マブラヴ 未来への咆哮 episode:7 「明日を喚ぶ『白銀の閃光』」 <m.o.pさん>
――ハンガー
「先生、今からオレに何させるつもりなんですか?」
ハンガーの入り口で、オレを待つように立っていた夕呼先生に尋ねる。
「あんた用の機体が届いたのよ」
「オレの?」
「ええ。……アレがあんたの機体よ、白銀」
夕呼先生が示した先、武御雷の隣に、オレは、見た事が無い筈の、懐かしい機体を、認めた。
――ドクンドクンドクンドクンドクンドクン
「――――」
激しい鼓動。声無き叫び。揺さぶられる、精神が、魂が。
――人類終焉の地、オーストラリア――戦って戦って戦い抜いた――それでも、覆せなかった人類滅亡――
「あの機体はね「Gaia-Guardian Type-00……」……その通りよ、白銀」
ニヤリとする夕呼先生を尻目に、オレはその戦術機から目が離せない。
武御雷を「勇壮なる武士」とするなら、その戦術機は白銀に輝く装甲と、洗練されたフォルムを持つ「流麗なる騎士」。
「『Gaia-Guardian-Project』。国連軍独自の戦術機開発計画。でも、先行試作型である『Type-00』が完成した時期に、ある国主導のある計画が水面下で進むようになってからは、計画は半凍結状態。先行量産型『Type-01』を製造できる段階でストップしてるって言う、中途半端な状態で放置されている計画よ」
「………」
「この計画は、オーストラリアを本拠に進められてたわ。当然、この『Gaia-Guardian Type-00』もオーストラリアで埃かぶってたって訳」
「……何で、そんな物を引っ張り出してきたんですか?」
「こっちの計画に必要だからよ」
「それは光栄な話だネ」
「あら、デヤブタラ博士、それにシュトロハイム博士も」
『Gaia-Guardian Type-00』の前に立つオレと夕呼先生に、歩み寄ってくる二人の白衣を着た人物。……どちらも知った顔だ。
「『Gaia-Guardian-Project』の中心人物のゲジヒト・シュトロハイム博士とハキム・デヤブタラ博士よ」
「初めまして、タケル・シロガネ。ワタシの事は、ハキムと呼んでクレ」
ウィンクしながら、握手してくるハキム博士。インド出身でもっさりとした髭が特徴の気さくなおっさん(ワタシは二十代なんだけどナ)だ。
「ゲジヒト・シュトロハイムだ」
厳しい面持ちで重苦しい声の金髪碧眼の偉丈夫、ドイツ出身のゲジヒト博士。オレより頭一つデカくてゴッツいおっさんだ。
「……フロイライン・コウヅキ。まだ、我々はそちらの計画に参加すると決定した訳ではない。これから、タマセ事務次官の立会いの下に行われるトライアル次第と言う事を、忘れないで貰いたい」
「勿論ですわ」
「それでは、タケル・シロガネ。『Gaia-Guardian Type-00』に搭乗したまえ」
「先生? トライアルって……」
「今からあんたには、『Gaia-Guardian Type-00』に搭乗し単機で、帝国斯衛軍第19独立小隊を仮想敵部隊とした模擬戦を行って貰うわ」
「!!」
帝国斯衛第19独立小隊って、月詠さんと神代、巴、戎で構成された、おそらく現在の横浜基地に駐留する中で最強の小隊。……それに単機で勝てって言うのかっ!?
「それくらいじゃないと、両博士を始めとした『Gaia-Guardian-Project』のメンバーや、うるさい事言ってくる連中を納得させられないのよ」
「……『Gaia-Guardian Type-00』の性能なら、決して不可能な事ではない」
「武御雷で構成された小隊に、単機で勝利する事が可能性として不可能ではないだけ、とも言えるがネ」
『Gaia-Guardian Type-00』は、性能だけで言えば、世界最高の機体である。ただ、試作機に有りがちな欠陥が在る。性能を優先するあまり、搭乗者への配慮が欠けた機体なのだ。誰一人乗りこなす事の出来なかった超抜性能機。それが、『Gaia-Guardian Type-00』。
人類最高の衛士、紅蓮醍三郎ですら乗りこなす事が出来なかったのだ。彼は、『Gaia-Guardian Type-00』を降りた後、顔色を蒼白にして両博士に語った。
「この機体を乗りこなせる者は、天に愛されし者のみ。天に愛されておらぬ私には、適わぬ話であった。……ムゥップッ、……ゴックン」
と。それ以来、『Gaia-Guardian Type-00』に搭乗しようとする者はいなくなった。先行量産型『Gaia-Guardian Type-01』のためのデータ取りが終わっていた事だけが、救いであったが。
「ワタシ達としては、こちらの計画に組み込まれる事も本意とさえ言えるのだがネ。まあ、色々な事情が複雑に絡み合った末の、このトライアルと言う事ダヨ、タケル」
「………」
「君の操縦データ、そして『XM3』。ワタシ個人としては、君の勝利を期待してるヨ、タケル。あ、それと、『Gaia-Guardian Type-00』には、『XM3』を実装してるヨ。今回のトライアルは『XM3』の物でもあるからネ」
「『Gaia-Guardian Type-00』を、『Gaia-Guardian-Project』を託す事が出来るか、見極めさせて貰う」
そう言って、『Gaia-Guardian Type-00』の足元から離れる二人。二人が行くのを横目に、オレは夕呼先生に、今回の事の意図を訊く。
こんなに派手に動いて、オルタネイティヴ4は大丈夫なのか!?
「……先生」
「言っとくけど、負けは赦されないわよ。もしあんたが負ければ、……終わりよ」
「……解りました。けど、何で、こんな分の悪い賭けを」
「……今、ここで何を言っても、もう遅いわ。賽は投げられてんのよ。……あんただけに、出来る事をしなさい」
「……了解」
搾り出すように言ってから、『Gaia-Guardian Type-00』に乗り込む。
初めて座った、懐かしいシートに身を預ける。そして、操縦桿を握り、『Gaia-Guardian Type-00』を起動させる。
「……久し振りだな、相棒」
『Gaia-Guardian Type-00』。オーストラリアで出逢った、白銀武が「最も多く」終の乗機とした戦術機。
そして、『Gaia-Guardian Type-00』を駆る彼の凄まじいまでの戦い振りから、人類最強の衛士、『白銀の牙』と渾名された、オーストラリアでの「激戦」と言う言葉すら霞む激甚なる戦いの日々。
その『記憶』と『経験』が、今の武の中に甦っていた。
「……喪失って、もう取り戻せない。そう思ってた大事なモノが、オレの手の届く所にあるんだ。……けど、このままじゃ、また、喪失っちまう」
操縦桿を握る手に力が篭る。甦った『記憶』と共に、胸に渦巻く悲哀、憤怒、憎悪、そして、絶望。
「だから、もう、二度と、喪失わないために、オマエの力を、オレに貸してくれっ!!!」
そして、その渦巻く負の感情よりも、強く輝く未来への意志。
「準備は良いカイ、タケル?」
「ああ! 『GG-00』、白銀武、出るっ!!」
ハキムからの通信に答え、武が駆る『GG-00』は、オルタネイティヴ4の命運までも係ったトライアルの舞台である第二演習場に出撃した。
柊町の廃墟を利用した第二演習場に、今、横浜基地中の注目が集まっていた。第二演習場の様子を映した基地の各所にあるモニタールームには、人が集まっている。そんな中、207分隊もモニタールームの一つに居た。
「タケルの相手が判ったよ、みんな! 帝国斯衛軍第19独立小隊だって!」
「そ、それは真か、鎧衣!?」
「う、うん! だって、基地中、その話でもちきりなんだから!」
訪問中の珠瀬事務次官の立会いの下、突如行われる事になった新OSと誰も見た事のない戦術機のトライアル。しかも、トライアルを行うのが訓練兵で、更に帝国斯衛が相手をすると言うのだ。
最前線とは言え、帝国の絶対防衛線の後方に位置しており、比較的安全な横浜基地では、どこか刺激に飢えている空気がある。そんな中で発生した突発的なイベントに、基地の目が向く事も仕方がないと言えるだろう。
「……でも、いくら白銀でも単機で、あの帝国斯衛軍第19独立小隊相手じゃ、勝てる筈がないわ」
千鶴の言葉も最もである。帝国斯衛軍第19独立小隊の実力は、横浜基地の衛士ならば、皆、知っている。横浜基地内で行われる彼女らの演習内容から知れるその練度は、精鋭中の精鋭たる斯衛の名に相応しい物だからだ。
「でも、トライアルの成功条件は、タケルの勝利だって話なんだよ!?」
内容ではなく、勝利と言う結果だけがトライアルの成好条件。それは厳しいと言うより、「XM3」を世に出さない為の企てではないかと疑うような、実現不可能な条件に思える。
「そ、それは本当なの、鎧衣!?」
「うん、間違い無いよ!」
「そ、そんな! それじゃあ、『XM3』は……」
「……破棄される、かも」
「……何故だ? 香月博士は、何を考えておられるのだ?」
皆、『XM3』に大きな可能性を見たのだ。それなのに、こんな形で失われるのかと思うと、気持ちが落ち込んでしまう。
「何を下を向いている、貴様ら?」
「「「「「教官!?」」」」」
いつの間にかに、五人のすぐ側に、まりもが立っていた。
「白銀を信じろ。仲間である貴様らが信じなくてどうする?」
「で、ですが……」
「私は、白銀を信じる。……あいつは、決して、私たちの信頼を裏切るような男ではない」
「「「「「………」」」」」
常識的に考えれば、武の勝利はない。だが、今まで武は、常に自分たちの常識を覆して来たではないか。
「……タケルを信じます」
「……私もです」
「……わたしも」
「……たけるさんを信じます」
「……ボクも信じます」
「良く言った。では、最後まで見ていよう、白銀の勝利を」
「「「「「はい!」」」」」
――第二演習場
神代、巴、戎の三人は、悪夢を見ている様な気分だった。
ガガガガガガガッ!!!
「クッ、何て出鱈目なっ!!」
「は、速過ぎるっ!!」
「と、捉え切れないっ!?」
87式突撃砲の銃声が演習場に響き渡る。だが、『GG-00』の獰猛とも言うべき超速機動に、ついて行く事が出来ない。
そして、その超速機動を最大限に活かす、戦場の全てを見透しているかのような状況認識。
「こ、こんな事がっ!?」
神代がうめく。本来なら、斯衛でも屈指の三機連携を誇る自分たちが、対峙している相手を圧倒し、追い詰めている筈だった。だが、圧倒され、追い詰められているのは、自分たちなのだ。これを悪夢と言わず、何と言えばいいのか。
彼女たちは若く、しかも女性でありながら、『白』を許された精鋭だ。その彼女たちを単機で圧倒出来る者など、斯衛を束ねる人物しか、彼女たちは知らない。つまり、眼前の相手は、その人物に比肩する力を持っていると言う事に他ならない。
「「「そ、そんな事は、あり得ないっ!!」」」
脳裏を過ぎた考えを否定するように、勝負に出る三人。だが、いかに『白』を許された精鋭であろうと、眼前の相手には届かない。
『バビロン作戦』発動から、人類滅亡までの四年の戦いの日々。その中で、憎しみを、怒りを、悲しみを、絶望を糧に、磨き上げられ、鍛え上げられ、研ぎ澄まされた末に、『Gaia-Guardian Type-00』を駆って、人類の敵を穿つ『白銀の牙』と渾名された、戦鬼の業には。
「うわぁぁぁぁ!?」
――神代機、大破
「ああぁぁぁぁ!?」
――巴機、大破
「きゃぁぁぁぁ!?」
――戎機、大破
武の駆る『GG-00』の攻勢に、瞬く間に立て続けで大破判定がなされる、三機の白の武御雷。――それは、怖気すら感じさせる程の、あまりにも信じ難い光景だった。
「……これが、あの男の力なのか」
赤の武御雷のコクピットで、月詠は呟く。目の当たりにした武の修羅を思わせる力。……認めたくはないが、武が、紅蓮大将に匹敵、いや、越える実力を持っている事を確信する。だが、武と対峙して気付いた事は、それだけではない。
「……まさか、『天眼』までも、得ていようとはな」
武の機動から、確信した。『天眼』と呼ばれる衛士の極みとも言うべき能力を、武が会得している事を。
『天眼』とは――BETAと最前線で戦う国のトップエースが持つと言われる超抜能力。東洋では『天眼』。西洋では『Sight of Space』と呼ばれる。
その名が示す通り、まるで天空から状況を見下ろしているかのような超認識能力。故に『天眼』を持つ者には、死角が無いと言われている。
トップエースだから、この能力を有するのか、それともこの能力を有するが故にトップエースとなるのかは判らない。だが、トップエースと呼ばれる衛士は、この能力を有している。
EU軍、ジョナサン・ポンド大佐。アラスカ・ソビエト軍、ナスターシャ・アレクセイ大尉。大東亜連合、李炎龍中佐。アフリカ連合、アティム・ティンバハバティ少佐。そして、日本帝国、紅蓮醍三郎大将が、『天眼』保有者と言われている。
紅蓮大将を越える実力を有し、『GG-00』と言う超抜性能機を駆る眼前の相手に、『赤』を許された月詠ですら勝機を見出せない。
「……だが、私も、斯衛に席を頂く者として、易々とは負けんっ!!」
それでも、月詠は少しも臆する事なく、長刀を装備し吶喊した。
長刀を装備し吶喊してくる赤の武御雷を、オレは長刀を装備して迎え撃つ。
ギィィィィィィィィィンッ!!!
オレとの実力差を感じ取ったであろう月詠さんは、自分が最も得意とする剣撃戦闘を仕掛けてきた。
撃ち合わされる刃金の音が演習場に響く。鋭い剣撃の応酬。
「流石だぜ、月詠さんっ!!」
彼女が駆る赤の武御雷から感じる超一流の衛士の圧力。
ギィンギィンギィンギィンギィンギィンッ!!!
「でもなっ!」
武の脳裏に過ぎる、『未来』で共に戦場を駆けた、『今』よりも力を磨き上げた月詠や月詠よりも更なる高みにいた紅蓮大将を始めとした、数多の戦士達。
そんな戦士達に託された未来。――それでも、人類滅亡は、変えられなかった。
だからこそ、強く強く、思う。
――もう、繰り返してたまるかよっ、あんな結末っ!! だからっ、人類滅亡を知るオレがっ!!
「『今』のあんたに負ける訳にいくかぁぁぁっ!!!」
「なっ!!?」
『XM3』を得た武の今の機動は、『白銀の牙』のそれを凌駕する。それは、正に『白銀の閃光』!!
――『BETA』を穿つ『牙』ではなく、『未来』を切り開く『閃光』!!
――斬っ!!!
「くぅぅぅぅぅ!!」
――月詠機、大破
この瞬間、武の勝利によって、様々な命運が係った模擬戦は終了した。
『………………』
模擬戦が終了した瞬間、横浜基地は静寂に包まれた。そして、
『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!』
横浜基地の至る所で歓声が上がり始める。衛士もそうでない者も湧き上がる興奮を隠せない。それだけ、武のした事は劇的だった。
「「「「「〜〜〜ッ」」」」」
冥夜、千鶴、慧、壬姫、美琴の五人も、興奮に震えていた。
「……つ、月詠達を、鎧袖一触とは」
「……す、凄い。こ、これが、白銀の本当の実力……」
「……シビれたね」
「あうあうあう〜〜、す、すごいです、たけるさ〜〜んっ!!」
「スゴいっ! タケルは、やっぱりスゴいよっ!!」
「ほらね、武はやってくれたでしょう!!」
興奮する五人に、声を掛ける同じく興奮したまりも。
「「「「「はい!!」」」」」
興奮しているせいか、誰もある事に気付かなかった。……言った本人すらも。
「良し、207訓練分隊、白銀を迎える為に、ハンガーに向かうぞっ!!」
「「「「「了解!!」」」」」
そうして、皆がハンガーに向かおうとした次の瞬間、
――ヴィー、ヴィー、ヴィー、ヴィー!!
――防衛基準体勢1へ移行、繰り返す、防衛基準体勢1へ移行
『!!?』
前触れもなく、本物の戦いの鐘が鳴り響いた。
――ヴィー、ヴィー、ヴィー、ヴィー!!
「!?」
模擬戦を終え、ハキムが通信で猛烈に感動しながら、拍手喝采を送ってきていた時、その警報が鳴り響く。
「――CODE:991!!」
ヤツ等が居るっ!! 湧き出す憎悪、憤怒!!
「――鏖だ―― って、呑まれるな、オレッ!!」
負の感情に呑み込まれるのを、寸での所で踏み止まる。
「ハキムッ!! ハンガーに突撃前衛用の装備一式、用意しておいてくれっ!!」
通信で怒鳴りながら、ハンガーに向かう。
「分かっタ! 君がこっちにつき次第、すぐに装備して出撃出来るようにしとくヨッ!」
「頼んだぜっ!」
『GG-00』が、神速でハンガーへと駆ける!!
ドガァァァァァァンッ!!!
「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!!!」
要撃級の前腕による一撃を喰らった1機の「不知火」が、吹っ飛び倒れた。
「うっ、うぅぅ……」
全身がバラバラになったような衝撃を受け、意識が朦朧となる。今の攻撃で、機体は致命的な損傷を負ったようだ。にも関らず、モニターが生きていた。
「い、いやぁぁ……」
迫ってくるBETAの群れに、心が恐怖に支配される。だが、体も機体も、碌に動かない。人員損耗率が高い特殊任務部隊に所属している以上、死は覚悟していたはずなのに。
「だ、誰か、た、助けて……」
弱々しく、小さな彼女の声。その声に応える者など、居ない。……その声を上げた本人ですら、解っていた事だったのに。――だが。
ガガガガガガガガガッ!!
「……え?」
朦朧としながらも、彼女は確かに見た。白銀に輝く一体の戦術機が、瞬く間に彼女に迫っていたBETAの群れを屠るのを。
――その姿、正に威風堂々!! まるで、神話や伝説の『英雄』のような雄々しき姿!!
その白銀の戦術機の雄姿に、彼女は理由も無く、助かったと安堵して、意識を失った。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
戦場を『白銀の閃光』が駆ける駆ける駆ける、駆け抜ける!! 『白銀の閃光』が駆け抜けた後には、BETAの骸だけが残される!!
『GG-00』は舞う舞う舞う、舞い踊る!! BETAに滅びを齎す『死の舞』を!!
『訓練兵に負けるなっ!! BETA共をブッ潰せっ!!』
『おうっ!!』
単機とは思えぬ圧倒的な力で、BETAを撃滅していく『GG-00』。その力、その雄姿は、それを目にする者の魂を揺さぶり、戦意を燃え盛る焔の如く、昂揚させるっ!!
「……ベ、BETAの損耗率、か、加速度的に、は、跳ね上がっています。……し、信じられない」
中央司令室で、イリーナ・ピアティフ中尉が零した忘我の呟きが、戦況を示していた。
『英雄』とは、如何なる存在だろうか? 並ぶ者無き優れた力を持つ者だろうか? それも『英雄』の条件の一つだろう。
だが、真に『英雄』を『英雄』足らしめる力とは? それは、『英雄』と共に往く者全てを、『英雄』とする力ではなかろうか? 『英雄』を伝播させる力。それこそが、『真の英雄』が持ち得る力なのだ。
――ヴィー、ヴィー、ヴィー、ヴィー
『!!?』
圧倒的優勢の戦況の中、鳴り響くレーザー警報。だが、支援砲撃が続く状況で、それは、あり得ない筈だった。だが、まるで、脅威である砲撃よりも、優先して墜とさなければならない者が射線の先に居るかのように、全ての光線級が狙いを定める。
『なっ!!?』
そして、自動回避によって、多くの機体が退避する中、『GG-00』は光線級の群れに吶喊する!!
『―――』
数多奔る死の光条の中へ、消えていく『GG-00』。……誰もが、爆発四散する『GG-00』を想像した。が、
『!!?』
永い刹那が過ぎ去り、『GG-00』のマーカーが、光線級の群れの背後に現れた時、誰もが言葉を失った。
BETAの第一の脅威が圧倒的な物量なら、第二の脅威はレーザー属だ。――故にこそ、『GG-00』が、武がやった事は、空前絶後の神業であった。
「――人類を、無礼るなぁぁぁぁぁぁっ!!!」
咆哮と共に、無防備な背後から、87式突撃砲で光線級の群れを掃討する。次々と消えていく光線級の反応。
だが、『白銀の閃光』は止まらず、更に戦場を奔る!!
「――人類は、負けねえっ!! 未来を手にするのは、BETAじゃねえっ!! 未来を掴むのは、人類だっ!!!」
それは、咆哮!! 正に、『未来への咆哮』!!!
そんな武の、『GG-00』の魂の奥底まで震わす雄姿に、更に士気が上がる。
『続けっ!!! アイツに、『白銀の閃光』に続くんだっ!!!』
『おおおおおおおおおっ!!!』
そして、突如、横浜基地を襲撃したBETA群は、驚異的な損害の低さと士気の高さにより、殲滅されたのだった。
横浜基地を襲撃したBETAの、完全殲滅が確認された後、武が『GG-00』と共にハンガーに帰還した時、出迎えたのは、熱狂的な昂奮であった。
『GG-00』を降りた武は、ハンガーに詰め掛けた者達に揉みくちゃにされる。男には、親愛を込めて叩かれ小突かれ、女性には、「お誘い」を受けまくる。
「……私の事は、『ゲディ』と呼ぶと良い」
気難しいゲジヒト博士に、愛称を許されもした。そして、
「タケル。『GG-00』の機体名を付けてくれないカ。以前から、『GG-00』を乗りこなせる衛士に、名前を付けて貰おうと思っていたからネ」
「……わかった。それじゃ」
「ウン。どんな名前にするんダイ?」
「『武』。『GG-00』の名前は『武』だ」
「理由を聞いても良いかナ?」
「一緒に戦ってくれる『GG-00』は、まあ、オレの半身みたいなモノだからって言うのと、オレの名前でもある『武』って字は、『戈』を『止』めるって意味らしいんだ。だから、人類に向けられた『戈』を『止』める者になるって意味も含めてさ。……受け売りだけどな」
「……そうカ。『武』、ウン、良い名前だと思うヨ。『武』共々、これからもよろしく頼むヨ、タケル!」
「ああ、こっちこそな、ハキム!」
この後も、『武』が格納されたハンガーの昂奮の熱は、それからしばらく、治まる気配を微塵も見せなかった。
戦闘より数時間後、たまパパの見送りで、オレ達はHSSTの前に居た。
「……たま、榊分隊長や隊の皆に、あまり迷惑を掛けないようにな」
「「「「「!!!」」」」」
『記憶』通りの流れだな。それにしても、今回の事件をこの人はどう受け止めているんだろうか? オルタネイティヴ4に悪い影響が無ければ良いんだけど。
「……白銀君」
「! ……は」
「……人類の『未来』は、キミの、キミ達の肩に繋っている。これからの活躍に、期待しているよ」
「は!!」
この言葉だけ聞けば、大丈夫みたいだけど、……安心は出来ねえな。
「……それと」
「は?」
「……たまの、いや、壬姫の事、末永くよろしく頼むよ」
「はっ!?」
な、何言い出すんだ、このおっさん!?
「……白銀壬姫。今更に思うが、実に良い名前だ」
何言っちゃってんの、このヒトーーーーーーッ!!?
「いや、そろそろわしも、孫の顔が見たいかな、ま、ご、の、か、お、が、な、わははははははっ」
おいおいおぉーーーーーーいっ!!?
「あうあうあうあうあうあう〜〜〜〜〜〜っ」
「「「「…………」」」」
超特大の爆弾発言を残して、HSSTに乗り込むたまパパ。そして、HSSTが離陸した後、オレを待っていたのは。
「「「「……タケル/白銀/武」」」」
「お、おい、待て待て待て待てって、ぎゃ、ぎゃおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
悲惨なケツマツだった。…………トイレに放置すんのは酷えよな?
「……先生、どういう事なんですか?」
「あら、白銀。面白い顔して、どうしたのよ?」
夜、夕呼先生の執務室に下りる。今回の事、きちんと聞かせて貰うために。
「オレの顔の事なんて、今はどうでも良いです。それよりも、何で今回みたいな、オルタネイティヴ4の存続を危なくするような事したんですか!?」
「……別に良いじゃない。上手く行ったんだし」
「それは結果論でしょ!? 分かってんですか!? もう一ヶ月無いんですよ、タイムリミットは!?」
「…………うるさい」
「え?」
「うるさいって言ってんのよ!! 訳知り顔でピーピーと言ってくれるわね、未来から来た英雄さん?」
「なっ!?」
「あんたの存在のせいでねぇ、こっちは散々なのよ!! 未来から来た人間なんて計算外もいいとこだわ!! 焦るばかりで何も出できやしない!!」
「………」
「加えて、あんたの情報のせいで、打たなきゃいけない手が増えてんのよ、こっちは!! あんたの情報を活かす為に、色々手を尽くしてるって言うのに、何が不満な訳っ!?」
バサァッ!!
「ってぇ……」
夕呼先生が投げた書類の束がオレに当たって、床に散らばる。
「………」
「……あの」
「ああ、もうっ!! あたしは天才なのよ……それが、こんなガキに愚痴漏らして、八つ当たりして……はぁ、最悪……」
……クソッ、オレは何やってんだよ!? 自分の気持ちばっかりで、先生が背負ってるモノの重さを、考えももしなかった。何て無神経なんだ、オレは!!
「……すいません。オレ、色々と無神経すぎました。あの、この書類……」
「…………いいわよ、そのままで」
「……わかりました。…………あれ?」
――そうして、オレは、『未来』を開く『鍵』を発見した。
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