マブラヴ 未来への咆哮 episode:3 「知る者の再会、知らぬ者の出会い」 <龍崎天馬さん>



――2001年10月23日(火)

国連軍の入隊宣誓が終わった後、オレはグラウンドで、まりもの横に立ち、冥夜、千鶴、慧、壬姫、と向かい合っていた。……顔の腫れは、大分引いていた。『この世界』の医療技術に感謝。

「……今日から、第207訓練小隊に配属された白銀武訓練兵だ」

「し、白銀武です。よ、よろしくお願いします」

「「「「………」」」」

まりもの紹介の声は忌まわし気だし、みんなの態度も警戒心、バリバリだ。多分、『第二の狂犬事件セカンド マッド・ドッグ カムズ』の事も聞いてる筈だし、特に、初対面なのにオレに抱き締められた冥夜は、オレから一番離れた位置にいる。……自業自得だし、想いを明かす心算も無えけど、ヘコむぜ、マジで。

「それでは、本日の訓練を開始する。――白銀、貴様は徴兵免除で元気が有り余っているようだから、特別メニューを組んである。こなせるまで、食事だけじゃない、休憩も摂れると思うなよ?

うおい、メチャメチャ、個人的感情に奔ってんじゃん!? 教官がそれじゃ、マズくねえ!?

「「「「………」」」」

連帯責任だから、みんなにスゲエ睨まれてるし。……何か、ゼロどころか、マイナスからのスタートになってねえか?

「白銀、貴様は、完全装備の上、分隊支援火器のダミーも持って、榊達と同じメニューをこなせ。良いな?」

「りょ、了解」

……12時間以上戦闘状態って事もざらに有ったから、それくらい、どうって事ねえけど。それよか、皆に軽蔑(内容は痴漢、破廉恥漢と言った類の物)の眼差しで見られてる事の方が、よっぽど堪えるぜ。……ハァ〜〜〜。


PXで夕食を摂っている、オレ達207小隊。ちなみに、メニューは合成サバミソ定食だ。……懐かしい味だぜ。

「……すごいんですね〜、白銀さんは」

「ん? 何がだ、壬姫?」

「え?」

うわ、ヤベ、またやっちまった! てか、今のオレ的には、みんなを名前を呼び捨てで呼ぶのが、デフォの状態だからな。……他人行儀に呼ぶのは、正直キツイしな。

「その、悪りいな。オレの居た所じゃ、名前で呼ぶのが普通でさ。それに、オレって、馴れ馴れしいらしくってな」

先生と話して決めた、オレの設定に違和感のない理由で誤魔化す。

「あっ、そ、その、別に、良いですよ? 白銀さんの居た所の習慣じゃ、しょうがないですし」

「そうか? それじゃ、これからも壬姫って呼んでも良いかな?」

「えっ、そ、その、良い、ですよ?」

「出来たら、オレの事は武って呼んでくれ」

「ええっ!?」

顔を赤らめる壬姫。結ばれてからも、照れ屋だったからな。今の壬姫には、それは酷か?

「いや、あくまで、出来たら、だからさ」

「……あ、あの、それじゃあ、たけるさん、で良いですか?」

「たけるさん?」

……懐かしい呼び方だよな。ヤベ、ちょっと、泣きそう。

「ああ、良いぜ。それじゃ、これからよろしくな、壬姫」

泣きそうになったのを誤魔化す意味もあって、自分に出来る精一杯の笑顔を壬姫に向ける。

「……は、はいっ、たけるさんっ!」

? 顔を赤くして、どうしたんだ、壬姫のヤツ? もしかして、風邪か? いや、それにしちゃ、体調は悪くなさそうだし。……まっ、大丈夫そうだし、良いか。

「で、話はなんだっけ、壬姫」

「あ、はい。たけるさんはすごいな〜って」

「そうか?」

「すごいですよ! 完全装備の上、分隊支援火器のダミーも持って、わたし達と同じ訓練したのに、わたし達と同じくらいの時間で訓練メニュー、終わらせたじゃないですか?」

「……ものすごく、ものすごかった」

「いきなり、ボソッと言うなよ、慧、って、悪りい。また、やっちまった」

「……私も、慧でいいよ」

「良いのか?」

「……やっぱり、ダメ」

「そっか、残念」

「……やっぱり、いいとも?」

「何で、疑問形なんだよ?」

「まあ、気にしない気にしない、

「ああ、そうしとくぜ、

どちらからともなく、ニヤリと笑い合う。……また、慧とこういうやり取りが出来た事が、スゲエ嬉しい。

「で、話を戻すけど、体力にはそれなりに自信があってな。それに、現役の衛士の中には、オレクラスは珍しくないさ。驚くほどの事じゃねえだろ?」

「……その現役の衛士並の体力が、あなたが『特別』と言う理由なのかしら?」

「いや、それだけじゃないつもりだぜ、千鶴?」

「!! 気安く呼ばないでくれる!?」

「あっ、悪りい。つい……」

「彩峰や珠瀬は、あなたのその馴れ馴れしい態度を許容したみたいだけど、私は、あなたみたいな破廉恥な男は認めないから!!」

う〜〜ん、生真面目な千鶴のオレに対する印象は、かなり低いな。……『元の世界』の委員長を思い出すぜ。

「……認めないって言われてもな。オレはもう、207小隊に配属されてるんだぜ? もう、同じ隊の人間なんだぞ? ちづ……、分隊長がどう思おうと、仲間としてやって行くしかないと思うんだけど」

「〜〜〜ッ!! み、御剣っ!! あ、あなたは、被害者として、この破廉恥男に何か言う事はないのっ!?」

「わっ、私がかっ!?」

おお、冥夜が狼狽してる。珍しいな、冥夜があんなに、落ち着き無くしてんの。

「わ、私は、そ、その、特に、し、白銀に対して、言う事は、な、無い」

「なっ!?」

「……た、確かに白銀は、ふ、不埒な行いをした。だ、だが、理由が在った様に、思うのだ。……余人の、立ち入る事のできぬ理由が」

「「「………」」」

「それに、白銀の能力が高い事は、我々にとって歓迎すべき事柄だ。個人的感情で、白銀の存在を否定するべきではない」

「!!」

「榊、分隊長としてそなたがしなければならぬのは、配属間も無い白銀を、早く隊に上手く溶け込める様にする事ではないのか?」

「―――」

おいおいおいおい、何か、話がマズイ方に行ってねえか、これ?

「御剣、つまり、それは私が分「ストップ!」!?」

このままじゃ、変にこじれそうだ。ここで止めなきゃな。……大体、オレのせいな訳だし。

「そうだよな、先ず、最初にしなきゃならねえ事、すっかり忘れてたぜ」

「「白銀?」」

「悪かった、冥……、御剣。いきなり、抱き締めたりしちまって。本当なら、もっと早く謝ってなきゃいけねえのにな。……本当に、すまなかった」

椅子から立ち上がり、姿勢を正して頭を下げる。みんなが驚いた気配が伝わってくる。

「……構わん。私ももう、気にしていない。だから、頭を上げるがよい、白銀」

「……ああ。ちづ……、分隊長も、悪かったな。謝るのを忘れてたオレが、悪りいってのにさ」

「……もう、良いわよ。当事者である御剣が水に流してるのに、私がこれ以上、何か言う訳にはいかないでしょう? ただ問題は、なるべく起こさないようにしてよね」

「ああ、肝に銘じとく、ちづ……、分隊長」

「……そう何度も、言い直さなくても良いわよ、もう。……あなたの好きに呼べば良いわ」

「……良いのか?」

「ええ。……ただ、私は白銀と呼ぶけど」

「ああ、それは別に良いさ。元々、出来たらって話だしな。……まあ、いつか、千鶴にも、オレの事認めさせて、武って呼ばせてやるよ」

「そんな日が来るかしら?」

「……たぶん、むり?」

「だから、何で疑問形なんだよ? て言うか、何で慧が答えてんだ?」

「……何でだろ?」

「いや、オレが知ってる筈ねえだろ」

「……いやがらせ?」

「誰に対してのかしら、彩峰?」

「……さあ?」

「だから、何で、オレを見ながら言う?」

千鶴と慧の間に挟まれた武を、冥夜は驚きを持って見やりながら、壬姫に話しかける。

「……私が言うまでもなく、既に溶け込んでいるな、白銀は」

「ホントですね〜。まるで何年も、わたし達と一緒に居たみたいな、自然な態度ですよね」

「そうだな。……不思議な男だ、白銀は」

と、ある二人組が武達の座る席にやって来る。

「……おい、シロガネタケルって言うのは、オマエか?」

「? ……はい、そうですけど、何か御用でしょうか、中尉?」

黒の国連軍服を着た、短く刈り込んだ金髪の男とドレッドヘアーの男が、ニヤニヤと笑いながら、武に話し掛けてくる。

「ヒュウ♪ コイツがねぇ」

「いや、オマエ、たいした度胸してるよな! 任官したら、ウチの隊に来いよ! オマエみたいなクソ度胸持ってる奴は、歓迎するぜ!」

「は、はあ」

「ギャハハハッ、いや〜、ホント、スゲえよ、オマエ! あの『マッド・ドッグ』に初対面で、ディープ・キスかますなんてよぉ!」

「「「「!!?」」」」

「で、どうだった、あの『マッド・ドッグ』の唇の味は? スウィートだったか? それとも、やっぱ、マッドな味だったか?」

「いや、あの」

何か、妙な方向のヒーロー扱いっ!? くそっ、どんな話の広がり方してんだよっ!?

「……白銀さん、先、行ってますね」
「……白銀、食器、よろしく」
「……白銀、やっぱりあなたの事、認められそうにないわ」
「……白銀、そなたの事、見誤っていたようだ」


げげっ、なんか振り出しに戻ってるっぽい!?

「お、おい、み、みんな、待ってくれ」

「おい、待てよ、話は終わってねえぜ」

「あの娘らの機嫌は後で取れ。今は、こっちに付き合えよ」

二人の中尉に拘束されて、PXから出て行くみんなの背中を、見送る事しか出来なかった武であった。


夜、自主訓練としてトラックを走る為に、外に出る。肉体の状態は、『記憶』にある最後の戦いの時のモノだ。これじゃあ、訓練校レベルの訓練じゃ、鈍っちまう。……それに、この時間なら、

「……白銀か? どうしたのだ、こんな時間に?」

「自主訓練だ。……多分、冥夜と同じでな」

予想通り、冥夜が走っていた。そんな冥夜に並走しながら、答える。

「……私は、榊や彩峰、珠瀬の様に、名で呼ぶ事を、まだ許していないのだが……」

「あっ、悪りい。つい……」

「……構わん。ハッ、もう、冥夜でよい」

「……良いのか?」

「ハッ、毎回、言い直されるのも、ハッ、何と言うか、納まりが、ハッ、悪いし、ハッ、隊の全員が、ハッ、了承しておるのに、ハッ、私だけが、固辞しても、ハッ、しょうがあるまい。ハッ、それに、そなたは、ハッ、その方が、ハッ、やり易いので、あろう?」

「まあ、な」

「これも、ハッ、先に配属された者の、ハッ、務めだ」

「それじゃ、後輩として、先輩にお願いだ。オレの事は、タケルって呼んでくれ」

「ハッ、了解した、ハッ、これから、ハッ、よろしく、ハッ、頼むぞ、ハッ、タケル

「ああ、よろしくな、冥夜

この後、トラックを二人で走ったのだが、

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

「……大丈夫か、冥夜?」

冥夜は荒く息を吐いている。今の冥夜が、オレのペースに付いて来たら、こうなって当然だ。

「ハァ、ハァ、ハァ、だ、大丈夫、だ。そ、それよりも、そなたの、体力には、驚く他、無いな。あのスピードで、あれだけの距離を、走ったと言うのに、僅かに息を乱す、だけとは」

「驚いたって言いながら、オレのペースに付いて来たオマエも、大したもんだよ、冥夜」

「ハァ、そ、そのような、世辞は、いらぬ」

「お世辞なんかじゃねえよ。本気でそう思ってるって」

「……次の機会には、その世辞、心からの物に、してみせて、くれる」

「……本心だって言ってんのに」

負けずキライだよなぁ、相変わらず。

「しかし、自主訓練してるなんて、冥夜は、真面目だな」

「そなたも、自主訓練、しに来たではないか」

「おお、そういや、そうだな。オレって真面目かな?」

「……そなた、私をバカにしてはいまいか?」

「いや、そんなつもりはねえよ。ただ、何で自主訓練なんて、してんのかなって」

「……私は一刻も早く衛士となり、そして、戦場に立ちたいからだ」

「何の為に?」

「月並だが、私にも護りたい物があるからだ」

「……それは何か、聞いても良いか?」

「この星、この国に生きる民、そして、日本と言う国だ」

やっぱり、『冥夜』は『冥夜』だ。クソ、また、泣きそうになっちまった。何か、涙もろくなっちまってんなぁ、オレ。

「タケル、そなたにはないのか?」

「そりゃ、あるさ」

「聞いてもよいか?」

「冥夜の聞いておいて、オレが言わねえ訳にもいかねえだろ。……地球と全人類だ」

「―――」

「って、断言できたら、カッコいいよな?」

「………」

「……そんなに、睨むなよ。オレが悪かったって」

「もうよい。言いたくないのなら、聞かぬ」

「悪かったって。……地球と全人類を護りたいって言うのは、本当だ。そうしなきゃ、オレの望みは叶わねえんだから」

「そなたの望みとは何なのだ?」

「……オレには、オレ自身よりも大切な奴らがいる。オレはそいつらの為に、未来を繋げてえんだ。それが、オレの戦う理由、目指す目的のぞみだ」

「……そなたは、立派だな」

「よせよ、そんなんじゃねえさ」

そう、そんな立派だとか、言われる事じゃねえんだ。ただ、オレはもう、見たくねえだけなんだ。オマエが、みんなが、■■ところなんて――

「……なるほどな」

「え?」

「何故、そなたが『特別』と呼ばれるか、納得できたのだ」

「ホント、よしてくれよ、冥夜」

「謙遜するでない、タケル。そなたの実力は、日頃から弛まぬ鍛錬を積んだ者にしか、至れぬものだ。そなたの、目的成就の為にかける気概の強さが窺える。……やはり、何かを成すには、強い信念がなくてはな」

「ああ、目的があれば、人は努力できる」

「ほう? 簡潔で良い言葉だな。目的があれば、人は努力できる、か。私も倣わせてもらおう」

元々、オマエの言葉なんだけどな。って、危うく言いそうになった。……気を付けようぜ、オレ。ただでさえ、オレは微妙に怪しいんだから。

「話し込んじまったな。これ以上は明日に響く。そろそろ、上がろうぜ、冥夜」

「……そうだな。そなたは平気そうだが」

冥夜も大概負けずキライだよな。

「タケル、明日も、私と共に訓練をせぬか?」

「ああ、良いけど、……大丈夫か?」

「無論だ。それでは、明日からよろしく頼むぞ、タケル?」

「分かったよ、冥夜。とりあえず、今日の所は、おやすみ」

「ああ、おやすみ、タケル」

と、そのまま、自室に戻り、寝るつもりだったんだが、霞と会っていない事を思い出した。んで、今、あの脳みその入ったシリンダーのある部屋に向かってる。
そう言えば、オレ、結局、霞が何者なのか、なぜ、あの得体の知れない脳みそに、あれほど固執するのか、全く知らないんだよな。

――ここから離れたら、私いなくなります

――わからなくなるの恐い

――守らないと、なくしてしまう


霞のあの言葉にはどんな意味があったんだ? 一体、何に怯えていたんだ? そして、

――タケルちゃんにはわからない!

あの言葉は、どういう事なんだ。……今、思い出しても、ドキドキする。……あれは、純夏の言葉だったんじゃないか、そんな気がする。だから、こんなにもドキドキする。
『この世界』に、純夏は居ない。夕呼先生にも調べてもらった。だからオレの考えは、気のせいなんだと思う。それが一番、簡単で自然だ。
けど、オルタネイティヴ4に深く関っている筈の霞が、あの言葉を口にした事がどうしても気になる。

――タケルちゃんにはわからない!

オレの記憶が確かなら、『この世界』でオレを「タケルちゃん」と呼んだのは、霞だけだし、『元の世界』で、オレを「タケルちゃん」と呼んだのは、……純夏だけだった筈だ。
だから、オレにはあれが単なる偶然だったとは、どうしても思えない。

プシュー

夕呼先生にもらったIDで扉を開け、やたら足音の響く廊下を歩く。
とてつもなく厳重なセキュリティー、恐ろしく頑丈な造りのフロア。今になって、ようやく思い至ったんだが、まるで、あの脳と脊髄の入ったシリンダーを守っているみてえだ。アレは、それほど重要なモノなのか?

プシュー

廊下の先にあったもう一枚の扉が開く。扉の向こうには、青い光を放つ脳と脊髄の入ったシリンダーと、その前に立つ霞の姿があった。

ドックン

霞が振り向く。オレは部屋の中に足を踏み入れる。目が合った。……ハハ、ウサ耳が動いた。懐かしい反応だ。
『記憶』が確かなら、霞が乗った移民船は……。そんな結末を知っているからか、こうして、また会えた事が、泣きたくなるほど、嬉しい。……霞のためにも、未来、繋げてやりてえなぁ。

「よう」

霞の方に歩きながら、軽く手を上げ挨拶する。霞は無言で、近付くオレから、

「………」

あからさまに距離を取った。……相変わらずだな。

「こら」

ウサ耳が動く。それにしても、アレ、どういう仕組みなんだろ?

「露骨に逃げるなよ〜〜」

「………」

「はじめまして。オレの名前は白銀武。君の名前は?」

そうだ、振り出しに戻ったけど、ここから始めるんだ。今度こそ、霞の事、もっと知らなきゃな。

「………」

「言っとくけど、日本語わかるコトくらい知ってるぞ?」

いきなり名前は聞けないかな、やっぱ?

「……霞、社霞です」

「お!? やった! 今度はちゃんと聞けたぞ!」

何気にビックリ急進展!

「………」

「あ、悪りい。『今度は』なんて、意味不明だよな。えっと、何つったらいいかな……」

「……気にしていません」

「そうか?」

「はい」

「そうか。それじゃあ霞、知り合った記念に握手だ」

「………」

微妙に驚いた表情をする霞。今のオレは、霞の表情の変化もかなり判る。……あれ、少し困ってるか、もしかして?

「……もしかして、オレ、霞って呼んだ?」

――コクリ

「……悪りいな。オレ、馴れ馴れしくて」

「……いいです。霞、でいいです」

「そうか。それじゃ、ほら、握手だ」

「握手……」

霞がオレの顔とオレが差し出した手を交互に見る。

「握手、知らないのか? あのな、手をこうやって……」

「あ……」

霞の手を取り、オレの手で包みこむように握る。

「結構、手ぇあったかいな、ちっちゃいけど。アハハ、はい、握手」

言って、握手した手を上下に動かす。シェイクハンドって、上手いこと言ってんよな。

「握手」

「よし!」

そういや、霞にこうやって触れた事もないんだよな。……いや、あると言えば、あるのか。最後の最後で。

――タケルちゃんにはわからない!

あの言葉は一体……。

「………」

「ん? どうした、オレの顔になんか付いてるか?」

「いいえ」

「そっか。……ちょっといいか、霞?」

言って、霞の服の国連部隊章を確認する。……「ALTERNATIVE W」か。オルタネイティヴ計画に組み込まれていながら、「YOKOHAMA BASE」としか、書かれていないオレ達の国連部隊章とは違う。
やっぱり、霞はオレ達よりも深くオルタネイティヴ4に関っている。夕呼先生と一緒に居たのもその証だろう。

「霞、夕呼先生の事、手伝ってやってくれよな。いきなり、オレなんかに頼まれても、変に思うかもしれないけど」

オルタネイティヴ4に関して、オレは門外漢だ。それに、「need to know」。夕呼先生は、オレが知るべき事に関しては話してくれる、と思う。つまり、話してくれない事は、オレが知る必要のない、若しくは知ってもどうにもならないってことだ。
ただでさえ、時間がないのに新OSの開発を頼んだり、4の期限と5発動後の未来を知らせて、プレッシャーかけたりしちまったからな。オレじゃ、夕呼先生の何の助けにもならないかも知れないけど、霞なら。

コクリ。
「……わかりました」

「そうか。ありがとな、霞。……それじゃ、オレ、今日の所は帰るよ」

「……ばいばい」

「……またな」

言って、部屋を出る。
ばいばい、か。ここぞって時に言われると、もう二度と会えなくなる感じがする言葉だよな。
霞は普段から良く使っていたし、今まではそんなに気にした事はなかったけど、『今』は、抵抗を感じる。

――傍らに何か細長い物が突き立った砂場で、幼いオレと一緒に笑ってる誰か――

!? ……まただ。何か引っ掛かるのに、思い出せない。……何かスッキリしねえよ。

「まあ、いい。思い出せないって事は、大した事じゃねえんだろ」

今は、オレに出来る事をやるだけだ。……オレの目指す未来のぞみの為に。


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