マブラヴ 未来への咆哮 episode:20 「優しい明日やすらぎを求めて」 <りょくちゃさん>



夕呼先生の執務室を出た後、ピアティフ中尉がオレの後を追いかけて来て、今日のA-01の予定を教えてくれた。今日は午前、午後ともシミュレーター演習との事。その事を聞いたオレは強化装備に着換えるためにドレッシングルームに向かっている。
ところで、ピアティフ中尉は大丈夫だろうか? オレと話している間、顔が終始赤かったから、医務室行くよう勧めておいたけど。まあ、夕呼先生の副官なんだし、色々と大変なんだろうな。

「……おかえり、武。特別任務、ご苦労」

と、そんな事を考えながらドレッシングルームの扉に手をかけたオレの背後から、慧の声が聞こえた。

「おう、ただいま。って、何だってそんな偉そうなんだよ、慧」

慧の言葉に応えながら振り返ると、

「………」

そこには何故か目を見開いて呆然とした慧の顔があった。

「……ああ、この髪か?」

慧が驚いてるのは、多分この髪の色だろう。さて、どうしたもんか。何か上手い理由は、……特別任務中の事故とかにしとくか。

「ちょっと特別任務中に事故に遭ってな。まあ、髪の色が変わったってだけで、他の所に異常は無いから、あんまり気にしないでくれると助かる。
……ん? そう言や髪の色が変わってるのに、よく後姿を見ただけでオレって判ったな、慧」

「……髪の色が変わったくらいで、武を見間違えたりしない」

「? 今、何て言ったんだ、って、慧? 何か顔が赤いぞ? 大丈夫か?」

「!!!」
「どわぁっ!!?」


と、顔を赤くした慧に歩み寄った瞬間オレの視界が反転する。って、何故にいきなりSスペース.Tトルネード.Aアヤミネ!!?
綺麗な流線型の軌跡を描き、オレの体は成す術もなく廊下に叩き付けられるかに思われたが、

「あっ!?」
「うおっ!?」

回転させられていたオレの体のバランスが崩れ、オレと慧の体が縺れて倒れる。その結果、

――むにゅん

そんな擬音が脳内に響いてきそうな感触を顔面に感じる。なんつーかこの感触、ついこの間感じたばかりな気がする。

「「………」」

傍から見れば、オレが慧を押し倒して胸に顔を埋めているようにしか見えない今の状態。ヤヴァイ。こんな所を誰かに見られたら――

「彩峰!! 抜け駆けは許さ――」
「彩峰!! 勝手な行動は――」
「彩峰さん、ずるいです――」
「彩峰さん、自分だけ先に――」


………おう、じーざす。何でこのタイミングで、冥夜や千鶴、壬姫、美琴がやって来るんだよっ!?

『……何をしているの(だ)(ですか)、タケル/武/たけるさん?』

「……いや、これは不可抗力ってヤツでな? 断じて、オレの意図した状況じゃないぞ?」

『………』

オレの背中に刺さる無言の視線が痛過ぎる。と、とにかくこの体勢のままじゃまずい。とっとと起き上がって、みんなの誤解を解かねえとな。このままじゃ生きた心地がしねえ。

「……あっ」

オレが起き上がる時、慧が熱っぽくそれでいてどこか名残惜しそうな声を小さく漏らす。途端倍増する背後の重圧。その重圧に振り返りたくない気持ちを抑え込んで、立ち上がったオレは振り返る。

「ただいま、冥夜、千鶴、壬姫、美琴。……それにしても、よくオレだって判ったな? 髪、こんななってんのに」

オレに向けられた重圧への緩衝材として髪の事を持ち出しながら、四人と向かい合う。……目付きが怖過ぎるぞ。

「髪の色が変わったくらいで、そなたを見間違え……」
「そのくらい元分隊長としては当然……」
「たけるさんはたけるさんなんだから、判り……」
「タケルが今日の朝戻ってくるって、副指令から聞いて……」


と、何故か四人とも顔を真っ赤にして言葉を途切れさせた。どうしたんだ、一体? けど、なんか重圧が治まったみたいだから、これはチャンスだよな?

「で、さっきの事なんだがな。アレは事故だ。オレに下心は一切無い。――信じてくれるよな?」

「う、うむ!」「え、ええ!」「は、はい!」「う、うん!」

よぉし! 四人はオレの真摯な眼差しを受けて勢い良く頷いてくれた。……まあ、思いっきり目を逸らされてるんで、本当に信じてもらえたかには疑問が残るけど。
とは言え、このチャンスを逃すわけにはいかねえ。ここは三十六計あるのみ。

「それじゃ、さっさと強化装備に着換えて、シミュレータールームに行こうぜ」

そう言って、一先ずドレッシングルームに逃げ込もうとしたオレの背中に、新たな声が掛けられた。

「白銀、戻っていたのね」

「はい、神宮司少佐!」

再び振り返ったオレは既に強化装備に着換えたまりもに敬礼をする。……それにしても、どうしてみんな一目でオレって判るんだろうな? 慣れてないせいか、オレだって未だに鏡に映った自分に驚くって言うのに。

「……その髪はどうしたの?」

「特別任務中の事故で……、でも、髪の色が変わっただけで他に異常は無いので、心配要りません」

「………」

そこでまりもは無言でオレの目の前まで来ると、

「心配するなって言われても無理よ。――あなたはいつも無茶ばかりするんだから」

オレの髪を優しく梳きながらそう言った。

「…………え?」
『―――』


まりもの予想だにしなかった言葉と行動に、冥夜に千鶴、慧、壬姫、美琴は言葉を失い、オレは呆けるしかなかった。

「……私は先に行く。貴様らも速やかに強化装備に着換え、シミュレータールームに来い」

『りょ、了解!』

優しい表情から一転、厳しい上官の表情になったまりもはそう言い残して、行ってしまう。
で、取り残された形のオレ達の間に漂う深海を思わせる重苦しい空気と、オレを襲う射抜くような剣呑な視線の猛威。

「……我らの知らぬ間に、随分と少佐と親しくなったものだな、タケル?」
「……何だか凄く良い雰囲気だったわね?」
「……まるで、夫婦」
「……たけるさん、どうしてなのか教えてくれますよね?」
「……ボクもすっごく気になるよ、タケル?」


「いや、オレにも心当たりはサッパリなんだが。……どうしたんだろうな、まりも?」
『まりも!!?』

……ここでまりもを呼び捨てにするなんて、オレも突然の事に動揺していたんだろうが、迂闊としか言いようがない。
オレに向けられる烈しさを増したみんなの眼光は、最早歴戦の戦士すら道を譲りそうなレベルだ。

「……とにかくさ、もう時間もない事だし、さっさと強化装備に着換えて、シミュレータールームへ行こうぜ?」

「……確かに、今は時間が無いな」
「……そうね。訓練に遅れる訳にはいかないわ」
「……尋問は、後で出来る」
「……そうですね〜。たっぷり時間はありますもんね〜」
「……そう言えばタケルって、副指令の事も下の名前で呼んでなかった?」


先延ばしは所詮先延ばし以上の物にならないと、スンゴイ笑顔で教えてくれる冥夜、千鶴、慧、壬姫、美琴。
……あと、美琴、ここに来て余計な事に気付かないでくれ。オレに圧し掛かる重圧が、更にレベルアップしちまっただろ?

『……それじゃあ(では)また後で(な)(ね)、タケル/武/たけるさん』

「……ああ、また後でな」

力無く呟いて、五人の背中を見送る。そして、オレも強化装備に着換えるため、ドレッシングルームに入る。……何か訓練前から疲労困憊って気分だ。だけど、あいつらとのこう言う遣り取りも、掛け替えの無い物なんだと実感してる自分がいる。
…………………………ごめん、少しだけ言い過ぎた。流石にさっきみたいな雰囲気は勘弁して欲しい。
そして、強化装備に着替え終わったオレがドレッシングルームから出ると、強化装備姿のハルと涼宮に鉢合わせた。

「よう、ハル、涼宮」

「えっと、タケル、だよね? どうしたの、その髪?」

「……えっ、あ、あなた、し、白銀なの?」

ハルは一目でオレと気付いたようだが、涼宮は半信半疑と言った感じだ。それにしても、やっぱ横浜基地じゃ風邪でも流行ってんのかな? 二人とも顔が赤い。

「髪は特別任務中の事故でな。まあ、それ以外は変わりないから、あんま気にしないでくれ」

「……気にするなって、検査とかキチンとしたの? もし何か異常があったら、それが原因で隊を危険に晒すことがあるかもしれないんだよ? そこの所解ってるの、白銀?」

「ああ、ちゃんと向こうで医者に診てもらったよ。髪の色以外は何の問題も無いってさ」

「……そう。なら良いけど」

「悪いな、涼宮。何か心配掛けちまったみたいで」

「なっ!? べ、別に心配した訳じゃっ!?」

涼宮はオレの言葉に突っ掛かって来ようとしたが、何故かすぐに目を逸らす。……何かみんな、様子がおかしいよな? どういう事なんだろうな、一体?

「でもタケル、何か雰囲気変わったよね?」

と、いつの間にかオレのすぐ傍に立っていたハルが話しかけてくる。

「まあ、髪真っ白になっちまったからなぁ〜」

「う〜〜ん、そう言う意味で言ったんじゃないんだけどね」

「? じゃあ、どういう意味なんだ?」

「わかんないなら、気にしなくて良いよ。………それよりも、ちょっと腕借りるね、タケル♪」
「お、おい、ハル?」

いきなりハルがオレの右腕に抱き付いてくる。……強化装備越しにも感じる柔らかな感触が、混乱するオレに現状を伝えている。

「は、晴子?」

ハルの突然の行動に、その様子を見ていた涼宮も戸惑いを隠せないようだ。

「うんうん♪ 良い感じ♪」

そんなオレと涼宮とは対照的にご満悦と言った感じのハル。

「いや、いきなり何してんだよ、ハル?」

「別に良いじゃない♪ 減る物じゃないんだし」

オレが訊いたのは、何でいきなり腕を組んだりしてるんだ?って事なんだが。

「……それとも、私にこういう事されるの迷惑?」

………そのしおらしい上目遣いは反則だろ?

「いや、そんな事はねえけど」

「じゃ、良いよね♪」

ハルの笑顔に敗北を悟る。これがハルの常套手段だって分かっていても、オレに勝ち目など無かった事を痛感する。
……まあ、ハルの言う通り、別に減るもんがある訳じゃないし良いか? なんて思ってたんだが。

『………タケル/武/たけるさん?』

背後から聞こえた声に、減るもんがある事に思い至った。……神経が磨り減るよな、この状況は。
で、この後も大変だった。

「アハハ、タケルの腕って、もう一本あるんだよ?」

そう言ってハルが、オレを睨む冥夜、千鶴、慧、壬姫、美琴に新たな爆弾を投下するわ。

「そこです!」
「させないよ!」


壬姫と美琴が目を妖しく輝かせてオレの左腕を狙うわ。

「………」
「はいはい♪ それじゃどうぞ、彩峰」

慧は何らかの合意を得てハルから右腕を譲られるわ。

「よ、止さぬか、珠瀬、鎧衣! そ、そのような羨まし、……もとい、不謹慎な事!」
「あ、あなたもよ、彩峰! 元分隊長として、隊の風紀を乱す事を看過出来ないわ!」


冥夜は壬姫と美琴を千鶴は慧をオレから引き剥がそうとして、文字通りオレを中心にバトルを繰り広げるわ。
思い起こしても、これだけシミュレータールームに辿り着くのが待ち遠しかった事は無かったんじゃなかろうか? って感じの騒動だった。……ああ、疲れたぜ。

「特別任務中の事故と聞いたが、本当に大事ないのか、白銀?」

「はい、伊隅大尉」

「ふ〜〜ん、その頭、集合の時の目印とかに使えそうね、白銀?」

「そりゃないですよ、速瀬中尉」

「本当に大丈夫なの、白銀少尉?」

「大丈夫ですよ、涼宮中尉」

「ふむ、白銀? 頭髪以外はどうなんだ?」

「ノーコメントです、宗像中尉」

「もし体に何か異常を感じたらすぐに言ってね、白銀少尉?」

「ありがとうございます、風間少尉」

シミュレータールームに入ると、オレの髪に関しては先に来ていたまりもから聞いてたのか、先任が労いの言葉を掛けてくれた。……2人ほど労ってなかったが。
それにしても、伊隅大尉達ですら少し顔が赤い。みんな風邪って言うのは、いくら何でもおかし過ぎるし。だとしたら、…………ダメだ、分かんねえ! けど体調がどうって訳じゃないみたいだから、大丈夫なんだろうな。
ちなみに、髪以外の実態は何故か悠陽に知られていたりする。この事に関してオレは悠陽に追及出来なかった。……やっぱ見られたのかなぁ?

「――全員、揃ったな。それでは演習を開始する」
『了解!』

任官後のシミュレーター演習は、実戦を想定したオートプログラムで原則部隊行動で行われる。これは部隊の有機的な連携の為に、衛士全員が互いの癖や傾向を把握しておかなくちゃいけないからだ。

「全員、搭乗ッ!」
『了解!』

演習の説明や質疑応答が終わり、CPである涼宮中尉以外の全員が、起動したシミュレーターに搭乗する。今日の演習に使用されるのは、ヴォールク・03だ。1週間後の作戦に合わせて、ハイヴ内戦闘を想定した演習は必須だからな。

「今回の演習からXM3搭載機の起動が再現可能となった。前回の結果を下回った場合、基礎訓練から鍛え直すからな! 心して演習に当たれ!」
『りょ、了解!』

……明らかに顔色が悪くなってる伊隅大尉を始めとした先任。どんだけ鬼教官だったんだろうな、まりもは?

「部隊編成を確認する。突撃前衛ストーム・バンガードはB小隊。速瀬以下、白銀、御剣、彩峰。後衛右翼ライト・ウイングは、A小隊。伊隅、榊、珠瀬、鎧衣。後衛左翼レフト・ウイングはC小隊。宗像以下、風間、涼宮、柏木。戦域管制は涼宮中尉。コールはヴァルキリー・マム」

『了解!』

「最後に私だが、戦況に応じて各隊のいずれとも連携を取る。コールはヴァルキリー0だ」

「―――ヴァルキリー・マムよりヴァルキリー0、作戦開始前5秒前」

「ヴァルキリー0、了解。全機起動! 演習ではなく実戦のつもりで、各員最善を尽くせ!」

『了解!』

そして、午前の演習が始まった。午前の演習は6回やって、その6回とも反応炉の破壊に成功した。ちなみに、演習の個人評価は、毎回反応炉の破壊を遂行したオレがトップ、次が6回とも最終的にオレと2機連携エレメント組む事になったまりもだった。

「………」
「……あの、速瀬中尉?」

午前の演習も終わり、オレ達はPXで昼飯を食っているんだけど。

「これくらいで勝ったなんて思うんじゃないわよ、白銀ぇ〜」

速瀬中尉に闘志満々で睨まれてる。何気に涼宮も睨んでくるし。久し振りのおばちゃんの飯も味が半分くらい判んねえよ。

「流石は「白銀の閃光シルバー・ライトニング」と言った所だな、白銀。ハッキリ言って、速瀬中尉の完敗ですね」

「うっさいわよ、宗像!」

……煽んないで下さい、宗像中尉。

「何が「白銀の閃光シルバー・ライトニング」よ! そんなの専用機があるからよ! 判ってんの、白銀!?」

「……それじゃあ、速瀬中尉が『武』に搭乗しますか?」

「それは遠慮しとくわ。って言うかあんなピーキーな暴れ馬を乗リこなせるような変態、あんただけよ!」

「へ、変態って」

そ、そこまで言われる事かよっ!? て言うか、何でみんな力強く頷いてんだっ!?

「あ〜〜あ、私にも専用機があれば、「群青の人魚姫ディープブルー・マーメイド」なんて華麗な二つ名が付く事間違い無しなのに」

「……じゃあ、速瀬中尉の専用機は海神A-6系統って事ですね」

変態呼ばわりされた仕返しのつもりで言ったんだが、日に油を注いだだけだった。

「し・ろ・が・ねぇ〜」

「いやだって、「人魚姫」ってことは、乗機が水中戦闘出来なきゃ変ですよね!?」

「うるさい!! 死ねぇ〜〜〜!!!」

オレに殆ど本気のチョークリーパーを掛けてくる速瀬中尉。

「ギヴ、ギヴですって、速瀬中尉!」

タップしても腕が緩む気配がない。つうか、マジ苦しいって。……ええい、こうなったら手段を選んでられねえ。

「あの、速瀬中尉? 背中が非常に気持ち良いん「!!?」ゲホッ、やっ、やっと外れた」

オレの言葉に速瀬中尉は胸を抱くようにしながらオレから離れる。そうして解放されるオレの首。あ〜〜、空気が旨え。

「こ、このセクハラ若白髪っ!!」
「タケル!! 水月ちゃんに何したんだいっ!? 飯抜かれたいのかいっ!?」
「ゲッ、勘弁してよ、おばちゃん!?」
『………』

まあ、旨い空気の代償に、速瀬中尉に不名誉な渾名付けられるわ、おばちゃんに怒鳴られるわ、みんなに白い目で見られるわ、散々な事になったけど。

「……ところで、タケル? 先程の件に付いて詳しい話を聞かせてもらおうか?」
「……そうよね。午後の演習まで時間もある事だし」


「……えっと、そうだ! オレ、ゲティとハキムに呼ばれて――」

オレは何とかこの場から逃げ出そうとするが、寸での所で拘束される。

「……逃がさない」
「……覚悟は良いですか〜、たけるさん」


「いや、オレにも分かんないんだって!?」

「……けどタケル? さっきの演習でタケルと少佐の2機連携エレメント、すっごく息合ってたよね? 何でなのかなぁ〜?」
「……それは私も気になるなぁ〜。教えてくれる、タケル?」


確かに演習の時、まるで何年も2機連携エレメント組んでいたみたいにまりもと連携できたけど、どうしてかなんてオレの方が知りたいぞ?
………結局、聞かれても答え様の無い尋問というのは、神経が磨り減るだけなんだと言う事を学んだだけだった。
そして精神的に多大な疲労を背負って臨んだ午後の演習は、最新の「AC-21」と言う直球な名称のデータで行われた。

「副指令からの命令で、このデータによる作戦成功率を100%にする事が我々の当面の目標だ。分かったな? それでは午後の演習を開始する! 全員搭乗ッ!」

午後の演習は、フェイズ4ハイヴの実戦モードの記録を、人類初の反応炉破壊を始まりとして、毎回塗り替えた。この調子なら「21号作戦」に間に合いそうだ。
個人評価は午前と変わらず。……速瀬中尉が地団駄踏んで悔しがってた。みっともない真似をするなって、まりもに頭はたかれたけど。で、オレが睨まれた。勿論涼宮にも。……理不尽だよな?
そして、引き続いて晩飯の後も尋問を受けた。しかも午後の演習の時、まりもがまたオレを名前で呼んだせいか、昼飯の時よりもキツイ尋問だった。………理不尽過ぎる。何で、まりもには何にも聞かないんだよ?
この後、夕呼先生の執務室で今日はもう純夏と霞は休んだと聞いたオレは、自室のベットに倒れ込んだ。……明日はオレに優しい日である事を願って。


――2001年12月19日(水)

――ユサユサ


「おはよう」

霞に揺さぶられて、オレの意識が覚醒する。

「おはよう、かす……み? あれ、霞?」

だが、ついさっきまでオレを起こそうとオレの体を揺さぶっていた筈の霞の姿が無い。

「ん?」
――ピコッ

と、ドアが僅かに開いていて、その隙間から覗くウサ耳。オレが気付いた事に気付いたのか、ウサ耳はすぐに引っ込んで、続いて感じる人が走り去って行く気配。

「プ、プロジェクション起こし、か? ……もしかして、霞に避けられてる、オレ?」

取り残されたオレは霞を追う事も出来ず、何故かみんなに先んじてオレを呼びに来たハルが来るまで呆然としていた。
今日の訓練は、午前は昨日と同じシミュレータ演習。そして午後、オレ達はハンガーに立っていた。

「――午後の演習は実機を使用して行う。シミュレーターによる訓練も大事だが、実機の勘を鈍らせるわけには行かないからな。それで部隊編成だが、……一先ず先任対新人とする」

「流石、少佐!! 話が判る!!」
「あれだけ熱視線を送っていればな。さて、私はどちらに付こうか?」

「……言いたくはありませんが、戦力比を考えれば先任の方が適当かと」

「新人にハンデをやらないのか、伊隅?」

「異次元の化け物が一匹いますからね。ハンデは必要ないでしょう」

えっ、オレって遂に人外指定!?

「大尉、そんな弱気じゃダメです! 新人に現実の厳しさを教えるのが先任の役目です!」

「速瀬中尉、現実を見ましょう。現在のA-01のトップ1は白銀です。中尉は惜しくもトップ3」

「黙ってなさい、宗像! 現実はね、私が白銀に教えてやるのよ! 白銀、シミュレーターと実機の違い、たっぷり教えてやるわ!」

と、意気軒昂の速瀬中尉だったが、

「…………………………」

午後の演習が終わった時には燃え尽きていた。オレの髪のように真っ白に。

「ところで鎧衣少尉? 白銀少尉の機動、シミュレーターの時より段違いに良くなっていたけれど……」

「それはですね、タケルって『天眼』が使えるから、実機の時の方が凄いんですよ、風間少尉」

「なるほど。噂に名高い『天眼』もシミュレーターでは無用ですものね」

「実機の時は私の狙撃も滅多に当たりませんし」

「まあ、そうなの、珠瀬少尉?」

「それにしても、『武』なんて凄い戦術機に加えて、『天眼』なんて凄い能力持ってるんだから、タケルを誰も撃墜できない訳ですよね」

「本当ね、柏木少尉。けれど頼もしい限りだわ」

「………クククク。そうよ、そうすれば良いのよ」

と和やかな会話を断ち切るように、地の底から響いてきたような不気味な呟きが聞こえた。……燃え尽きていた速瀬中尉から。

「白銀ぇーー!! 私に『天眼』を教えなさい!!」

「えっ!?」

いきなりの事にオレは目が点。だが、速瀬中尉はそんなオレに構わず詰め寄って来る。

「えっ!? じゃないわよっ!! そもそも『武』なんてとんでもない戦術機だけに飽き足らず、『天眼』保持者!? 詐欺よ!! 独占禁止法違反よ!! と言う訳で、私に『天眼』を教えなさい!! さあ教えろ、やれ教えろ!!」

「いや、教えろって言われても……」

「嫌っだっての、白銀っ!?」

速瀬中尉の目が険しくなる。……あと、何気にみんな耳を澄ましてるっぽい。まあ、『天眼』は衛士の極みの能力とか言われてるからなぁ。気になるのは解る。けどなぁ。

「嫌とかじゃなくて、オレも気付いたら使えるようになってただけで、どうやったら使えるようになるかは解らないんですよ」

「……役に立たないわねぇ〜、あんた」

「ひ、ひどっ!」

「それでも、何かコツとか無いの!?」

「コツ、ですか? ………見るんじゃなくて、感じる、かな?」
「……あんた、どこのドラゴンよ!?」

「そう言われても、言葉で伝えられるようなモンじゃないし。勘弁して下さいよ、速瀬中尉」

「……しょうがないわねぇ〜。勘弁したげるから感謝なさい、白銀」

「ありがとうございます、速瀬中尉」

………あれ、なんでオレ、お礼言ってんだろ? オレ、別に何も悪い事してないよな? なのにこの状況って、理不尽じゃねえ?
納得できないオレを置き去りにして、まりもがこの日の解散を告げる。……結局、考えても無駄な気がしてきたんで、さっさとPXに向かったが。
そして晩飯を食い終わったオレは、純夏と霞に会いに行くためにB19Fに下りたんだが。

「………」

何か背後からめっちゃ視線を感じる。そう言や、上でも凄い数の視線を感じたが。まあ、オレの歳で真っ白の髪って目立つからな。……尻に熱い視線を感じたのは気のせいだろう。

――バッ

不意に振り返るも、そこには誰の姿もない。……気のせいか? そう思い歩き出すとまた視線を感じる。

――バッ

もう一度不意に振り返ると、

「……『頭隠してアホ毛隠さず』か」

通路の陰から覗く一房の特徴的なアホ毛。……何やってんだ純夏のヤツ? もしかして隠れてるつもりか?
そう言う訳で今度は、首を後ろに向けたまま歩き出す。と、オレの足音を聞き付けた純夏が顔を出し、オレと目が合う。

「「………」」

しばし無言で見つめ合うオレと純夏。そして、先に動いたのは果たしてどちらだったのか。

「待ちやがれ、純夏ぁーーーー!!」
「うわぁーーーーん、追って来ないでぇーーーー!!」


熾烈な追いかけっこ開始。って訳でもなく、純夏の運動能力は別に普通だったんで、すぐに追いつき拘束!!

――むにゅ
「「――あ」」

期せずして重なるオレと純夏の声。逃げる純夏を後ろから捕獲したオレの手の中に純夏の胸が納まっていた。そして、俄かに震え出す純夏の体。

「……落ち着くんだ、純夏君。これは不幸な事故で、不可抗力なんだ。だから――」
「――タケルちゃんのぉぉぉ、スケベェーーーーーー!!!」
「アポロォォォォォォッ!!?」


と言う訳で、オレが星になってる間に純夏に逃げられた。……オレ、純夏にも避けられてる?
それでダメージの残る体を引き摺って相談しに来たのに、

「セクハラは程々にしとくのよ、白銀?」

「グハッ!? つーか、物凄く愉しそうですね、先生」

夕呼先生に、猫に嬲られる鼠の様に弄られた。……鬼だ、この人。

「鑑と社は照れてるだけよ。捕まえるのは難しいだろうけど、追いかけるだけ追いかけときなさい。……そうそう、白銀? 昨日、私に報告しに来るように言っといたけど、報告の必要なくなったんでもう良いわ」

「……はあ。でも本当に良いんですか?」

夕呼先生の唐突な言葉に戸惑いながら尋ね返す。純夏の状況は、先生がしっかり把握しとかなきゃいけない事の筈なのに。

「良いのよ。あんたはとにかく時間が空いたら、鑑と社を探し歩きなさい」

「……分かりました。それじゃ早速、純夏と霞、探してきます」

「ええ、行ってらっしゃ〜い♪」

思えばこの時の夕呼先生の笑顔の意味に気付くべきだった。ちっとも見付かんねえんだよ、二人とも!
必死に探した末、時間も無いんで部屋に戻る途中でようやく思い出した。純夏も霞をこっちの動きはお見通しなんだよ! あいつらが逃げ回ってる内は接触のしようがねえじゃんか!? ……クソッ、あの笑顔はそう言う意味かっ!!?
結局、捜索は徒労に終わり、消灯時間になって自室に帰り着いたオレは、昨日と同じようにベットに倒れ込む。……明日こそ、オレに優しい日であってくれっ!


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