マブラヴ 未来への咆哮 episode:10 「辿り着く世界」 <10derさん>
――ガチャ
「オレ」が最初に認識したのはドアを開ける音。そして、次に認識したのは、
「「…………え?」」
トイレに腰掛けて、呆けたようにオレを見上げる純夏の姿だった。
「……よ、よぉ」
「あ……あううう」
純夏、……純夏だ! ほ、本物だ、……本物の純夏だ!! 動いてるっ! 喋ってるぞっ!
「あは、ははは」
純夏だ、純夏だ、純夏だ。困ってる! ……ああ、コイツはこういう顔して困ってたっけなあ。
……何だよ、しょっちゅう夢で見てるのに、何だよ、……何だってんだよ、何でこんなに嬉しいんだよっ!!
「純夏、あ、あの、さ、……オレ」
「……ト、トイレに入るときは、か、鍵かけなきゃ、ダ、ダメだぞぉ?」
え!?
「………」
「すみ――」
「そ、そうしないとぉ、こ、こういう目に……」
!!?
――JET!!
「うわっ!!」
「あ、遭う、の゛ッ」
「タケルちゃんのバカッ!!!」
純夏の豪拳が唸りを上げ、オレの意識が失われる。そして、「オレ」は、純夏の罵声を耳にし
ながら、『元の世界』から、消えた。
「い、いきなり殴るやつがあるか!!」
『この世界』に戻ってきたオレの第一声は、理不尽な純夏のヤツを憤るものだった。大体、人ん家のトイレ使うんだから、鍵くらいかけろッつーの。
「「………」」
……って、あれ、痛くねえぞ? てか、先生に霞がいるって事は、も、もう戻っちまったのか?
「…………この実験、やっぱり、気分悪いわねぇ」
「先生っ!! 凄いよっ!! 行きましたよ、『元の世界』へっ!!」
何故か、テンションの低い先生とは対照的に、オレのテンションは高い。スゲエ、まさかホントに、『世界』移動なんて事ができるなんて!!
「はいはい、当たり前でしょ、そんなの」
「純夏がいてオレん家の便所に入っていてそれを開けちまって――」
「それで? どうだったのよ?」
興奮して捲くし立てるオレに、冷静に先生が質問する。
「………」
「白銀?」
「…………何も、できなかった」
「……意思の力が足りてないって事ね。もっとハッキリと、『元の世界』の事をイメージしなさい」
「ち、違うっ! 「オレ」が何かを言おうとすると、違う言葉がオレの口から出てきて、……勝手に話が進んで、「オレ」が言いかけた言葉には、純夏は何も反応しなくって」
「……なるほどね。……向こうの事象には干渉できなかったか」
「……どういう、ことですか?」
「今の時点でハッキリとした説明はできないけど、少なくとも、あんたは自分の意思で行動できなかった。……ちゃんと『元の世界』に実体化していないってことよ。わかる?」
「……はい」
先生の言葉に頷いた瞬間、先生の後ろに控えていた霞が昨日のように倒れた。
「うわっ!? か、霞っ!?」
「……あら、椅子に座ってなさいって言ったのに、それだと集中できないのかしらね」
床に倒れた霞を夕呼先生が、すぐに抱き上げる。
「大丈夫かな。……先生、霞は一体何を担当してるんですか?」
「とても集中力と精神力を消費する仕事。ま、言っても解らないでしょうから、ここまで」
「……ちぇ」
「一旦休憩しましょう。社が目を覚ましたら、再開するわよ」
「……また、倒れたりしませんか?」
「するかもしれない。……でも、ここで止めるわけにも行かないから、とにかく先には進めるわ」
「……はい」
そうだ。先生の言う通り、止めるわけにはいかない。……すまねえ、霞。もう少し頑張ってくれ。
「だらだら続けていい実験じゃないのよ。電力だって、相当無理して捻出してるんだから。とにかく次は、もっとしっかりシフトして、『元の世界』に実体化してちょうだい。いい?」
「わかりました」
先ずは霞の回復を待つ。その間にオレは、『元の世界』の事を強くイメージする。
「……お待たせしました」
「大丈夫?」
「はい」
「無理するなよ」
「……はい」
「夕方か。……いろんなところで、電力使ってるわね」
「大丈夫ですか?」
「……ここは大丈夫よ」
「……ここは?」
「さ、基地司令から文句言われる前に、続きを始めるわよ」
「……基地司令から、文句?」
「いいから、準備、する!」
「りょ、了解」
………今度こそ、『元の世界』に、ちゃんと。
「今度はもう少しパワーを上げてみましょう。……5番入れて」
「はい」
「…………ん〜〜、思い切って6番も!」
「はい」
「社、準備!」
「はい」
「白銀っ!」
「了解」
『元の世界』のこと……。
『元の世界』………。
『元の…………。
そして、機械の駆動音の高まりと共に、この日、2回目の『世界』移動が起こった。
――ガチャ
「オレ」が最初に認識したのはドアを開ける音。そして、次に認識したのは、
「「…………え?」」
今度は制服ではなく私服で、トイレに腰掛けて、呆けたようにオレを見上げる純夏の姿だった。
「よ、よぉ、……また会ったな!」
「あ……あううう」
どうして、今回も、こういう状況なんだよっっっ!!! ああ、もう、と、とにかくだ!
「あは……ははは……純夏/ト、トイレに入るときは、か、鍵かけなきゃ、ダ、ダメだって言ったろう?」
!!? 今一瞬、オレの思い通りに喋ったぞ!!
「………」
「純夏! 純夏っ! オレだ、オレがわかるよなっ!?」
「そ、そうしないとぉ、ま、またもやこういう目に」
――JET!!
「くそー! ふざけんなーー!! のわっ!」
「あ、遭う、の゛っ」
「タケルちゃんのバカバカッ!!!!」
再び、純夏の豪拳が唸りを上げ、オレの意識が失われる。そして、またもや、純夏の罵声を聞きながら、「オレ」は『元の世界』から、消えたのだった。
「……ててて」
純夏の豪拳に撃たれた場所を擦りながら、呟く。……ったく、戻り方も前と同じかよ。
「……白銀ぇ、まじめにやりなさいって言ってるでしょ!!」
「す、すいませんっ! で、でも、やりましたよっ! 場所はともかく、一瞬だけ実体化しました!」
「あら」
「一瞬だけど、オレが言いたかった言葉が、ちゃんと出たんですよ」
「……それで、ぶん殴られて戻ってきたわけ?」
殴られた場所を見ながら、呆れたように先生が言う。
「……まあ、そういうことに」
……最後の一瞬も実体化したってことか。モロ顔面パンチ喰らわしやがって、へへへ。……相変わらずだなぁ、純夏のヤツ。
「……で、どうしてそれが可能になったのか、感覚的にでもいいわ。前の時との差を説明できる?」
「ん〜〜、さっきより戻ろうって意思を強めたのは確かですけど、はっきり『これだっ!』って言うのは」
「…………なるほど」
「……あの、先生?」
「……今日の実験はここまでにしましょう。もういいわよ」
「……はい」
「先ず、白銀は『元の世界』についてのイメージをもっと明確にしなさい」
「…………はい」
「どうしたの? 元気ないじゃない」
「……オレが元々いた世界の筈なのに、実体化できたりできなかったりで、ちょっとショックです」
「何よ、素直に喜びなさいよ! 『元の世界』に一瞬でも戻れたんだから!」
「……そうですね」
……嬉しくないわけじゃない。けど、あれが戻ったて、言えるのか? ……あれじゃあ、夢を見てるのと変わらない。
「………」
純夏に殴られた場所をもう一度擦る。……夢じゃ、殴られても痛くないよな。
「……あたしは装置の精度を高めておくから、あんたはもっと、『元の世界』に意識を集中して! いいわね?」
「……はい、すみませんでした」
「……社も、わかってるわね」
「はい」
「それじゃ、また明日ね」
――PX
地上に上がると、ちょうど夕飯時だった。
「特別任務は終わったのか?」
オレがPXに入ると、冥夜が声をかけてきた。
「ああ。冥夜、そっちも今終わったのか?」
「うん。ん、社はどうした? 一緒ではないのか?」
「ん? ああ、霞は霞でやる事があるからな。もうすぐ来ると思うけど」
霞、そのまま脳みそ部屋に直行だもんな。……霞の受け持ってる仕事ってのはよくわからんな。
「あ、タケル!」
「ああ、お疲れ」
「ねえねえ聞いてよ、今日のごはん、おかずが2品減っちゃったんだってー!」
「ん? 何故だ?」
「何かね、夕方に基地の一部が停電したらしいよ?」
「停電?」
「んげ」
「非常用電源も作動しなかったそうよ」
「あ、千鶴さん」
……やべえ、絶対に実験のせいだ。
「何焦ってるの、武?」
「げっ! 慧」
「あ、たけるさん、お疲れ様〜〜」
「ん? なんだ、珠瀬、社も一緒か?」
「………」
「うん、さっきそこで会ったんだよー」
「何をしてるのかは知らないけど、2人とも大変ね」
「……なんだよ、朝とは正反対の、その物分りのいい態度は」
「香月博士の命令で、2人は一緒の特殊任務に就いてるって教官が説明してくれたんだよ」
「はあ? そんだけで納得してくれたのか?」
「何言ってるのよ。博士の命令なら当然でしょ?」
「今朝はあんだけ目ぇギラギラさせてたくせに!」
とても、そうは思えなかったぞ!
「タケル、朝はそんなこと全然言ってなかったでしょ?」
「オレだって知らなかったんだよ」
「まあ、よいではないか。あらぬ疑いも晴れたわけだしな」
「……疑い? オレが何したってんだよ」
「……ナニ?」
「んだとぉっ!!」
「た、たけるさん、まあまあ」
「ところで、その社はどこに行ったの?」
「え?」
霞を捜せば、今朝のように、危なっかしくフラフラしながら、2人分の食事を持って来ようとしている霞の姿。
「あ! また!」
「………」
「無理に2人分持ってくるなっての!」
冥夜、千鶴、慧、美琴の視線がなんか痛いぞ、おい。
「わ、私たちもごはん、取りに行こうよ」
オレの味方はオマエだけだぜ、壬姫。
で、みんな、夕飯も取ってきて、席に着く。
「いただきまーす」
元気良く「いただきます」を言う美琴の隣で、じっと、夕飯を見つめる霞。
「…………どうした、霞?」
……何か、嫌な予感がする。
「……あーん」
「!?」
「「「「「………」」」」」
……やっぱり。
胃の痛くなるような食事の後、オレは自室で霞と向かい合い、霞を説得していた。食事の時にオレの分も持って来たり、食べさせてくれたりする事を止めるように。
普通であれば霞のしてくれてる事は嬉しい部類に入ることだが、みんなの、そして、オレの精神衛生上、非常に良くない。
説得の甲斐あってか、霞は明日からは大丈夫と言ってくれた。いい子だ! 霞はいい子だなぁ〜〜!
それに比べて、あいつらときたら。自主訓練の時、ギラギラとヤバイ気をオレに終始向けてきやがって。……そのせいで、いつもの倍は疲れたぜ、まったく。
「ただいま〜〜」
既に電気が消された室内で、霞がベットの上で眠っている気配を感じ取ったオレは、
「……床で寝るしかないか」
疲れてる事もあって、即行で眠りに落ちた。戦術機のシートより硬いから、明日は体痛くなるなぁと思いながら。
――2001年12月2日(日)
この日、「夢」を見ずに、目が覚めた。……何時だ? ……5時14分?
「……ふぁ」
久し振りだな、誰にも起こされずに起床ラッパ前に目覚めたの。床で寝たからか? いててて。
そういや、霞は、もう起きてるのかな?
――パチリ
室内灯を点け、ベットに目を向ける。
「!!!!!」
……あ、アブネエ、あ、危うく、大声をあげるトコだった。
そ、それにしても霞、な、なんつー格好で寝てんだ! む、無防備すぎるっ! こ、子供のクセにっ、く、黒の下着なんてっっ!! い、いや、外見が幼いだけで、子供じゃないのかもしれないがっ!!
「……それにしてもなんだ、この不気味なウサギは? いつの間に搬入されたんだ!?」
霞の寝姿から意識を逸らすために、別の事に集中する。
「……もしかして、抱き枕?」
霞にこんな趣味があったなんて、意外だ。……部屋に行って、こんなのばっかりだったらどうしよう。
「………」
『前』の世界からこっち、脳みその部屋以外では、ほとんど会う事もなかったからな。……オレは霞の事、全然知らない。
「……ん」
うおっ、目つき悪っ!! 寝起き最悪ですか、と言うか低血圧?
「………」
「お、おはよう」
「……おやすみなさい」
「寝るな!」
起きて、刺激の少ない格好に着替えてくれ。鎖骨のラインとか、太股の先とかが、マジでヤバイ。
ん? 目覚ましの設定じゃ、そろそろ起床時間みたいだ。……3、……2、……1、……。
「……ん、んん」
うそっ!? きっかりに目ぇ覚ますのかよっ!? ……す、すげぇ。
「………」
「お、おはよう」
「………」
「お、起きたか?」
「………」
「おはよう」
――ボスッ!!
「あいたっ!」
オレの顔面に、何かが当たる。……これは気味の悪いウサギ、霞が投げたのか?
「うささんです」
「……はあ? うささん?」
この不気味なウサギの、名前か?
「……先に起きたらダメです」
「……なんで?」
うささん、投げつけるようなことか? っていうか、意外なリアクション!
「なんでもです」
「ちょ、ちょっと」
そう言って、霞は全身の力を使って、オレを部屋からグイグイと押して、追い出した。
「……遅いっ!!」
おそらく霞の着替えのために部屋を追い出されたオレは、ドアの前で霞が出てくるのを待っていた。
「おーい、まだ着替え終わらないのかー?」
返事はなし。
「おーい」
今度はノックをしながら呼び掛ける。……やっぱり返事はない。
「……何やってるの、白銀?」
「うわっ!?」
背後から掛けられた声に驚いて振り向けば、そこには千鶴がいた。……くっ、霞の事に意識を向けるあまり、周囲の警戒を怠っていたぜ。
「な、何だ、千鶴か」
「どうしたの? 自室のドアなんかノックして」
「え゛っ!?」
し、しまったぁ!!
「いいいいやあ、ちょっとその、ドアの建て付けが悪くてさ」
「おはよう、榊、タケル。ん、何事だ?」
おいおい、何で冥夜まで!?
「いや〜〜」
「あれ〜、みんなどうしたの〜?」
「みんな整列してないと、教官来ちゃうよ?」
何でオレの部屋の前に、集まってくるっ!?
「わ、わかってる。だから、おまえらも部屋の前に戻った方がいいぞ」
「え? でも何でドア閉めてるの? 怒られるよ?」
「い、今、掃除の最中なんだけど、ドアの汚れを何とかしようと思って」
「大変だねー。点呼までにきれいにできないと、教官に大目玉だもんね」
「ああ、こればっかりは仲間とは言え、おまえらに助けてもらうわけにはいかないからな」
「身だしなみや整理整頓は軍人の基本だからね。ガンバってね、タケル!」
「ああ、がんばるさ」
よし! 物わかりのいいヤツは大好きだぞ!!
「じゃあねー、遅れちゃダメだよー」
「私達も戻ろう。本当に点呼が始まってしまう」
「そうね、行きましょうか」
「じゃあね、たけるさん」
「ああ」
……ふう、行った、か。
「……霞〜〜、もういいか〜〜」
「まーだだよ」
「そろそろ行かないと、遅刻するぞ〜〜」
「待って、……もう少しなの」
!!? ……オレは声が聞こえた方に顔を向ける。すると、そこには、
「うわっ!?」
慧がいた。何で、残ってるんだ、おまえはぁーーーー!!
――ガチャ
「お待たせしました」
ちょうどその時、オレの部屋が開き、霞が中から出てきた。
「んがーーーっ!!!」
タイミング最悪っ!!!
「「………」」
――ふるふる
――コクコク
「「………」」
え、なに? 何で通じ合ってんの、この2人?
「……大体わかった」
「ウソつけっ!!」
「2人は一緒に暮らしてる」
「そんなの見りゃわかるだろっ!?」
「わかってもよかったの?」
「……うぐ」
「……バカ?」
「……慧君、合成ヤキソバでどうだね?」
「絶対秘密厳守」
……早っ。同じばれるでも、相手が慧でよかったよ。
「……寝坊はヤキソバの得」
……ことわざ勝手に作ってんじゃねえよ。
「じゃあ、点呼終わるまでその辺で待っててくれ。すぐだから」
「はい」
点呼が終わって、オレは何故か霞に引っ張られて、地下19階にいた。
「なあ、どこ行くんだ? 早くPXに行かねえと、メシが」
「……いいんです」
そう言って、霞は先生の部屋の前にやって来た。
「なんだ? メシの前に先生に挨拶か?」
「……いえ」
ちょうどその時、ドアが開き、先生が部屋から出てくる。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
「食事、運ばせておいたわよ」
「はい」
「え? どこに?」
「それが済んだら、実験の続きするわよ?」
「はい」
……また無視ですか?
「じゃあ、あたしは……って、そうだ、白銀?」
「はい?」
「あんたが前にいた『この世界』で災害救助出動したことってあった?」
「……え?」
「中部地方の山岳部で火山性地震が頻発しているのよ」
「天元山!」
「……さすがね。まだ山の名前も言ってないのに。帝国軍が第1種危険地帯の不法居住者をどうしようか、対策を考えているらしいわ。まあ、帝国軍にしろ国連軍にしろ、救助に向かうだけの余力のある基地はないんだけどね」
「そうでしょうね」
……あの婆さん、今あそこにいるんだよな。
「で、戦闘任務に就いていない各基地の訓練部隊に、お鉢が回って来そうな雲行きなんだけど」
「……先生、不法滞在者は有無を言わさず、今のうちに強制避難させて下さい」
……婆さん、オレはあんたの想いを踏み躙る。
「……なんで?」
「……『前』じゃ、出動した結果、オレたちは吹雪を2機失いました」
「2機も!? ……わかった。今、207の機体を1機でも失うわけにはいかないわ。早速手配するわ」
「……よろしくお願いします」
……婆さん、オレは謝らない。許しも乞わない。……その代わり、BETAをぶっ潰して、あんたが家に帰れるようにしてやる。……絶対にだ。
夕呼先生の背中を見送る。
「………あ、悪い悪い。朝飯、まだだったな」
「はい」
「先生、食事を運ばせたって言ってたな。どこにだ?」
オレの言葉に、霞が歩き始める。オレはそれに付いていく。……おい、そっちは、も、もしかして。
――プシュー
「ここです」
行き着いた先は、脳みその部屋だった。……うそだろう?
「……シュールだ」
あまりの事に呆けたオレは、霞に引っ張られて、席に着く。……鳥の唐揚げ定食をここで食えと?
「……あーん」
……コポコポ言ってる脳みその隣で仲良くお食事。あまりにシュールすぎて言葉もない。
「……だから昨日、明日からは大丈夫だって言ったんだな?」
「はい。……あーん」
……脳みそに見つめられているような気がする。これなら、みんなの重く刺々しい視線の方が、まだ……。
「……嫌ですか?」
「好き嫌いの次元じゃないな。とりあえず」
「……よくわかりません」
……まあ、いい、ことにしとくか。
シュールすぎる朝食を終え、オレと霞は、『世界』移動装置のある部屋に入った。
「今日は昨日より長く行けると思うわ」
「本当ですか?」
「電力を余分に回せるように、しておいたから」
「なるほど。とりあえず、その方面は解決ですか」
「ええ。あとは、あんたの意思の問題ね」
「……はい」
「で、今日の自信のほどは?」
「正直、わかりません。昨晩は、『夢』、じゃなくて、その、意識が『元の世界』に戻る事もなかったですし、それと、霞の事も心配です」
「それは、本人に聞くのが一番ね。社、今日は大丈夫よね?」
「大丈夫です」
「やけに自信ありげね〜。……はは〜〜ん」
「……何を言うか予想が付くけど、何ですか?」
「もしかして昨日、絆を深めるような出来事か何か、あったわけ?」
「何もありません!」
……やっぱり。
「ま、冗談はそこまで。じゃあ、本番いってみましょうか? とにかく、1発で成功させなさい。わかった?」
先生の顔が、面白がっていた表情から、一転、緊張の面持ちになる。
「それぐらいの覚悟を持てってことですね?」
「覚悟? そんな甘えは許さないわよ。……今日、失敗したら、装置は破壊するわ」
「えっ!?」
「……白銀、あんたも知ってるでしょうけど、ダラダラやってる時間はないの。今、ここで、やり遂げるしかないのよ」
……本気、なのか、先生?
「準備が足りないかも知れない、力が及ばないかも知れない。そんな、色々理由を付けて尻込みする奴は、一生結果を出せないのよ」
……本気、だ。……先生は、本気だ。
「あんた、人類救うのよね?」
「……はい」
そして、冥夜に、千鶴に、慧に、壬姫に、美琴に、まりもに、霞に、先生に、未来を――
「……その願いを、自分の力で叶えたいんでしょ?」
「……叶えます、オレが自分で」
先生の言う通りだ。出来る出来ないじゃない。これは、オレが『やらなきゃならない』事なんだ。
「……いいわ。なら、これを持って行きなさい」
「何ですか、この包み?」
「向こうに行ったら、それを向こうの『あたし』に渡しなさい。そして、きちんと事情を説明しなさい」
「え? いきなり並行世界とか話しても、信じてくれませんよ」
「その包みが証拠よ。それを見れば、『あたし』は信じるわ。あたしが言うんだから間違いないわ」
「……随分重いですね」
「それさえ見せれば、こっちの要求は伝わる筈よ。『あたし』になら、自分がやったって分かる封がしてあるから、絶対開けちゃダメよ」
「はい」
「これが上手くいけば『00ユニット』は完成する。オルタネイティヴ5の発動はなくなるのよ」
「はい!」
オレが、ちゃんと『元の世界』をイメージして、数式を回収すれば、オレの目指す願いが叶う。
「……それと、むやみに向こうの世界に干渉してはダメよ」
「……わかってます。オレは帰る為じゃなく、やるべき事をやり遂げるために、一旦戻るだけなんですから」
「……そう言う意味じゃないんだけどね。まあ、いいわ」
「それより、先生。どれくらい向こうにいられるんですか?」
「……そうね、3時間くらい」
「本当ですか!?」
「……どう、社?」
「…………いけます」
「……そう言えば、霞って何をしてるんですか?」
「今、それを考える必要はないわ」
「……そうでした」
「それじゃ、そろそろ行くわよ」
「ちょっと、待って下さい」
…………『記憶』を辿るんだ。オレがずっと生きてきた世界だぞ? 思い出すんだ、たった6年くらい前の事じゃないか。……たった。
……ここには基地なんかじゃなく学校があって、それが当然だったあの頃。みんなで騒いで、ゲームやって適当に暮らしてる事が、楽しかったあの頃。
……純夏が居る事が当然で、離れる事なんか思いもしなかったあの頃――
「…………行けます」
「社も用意は良い?」
「……はい」
……今日もスケッチブックと色鉛筆か。
「さあ、始めるわよ」
――コクリ
「霞、よろしくな」
「……集中して下さい」
「ああ」
「じゃあ、行くわよ」
「はい」
オレの返事と共に、装置の駆動音が高まっていき、そして、オレは『この世界』から、消えた。
……最初に聞こえてきたのは、穏やかに吹く風が奏でる葉擦れの音だった。
「………」
目を開ける。目に飛び込んできた景色は、ここが校舎裏の丘である事を示していた。
「………」
……町がある。柊町だ。……廃墟なんかじゃない。……柊町だ、柊町。
「……帰って、来た」
オレの、足が動く。枯れ草を、踏んでる。……風だ。寒いな。でも、ちゃんと風を受けてる。
「……オレは、ここに、いる」
……ちゃんと実体化してる! やった! やったんだ!!
「やったぜ!! すげえよ、夕呼先生っ!!」
……何だよ、えらい懐かしいよっ!! ……あ、家が見える。冥夜の御殿も見える。橘町の観覧車も見える。……何かも昔のままだ!!
「………」
……そりゃ、そうか。今、この風景を見て、『昔』だなんて思うのは、『この世界』でオレ1人だけだ。
「……は、はははは」
……なんだよ〜〜、感傷に引っ立てる場合じゃねぇだろ〜〜?
「……っぅう、……っく」
……こんなつまんねえ風景見て泣くかよ、普通。
「……う、……うっくぅ」
……くっそ。どうせ3時間後には、また戻されるんだ。こんな事で時間を無駄にできねえ!!
「……っふ、……ぅ」
……でもさ、でもよ、違うんだよ。空気がさ、違うんだよ。匂いがさ、違うんだよ。……何か、身体に染み込んでくるんだよ。
ここがオレの『世界』だって、理屈じゃない何かがさ、そう言ってんだよ。
……やっと、来た。……帰って、来たんだ。
「帰って、来た!!! オレは帰って、来たんだああああああ!!! うわあああああああああ!!!」
……帰還の喜びに震えるオレは、知らなかった。オレは『元の世界』で、一つの『真実』に直面する事を。
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