Blade worker 6 「着ぐるみパジャマの戦い」 <アール伯さん>



「聖杯戦争か……」

関わるつもりでいた。マスターになれずとも、戦えるように、護れるように、先生が俺を鍛えてくれた。……「鞘」が無ければ、死んでたろうけど。

「終わらせる」

衛宮士郎の本当の目的は、聖杯の破壊。降りてきた聖杯を破壊すれば、こんな馬鹿げた戦いは終わる。あの災禍は、繰り返させない。
アサシンのサーヴァントとそのマスター、ランサーとそのマスター、そして、学校の結界。戦いの犠牲に何ら頓着しないであろう者達。そう言う類の相手こそが、衛宮士郎の戦うべき相手だ。


今の衛宮士郎の目指す正義とは、目に映り、手の届く場所に居る者全てを護ることだ。以前、己の目指す正義を「全ての人を救う」事だと言ったら、先生はこう言った。

「全ての人を救う……か。だがね、士郎。それは無理と言うものだ。神ですら己を信じた者しか救済せんと言うのに、人の身では到底叶わぬ理想ユメだ。」

煙草に火をつけようとして、禁煙した事を思い出し、取り出した煙草を屑入れに放り投げる先生。

「それにな、今この時、現実に世界の各地で死んでいく者達がいる。地球の裏側で今にも命を失おうとしている者に、お前に何が出来る?病に苦しむ者に対して治療する術も無い。飢餓に苦しむ者に対して食料を供出する術も無い。救いを求める者の前で、救う力は無いが救う意思はあるとでも言うつもりか?それは傲慢ですら無いぞ。」

「それは……」

「士郎、あらゆる行動には、力が必要だ。誰かを救う事にもな。その中でも、状況によって求められる力は異なる。その全てを有する事など人には出来ない。そして、その力を己の認識の外へ行使する事も出来ない。人に出来るのは、己の認識できる範囲内で、己の力を行使して出来る事を行うことだけだ。
士郎、お前は「剣」だ。癒すモノではなく、また、命を保つモノでもない。戦うモノだ。……さて、士郎。お前は何のために戦う?」

「…………俺は、護るために戦います。誰も泣かないように、誰も悲しまないように」

「世界中の人間をか?」

「……いえ。俺にそんな力はありません。それでも、この目に映り、俺の手が届く限り、諦めるつもりはありません!」

「そこまで言い切れるのなら、私から言う事は無い。……が、聞きたい事はあるな。」

「? 何ですか?」

下腹部に手を添えながら、おれんじのまじょが笑う。

「私と…も、当然、お前の護る対象だな?」

「う、そ、それはそうですよ。……でも、いざって時は、先生に逆に護られそうですけど。先生の方が強い訳ですし。」

顔を赤くしながら言う俺。照れ臭いんだよな、あの事、言われるのって。

「そうだな。だから、私より早急に強くなって貰うぞ。何せ、私は……だからな。」

「は、はい」

「と言うわけで、これがこれからのお前の鍛錬の内容だ」

「え゛」

渡された紙に書かれている内容に絶句。今までですら、限界に近い内容だったのに、更に過酷なものになっている。

「せ、先生?」

「士郎君が、私を護れるようになる日を、楽しみにしていますね♪」

いつの間にやら、眼鏡掛けてはるー!!

「は、はい」

カックシと言う擬音が聞こえる程に項垂れる士郎。

こうして、士郎自身の気性、効率的ではあるものの限界を無視した鍛錬内容、その無理を押し通すことのできる士郎の内に在る「鞘」の力により、士郎は鍛え上げられた。


「遠坂とアルトリアは、聖杯に何を願うんだろうな」

でも、あの二人なら、人に禍をもたらす願いを望まないだろう。それだけは確信できる(アーチャーはって、まだ会ってないな)。

「騙してる事になるのかな」

それでも、場合によっては、あの二人が願いを叶える前に、聖杯を破壊する事になるだろう。

「後で、聞いてみるか」

少し興味もあるしな。

「何を聞くつもりだ、衛宮?」

「ん、ああ、別に大した事じゃって、ひ、氷室!?な、何事だ、その格好!?」

「似合わないか?」

「あ、いや、可愛いと思うけどって、違う!それ、何なんだ!?」

「タヌキだ」

「タヌキって……」

そう、氷室はタヌキの耳と尻尾を持つ服(?)に身を包んでいる。

「久我峰繊維が発売している「Real Animals」と言う製品だ」

久我峰繊維発売の「Real Animals」とは、動物をモチーフにした着ぐるみ型パジャマである。その作りは従来の動物型パジャマと異なり、細部まで精巧緻密に作られており、動物好きには堪らない逸品である。

「そんなもの、売ってるんだな」

「高価だが、人気商品らしいな。……まさか、自分が着る事になるとは思わなかったがな」

「うわ、本物みたいな作りだな」

フード部分にある耳を触ってみる。

「うむ。名に違わぬ作りだ」

「これが、藤ねえが置いて行ったって奴なのか?」

「おそらくな。他に寝巻きらしき物は見当たらなかった。それに、虎が無かった」

「なるほどな。ん、と言うことはもしかして……」

「鐘〜。あたしらを置いてくなよ〜」

「流石、藤村先生。いつも、予想の斜め上を行ってくれるよな」

「何で、わたし、この動物でないといけないんですか?」

「はい、アルトリアさん。ファスナー、上げたよ」

「あ、ありがとう、ユキカ。いえ、そうではなく、私はこのような格好……」

「あら、アルトリア。とっっても、似合ってるわよ?」

「くっ、リン、あなたと言う人は。………あなたも、似合っていますよ?」

「う」

そう、全員が「Real Animals」を着用しているのである。……華やかです。
蒔寺は黒ヒョウ(本当は黒ネコらしいが、本人が黒ヒョウと主張)、三枝はイヌ、美綴はイタチ、間桐はホルスタイン、アルトリアはライオン、遠坂はキツネ(あかいからか?)だ。

「どうだ、衛宮。可愛いだろ?」

「あ、ああ。……でも寝辛そうだな、それ」

「そう?暖かくてフコフコして、気持ち良いよ?」

「三枝は、嵌り過ぎだね」

「うう〜、何で、わたしは、牛なんですか〜?」

「理由は、桜嬢が一番分かっているのではないか?」

「……これは………ですが、私は……」

「しかし、遠坂まで着てるとは思わなかったな」

「……三枝さんと、桜に迫られたら、嫌とは言えないわよ」

「あ〜、なんとなく分かる」

あの二人が、衛宮家の陰の意思決定権者だからなぁ。

「……それに偶には、こう言うのも良いわ」

「……遠坂」

優しい眼差しで、愉しそうに話している皆を見る遠坂。

「なあ、遠坂。一つ、聞いて良いか?」

「内容によるわ」

「そう大した事じゃない。遠坂は聖杯に何を願うんだ?」

「……別に。特に何も願うつもりは無いわよ」

「え、それじゃ、何のために聖杯戦争に参加するんだ?」

「勝つためよ。それに貰える物は貰って置いて損は無いでしょ」

自信たっぷりに答える遠坂。ただ、狐のパジャマを着ているせいか、決まってない。……その分、可愛いけどな。

「……何のつもりかしら、衛宮君?」

「へ?」

ナデナデ。

無意識の内に遠坂の頭を撫でていた俺。最初は羞恥、次に怒りで赤くなる遠坂。ライヴでぴ〜んち。

「あ、いや、これはだな……」

言い訳を口にしようとしたその時、

ズゥゥゥン!!!

中庭に何かが、降り立った。

「この気配!!」

屋敷を押し潰さんとする重厚なプレッシャー。並みの奴じゃない!!
ちなみに、呼子の鳴る結界は、以前先生が遊びに来た時に、俺にちょっかいを出そうとする度に鳴るので、苛ついた先生により消去された。

「くっ!!」

縁側に走り出る。そして、中庭の中央に立つ頬を膨らませた白の少女と、その背後に立つ鉛色の巨漢と対峙する。

「も〜う、シロウ、何で教会に来ないのよ!?」

「イリヤ?」

「寒いの我慢して、ずっと待ってたのに〜!」

「そ、そうなのか?す、すまない」

「……別に良いよ。それじゃ、シロウのサーヴァント見せて♪ まあ、私のバーサーカーには勝てないだろうけど」

「ちっ、まさかこんなにも早く攻め入ってくるとはな。小僧、凛はどうした?」

屋根から赤い外套を纏った騎士が降りてくる。

「お前が遠坂のサーヴァントか」

「へ〜、リンもここにいるんだ。捜す手間が省けたわ」

「それはこちらの台詞だ」

「む、サーヴァントの癖に生意気―」

「「「衛宮!」」」
「衛宮君!」
「先輩!」
「衛宮君、アーチャー!」
「シロウ!」

皆が出てきた。あの格好のまま。

「「「………」」」

無言になるイリヤ、アーチャー、バーサーカー。いや、バーサーカーは最初から無言なんだが。

「凛、その姿は……?」

「え、ああ!!」

オタオタする遠坂。

「くっ、敵ですね、シロウ!!……シ、シロウ、そ、その、このファスナーと言うものを下げてもらえませんか?こ、このままでは戦えません」

「え、あ、分かった」

ジィィィィィ。

ファスナーを下ろす度に露になっていく、一糸帯びぬ白磁の肌。

「って、うおおお!?」

半分まで下ろしたファスナーを上げる俺。

「な、何故、また上げるのですか、シロウ!?」

「な、何故って、アルトリアが、下に何も着てないからに決まってるだろ!!」

「「「「「なっ!!!」」」」」

「それは当然です!!私の服を着たままでは、このパジャマと言う服を着れないではありませんか!!」

「問題はそこじゃないぞ、アルトリア!!」

「ええい、敵を目の前にして何を悠長な事を言っている!!セイバー、そんなパジャマなぞ捨て置いて、戦闘準備を早々に―」

「アーチャー、それは私に対する宣戦布告ですか?」

って、怖!!凄い殺気だ。具体的に言うと、先生と青姉の喧嘩の時並みだ。

「い、いや、そんなつもりは無いですよ」

腰が引けて、敬語になってるぞ、アーチャー。バーサーカーもいつの間にか、イリヤを守るようにしている。……恐るべしアーサー王。

「アルトリア、着替えるわよ!!」

「……分かりました、リン」

アーチャーにガンくれしながら、遠坂と共に中に入っていくアルトリア。アーチャーは、顔を青くし滝のような汗を掻いている。……幸運Eは辛いね。

「む〜、わたしを無視して〜!!思い知らせてあげ、クシュ!」

両手を上げ、置いてけぼりになっていた現状を抗議するイリヤが、可愛くくしゃみをする。

「大丈夫か、イリヤ?」

「も〜、寒〜い!!それもこれも、シロウのせいなんだから!!」

「す、すまん」

頭を下げる俺。と、視界の端で、誰かが中庭に下りるのを認めた。

「さ、三枝!?」

トテトテとお盆を持って、イリヤの所に歩いていく三枝。

「はい、イリヤちゃん。蜂蜜入りのホットミルクだよ。熱いから気を付けてね?」

「え、あ、ありがと、ユキカ」

湯気の上がるコップを受け取り、口を付けるイリヤ。ゆっくりとコップを傾けていく。

「フゥ、美味しかったわ、それに、温まったし。ありがとう、ユキカ」

「どういたしまして、イリヤちゃん」

「……シロウ、今日は拍子抜けしちゃったから、帰るね。そうね、今度はシロウがわたしの城に来て、待ってるから。それじゃ、またね、シロウ」

「あっ、待って、イリヤちゃん」

「? なに、ユキカ?」

「これ、ウサギのなんだけど、イリヤちゃんに似合うと思って」

脇に挟んでいたウサギの「Real Animals」の包みを渡す三枝。

「良いの?」

「良いよね、衛宮君?」

「イリヤにあげるんなら、良いだろ。家に置いて行った以上、藤ねえも所有権放棄している訳だしな」

「ありがとう、シロウ、ユキカ。それじゃ、わたし、もう行くね」

「うん、またね、イリヤちゃん」

「気を付けてな」

バーサーカーの肩にイリヤが座ると、

「■■■ーーー!!!」

咆哮をあげ、バーサーカーは家の塀を飛び越え、去って行った。と、同時に皆が三枝に駆け寄る。

「ゆ、由紀っち、大丈夫か!?」

「どうしたの、蒔ちゃん?」

「あの巨漢に何も感じなかったのか、由紀?」

「え、あ、うん、おっきな人だったよね」

「そ、それだけしか感じなかったのかい、三枝!?」

「あっ」

「ど、どうしたんですか、三枝先輩!?」

「あの人の分のホットミルク、作るの忘れちゃってた」

脱力する皆。……度胸あるなぁ、三枝。

「待たせたわね!!」
「シロウと皆は、私が護ります!!」

と、着替えた遠坂とアルトリアが中から出てきた。

「あ、あれ?」

「シロウ、敵は?」

「あ〜、もう帰った」

「そ、そう」

「くっ、申し訳ない、シロウ」

「気にするな、アルトリア」

「……ちょうど良いわね。衛宮君、教会に行きましょ」

「教会?」

「ええ、新都にある教会。そこに聖杯戦争の監督役がいるから。一応、面通し位しといたほうが良いかも―」

「いや、止めとこう」

「何でよ?」

「聖杯戦争期間中に、「こっち」の人間が教会に行くのはマスターですって、宣言してるようなものだろ。ただでさえ、俺は目立つしな。それとさ、あそこの神父、言峰綺礼、だっけ?」

「綺礼のこと、知ってんの?」

「知り合いの、知り合いだな。で、その知り合いが言うには、真性の変態だから、関わりを持たないようにって言われてる」

「……否定できないわね」

「まあ、デメリットの方が目立つから、行かないほうが良いだろ」

「そうね」

「でだ、アルトリア。明日、イリヤ、さっき来てたバーサーカーのマスターの所に行く」

「ちょ、本気!?」

「ああ。イリヤとの決着は、俺が付けなきゃいけないから」

「まさか、一人で戦うつもり!?」

「いや、ヘラクレス相手にそりゃ無理だ」

「あのバーサーカーがヘラクレス!?……反則的ね」

「いくら何でも、あれ相手に俺一人で戦うのは無理だな。……だから、アルトリア、君の力を貸して欲しい」

「勿論です、シロウ。これより、我が剣はあなたのために。あなたの運命は我が剣と共に」

「ああ、よろしく頼むな、アルトリア。遠坂は、皆の護衛を頼む。ランサーがいつ襲ってくるか分からないしな」

「……ええ、分かったわ。あんたも死なないようにね」

「ああ、死ぬ気なんて無い」

「衛宮、あの娘と戦うのか?」

「衛宮らしくないじゃん、それ」

「あの娘、衛宮にとっちゃ妹になるんだろ?」

「イリヤちゃん、話せばきっと分かってくれるよ」

「先輩……」

「イリヤを傷付けるつもりは無いから、安心してくれ。ただ、決着は付けなきゃいけないんだ」

「「「「「「「………分かった(ました)(よ)」」」」」」」

「それじゃ、休むか。部屋は、適当に頼む。離れも使っても構わない」

「オッケー」
「了解した」
「了解」
「分かったよ」
「はい、先輩」
「どこ、使わせてもらおっかな〜」

家に戻る面々。と、アルトリアだけが、アーチャーの方に向かう。

「アーチャー、少し手合わせをお願いできませんか?」

「な、何故かね!?」

「明日は、ヘラクレスと刃を交える事になるでしょう。ですから、少し体を動かしておきたいのです」

笑顔で道場にアーチャーを引きずって行くアルトリア。

「り、凛!!」

マスターに助けを求めるアーチャー。

「程ほどにね、アルトリア」

目も合わせず答える遠坂。巻き込むんじゃないわよと背中が語ってる。

「え、衛宮士郎!!」

テンパッテるのだろう。俺にまで助けを求めてきた。勿論、俺も巻き込まれたくない。

「アルトリア、程ほどにな」

「ええ、まかせてください、シロウ」

「な、何をまかせればよろしいのですか、セイバーさん!?」

哀れを誘うほどうろたえたアーチャーと、素敵な笑顔のアルトリアが道場に消えて行った。
道場から、アーチャーの凄惨な悲鳴が、それから2時間ほど響き渡っていた。



あとがき:今回、なかなか大変でござった。動物のコスプレに心踊る福岡博多です。動物のキャスティングは独断と偏見です。こっちの方が良いぜよ!!って、人はじゃんじゃん言ってくらさい。あと、一応、これから先出てくる女性キャラに関しても、御意見欲しいっすね。騎兵、魔術師は案がありますが、姉妹やメイド、男装の麗人は思いついてません。
次回は、バーサーカー戦?元気出していこう!!オ〜レ〜オ〜レ〜、ギル様サンバ〜!!


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