マブラヴ 未来への咆哮 episode:15 「想いの行方」 <もっこすさん>
「――故あって決起し、立場を異にする諸君らと対峙しているが、我らの目的は戦闘ではない。諸君らが無法にも連れ去ろうとしている我らが殿下を、お迎えにあがったのだ。
いささか一方的ではあるが、諸君らに只今から60分間の休戦を申し入れる。なおこの休戦は、煌武院悠陽殿下のご尊名に懸けて履行されるものである。我々からそれを破る事は有り得ない。
その間、現在置かれている状況、諸君らが我が国に対し行っている行為の当否を冷静に熟慮し、現実的で誠実な対応を取られんことを切に願う。
60分後、再び全回線にて呼びかける。返答無き場合、我らは必要と思われる全ての手段を以て事態の収拾を図る。そう心得られよ。――以上」
沙霧さんからの休戦の通告を、ウォーケン少佐、月詠さん、まりも、三人の部隊指揮官の協議の結果、受ける事に決まった。
悠陽は『武』から降りて休んでる。米軍はポジションを維持で、オレ達207小隊は悠陽の警護って事で、戦術機を降りている。歩兵の襲撃に備えてって事だが、将軍の名の元の言葉を、日本軍人が覆す事はない。つまり、沙霧さんが歩兵を使って、悠陽を奪いに来る事は無い。
そして、斯衛の3人組も悠陽の警護の為に降りてる事から考えれば、……訓練兵であるオレ達の休息ってところか。ウォーケン少佐って、優秀なんだな。隊の細かいトコまで目を届かせてる。
「……後30分、か」
沙霧さんからの通信から、およそ30分経った。30分後には、戦闘が始まる。
この30分、一人で色々考えた。……「答え」は出たと思う。けど、オレはその「答え」を貫けるのか? ……貫かなきゃいけない。オレに選び取れる「道」は、今、それ以外無いんだから。
「………………クソ」
だってのに、何で震えてるんだ、オレは!! 覚悟は、決まってる筈だろうがっ!! ………チクショウッ!! 止まれよ、震えっ!!
「……フ〜〜ッ、……フ〜〜ッ!」
震えを抑え込むように、荒く深呼吸をする。……震えは止まったけど、心の中はガタガタだ。どうしようもなく、苦しくて、辛くて、……だから、無性にみんなの顔を見たくなった。
最強の衛士? 「白銀の閃光」? ……笑わせるぜ。みんなも色々事情や現実を背負ってるのに、それをオレは知ってるのに、……みんなに縋ろうとしてるんだ。情けねえよ。
……けど、赦してくれ。今回だけは、オレは、……自分の「戦う理由」を確かめなきゃ、「答え」を貫けそうにねえんだ。
「……千鶴、そっち行くから撃つなよ」
「……白銀、何やってるのよ」
先ず、一番近い位置に居た千鶴に逢う。
「いや、……初めての実戦だろ? ちょっと落ち着かなくてさ。歩いて気ぃ紛らわしてる」
内心を欠片を表に出さないよう細心の注意を払いながら、普段のオレを装う。……こんな状況だからこそ、騙し切れる筈だ。
「そう」
「大丈夫か? 相当参ってるみたいだけど」
「さっき栄養剤と興奮剤を打ったわ。……白銀は、大丈夫そうね」
「ん、まあな。ああ、栄養剤はともかく、興奮剤は程々にしとけよ」
「……殿下のご様子はどうなの?」
「……実は重度の加速度病だ。この騒ぎの心労と睡眠不足が、症状を悪化させてる。多少休んだくらいじゃ、どうにもならない」
「……ごめんなさい。聞いちゃいけない情報だったわ」
ブリーフィングじゃ伏せられてたからな。機密なんだろうけど、分からずに悶々としてるよりは良いだろうさ。……まりもにゃ怒られそうだけど。
「……で? 何か話があるんじゃないの?」
「ん、いや、特には……」
……単純に、顔を見たかっただけなんだ、千鶴の顔を。声を聞きたかったんだ、千鶴の声を。
「……あなたが私のところに来た理由、当ててみましょうか? ……親の仇を目の前にして、いつ私が暴走するとも限らない。……だから釘を刺しに来た。違う?」
「……ハズレ、残念だったな」
「間があったわ」
「オレの予想外の答えだったからな。千鶴が隊のみんなを危険に曝すような暴走をするなんて
、考え付きもしなかった」
「……じゃあ、何しに来たの?」
「千鶴の顔を見に来ただけだ。……けど、今、オレがここに居ると落ち着けないみたいだな。……悪かった。オレ、行くわ」
「……あ」
別れ際、千鶴の温もりを確かめるように頭を軽く撫でて、オレは千鶴の居る場所を離れた。
――ガサッ
「――!?」
「――オレだ、撃つなよ、慧!? ……撃つなよ」
「……武、何しに来たの?」
「ん、まあ、なんだ、ブラブラしてる」
「……余裕、あるね」
「……無えよ、そんなモン。逃げ回ってるだけって言っても初めての実戦だぞ? 慧はどうよ? 身体、大丈夫か?」
「…………殿下は?」
「あれ、オレ、オマエの事を聞いたよな? ……分かったよ。殿下は、重度の加速度病だ。強化装備無しで実戦機動の連続だったからな」
「……どういう事? ブリーフィングでは伏せられてた」
「機密事項だからだろうな。でも知ってた方が色々やり易いだろ?」
「……今は、どうなの?」
「容態は安定してるらしいけど、小一時間の休憩じゃ回復は見込めないな。……オレが側にいても看病も碌に出来ないから意味ねえし」
「……だから、ブラブラしてるんだ?」
「何て言うか、落ち着かなくてな」
「……ホント、余裕あるね。……他人を構う余裕、私にはない」
「……そっか。付き合わせて、悪かったな」
慧と沙霧さんの関係、そして、沙霧さんが近くに居るこの状況で、慧の気持ちを考えれば慧の言葉も当然だ。……これ以上は、慧の負担が増えるだけだな。
「……本当はさ、ただ慧の顔、見たかっただけなんだ。――じゃあな」
「…………」
別れ際、慧の温もりを確かめるように頭を軽く撫でて、オレは慧の居る場所を離れた。
「――訓練兵を出撃させるなんて、極東国連軍の人手不足は相当深刻ね」
――ん? 誰の声だ?
「あなたも災難だったわね」
「……あ、いえ」
壬姫の声だ。壬姫と誰が喋ってるんだ?
「私もね、まさか人間相手の作戦に駆り出されるなんて、思ってもみなかったわ」
……米軍の衛士か。交代で休憩してるんだったな。……何か出て行く雰囲気じゃないし、二人の話が終わるまで待ってよう。
その米軍の女性衛士、イルマ・テスレフ少尉と壬姫の話は、全ての戦いが終わった後、彼女の祖国フィンランドに壬姫を招待すること、そして、それまでお互い絶対死なないと言う約束が交わされて、終わった。
「…………」
分かってた事だけど、誰にも戦う為の譲れない理由が、どうしても護りたいものが在る。イルマ少尉にも、ウォーケン少佐にも、沙霧さんにも、……そして、オレにも。
「……あれ、たけるさん? どうしたの?」
「……よう、壬姫。ちょっと気晴らしにウロウロしててな。そしたら壬姫の声が聞こえたから」
「えっ? ……もしかしてずっと見てたの?」
「……ごめん。何か声かけ難くてな」
「え? 別に謝ることじゃないですよ〜」
「さっきの少尉さん、立派な人だったよな」
「あ……うん……」
「約束、守らなきゃな」
「……っく……ぅ…っく………」
「壬姫、どうした?」
突然泣き出した壬姫に慌てる。オレ、何かまずい事言ったのか?
「……自分の命も危ないのに……私のことも気遣って……励ましてくれて……自分の国が無くなっちゃって……家族や…死んじゃったお父さんのために戦ってるのに……フィンランドを取り戻すために……戦ってるのに……なのに……私のパパが……あの人達を巻き込んじゃったのかもしれないんだよ」
「……壬姫」
「パパはいつも言ってた。……日本を守るためには……米軍の力が必要だって」
「……壬姫、オヤジさんの言う事は間違っちゃいない。日本と米国の関係に限った事じゃなくて、BETAを倒してこの星を守るために、人類はもっと力を合わせなきゃいけないとオレは思う」
「……うん」
「難しくて、大変な仕事だ。この前少し会っただけだけど、オレはオヤジさんが自分の出来る事をしてる人だって信じてる。だから、壬姫もオヤジさんを信じろ。壬姫が信じる事がオヤジさんの何よりの力になる筈だ」
「……わかりました、たけるさん。私、パパの事、信じます! ……だって、私のたった一人のパパの事なんだから」
オヤジさんが今の状況を生み出した事に関わっているかもしれないって言う疑念が、晴れた訳じゃないだろう。壬姫の顔を見れば分かる。でも、これ以上オレに言える事はない。
「……そろそろ、オレ行くわ。……生きて、帰ろうな」
「……うん」
別れ際、壬姫の温もりを確かめるように頭を軽く撫でて、オレは壬姫の居る場所を離れた。
「あっ、タケル〜〜。こっちこっち」
「美琴、坑鬱剤打ち過ぎてねえか? ムダに明る過ぎだ」
「そうかなー? いつも通りだと思うけど?」
「……オレはそれを問題にしたつもりなんだが」
「タケルは……大丈夫みたいだね。さすが、タケル!」
「……美琴、あまり無理すんな」
「……え? そ、そんなことないよ〜〜! そりゃあ疲れてないと言ったらウソになるけどさ」
「明るく振舞う事は悪い事じゃない。けど、今は好きなだけ疲れた顔してろ。オレがいるからって無理するな」
「む、無理はしてないよ」
「……そうか。じゃあ、オレ戻るわ」
「――え? も、もう行っちゃうの!?」
「一応、オマエの顔も見れたし、このままじゃ美琴の休憩になりそうにないからな。……じゃあな」
そう言って、この場を離れようとするオレの背中に美琴の声が掛かる。
「タケル、待って! ……せっかくだからさ、もう少し話そうよ」
「無理しないって約束するならいいぞ」
「……うん、わかった」
「で、なんだって無理して明るく振舞おうとしたんだ?」
「……ほら、タケルはさ、殿下を乗せてるでしょ? だからボク達より責任が大きい分、疲れてると思って、さ」
「そうか。けど、殿下の命を預かってるのはここに居る全員だろ? 気を遣ってもらったのは嬉しいけど、そう言う意味じゃみんな同じなんだから、気にすんなよ」
「うん。……ねえタケル。ホントは聞いちゃいけないんだろうけど、ボク、殿下が心配だよ」
「……ブリーフィングでは伏せられたけど、殿下は重度の加速度病だ」
「――タケル! それ、ボクに言っちゃだめだよ!!」
「よくわからない状態でモヤモヤ心配してるより、美琴も楽だろ?」
「……でも!」
「おまえらに知っていてもらった方が、こっちもやり易いし安心だ。それに、もう聞いちゃったんだからさ、話したオレも聞いた美琴も同罪だ」
「……わかったよ。それで、殿下の具合は?」
「強化装備無しで、ぶっ通しの実戦機動だったからな。今の休憩じゃ回復は見込めない。……この後の作戦は、厳しくなる」
「……頑張らなきゃいけないね、ボク達」
「そうだな。……みんなで横浜基地に帰ろう」
「うん。……タケル、ありがとう」
「ん? 何だよ、いきなり?」
「タケルが居てくれて良かった」
「――オレも、みんなと居れて良かったと思ってる。美琴、ありがとうな」
「え、あはははは。タ、タケルにそんな風に言われると、ボク、照れちゃうよ〜〜」
いつもの美琴の笑顔だ。……オレの好きな美琴の笑顔だ。
「……オレ、そろそろ行くわ」
「うん、わかった。引き留めてごめんね」
「じゃあな。ちゃんと休めよ」
「タケル?」
別れ際、美琴の温もりを確かめるように頭を軽く撫でて、オレは美琴の居る場所を離れた。
深い夜の闇に閉ざされた森の中を、冥夜を捜して歩く。
「――白銀武」
と、その闇の向こうからオレに声が掛かる。そして、その声の主は、立ち止まったオレの前に姿を現す。
「神代少尉? ……何か御用ですか?」
悠陽の看護は交代したのか?
「……捜したぞ。休憩とは言え、この状況でうろつき回るとは、国連軍の程度が知れるな」
「……すみません」
「まあいい、ついて来い。――殿下がお呼びだ」
「? 殿下が?」
「急げ、白銀武!」
「わかりました」
神代少尉の後を追う。……冥夜を捜す暇が無くなっちまったな。
「――殿下、白銀武を連れて参りました」
「ご苦労でした。下がりなさい」
「は」
……よかった。さっきより調子が良さそうだ。顔色も少し良くなってるし。横になっている分、回復が早いのかもしれないな。
「――白銀、ここへ」
「はい。失礼します」
横になってる悠陽の正面に座る。
「このまま話す非礼を許すが良い。……身を起こすと、少々辛い故」
「いえ。オレは非礼ばっかりなんで、気にしないで下さい」
「……フフ、本当にそなたは面白い男ですね」
「スミマセン」
「謝るのはこちらの方です。私が不甲斐ないばかりに、そなたには要らぬ苦労をかけましたね」
「……任務ですから。殿下は気にしないで下さい。それで、殿下? どんな御用でしょうか?」
「……神代から状況は聞きました。時間が来る前に、そなたと少し話がしたかったのです」
「わかりました。オレで良ければ」
「……そなたはどうなのです? 疲れていますか?」
「……キツイ事はキツイですけど、まあ、大丈夫です」
「そうですか。……それにしても、その黒い強化装備と言い、卓越した操縦技術と言い、そして、あの『武』なる機体と言い、月詠の名を訊くまで、そなたが訓練兵だとは思いもよりませんでした」
「あ、紛らわしいですよね。訓練兵の男性用の白い強化装備が切れてて、間に合わせなんですよ、これ。おかげで、訓練過程に落とされた衛士に見えるみたいで、正規兵によくからかわれました」
まあ、あのトライアル以後はそんな事も無くなったけど。
「まあ、それは難儀な事ですね。……されど、戦術機機動における突出した発想と柔軟性、国連軍正規兵とて、そなたに比肩する者は希でしょう。鎧衣がそなたの機体を推した由、得心しました」
「……ありがとうございます」
「礼を言わねばならぬのは私です。――そなたに心よりの感謝を」
「当然の事なんで、気にしないで下さい」
「……当然、ですか?」
「はい」
「……本来ならばそなたの技能、人類の仇敵BETAを打ち滅ばすために、用いられるべきもの。そなたのみならず、此度の争乱に用いられている全ての将兵、物資も然り。……それが、このような形で失われていくのは、残念なことだとは思いませんか?」
「……ええ。オレもそう思います」
――BETAがいる限り、人類に未来はない。誰もがそれを理解していて、目指す目的も望む「未来」も同じはずなのに、誰もが自分の選び取れる最良の「選択」をしているのに、どうして、その「道」は交わらないんだろうか?
……それが、ただ苦しくて、辛いんだ。
「……けど、オレに出来る事は、オレ自身の「答え」を全力で貫く事だけで、そしてみんな、そうなんじゃないかって、思います。……スイマセン。答えになってないですね」
「……いえ。そなたの今の言葉に、強き意志を感じました。そなたの強き意志、私も見習わなければなりませんね。……そなたと話せて良かった」
「……オレも、殿下と話せて良かったです」
「それでは休息中に大儀でした。下がるがよい」
「……はい。失礼します」
そう言って立ち上がり、ここを離れる前に悠陽の顔をちゃんと見ようとして、悠陽と目が合った。……一瞬、気を抜いたせいで、オレの内心を映した目が。
「――待ちなさい、白銀!」
慌てて立ち去ろうとしたオレの背中に、悠陽の強い声が掛かる。
「……話は、終わったんじゃないんですか?」
「……そのような目をして、何もないと申すのですか、そなたは」
「…………」
「……そなたの心を苛む深き苦しみは、私の力不足によるもの。そなたにそのような苦しみを背負わせている事、慚愧に堪えません」
「……気にしないで下さい。オレが特別って訳じゃないんですから。それに、今回の事で苦しんでるのは、オレよりも隊のみんななんですから」
「……そなたの隊の者が?」
……しまった。オレから悠陽の気を逸らす為とは言え、みんなを引き合いに出すべきじゃなかった。けど、こうなったら、話さない訳にもいかないだろう。
「……冥夜については説明するまでもありませんが、他には珠瀬国連事務次官の娘、彩峰元帝国陸軍中将の娘、鎧衣課長の娘もいます。……そして、今朝殺害された榊首相の娘も」
「――!! ……なんという…」
悠陽のこの驚きよう。207には、今回の事に深い因縁を持った人間ばかりだからな、それも当然だ。……やっぱり、みんなの事、ここで話すべきじゃなかった、か?
「……白銀、そなたに頼みがあります」
「……はい、何ですか?」
「――皆をここに集めて下さい」
「……全員を、ですか?」
「そうです。国連軍、米軍、斯衛軍、全ての者です」
「……分かりました。けど、訓練兵のオレにそんな権限は無い――」
「――米軍の指揮官に、私の命令だとお伝えなさい。よいですね?」
「……了解しました。失礼します!」
……悠陽は全員を集めて、何をするつもりなんだ? とにかく、休戦の終わりまで時間がない。――急ぐか。
「――敬礼!」
悠陽の前にこの場にいる国連軍、米軍、斯衛軍の人間が揃っている。流石に全員と言う訳にはいかないが。
悠陽の直衛が月詠さん、戎と巴が歩哨、神代が戦術機で警戒待機。もう一人、この場に居ない米軍衛士も戦術機で警戒待機してるんだろう。
……そして、冥夜は歩哨に立っている。戦術機の警戒待機に志願したが、まりもが却下した。それでも歩哨に立たせたのは、悠陽との関係に配慮したからだろう。
「――ウォーケン少佐、此度の我が国に対する米軍の尽力、日本国将軍として心よりの謝意を表します」
『―――!!?』
集められた人間の前で、悠陽が最初にした事は、ウォーケン少佐を始めとした米軍の衛士達に、謝意と共に頭を下げたことだった。
この場に居る全員に走る動揺。その動揺の大きさがこの『世界』で、今、悠陽のした事がどれだけ大きな事かを表してる。
続く米軍の衛士それぞれと話をしたいと言う悠陽の申し出は、ウォーケン少佐が丁重に断った。
そして、次に悠陽が執った行動は、
「――我が国も此度の混乱、全てこの悠陽の力不足に端を発する事。……同じ日本人として、国を預かる者として、心よりお詫びします」
『―――!!!』
オレ達訓練兵にまで、米軍の衛士達にしたように、謝意と共に頭を下げることだった。
その悠陽の行動に動揺覚めやらぬオレ達に、回復し切っていない体を押して立ち上がり、千鶴、壬姫、美琴、慧、オレの順で、声を掛けていく悠陽。
悠陽と話をした事で、みんなの心は少しは楽になったと思う。それは単純に良かったと思う。……けど、みんなの気持ちを慰める為に、オレ達を集めたのか?
「――さて、米軍並びに国連軍衛士の皆様、今暫くお時間を戴くことをお許し下さい。
……長きに渡るBETAとの戦い、そして好転しない戦局に、我が国民の心は疲弊し蝕まれつつあります。されど、今の私の力では、それを癒すことすら適いません……」
そして、紡がれる悠陽の想い。そこに込められた自分の力不足と今の状況への悲嘆と、民を、『日本』を護りたいと言う強い意志。だから、
「――私自ら、決起した者達を説得して参ります」
『―――!!!』
オレは悠陽のその言葉に、驚かなかった。
「畏れながら殿下、その提案には賛同致しかねます……」
当然、ウォーケン少佐は反対する。だが、悠陽は承認を求めている訳じゃない。ウォーケン少佐に、悠陽は止められない。
「――月詠、武御雷を持て!」
「――ははっ!!」
……武御雷を持ち出すって事は、悠陽は沙霧さんを説得するつもりなんじゃない。悠陽は沙霧さん達を、自分の手で――
「――お待ち下さい!」
『―――!!?』
「――何事だ訓練兵!? 勝手に持ち場を離れるな!」
ウォーケン少佐の叱責に立ち止まる事もなく、冥夜は悠陽の前に歩いて行き、かしづいた。
「…………そなたは」
「……殿下、ご尊顔を拝し奉り恐悦至極に存じます。私は、国連太平洋方面第11軍、第207衛士訓練部隊所属、御剣冥夜訓練兵であります。
……此度の件における殿下のご心痛の程、私ごときには察する事も出来ぬ深いもので御座いましょう。そして、殿下の先程のご提案。それが民草への限りなき慈愛と御配慮に溢れたものであることは、疑うべくもございません。
しかし畏れながら、現況を鑑みますに少佐殿にも一分の理が有るのではないかと小官は思惟致します。これ以上の無益な流血を避け、一刻も早い事態の収拾を図るためには、相剋を乗り越え全部隊が一致団結することこそが肝要と存じます」
「……それは十分存じております」
「では、無礼を承知でご提案申し上げます」
「申すがよい」
「はっ。決起せし者達を説得する大任、この私めに拝命賜りたいと存じます」
『―――!!?』
「……真に畏れ多い事ではございますが、私は常日頃より、殿下に生き写しとの盛名を馳せております。お召し物を拝借するご無礼をお許し戴けるなら、……恐らく彼の者達に看破される恐れは無いと存じます」
「……されど」
「この身を殿下のお役に立てる機会、今をおいて他に御座いません。……何卒」
「……そなたの申し出、大変嬉しく思います。……されどこれは、私自身が果たさねばならぬ責務」
「……畏れながら、殿下。御身の責務とは、そのような事では御座いますまい。……民を慈しみ国土を育み、そしてそれらを広く深い徳を以て治め導く。それこそが御身に課せられた第一の責務では御座いませぬか?
……もし、殿下に万に一つの大事あらば、遠からず帝国は滅びましょう。此度の争乱の責任が御身にあると申されるならば、今枢要なのは、彼の者達を御自ら誅する事では御座いますまい」
「―――!!」
冥夜、……やっぱりオマエも、悠陽の想いが解ってるんだな。
「……ご心痛いかばかりかと存じますが、事後の民のためを第一にお考え下さいますよう、伏して申し上げます。……説得の大任、何卒、……何卒御裁可戴きますよう」
そして、それがオマエの貫くと決めた「答え」なんだな。
「……わかりました。そなたに任せます」
「――はっ。謹んで拝命致します」
「…………そなたであれば、或いは私より至妙に、彼の者達を説き付けるやも知れませんね。
……ウォーケン少佐、如何でしょう。この者の案であれば、そなたにもご助力願えますか?」
「……畏れながら殿下。改めて反対させて頂きます」
続けて、ウォーケン少佐の反対の理由を挙げていく。
説得の成功の確証が無い事。説得を失敗した場合の状況の悪化。戦力の分散に加え将軍搭乗機露見の確率が高まる事。そして、偽者だと発覚した場合の敵側の反応。
ウォーケン少佐の結論は、オレ達の任務は悠陽を無事に横浜基地に送り届ける事であり、現状最も成功率の高い作戦は、戦力を集中した中央突破だと言うものだった。
「――むしろ、訓練兵を替え玉に使う事で、少佐の作戦の成功率を引き上げることが可能ではないかと考えます」
そのウォーケン少佐の結論に対して、月詠さんが替え玉作戦の有効性を挙げていく。
説得に成功すれば良し。説得に失敗しても、冥夜が注意を引き付ける事で、悠陽の脱出を容易にできる事。冥夜が捕らわれても、決起軍が身代わりと気付く頃には、悠陽は横浜基地に到着している事を。
そして斯衛の視点から、少佐の作戦以上に替え玉作戦の方が、悠陽の安全において優れていると判断した事を。
「――では少佐、作戦を如何なさいますか」
「――うむ」
……悠陽も、冥夜も、自分の「答え」を貫く意志を行動で示した。
なのに、オレは、……情けねえよ。「答え」はもう出てて、貫く意志を決めてたはずなのに、……土壇場になって、あと一歩を踏み出せずにいた。
――――けど、
「――少佐! 発言を許可して下さい!」
悠陽と冥夜の意志が、確かめたみんなの温もりが、ようやくオレに、最後の一歩を踏み出す意志をくれた。
『―――!!?』
「……全く、国連の訓練兵は次から次へと」
「――白銀っ! 控えていろっ!」
「――はっ! ご許可頂きありがとうございます!」
「――なっ!?」
悪い、まりも。……そして、悠陽、冥夜。オレの「答え」を貫く為に、オマエらの「答え」すら踏み躙るよ。
「――――私は、替え玉作戦には賛同出来ません」
『―――!!?』
「――白銀っ、黙れ「――待て、軍曹」――少佐!?」
武の発言を抑えようとしたまりもを、ウォーケン少佐が制止する。
「……あの訓練兵、多少気になっていたのでな。では、貴様が替え玉作戦に賛同できない理由を言ってみろ」
「はっ! 先ず如何に殿下が衛士技能を修得されているとは言え、自ら戦術機で説得に向かわれるのは状況から言って不自然です。加えて、今の殿下の体調を鑑みれば尚更です」
「――待て、タケルッ!」
立ち上がった冥夜が武を制止しようとする。
「待つのは貴様だ、御剣訓練兵」
「――は」
武は一瞬冥夜に視線を向けるが、すぐにウォーケン少佐に向き直る。
「……続けます。決起軍はあらゆる全ての覚悟を持って、あの場に居る筈です。……如何に殿下と言えど、説得できるとは思えません」
「……それだけか?」
「いえ。更に、御剣訓練兵を替え玉に仕立てた場合、こちらの保有戦力の減少が大きいと思われます。決起軍側も、殿下の体調を想定しているでしょうから、替え玉に真実味を持たせる為には、同乗と言う形を採らねばなりません。また替え玉を乗せた機体は同じ理由で戦闘を避けなければなりません。そして、殿下の体調を考えれば殿下の搭乗する機体も合わせて、実質戦力は2機、いえ、御剣訓練兵も戦力から除く事になるので、3機失う事になります。
それに先程、月詠中尉が仰っていた殿下の安全性にも問題が生じます。替え玉に注意を引き付ける事で殿下の脱出を円滑に行うとの事ですが、我々にとっても殿下を易々と奪われる訳にはいきません。その為、替え玉の真実味を上げるため、替え玉の身柄を確保された場合、決起軍と戦闘を行わなければならないでしょう。その際、殿下を保護したと確信する決起軍が、知らず殿下の乗った機体を撃墜する可能性は、中央突破作戦時より高まると思います。
……以上が、私の反対理由です」
「――ふむ。……訓練兵、他に言いたい事があれば聞いておこう」
「――はっ! ……少佐の作戦に対し、提案があります」
「……言ってみろ」
「戦力を集中しての中央突破ですが、決起軍も当然、その作戦を予測して私達の背面を突いて来るでしょう。
―――ですから、殿を私にお任せ頂きたいのです」
『―――!!?』
「……何を馬鹿な事を。訓練兵ごときにそのような重要なポジションを、任せられる訳がなかろう。自惚れも大概にしろ」
「私の言葉が自惚れかどうかは、月詠中尉にお尋ね下さい」
「……何だと? 訓練兵、貴様何を言って……」
「――少佐。その訓練兵の実力は私が保証致します。……その者に殿を務めさせるのならば、私は少佐の作戦に賛同致します」
『―――!!?』
「……正気か、中尉?」
「はい。その者に殿を務めさせる中央突破作戦が、最も殿下の安全を保障する物だと判断したまでです」
「……訓練兵、確か貴様は先程、私の命令を実行しなかったな? 貴様が指揮官だったとして、殿と言う最も重要なポジションを、命令を実行しない兵士に任せるか?」
「……いいえ、任せません」
「では、それが分かっていながら、何故志願した?」
「……はっ。先程の私は、……人の命を奪うかもしれない事に、怯えていました。「答え」を出していただけで、その「答え」を貫く事を躊躇っていました。……けれど、それは甘えでしかない事を思い知りました。……だから、私はもう躊躇いません」
「……それは、同胞でもある決起軍に、引き鉄を引けると言うことか?」
「――――はい。私が、彼らを討ちます」
『―――!!!』
その確固たる覚悟が籠められた言葉を口にした瞬間、武の雰囲気が激変する。
無数の生と死が溢れ渦巻く狂気の戦場を数え切れぬほど潜り抜け、己が生を勝ち奪った者のみが持ち得る鬼気を纏う。夜の森を満たす暗黒よりも、なお深く濃い闇の眼光を宿して。
「……ば、馬鹿な」
ウォーケン少佐は知っている。武が纏った鬼気、その眼光と同種のモノを持つ人間を。
思い出す。アラスカ・ソビエト軍との軍事合同演習。自分が指揮する隊も含めた2個大隊が全滅を以て敗北した。アラスカ・ソビエト軍のトップエース、『戦場の女帝』と渾名されるナスターシャ・アレクセイ大尉の指揮する1個中隊によって。
あの時、彼女に感じた戦士としての畏敬にも似た存在感。……信じ難い事に、今、目の前に居る訓練兵に感じるモノの方が、――強い。
「…………いいだろう。貴様の提案を採用しよう」
『―――なっ!!?』
ウォーケン少佐は、理詰めで固められる部分は可能な限り固める人間ではあるが、感覚的なモノを忌避する人間ではない。
これまでの作戦行動中、武の周りより抜きん出ていた機動技術や試作機に搭乗している事、敵の空挺に誰よりも早く気付いた事などから、注目していたのは確かだ。命令を実行しなかった事を除けば、訓練兵としての実力は、とてつもなく優秀だと。
だが、それは間違いだった。訓練兵どころの話ではない。彼の直観は、武が自分達の保有する最大戦力なのだと確信した。……ならば、彼が成すべき事は、それを有効に活用する事だけだ。
「――はっ。ありがとうございます」
武の存在感に呑まれていると言う自覚は在る。が、それに流された判断ではないと確信できるが故の、作戦決定だった。
「ウォーケン少佐、私はその作戦を……」
「殿下! ……殿下が横浜基地へ辿り着けるよう、必ず御護り致します」
悠陽の言葉を中途で遮るように、言葉を重ねる武。その無礼極まりない行為を、月詠すら咎めなかったのは、武の覚悟が伝わっていたからだろうか。
「…………分かりました。その作戦を裁可します」
一瞬、沈痛に瞳を閉じた悠陽は、目を開くと共にハッキリとそう言ったのだった。
「では、休戦終了と同時に、中央突破作戦を実行する。殿は、20706。殿下に搭乗して頂く機体は斯衛の機体から選抜しろ、中尉」
「了解」
「殿下、緊急事態ですので、先に兵を解散させますご無礼をお許し下さい」
「…………かまいません。儀礼より軍務を優先なさるがよい」
「ご高配賜り畏れ入ります」
「……ウォーケン少佐、…………そなたに心よりの感謝を」
「……殿下、これは任務です。そのお言葉、小官には勿体無いと存じます。お許し頂けるのであれば、任務終了後、この場に居る全員にそのお言葉賜りたいと存じます。
――煌武院悠陽殿下に対し、敬礼!」
悠陽への敬礼後、ウォーケン少佐が全員に向き直り、指示を出す。
「各自戦術機の機動準備後、指示があるまで待機――解散!
中尉と軍曹は5分以内に部下への指示を終わらせ、私の所へ来い。作戦の詳細を検討する」
「「了解」」
そして全員、行動を開始する。武は脇目も振らず逃げるように『武』へと向かう。……これから「未来」の『戦友』を殺すと決めた己を、見られたくなかったから。
「――白銀ッ!」
そんな武を追って来て引き止めたのは、まりもだった。
「ま……神宮司軍曹、出過ぎたマネをしてすみませんでした」
「………本来なら、貴様の実力を知っている私が……、いや。今は作戦を成功させる事だけを考えろ。……いいな」
「了解。……軍曹、一つお願いが在るのですが、宜しいでしょうか?」
「何だ? 言ってみろ」
「……握手、して頂けませんか?」
「……おかしなヤツだ」
困ったように微笑んで手を差し出すまりも。そして、武はその手の感触を確かめるように、握手をした。
「……ありがとうございます」
「……基地に帰ったらみっちり教育してやる。笑ったり泣いたりできないようにしてやるから、覚悟しておけ?」
「……了解」
そして、まりもが立ち去って、少し進んだ場所に月詠みが立っていた。
「……月詠中尉、何かご用でしょうか?」
「…………殿下が、お話になったのか?」
「……え?」
「……いや、いいんだ」
そう言って踵を返す月詠。
「…………どんなに固い決意をしていても、どんなに深い覚悟を持っていても、辛い事は辛いし、悲しい事は悲しいんだと、……オレは思っています」
「―――!!! …………死ぬなよ、白銀武。殿下と冥夜様の為に」
「…………はい」
そして幕が上がる。最後の幕が。
「――約束の刻限は経過した。返答は如何に?」
休戦終了と同時に、全回線による沙霧大尉からの通信が入る。
「――当方は、任務遂行するのみ。その為の障害は全力を以て排除する」
「――それが返答か。……遺憾ではあるが、ならば我らも全力を以て貴様らを制し、殿下をお救いする!!」
通信が途絶すると共に、戦いの火蓋が切って落とされた――
「――全機に告ぐ! 兵器使用自由!」
『―――了解!!』
戦域からの離脱、撤退に対し、最も有効で常套の手段は後方を突く事だ。その常識に倣い、決起軍も敵の後方を突く事で足を止めさせ、その後に包囲を完成させる事を目論んでいた。だがその目論見を、――1機の常識外れの存在が阻んだ。
「――うわぁぁぁぁぁっ!?」
「――ぐおぉぉぉぉぉっ!?」
決起軍側のマーカーが二つ、1機と接敵してから数秒で立て続けに、……消えた。
戦場を見渡しいるかのような超認識能力『天眼』を使い、2機連携の位置関係を捕捉。そして、F-22Aを凌駕する獰猛な超速機動で一瞬の「一対一」を作り出し、巧速を以て討ち倒す。そして停まる事なく、次の敵を屠りに掛かる。
……『武』と接敵した者の命が、次々に燃え盛る爆炎に消えていく。紅蓮の炎を白銀の機体に映すその姿は、返り血に染まる悪鬼羅刹を思わせた。
「………ば、馬鹿な、こ、国連軍の戦術機は、鬼神かっ!?」
決起軍側にしてみれば、信じられまい。対戦術機戦闘の訓練を重ねた、帝都の護りを預かる自分達精鋭が、まるで相手になっていない。彼らが積み重ねた力を、戦いの際拠って立つ常識と戦術の全てを、『武』は踏み砕く。
「―――ぐあぁぁぁぁぁぁっ!?」
また、一つ爆炎が上がる。……その度に、武の心は折れそうになる。「未来」の『戦友』の命を奪う度に、魂が砕けそうに軋む。
だが、止まれない。どんなに辛くても、どんなに悲しくても、「答え」を貫く為に。
「うおぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」
だから、武は咆哮を上げる。折れそうな心を奮い立たせる為に、戦う力を振る絞る為に。
「――こいつの相手は私がする! 門倉、お前達は殿下を!」
「了解! 往くぞ、お前等!」
『―――了解!!』
武達より北側に降下していた内の8機が、『武』に撃墜された時、沙霧大尉の不知火が副官に指揮を任せ、吶喊してくる。
「――貴様の相手は、私だ!」
「――!!」
全回線から沙霧大尉の声が武に届く。命を奪う相手の顔を意識してしまった事で、『武』の動きが僅かではあるが鈍る。そしてその隙を逃さず、実力の差を埋めるかのような裂帛の気合を以て、沙霧大尉は一気呵成に攻め込んでくる。
「――うおおおおおっ!!」
沙霧大尉の咆哮と共に繰り出される剣撃は、烈しく強い。武は捌いているものの、圧されていた。
「――殿下の御為、この『国』の為、血塗られた外道であろうとも、止まる訳にはいかぬっ!!!」
「――それは、オレだって、同じだっ!!!」
「なっ!? 貴様、日本人かっ!? 貴様、日本人でありながら、それほどの力を持ちながら、何故米国の片棒を担ぐような真似をする!? 貴様も他者に隷属する事を良しとする日和見主義者か!? 答えろ! 貴様にどのような義が有る!? ――答えてみせろぉぉっ!!」
沙霧大尉の剣撃に更なる裂帛の気合が込められる。振り下ろされる渾身の一撃。沙霧大尉が生涯最高と断言できる程の、その一撃を、
――ギィィィィィィンッ!!!
……『武』は真っ向から受け切った。
「………義なんてもの、オレにはないさ。……けどっ!」
「ぐぅっ!?」
沙霧大尉の不知火の長刀を払い、『武』は一旦距離を取る。そして、
「衛士の「道」を外れようと、「未来」の『戦友』の命を奪おうと、譲れないものが、何よりも護りたいものが、――オレにはあるんだぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」
―――斬っ!!!
――――悲しき輝きを湛えた白銀の閃光が、……奔り抜けた。
武の脳裏に巡る『記憶』は、パナマ撤退戦において未来を己に託して散った、沙霧尚哉との最期の通信。
「――白銀。叶うならば、いつかまた、貴様と共に、戦場を駆けたいものだ」
「――それでも、叶うなら、……沙霧大尉、あんたと、あんた達と共に、戦場を駆けたかったよっ!!」
武の絞り出すような叫びが、互いのコクピットに木霊する。
「…………貴様の名を、聞かせてくれ」
「……白銀、武」
「……白銀、貴様にこの国の、この星の「未来」を託す」
「!! ………言われなくても、「未来」を絶対に、掴み取ってみせるさっ!!」
「……………すまんな。私から、約束を違えて――「―――えっ?」
――ドッゴォォォォォォンッ!!!
燃え盛る紅蓮の爆炎に、沙霧大尉の最後の言葉も呑みこまれて消える。
「……こちら、門倉。総員に告ぐ。――『未来は託された』。繰り返す、『未来は託された』」
爆炎が上がるのと同時に、副官が全回線で部隊に、その符号を伝える。『未来は託された』、それは即時武装解除、並びに投降を示す符号であった。そして、決起軍の1機が、照明弾を上げる。その符号を決起軍の全てに伝達する為に。
……白み始めた空へ次々に上がる照明弾の光は、あたかもこの戦いで散って逝った者達への手向けの花のようであった。
「…………ちくしょう、ちくしょうっ、ちくしょおっ、
ちっくしょおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっ!!!!」
――黎明の空に、武の悲しみに満ちた慟哭が響いた。
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