――2月14日は聖・バレンタインの日である。この日は恋人たちの愛の誓いの日とされ、世界各地で様々な祝い方があるが、日本では女性が男性にチョコレートを贈る事が習慣となっている。
その習慣に倣い、明石裕奈、龍宮真名、長瀬楓、那波千鶴の四人は、それぞれ想いを籠めて作ったチョコを携えて、『Restaurant EMIYA』へ向かっていた。勿論士郎に渡す為に。
裕奈は母親を早くに亡くし家事全般を請け負っていた事から、真名は自炊が倹約に欠かせない事から、楓はその素性から一人でも生きていける様にと、千鶴は寮のルームメイトから称賛される位の、確かな料理の腕前を持っていた。
彼女達が作ったチョコは、間違い無く快心の自信作だったのだ。しかし、運命は無情と言うか、タイミングが悪かった。

「ああ、丁度いいところに」

『Restaurant EMIYA』の厨房で、そんな言葉と共に彼女達を迎えた士郎の前には、輝きを放っていると錯覚する程、芸術的なチョコレート菓子が並んでいた。ガトーショコラ、ザッハトルテ、オペラ等と言った有名チョコレートケーキを始めとしてチョコプティングやチョコスフレ等の10種類はあるチョコレート菓子が。

「し、士郎さん、これは?」

いち早く冷静さを取り戻した真名が士郎に問い掛ける。

「今日はバレンタインだろ? まあ、ウチみたいな店をしている以上、今日はチョコレートを外せないからな」

「そ、そうだね。ところで、さっき「丁度いいところに」と言っていたけど」

「みんな店の事、頑張ってくれてるだろ。そのお礼と言うか労いと、まあ、味見を兼ねて好きな物を食べて貰おうと思ってさ」

士郎のその言葉に完全に自分達の作ったチョコレートを出すタイミングを挫かれた四人。だが、士郎のチョコレートを食べた後に渡せばいいと思ったのが、恋する乙女としての失策であった。

『!!!』

自分が選んだチョコを口にした瞬間、芳醇な香りと舌を蕩かす高貴な甘さで、至高の口福に包まれる四人。とても美味しかった。素晴らしく美味しかった。しかしながら、それは決定的な敗北を彼女達に伝えていた。そう、自分達の快心作より、士郎の作ったチョコの方が美味しいと言う敗北を。
だが、士郎の料理の腕の方が上である事は解っていた事だ。解っていた事だが、恋する乙女としての敗北感は大きく重く、だからこそ、彼女達は己の快心作を士郎に渡す事はできなかったのだった。

「ど、どうしたんだ、いきなり泣き出して? ま、不味かったか?」

「「「「ううん、美味しいよ/いや、美味しいよ/美味しいでごさるよ/いえ、美味しいですよ」」」」

「そ、そうか」

泣きながらチョコを食べる四人に首を傾げる士郎。彼女達の食べるバレンタイン・チョコは、ちょっぴり涙の味がしたのだった。
あと、美空は士郎にチョコを渡そうとしたが、士郎と顔を合わせた瞬間遁走した。そのせいで士郎は嫌われちゃったなぁと、美空が知ったら涙目で必死に否定するだろう勘違いをしてしまった。……ふぁいとだ、みそらん。



立派な魔法使いマギステル・マギ錬剣の魔法使いサウザンド・ブレイズ・第4幕 「乙女の災難は続く」 <蒼銀さん>



発端はじまりは唐突だった。……あくまで一人の少女限定の視点での話だが。

「みんなには明日から一日置き、二人組のシフトで店に出て貰う」

と、士郎が閉店した『Restaurant EMIYA』の店内で、楓、千鶴、真名、裕奈に前置きも無くそんな事を言い出した。

「え〜〜、何で、士郎さん?」

メイド服姿の裕奈が不服そうに士郎に聞き返す。ちなみにそれぞれのメイド姿のイメージは、裕奈が某腹ペコ○士王、楓が某あかい○くま、千鶴が某日陰○、真名が某ドジっ子騎○のそれである。

「明日で試験一週間前になるだろ? だから、みんなも試験勉強の時間をとらなきゃな。……本当なら、後東君に頼んで試験が終わるまではみんなに休み 「それは駄目です」 ……普段もシフトを組んで 「それも駄目です」 ……試験が終わるまでシフトを組む事は譲れないぞ。学生の本分は勉強なんだからな」

士郎の言葉を力強い断言で遮る千鶴の言葉に深く頷く楓、真名、裕奈を見ながら、自分の譲れない一線を主張する士郎。事情を聞いたので納得したらしく、士郎の言葉に全員が頷く。
しかしその後続いた言葉に、一人の少女がが窮地に立たされた。

「あと、赤点を取ったら店のバイトは遠慮して貰うぞ? 勉強を疎かにしてまで、うちで働いてもらう訳にはいかないからな」

「それは勿論ですよ、士郎さん」

学園順位100番代上位と成績優秀な千鶴は、余裕の表情で士郎の言葉に応じる。

「まあ、士郎さんの言う事も最もだね」

学園順位400番代前半、しかし、時間を拘束されるため追試・補習の類は受けない様に心掛けている真名も余裕がある。

「赤点さえ取らなきゃ良いんだったら、よゆうよゆう♪」

学園順位400番代半ば、けれど、父をがっかりさせないように赤点だけは絶対回避している裕奈も余裕そうだ。

「……た、確かに、学生の本分は勉強でござるからなぁ、ニンニン」

学園順位600番代末尾、2-A馬鹿五人衆バカレンジャーズの一人に数えられる楓は、士郎の言葉に顔を青くし冷や汗を滝のように流していた。……別にバカブルーだから、顔を青くしている訳では…………あるな、うん。
とにかく、楓はぴんちだった。大ぴんちなのだった。熊退治だったり、チンピラ百人抜きとかの方が楓にとってはよっぽど楽な話だった。赤点無し。その困難たるや麻帆良に来て以来、最大の物と言って良いかもしれない。あくまでも楓視点の話ではあるが。
仮に今度の期末試験で赤点を取った場合、復帰する機会は来年度一学期の中間試験まで無い事になる。そんな長い期間士郎と接する機会を失う事は、恋する乙女として許容できるものではない。ライバルたちはとてつもなく手強いのだから尚更だ。

「……試験まで一週間。一意専心、背水の陣の境地にて取り組むしかないでござるな」

これで一人脱落と言わんばかりにフフフと笑う千鶴、真名、裕奈の視線を受けながら、小さな声で不退転の決意を口にする楓であった。――おお、恐るべきモノよ、汝の名は恋の戦いなり!



「…………拙者は、なぜバカなのでござろう」

試験前の金曜、女子寮大浴場「涼風」で湯舟に浸かりながら力無く項垂れる楓の姿があった。その様子から試験勉強の成果は上がっていない事が丸判りである。
寮で同室の鳴滝姉妹(姉、風香は学園順位200番代末尾、妹、史伽は学園順位300番代上位と何気に成績は良い方)に勉強を教わっていたのだが思うようにはいかず、このままでは赤点圏内脱出は難しいと言わざるを得ない。
頭を抱える楓。追い詰められた彼女の脳裏では、実にイヤな妄想が上演される。

「すまないな、楓。私は赤点を取るようなおバカな子は嫌いなのでね」

何故か某赤い弓兵のような神経を逆撫でするような皮肉気な口調と態度で、そんな事をのたまう士郎。そして、そんな士郎に抱きつく三つの影。

「赤点取るようなおバカさんには士郎さんの傍に居場所なんて無いんですよ♪」
「フッ、赤点取るようなおバカは士郎さんの前から消えるがいい」
「赤点取るようなおバカさんは士郎さんにふさわしくないにゃー」


セクシーなイブニングドレス姿の千鶴、魔改造巫女服姿の真名、ネコミミメイド服姿の裕奈が士郎にその体を摺り寄せるように抱きつきながら、わたしおバカさんと書かれたプラカードを首から提げた楓に無情な宣告をする。

「さて、赤点を取らなかった良い子な千鶴、真名、裕奈には、私の愛情がたっぷり籠もった特製のプリンをご馳走しよう。――いくぞ、愛する乙女達。私の「ア〜ン」で食べる覚悟はできているか?」
「「「勿論♪」」」


そして、千鶴、真名、裕奈の腰を抱き寄せ、打ちひしがれる楓を置いて士郎は去っていく―――そんな妄想。こんなトンデモ妄想をする辺り、楓の追い込まれ具合も相当だと言える。
そんな風に、楓が己の妄想で苦しそうに身悶えている時だった。

「アスナー、アスナー、大変やー」

「何、このかー?」

図書館探検部に所属する木乃香、のどか、ハルナ、夕映が、明日菜、楓、古菲、まき絵バカレンジャーズの許にやってくる。驚くべき噂と共に。

「え――っ、最下位のクラスは解散〜〜!?」

木乃香から聞かされた噂の内容は、今度の期末試験で最下位のクラスは解散と言う無茶苦茶なものだった。更にハルナから、特に成績の悪い人間は留年!! どころか小学生からやり直しとまで言われ、焦るバカレンジャーズ。……この時、楓がこうなれば学園長を暗殺するしか手が無いでござるかね? とかなり怖い発想をしていた事は余談である。

「――ここはやはり……アレを探すしかないかもです」

そんな中、夕映が抹茶コーラを飲みながら呟いた。

「ゆえ!? アレってまさか……」
「何かいい方法があるの!?」

明日菜の問いかけを受けて、夕映が他のバカレンジャーズに向き直り、「アレ」について話し始める。

「図書館島」は知っていますよね? 我が図書館探検部の活動の場ですが」

「う、うん」
「一応ね。あの湖に浮いてるでっかい建物でしょ? 結構危険な所って聞くけど」

「実はその図書館島の深部に、読めば頭が良くなるという「魔法の本」があるらしいのです」

夕映が口にした「魔法」と言う言葉に衝撃を受けるバカレンジャーズ。……楓だけは夕映の飲む抹茶コーラに衝撃を受けていたが。何気に余裕が残っている楓であった。

「まあ、大方出来のいい参考書の類とは思うのですが、それでも手に入れば強力な武器になります」

「もー、ゆえってばアレは単なる都市伝説だし」

「ウチのクラスも変な人たち多いけど、さすがに魔法なんて存在しないよねー」

だが、夕映の話に対する反応はハルナとまき絵の笑い声だった。

「あ――、アスナはそーゆーの全然信じないんやったなー」

と、木乃香が明日菜に話を振る。

「……いや、待って」

話を振られた明日菜は考えていた。何せネギと言う「魔法使い」の存在を知っているのだ。ならば「魔法の本」があってもおかしくないと明日菜は結論付ける。

「……ん〜〜〜、でもな〜〜〜」

しかし、明日菜はある事情から「魔法の本」を求める事に乗り気ではなかった。けれど「魔法の本」の話は、追い込まれていた楓にとって福音とも言うべきものだった。

「――行くでござる!! 図書館島へ!!」

結局、楓の鬼気迫る勢いに押され、2-A図書館島探検隊「バカレンジャーズ+1ネギは結成されたのであった。



「図書館島」――明治の中頃、学園創立と共に建設された世界でも最大規模の巨大図書館。途方も無い数の本を納めた広大な地下部分を有するそこは、その全貌を調査する為に「図書館探検部」が発足されるほどの秘境?なのだ。麻帆良最大最後の謎スポット。それが「図書館島」なのである。
夕映が内緒で部室から持ち出した地図に記された「魔法の本」の在り処は地下11階。秘密の入り口から辿り着いた地下3階から往復しても、土曜の朝前までには戻ってこれる道のりだ。

「では出発です!」
「お―――っ!」


2-A図書館島探検隊「バカレンジャーズ+1ネギ」とシェルパとして木乃香を加えた一行は、「魔法の本たから」を求め「図書館島ダンジョン」の奥へと踏み出して行った。



――その冒険はダイジェストで。

かなり高い本棚の上を歩いて進む一行を襲う盗掘者避けの幾つもの罠。

「まあ、ワタシ達成績悪いかわりに運動神経いいアルから♪」 「大丈夫でござるよ」
「……私も?」

魔法を封印したためただの子供となり、ダンジョン攻略の戦力の筈が足手纏いと化したネギ。

「あぶぶぶ、た、助けて――っ」
「あわ――、ネギ君落ちた――っ」

第178閲覧室でお弁当休憩を取った後は、人外魔境の様相を呈し始めた道のりを更に進む。

「なっ……ここはホントに図書館なのー!?」
「本棚あるやん」

地下湖を渡り、絶壁の如き本棚をロープで降り、身長の半分も無いエリアを匍匐前進で進み、遂に一行は「魔法の本」の安置室に辿り着く。

「あれは伝説のメルキセデクの書ですよ!!」

ネギの言葉に喜び勇んで「魔法の本」を手に入れようとするバカレンジャーズの前に立ち塞がる最後の罠――その名も「☆英単語TWISTER☆ Ver10.5」!!

「最後の問題じゃ。「DISH」の日本語訳は?」
『お』 『さ』 『ら! ………』 「………おさる?」

しかし、明日菜とまき絵の痛恨のミスにより、一行は「魔法の本」を護る動く石像ゴーレムの一撃で足場を砕かれ、図書館島の最深部へと墜ちていった。

「みんなーッ、どうしたの――っ!?」
「へ、返事してくださーい!」

冒険の結果:図書館島にて、2-A図書館島探検隊「バカレンジャーズ+1ネギ」+木乃香、行方不明。



翌日、期末試験まで2日となった土曜日の朝、ネギ達は図書館島最深部「地底図書室」で目を覚ました。脱出困難な状況である事を理解し、期末試験までに地上へ戻れない可能性に焦るバカレンジャーズと木乃香に、ネギが元気付けようと声を掛ける。

「み、皆さん、元気を出してくださいっ! 根拠はないけどきっとすぐ帰れますよっ! あきらめないで期末に向けて勉強しましょう!」

ネギの楽観的ポジティブな言葉に元気を取り戻す面々。……と思いきや、明日菜は頭を抱えていた。

「どどどどどうしよ〜〜、このか〜〜」

「う〜〜ん、しろ兄に話が伝わらん事を、祈るだけやなー」

「? 士郎殿がどうかしたでござるか?」 「ヘうっ、シ、シロウ!?」

涙目になった明日菜と木乃香の話に士郎の名前が出た事で、楓が問い掛ける。……ネギ、まだトラウマが残ってるっぽい。

「しろ兄はな、真面目さんなんよー。しかも、筋金入りの頑固者でなー」

「………しろ兄的に「魔法の本」で成績を上げるなんてズル、確実にアウト。………間違い無く説教ものなのよ〜〜」

どうも明日菜が「魔法の本」探索に乗り気でなかったのは、士郎が原因だったようだ。説教の辺りでる〜る〜と涙を流す明日菜。その様子から、明日菜が士郎の説教を苦手としている事が分かる。ちなみに、士郎の説教は某炎の中華体育教師のそれに匹敵する苦行である。……苦手になって当然か。

「せ、説教でござるか?」

明日菜の言葉で今回の事が、士郎に対してマイナスポイントになる事を知った楓は青褪める。

「うう〜〜、私のバカバカ――っ! パッと行ってパッと戻ってくれば、しろ兄にバレないからオッケーなんて、なんであの時思ったのよ――っ!」
「何故拙者は、あの時、あの石像を問答無用で粉砕しなかったのでござろうか!?」

説教の恐怖に怯える明日菜と共に、自分の失策に頭を抱える楓。

「ここここここのかさん!? ぼぼぼぼぼ僕もシシシシシシロウにおおおおお怒られますか!?」
「ひゃっ、ネギ君、落ち着いてーな」

士郎に対するトラウマから涙目で縋り付いて来るネギを宥める木乃香。

「……安心しなさい。あんたは私が無理矢理連れて来たんだから、しろ兄に怒られたりしないわよ。…………むしろ、あんたを連れてきた私の方がヤバイ。ああっ、私のバカバカ――っ!!」

そんなネギを木乃香から引き剥がしてから、また頭を抱える明日菜。明日菜の言葉にホッとしたネギは、ネギの視点で言えば自分のクビの回避の為に頑張ってくれている(頑張りのベクトルは間違っているが)明日菜を元気付けようとする。

「大丈夫ですよ、アスナさん! 「魔法の本」に頼らずにきちんと勉強すれば、シロウに怒られたりしませんよ!」

「…………そう言われたら、そうよね」

ネギの言葉に落ち着きを取り戻した明日菜は頷く。「魔法の本」を使った成績UP=士郎の説教と言う図式なのだから、ぶっちゃければ「魔法の本」に頼らなければ士郎の説教は無しなのである。目から鱗が落ちるとは正にこの事であった。

「それじゃあ、がんばりましょう――っ!!」
『お―――っ!!』

そうして、ネギの特別授業in地底図書室が始まった。



一方、その頃の地上では。

「何ですって!? 2-Aが最下位脱出しないとネギ先生がクビに〜〜〜!?」

桜子の口からクラスにネギの正式採用条件が明かされる。それを聞いたネギLoveのあやかがクラスの皆に発破を掛けていたその時、教室に駆け込んできたハルナとのどかが凶報を齎した。

「みんなー、大変だよ――! ネギ先生とバカレンジャーが行方不明に!!」

「え……どういう事ですの、ハルナさん!?」

「いいんちょ、実は……」

ハルナがあやかに、ネギ達が図書館島で行方不明になった経緯を話す。

「……困りましたわね」

ネギ達が行方不明になった事に対し、本来ならば遭難者の捜索も活動目的である図書館探検部に捜索を依頼するところだが、話が話だけに事を公にする事は望ましくない。何故なら公になれば、ネギの正式採用に支障をきたしかねないからだ。
また、中学生が立ち入りを許可されている地下3階より下へ無断で侵入した事、夕映が無断で部室から地図を持ち出した事は、図書館探検部の退部事由に相当する重大な部内規則違反だ。ネギのクビ回避のためにした事である以上(バカレンジャーズ側の目的は一応自分達のため)、あやか的には情状酌量の余地大と言うか、黙認する方向である。
なので、このような非常時にとっても頼りになる兄貴分の士郎に捜索を依頼するつもりだったのだが、「魔法の本」の話辺りでその選択肢も消えた。

「全くアスナさんときたら……」

あやかも士郎の説教の恐ろしさを知っているので、明日菜の行動に呆れてしまう。まあ、ネギのための行動(あくまであやかの視点)なので、士郎に話が伝わらないよう手を打とうと決める。……どっちにしても、友達想いのあやかは士郎に話が伝わらないようにしただろうが。
結局、騒ぎを大きくできない以上、バカレンジャーズの自力による帰還に賭けるしかなかった。
そしてその日の夜、『Restaurant EMIYA』には今日のシフトである裕奈とシフトではない千鶴と真名の姿が在った。

「楓は風邪をひいてるのか」

楓とシフトを組んでいる裕奈が、士郎に楓の休みの理由として風邪であると伝える。勿論それは虚偽である。真実を伝える事も出来たが、あやかに口止めされているし、熾烈な恋の戦いとは言えそこまで非情に成り切れない所が2-Aクオリティと言うべきか。

「ところで、何で二人がいるの? 今日はお休みでしょー?」

「今日は土曜日でお客さんも多いですから、一人では大変と思って手伝いに来ました」

「で、でもほら、試験勉強しなくちゃ」

「準備は万端だから心配は無用だよ」

裕奈は自分より成績が上の二人にそれ以上何も言えず、また士郎が了承した為、この日は三人で店に出る事になった。

「三人ともお疲れさん。こっちは三人で分けて、こっちのは楓に持って行ってやってくれ」

閉店後、士郎が二つの箱を渡して来た。箱の中に入っていたのは、片方に千鶴、真名、裕奈分の、もう片方に楓と同室の鳴滝姉妹分の計6個の士郎特製豆乳プリンだった。

「「「………」」」

寮への帰り道、無言の三人は頷き合うと、それぞれ2個の豆乳プリンを持って自室に戻って行き、

「埋め合わせの報酬として申し分ありませんね」
「まあ、これくらいの役得は当然だね」
「フォローした甲斐があったにゃー」

美味しく豆乳プリンを頂いたのであった。

――その頃の楓はと言えば、

ベキィッ!!!
「おおっ、どしたアルか、楓!? いきなりエンピツ折ってと言うか粉砕して? しかも何か黒い殺気みたいのが漏れてるアルよ?」

「………なぜか、理不尽に悔しいというか腹立たしいと言うか、そんな気持ちになって。しかもそれが自分のせいだからと感じられるのが、余計に悔しいのでござる」

「むぅ、むずかしいアルね。具体的に言うと、どんな感じネ?」

「…………士郎殿が拙者の為に作ってくれたプリンを、今ここに居るせいで食べ損ねた感じでござる」

「アイヤー、そこまで具体的アルか」

楓の言葉にでっかい汗を垂らす古菲。プリン関連限定なら驚異的なまでに勘が鋭くなる楓であった。



翌日、期末試験1日となった日曜日。地底図書室に流れる川で水浴びをしていた楓、古菲、まき絵の元に「魔法の本」を護っていた動く石像ゴーレムが現れた。

「フォフォフォフォ、ここからは出られんぞ。もう観念するのじゃ。迷宮を歩いて帰ると三日はかかるしのう〜」

「ええっ!?」 「み、三日!?」 「そ、それではテストに間に合わないアル!?」

まき絵をその巨大な手で掴んだ石像が告げる絶望。だが次の瞬間、絶望したのは石像の方だった。

ドゴォッ!!!
「ひょおっ!!?」


破砕音と共に宙を舞う石像のまき絵を掴んでいない方の腕。そして、盛大な水飛沫と水音と共に川底に沈むそれを、みんな放心したように見ていた。……それを成したのは、嵐のような殺気を放ち凶眼を曝す楓だった。

「――この長瀬楓、期末試験を受けぬ訳にはいかぬでござる。石像、粉々に砕かれたくなくば、試験に間に合う道を白状せいっ!!!」
「ひいぃぃぃっ、さ、殺○の波動っ!!?」

『あわわわわわわわわわ』

楓の鬼気にその場に居た全員が怯えた。その鬼気の原因は、期末試験を受けなければ楓は『Restaurant EMIYA』のクビが確定するため、試験が受けられないなんて許せない事と、昨日プリンを食べ損ねた怒りと悔しさの相乗であった。

「…………あ、あっちの滝の裏側に、ひ、非常口があるぞい」

石像は鬼と化した楓に屈した。今の楓に逆らえば、慈悲も容赦もなく粉微塵にされると理解したからだ。

「かたじけない」

「……この本はどうするんじゃ?」


「いただき 「いらぬでござる」 ……ませんです」

夕映が「魔法の本」を見て目を輝かせるが、楓の一睨みで消沈。楓にして見れば、「魔法の本」は士郎に対するマイナスポイントになる物でしかないので、無用不要なのである。
結局、非常口の扉から中の螺旋階段の所々に用意された問題を復習がてら解きながら、一行は無事地上に戻ったのであった。
こうして、図書館島の冒険・第一章は終わりを告げた。



翌日の月曜、バカレンジャーズ+図書館探検部は遅刻したもののきちんと期末試験を受け終わり、左腕を吊った学園長のミスによる混乱があったりしたが、2−Aは見事学年トップの成績を勝ち取った。これにより、ネギの教員としての正式な採用が決定した。
ついでに、楓も平均点69点を取り『Restaurant EMIYA』のクビは無くなったので、めでたしめでたしと相成った。

「……ワシ、左腕がメッチャ痛いんじゃけど」

めでたしめでたし。

「めでたくないでござる!! 拙者の豆乳プリンが、かぼちゃプリンがぁ〜〜〜〜〜〜」


日曜に士郎がかぼちゃプリンを作ってくれていた事を知った楓は、事情が事情だけに千鶴、真名、裕奈を責める事も出来ず、枕を盛大に涙で濡らし同室の鳴滝姉妹を不気味がらせたのは、正しく余談である。


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