんがこのかの担当なんだ」
「い、いえ、私も陰からお嬢様をお守り……」
「何で? しろ兄が陰から守ってるんなら、桜咲さんはこのかの隣にいておしゃべりでもしながら守ればいいじゃない」
「そ、そんな、私などがお嬢様と気易くおしゃべりなどする訳には……」
「またもー。何照れてんのよ、桜咲さん」
「なっ、別に私は照れてなど!」
「アスナアスナー、一緒に大仏見よーよ!」 「へぶっ」
「せっちゃん、お団子買ってきたえ、一緒に食べへんー?」 「えっ……」
と、そこへネギとのどかを2人きりにしようと画策するハルナと夕映、純粋に刹那と一緒の時間を過ごしたい木乃香が現れる。そしてハルナと夕映に引きずられるように連れ去られる明日菜と追いかける木乃香から逃げる刹那を見送りながら、その場にぽつ〜〜んと取り残されるネギ。
「あれー?」
「ハァハァ……あっ。ああ、あのーネギ先生……」
「あ、宮崎さん。……な、何かみんな行っちゃいましたね。……2人で回りましょうか」
「えっ……あ、はい! 喜んでー!」
ハルナと夕映から大幅に遅れてやって来たのどかと共に奈良公園を回ることにしたネギ。この時、後でのどかに告白されるとは夢にも思っていないネギであった。
「う〜〜ん、大丈夫かしらねえ、あのガキんちょは」
「もう何もかもいっぱいいっぱいといった感じですね、ネギ先生」
「しかし凄いな、ネギ君は。10歳なのに告白されるとは」
のどかに告白されたことで思い悩み身悶えていたネギは、心配したあやかやまき絵たちに原因を訊かれ逃げ出す。その光景を陰から見ていた士郎・明日菜・刹那は苦笑を零していた。
「……奈良では全く動きが見せなかったな」
「次の襲撃に備えているのでしょうか?」
「そう見て間違いないだろうな」
昨日、士郎を「視て」いた気配は全く感じられない。だからと言って、警戒を疎かにする訳ではないが。
「明日は自由行動だ。ネギ君にはその時に親書を持って、「関西呪術協会」の総本山に行ってもらうべきだな」
「その時は衛宮さんも一緒に?」
「ああ、そのつもりだ」
相手側の狙いは親書ではなく木乃香だろうが、かと言ってネギを一人で行かせる訳にもいかない。
「ちょっと待ってよ、しろ兄。ネギのことは私にまかせて、しろ兄は桜咲さんと一緒にこのかを守ってあげて」
と、ネギと「仮契約」を結んだ自分が頭数に入っていないことに気付いた明日菜が話に割り込む。
「明日菜、エヴァの時とは状況が違う。……危険なんだぞ?」
そんな明日菜を威圧感を込めて見据えながら士郎が問う。
「でも、あのサル女は親書を持ってるネギじゃなくて、このかを攫ったじゃない。……このかの方が危険なんでしょ?」
「む、けどな」
「大丈夫! 私、結構強いんだから。それにネギってあんなじゃない。ほっとけないよ」
昨夜の戦闘で自信が付いたのか力瘤を作って士郎にアピールする明日菜。確かに明日菜のアーティファクト「ハマノツルギ」の能力が、敵との相性が抜群に良いことは昨夜の戦闘で証明済みだ。
「……衛宮さん、神楽坂さんの力は私も保証します。ネギ先生のことは神楽坂さんに任せて、衛宮さんもお嬢様の護衛に付いて頂けませんか?」
士郎の話を聞いて敵が場合によっては一般人を巻き込む事も辞さないことが解っている以上、刹那としては木乃香の守りを確固なものにしたい。もちろん、これは敵の真の狙いが木乃香であることを踏まえた上での考えだ。
「……フゥ、解ったよ。けどな明日菜、危ないと感じたら親書のことは諦めていい。ネギ君と2人、無事に戻ることを何よりも優先するんだ。それが約束できるなら、ネギ君のことは明日菜に任せる」
「分かった。約束するわ、しろ兄」
「ネギ君のこと頼むぞ」
「うん! まかせといて!」
自分の言葉に力強く頷く明日菜の頭を優しく撫でる士郎。照れる明日菜だがそれでもくすぐったそうに甘受している。仲の良い兄妹のような姿であった。
「……では、私は一度部屋に戻ります」
そんな2人の姿に自分でも良く解らない複雑な感情を抱いてしまい、居心地の悪さを感じて足早にその場を離れる刹那。
「あっ、桜咲さん、待ってよ。じゃあしろ兄、私も部屋に戻るね」
そんな刹那を追って、明日菜も部屋の戻るため行ってしまう。
「ああ。……さて、あの様子じゃネギ君に明日の事を話すのは後にした方が良いな。仕方ない。先に瀬流彦先生に明日の事を伝えよう」
そうして、士郎もその場を後にした。
「ええ〜〜っ!? ま、魔法がバレた〜〜〜!? しかも、あああの朝倉に〜〜っ!?」
「は、はい、……ぐし」
瀬流彦との打ち合わせを終えて休憩所に下りて来た士郎は、そこで困った事態になっていることを知る。話を聞けば、どうもネギが車に轢かれそうになったネコを助けるために魔法を使った所を和美に見られたようだ。
「朝倉って娘にバレるのはまずいのか?」
「そりゃもう。朝倉にバレるのは世界にバレるのと一緒よ」
「どどどどどどうしよ〜〜〜、シロウ〜」
「むぅ」
瀬流彦なら記憶操作も出来るだろうが、どうも学園長に「魔法使い」としてネギと接触することを禁じられてるらしいので、頼むのは無理だろう。
「もーダメだ。アンタ世界中に正体バレて、オコジョにされて強制送還だわ」
「そんな〜〜っ、一緒に弁護してくださいよ〜〜、アスナさん、刹那さん〜〜っ」
まあ、和美が魔法をバラそうとしても、『こちら』側が即座に対応するので不可能だが。とは言え、このままにしておく訳にもいかない。ネギが魔法がバレた理由が理由なので、手を貸す事に決める士郎。
「その朝倉って娘に話を広げないよう頼むしかないな」
「朝倉さんを説得してくれるの!? ありがとう、シロウ!」
「もちろんネギ君も一緒にだぞ?」
「うん、シロウ!」
士郎が手を貸してくれることに素直に喜びを露にするネギ。士郎への苦手意識は大分払拭されているようだ。
「お――い、ネギ先生――」 「ここにいたか、兄貴――♪」
と、そこへカモを肩に乗せた和美がやって来る。そして、士郎とネギが魔法に関する話を切り出すよりも早く和美は、
「報道部突撃班・朝倉和美、カモっちの熱意にほだされて、ネギ先生の秘密を守るエージェントとして協力していくことにしたよ。よろしくね♪」
と宣言して、ネギに集めた証拠写真を渡す。そんな和美の態度に問題が1つ減ったと喜ぶネギ。
「……まあ、いいか」
しかし、士郎は和美の態度の豹変を訝しむ。特に、カモが一緒に居た事が何と言うか引っ掛かっていた。が、まあ、魔法をバラす事を思い止まってくれた事だし、深く追究することは止めることにした。そして、周辺を見回るためにその場を後にしようとする士郎に、和美が声を掛ける。
「それにしても、カモっちに聞いたけど士郎さんも魔法関係者なんだよね?」
「……まあ、そうだな」
「今度、士郎さんの話も聞かせてね」
「俺が話せる範囲なら構わない。けど、あまり『こちら』に深入りはしないようにな」
「悪いけど、それは約束できないね、士郎さん」
和美の躊躇が無い返答にそれ以上は何も言わず歩き出す士郎。何かあった時は守るだけだと、既に心に決めていたからだ。それは「衛宮士郎」として当然の決意で、言葉にするまでもなかった。
「旦那旦那!」
「? 何だ、カモミール?」
と、カモが士郎の肩に登ってきて、声を潜めながら話しかけてくる。
「俺っちがこの旅館の四方に索敵用の魔方陣を敷いてます。何か反応があったらすぐ旦那にお伝えしますんで、どうぞ今夜は旅館の中で待機してくだせえ」
「……そうか、わざわざすまないな、カモミール。分かった、カモミールの言う通りにしよう」
「へい。何かあったらすぐお知らせしますんで」
「ああ。頼むぞ」
そうして、士郎は部屋に戻る。……カモの企み通りに。
「名付けて『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生・士郎さんとラブラブキッス大作戦♪』!!!」
枕投げ・怪談・コイバナと就寝時間になっても騒がしい3-Aに新田先生のカミナリが落ちた後、周辺の見回りに出た明日菜と刹那を除く不平不満を漏らす3-Aの少女達に和美が禁断のゲームを持ちかける。
「よーし、各班10時半までに私に選手2名を報告!! 11時からゲーム開始だ――!!」
『お―――っ!!!』
そして、満場一致で禁断のゲームは幕を上げる事となった。
「フフフ、ラブラブキッス大作戦とは仮の姿……その実体は『仮契約カード大量GET大作戦』さ!!」
その裏に欲望渦巻く企みがあることを誰にも知られることなく。
「兄貴と旦那に旅館内でチューしたら即パクティオー成立。戦力は増えるし、協会からの仲介料で俺っちと姉さんの懐も潤う、正に一石二鳥の作戦だぜ!」
「ヒューヒュー!」
自分達の企み通りに事が進んでいくことに笑いを隠せない和美とカモ。…………1人と1匹は知らない。その道の先にある結末は、凄惨なものでしかないことを。
「修学旅行特別企画!! 『くちびる争奪!! 修学旅行でネギ先生・士郎さんとラブラブキッス大作戦』〜〜〜〜〜〜!!!」
とにかく、様々な思惑と欲望が交錯する禁断のゲームが始まる。
1班代表選手:鳴滝風香・鳴滝史伽→ネギ狙い
「あぶぶぶ、お姉ちゃ〜〜ん、正座いやです〜〜」
「大丈夫だって。僕らはかえで姉から教わってる秘密の術があるだろ」
「そのかえで姉とあたったら、どうするんですかー!?」
「かえで姉の狙いは士郎さんだから大丈夫だって」
2班代表選手:古菲・長瀬楓→ネギ及び士郎狙い
「一位になってしまたらどーしよアルかねー!? ネギ坊主とは言え、ワタシ初キスあるよ〜〜♪」
「ん―――♪ 拙者もでござる♪」
3班代表選手:雪広あやか・那波千鶴→ネギ及び士郎狙い
「ネギ先生の唇は私が死守します!!」
「頑張って、あやか。私も頑張るわ」
4班代表選手:明石裕奈・佐々木まき絵→ネギ及び士郎狙い
「よ――し、絶対勝って士郎さんと……キャ―――♪」
「エヘヘ――♪ ネギ君とキスか――♪ んふふ♪」
5班代表選手:綾瀬夕映・宮崎のどか→ネギ狙い
「絶対勝ってのどかにキスさせてあげます。行くですよ!」
「う、うんー」
カメラの映像を介して観客が見守る中、熱い戦いが繰り広げられる。
「ち、ちづるさん、援護を……って、いない!?」
開始早々2・3・4班が三つ巴の戦いを展開するが、この時点で楓と千鶴は己が目的のため、早々に離脱していた。
「ごめんね、あやか」
後ろを振り返り、囮にした親友に申し訳なさそうではあるが笑顔で謝罪の言葉を口にする千鶴。……中々に黒い。だが天罰覿面。
「あっ、すいません」
後ろを向いて歩いていたため、千鶴は誰かにぶつかってしまう。そして、そのぶつかった相手は、
「那波、 何をやっとる?」 「あ、あら」
新田先生だった。捕まる千鶴。第一脱落者は千鶴となった。
「あっ、コラ! 明石、お前もか!」
次に、新田先生の接近に気付き逃げ出そうとしたが古に踏み台にされて逃げ遅れた裕奈が捕まった。ロビーに正座されられる千鶴と裕奈。正に、死して屍拾う者無し!
そんな風に犠牲を出しながらもゲームは続く。ネギの部屋の前で繰り広げられる1・5班の熾烈な戦い。更にそこへ古が乱入し戦いの激しさは増す。その中で夕映が自身を防壁と成し、のどかをネギの部屋へ押し込む。それにより、ネギのくちびる争奪戦に終止符が打たれると思いきや、
「ひやああああぁぁ〜〜〜〜〜〜っ!!?」
のどかの悲鳴を始まりとして、ネギのくちびる争奪戦は新たな局面を迎える。
「何か……俺っちの目の錯覚かなあ。ネギの兄貴が5人いるように見えるんだけど」 「な……!?」
刹那から貰った「身代わりの紙型」を使ってネギが作った身代わり5体は旅館内各所に飛び出し、ネギを追い求める各班と遭遇した。
「キス……してもいいですか? 夕映さん……」 「!?」
「え……キ、キキキス……ですか? 私と……?」 「はい……」
「チューしてもいいですか?」 「え……♪」
「その……お願いがあって……その、キスを……」 「へ?」
「今から史伽ちゃんの唇をいただきます」 「「な゛っ」」
そして、それぞれにキスを求めるネギの身代わり。事態は正に混沌だった。
目の前にいるのが全て身代わりだと知らない古・まき絵・風香・史伽・あやかは、キスをされたことで役目を終え身代わりが紙型に戻る時の爆発に巻き込まれ、次々と脱落していく。そこへ、本物のネギが外の見回りから戻ってきた。
「ホラ、のどか……」 「あ……」
旅館内にいたネギが全て偽者だと当たりをつけていた夕映に連れられて、玄関ロビーにやって来たのどかは背を押されネギの前に立つ。
「あ……宮崎さん……」 「せ……ネギ先生……」
クライマックスの予感に傍観者達が固唾を呑む。
「あの……お昼のことなんですけど……」
拙いながらも自分の気持ちを精一杯のどかに伝えようとするネギ。
「――あの、友達から……お友達から始めませんか?」
その言葉が10歳の子供の限界だろう。そのネギの言葉に真摯な気持ちを感じたのどかは、
「はいッ♪」
満面の笑みでネギの気持ちを受け止めたのだった。だが、これで終わりとはならなかった。そのまま部屋に戻ろうとするネギとのどかの方へ夕映は足をさりげなく突き出す。夕映の足につまずきネギの方へ倒れ込むのどか。
「「あ」」
――んちゅっ♪
そして、ネギとのどかのくちびるが重なった。
「よおっしゃ――!! 宮崎のどか仮契約カード、ゲットだぜ――!!」
これにより、ネギのくちびる争奪戦の勝者はのどかとなった。
―― 一方その頃、生き残った者の中で唯一人、士郎のくちびるを狙う楓はフロントで確認した士郎の部屋に向かっていた。ちなみに、忍の業を駆使してカメラに映らないようにしていた為、楓の動向に誰も注目していなかったりする。
「……真名が参加してないのが腑に落ちぬが、考えても詮無い事でござるな。それよりもこの好機、必ずモノにせねば」
と、あともう少しで士郎の部屋という所でドアが開き、中から士郎が出てくる。
「楓? ……枕なんか持ってどうした?」 「え、あっ、そ、そのっ」
心の準備を整える前に士郎と逢ってしまったため、常日頃の飄々とした態度はどこへやら、顔を真っ赤に染めてわたわたと慌ててしまう楓。その目は士郎のくちびるに釘付けだ。
「顔が赤いぞ? もしかして熱があるんじゃないか?」 「!!!?」
熱があるかを確かめるために自分の額を楓の額に合わせる士郎。対する楓は零距離で感じる士郎の呼吸と体温に頭の中が沸騰していた。そして次の瞬間、その沸騰した思考に衝き動かされ楓の体は動いていた。
――んちゅっ♪
ファーストキスはレモンの味とよく言われるが、楓に感じられたのは心と体を心地好く灼く熱さだけだった。……そのキスは士郎が静かに楓の肩を押すことで終わりを告げる。
「……どういう事だ、楓?」
「えっ……」
キスをされた時、何らかの外的要因で楓との間に繋がりが作られた事を感知した士郎は、冷静に楓を問い質す。その士郎の冷静な態度が自分を咎めている様に思えて、先程感じた熱さは冷え切っていき、楓は士郎の視線から逃げるように項垂れる。そして、士郎に問い質されるままに事情を怖々と話していく。
「……つまり、カモミールの仕業か」
事態を把握し沈痛そうに頭を押さえる士郎。
「楓、新田先生に部屋の外に出ることを禁止されていたんだったな」
「……はいでござる」
「なら、楓もロビーで正座をしなきゃな」
「……はいでござる」
「俺は……首謀者を捕まえるとしよう」
「……はいでござる」
「それと、いくら豪華賞品が欲しいとは言え、女の子が好きでもない男にキスするものじゃないぞ」
「……………………へ?」
そんな言葉を残して首謀者を捕らえに行った士郎を、呆けたように見送る楓。その言葉の意味が頭に滲み入った頃、ようやく楓は自分の気持ちが士郎に伝わっていない事に気付いた。
「う、うう〜〜〜〜〜〜、そ、そんな〜〜〜でござる〜〜〜」
くちびる争奪戦の勝者にはなったものの、悲しみの涙が止まらない楓であった。
「おおっ!? 長瀬楓仮契約カード、ゲットだぜ!!」
「やった♪ これでスカカードも合わせて計7枚♪」
「大がかりだった割には情けねえ成果だが仕方ねェぜ!」
「よっしゃ! ずらかるよ、カモっち!」
とりあえず目的を達した和美とカモは隠れていたトイレから離脱しようとする。が、それを許さない存在がいた。
「ここにいたか、2人とも」
「「ぴぎぃいいぃっ!!?」」
光の加減でその表情が闇に沈んだ士郎が2人の行く手を阻む。
「だ、旦那、お、俺っちは、よ、良かれと、思って!」
「そ、そうだよ、し、士郎さん! カ、カモっちの、い、言う通り!」
恐怖に引きつりながらも必死に言い訳する和美とカモ。
「ならば、当事者の了解も得ず真実を隠して事を進めた理由は、どう説明するつもりだ?」
「「しょ、しょれは……」」
恐怖の余り、和美とカモは互いの体にしがみ付く。
「――――問おう。お仕置きは激しくがいいか? それとも、や――」
「あ、後! 後の方がいいッス!」 「わ、私も!」
「や」という言葉から「優しい」と続くと思ったのだろう。必死に言い募る和美とカモ。だが、それは巧妙な罠であった。
「――そうか。やたら激しい方を望むか」
「そ、そんなっ!? ズッコイっすよ、旦那!!」 「に、二択じゃないじゃん、それっ!?」
そして、恐怖に震える和美とカモの目の前で、士郎の口が弦月の形に歪む。
「――――さあ、懺悔の時間だ、2人とも」
「「ぴぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」
その身の毛もよだつような悲鳴は、何故か誰の耳にも届くことは無かった。
「ぬるぬるしてびくびく動く怖いアレが、アレがぁ〜〜」 「へへへ、い、妹よぉ、兄ちゃん、もうお前に会えないかも知れねえや……」
その後、玄関ロビーで正座している騒動に参加した一同の中に、いつの間にか恐怖でダメになっている和美とカモの姿があった。その余りの様子に新田先生が部屋に戻るよう言う程だったが、和美は決してその場を動こうとはせず、彼女が経験した恐怖が如何なる物かを物語っていたのだった。
「ホテル嵐山」が完全に静寂に包まれた深夜。士郎は露天風呂に浸かっていた。
「全く、カモミールの奴め」
さっきは仕置きを優先してしまったが、カモが正気を取り戻したら「仮契約」を解除させなきゃな、と士郎が考えていると、
――――カラカラカラ……
脱衣所と風呂を隔てる戸が開く音がした。
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