Blade worker Last. 『Blade worker』 <HEY2さん>
「では、行くぞ、士郎。――宝石剣を寄越せ」
「ああ。――投影、開始」
士郎の手に顕れる、複製宝石剣。「真作」に比べれば、お粗末な粗悪品だが、それでも、「封印」を解くには十分だ。
ゼルレッチの手に納まった複製宝石剣が唸りを上げながら、七色の光を放ち始める。そして士郎は、世界を侵略し征服する為の詠唱を、朗々と紡ぎ出す。
「I am the bone of my sword」
「Steel is my body,and fire is my blood」
「I have created over a thousand blades.Unaware of loss.Nor aware of gain」
「Withstood pain to create weapons.waiting for one's arrival」
「I have no regrets.This is the only path――」
「アルトリア、ライダーッ!! 士郎とのラインをすぐに閉じなさいっ!! 魔力が保ちませんよっ!!」
士郎の詠唱を横目に、バゼットがアルトリアと桜との契約が切れた事で当座の凌ぎに、ルヴィアから貰った宝石を呑みこんだライダーに指示を飛ばす。
「ちょ、ちょっと、士郎の『無限の剣製』でも、『この世、全ての悪』を倒すのは、いくら何でも無理でしょっ!!?」
「バゼット、大師父は、いえ、シェロは一体、何をするつもりなのですっ!!?」
「簡潔に言えば、『固有結界』の「深層」の解放ですっ!! リン、ルヴィアゼリッタ、覚悟しなさいっ!! 大量の魔力を、持っていかれますよっ!!」
「――My whole life was "unlimited blades works"」
『固有結界』とは、術者の「心象世界」を以って現実を侵食する結界である。そして、「心象世界」即ち精神には、「表層」領域と「深層」領域とが在る。つまり、『固有結界』にも、「表層」と「深層」が存在する。
『無限の剣製』の「表層」は、通常のそれだ。「衛宮士郎」が視た事のある、知っている「剣」、在り得る「剣」が貯蔵されている。しかし、それは「概念」的に言えば、『無限』とは言い難く「真名」に相応しいものとは言えない。
では、「深層」は? 此処で、少し話が逸れる。
霊長である人類は、その根源で『 』に繋がっている。その繋がりが在るからこそ、魔術師達は『 』を目指す。至れる可能性が、ゼロではないから。
「魔法」は『 』に至った者が手にする事の出来る「神秘」。『固有結界』は、その「魔法」に最も近いとされるモノだ。
即ち『固有結界』の「深層」とは、術者の「心象世界」に於いて、より『 』に近い領域と言える。そして、『 』には、あらゆる『全て』が在ると言われる。当然、その『全て』の中に『無限』も含まれる。
つまり、『無限の剣製』の「深層」とは「真名」に相応しき、『無限』の「剣」がある「世界」―――
「――『無限』封印、解放――」
『無限』に列なるとされる並行世界への路を繋ぐには、『無限』を捕捉出来なければならない。つまり、宝石剣には、『無限』を捕捉する能力が有るのだ。故に、『無限』を封印するにも、解放するにも、宝石剣は不可欠。
そして、ゼルレッチの呪文と共に宝石剣から放たれた七色の光が、士郎に吸い込まれ、士郎の内にある『無限』の「剣」が、『鞘』から解き放たれる。
「"――extreme"」
――たった、一言。その一言が、士郎の「深淵」に在る「門」を開く鍵だった。
奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る、炎が奔る。地だけではなく、天を覆うように宙空も奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る奔る。
――それはまるで、創世の炎の繭。「世界」の卵。
そして、炎の繭が内から弾け飛んだ瞬間、あらゆる物が破壊され、再生し、「世界」が誕生する。
――果てなき蒼穹と荒野に、『無限』の剣が列なる「衛宮士郎」の「深奥世界」――
『無限の剣製、極奥』
これが、衛宮士郎の封じられた鬼手。此処は、「衛宮士郎」が視た事のない、知らない「剣」、在り得ない「剣」までもが貯蔵された、真実『無限』の「剣」を内包する「世界」。
「第二魔法」を備えた、『この世、全ての悪』を討ち倒す事の出来る、ただ一つの手段である。
「な、何か、洒落にならない魔力を持ってかれてるんだけどっ!?」
ラインを通じて半端ではない魔力を持って行かれ、膝を付く凛とルヴィア。
「士郎を死なせたくなければ、耐えなさいっ!!」
「ど、どういう事ですの、バゼットッ!?」
「今の士郎は「封印」されていた『無限』と言う人の手に余る概念を、展開していますっ!! その為『固有結界』の展開維持に必要な魔力が不足してしまった場合、士郎は「封印」されていない『無限』をその「内面」に納める事によって自壊してしまいますっ!!」
「じ、自壊って、……じょ、冗談じゃないわよっ!!」
「そ、そんな事、させる訳には行きませんわっ!!」
「ええ、勿論ですっ!! 士郎が『この世、全ての悪』を倒し、ゼルレッチ師が再び士郎に「『無限』封印」を施すまで、魔力を士郎に供給し続けますよっ!!」
「「ええ!! 分かっ(りまし)たわ!!」」
バゼット、リン、ルヴィアの魔術回路は、最初からトップ・ギアで強大な魔力を精練し、ラインを通じて士郎に送り込む。
『――――――――』
『この世、全ての悪』が鬨の声を上げる。士郎を「敵」と定めたらしく、士郎ただ一人に攻撃を繰り出す。
視ただけで人を狂わせ、触れるだけで命を奪い取る無数の「呪い」の触手が、士郎に猛然と襲いかかって来る。
対する士郎に意識は無い。『無限』の処理に、意識の全てを費やしており、今の士郎を動かすのは、原始的な闘争本能のみ。そして純粋な闘争本能は、常に戦いに於いて『無限』の中から最善の「剣」を選び取る。
士郎が引き抜いたのは、不動明王の持つ降魔の神剣を髣髴とさせる直刃の古剣。振るわれたその剣から、輝く黄金の炎が烈しく猛りながら迸り、襲い来る全ての触手を呑み込み悉く灼き尽くす。
『――――――――』
次の『この世、全ての悪』の攻撃は、その全てが「天地乖離す開闢の星」に匹敵する魔力の砲弾の雨霰。受ければ塵すら残らぬ破壊の嵐。
それに対し士郎が引き抜いたのは、木の根を縒り合わせた様な柄から奈落の底を思わせる闇色の刀身が伸びる剣。そして、翳された剣の闇色の刀身は、士郎に迫る必殺である魔力の砲弾を残らず呑み込み、呑み込んだ魔力を糧に地平線の彼方にまで伸びる巨刃へと成長する。
「ほう、喰らった魔力を糧に成長する剣か。魔道に携わる者の天敵みたいな剣じゃの」
感心したゼルレッチの言葉を余所に、『この世、全ての悪』へ巨刃を振り落とす士郎。だが、その一撃は、『この世、全ての悪』に、「届かなかった」。
「……第二魔法の応用による『歪曲次元結界』か」
『この世、全ての悪』が士郎の攻撃に対し行ったのは、第二魔法を用い世界をずらす事だった。それは、一種の絶対防御。そう、存在する「世界」が異なれば、どんな攻撃も「届かない」。
「……じゃが、それで王手じゃ」
だが、その一種の絶対防御を、ずらされた「世界」を越える「剣」が、ここには存在している。
士郎が次に引き抜いたのは、宝石の刀身を持つ大剣だった。
「……ア、アレって、もしかして」
「……まさかとは思いますけれど、アレは」
「儂は、アレを『窮極宝石剣』と呼んどる。前の解放時にな、儂の『歪曲次元結界』に対して、アレを持ち出されての。……冗談抜きに殺されるかと思ったぞ」
『――――――――』
『窮極宝石剣』の脅威を感じ取ったのか、『この世、全ての悪』も次の攻撃を繰り出す。
第二魔法の応用による、次元の断層を用いた斬撃。更に、多重次元屈折現象を使い、斬撃を無数に増殖させる。それを視覚化できたのなら、士郎を襲うスコールの如き烈しさを持つ斬撃の嵐を目に出来ただろう。
『――――――――』
だが、士郎の持つ『窮極宝石剣』から迸る七色の極光は、その全てを薙ぎ払った。刹那、『無限の剣製、極奥』を満たした七色の極光は、「世界」を越え、『この世、全ての悪』を呑み込み、その後ろに在った「並行次元」への繋がりすら絶ち斬った。
そして、七色の極光が消え去るのと同時に、『この世、全ての悪』は完全に消え去っていた。―――つまり、『この世、全ての悪』に勝利したのだ。
「リンさんっ、ルヴィアゼリッタッ!! 少しだけ、二人だけで、『無限の剣製、極奥』を維持して下さいっ!!」
「はあっ!? い、いきなり、何言って、くっ、くぅ〜〜〜〜〜っ!!?」
「バゼット!? ど、どうしたと言うので、クッ、クゥ〜〜〜〜〜ッ!!?」
『この世、全ての悪』が消滅したのを確認した瞬間、切羽詰ったバゼットの言葉に是非を問う暇もなく、凛とルヴィアの負担が増す。
「“――後より出でて先に立つもの”」
バゼットの呪文により起動・展開される神代の魔剣。狙うは、『窮極宝石剣』をこちらに向けて振るおうとしている士郎!
「――斬り抉る戦神の剣!!」
『無限の剣製、極奥』内で、士郎が持つのは、常に「切り札」級。故に、神代の魔剣は因果を逆転し、攻撃が放たれる前に、士郎の手より『窮極宝石剣』を弾き飛ばす。
「――今じゃ!! アレを確保せい!!」
「ぬぉうっ!!?」
ゼルレッチが弾き飛ばされた『窮極宝石剣』に、自分の一番近くに居たアーチャーを投げ付ける。世界を制する事のできる豪速球の如く。
『窮極宝石剣』を空中でキャッチしたアーチャーは難無く着地。すぐにゼルレッチの元に戻ってくる。
「いきなり、何をするのだっ!!?」
「ええい、五月蝿いわいっ!! 緊急事態じゃ!! 文句は後にせいっ!! 儂は、今より「『無限』封印」の準備に入る!! 後は、任せるぞっ!!」
「あ、後は任せるって、ど、どう言う事なのよ、バゼット?」
「そ、それに、シェロは先程、私達を攻撃しようとしていた様に見えたのですが?」
「……今の士郎は、闘争本能で動いている状態です。当然、敵味方の区別は付いていません。攻撃する優先順位は保有する戦力の量に因ります。つまり、『この世、全ての悪』を倒した今、攻撃の対象は……」
「「……私達って事な(です)のね」」
「その通りです。そして今、私達のすべき事は、「『無限』封印」が発動するまでの間、士郎を殺さないように自身を防衛することです! “後より出でて先に立つもの”、――斬り抉る戦神の剣!!」
再び逆行剣で、士郎の手から「剣」を弾き飛ばすバゼット。
「こちらから先に攻撃すれば、自動的に士郎は防御の為の「剣」を引き抜きます!! 攻撃の為の「剣」に比べれば、こちらへの脅威は少ない………筈です!! 士郎を殺さないように気を付けながら、間を開けず攻撃する事で士郎の動きを抑え込んで下さい!! “後より出でて先に立つもの”、――斬り抉る戦神の剣!!」
「――承知しました!!」
「――お任せ下さい!!」
「――フッ、そのような事、造作も無いわっ!!」
魔力供給の為、動けない凛、ルヴィア、バゼット、そして、その三人と気絶した桜を抱えて動くアーチャーを除いた三体のサーヴァントが、士郎の前に立ち塞がる。
「……そう言えば、ここに突き立った「剣」は、私にも使えるのでしょうか?」
ライダーは自分の近くに突き立った「剣」を引き抜く。かなりの力を感じるが、能力が全く分からない。
試しに振ってみる。と、刀身が振るった軌跡上に間断無く増殖し、増殖した刀身は攻撃の対象、即ち士郎に向け凄まじいスピードで飛来する。
その飛来した刀身を、引き抜いた音叉のような剣から生じた振動波で砕く士郎。その振動波はライダーをも呑み込もうとするが、ライダーは自身の持つ高機動力によって振動波をかわす。
そして、そのかわした軌道に沿って、ライダーの持つ「剣」の刀身が増殖、士郎に向かって飛ぶ。
「偶然とは言え、私に適した「剣」を手にできたようですね。……行きますよ、シロウ!!」
その高機動力を以って、士郎の周囲を駆け回るライダー。そしてその軌道上から、士郎に向け飛来する無数の刀身。その全ては士郎の持つ音叉のような剣から生じる振動波に砕かれているが、士郎の動きを抑え込むと言う目的は果たしている。
「……フム、蛇め、やるではないか。だが、所詮我の前座にしか過ぎぬ。ここで、義父を華麗に抑え込めば、トウシの好感度は……ハハハハハハハハハ!!!」
何を想像したのか、鼻血を垂らしながら高笑いを上げるギルガメッシュ。そして彼も、ライダーに倣い、自分の近くに突き立った「剣」を引き抜く。
「フハハハハハハハ、王たる我に相応しい「剣」はこれだ、イ゛ジュダッ!!!?」
が、引き抜いた瞬間、奇声を上げて気絶した。白目を剥いて、口から泡を吹き、海老反る様に激しく痙攣しながら。
ギルガメッシュが引き抜いたのは、「とっても臭い剣(仮名)」である。この魔剣の放つ「臭い」は、竜種だろうが、嗅覚その物が無いモノだろうが、問答無用で悶絶させ行動不能に陥れる。超狂気の「外なる世界」の、無貌にして千の貌を持つ邪神ですら、嫌がって逃げ出すそうだから、その「臭い」、推して知るべし。
ただ、どんな存在も行動不能に追い込む凄く強力な「剣」である事には違いなく、幸運が高い者が手にし易い傾向にある。幸運Aのギルガメッシュが手にしたのは当然であった。
「――クッ!!」
ライダーの攻撃は間断無く続いていたが、遂に士郎の振るう「剣」の振動波がライダーを捉える。辛うじて直撃を避けるも、持っていた「剣」が砕け散る。
「――シロウ!! 私が、あなたを押し止めてみせましょう!! ――この「剣」です!!」
アルトリアはスキル「直感A」に従い、士郎を抑え込む事の出来る強力な「剣」を選び取る。そして、アルトリアが引き抜いた「剣」は、
「――あらん♪ 貴女がアタシの今回のマスターね♪ 貴女、アタシと同じピュアハートの持ち主みたいねん♪ アタシのパァゥワァが、ビンビンに漲っちゃってるから、判るわぁ〜♪」
刀身が、マッスルだった。マッシブだった。マッチョだった。そのうねる筋肉は、オイルを塗ってあるのかテラテラと輝いていた。しかも、オネエ言葉で、あまつさえアフロだった。……恐ろしく濃ゆかった。
「―――は?」
アルトリアは、思わず目を点にし、間の抜けた声を漏らしてしまうくらいに呆けてしまう。そんなアルトリアを置き去りにして、「キン肉剣(仮名)」は士郎にその肉体?を向ける。
「あらぁ〜〜、イ・イ・お・と・こ・じゃな〜〜い♪ 何だか、アタシィ、燃えてきちゃうわっ!! ――受け取って、アタシの愛の奔流ッ!!」
士郎に向け怒涛の拳撃を繰り出す「キン肉剣(仮名)」。闘争本能のみで動いてる筈の士郎が顔色を変え、少し後退したかに見えたのは、気のせいではなかろう。誰も気付く事はなかったが。
とにかく、迫る拳撃の瀑布を前に、士郎は別の「剣」を引き抜き、我武者羅に振るい始める。1回目の斬撃は二つに、2回目の斬撃は四つに、3回目の斬撃は八つにと、その「剣」を振った回数の二乗分の斬撃が生まれていく。そして瞬く間に万、いや億に届く斬撃が拳撃の瀑布とぶつかる。
「アアッ、凄いわっ!! 刺激的よっ、アナタッ!!」
士郎が「剣」が振るう度にその二乗分増えていく斬撃と、拮抗する拳撃を繰り出し続ける「キン肉剣(仮名)」。何だかんだ言っても、強力な「剣」には違いないようだ。……剣と言う分類に属するかどうかには、甚だしく疑問が残るが。
「―――行くぞ!!」
士郎と「キン肉剣(仮名)」との拮抗が続く中、ゼルレッチが声を上げる。そして、ゼルレッチの持つ『窮極宝石剣』から七色の極光が迸り、『無限の剣製、極奥』を埋め尽くす。
「――『無限』封印、発動――」
「いやぁ〜〜ん、まだアタシの愛を伝えきれてないのにぃ〜〜」
『無限の剣製、極奥』内に存在する『無限』の「剣」を捕捉。捕捉した『無限』の「剣」を『窮極宝石剣』の中に収束させ、『窮極宝石剣』を『鞘』に納める。――これが「『無限』封印」の全容だ。
――ドサッ
「「「「「シロウ/士郎/シェロッ!!」」」」」
「『無限』封印」が成功した瞬間、士郎は糸の切れた人形のように倒れる。意識を失っている為か、『固有結界』は消えていた。
「……士郎は生きとるかっ!!?」
士郎に駆け寄ったアルトリア、凛、ルヴィア、バゼット、ライダーに問い掛けるゼルレッチ。
「……大丈夫のようですっ!!」
それは、安堵の表情を浮かべるアルトリア、凛、ルヴィア、ライダーの様子からも窺えた。
「フゥ、これで橙士に嫌われずに済みそうじゃわい」
ゼルレッチにとって、一番の問題はそこのようだった。
「……さて、『孔』は、どうしたもんかの」
士郎の無事を確認したゼルレッチの視線の先には、「聖杯」と言う名の『孔』が開いていた。『この世、全ての悪』が消滅した事で、無色無尽の魔力の「聖杯」が降臨していた。
その『根源の渦』は、全ての魔術師が求めるモノ。当然、「時計塔」は出張ってくる。監督役を担っていた「聖堂教会」も動くだろう。「巨人の穴倉」、「彷徨海」も黙っているとは限らず、中東や大陸すら何らかの動きを見せる可能性もある。冬木が「時計塔」に属するとは言え「日本」と言う場所は、他勢力の介入に好都合な地なのである。
また、その利用価値を思えば、様々な勢力に動きが有るに違いない。そうなれば、真実「聖杯」を巡る「戦争」が勃発してしまうだろう。それほどまでの代物なのだ、今顕現している「聖杯」は。
「……と言う訳じゃが、どうする?」
「ど、どうするって言われても……」
この場に居て受け答えできるマスター、即ち凛に問い掛けるゼルレッチ。問い掛けられた凛も突然の質問に戸惑う。が、その明晰な思考は、ゼルレッチの示唆した予想が、高い確率で到来する未来であると結論付ける。
そうなれば、士郎は戦う事になるだろう。それこそ「こちら側」の世界全てと。……なら、答えは決まっている。回避できる戦いなら、回避するまでだ。
「……「聖杯」は閉じます。アレはこの戦争の勝者である士郎のモノで、士郎は閉じるに決まってますから」
「そうか。まあ、好きにするといい。おまえ達が決める事じゃからの。しかし、どうやって閉じる? 手っ取り早く、「大聖杯」ごと壊すか?」
「―――「聖杯」を閉じるは、我が役目だ、宝石翁」
背後より響く鈴のような美しい声。そこには狂える巨漢を従えた、銀髪に赤い目を持つ黄金の聖女が居た。
「ほう、久しいな。聖杯の女よ。で、「聖杯」を閉じると言うたが、良いのか?」
「―――我は、既に死者。「聖杯」を閉じるは、我が意思に非ず。この身の意思。死者が生者に勝る理は無きが故に、我は「聖杯」を閉じるのみ」
そして、黄金の聖女は、「聖杯」へと歩き出す。それを、
「……待……つ…んだ、イ…リヤ……」
意識を取り戻した士郎が押し止めた。
「……「聖杯」…を、閉め…たら、イリヤ……は、どう…なる……んだ?」
「―――戻れぬであろう。しかし、それもこの身の意思。……何故、止める?」
「……約束…したんだ……。…一緒に……居るって…」
よろめきながらも立ち上がり、黄金の聖女を阻むように立ちはだかる士郎。
「……行かせ…ないぞ、……イリヤ!」
互いに思い合うが故に、対峙する姉弟。
「――ならば、私がその役目を引き受けましょう」
そう言って、二人の間に割って入ったのは、アルトリアだった。
「リズライヒと言いましたね。貴女と契約を結べば、ラインを通じてサーヴァントでも「聖杯」を閉じる事は可能なのではないですか?」
「―――無理だ。「聖杯」の向こう側に至った瞬間、サーヴァントは無色の魔力へと還る。「聖杯」を閉じる暇なぞ無い」
「私は、例外的に肉体を持つサーヴァントなのですが……」
「―――同じ事だ。肉体程度では、何の護りにもなりはしない」
「ですが、「聖杯」を閉じる一瞬を、手にする事が出来るかも知れない」
そうして、黄金の聖女へと一歩踏み出すアルトリア。
「……アル…ト…リア」
「……シロウ、聖杯戦争は終わります。いえ、貴方が終わらせた。そして、私の貴方の剣としての役目も終わった。――だから、今度は私が、私の「物語」を終わらせないと」
士郎の声に振り返ったアルトリアは、未練を感じさせない鮮やかな笑顔で答える。だから、士郎もその笑顔に、応えた。
「――投影、開始」
士郎の手に顕れたのは、アルトリアが失ってしまった『鞘』、その贋作。だが、決して「真作」に劣らぬ、想いの投影。
「……シロウ」
『無限の剣製、極奥』を解放した反動が癒えきらぬ内に、『鞘』を投影した負担で再び意識を失う士郎。
「アルトリア! ……士郎に何か伝える事はある?」
『鞘』を受け取ったアルトリアに凛が問い掛ける。
「―――最後まで、貴方の剣として戦い抜けた事に感謝していると、伝えて下さい」
「―――分かったわ。……さようなら、アルトリア」
「ええ。……シロウの事、頼みます、リン」
後は、特に語るべき事はない。何かの「終わり」とは得てしてそう言う静かなモノなのかも知れない。
――そうして、『鞘』の護りを得たアルトリアによって、「聖杯」は閉じられ、それと同時に、最後の「聖杯戦争」の幕も閉じたのだった―――
「……ん…」
「士郎、気付きましたか?」
「……バゼ…ット? ここは?」
士郎が意識を取り戻したのは、バゼットにおぶられていた時だった。既に、衛宮邸の近くまで来ている。……流石に武闘派魔術師なだけあるよ、バゼットさん。
「……アルトリア…は?」
「……還ったわよ。伝言、『―――最後まで、貴方の剣として戦い抜けた事に感謝している』って」
「そうか。……あ、バゼット。もう自分で歩ける」
バゼットの背中から降り、家路を歩き始める士郎。この「終わり」は別れではなく、それぞれ望んだ未来に還っただけ。だから、立ち止まる事なく、歩いて行こう。望んだ未来に向かって――
――ガラガラガラ
「――ただい「――――シロウッ!!」……ま?」
玄関を開けた士郎の胸に飛び込んできたのは、――還った筈のアルトリア、だった。
『……え?』
事態が呑み込めない帰還組を置き去りして、士郎の胸から顔を上げたアルトリアは、
「――――シロウ、貴方を愛してします」
愛の言葉を紡いで、まだ呆けている士郎に口付けした。
『アッーーーー!!?』
凛とルヴィアの叫びが衛宮邸を揺るがした。……バゼットとライダーは、後で自分もキスしようと心に決めただけだったが。
「――何じゃ、もう来とったのか、マーリン」
「――遅かったのう、ゼルレッチ」
綾子、楓、鐘、由紀香とも戻ってきた事を喜び合った士郎達は居間に入る。居間には、四人の来客が居た。クラシカルな魔法使いの出で立ちをした老人。ゼルレッチの言葉から、この老人は、アーサー王の伝説で語られる老魔術師マーリンらしい。
立てば腰近くまで伸びた髭が三つ編みにしてある。……勿論、橙士の手によるものだ。それを見て、ゼルレッチは自分も髭を伸ばす事に決めたが、どうでもいい話だ。
「お久し振りですね〜、ゼルレッチさん」
「おっひさぁー、ゼルゼル」
「うっうっ、リアちゃんが、リアちゃんがぁ〜」
と、他の面々と一緒に橙士に構っていた三人の貴婦人。……一名、凄く落ち込んでおり、橙士がそれを慰めていたが。
「……お主達が、「現世」に出て来ても良いのか? ニミュエ、ヴィヴィアン、モルガンよ」
「あらあら〜、だって、私たちもシロウさんやトウシちゃんに会いたかったから〜」
「リアちゃんが護るべき「ブリテン」の危機ももう無いに等しいんだし、堅い事言いっこ無しよ、ゼルゼル」
「……うっうぅ〜〜、ワタシの可愛いリアちゃんが、男に奪われちゃったぁ〜〜」
「なかないで、モルガンおねえちゃん」
「……こうなったら、トウシちゃん、アタシと一緒に妖精郷に――」
『――殺すぞ/わよ/してくれようか?』
橙子、青子、アルトルージュが殺気を漲らせる。
「――フン、ワタシも伊達に妖姫なんて呼ばれていないわよ?」
その殺気に応える様に、モルガンも殺気を漲らせる。……橙士が泣きそうになり、ぶつかる事は無かったが。
「……シロウよ。礼を言う。お主のおかげで、この馬鹿娘もようやく「人」に戻れた」
マーリンが穏やかな眼差しで、士郎に向かって頭を下げる。
「えっ、あ、いや、俺は別に何もしてない。アルトリアが自分で「間違い」に気付いて、それを正しただけだ。……ところで、アルトリアはどうやってここに?」
「……シ、シロウは、わ、私に逢いたくなかったのですか?」
瞳を潤ませながら問い掛けてくるアルトリア。「王」の責務から解放された事で、感情を素直に表に出せるようになったらしい。……士郎の精神は大ダメージを負った。
「そ、それは無い。俺もアルトリアとまた逢えて、嬉しいさ。けど、その、もう逢えないと思っていたからさ」
「……アルトリアは妖精郷で眠っとっただけじゃからな。伝説でも言うとるじゃろう。未来に目覚めると。まあ、目覚めたのは「王」ではなく、恋する乙女だったと言うだけじゃ」
「……そ、そうなのか。じゃあ、ここに居るのは俺達の知ってるアルトリアなんだな」
「はい、シロウ。―――これより、我が剣はあなたのために、そして、あなたの運命は我が剣と共に在る事を許してくれますか?」
「―――ああ、一緒に往こう、アルトリア」
「はい。………では、さっそく婚儀を挙げましょう」
「…………………………はい?」
アルトリアの言葉に居間の時間が凍る。そして、士郎に集まる強大な圧力を伴った視線。
「……え〜っと、アルトリアさん? と、突然、何を?」
「シロウ、今、私の求婚を受けてくれたではありませんか」
「え゛っ?」
―――これより、我が剣はあなたのために、そして、あなたの運命は我が剣と共に在る事を許してくれますか?――
―――ああ、一緒に往こう、アルトリア――
確かに先程の受け答えは、求婚みたいだ。剣と言う言葉を絡めている辺り、アルトリアらしいと言える。……なんて言ってる場合じゃない。
「士郎は私の旦那様になるのっ!!」
「シェロは私の伴侶ですわっ!!」
「そう言う事なら、へこたれてる場合じゃありません!! わたしが士郎さんの奥さんなんですっ!!」
「士郎は私の夫です!!」
「シロウは私の御主人様です!!」
「シロウはわたしのモノなのっ!!」
「士郎と一緒になるのは、あたしだっ!!」
「士郎の奥さんの座はあたしのもんだぁ!!」
「士郎の妻の座は譲れないな」
「お、落ち着いて、み、みんな」
臨界をぶっちKILL、凛、ルヴィア、別室で休んでいた筈の桜、バゼット、アルトリアと入れ替わりに士郎と契約を結んだライダー、イリヤ、綾子、楓、鐘。由紀香だけは必死にみんなを抑えようとしているが、……無理であろう、流石に。
「……私の記憶が確かなら、シロウは正式に婚約もしていなければ、婚儀も挙げていないはず。ならば、私が求婚する事に、誰も異議を唱える事は出来ない筈です」
猛るみんなに対するアルトリアは、どこからか取り出したパプリカに齧り付きながら、そんな事を言う。……「料○の鉄○」?
「面白くなってきたのぅ、マーリン」
「そうじゃのぅ、ゼルレッチ」
いつの間にか、妖精郷の美酒を甕ごと呑んでいる老魔法使いと老魔術師。……間違い無く出来上がっている、この二人。
「――ふむ。では、儂、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグの名において、『正妻戦争』の開催を宣言するっ!!」
「って、何言ってんだっ、爺さぁーーーーんっ!!!?」
赤ら顔のゼルレッチはトンでもない事を言い出した。――最早、この「戦争」を止める手立ては、士郎の手にはなかった。
「うわっ、おっもしろそぉ〜♪ それじゃ、アタシはカエデっちの味方しようかなぁっと」
「あらあら〜。それじゃあ、私はカネさんの味方をしましょう〜」
「それじゃ、ワタシはユキカの味方をするわ。……リアちゃんも可愛いけど、ユキカも可愛いわねぇ」
「手助けは平等でなくてはのう。と言う訳で、ワシはアヤコ嬢ちゃんの味方をしようかの」
「いや、だから、待ってくれっ!!?」
士郎の懇願は誰にも届く気配がなかった。それどころかここに居る殆ど全員が、『正妻戦争』にノリノリだった。
「……分かったわ。それで手を打ちます。ところで、貴女の創る『人形』は、その、子供を授かる事は出来るのかしら?」
騒ぎに関せずと言った感じで話し合っていた橙子とメディア。話し合いの結果、メディアは橙子から『人形』を得られるようだ。
「橙士は私が産んだ子供だ」
「そう! ……ねえ、貴女はあの騒ぎには参加しないの?」
「別に。私には橙士が居れば良い」
「……そう。アナタはどうなの?」
「……私は愛人一号と言う事で」
カレンは参加する気はないらしい。あと、橙子が台詞の直後にニヤリと口元を歪めたのを、メディアは気付いていた。
「ねえ、アルトルージュ、誰が勝つか賭けない? 私は今日、橙士と一緒にお風呂に入る権利を賭けるわ!」
「ほう、面白いではないか、青子よ。ならば妾は、今夜、橙士と一緒に眠る権利を賭けようぞ!」
青子とアルトルージュは、楽しむ気満々だ。ちなみに二人とも、橙士と何の約束もしていない。
「それでは、士郎。――逝って来い」
ゼルレッチが指を鳴らすと「次元」がずれて、士郎達は衛宮邸であって、衛宮邸でない場所に転移させられる。……映像と音声は、ゼルレッチ達の居る「次元」に届くと言う、無駄に凄い芸当であった。
「――って、なんで俺まで一緒なのさっ!!?」
見渡せば、輝く星鍛の聖剣が、唸る贋作宝石剣×2が、「聖杯」に一時でもなった事で開いた「道」から流れ込む極大の魔力が、展開された神代の魔剣が、力を漲らせる狂える巨漢が、手綱を噛んだ幻想種が、人の世に知られていない妖精郷のトンでも魔具が、準備万端だった。
「では、――正妻の座を欲するならば、汝、自らの力を以って、最強を証明せよ――」
「いや、妻に「最強」なんて属性、必要ないだろっ!!? み、みんな、待て、待つんだ、っああぁぁぁぁぁぁっあぁぁぁあぁぁ!!!!」
士郎の絶叫が響く。頑張れ、士郎! 負けるな、士郎! ……とりあえず、生きてるんだから、大丈夫だ!!
ちなみに、この『第一回正妻戦争』の勝者は、
「――とはいえ、せっかく育てたものを他人に持っていかれるのも業腹だ」
と言って、最後に立っていたアルトリアを倒した橙子さんでした。
――衛宮切嗣が願った『幸せ』。それを今の衛宮士郎が叶えているかは分からない。だが、今、彼の周りには笑顔がある。かけがえのない大切な笑顔が。
そして続く未来も、その笑顔と共に在り、その笑顔を士郎は護り続けていくだろう。それが、衛宮士郎の決して違える事のない『誓い』―――
――Blade worker End.
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