マブラヴ 未来への咆哮 episode:25 「人の念願の喜びよ」 <もっこすさん>
――2001年12月30日(日)
基地へ進攻して来たBETAを撃退後、命令を受け休息を取ったオレ達A-01は、休息を取り終わった後ブリーフィングルームに集合した。ブリーフィングルームには、夕呼先生とピアティフ中尉の他にゲティとハキムも居た。
「――さて、ブリーフィングを始めましょうか」
最初に、夕呼先生から現在の状況の説明を受ける。
先ずBETAの動向。横浜基地を襲撃したBETA群の大部分を国連軍、帝国軍、米国軍の共同戦線で撃退。その内、討ち漏らした後続のBETA群は北西、恐らくは甲20号目標へ向けて撤退。途中、帝国軍の部隊が追撃するも、残存BETA群に日本海へ脱出されロストしたそうだ。
次に基地の被害状況。地上施設の大部分が壊滅状態。第1滑走路は復旧不可能、第2滑走路が復旧可能な状態で、今はBETAの死骸の撤去や穴の埋め戻し作業中。シャトル打ち上げ施設は全て無傷。演習場は壊滅しており、演習場地下にある戦術機ハンガーにも少なからず被害が出ているそうだ。
対して地下施設は大きな損害は被っていない。被害が皆無と言う訳ではなかったけど、被害の程度を見れば、そう時間を置かず復旧が完了するみたいだ。
各部隊の損害も襲撃の規模の割には比較的軽微だ。戦力が揃っていた事もあるが、航空戦力の運用とBETAの動きを予測していたかのような司令部の作戦指揮に拠る所が大きいだろう。
横浜基地の稼働率も壊滅した地上施設分の減損しかなく、小さくない打撃は受けたものの、横浜基地の戦う力は失われていない。
そして、夕呼先生はこのブリーフィングの本題を話し始めた。
「――それじゃあ、あんたたちA-01が次に参加する作戦、『桜花作戦』について説明するわ。質問等は説明が終わってからお願いね」
『桜花作戦』。……それがオレの参加できる「■■」の作戦になる。
「本作戦の攻撃目標はオリジナルハイヴ。――最優先事項、最深部『あ号標的』の完全破壊」
『――っ!!?』
夕呼先生の言葉に、みんなが息を呑んだのが判る。オレも前もって先生に聞いていなけりゃ、同じ様に息を呑んでたろうな。
「――じゃあ、作戦概要を説明するわ」
そして、夕呼先生が『桜花作戦』の作戦概要の説明を始める。
『桜花作戦』は、国連が統率し、ユーラシア大陸を囲む全国家、そしてアフリカ連合と米国が連携して全世界のハイヴに一斉侵攻をかける、人類史上最大の軍事作戦になる。
作戦の第1段階。ユーラシア大陸の最前線を一斉に押し上げ敵支配圏外縁部に存在する全てのハイヴを同時に攻撃する。米国の航空宇宙艦隊による各ハイヴへの軌道爆撃から始まり、地上部隊の間接飽和攻撃、臨海部ならこれに各国海軍の艦砲射撃も加わる。その後、戦術機機甲部隊が戦域に突入する。ただしハイヴへの突入は無い。何故なら、第1段階の目的は陽動だからだ。
作戦の第2段階。各戦線で敵の第3次増援を確認次第、国連宇宙総軍の低軌道艦隊が、オリジナルハイヴへの反復軌道爆撃を開始。重金属雲濃度が規定値に達するタイミングに合わせ、国連軌道降下兵団2個師団が強襲降下。目標はオリジナルハイヴの『地表構造物』から南西87kmに存在する『門』――SW115。国連軍部隊の降下から30分後、米軍戦略軌道部隊が同目標に降下。国連軍と共同してSW115周辺地域を制圧、確保する。
そして、作戦の第3段階。作戦の第2段階前までに軌道待機を完了した横浜基地から出撃する攻撃部隊、即ちオレ達A-01がSW115の確保に伴い降下を開始。着陸後A-01はSW115よりオリジナルハイヴへ突入、最も敵出現率の低い攻略ルートを進攻し、最下層到達後『あ号標的』を破壊。
「――以上が作戦概要よ。それじゃあ次に、『あ号標的』攻撃部隊について説明するわ。まず、部隊編成と各機体の装備から」
モニターに映し出されたのは『凄乃皇弐型』よりも更に大きくてごつい機体。
「部隊は、このXG-70dとその直援機で編成。この『凄乃皇四型』は近接防衛能力と通常攻撃能力を付加した機体で、『Gaia-Guardian-Project』のスタッフの加入のおかげで武装は万全。戦略航空機動要塞の名に相応しい戦闘力を有しているわ」
驚くみんなを尻目に、夕呼先生が『凄乃皇四型』の説明をしていく。
『凄乃皇四型』の武装は、2700mm電磁投射砲2門、120mm電磁速射砲8門、36mmチェーンガン12基、AL弾頭・散弾式広域制圧弾頭・通常弾頭を選択して発射できる36基の発射筒を持つVLS12基、硬隔貫通誘導弾頭弾を格納した16基の発射筒を持つ大型VLS2基、主砲である荷電粒子砲1門。とんでもない攻撃力の塊だ。
更に『ラザフォード場』による機動力と防御力も確保されているから、先生の言う通り「機動要塞」って言葉がピッタリだ。
「次に直援部隊について説明するわ」
そして、モニターに映し出されたのは見た事の無い戦術機のデータだった。
「部隊を編成するのは、『Gaia-Guardian-Project』の先行量産型「Gaia-Guardian Type-01」、コードネーム『ワルキューレ』よ。この機体及び武装の説明はゲジヒト博士から」
夕呼先生の言葉を受けて、ゲティが『ワルキューレ』の説明を始める。
ゲティの説明を聞く限り、機動力の向上のための軽量化の方法として女性的なフォルムを持つ『ワルキューレ』は、武御雷を越える高性能量産機だ。性能比で見れば、不知火:武御雷≒武御雷:ワルキューレと言った所か。……うわっ、速瀬中尉、嬉しそうだ。
武装には87式砲の代わりに、『Gaia-Guardian-Project』で開発されていた電磁投射機関射砲。それ以外は従来の装備だ。
「それじゃあ、直援陣形について――」
ゲティの説明が終わると、夕呼先生がモニターに映し出されたデータを使い直援陣形について説明を始める。と、その陣形を見て気付いた事が一つ。
「あの先生、オレのポジションは?」
質問は後でって言われたけど、思わず口に出してしまった。……まさか、『桜花作戦』から外されてるなんてことは無いよな?
「ああ、そういえば言ってなかったわね。白銀、あんたにはXG-70dに搭乗してもらうから」
「ええっ!? き、聞いてないですよ!?」
「だから言ってなかったって言ったでしょうが。XG-70dの運用には、鑑一人じゃ限界があってね。白銀が砲手兼操縦士、鑑が機関士、そして社が……航空士として乗り込む事になるわ」
まあ、『武』のオーバーホールが作戦開始まで終りそうにないからオレは良いとして、霞まで戦場に引っ張り出す事になるとは。けどそれは、純夏のサポートとして霞が必要なのだろう。つまり『桜花作戦』は、それだけの手を打たなければいけない作戦と言う事だ。
「あと涼宮、あんたも搭乗メンバーだから。XG-70dには管制室が在るから、『桜花作戦』ではそこから部隊管制をお願いするわ」
「は、はい!」
夕呼先生の言葉に涼宮中尉が応える。つまり『桜花作戦』には、ヴァルキリーズ勢揃いで挑むって事か。
「それじゃあ、説明に戻るわよ。直援する際の注意点なんだけど――」
そして、直援の注意点の説明も終り、作戦の詳細説明が始まる。
「――ここから、作戦の本題であるSW115突入後の流れを説明に入るわね」
SW115より突入した攻撃部隊は、全て直径400m以上の『縦坑』と『横坑』を選択した最も敵の出現率の低いルートを進攻。ただし状況に応じて、最も安全なルートが常に指示される。最低限且つ最大効率の戦闘と的確なルート選択で、XG-70dのムアコック・レヒテ機関に誘引される敵増援の集結を上回るスピードで『あ号標的』に到達する事が、『桜花作戦』の要にして唯一の方法。だから突入する攻撃部隊の編成はスピード最重視で、XG-70dと『XM3』に最も慣熟しているA-01だけな訳だ。
この点に関し、国連軍と特に米軍からの反対の声が上がったらしいが、『甲21号作戦』の成功の実績とオルタネイティヴ4推進派を中心とした政治的な働きかけによって押し切ったそうだ。
そして、『あ号標的』の破壊と言う作戦目標を達成する為の最大の難関である『主広間』での行動説明に入る。『主広間』は『あ号標的』の四方に配置された容積約90億立方メートルのエリアで、BETAの補給施設らしく常時数万の個体が在駐している。
この在駐するBETAを『主広間』手前の『横坑』でムアコック・レヒテ機関を臨界運転する事で誘引。『主広間』入り口に殺到したBETAを硬隔貫通誘導弾頭弾を除いたミサイルの一斉射で掃討。その後『ラザフォード場』を前面展開して『主広間』に突入、一気に奥まで進む。
『主広間』の奥には、『あ号標的』への道を阻むBETAの一種である大型隔壁が2つ存在しており、直援部隊が専用の装置を使って手前の第1隔壁を開放。次に奥の第2隔壁の開放準備が終わり次第、隔壁間にXG-70dが侵入。XG-70d侵入後、第1隔壁を閉鎖してから、隔壁の開閉を制御する『脳』を爆破。第1隔壁の開放を不可能にし、後続の増援をシャットアウトする。第1隔壁の閉鎖確認後、第2隔壁開放。XG-70d並びに直援部隊が『あ号標的』ブロックに侵入後、第2隔壁を開放状態で『脳』を爆破。
そして、『あ号標的』ブロック侵入後、XG-70dはデータ収集のため機動を一時停止。その間、直援部隊がXG-70dを防衛。データ収集終了後、直援部隊は機体を放棄してXG-70dに退避。全員の退避完了後、『あ号標的』に向け主砲を発射。同時に『あ号標的』ブロック天井の最も薄い部分に硬隔貫通誘導弾頭弾を斉射、『主縦坑』への退避ルートを確保。『あ号標的』の破壊を確認後、退避ルートを通りオリジナルハイヴを離脱。そのまま大気圏を突破し、衛星軌道を航行して横浜基地に帰投。
以上が『桜花作戦』の全容だった。
「――XG-70dの作戦コードはA-04。作戦の説明は以上よ。何か質問はある?」
その夕呼先生の言葉に伊隅大尉が一歩前に出て、機密関係の細々とした質疑応答をした後、
「なぜ、オリジナルハイヴの攻略を優先するのでしょうか?」
恐らく他の隊員も思っている疑問を夕呼先生に問い掛けた。その伊隅大尉の質問に対して、夕呼先生は説明を始める。みんなにとっては衝撃的としか言い様のない、オリジナルハイヴ攻略を優先しなければいけない理由を。
BETAの戦術情報伝播モデルは人類が推測する複合ピラミッド型構造ではなく、オリジナルハイヴを頂点とした箒型構造であり、『あ号標的』と戦略呼称される地球上で一つしか存在しない超大型反応炉が、地球上の全BETAを統括する『頭脳』のような存在である事を。
そこから導き出されるのは、数日以内に『あ号標的』を破壊する事が、人類生存の絶対条件である事。何故なら『甲21号作戦』で反応炉を破壊した後、『甲20号目標』へと撤退したBETA群が『凄乃皇』の情報を『あ号標的』に伝達した可能性が高く、時間を掛けていたら『凄乃皇』の『荷電粒子砲』の対応策を確立されてしまうからだ。
「――従って当然、『桜花作戦』には失敗を想定した保険がかけられている。突入部隊の全滅など『あ号標的』の破壊に失敗、若しくはそれが不可能だと判断される状況が確認された場合、『桜花作戦』は『トライデント作戦』に即時移行するわ」
そして夕呼先生が、米軍指揮の下で作戦発動から18時間以内に全ユーラシアのハイヴを目標としたG弾攻撃を行うと言う『トライデント』作戦の事から、オルタネイティヴ5の内容までを話す。
「――第五計画推進派はね、つい最近まで米国議会の大多数を占めていたの。でも、今ではもう少数派よ。なぜ彼等は急激に衰退したのか。それは、オルタネイティヴ4が具体的な成果を上げたからなのよ。あたし達のやっている事が、人類を滅亡から救う最も効果的な手段だと、国連だけじゃなく米国、そして世界にも認められたからなの。
でも、もしここで『桜花作戦』が失敗に終わったとすれば、オルタネイティヴ5が息を吹き返す。しかも『トライデント作戦』、つまり最終決戦だけが実行されるという、最悪の形でね。
だから、『桜花作戦』は必ず成功させなければいけない。いいわね?」
『――了解っ!!!』
「……で、『桜花作戦』の発動に当っての諸々の事柄に大変な尽力してくれた方が、出撃の前にあんたたちと話がしたいって仰るから、全員注目」
そう言って夕呼先生が指し示したモニターに映し出されたのは、
「たまぁ〜〜〜、パパだよぉ〜〜〜」
珠瀬玄丞斎国連事務次官、その人だった。…………こんな時でも相変わらずだよ、パパ!
「――前線で戦う事のできない私は銃火を交えぬ場所を戦場にするしかなく、その戦場で得た戦果を以て君たち若者を死地へと送り出す。そんな私の無力を決して赦さないで欲しい。
…………君たちの勝利を祈っている」
「――珠瀬事務次官に対し、敬礼っ!!」
銃火を交えない戦場とは言え、その実態が決して生易しい物でない事は、明らかにやつれた事務次官の様子から窺える。そんな事務次官に贈られた言葉に対し、まりもの号令で敬礼するオレ達。
「では、事務次官。A-01の紹介を致しますわ。元207B分隊はご存知でしょうから省きますけど。……先ずは柏木晴子少尉」
「はっ!」
夕呼先生の言葉を受けて一歩前に出るハル。……けど、こういう紹介って普通、上からしていくものじゃねえか?
「――君が彩峰少尉と同じで背と胸に余分に栄養が行っている柏木少尉ですか」
「「…………」」
パパの言葉にブリーフィングルームが一部を除いて凍り付いた。勿論、凍りつかなかった一部とは、楽しそうに笑う夕呼先生な訳だが。
――ブルブルブルブルブル
「……壬姫、おまえ…………」
「はうあうあ〜」
乾いた笑顔のハルの視線と引き攣った無表情の慧の視線が震える壬姫を射貫く。…………懲りてなかったのか。
そして、パパの暴露は続く。
「……横恋慕はいけないよ、涼宮少尉」
「宗像中尉に風間少尉。世情を鑑みるに二人の関係は推奨できないな。――非生産的で」
「速瀬中尉は懲りずに連敗街道を邁進し続ける、ある意味不屈の精神の持ち主だそうだね」
『…………』
――ふるふるふるふるふる
速瀬中尉と涼宮は青筋浮かべて壬姫を睨み、宗像中尉と風間少尉はそりゃあイイ笑顔を壬姫に向けてる。
「…………我々には、何も無いのですか、事務次官?」
「――間違い無く、死活問題になりますので」
「…………了解しました」
涼宮中尉、伊隅大尉、まりもの紹介に対して、特に何も言わなかったパパにまりもが質問したら、そんな答えが返ってきた。…………命知らず過ぎるぞ、壬姫。そんな縋るような眼差し向けられても、この状況はオレにはどうしようもない、って、夕呼先生っ!? 何でオレを見てニヤリと笑ってるんですかっ!?
「――ところで、武君。式は神前と教会、君はどちらが良い?」
そして、パパが唐突に爆弾を落とした。
「……あ、あの、珠瀬事務次官?」
「照れなくても良いんだぞぉ、義息子よ。さあ、遠慮なく『パパ』と呼びたまえ」
『…………』
……感じる。さっきまで壬姫に集中していた重圧の大部分のベクトルがオレに向かっているのを。
「バージンロードを歩くのも捨て難いが、ここはママの形見の花嫁衣裳をたまに着せて上げたいから、私としては神前にして欲しいのだよ。………天国のママも喜ぶだろうなぁ、壬姫と武君の結婚式」
「あはははは」
……ここまでクると、もう笑いしか出てこない。
「もちろん、A-01の皆さんの席はきちんと用意するからね」
『…………』
パパの独走、誰にも止められない。
「――それでは、君たちに武運の在らん事を」
オレへの極大の重圧を産み落としておいて、通信を終えるたまパパ。…………こういうオレにとっての致死的な状況の投げっ放しは勘弁して下さい。
「あんたたち、時間が押してるから、白銀を問い詰めるのは作戦が終わった後にしてよね」
今にもオレに尋問と言う名の拷問を敢行しそうなみんなを夕呼先生がそう言って制する。…………もしかしなくても、夕呼先生とたまパパ、グルかっ!? オレを問い詰めるために生きて帰って来いなんて、決戦へのモチベーションとしておかしいだろ!?
「――じゃあ、ピアティフ中尉。出撃までのスケジュールをお願い」
夕呼先生に言われ、ピアティフ中尉がブリーフィング後から出撃までのスケジュール説明をする。そしてスケジュール説明が終わり、ブリーフィングは終わった。
…………とりあえず、先ずは医務室に胃薬貰いに行くとしよう。――マジに。
ブリーフィングが終わって、作戦機への管制ユニットの換装作業終了後の休息時、食事を取っている武の所に人が集まって来る。
「――シルバー、オレらの分までヤツらに喰らわしてくれよ!」
「頼んだぜぇ、シルバー」
『甲21号作戦』では、エインヘリヤル隊に所属していた短く刈り込んだ金髪の中尉とドレッドヘアーの中尉が自身の想いを託すように、武と拳を合わせる。
「――シルバー、帰って来たらイイ事してあげるよ。こいつは前払いさ」
「ミュンだけじゃ物足りないだろうから、わたしも相手してあげるよ、シルバー」
アジア系の女性中尉とヨーロッパ系の女性中尉には、頬へキスされる武。……その瞬間、鋭い殺気が武だけを襲ったが。更に、この事を夕呼から聞いて純夏も知っており、後でどりるみるきぃを貰う事になった。
そんな風に、横浜基地内で手と時間が空いた人間が次々に武の許に集まり、各々声を掛けていく。戦場に赴く武に、思い思いの方法で想いを、未来を託すために。
「――――タケルは凄いなぁ」
その光景を、離れた所で冥夜、千鶴、慧、壬姫、美琴、晴子の6人が見ていた。
「そうね。武が横浜基地に来たのは、2ヶ月ちょっと前。……そんな短い時間で、私達だけじゃなく横浜基地の中心になってしまってる」
「それだけの事をタケルは成し遂げてきたからな。……まあ、あの節操無く人を惹きつけるところはどうかと思うが」
「…………ものすごい変態だからね」
「えっと、それじゃあわたしたちも変態なのかなー?」
「アハハ、そうかもね。何せ、ものすごい変態が好きなんだから」
そうして、誰とも無しに笑い始める。本当に屈託無く楽しそうに。
――そんな穏やかな刻を交えながら、出撃の時は刻一刻と迫っていった。
――2002年01月01日(火)
この日、暁と共に人類の命運を決める戦いの火蓋が切って落とされた。
――衛星軌道
夜明けと共に横浜基地から軌道上へ送り出されたオレは、『凄乃皇四型』のモニターから地球を見ていた。
「…………きれい」
「……ああ……凄え綺麗だ」
『凄乃皇四型』の複座式コクピットになっており、その後部コクピットで霞も感動の声を上げる。
こうして地球を目の当たりにして、強く強く思う。この人類の故郷を絶対に守る、と。
「艦隊旗艦からの音声通信です」
霞から通信が来た事が告げられる。――――いよいよだ。
「――こちら第3艦隊旗艦ネウストラシムイ。最終ブリーフィングを開始する」
先ず戦況が伝えられる。現在、『桜花作戦』は第2段階に入っており、国連軍と米軍の軌道降下部隊がSW115周辺を制圧中だが、戦況は予想以上に不利で、作戦司令部は第3段階の移行タイミングの繰上げを決定。SW115周辺の戦力が健在の内に、『あ号標的』攻撃部隊の降下の完了を遂行する事になった。
再突入殻の降下軌道投入プランは全て破棄し、現周回で降下部隊の地表到達率を高める為に全艦隊で再突入する。再突入の陣形は、爆撃装備の第1、第2戦隊は再突入軌道を先行し、第3、第4戦隊は先頭に続き、その後ろにA-04、最後尾をA-01部隊を輸送する第5戦隊。
この陣形は最悪の場合、艦隊がオレ達の盾になる事を意味している。……オレ達は、それ程の期待を背負っている。オレ達に託す事が出来ると、信じていくれているんだ。オレは、その想いを絶対に裏切らない!
そして、オレ達は戦場への降下を開始する。
「――全艦減速開始! 再突入回廊へ進入せよ!」
「減速開始。A-04軌道降下中」
軌道制御を艦隊と連動させ、ムアコック・レヒテ機関を起動させる。と、そこでまりもからの通信が入る。
「――ヴァルキリー0より、ヴァルキリーズ各機! SW115で会おう!」
『――了解っ!!』
そのまりもの通信の直後、全艦隊が大気圏に突入。『凄乃皇四型』が電離E層を突破した辺りで、先行している第1、第2艦隊が多数のレーザー照射を受け始める。
敵がAL弾を迎撃していない為に重金属雲が濃度不足になり、レーザーを遮る物の無い第1戦隊の80%が轟沈し、第2戦隊の損害も50%を越えた。
そんな中、ラザフォード場に数十体の重光線級による高出力照射を受ける。現時点で最大出力のラザフォード場が貫かれる事は無いが、ラザフォード場を制御する純夏の『量子電導脳』と主機であるムアコック・レヒテ機関の耐久力も無限じゃない。軌道降下による進攻と言う最も負担の少ない攻略法を取っているのはそのためだ。
「機関出力最大っ!!」
ラザフォード場に歪曲されたレーザー光が視界を埋め尽くす。それだけに、『凄乃皇四型』と純夏に大きく負荷が掛かっている。
それでも、今は純夏に耐えて貰うしかない! 頼むぞ、純夏っ!!
「――A-04ッ! 我々に構わず回避しろッ!!」
「そうだッ! A-04をやらせる訳には行かない!」
刻一刻と主機と純夏への負担が蓄積されていく。だけど、突入コースを変える訳にはいかない!
「ダメですっ! そんな事したら、艦隊がっ!」
「――回避してみせるッ! やってくれ!」
「我々はA-04を失うわけにはいかないんだッ! 早くしろッ!!」
「けど、回避したらコースを大きくはずれちまう! 下手なところに降りたら、それこそレーザーの袋叩きですっ!!」
「――貴艦らはコースを維持しろッ!」
『――ッ!!?』
「い、一文字ッ!」
あれは第2戦隊の貴艦、夕凪! 無事だったのかっ!?
「ここは我らに任せてもらおうッ!」
夕凪を始めとした第2戦隊の生き残りが、レーザーの盾となるべく『凄乃皇四型』の前に出ていく。
「い、一文字艦長っ!!」
そう言葉にしている間にも、レーザーに貫かれ爆散していく第2戦隊の艦艇。
「――人類をッ……頼むぞ……ッ!!!」
「…………了解……です、……一文字艦長っ!!」
操縦桿を渾身の力で握りながら、爆散する夕凪からの最後の通信に応える。
「――全艦再突入殻分離ッ! 最大加速でA-04の前に出るッ!」
『了解ッ!!』
ヴァルキリーズを輸送する艦以外の全ての艦艇が『凄乃皇四型』の前に出る。レーザーの盾となって次々に爆散していく艦艇が命を賭けて開いてくれた道を通り、オレ達は降下していく。
「――貴様等を無傷でオリジナルハイヴに連れて行く事が我らの任務……!」
「人類反撃の切り札となる決戦部隊を運んだ事は、駆逐艦乗りにとっては最大の名誉だ!!」
「その名誉を汚させはせんッ! そして貴様達にも手出しはさせんッ!!」
「……フランスを……ユーラシアを取り戻してくれッ!!」
「――了……解……っ!!!」
――そしてオレ達は、オリジナルハイヴに突入する。たくさんの想いを背負って。
――オリジナルハイヴ、第2隔壁前
「――――遂に、ご対面だ」
第2隔壁が開いていくのを見ながら呟く。
ここまではほぼ予定通りで進攻出来た。ここに辿り着くまでに想定の倍以上の敵と遭遇したにも関らず。それも『凄乃皇四型』と『ワルキューレ』の力があったからこそだろう。
それに、管制室の涼宮中尉がハイヴ内壁の構造力学上最適な箇所を割り出し、その箇所で『ワルキューレ』に搭載していたS-11を起動、『主広間』の入り口とその2つ手前の『広間』を崩落させて後続の増援を断ち切ったのも大きかった。
そうして、オレ達は今ここに居る。直援部隊の最後の補給を済ませてから、第2隔壁の開放を開始。人類未踏の『あ号標的』ブロックへの道が開かれる。
「――微速前進0.5! 『あ号標的』ブロックへの侵入を開始する!」
……いよいよ、この忌まわしい戦いの決着をつける時が来た! 人類の勝利を信じて戦った人達や、今も戦い続けている人達、……その全ての想いに応える時が来たんだ!
「『あ号標的』確認……12時方向、距離5400。リーディング開始地点まで距離220」
「…………あれが、『あ号標的』っ!!」
広大なその空間の中央、不吉な薄蒼い光を脈動するように放つ、禍々しい花弁のような台座の中心に、それはいた。人類を滅亡の危機に追いやった元凶。――――その姿は、まるで人類の滅びを招く果実。
「――白銀大尉!」
「!? どうしたんです、涼宮中尉!?」
「第2隔壁が凄い早さで閉まり始めているのっ! 開放剤の間歇注入も続いていて、システムも正常なのにっ!」
「なっ!?」
『あ号標的』の仕業かっ!?
「――ッ!! ヴァルキリー・マムより各機へっ! 『あ号標的』が複数の触手状の物体を放出、A-04に向けて接近っ! 迎撃をっ!!」
『了解ッ!!』
『あ号標的』から『凄乃皇四型』に向かってくる数十本もの触手を迎撃する。直援部隊のおかげで、触手は一本たりとも『凄乃皇四型』に近づけない。
「――リーディング開始地点到着。リーディング開始します」
「ヴァルキリー・マムより各機! A-04は位置固定します!」
「了解! 全機、A-04に指一本触れさせるな!」
「了解です、少佐っ! ヴァルキリーズの力、思い知らせてやります!」
「ですが少佐、この場合、触手一本では?」
「宗像、あんたね〜〜、そんな事どうでもいいでしょうが」
「もう、美冴さんたら」
「くっ、なんていやらしい攻撃なの!」
「ホントホント。形も何だか卑猥だし」
「ちょっと、柏木、なに言ってるのよっ!?」
「? BETAらしく生理的嫌悪を齎す造型なのは解るが、どこが卑猥なのだ?」
「…………御剣が解ったら、びっくり」
「にゃははは、そうだね〜」
「ハイヴの内壁は緑なのに、何で『あ号標的』は青色なのかな?」
……決戦なのに、この緊張感の無さが逆に頼もしいな。軽口をたたきながらも、触手の討ち漏らしは一本たりとも無い。
「――――リーディング完了しました」
よし! これで、直援部隊の仕事は終わりだ。
「涼宮中尉! 主砲発射準備を開始しますっ!!」
「分かりました! ヴァルキリー・マムより各機! A-04に退避して下さいっ!!」
『――了解っ!!』
『ワルキューレ』が1機ずつ、『凄乃皇四型』の頭部、管制ブロックに格納された装甲連絡艇への搭乗口の所へ取り付き、強化装備の頭部版とも言うべきヘルメットを被ったみんなが、『凄乃皇四型』に退避してくる。衛士のいなくなった『ワルキューレ』は、自動操縦で触手の迎撃を続行する。
だが、自動操縦の機体じゃ触手の動きに対応が出来ず、レールガンの弾幕を抜けて一本の触手が、ラザフォード場を突破して『凄乃皇四型』に突き刺さった。
「――ぐぅぅぅっ!?」
くそっ、『あ号標的』はラザフォード場にもう対応したのか!?
「――あああああああああぁぁぁっ!!?」
「霞!? どうした、霞っ!!?」
触手が『凄乃皇四型』に突き刺さった振動が治まってすぐ、後部座席の霞が悲鳴をあげる。それだけじゃない。主砲発射の為のエネルギーがどんどん減少していく。――全部、ヤツの仕業かっ!!?
今はまだレールガンを撃てるけど、これ以上触手を取り付かせないようにしないと!!
「――ああああああぁぁっ!? いやだぁぁぁぁぁぁっ!! たすけてタケルちゃんっっっ!!!」
その霞の悲鳴を聞いた瞬間、理解した。この悲鳴は霞のものであって霞のものじゃない。――純夏がオレに助けを求める声なんだと。
「――――純夏ぁっ!!!」
だから、オレは叫んだ。純夏がオレを呼ぶ声に応えるために。
――イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダ――
―――オモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイオモイダシタクナイ―――
――――ワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナルワタシガナクナル――――
「――――純夏ぁっ!!!」
その声が届いた瞬間、純夏の嵐のように荒れ狂い氾濫していた記憶が凪の水面のように沈静化する。
『凄乃皇四型』を侵蝕する触手を通して伝わってくるおぞましい感覚と、その感覚によって呼び起こされた魂の尊厳を汚された陵辱の記憶に耐える力が、自分の奥底から湧き上がってくるのを純夏は感じていた。
――タケルちゃんの声が聞こえる、タケルちゃんが傍に居てくれる、それだけで、「鑑純夏」は、最強無敵なんだからっ!!!
純夏の強烈なまでの意志の力が、『あ号標的』からの侵蝕を撥ね退け『凄乃皇四型』のコントロールを取り返す―――
「――機関制御が回復した!? 涼宮中尉、みんなの退避はどうですっ!?」
「完了してますっ!! ―――触手、再接近っ!!」
「なぁっ!!?」
まずい、またやられるっ!!?
「―――ッ!!?」
ラザフォード場が触手を弾いたっ!? ラザフォード場を突破した触手なのにっ!? って、それよりもチャンスだっ!!
「――主砲エネルギー、充填率100%到達」
霞の報告と共に、オレは『荷電粒子砲』のトリガーに手をかける。
オレの脳裏に過ぎる、人類の勝利を信じ己が信念に従い戦った人達の、オレ達に未来を託し逝った人達の、オレ達を信じて道を開いてくれた人達の、笑顔で命を賭けてくれた人達の想いと、『繰り返し』の中の苦しみ、怒り、悲しみ、憎しみ、嘆き、絶望、喜び、愛しさ、幸せ、希望の『記憶』。
その背負った全ての想いに賭けて、『あ号標的』をここで倒すっ!!!
『武/タケル/たけるさん/白銀/白銀大尉/白銀さん/タケルちゃんっ!!!』
―――――そして、オレはトリガーを引いた。
「喰らいやがれぇっ!! これがっ、未来を希うっ、人類の力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
―――その時オレは、放たれた白い光の向こうに、未来の扉が開くのを、確かに感じていた―――
武の咆哮と共に、正に万感の想いを乗せた未来を切り拓くような白い極光は、『あ号標的』を貫き消し飛ばす。
そして、レーダー上から『あ号標的』の反応が消失した瞬間、『凄乃皇四型』は天井に硬隔貫通誘導弾頭弾を斉射。退避ルートである『主縦坑』から『孔』への道が開ける。
その瞬間、ムアコック・レヒテ機関は最高出力で稼動。ラザフォード場による重力制御により、『凄乃皇四型』は凄まじいスピードで軌道上へ上昇していく。上昇中、光線級のレーザー照射があったが、展開されたラザフォード場に阻まれ、『凄乃皇四型』に傷一つ付ける事は無い。
そうして、『凄乃皇四型』は帰還する。たった一つの想い、歓喜に満ちた横浜基地へ。
第2滑走路に着陸した『凄乃皇四型』は、地上に搬出されていた起重台座に、その機体を納める。
そして、機体の冷却と浄化作業が終わった『凄乃皇四型』から、搭乗員である武が降りてくる。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!! オレ達は勝ったんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
集まった横浜基地の大勢のクルーに応える様に、天を衝かんばかりに腕と咆哮を高らかに上げる武。横浜基地が、いや、この光景は世界に発信されていたので(武は知らない。勿論、夕呼の仕掛け)、歓声で世界中が震える。
この瞬間、白銀武は歴史に名を刻む人類の、世界の「救世主」となったのだった。
――――そして、おとぎばなしは幕引きへと――――
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