マブラヴ 未来への咆哮 episode:12 「移ろう未来」 <10derさん>
――2001年12月4日(火)
――PX
朝、PXに行くと、壬姫と美琴が居た。
「……あれ、たけるさん?」
何で朝っぱらから、不思議そうな目でオレを見る、壬姫?
「あれ、タケル? ……今日は、霞さんは?」
ああ、何だ。そういうことか。
「霞とは、今日からは別々にメシだよ」
「え? そうなの、たけるさん?」
「ああ」
霞にとっちゃ、朝のお勤めみたいなもんなんだろうな、脳みそ部屋で飯を食うのって。……流石に、アレは一回で満腹だ。
「ところで、他のみんなは?」
「御剣さんと彩峰さんはもうすぐ来ると思うよ。榊さんは、もう行っちゃったけど」
「昨日、模擬戦したんだけど、それに負けたのが悔しかったみたいだよ」
「なるほどな。千鶴らしいや」
と、そこに冥夜がやってくる。
「タケル、社は今日は一緒ではないのか?」
……冥夜よ、おまえもか。
「ああ。以下同文につき、説明は壬姫と美琴に聞いてくれ」
「ふむ? ではそうすることにしよう」
そう言って、席に着き、壬姫と美琴と話し出す冥夜。
「――速報をお伝えします」
ん? 二ュース速報? PXに置かれてるテレビから聞こえてくる放送に、そっちに顔を向ける。
「――火山活動の活発化に伴い、昨夜未明、帝国陸軍災害派遣部隊による不法帰還者の救出作戦が行われました。現場では大きな混乱もなく、14名全員が無事に保護されたと――」
これは、天元山のことか? ……そうか。夕呼先生、やってくれたんだな。これでオレ達の出動は、無しか。ニュース速報の内容を聞く限り、婆さんもちゃんと助かったみたいだな。
時間も稼げた。婆さん達の命も助かった。……これが最善、の筈だ。それなのに、なぜかオレの中に、もやもやっとしたもんが在る。
「………」
HSSTの落下も事前に阻止したし、『XM3』の試験運用も上手く行ってる。『GG-Project』もオルタネイティヴ4に取り込んだ。そして、一番大きいのは、あと数日で、人類の勝利の鍵である『00ユニット』完成に必要な数式が手に入る事だ。
どれもこれも、『記憶』に無い事ばかりだ。加えて、今回の件。確実に『未来』は変わっている。オレが変えたんだ。
そして、今回稼いだ時間で、また新しい何かが起きる事になる。そういう事が起きる度に、人類勝利の可能性が高まる筈だ。――いや、高めるんだ!!
「よしっ!!」
声と共に、両手で頬を叩いて気合を入れる。と、そんなオレに、冥夜が厳しい眼差しで、オレに問い掛けてくる。
「タケル、今の気合は何のつもりなのだ? まさか、あのニュースを見ての事ではあるまいな?」
「そうだけど、……何でだ?」
「……そなたは、今の報道を見て、何を感じた?」
「何を? どういう意味だよ?」
「……タケル、今の帝国軍に人道的な救助活動をする余裕があると思うか? それだけではない。危険を覚悟して故郷に戻った帰還者達が、すんなり救助に応じると思うか?」
……冥夜の言う通りだ。婆さん達は、素直に応じなかった。
「噴火警報も出ていないのに、未明に救助作戦が行われている。……そなたはどう思う?」
「……寝しなを急襲して、そのまま拉致。殆ど、強制退去みたいなもんだろうな」
「なっ!!? そ、そこまで分かっているのなら、先程の気合はどういうつもりだったのだっ!? 答えよ、タケルッ!!」
「……オレが気合を入れてたのは、衛士になってBETAをぶっ倒して、今回、強制退去させられた人達みたいな、故郷を離れざるを得なかったたくさんの人達が、大手を振って故郷に帰れるようにしてやろうって、思ったからだ」
「……え? す、済まぬ、タケル! そなたの考えも知らず、私は……」
厳しい眼差しで詰め寄ってきていた冥夜は、オレの答えを聞いて、一転、恥ずかしそうに小さくなる。
「気にすんなよ、冥夜」
婆さんの、いや、婆さんだけじゃねえ。もっと多くの人達の「心」も護りたいと思うオマエの気持ちは、分かってるさ。
「……私は、まだまだ未熟だな。私が何の為に、何を成す為にここに居るのか、忘れていた。タケル、そなたに感謝を。タケルの言う通り、BETAを駆逐し、一日も早く人々が、故郷に帰る事ができるようにする事こそが、衛士の真の務めであり、私達が目指し、達成しなければならない目標なのだからな」
「ああ。その目標を実現する為に、頑張ろうぜ!」
「うん! たけるさんと御剣さんの言う通りです! がんばろー!」
「そうだね、壬姫さん! 頑張ろう!」
「……がんばろー」
「!! って、慧、おまえ、いつの間に来てたんだよ?」
いつの間にか、美琴の隣の自分の席で飯を食ってる慧が居た。……何か気配を消すの、上手くなってねえか? オレ、美琴のオヤジさんにも気付いたんだけど。今、慧に気付けなかったぞ、マジで。
「……最初から、居たよ?」
「嘘つけ!」
「……武と分隊長は、実は男と女の関係」
「ブッ!!?」
「なっ!? そ、それは真か、タケルッ!!?」
「ほっ、ほほほほほほ本当なんですか、たたたたたたた、たけるさんっ!!?」
「えーーーっ!!? ほ、本当なの、タケルッ!!?」
「………うそ。………言うんじゃなかった」
苦虫を噛み潰したような表情の慧。
「嘘を吐けって、言ったんじゃねえよっ! って言うか、そんな顔するぐれえなら、最初っから、そんな嘘吐くんじゃねえっ!!」
「………それにしても、なかなか良い事言うね、武は」
「有耶無耶にするつもり満々だな、ったく」
半眼で慧を睨むも、ちっとも堪えてねえ。まあ、こんくらいで慧が堪える筈がないのは、分かりきった事だが。
「……まあ、いいや。ほら、オレって、基本的にすごい奴だからな」
「………ごくまれに」
「何だとっ!?」
「フフッ」
「「アハハハハ〜〜〜〜」」
PXに笑い声が響く。穏やかな時間。――それはあたかも、嵐の前の静けさの様で。
結局、転移装置の改良に手間取ってるのか、夕呼先生からの呼び出しもなく、この日は過ぎていった。
――2001年12月5日(水)
ユサユサと揺さぶられる感覚に、意識が覚醒していく。
「……う、朝か」
……うう、何か、今日はスゲエ寒い。……雪でも降りそうだな。
「おはよう」
「ああ、おはよう、霞。……今日はいつもより早いな」
……って4時? 早すぎじゃねえ?
「………博士に起こせと言われました」
「あ、そっか。転移実験、今日が約束の二日目だもんな」
「……いえ、装置の調節にもう少し時間を掛けたいので、明日にするそうです」
「おお! 霞の伝言が機能している! この前、忘れたモンな?」
「………」
ちょっと、ムッとしてるかな、こりゃ?
「……ハハハ、うそうそ! まあ、霞は今日もゆっくりしとけよ」
そうか、転移装置の調整は難航してんのか。時間は惜しいけど、確実性を高める為だったら、1日くらい延びるのも仕方ないか。数式の回収は、オルタネイティヴ4成功の鍵だからな。
「それじゃ、オレは、今日は原隊に復帰して、訓練でもやるかな」
「私は下に行きます」
「……そうか、下か」
一緒に『思い出』作りとかしてやりてえけど、あんまり操縦感覚を鈍らせる訳にもいかねえし。……ごめんな、霞。
「大丈夫です。下の部屋で、あやとりの研究をします」
「あやとり? どうしたんだ、急に?」
オレ、霞にあやとり、教えてねえよな?
「昨日、鎧衣さんに会った時に、教えてもらいました」
「美琴に?」
「はい。……『踊る蝶々』、綺麗でした」
「『踊る蝶々』!? 見たのか?」
美琴のやつ、霞に嬉しそうに見せたんだろうな。前もみんなに見せて回ってたみたいだし。
「はい。研究して、私も作りたいです」
霞が、色んな事に興味を覚えるのは、良い事だと思う。……ただ、脳みそ部屋で一人あやとりをしている霞。シュールだ。
「そうか。頑張れよ。そんで、『踊る蝶々』、いつかオレにも見せてくれよ」
「はい、約束です」
「おう、約束だ」
2回目の指切りをして、霞はオレの部屋を出て行こうとする。
「ばいばい」
「ああ、ありがとな。ばいばい」
と、手を振り返したオレに、霞が立ち止まってこっちを見る。
「ん? どうした?」
「……手振ってる。……かわいい」
「――うごっ!?」
クスッと笑って、オレの部屋から出て行く霞。……何かいけない方向に感化されてきたような気がする。だけど頼むから、慧の真似だけは止せ。教育上よろしくないぞ。
しかし、何で、こんな時間に起こされたんだ? 転移実験とは関係ないみたいだし。……まさか、抜き打ち演習って事は無いよな。
「タケル、起きろ!」
ドアがノックされ、冥夜が呼び掛けてくる。
「冥夜?」
ドアを開けると、冥夜が中に入ってくる。
「なんだ、起きていたのか?」
「なんだよ、点呼前にうろつくとは、冥夜もやるなぁ」
「ばか者。先程、総員起しが掛かったのだ」
「なんだ? もしかして抜き打ち演習か?」
「わからん。その後は準即応態勢で自室待機としか聞いておらん。そなたは今、香月博士の特別任務に就いているから、どうすべきか迷ったのだが、念のため声をかけてみたのだ」
「そうか、悪いな。とっくに夕呼先生に起こされてたよ。しかし、自室待機か。今日はオレも訓練に混ぜてもらおうと思ったのに」
話しながら、点呼を受ける為、部屋から出る。
「なんだ、特別任務はもういいのか?」
「実は、明日までやることがねえんだ。で、オレがいない間に、おまえらがどれくらい上達したか見てやろうと思ってな」
「ほう、言ったな? 目に物見せてくれる」
「おう、見せてもらおうか。で、今日の本来の予定は?」
「旧市街地での市街戦演習だ」
と、そこまで話したところで、廊下の向こうから千鶴がこっちにやって来る。
「御剣、白銀はいたの?」
「いたも何も、タケルが今日の市街戦演習に参加したいと」
「おう、千鶴、二日振り! 邪魔しねえからさぁ、オレも今日は仲間に入れてくれ」
「私が許可できるわけないでしょう? 教官に申請してよ」
そりゃそうだ。後で、まりものとこ行くか。
「まったく、総員起しが掛かってるって言うのに、暢気なものね」
「何で総員起こしかかったのか、分かんねえのに、慌ててもしょうが――」
――ヴィー、ヴィー、ヴィー!!!
――防衛基準態勢2を発令。全戦闘部隊は完全武装にて待機せよ。繰り返す――
「――ッ!!」
な、何が起きた!? 知らねえ、オレは知らねえぞ、こんなのっ!?
「タケル、急ぐぞ!」
「急ぐわよ、白銀!」
……まさか、オルタネイティヴ5が!? いや、落ち着け、オレ。それだと、防衛基準態勢2が発令されてる意味が分かんねえ。なら、何が起こった!? ……くそ、情報が足りねえ!!
「……悪い、オレ、夕呼先生の所に行く!」
なら、情報の集まる所に行けばいい。――夕呼先生の所に、いの一番に情報が集まるはずだ!
「――わかった!」
「教官に伝えておくわ!」
「頼むっ!!」
冥夜、千鶴の二人と分かれて、地下に降り、夕呼先生の部屋に入る。
「いない!?」
こんな時に夕呼先生が他にいそうな場所は、……中央作戦司令室かっ!? 踵を返し、中央作戦司令室に向かう。オレの持ってるI.Dで、確か入れた筈だ。
――プシュー
「――ッ!?」
「――ラダビノット司令、それはどういうことですかな?」
中央作戦司令室の真ん中で話してるのは、夕呼先生と司令に、壬姫のオヤジさん!? 何で壬姫のオヤジさんがここに!?
オレは、中央作戦司令室に入ってすぐの所にある物陰に隠れるようにして、三人の話に耳を傾ける。
現在、日本で起きているクーデター、そのクーデターに対する国連軍と米軍の介入の問題、更にオルタネイティヴ計画にまで及んだ話は、壬姫のオヤジさんがとりあえず引き退り、中央作戦司令室を出て行く事で打ち切られる。
「……厄介な事になったな」
……司令の言う通りだ。明日には数式を回収して、全て上手く行くって時に、何だってクーデターなんて起きやがんだっ!
「――私は発令室に戻る。博士、後は宜しく」
「はい」
夕呼先生と司令の話も終わり、今のうちに先生に詳しい話をと思って、物陰から出ようとした瞬間、
「――こんなところで何をしている、白銀武」
「うわぁああっ!!?」
気配を美事に隠していた、美琴のオヤジさんに背後から声を掛けられた。……び、びっくりしたぁ。こ、今度は気配、読めなかったぜ。
「……あんた達、こんなところで何やってるの?」
オレの声を聞きつけた先生がオレ達のいる所にやって来る。
「いや、その、よ、鎧衣さん、ど、どうしてこんな所に?」
「こないだのイースター島土産は絶品だったろう? まあ、チリ本土で買ったんだがね?」
……相変わらず、人の話聞かない上に、空気を読まねえし。それでも、このオッさんが、スゲエ人ってのは疑いようもねえ。美琴のオヤジさんが話していった内容からもそれは明らかだ。
クーデターの詳細な情報や、裏で糸を引いてるのが、国連上層部のオルタネイティヴ5推進派と米国諜報機関である事など、重要なもの目白押しだ。……それに、オレの事に勘付いているふしがある。まあ、オレの事に関しては、調べれば分かるってもんでもねえけどな。
「程ほどにしなさいって、さっき忠告しなかったかしら?」
とは言え、夕呼先生はきちんとぶっとい釘を刺す。それを柳と風に受け流す美琴のオヤジさん。
「――よく言うわ。自分の目的のためでしょう?」
「ええ、もちろん。商売柄、目的遂行のためには手段を選びません。それはあなたも同じでしょう、香月博士」
何だ? 急に美琴のオヤジさんの雰囲気が変わったぞ。
「……たとえそれが、将軍家縁の者だろうが、首相の娘であろうが、……実の娘であったとしても、犠牲は厭いませんよ」
「!?」
「そして、都合の悪いものは、……始末するだけですよ」
オレを見据えながら、そう言う美琴のオヤジさん。……なるほどな。大体、あんたの言いたい事は分かったよ。けどな。
「鎧衣さん!」
「……何だね、白銀武?」
「オレがいる限り、あいつらが犠牲になる事はありませんよ。それにオレの方が、あいつらより都合の良いものですからね」
「――ほう? 大した自信だ」
「……白銀、あんたは黙ってなさい」
先生に睨まれて慌てて口を閉じる。喋り過ぎだったか? それにしても、反発してつい言っちまったけど、大袈裟過ぎたかな、やっぱ?
「……さて、お喋りが過ぎたようだ。私はそろそろお暇するとしようか」
そう言うと、美琴のオヤジさんは懐に手をやり、
「白銀武、これをやろう」
人型のくせに上半身だけ鳥の、奇妙な人形を取り出し、オレに手渡してくる。
「ムー大陸のお土産だ。君を守ってくれる。持っているといい」
「え? いや、こんな奇妙な人形もらってもって、そもそも、ムー大陸は存在してないでしょ!?」
「捨てると呪われるぞ。気を付けろ」
「しかも、呪い持ちかよ!? 守ってくれるんじゃねえのかよっ!?」
「さらばだ」
人の話聞けよ、この変人!! つーか、またやられた……。
「白銀、いつまで呆けてんのよ。急ぐわよ」
「あ、はい!」
夕呼先生と一緒に中央作戦司令室を出て、上に向かう。
「――先生、今回のクーデターで、オルタネイティヴ4に影響はあるんですか?」
「流石のあんたも、この記憶はないのね」
「はい。憶えてる限り次に起こる出来事は、12月25日のオルタネイティヴ5始動でした。ちょうどクリスマスパーティが終わった後だったので、確実です」
「……素晴らしいわ。確実に未来を変えているという証拠よ。それに、この事態はあたし達にとって好都合よ」
好都合? オルタネイティヴ5推進派と反対派の米国が手を組んできたって言うのに? ……どういうことだ?
「頼んだわよ」
夕呼先生が、意味あり気にオレを見ながら言う。
「……頼んだって、オレに何をさせるつもりなんですか?」
「聞けば答えてもらえると思うのは止めなさい。それは甘えよ。まあ、いいわ。あんたはあんたのできる事をすればいいのよ。あたしはあんたに、それ以上も、それ以外も、要求しないわ」
「……分かりました」
そうだ、オレは出来る事をするんだ。オレの望みを叶えるために。
「みんなおはよう」
「――敬礼!」
ブリーフィングルームには、既に207分隊の全員が集まっていた。
「敬礼はやめてって言ってるでしょ。はいこれ、まりも。つかめている限りの現在の状況よ」
「簡単なブリーフィングは済んでいますが」
「いいから、見なさいよ」
夕呼先生から受け取った書類に、まりもが目を通す。
「!? ……博士、このような詳細なブリーフィング、訓練部隊に、なぜ?」
「なによ、あんた達はもう、ただの訓練部隊じゃなくて、副司令であるあたしの直轄部隊なんだから。そのくらい知っておいてもらわなきゃねぇ」
「……わかりました」
「あ、そうそう。この騒ぎが終わるまで、白銀は原隊復帰だから。よろしくね」
「はい」
「香月副司令、太平洋方面第11司令部からです」
「――なによ。…………っ! まりも、ちょっと」
方面軍司令部からの通信を受けた夕呼先生が、まりもを呼ぶ。……厄介な事がまた起きたみたいだな。
「――たった今、在日国連軍の今時状況への対応が決定した。国連安全保障理事会は、相模湾に展開中の米国第7艦隊を国連緊急展開部隊に編入する事を決定した。約2時間後の7時00分、正式発表される。それに伴い、同時刻より、当横浜基地は米国軍の受け入れを開始する」
「……まさかこんなに早いとはね。まったく。……ピアティフ中尉、ラダビノット司令につないで」
「お待ちください」
……壬姫のオヤジさんが、さっきの司令室の話通り、安保理に承認を取り付けたのか。それでも、早すぎる。やはり、そう言う筋書きが出来ていたって事か。
「神宮司教官」
「なんでしょう?」
「状況説明を続けて。あたしは司令と米軍の受け入れ準備について話し合わなきゃいけないから」
「了解しました」
まりもが話す状況説明によると、現在、帝都はクーデター部隊にほぼ完全に制圧されており、帝都城周辺で斯衛軍とクーデター舞台との戦闘が始まったと言う未確認情報もあり、仙台臨時政府は、将軍と帝都奪回の討伐部隊を集結させているとの事。
けど、帝都奪回って言っても戦力はどこからって、まさか、帝国軍の主力のいる日本海沿岸の防衛線からか!? しょ、正気かよ!?
「――また、クーデター首謀者は、帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊所属の沙霧尚哉大尉と判明した」
―――!? ……さ、さぎり、なおや?
――『人類軍 日本帝国師団』において、北米大陸における数多の戦い、共に最前線を駆けた、時に師のように導いてくれた、掛け替えのない戦友――
『記憶』の中で、軍人とは牙なき民を守る楯にして剣であり、衛士とは命を衛る者であると、オレに説いてくれた姿が、克明に存在してる。だから、信じられねえ。信じたくねえ。
……な、何でだ? 何で、あの沙霧さんが、こんな事、してんだよっ!? な、何かの間違いじゃ――
「……また、臨時政府はクーデター部隊により、………榊首相を初めとする内閣閣僚数名が、暗殺された事を確認した」
「――っ!?」
「「「「――!!」」」」
――えっ? ………今、まりも、何て言った?
「……沙霧大尉自ら、首相以下の閣僚を『国賊』とみなし殺害したそうだ」
「―――っ!!?」
こ、国賊!? さ、沙霧さんが、千鶴のオヤジさんを、『国賊』とみなして、こ、殺したっ!? 国と国民の為に、命を賭して力を尽くした真の『国士』だって、認めてたんだぞっ!?
『バビロン作戦』敗北以降のBETAによる大反攻により、再び侵略される日本帝国。そんな中、移民船に搭乗できなかった政府高官や高級官僚は、一早く米国に脱出。残された国民は、国外脱出の実務の指揮を執る人間がいない事で、未曾有の混乱に陥る寸前だった。
その時、将軍より全権を委任され、日本本土に残された国民の国外脱出の指揮を執る人物が現れる。その人物こそ、榊是親元首相であった。
そして、榊元首相とその側近達は、最後まで国民の国外脱出の指揮を執り続け、多くの国民の命を救い、数十万のBETA群と、帝都を死出の輩として、爆光の中に消えていった。
そんな榊元首相と最後の交信をしたのが、帝都防衛第1師団・第1戦術機甲連隊隊長である、沙霧尚哉少佐だった。
武が、沙霧尚哉と初めて出会ったのは、彼が千鶴に榊元首相の最後の言葉を伝える為に、訪ねて来た時だった。
「榊千鶴少尉。貴官の父君は、真の『国士』であった。……榊是親殿の貴官への最後の言葉を、託された。…………『生きろ』と」
人類の未来が無いに等しい絶望的な状況にあって、その言葉に篭められた想いは、如何なる物だったのか? それは、二人きりになった時、武の胸の中で静かに流した千鶴の涙が、物語っていたのかもしれない――
「――副司令、始まるようです」
「………はい、司令………では、後ほど」
「いかがなさいますか?」
「回線開いて。――まりもっ、始まるわよ?」
「クーデター部隊の声明が放送されるようだ」
オレがショックで呆けていた間に、モニターに声明が映し出される。
モニターに映し出され、声明を発表しているのは間違い無く、沙霧さんだった。声明を聞きながら、オレは全てをどこか遠くに感じながら、自問していた。
何でだ? 何でこんな事になったんだ? オレが『未来』を変えた事で、これから上手く行く………、あ? ………『未来』を、変えた?
そうだ。オレは、『未来』を変えた。…………じゃ、じゃあ、このクーデターが起きたのは、オレの、せい、なのか?
「………もういいわ。切ってちょうだい。……どんな事を言うのかと思えば、がっかりね」
全てが、遠い。モニターが切られた後、まりもが話し始めるが、それもどこか、遠くの出来事のように感じられる。
――『未来を変える』。印象の良い言葉だ。だが、そこに善悪は無い。いや、そのどちらも内包しているのだ。
だが、それなら、どうしたら良かったと言うのだろうか? 何もしなければ、オルタネイティヴ4に進捗は無く、オルタネイティヴ5推進派とオルタネイティヴ反対派が裏で画策したクーデターが起こらないのは、『記憶』の通りだろう。そして、その先にある『未来』は――
それだけは認められない。だから、『未来』を変えた。……自分の意思と行動が、多くの人間の『未来』を捻じ曲げたのだ。
――「これから、何が出来るのか、どうなるのかは、あんたの意思の強さと行動にかかってくる部分が多いはずよ。その責任の重さをしっかり自覚して、考え、行動しなさい」――
……今、ようやく、解った。『元の世界』の夕呼先生の言葉の意味が。――『未来』をを変える事の責任の重さを。
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