マブラヴ 未来への咆哮 episode:23 「英雄さらしもの誕生」 <きのらっちさん>



――2001年12月27日(木)

「んぅ〜〜〜〜〜〜」
「……何してんだよ、オマエは?」

朝、目を覚ますと、蛸みたいに唇を突き出した純夏の顔が目の前にあった。

「タ、タケルちゃん!? お、起きてたのっ!?」

「今起きたばっかだよ。つーかものすっごく変な顔してたぞ、今のオマエ」

「へ、変な顔って乙女に言って良い言葉じゃないぞぉー!!」

「変なもんを変だって言って何が悪りいんだ。……で、そんなにオレとキスしたいのか?」

「ち、違うよっ! タケルちゃんの寝顔見てたら、何となくしたくなっちゃっただけっ、!!? んっ、んんっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

顔を赤くした純夏が言い切る前に、まだ昨日のテンションの高さが残っていたオレは自分の唇で純夏の唇を塞いだ。…………御馳走様でした。


『甲21号作戦』終了後、横浜基地に帰還したオレ達を出迎えたのは、熱狂的な歓迎だった。そして揉みくちゃにされつつも、オレは先ず純夏に会いに行ったんだが、

「タケルちゃんのエロエロジゴロォーーーーーー!!!」

いきなりどりるみるきぃだった。……まあ、顔中がキスマークだらけだったからしょうがねえと言えばしょうがねえけど。とは言え、純夏は暴走して狂戦士バーサーカー状態。命の危険を感じたオレはそれを宥める為、リミッター解除したキスを純夏にした。……傍で見てた霞がオーバーヒートしちまうくらい過激で濃厚なのを。
ちなみに「この世界」には娯楽が少ない。前線に出れば尚更に。そして、いつ出撃が掛かるか判らない、体力は出来るだけ温存しなければいけないと言う事情から、オレ達はキスを良くしてた。娯楽って言葉は違う気がするが、まあ、そこは察して欲しい。とにかく、『ループ』の中で戦術機の操縦技術の次くらいに、キスの技術が上がってるんじゃないかと思う。
そんなオレの全力本気マヴキスのせいか、純夏のヤツ、キス好きになっちまったっぽいなぁ。……まあ、悪い事じゃないつーか、むしろ望むとこ?
それにしても、昨日26日は凄かった。横浜基地は七夕とクリスマスと正月が一度に来たような盛り上がりようだった。……実際、短冊が掛かった笹に飾り付けがされたクリスマスツリー、そして立派な門松が基地の到る所に在った訳なんだが。
まあ、それも当然だろう。『佐渡島ハイヴ』の陥落。この報は世界中に熱狂とも言うべき歓喜と興奮を齎した。とりわけ、日本のそれは世界でも群を抜いていた。『佐渡島ハイヴ』の陥落は日本と日本人の悲願でもあったから。
横浜基地はその立地上、日本人の割合が多い。となれば、横浜基地の歓喜と興奮も日本各地のそれと大差無いのはある意味当然と言える。また、『甲21号作戦』において横浜基地所属のA-01と「エインヘリヤル隊」が作戦の中核だった事も理由としちゃ大きいだろう。
とは言え、G弾を運用しないハイヴ陥落と言う事実の前には、人種とか国家と言った境は余りに小さな物だった。要するに、昨日の横浜基地は基地上げてお祭り騒ぎだったって事だ。昨日は作戦後の休養日だったオレ達は思いっ切りそのお祭り騒ぎを堪能したと言うか、巻き込まれたと言うか。……まあ、楽しかった事は間違い無いけどな。
夕呼先生はミニスカサンタ姿で男達の目を釘付けにし、まりもは「狂犬」となって霞を捕食しようとした所を横浜基地最強の存在であるおばちゃんに怒られ正気を取り戻し、伊隅大尉の両親が有名な音楽家で風間少尉がファンである事、速瀬中尉が酒に弱い事と涼宮中尉と同じ想い人が居たがその人は戦死していて、二人はどちらが早く想いに決着を付けて新しい恋を見付けられるか勝負ヤクソクしている事、宗像中尉は帝国軍の九州戦線に想い人が居て、思い出の風景バショでの再会を約束している事を知った。
そして、冥夜、千鶴、慧、壬姫、美琴、ハルは盛大に酔って誰かの愚痴を言い合っていた。耳に届く断片的な情報を繋ぎ合わせると、「誰にでも優しい」「優柔不断」「物凄い鈍感」「思考回路が不思議」「無自覚女たらし」等々となんかとんでもない人物像だ。……そんな奴、オレらの周りにいたっけ?
みんなの愚痴大会に巻き込まれた涼宮が憐れだったが、みんなのプレッシャーが尋常じゃなかったんで、オレはその場を離れた。……許せよ、涼宮。
そして昨日、オレにとってテンションが最高に上がる事があった。それはオルタネイティヴ4が、人類の取るべき道として世界中に発表された事だ。
情報は制限された形ではあったけど、オルタネイティヴ4は世界中に認知され、オルタネイティヴ5が日の目を見る事は無くなった。勿論、オルタネイティヴ5が再び動き出す可能性が消えた訳じゃないが、それでも、オルタネイティヴ5の発動が一応無くなった事はオレにとって大きな喜びだった。ちょうどその時、傍にいたピアティフ中尉を思わず抱き締めちまった位だ。……この直後、後ろからみんなに色んな物を一斉に投げられた。文句言ったら逆ギレされるし。
大体、何で溜息をおまえらが付く!? 溜息付きたいのはこっちだ! タンコブできたし。しかも、ピアティフ中尉がタンコブの様子を看ると、オレを睨むし。訳解らん!


「――それじゃわたし、下に戻るね、タケルちゃん♪」

「おう、って何か嬉しそうだな? ……このスケベ」

「ち、違うよっ!?」

「そうか? そんじゃしばらくキス無しな」

「えーーー!!? ヤダヤダッ!! って、そうじゃないよ!? タ、タケルちゃんとキキキキキキキスするのは嬉しいけど、違うんだよっ!? な、何かね、副指令が作戦成功の特別なご褒美をくれるって言うから」

「特別なご褒美?」

「うん。絶対わたしが欲しがる物くれるって言ってたよ」

「絶対欲しがる物ねぇ。まあ、貰える物は貰っとけ。ところで、オレ達にはそう言うの無いのかな?」

「用意してるみたいな事言ってたよ。……ただ」

「ただ?」

「……物凄く楽しそうにしてたよ」

「…………あんま期待しないでおこう」

そして純夏が下に戻った後、点呼を終え、PXで朝飯を食い終わった頃、霞が何か紙を巻いた物を抱えてオレ達の所にやってきた。

「……おはようございます」

「おう、おはよう。ところで、何持ってんだ?」

「……副指令から、みなさんへのご褒美です」

「えっ、ご褒美? その紙って言うか、ポスターみたいなのがか?」

「……はい」

……期待しないでおこうと言ったものの期待してたのに。期待ハズレも良いとこだ。この展開は夕呼先生にしちゃ本当につまんねえなぁ。

「ご褒美って、一体何の?」

「作戦成功のじゃないの、千鶴?」

「アハハ、副指令らしい発想だよねぇ」

「ご褒美かぁ〜。ねねっ、霞さん! 早く見せて見せてっ!」

「落ち着かぬか、鎧衣」

「でもわたしも早く見たいですー」

「……以下同文?」

「オレに疑問系で振るな」

「……どうぞ」

「え、わたし?」

霞がそのポスターらしき物を差し出したのは、なぜか涼宮。まあ、一番近い位置に居た人間に渡しただけで、深い意味は無いだろうな。とにかく、他のみんなは涼宮の後ろに回り、霞からそれを受け取った涼宮はそれを広げる。オレはご褒美が紙の時点で興味を無くしてたので、食後の合成玉露を啜っていた。と、

――ボンッ!!
『――――――』


涼宮がそのポスターを開いた直後、そのポスターを見た全員の顔が真っ赤になる。

「お、おい、どうした?」

『………………』

顔を真っ赤にしつつもポスターを凝視し続けるみんなに声を掛けるが、全く応答無し。この反応にポスターへ興味が惹かれたオレは、合成玉露を口にしながらポスターを覗きこんだ。そして、

「ブゥーーーーーーーーー!!? ゲホッカッハッコッフッ!!?」

オレはポスターに向かって合成玉露を噴き出し、思いっ切り噎せた。

「……あ」

それに霞は悲しげな呟きを漏らすけど、その事を気に掛けてる余裕は今のオレには無い。

「なななななな、なんじゃあっ、こりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!!?」

思わず某ジー○ン刑事張りに叫んじまった。

「あっ、これってあの時の」

オレの叫びを聞いて気になったのか、涼宮中尉も後ろからポスターを覗き込んでいて、そんな事を言う。

「す、涼宮中尉!? このポスターの事、何か知ってるんですか!?」

自分でも分かる位動揺したオレは、何故かかなり顔が赤くしてる涼宮中尉に詰め寄る。

「な、何でポスターになってるかは判らないけど、そこに写ってるのは『甲21号作戦』前の通信の時に白銀少尉が浮かべた表情だと思うよ?」

「マ、マジでぇ!?」

そう、ポスターに写ってたのは涼宮中尉の言う通り、『甲21号作戦』の直前、速瀬中尉と涼宮中尉と通信した時のオレの微笑だった。

「……帝国軍と国連軍の新しい兵員募集のポスターです」

「なななななななんですとーーーーーーーーー!!?」

霞の言葉は衝撃的だった。ハッキリ言って、恥ずい! 自分のこんな表情が形となって目の前にある事もそうだが、それが知ってる人間、知らない人間問わず注目されるとなると、もう勘弁して欲しいくらい恥ずい!! しかも、「起て、若者! 『未来』を笑顔で迎えるために!」なんてフレーズ付き。………ありえねえ! 何の罰ゲームだよ、これはっ!!?

「……これは別バージョンです」

そう言って霞がもう一つのポスターを広げる。

「ぎゃおぉーーーーーーーーーっ!!?」

霞の持つポスターには、突撃する『武』の後ろに咆哮するオレの顔。そして「起ち上がれ! 気高く舞え! 『未来』の戦士達よ!」のフレーズ付き。………オレ、なんか夕呼先生を怒らせる様な事したか!? こ、これは、は、恥ず過ぎる!!

「こちらは……勇壮ですね」

「……あたしはこっちの方が好みかな?」

オレが頭を抱えているのを余所に、まじまじと霞の持つポスターを観察する風間少尉と速瀬中尉。非っ常に居た堪れない。いっそ逃げ出してえ。

「良かったじゃないか、白銀。世界中で注目される事になって」

「ミツコさんが関わっているのか。……正樹にあげたら喜ぶかしら?

後ろを宗像中尉と伊隅大尉に取られてるので無理っぽいが。て言うか、ミツコって誰?

「……これは私の見本なので、欲しい方のバージョンを選んでおいてください」

「それなら、私はあっちの笑顔のバージョンの方を貰おうかしら」

霞の言葉に満面の笑顔で言い切るまりも。ガァーーーン!! まりもよ、オマエもかっ!!? ……昔の人が言った意味が今なら良く解る、解り過ぎるほどに。「穴」じゃなくても、身が隠せる場所があったら即行飛び込むね、今のオレ。


「夕呼先生、どういう事です「――人類オレたちは、負けねえっ!! 未来を手にするのは、BETAオマエらじゃねえっ!! 未来を掴むのは、人類オレたちだっ!!!」かぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」
――ズベッシャァァァァァァッ!!!


夕呼先生の執務室に乱雑に積まれた本や書類の山を崩壊させながらすっ転ぶオレ。

「ちょっと〜、人の部屋入ってくるなり散らかすの止めてくんない?」

「なななななななななな」

「何よ? 何かの暗号?」

「何なんですかぁ、ありゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

午前の訓練を終え昼飯も食わずに、ポスターの事を問い質しに夕呼先生の所にやってきたオレを出迎えたのは、純夏と霞が齧り付きで見てる夕呼先生の執務室のモニターに映し出された映像。トライアルと『甲21号作戦』のオレの戦闘記録をドラマチックに編集した物だった。……そりゃ、盛大にずっこけるっつーの!!

「タケルちゃん、カッコ好いカッコ好いカッコ好いイカッコ好いカッコ好いカッコ好い、カッコ好いぃ〜〜〜〜〜〜!!! ねっ、霞ちゃん!!!」
「……はい!」


「……もう勘弁して下さい。つーかオレ、夕呼先生に何か取り返しの付かないこととかしました?」

「は? 白銀、あんた何言ってんの?」

夕呼先生は本気で呆れ顔だ。……アレ、ホントにこれ罰ゲーム系じゃねえの?

「……あたしもそこまで暇人じゃないわよ」

なっ!? 何でオレの考えてる事がっ!? も、もしかして、夕呼先生もリーディングを!?

「あんたの顔見れば一目瞭然よ。それよりも真面目な話するわよ? 付いて来なさい」

「は、はい」

映像に夢中になってる純夏と霞を置いて、オレと夕呼先生は廊下に出て話を続ける。

「ポスターもあの映像も、あんたを英雄に祭り上げるために、家の姉に頼んでた物よ。姉もさぁ、あんたを気に入ったみたいでね〜。仕事が早い早い♪」

「オレを英雄に? 何でそんな事?」

「『甲21号作戦』の成功でオルタネイティヴ4を世界に発表できた訳だけど、オルタネイティヴ5と違って制限しなきゃいけない情報が多いわ」

「……純夏の事ですね」

「他にも色々あるけど、あんたの言う通り鑑の事が一番ね。だけど、情報を制限していても、世界に対してアピールしなきゃいけない。オルタネイティヴ4は人類が取るべき唯一の道だってね。だから、そのための広告塔としてあんたを英雄に祭り上げるってわけ」

「……けど、オレは―― 「解ってるわよ、そんな事。けどこう言うのには即効性が重要なのよ。ヴァルキリーズを使っても良いけど、元207B分隊の事考えたら時期的に難しいし。それに、ヴァルキリーズじゃインパクトに欠けるしね。その点、英雄に祭り上げるって事で言えば、あんたは条件的に申し分ないわ」

『XM3』の事、『武』の事、そして、オレが世界で初めて「反応炉」を破壊した事を考えれば、先生の言ってる事も最もだ。……オレほど「英雄」ってヤツに祭り上げ易い人間はいないだろうよ。

「ポスターも映像も明日には世界中に配布されるわ。どう、白銀? あんたは有史以来初めての人類共通の英雄になんのよ。嬉しいでしょ?」

「……他人事だと思って、軽く言わないでくださいよ」

「だって他人事だもの。大体、世界であんたの事知らない人間は居なくなんのよ? むしろ喜ぶとこじゃないのよ〜」

「喜ぶって、無理ですよ!」

話は解ったけど、やっぱ恥ず過ぎる! ………それにオレは英雄なんて器じゃない。

「とにかく、あんたを英雄にするのは決定事項よ。頼んだわよ、『白銀の閃光シルバー・ライトニング』大尉」

「た、大尉!? ど、どういう事ですか!?」

「そのままの意味よ。白銀、今日付であんた大尉になったから」

「え、じゃあ、A-01の他の人間は?」

「今回は広告塔として表に出るあんただけよ。と言う訳で、白銀大尉。明日帝都で開かれる『甲21号作戦』の戦勝式典にあたしの代理として出席してもらうわ」

「はっ!? オ、オレがですか!?」

「一応あたしの代理なんだから、みっともない真似しないでよ? 一応、ピアティフを一緒に行かせるから、問題は起きないとは思うけど」

「夕呼先生が出席すれば問題ないじゃないですか!?」

「あたしは忙しいのよ。次の作戦の発動は1月1日なんだから」
「!!!」

「作戦目標は喀什の『オリジナルハイヴ』。……理由は説明するまでも無いわね。――白銀。例の件のタイムリミットは大晦日までと思ってちょうだい」

「………………分かり、ました」


歩き去って行く夕呼先生の背中に、オレは絞り出すようにそう答える事しか出来なかった。


――2001年12月28日(金)

「――いい眼をしているな、白銀大尉。君のような若人が居るのならば、この星の未来、必ずや明るいものとなろう」

「は! 光栄であります、提督!」

目の前の小沢提督の言葉に敬礼するオレ。周りにいる『甲21号作戦』に参加した艦長クラスの人達も、小沢提督と同じような眼差しでオレに注目している。……マ、マジで居た堪れねえ。そもそも、今日は朝からずっとこんな気持ちのまんまな気がする。
今朝もいきなり、PXで速瀬中尉と宗像中尉に階級の事で絡まれた。

「流石は『白銀の閃光シルバー・ライトニング』ねぇ〜。出世も電光石火とは恐れ入るわぁ〜」

速瀬中尉、無理して笑顔作ろうとしないで下さい。目許だったり口許がヒクヒクと痙攣してる方が怖いですから。

「上官の命令には逆らえません。例えどんな破廉恥な命令であっても」

口許に不敵な笑みを浮かべながらじゃ真実味が無いですよ、宗像中尉。……何故、そこでみんなオレを睨むんだ!? 冤罪だ! そんな命令する訳ねえっつーのっ!!

「なかなか男前じゃないか、タケル!」

「ハハハハハハハハハ」

速瀬中尉と宗像中尉に絡まれ消耗しているオレに追い打ちのようにPXに設置されてるテレビに映し出される「映像」。おばちゃんの感想に乾いた笑い声しか出ない。
昨日はほんのちょっとしか見なかったから判らなかったが、「映像」の出来は凄く良い。分野は違えど、夕呼先生のお姉さんも「天才」なんだろうと納得する。街中で「映像」を目にすれば足を止め見入ってしまうだろうと思う程凄い物だった。……主役が自分でさえなかったら。
「映像」のせいかオレに基地の注目が集まる集まる。目立つのが嫌いな訳じゃあないけど、ここまで来ると好き嫌いの問題じゃない。本当に居た堪れないって言うか、逃げ出したい気分になった。
だからオレは、戦勝式典で横浜基地を一時でも離れられる事を喜んだ。……束の間の喜びでしかなかったが。帝都でも「映像」はそこかしこで流れていた。目にするポスターもオレが写った物ばかり。……ドッキリだと言われても許せそうなくらい、恥ずかしかった。
そして戦勝式典でも、オレは注目の的だった。軍関係者だけでなく、式典会場に集まっていた帝都市民にも。いや、帝都市民は式典でスピーチをする悠陽を一目見に来たんだと思うよ? けどさ、一応来賓席に居たオレに向けられていると感じる視線の数がハンパじゃねえの。オレ:悠陽で比較すると、4:6くらいか?
で、オレはこの注目される恥ずかしさを少しでも軽減させたくて、ピアティフ中尉にオレが注目されてると感じてる事を話して、気のせいだと自意識過剰だと言って欲しかったんだが、

「……自分の存在感がどれ程かも判らないなんて、鈍感にも程があります」

小声で何か呟かれて、呆れた風に溜息付かれた。……何故?
とにかく、オレが拷問に近い恥ずかしさを感じている間も、戦勝式典は粛々と進み、先程式典が終わった。そして一刻も早く式典会場を後にしたいオレだったが、すぐに小沢提督を始めとした帝国軍の人達に囲まれてしまった。
しかも、何かものすっごく気に入られているっぽい。さっきの小沢提督の「いい眼をしている」発言を皮切りに、面構えが良いだの、若いのに大した覇気を持っているだの、あの咆哮には 心震えただの、もう少し若ければ共に戦場を駆けれただの、べた褒めされた。……嬉しく無い訳じゃあないけど、居た堪れなさはもうMAXだった。

「ところで白銀大尉、君には将来を誓い合った相手はいるかね?」

「…………は?」

「もし、いないのであれば、私の孫娘はどうだね? 祖父としての贔屓目無しでも、器量良しの娘なのだが」

「提督、抜け駆けはいけませんな。白銀大尉、私の娘はどうだろう? 未だ婚姻できる年齢ではないが、将来は妻に似て美人に育つぞ?」

「安倍、落ち着け。白銀大尉も驚いているだろう」

「田所君の言う通りだ、安倍君。……ところで白銀大尉、君は年上の女性をどう思う? 実は私の姪が独身でな」

「え、いや、アハハハハハ」

さっきまでの状況が居た堪れなさMAXなんて、とんでもなかった。居た堪れなさを燃料にできるなら、今のオレなら大気圏突破だって出来る。

「――まあ、そうだったのですか、井口艦長?」

そして、オレは思い知った。世の中ってオレの想像なんて軽く越えて行く物なんだって。

『で、殿下!?』

真っ黒なオーラを背負った悠陽の登場に、居た堪れなさでオレはもう悟りすら開けそうだ。18日の朝に「ばいばい」なんて言って別れたから余計だ。……て言うか、あの時点でこんな状況での再会を予想できるかっ!!

「そなた達の縁者への良縁、この悠陽に任せてもらえませんか?」

『は、は! ありがたき幸せ!』

……歴戦のつわものでも、今の悠陽に逆らおうなんて微塵も思わねえだろうなぁ。もちろん、オレもだけど。

「――殿下、お時間が」

「ええ、分かっていますよ、月詠中尉」

悠陽の傍に控えていた「赤」の斯衛軍の軍服を着た眼鏡の女の人が、悠陽を促す。

――『人類軍 日本帝国師団』で戦友として、共に戦場を駆けた日々――

月詠さんと同い年齢の従姉妹でもある真耶さんだ。……懐かしいって言うのは変か? そう言えば、月詠さんと真耶さんが『武』と同じで一番多くオレと最期まで戦ってくれた戦友なんだよな。

「けれど、しばしの猶予を。――白銀」

「は!」

「そなたが無事で良かった。……あの御守りはそなたの無事な帰還の助けとなったでしょうか?」

……この状況で、激烈に返答し難いお言葉です、悠陽さん。周りの人達が驚愕の表情でオレ達に注目しています。真耶さんが表情を変えてない事が、救いの様に思えてきちまうぜ。

「え、ええ。ふ、二人分の加護がありましたので」

「あら、白銀。加護は二人分ではなく、三人分ですよ?」

「え?」
「――殿下。お時間です」

「分かりました、月詠中尉。では白銀、また逢える日を楽しみにしていますよ」

「は、は!」

そんな言葉を残して、真耶さんを伴って会場を後にする悠陽。……つーか取り残されたオレの周りの空気が洒落になってないです。悠陽は自分の言葉や行動が周りに及ぼす影響を知ってる筈だ。って事は、人目がある場所でのさっきの会話をわざとか!? オレに注目って言うか関心集めさせて、どうしようってんだ!?

「白銀大尉! とにかく横浜基地に戻りましょう!」

「りょ、了解!」

オレの脳裏に浮かんだ疑問を吹っ飛ばす声を上げたピアティフ中尉に引き摺られる様にして、オレ達も式典会場を後にする。周りの注目を集めたまま。……それにしても、一応オレ上官だよな? まあ、良いけど。
それにしても、擦れ違った時の真耶さんの殺気の籠もった眼光。そして悠陽が言った「三人分」って言葉。……やっぱ、そう言う事なのか?

「……やはり、人生の伴侶に選ぶのなら、同じ日本人が良いのですか?」

「え、何か言いました、ピアティフ中尉?」

「……何でもありません!」

自分の考えに没頭してピアティフ中尉の言葉を聞き逃したオレにそう言って、拗ねた子供のように顔を背けるピアティフ中尉。結局、その後ずっとピアティフ中尉の機嫌は悪いままだった。……拗ね顔のピアティフ中尉がかなり可愛かったのは内緒だ。


「す、純夏!?」

「あ、タケルちゃん、お帰り!」

夕飯前のPXでやってきたオレを迎えたのは、みんなと一緒に談笑していた純夏の姿だった。

「何でおまえがPXに?」

「今度の作戦はわたしとA-01の連携が必要だから、副指令が今日から訓練に参加しなさいって」

「そっか。……みんなとはもう仲良くやれてるみたいだな」

「もちろんだよ! だって、みんなとは「仲間」だもん!」

「そうだな。「仲間」だもんな」

不覚にも、純夏の言葉にジ〜〜ンと来た。……純夏のクセに生意気な。

「たけるさん、鑑さんの言った「仲間」の意味、解ってるのかな?」
「あれは解ってない顔だねぇ」
「幼馴染の鑑の苦労が解るわ」
「まあ、タケルだから」
「……神経が不思議」
「全くだ」

何、好き勝手言われてるっぽいけど、無視。一々気にしてたら、保たねえっつーの。大体仲良くやれてるんだったら、それが一番だろ。

「あ、伊隅大尉とはもうものすっごく仲良くなれたよ! 初めて会ったのに、なんかね異常に話が合ったよ!」

「そ、そうか」

ニヤリ と背筋が凍るような笑みを浮かべた純夏の言葉に伊隅大尉の方に目を向けたら、同じようなニヤリ 笑いを返された。……仲が良過ぎるのは良くないよな。
とにかく、しばらく純夏と伊隅大尉とで三人にならないよう気を付ける様に誓ったオレだった。


――2001年12月29日(土)

純夏も加えた『オリジナルハイヴ』攻略を想定したシミュレーター訓練は一日を通して行われ、最後には『あ号標的コア』まで一人も欠けることなく辿り着くまでになった。

「――今日の訓練はここまでだ。解散!」

まりもの号令でこの日の訓練は終わる。そして、みんなでPXに向かう中、

「――武 「!?」 後で裏の丘に来て」

他の人間に聴こえない声で、そう告げられた。……『記憶』の中にある声音で。

―――「おとぎばなし」の終幕に向けて、物語は加速していく。様々な想いを押し流して。


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