マブラヴ 未来への咆哮 episode:2 「ここから始まる物語」 <ギアスさん>



「……ここは?」

意識を取り戻したオレが最初に認識したのは、見た事のある天井と薬品の臭いだ。

「……医務室か? 何で、オレ、こんな所に?」

どうにも、頭が朦朧として、記憶がハッキリとしない。……寝起きだからか?

「……気付いたか?」

オレが意識を取り戻した事に、気付いた誰かがベットの所にやって来る。

「……オレは、何で?」

声をかけてきた人間が誰かも、判然としない。

「いきなり絶叫したかと思えば、気絶して倒れたんだ。……全く、これが貴様が『特別』である理由ではあるまいな?」

『特別』? 何の事だよ? ……ダメだ、頭が全然回んねえ。

「とにかく、意識を取り戻したのなら、起きろ、白銀武」

そうだ、オレは白銀武だよ。で、アンタは誰だって、………何だ、まりもじゃねえか。

「本来なら、分隊長の榊に案内させる所だが、この状況では仕方ない。私が貴様の基地の案内を務めよう。着いて来い、白銀」

オレが医務室で寝ていたって事は、また、心配掛けちまったてことか。何か素っ気無い様子なのも、頷けるぜ。

「おい、白銀。まだ、起きれないか?」

「いや、もう起きれるぜ、まりも

「――は?」

今日、初対面の人間に呼び捨て、更にはかなり親愛の篭った響きで呼ばれたまりもは、呆けてしまう。ちなみに、ここで言う「親愛」は、「親密な愛情」である。

「反省してる。だから、許してくれよ」

呆けた表情のまりもの顔に、武は顔を寄せ、いつもするような情熱的なキスをする。

「!? !? !? !?」

武は思う存分、まりもの口腔内を味わってから唇を離す。そして、気付いた事をストレートに口に出してしまう。

「何か、今日のまりもの肌、若いよな。何か5年くらい、若返った感じがすんぞ?」

その言葉を引き鉄として、まりもの体が震え出す。

「お、おい、まりも、どうした? ………んんっ!?」

何でまりも、野戦服着てんだろ? オレもそうだけど、ここ何年かは衛士装備か、軍服以外着た事無い筈なのに。そう言や、野戦服着たまりもを見るのは、衛士訓練校以来、……あ゛っ!!

「……5年、くらい、若返った、だとぉ?」

うげっ、まりもの体からドス黒いオーラが出てんぞっ!? ヤベえ、ヤバすぎるっ!? まりもの内に眠る『あれ』が目を覚ます前兆だぞ、これはっ!? ど、どうすんだよっ、オレッ!?

「余計な、お世話だっ、この痴漢野郎がぁーーーーーー!!!」
「マッド・ドォォォォォォッグッ!!!」

この日、白銀武は星になりかけ、横浜基地に『狂犬』が再び現れたのであった。


就寝時間前の空き時間に、夕呼先生を訪ねてB19Fに下りてきた。で、夕呼先生の執務室に入って開口一番、

「ずいぶん、愉快な顔に整形してもらったわね、白銀」

「……ほっといて下さい」

これだ。『狂犬』が発動して、マジ、ヤバかったってのに。……つっても、自業自得だってのは、オレが一番理解してんだが。

「御剣に抱きつくわ、まりもにキスするわ。あんたを『特別』だって推薦したあたしの顔を潰すつもりぃ?」

「……事情が有んですよ」

「事情ねぇ。単に、ムラムラ来ただけじゃないのぉ? そう言えば、あたしにも顔赤くしてたわよね。言っとくけど、あたしは、年下は対象範囲外よ?」

「違いますし、知ってますよ。とにかく、オレの話、聞いてもらえませんか?」

「……良いわ。話してみなさい」

オレの中に複数の記憶がある事を話す。
冥夜と、千鶴と、慧と、壬姫と結ばれ、移民船に乗せたか、一緒に地球に残ったかで分岐する8つの記憶。そして、207の誰とも結ばれず、その、夕呼先生とのアレを経験した未来で、まりもと結ばれた記憶。計9つの記憶が在る事を。
とは言え、結ばれた相手の違いだけで大筋は殆ど変わらず、1つの記憶の流れに5人に対する想いが、併存しているような感覚である事。その事を受け容れてしまっている自分に驚いている事。
また、結ばれた相手と別れた後の記憶が無い事、つまり、移民船が出発した後、若しくは、ある戦闘を最後に、記憶が途絶えている事を。

「…………どういう事なんですかね、これは?」

「さあ? あたしに分かる訳ないでしょ」

「……そりゃ、そうでしょうけど」

「まあ、仮説くらいなら立てられるわよ。一つ目。他の平行世界のあんたの記憶があんたに流入している。きっかけは、その世界で最もあんたと関わりが深かった人間との接触じゃないかしら」

「エヴェレット解釈でしたっけ?」

「そうよ、良く覚えてたわね、偉い偉い。で、二つ目。あんたは、この世界で人生を何度もやり直している。その度に違う女に手を出しているって所かしら。で、記憶の再生条件は、一つ目と同じ。」

「うわ、オレって、最低な野郎じゃないっすか、それじゃ」

「そうね」

断言されたよ!?

「まあ、仮説なんだし、事実とは限んないわよ?」

しかも、投げやりっ!?

「な〜に、ショック受けた顔してんのよ?」

「……いや、別に」

「それなら、あたしが納得行くまで、調べてあげましょうか?」
「イエ、イイデス」

即答しておく。……そうじゃないと解剖されかねないし。

「大体、興味深い現象である事は確かだけど、要は、あんたの女性問題じゃない。あたしのやる気が出ると思う?」

「いえ、全然」

確かに夕呼先生の言う通りだな。要は、オレがあいつらと、どう接するかって事だもんな。

「まあ、まりもが年下趣味って事が分かったのは収穫ね。からかいのネタが増えたわ。それにしても、まりもが今まで男と上手くいかなかったのは、歳下じゃなかったからなのねぇ」

「いや、それは違いますよ。まりも、結構甘えたがりで、普段の「頼れるお姉さん」のイメージで見てた野郎は、そのギャップに肩透かし喰らって離れてくって言って……」

ヤベ、つい、口、滑らしちまった。まりもが、夕呼先生には、絶対知られたくない事って言ってた記憶が。

「ふ〜〜ん、そうなの」

うわ、弱味ゲットって顔に書いてあるかのような笑顔だ。……まりも、正直、すまん。

「さ、話が終わったんなら戻んなさい。今日の事考えたら、明日から大変よぉ?」

「いや、まだ、話、有るんですけど?」

「まだぁ? くだらない事だったら、叩き出すわよ?」

「大丈夫ですよ。まあ、オルタネイティヴ4の成功の役には立たないと思いますけどね」

「叩き出してイイ?」

「とにかく、聞いて下さいよ、先生。……オルタネイティヴ5の後の事なんですから」

「!? ……話しなさい」

「はい」

先生の表情が真剣な物になる。そして、オレは、自分の記憶の中に在る絶望の記憶を語った。


移民船団の出発と共に、G弾の集中投入を基幹戦略とした『バビロン作戦』が発動した。
国連極東方面軍は、日本帝国軍と共同して、佐渡島ハイヴ「甲21号目標」攻略戦に参加。――武率いる207小隊も、この戦闘が初陣となる。何とか『死の8分』を越え、辛うじて全員が生き延びた。
日本帝国側の強い意向により、G弾の投入は最終手段とされたこの戦いは、最初こそ、人類側の優位に進んでいたが、ハイヴ突入部隊が潜行記録を更新した時から形勢が逆転する。
予測されていた佐渡島ハイヴのBETAの戦力が、5倍近くあった事(逆算しても2001年には、予測の3〜4倍)。また、新たに確認されたBETAの「縦坑シャフト」と「横坑ドリフト」を無視する行動により戦局は混乱し、帝国軍と国連極東方面軍は佐渡島より撤退する。
結局、G弾が投入され、佐渡島は地図から消え失せる事となった。
『バビロン作戦』において、最も重要なのはスピードであり、19日間と言うハイヴ間の情報伝播速度を念頭に置いての戦力展開が求められており、「甲21号目標」の攻略が終わったのと同時に、「甲20号目標」の攻略がスタートした。
撤退した帝国軍と極東方面軍の発言力は小さくなり、「甲20号目標」攻略戦は、最初からG弾が投入され、「甲21号目標」攻略戦に比べ、遥かに少ない戦力の損耗で勝利した。それは、他のハイヴ攻略戦においても同様であった。
「甲20号目標」攻略戦が終了した直後、横浜基地が壊滅した事が知らされる。
佐渡島ハイヴに所属していたと思われる数万のBETAが、大深度地下を進行し、横浜基地を襲撃したのだ。
この時、横浜基地司令はパウル・ラダビノッドではなく、米国寄りの官僚気質な人物であった。そして、『バビロン作戦』後の基地の利用価値に固執し、基地の放棄を遅らせ、BETAの反応炉への侵入を許してしまう。その結果、多数のBETAと残存部隊を巻き添えに、横浜基地はCODE:XYZにより自爆、壊滅する。……横浜基地は、瓦礫すら残らなかった。
横浜基地に進行したBETAの残りは日本海を渡り、一番近いハイヴを目指すが、大陸で展開されていた戦力に残らず殲滅される。これにより、情報の伝播を防げたとして、更に『バビロン作戦』は進む。
そして遂に、『オリジナルハイヴ』攻略戦が火蓋を切って落とされる。G弾の絶大なる威力から、米国の発言力は、かつて無いほど強まっており、『オリジナルハイヴ』攻略戦は、米軍単体での作戦となった。米軍の全戦力の八割を投入する『バビロン作戦』最大の攻略戦である。
『バビロン作戦』後の米国の確固たる地位の確立と『い号標的アトリエ』の確保を目的として、意気揚々と『オリジナルハイヴ』に侵攻する米軍。……だが、この時より、人類の深く長い絶望が始まる。
今までの戦い同様、ハイヴ上層に壊滅的ダメージを与える筈のG弾が、「地表構造物モニュメント」上部に開いた「ベント」から発生した力場フィールドにより無効化されたのだ。
予想外の事態に、恐慌に陥る米軍。そこに侵攻を開始するBETA群。始まる戦闘。だが、事態は更なる絶望を呼ぶ。前線の要請に従い、宇宙軍により軌道上から投下される対レーザーAL弾を、光線級・重光線級がまるで判別しているかのように撃墜しないのだ。この事により、光線級・重光線級の脅威が、戦場を支配する。
更に、展開していた米軍を包囲する様な形で、突然BETA群が出現する。今までのBETAでは、絶対有り得ない筈の伏兵に、展開されていた米軍は完全に瓦解する。その後、この場で起こったのは、BETAによる米軍の完全殲滅であった。
G弾の無効化。AL弾に対する対応。単純ではあるものの、BETAによる戦術の行使。これらが人類に与えた衝撃は、計り知れなかった。
そして、始まるBETAの再度侵攻。……人類にそれを押し止める力は無かった。
ユーラシアは再度、BETAの支配域に戻り、次に地続きであるアフリカ連合AUが、ドーバー海峡しか隔てるものの無いEUが、アジア圏の大東亜連合が、そして、日本帝国がBETAに侵攻され、人類の敗走は無情にも続く。
人類に残されたのは、北米・南米・オーストラリアだけであった。人類はどうしようもない絶望に支配されてしまう。だが更に、人類を深い絶望に沈める事実が判明する。
移民船団の反応消失。太陽系を出るどころか、火星軌道付近において、反応が消えたと言うのだ。状況から、火星のBETAにより撃沈させられたとしか思えない。
人類には最早希望は無く、出来る事は滅亡の日を少しでも伸ばす事だけであった。
それでも、軍は人類を守る為に戦い続ける。その先に滅亡しか無かったとしても。そんな状況で、もはや『国』と言う垣根は必要無く、『人類軍』が発足する。 武達も、日本防衛戦に参加し、北米に撤退後は、『人類軍』に所属を移す。……この時点で、207小隊は、武を含め半数しか残っていなかった。
戦いは続く。アラスカから攻めて来るBETAと戦いながら、人類はどんどん南下して行く。そして、長い苦闘の末、南米すらも放棄する事になった時、武にとって最も辛い別れが来る。
生き残った人類をオーストラリアに退避させる船団を逃がす為、戦う『人類軍』戦術機部隊。そして、最後の船を守る為、その船に乗る最愛の男とその子供を守る為、一人の女性が自決装置を作動させる。『S-11』の爆発の光。それが、今、武の中で最も長い記憶の最後の光景だ。


「……オレの記憶は、ここまでです」

「……そう」

夕呼先生は厳しい表情で、椅子に深々と身を預ける。何かを考え込むように目を閉じて。

「………」

オレは夕呼先生が口を開くのを待つ。ふと、手に痛みを感じて見てみると、掌に血が滲んでいた。どうも、話している間、手に力を込めすぎてたらしい。

「……白銀」

「……はい」

「BETAの戦術情報伝播モデルは、今、前提となっている複合ピラミッド型構造じゃなくて、オリジナルハイヴを頂点とした箒型構造ね?」

「ええ、そう言われてました」

『バビロン作戦』後の情報分析により明らかになった情報だ。横浜基地襲撃の顛末が、その事を裏付けてる。

「そして、あんたの話から察するに、おそらく『反応炉』は、エネルギー生成機関であると同時に、通信システムとメインコンピュータの役割を持つと推測される。……そうでしょ?」

「ええ、そうです」

オレの話から、あれだけの犠牲の末に辿り着いた情報を導き出すなんて、やっぱ、この人は、人類の為になくちゃならない存在だ。

「それと、白銀。あんたの話の中では、BETAはG物質の兵器転用をしてないみたいだけど、それは確か?」

「……はい。BETAにとっちゃ、オレ達人類は、大事なG物質を使ってまで、対処する存在じゃなかったみたいです」
ギリリ!

言って、歯を食いしばる。くそったれっ! オレ達人類は、最後までBETAに無礼なめられていたんだっ!!

「……確かに、直接オルタネイティヴ4に関る情報じゃなかったけど、物凄く価値のある情報だわ。……正直、聞かなければ、良かったって思うくらいね

「先生?」

最後の方、何か呟いてたみたいだけど、良く聞こえない。

「……何でもないわ。とにかく、あんたの齎した情報は、これからの対BETA戦略において、非常に重要なものである事は確かよ。喜びなさい? あたしにとってのあんたの価値、大分上がったわよ?」

「いや、それは正直、微妙なんすけど……」

「何よ、褒めてんのよ?」

「……結果を何も出していない、今の状況じゃ喜べませんよ」

そうだ、オレの齎した情報の価値が高いのが分かるが、まだ、何一つ、結果を出していねえんだから。

「それは、これからのあんた次第よ。地球と全人類、護るんでしょ?」

「……そうですね」

でも、正直、今朝までのオレの気持ちとは、大分変わっちまってる。
地球と全人類を護るって、大元の目標は変わってない。ただ、その根元が変わった。いや、はっきりと認識したって言うべきか。
オレは、冥夜の、千鶴の、慧の、壬姫の、まりもの為に、未来を繋げてえんだ。……むちゃくちゃ個人的な理由だ。けどそれが、未来を切り拓く力になるって、オレは信じてる。いや、あの絶望的な戦いの中で、オレはそれを知った筈だ。
勿論、オレだけの力じゃダメだ。今を生きる人達のそんな力が集まって、BETAを倒し未来を繋ぐ、そんな凄え力になるんだ。
今この時も世界じゃ、皆、戦ってる。だから、オレは、オレにしかできない事をするんだ。……今度こそ、なのかは分からねえが、オレ達はBETAに勝利して、未来を掴むんだっ!!

「先生、頼みがあるんですけど、いいですか?」

「頼み? 良いわよ、言ってみなさい。情報提供の御褒美に、特別に聞いたげるわ」

「オレは『この世界』の人間じゃない事を、前提に聞いて下さい。オレは『この世界』の人間じゃない事で、『この世界』に無い発想で、戦術機を動かしてたんですけど、まりもの発案で、オレの機動を他の衛士にも出来る様にしようとした事があったんです」

「あんたの機動を? あんた、そんなに凄腕だったの? まあ、話を聞いてた限りじゃ、結構長い事生きてたみたいだし、それなりの腕だったんでしょうけど」

「……国連軍の、人類軍のエースなんて呼ばれてましたよ。……何にも、護れてませんでしたけどね」

「……口挟んで悪かったわね。話、続けなさい」

「ハード面をどうにかする余裕なんて欠片もなかったんで、ソフト面、つまり、新OSの開発を試みたんですが、開発が難航して、結局、頓挫しました。その時、まりもが言ってたんです。夕呼先生なら、『こんなの簡単よ〜。こんなのに梃子摺るなんて、だらしないわね〜』なんて言いながら、新OSを完成させてただろうって」

「……まりものヤツ、あたしを何だと思ってんのかしら。で、白銀、あんたの頼みって言うのは」

「オレの機動を、誰にでも再現できる新OSの開発をお願いしたいんです」

「……大きく出たわね。あんた、自分の操縦技術に、それだけ自信が有るの?」

「……BETAに対して、オレの機動が有効だったのは間違い無いです。オレがエースなんて呼ばれたのも、そのおかげですし」

「ふぅん?」

「前線の戦力の強化は、先生にとっても、マイナスにはならないでしょう?」

「…………分かったわ。その頼み、聞いたげる。で、どんな方向性で、そのOSは造ったらいいのよ?」

夕呼先生に、未来で開発しようとしたOSの構想と、開発に難航した理由を話す。

「要は、操作の簡略化と機動制御のパターン化。で、問題は並列処理速度と、操縦練度って訳ね」

「そうなります。……出来そうですか?」

「ええ、すぐに出来るわよ?」

「す、すぐぅ!?」

いや、夕呼先生がいくら天才だからって、すぐってのは無理だろ!?

「ちょうどいいモノが在るのよ。違う目的で作ってた、試作段階のモノだけど」

「じゃ、じゃあ、何でそれを今まで使わなかったんですか!?」

「だって、誰も戦術機に使いたいって言わなかったしぃ? あたしの守備範囲はもっとマクロな所だしぃ?」

「……と、とにかく、出来るんですね?」

「ええ。けど、その前にあんたの操縦技術が、機動概念がどれほどのモノか、テストしてからよ?」

「……そりゃ、当然ですよね」

オレが示してるのは、言葉だけだからな。でも、テストしてくれるって事は、嘘とは思ってないって事だ。先生が、オレの言葉を嘘だと思わない根拠って、何だ?

「それじゃ、今日のとこは帰んなさい。そう言えば、あんた、エースって呼ばれるくらい凄腕なのよね。訓練校から始めるの無しにしとく? 人材を遊ばせておく余裕は無いんだし」

「いえ、訓練校から始めます。……あいつらを強くしたいですから」

「へえ、愛故に?」

「……自分の為ですよ。あいつらが死ぬとこ、もう、見たくないですから」

「あっそ」

「甘い事、言ってんのは分かってますよ。でも、あいつらに、オレがしてやれる事はそれくらいだから」

「あら、誰も喰べないの?」

「……あいつらを護れなかったオレに、そんな資格はありませんよ。それに、先生の立てた仮説のどっちが正しかったとしても、ここに居るあいつらとオレの記憶の中に居るあいつらは、『同じ』でも『違う』んです。そんなの、『あいつら』に対して、失礼じゃないですか」

「……そう。辛いわよ?」

「……覚悟の上です」

「なら、あたしから言う事なんて無いわね。じゃあ、テストの日程が決まったら呼ぶから」

「はい、分かりました」

そして、オレが夕呼先生の執務室から出ようとしたら、

「あ、白銀、ちょっと待ちなさい」

「? 何ですか、先せ――」
ゴリッ!
「はっ!?」

オレの眉間に、今日突き付けられた拳銃の銃口が押し当てられる。

「ゆ、夕呼先生!?」

「あんた、ここであたしの顔見て顔赤くしてたけど、あれってどういう事か説明してくれない?」

「えっ、い、いや、べ、別に、な、何でも、な、ないですよ!? ちょ、ちょっと、混乱してて――」
「この距離なら、射撃訓練受けてないあたしでも、あんたの脳みそ、ブチ撒けれるわよ?」

マ、マジだ、この人、マジだっ!! 正直に言わなかったら、この人は、引き鉄を間違い無く引くっ!!なんか、知んないけど、嘘は見破られるみたいだし!! オレ、絶体絶命のピンチだぁ!!

「そ、その、あの時、オ、オレと、夕呼先生が、そ、その」
「とっとと、言いなさいよ。 この銃の引き鉄は、相当軽いわよ?」

「夕呼先生とイタしてた記憶が在った訳でっ!!」

「………」

無言にならないで下さいよっ!? メ、メッチャ、怖えぇぇぇぇっ!!

「……恋人になった訳じゃないわよね?」

「その通りですっ!! 一度きりでありましたっ!!」

「………………」

さっきよりも長いよ、先生の無言がっ!? オ、オレ、ここで終わりなのかっ!?

チャ。
「……戻んなさい、白銀」

「……へ?」

た、助かったのか、オレ?

「そ、それじゃ、し、失礼します」

「――白銀」
「はっ、はひっ!?」

「――忘れなさい」
「りょ、了解っ!!」

転がるように、夕呼の執務室を辞する武。それを見送って、夕呼は椅子に腰を下ろす。

「……ったく、『あたし』じゃないとは言え、『あたし』とした事が」

盛大に溜息を吐く。

「オルタネイティヴ4を成功させなきゃいけない理由が増えたわね。……あたしのプライドに賭けて」

夕呼の気焔が、かつてないほど燃え盛る。

「あたしは、天才、香月夕呼よっ!! あたしの辞書に『失敗』の二文字は無いのよっ!!」

――この日から、人類の未来を切り拓く為の物語が始まる。


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