マブラヴ 未来への咆哮 episode:22 「未来への初陣」 <六月さん>
――2001年12月24日(月)
「……佐渡島はあっちか」
甲板の上で、オレは佐渡島の方を見据える。とは言っても、夜の闇に遮られて確認できる訳じゃないが。
今日はクリスマスイヴ。『今まで』オルタネイティヴ5が発動した日だ。そんな日に、BETAとの長い戦いの始まりと言うべき作戦があるなんてな、偶然にしちゃ出来すぎだ。
――クリスマスってのはねえ……ふたつの意味があんのよ……わかる?
――ひとつは、ひとりの子供が人類に夢と希望を与えた日……もうひとつはねぇ、大人が子供に夢見させる日……
――あたしは……聖母にはなれなかった…………とでも言っておきましょうか……
……『あの時』、先生が言ってた「ひとりの子供」って、純夏のことだったんだろうな。
「………オレ達は勝つんだ。絶対にな」
決意を込めて呟きながら、佐渡島に向けて拳を突き出す。
何か初陣の時以上に、緊張していると言うか、気持ちが昂ぶっている気がするな。初めての戦場って訳でもないのに。……ん? 初めて?
「――白銀?」
「大尉?」
「初めて」と言う言葉に、何かが繋がりそうな気がした所で、伊隅大尉に声を掛けられた。
「何やってるんだ、こんなところで? ……飲むか?」
伊隅大尉が差し出した手には、あのゲロマズドリンクのパックの姿が。
「い、いえ、喉は渇いていませんから」
「……そうか。それにしてもどうしたんだ? 眠れないのか?」
「ええ。……何か緊張してるみたいで」
「……貴様でも緊張するんだな」
「そ、それは非道くないですか?」
「冗談だ。これ程の大規模な作戦に参加するんだ。それが自然だろう」
そうだな。オレのこの昂ぶりの理由もそんなところだろうな。
「………そう言えば、貴様にはまだ訊いていなかったな」
「何をです、大尉?」
「貴様は、何のために戦っているんだ?」
……オレって、良くこの質問されてる気がする。確かめたくなる位、フラフラしてるように見えんのかな、オレ?
「……オレは、『未来』を取り戻すために戦ってます」
そうだ。たった一つの「結末」しかない「未来」じゃない。BETAに奪われた無数の可能性を持つ「未来」を取り戻すんだ。
「…………『未来』を取り戻す、か。……不思議だな。貴様が言うと何故か信じられる。人類の手に『未来』を取り戻せると」
「そこまで持ち上げられると困りますよ。オレはただ、オレの大事な人達とその『未来』を護りたいだけなんです。それもオレの自身のために」
「だが、これまでの貴様の言動に極端な利己性は感じられない。自分のために戦いながら、結果的に他者をも救おうとする。……正に貴様は理想論を掲げ、それを実行しようとしている。
……私には到底その域に立てそうにない。だからこそ、貴様が特別なのだと確信できるんだ」
「特別とか、そんな大層なもんじゃないですよ、オレは」
「そうか? だが、私だけではない。部隊の皆や副司令の評価は違うと思うぞ? そして貴様には、周りの人間にそう思わせるだけの何かが確かにある」
「そう言われても、自分じゃよく分かりませんけどね」
「案外、そんなものかも知れないな。まあ殊更に意識する必要はないが、気に留める位はして
おけ。何しろ貴様は色んな意味で目立つからな」
「了解です。ところで、大尉の戦う理由は何なんですか?」
「私か? ……私は、ある男に生きて会い続けるために、必死に戦っているな。そして、多くの軍人がそうであるように仲間を死なせない為に戦っている」
「そうですか。……ちなみに、その生きて会い続けたい人って、大尉の恋人ですか?」
「……恋人、か。まあ、現状では私の片想いだろうな。何しろ手強い競争相手が3人もいるからな」
「へえ、同時に4人に好かれるなんて凄いですね、その人」
……人の事言えないとか、聴こえた気がするがスルーだ、スルー。
「しかも全員、私の姉妹だから厄介な事この上ない」
「し、姉妹!? 大尉は四姉妹なんですか――って言うか、姉妹全員同じ人を好きになったんですか!?」
「ああ、お互い確認したわけではないが、見ていれば分かる。……揃いも揃って趣味の悪い姉妹でな」
「大尉が一番上なんですか?」
「……いや、上にひとり、姉がいる。姉は内務省、下のふたりとその男は帝国陸軍で衛士をしている」
「もしかして大尉、今回の作戦……」
「機密保持の関係上、直接は訊いていないが、リストを見る限り、一番下の妹の部隊が参加していたな」
帝国陸軍で衛士って事は、先陣切って前面上陸する陽動部隊、ウィスキー部隊だ!
「……そうですか。心配ですね」
「確かに心配だが、あの娘やその仲間達を信じるより他にできる事はない。私は私の任務に集中するだけだ。……まあ、私の部隊が作戦に参加している事を、妹が知らないのは唯一の救いだ。
あの娘はまだ若いからな。何も知らなければ余計な事に気を取られずに済む。……機密レベルの高いA-01部隊の所属で良かったなんて、初めて思った」
……作戦前にこういうしんみりした雰囲気になるのって、色々良くない気がする。何かマズイフラグが立ちそうって言うか。ちょっと話の流れを変えないと。
「……けど、大尉? 心配させない点では確かに良いかも知れませんけど、それってマズくないですか?」
「なに? どう言う意味だ?」
「その人は後方で妹さんのこと凄く心配すると思うんですよ。それって、心理的に影響大きいだろうから、妹さん、1歩か2歩はリードすると思いますよ。しかも、A-01の機密性の高さが災いして、その人、大尉が佐渡島にいる事を知らない筈ですから、大尉には不利な状況ですよ。
だから作戦が終わったら、早速何かアピールしないと!」
「……アピール、ねえ」
「そうですよ。任務の事は言えないにしても、間接的なアプローチで伝えるとか」
「……間接的、か。絶対無駄だな。あいつは希に見る鈍感野郎だからな」
「……ど、鈍感野郎、ですか?」
……何故か、その人に妙な親近感が沸いちまう。
「そうだ。間接的なアピールが通用する位なら、とっくに私たちの誰かと結ばれている筈なんだ。……まあ、うちの姉妹とあいつは幼馴染みと言う事もあって、お互い知り過ぎているだけに仕方がない部分もあるのだが」
「――お、幼馴染みですか!?」
「な、何だ、急に? 幼馴染みがそんなに珍しいのか?」
「あ、いや、実はオレの好きな娘も、幼馴染みなんです」
「なんだ、貴様もか!? いいか、幼馴染みはサインが見えにくいから、わかり易くアピールしろよ?」
「いや〜、その、オレが鈍感だったみたいで、手遅れでした」
「何だと!? ……と言う事は、貴様がその娘の好かれたのか!?」
「……まあ、自分の中にもそう言う気持ちがあったのに、それがそいつへの想いだって判らなくて。だから、子供の頃から同じ想いでいてくれた向こうの気持ちにも、ずっと気付いていやれなかったんです」
「……あんたに一瞬殺意を覚えたわ」
「――えっ? なんですか?」
「い、いえ、……何でもないわ――じゃなくて、何でもない!」
何でもないわ? それにさっきのよく聞こえなかったけど、大尉の言葉遣い、変だった気がするぞ。
「――とにかく! 今の話からすると、とりあえず互いの気持ちは伝わったようだな。……おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
「……参考までに訊くが、貴様はどうして相手の気持ちに気付いたんだ?」
……う〜ん、明確にキッカケって言えるのは、やっぱあれだろうな。
「一緒に温泉に入って、背中流してもらった時ですね」
「な、なにいっ!? そ、それはもちろん、お互い……裸でだろうな?」
「それは温泉ですから」
「……貴様の恋人、なかなか大胆だな。……うん、確かにそこまでやればいくら鈍感といえども」
「でも大尉は強化装備で慣れてるんだから、楽勝じゃないですか?」
「……ハァ〜〜〜、貴様は乙女心と言うものが全くわかってないな」
「――乙女心ッ!?」
に、似合わねぇ。大尉にも純夏にも全く似合ってねぇ。
「貴様の恋人がそこまでの勝負に出ざるを得なかった気持ちが、我が事のように理解できるな」
「ど、どうしてです?」
「いくら強化装備で羞恥心が麻痺していようが、好きな人の前で裸になるのは全く別の話なんだ!」
「す、すいません」
伊隅大尉の剣幕に、つい謝っちまった。
「おそらく私は、貴様の恋人と異常に話が合うはずだ。いや、絶対に合う!」
……って事は、オレも大尉の好きな人と話は合ったりすんのかな?
「とにかく! 貴様は絶対生きて帰って、その娘に今までの償いをする事! 死ぬ事は絶対に許さん!」
「了解! それにアイツと生きて帰るって『約束』してますから」
「……そう返されると何か腹が立つわ」
「………それじゃ、どうしろって言うんです?」
「フフフ、冗談だ」
この人、やっぱり速瀬中尉や宗像中尉の上に立つだけの事はある! オレに対する扱いの方向性が同じだ!
「――さて、長くなってしまったな。私は戻るが、貴様はどうする?」
「……もう少しここにいます」
「そうか。……この任務が終わって休暇が取れたら、早速温泉作戦を決行しようと思う」
「は! ご武運を!」
甲板を去っていく伊隅大尉を敬礼しながら見送る。……見も知らぬ伊隅大尉の幼馴染みの人。スッゴくビックリすると思うけど、自業自得と思って諦めて下さい。
「――タケル? 何してんの、こんなところで?」
「ハルか? その台詞、そっくりそのまま返すぞ」
伊隅大尉が行った後、しばらくしてハルがやって来た。
「アハハ、何か眠れなくて。やっぱり緊張してるのかな」
「それが自然だろ。オレも緊張してる」
「へぇ〜、天才衛士も緊張なんてするんだ」
「……一応、褒めてんだよな」
「もちろん。タケルの動きは本当に凄いよ。『白銀の閃光』の名は伊達じゃないよね」
「……その渾名は止めてくれ」
「なんで? カッコイイじゃない」
「そんなモン、付けられる方の身にもなれよ」
「速瀬中尉は喜びそうだけど?」
「……あの人と一緒にすんなよ」
「フ〜〜ン、そんな事言っても良いのかなぁ?」
人の悪い笑みを浮かべるハル。……確かに今のやり取りが速瀬中尉の耳に入ると厄介だ。
「ゲッ、今の無し」
「どうしよっかなぁ〜〜?」
「……要求は何だ、ハル?」
「潔い判断だね、タケル。さすが天才衛士。……それじゃあ、今度休みが取れた時、一日私に付き合ってもらうね」
「……了解だ」
「うん、よろしい♪」
そう言ってハルはオレの隣に腰掛ける。そうしてしばらく、無言のまま二人で佐渡島の方を見る。
「…………『凄乃皇弐型』って言ったっけ、あの強そうな新兵器の名前」
「ああ」
「……明日の作戦、上手く行って欲しいなあ」
「そうだな」
「……テストが成功して『凄乃皇弐型』が正式配備されたら、……弟たちは戦わなくて済むかな」
「……ハル」
「……身勝手でしょ、私って」
「そんな事ねえさ。大事なものは心の色んな場所に在って良いと思うし、大事なものは大事って事だけで順番なんて無くても良いとオレは思うぜ」
「……へぇ、意外と深い事言うんだね、タケル」
「意外は余計だ。まあ、これはあくまでオレの考えだから、参考程度に聞いといてくれ」
「うん、ありがとね、タケル。……さあて、そろそろ寝ておこうかな」
「ああ、それが良い」
「タケルもね。じゃないと誰かが起きてきて、その話に付き合う事になるよ?」
「そうだな。オレもう少ししたら寝るよ」
「そうしなさい。それじゃお休み、タケル」
「ああ、お休み、ハル」
甲板を去って行くハルを見送った後、オレはもう一度、佐渡島の方を見据える。明日の戦いを勝利で終わらせる事を自身に誓って。
――そして、後の歴史に『永き人類の反攻』の始まりとされる『甲21号作戦』が開始される。人類の『未来』を希望と共に拓くために――
――2001年12月25日(火)
出撃直前の機体のチェック中に、通信が入ってきた。
「――白銀ぇ〜。緊張で見落としなんてするんじゃないわよ〜」
「……そう言う速瀬中尉は大丈夫なんですか?」
「当ったり前でしょ。ルーキーのあんたとは違うのよ。で、どう? 初の実戦を前に緊張し過ぎて、お腹とか壊したりとか腰が抜けてるとか、何か面白い状態になってない?」
「……何で嬉しそうなんですか? そう言うのはないですよ」
「何だ、つまんない。……あんたって、本当につまらない男ねぇ」
「――もう水月ったら、なに言ってるの? 白銀少尉が困ってるでしょう?」
「だってさぁ、遥〜、ここらで何か白銀の弱みを握っておきたいじゃない?」
「仲間の弱みを握っても意味がないでしょう? ごめんなさい、白銀少尉。水月には私からちゃんと言っておくから」
「いえ、大丈夫ですよ。速瀬中尉はオレの緊張を解してくれようとしたって思っときます」
「そうよ、遥。白銀の言う通りだから説教は勘弁してね。ところで、さすがの白銀も初陣前は緊張するのねぇ?」
実際は『甲21号作戦』に参加している中で一番、実戦『経験』が多いんだけどなぁ。……でも、何でこんなに緊張してるって言うか、昂ぶってるんだろうな? 速瀬中尉が言ってるみたいに、初陣のルーキーじゃあるまいし。……ん? いや、そうか! そうだよ!!
「……そうか、初めてなんだ」
「「白銀(少尉)?」」
「――本当に、初めての『未来』の為の出撃なんだ」
オレの経験した実戦は、全てオルタネイティヴ5が発動した後のものだけ。本当の意味で、『未来』に繋がった戦いは無かった。けど、「今回」は違う。本当に『未来』を繋げる為の戦いなんだ。
湧き上がる様々な想い。その想いの全てを噛み締めるように呟いて、『未来』が手に届く場所にある事が堪らなく嬉しくて、オレは自分でも意識しないで微笑っていた。
「「……………………」」
「――あれ? 速瀬中尉、涼宮中尉!? 二人とも顔が真っ赤ですけど、大丈夫ですか!?」
「――ッ!!? な、何でも無いわよ!! と、とにかく、白銀! 私があんたに勝つまで、死ぬんじゃないわよっ!!」
「横暴ですねって、通信切れてるし。涼宮中尉、速瀬中尉大丈夫ですかね? 顔が赤いだけじゃなくて、何か様子も変ですし」
「………」
「涼宮中尉?」
「はいっ!? な、何かしら、白銀少尉!?」
「……だ、大丈夫なんですか、涼宮中尉?」
「だ、大丈夫。スゥ〜〜〜、ハァ〜〜〜、スゥ〜〜〜、ハァ〜〜〜。うん、大丈夫よ」
涼宮中尉の様子までおかしいぞ、おい。いきなり深呼吸するし、顔もまだ赤いまんまだし。
「……白銀少尉?」
「はい、何ですか?」
「――白銀少尉は、もう少し自分の事を理解してね?」
「は? えっと、どう言う意味ですか?」
「解らない?」
「ええ、さっぱり」
「つまり、あなたが周り人の目にどう映るかを考えてと言っているの。解ったかな?」
「はあ」
頷いてはみるものの、涼宮中尉がオレに対して何を言いたいのか、サッパリ解らない。……気付かない内に何かみっともない真似でもしてたかね、オレ?
「解りました。以後気を付けます、涼宮中尉」
「そうしてね。………そうじゃないと………」
「? 最後の方よく聞こえなかったんですけど」
「い、いえ、何でもないの! それより、もうすぐ作戦開始時刻だから、一度通信を切りますね!」
「あ、はい」
……やっぱり、二人の様子が変だよな。まあ、速瀬中尉も涼宮中尉も作戦に影響が出るようにはしないだろうけど、心配だな。
――結局、オレの心配は杞憂だったけど。作戦開始前の通信ではいつもの二人だったから。……ちなみに、あの時自然にオレが浮かべた表情が微笑っていたと判ったのは、後の事だった。しかも、とてつもなくビックリする事と一緒に。
9時00分、国連軌道爆撃艦隊の軌道爆撃を皮切りに、帝国連合艦隊による砲撃開始。――『甲21号作戦』、フェイズ1。
真野湾側から帝国海軍第17戦術機機甲戦隊スティングレイ隊の上陸地点確保後、ウィスキー部隊、上陸。――『甲21号作戦』、フェイズ2。
両津湾側からエコー部隊、上陸。共に上陸したA-01及び横浜基地選抜部隊「エインヘリヤル隊」は旧上新穂に南下。『凄乃皇弐型』の侵攻ラインを確保。――『甲21号作戦』、フェイズ3。
そして、帝国海軍小沢提督の宣言を以て、『甲21号作戦』はフェイズ4に移行する――
作戦開始より227分。それは唐突に起こった。地表を揺るがすセンサー測定限界を越える振動。測定限界を越えると言う事は、最低でも個体数が4万を越えている事を示している。
帝国と極東国連軍の弾薬備蓄の過半を費やし、ウィスキー隊の損耗率30%以上、エコー部隊の損耗率10%以上の戦況。優勢であった状況を容易く覆すかのような、驚異的な数の増援。ハイヴ周辺の各『門』から溢れ出すかの様に出現するBETAに、戦場で戦う多くの者達の心の奥底に絶望の陰りが生じ始めていた。
そんな中、『凄乃皇弐型』の攻撃開始地点に向け数個師団規模、数万のBETAが侵攻を開始する。健在の陽動部隊を無視して。
これに対し、ヴァルキリー0・神宮司少佐はHQに支援砲撃を要請。この支援攻撃のレーザーによる撃墜によって侵攻中のBETA群に100体を越える光線級・重光線級を確認。A-01、エインヘリヤル隊は防衛ラインまで即時撤退。そして撤退後、作戦指示が下る。
支援砲撃以前、敵のレーザー照射を地上部隊が受けていない事から、敵の狙いが『凄乃皇弐型』であると推定。その為、作戦の目的は『凄乃皇弐型』の攻撃開始地点に向かう敵本隊の光線級・重光線級の殲滅。
作戦内容はまずA-01、エインヘリヤル隊全機、峡谷の遮蔽物に隠れ主機を停止。この時A-01は敵方向に正対。エインヘリヤル隊は背を向ける。通信機は強化装備の受信のみ。起動タイミングはヴァルキリー・マムの指示に因る。対人探知能力の低い突撃級で構成された敵前衛は全て通過させ、弱点である後背をエインヘリヤル隊が砲撃、これを殲滅する。
そして、艦隊からの全力支援砲撃の重金属雲発生を合図に、A-01部隊は敵本隊に突撃。その時、防衛線からハイヴに向けて約4kmの一帯は、支援砲撃の対象外となる。この範囲からのレーザー照射は『凄乃皇弐型』を直撃するため、重光線級の確実な殲滅が求められる。また敵前衛殲滅後は、エインヘリヤル隊もA-01に合流する。
『凄乃皇弐型』は日本海海上をNOEで進攻中であり、本隊突撃から15分以内が正念場と言える。
「――ヴァルキリー・マムよりヴァルキリーズ。敵前衛、防衛線通過中――最後尾通過まで後90秒!」
突撃級の通過の振動が機体に伝わる。高まる緊張。
「――全機起動ッ!! 繰り返す――全機起動せよ!!」
覚醒する鋼の巨人たち。
「――エインヘリヤル隊各機、兵器使用自由ッ! 喰い放題だっ! 一匹残らず喰らい尽くせッ!!」
突撃級の群の無防備な後背を襲う劣化ウラン弾の雨霰。
「――ヴァルキリー・マムよりヴァルキリーズ、重金属雲発生! 繰り返す――重金属雲発生!!」
「――A-01、突撃するっ!!!」
『――了解ッ!!』
「武」を先頭にA-01が、敵本隊に突撃を開始する。その突撃に対し、BETAは光線級・重光線級の周辺に要塞級を中心に防壁を形成するかのように集結。これにより、光線級・重光線級の殲滅が困難な状況に陥る。更に時間の経過毎に集結するBETAの数が増え、状況は加速度的に悪化していく。
そんな中、まりもは事態の打開の為、素早く一つの命令を降した。
「――白銀ッ! 単機で敵を陽動しろ!! 我々は白銀が敵を引き付けたら、敵防壁を一気に突破し、光線級・重光線級を殲滅する!!」
『――!!?』
「――了解!」
まりもの命令に他の隊員が戸惑うが、武はすぐに命令に従い敵防壁に単機で突撃する。
「――全機散開して反転――要塞級が陽動にかかったら即時迂回突破だ!」
「そ、そんな!? 神宮司少佐、この状況じゃ白銀が孤立して「茜! 反転よっ!」でも、速瀬中尉!?」
「……涼宮。貴様の心配は無用だ。それよりも全員、良く見ておけ。――あれこそが、私達が、いやこれから全ての衛士が目指すべき高みだ」
――『生きる伝説』はこの日、この刻より幕を上げた――
「…………たけるさん、すごい…………」
「…………うん、すごいね…………」
壬姫と美琴の忘我の呟きが、全てを表しているような光景だった。
――地の底より湧き出る醜悪なる魔物の大群――
――それを白銀に輝く鎧を身に纏い、華麗にそして圧倒的な強さで討ち倒していく騎士の勇姿――
――まるで、神代の英雄譚の一幕のように、憧憬と勇気を奮い立たせる幻想的とも言える光景――
最高の性能を持つ戦術機、「武」。新OS、「XM3」。「ループ」によって蓄積された操縦技術と戦闘経験に加え、「天眼」と言う超抜能力。それらが、「全て」を受け容れた事に因る精神の安定により完全に噛み合い、武の『白銀の閃光』と呼ばれる程の力を更に進化させていた。
また、武が最も多く経験した戦闘は対BETA戦であり、現在の地球上で最も優れた対BETA戦闘のスペシャリストと言える。――正に武の独壇場だった。
「……敵の損耗率が……加速度……いえ、爆発的に増加っ!!」
「……す、凄い!! こ、これがタケルの本当の力」
「……まさか、ここまでとは」
祷子、晴子、美冴も眼前の光景に驚く以外ない。
「――うおおおおおおっ!!!」
要塞級が、要撃級が、戦車級の反応が次々に消えていく。一騎当千どころか、万騎不当と言うべき戦い振りだった。
「――陽動成功です! 要塞級の壁に穴が開きました!!」
「――全機反転ッ!! ――NOEで全力噴射ッ!!」
『――了解ッ!!』
祷子の報告にまりもは即座に命令を下し、A-01は武の陽動によって開いた活路へ突撃する。
「――重光線級を頼みます!!」
「まかせろ! 貴様もすぐ追い付いて来い!!」
「了解ッ!!」
そしてA-01は突破し終わった後、後続のエインヘリヤル隊と合流した武も重光線級狩りを開始した。
「……むぅ」
「如何なさいました、小沢提督?」
「いや、失礼した。恥ずかしながら、オルタネイティヴ第4計画直属部隊の働きに、思わず息を呑んでしまったのです。極秘任務部隊の実力、噂以上の物ですな」
「お褒めに預かり光栄ですが、A-01部隊及び横浜基地所属のエインヘリヤル隊の機体は、全て新OS搭載機です。この結果は当然ですし、それ以前に他の前線に回すべき支援砲撃をあの地域に集中させた上での戦績である事はお忘れなく」
「いやいや、それでも先行量産型でこの戦果は大したものです。新OSが全軍に行き渡った暁には、落命する将兵を減じる事も叶いましょう」
「……あのOSの発案者も提督と同じ事を言っていましたわ」
「む、新OSの発案は副指令ご自身なのでは?」
「……いえ、その者は今、あそこで戦っています」
「なんと!? ……もしやその者、先程の陽動で30体近い要塞級を単機で倒した衛士ですかな?」
「申し訳ありませんが提督、これ以上はお話できかねます。…………今日のところは」
「? いや、失礼した。その衛士もオルタネイティヴ4の機密と言う訳ですな」
「ご想像にお任せ致しますわ」
「……しかし、一度会ってみたいものですな、その者に。――この老骨の心すら、烈火の如く燃え滾らせる戦い振りを見せてくれた戦士に」
「………それなら、そう遠くない内に実現しますわよ」
ニヤリと笑って呟く夕呼。
「香月副指令?」
「失礼。なんでもありませんわ」
「――副指令、『凄乃皇弐型』最終シーケンスに入りました」
「わかったわ、ピアティフ。――涼宮、まりもたちはギリギリまで貼り付けておくわ。合図したら下げなさい」
「――了解」
「……いよいよですな。今作戦に於ける両軍将兵の挺身が意味あるものと成らん事を期待しますぞ」
「お任せ下さい、提督。人類がBETA如きに滅ぼされる種ではない証拠をお見せ致しますわ」
「――ヴァルキリー・マムよりヴァルキリーズ! 『凄乃皇弐型』は現在、砲撃準備態勢で最終コースを進攻中! 60秒後、艦隊による陽動砲撃後、予定通り『凄乃皇弐型』の砲撃は敢行される。砲撃開始地点の変更無し――90秒以内に被害想定地域より退去せよ!」
「――全員聞いたなっ! 即時反転し全速離脱だっ!!」
『――了解ッ!!』
「――『凄乃皇弐型』予定のコースを進攻中」
「――陽動砲撃の撃墜率30%」
「――BETA群依然進攻中」
「……重光線級、どうやら討ち漏らしが在ったようですな。しかし、この短時間に60体以上撃破したのだから、衛士を責められませんな」
「――『凄乃皇弐型』レーザー照射を受けています!! 照射源6ッ!! 最高出力まで後4秒ッ!!」
空を往く『凄乃皇弐型』に迫る絶望の光。だが、その絶望の光は、
『――!!!』
『ラザフォード場』によって歪曲させられ、『凄乃皇弐型』に届く事は無かった。
「――レーザー再照射ッ!! 照射源3ッ!!」
レーザーの第2波も『凄乃皇弐型』には届かない。
「――『ラザフォード場』歪曲率許容値以内。各部正常、異常無し」
「……さ、始めましょ」
「……はい」
夕呼の呼びかけに応え、純夏は荷電粒子砲を発射する。……人類の反撃の狼煙となる一撃を。『未来』の扉を切り拓く希望の光を。
放たれた荷電粒子砲は、射線上の地上のBETAを地表ごと薙ぎ払い、頑強な地上構造物をも一撃で粉砕した。
――ウワァァァァァァァァァッ!!!――
戦場の各所で湧き起こる歓声。涙を浮かべる者も少なくない。しかしそれは当然だった。
荷電粒子砲の一撃は、地表構造物と言うBETAによる征服の象徴を跡形も無く吹き飛ばした。だが吹き飛ばしたのはそれだけではない。戦場を支配し始めていた、いや「この世界」生きる人間の心のどこかに少なからず巣食ってしまう「絶望」や「諦め」をも、粉々にしたのだ。
ウィスキー全隊の損耗率は55%、エコー全隊の損耗率は37%に達し、全作戦艦艇の砲弾残量が20%を切って尚、士気はこれまでのBETA戦史上、最も高まっていると言っても過言ではなかった。
「――軌道上より、第6軌道降下兵団の降下を確認!」
爆音と共に、突入殻が地表で爆ぜる。荷電粒子砲の射線から外れていた小規模なBETA群もこれにより壊滅的な打撃を受けた。
――そして遂に、『甲21号作戦』は最終フェイズに移行する。
「――HQよりヴァルキリーズ及びエインヘリヤル隊。『凄乃皇弐型』第2射後、第6軌道降下兵団が『凄乃皇弐型』の直援位置に着き次第、侵入予定『門』へ移動。『凄乃皇弐型』第3射後、ハイヴ内部への侵入を開始して下さい」
『――了解!』
「――ヴァルキリー・マムより、ヴァルキリーズ。『凄乃皇弐型』の第2射まで120秒。直援座標を砲撃位置へ変更せよ」
「――『凄乃皇弐型』、荷電粒子砲発射シーケンスへ移行」
「――ヴァルキリー・マムよりヴァルキリーズ、『凄乃皇弐型』第2射10秒前!各機対衝撃閃光防御!」
再び放たれた荷電粒子砲は、佐渡島ハイヴの地表部に壊滅的なダメージを与える。そして、やって来た第6軌道降下兵団と入れ替わりに、A-01とエインヘリヤル隊は侵入予定『門』へと向かう。
「――タケルちゃん!」
「純夏!?」
その直前、「武」のモニターに秘匿回線の通信ウインドゥが開く。ウインドゥに映っているのは純夏だった。
「秘匿回線使って、どうしたんだ!? 何かトラブルか!?」
「えっ、違うよ、タケルちゃん。ほら、わたしの事は秘密だから、秘匿回線じゃないとダメでしょ? あっ、ちゃんと副指令の許可は貰ってるよ」
「何だ、驚かすなよな。で、何か用か?」
「……なんかそっけな〜い。もうちょっと愛のある反応を返してほしいよ」
「……あのな、今の状況を考えろっつーの」
「わかってるけどさぁ、そこは乙女心だよ〜」
「やっぱ、似合わねえ。……わかったわかった、次の機会にな」
「ぶぅ〜〜〜」
「それで? 何か話すことがあるんだろ?」
「……うん。どうしてもタケルちゃん言っときたい事があるの」
「言っときたい事? 何だよ?」
「タケルちゃんの帰り、待ってるから! それで帰って来たらわたしの熱いキスで迎えてあげる♪」
満面の笑顔の純夏。
「………」
対して、呆れ気味の武。
「ちょ、ちょっと、何でそこで黙っちゃうんだよーっ!?」
「……キスで迎えてあげるんじゃなくて、帰ってきた時、キスしてほしいの間違いじゃないのか、純夏?」
「へにゅぅっ!? そ、そんなこと……」
「そんな事? 続きはどうした?」
「……やっぱり、タケルちゃんは意地悪だよ」
「そうかよ。――それじゃ、その続きは帰ってから聞くよ」
「――うん! 絶対だよ!」
「おう、まかせとけ!」
武と純夏との通信が終わってすぐ、A-01及びエインヘリヤル隊は侵入予定『門』へ移動。『凄乃皇弐型』の第3射後、予定通りハイヴ侵入を開始する。
A-01及びエインヘリヤル隊のハイヴ侵入後、再びBETAの師団規模以上の増援が『凄乃皇弐型』に向けて出現するも、荷電粒子砲の圧倒的な威力の前に撃滅される。
そして、A-01及びエインヘリヤル隊がハイヴ侵入を開始してから約50分が経過した時、BETAが突然不可解な行動を取り出す。種属の別無くこちらへ一切の攻撃行動を起こさずに一心不乱に佐渡島を離脱しようとし始めたのだ。
この不可解な事態から推測できる事は一つだった。それは即ち、突入部隊が反応炉の破壊に成功したと言う事。
佐渡島で戦う全将兵は離脱するBETAを殲滅しながら待つこと40分近く、ハイヴ突入隊が地上に戻ってきた。A-01は一人として欠ける事無く、エインヘリヤル隊も生還率7割と言うハイヴ突入を果たした部隊としては驚異的な数字と人類史上初の反応炉破壊と言う偉業を携えて。
――ウワァァァァァァァッ!!!――
『凄乃皇弐型』による地上構造物破壊の時以上の歓声が佐渡島を震わせる。
1967年より始まったBETA大戦。34年と言う永き刻を経て、人類はようやくハイヴを一つ、陥落させるに至った。それは、『未来』への小さな、けれど確かな一歩であった。
――そして、人類史上初の偉業「反応炉破壊」を成し遂げた衛士の名を、世界は知る。そう、白銀武の名を。………主に、某マッドな物理学者の企みで。
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