Blade worker 38 「二匹の暴れ龍」 <ゼファーさん>
『箱』の中に押し込められた士郎とアルトリアは、一瞬の浮遊感を感じた後、幾重もの紗のベールが取り囲む蟲惑的な寝台の上にいた。
そこは妖しい桃色の灯りに照らされ、和名「禁忌」がBGMとして流れている。……あまりにも直球な場所だ。
「……爺さん、何考えてんだよ?」
確かに、『魔法』の使い方として著しく間違っている。更に言えば、内装は橙子が担当している。「魔法使い」と「封印指定」とは欠片も思えない力の使い方である。
「「………」」
で、いきなりこんな場所に投げ出されたからと言って、すぐさま行動できる筈もなく、気まずい雰囲気で二人は腰を下ろす。
沈黙の内に刻一刻と過ぎ去っていく時間。そして、その沈黙に耐え切れず口を開いたのは、アルトリアの方だった。
「――シロウ、私を抱かないのですか?」
「…………え?」
アルトリアの言葉は、士郎にとってあまりにも意外だった。だから呆けてしまった。そして、その士郎の反応を、アルトリアは「否定」と取ってしまう。
「……私は、確かに女性としての魅力に欠けます。ただでさえ、シロウを愛する者達は魅力溢れる女性ばかりです。シロウにとって私を抱く事は不本意かも知れませんが、事態は急を要しています。ここは我慢をすると言う訳にはいきませんか?」
「…………はい?」
士郎にとって、アルトリアの言葉はあまりに理解不可能な内容で、完全に思考がフリーズしてしまった。アルトリアが言う事はあり得ない。
士郎も男だ。抱きたい抱きたくないで言えば、そりゃ抱きたいに決まってる。アルトリアはすごく綺麗で魅力的だ。共にいた時間は十日程にも関らず、無節操を承知で正直な所、アルトリアに惹かれている事を自覚している。
だからこそ、アルトリアの言葉は、在り得ない故にその衝撃も大きく、士郎の思考はそこで真っ白になってしまう。
そして、反応を示さなくなった士郎に、アルトリアも自分を抱く事がそこまでイヤなのだと思い込み、俯いて微動だにしなくなる。
「「………」」
硬直し呆然とした士郎と沈痛に俯くアルトリアは、全く動きを見せなくなる。……闖入者が現れるまでは。
「……この非常時に、揃って時間を無駄にする余裕があるなんて、流石、最優のサーヴァントとそのマスターですね」
「!? カ、カレン!? な、何で、ここに!?」
「……いつまで経っても出て来ないから、ケダモノが盛って出て来れないのかと思いまして、手綱を付けに来たつもりなのですが」
言って、士郎とアルトリアを睥睨してから、一言。
「……男の恥」
ぼそっと、しかしながらハッキリと、聞き捨てならない事をカレンは口にした。……その言葉は、据え膳に手を出していないからだろうか?
「……なんでさっ!? そもそもラインをキチンと繋ぐなら、他にも方法があるはずだろ!?」
「性交以外の方法は準備をしている時間がないでしょう。と言う訳で、さっさと性交して下さい」
「直球で言うな! だ、大体、俺が良くてもアルトリアは」
「私なら構いません、シロウ」
「だそうですが」
アルトリアとカレンの視線に射竦められる士郎。それでも弱々しく、まだ反論をしようとする。
「で、でも、アルトリア、初めてだろう!? お、俺なんかがそう言う事しちゃダメじゃないか!?」
士郎にして見れば、それがこの状況を覆せそうな最大の要因だったのだが。それをカレンは一笑に付す。
「……ヒドイ男ね。……それで? 何もしないまま『この世、全ての悪』が人を滅ぼすのをただ見ているつもりなの?」
「……そ、それは」
士郎も現状を頭では理解している。だが、心が納得できないだけだ。アルトリアをこんな理由で抱く事が正しいのかと。
しかし、士郎のそんな煩悶を知った事か、いや知った上で、カレンは追い討ちのように言葉を続ける。
「彼女の『聖剣』が『この世、全ての悪』に対して最も有効なのは、言うまでもないでしょう? 最も犠牲の少ない選択を放棄するの? それは『正義の味方』として本当に正しいのかしらね?」
カレンの言葉は士郎の逃げ道を塞いでいく。いや、最初から、士郎に与えられた選択肢は一つだったのだ。カレンの言葉は、士郎にその事を認識させたに過ぎない。
「…………すまん、カレンの言う通りだ。アルトリアが許してくれるのなら、俺に異存はない。勝つ可能性が少しでも上がるなら、迷ってる場合じゃないよな」
「……その通りです、シロウ。あなたが気に病む事はありません。私はあなたの『剣』なのですから」
「……いや、気にするに決まってるだろ。本当に御免、アルトリア。……好きでもない男に、体を許させる事になっちゃって」
「呆れた。本気でそう思ってるのね。本能だけで生きているから、人の気持ちを察する思考が出来ないのかしら?」
「……言いたい放題だなって、カレン? 戻らないのか?」
「何故?」
心の底から、士郎の言っている事の意味が解らないと言った感じで小首を傾げるカレン。
「何故って、いや、混ざる気なのか!?」
「ええ。あなたを求める渇きを満たし潤す手助けをする事も、私の労働の一つですから」
カレンの意味深な言葉と視線から逃れるように、アルトリアが俯く。
「は? どういう事だ?」
「解らないのなら気にしない事です。……それと、わたしに自分の欲望を持つように諭したのは、あなたでしょう? 今更、自分の言葉に責任を持たないのは、「正義の味方」としてどうでしょうか?」
「た、確かにそうだけど、……えっ!?」
「私もあなたに抱かれたくなった。そう言う事です」
狼狽する士郎に、蕩けるような微笑を向けながら、カレンはハッキリと告げたのだった。
貞淑な修道女の法衣の下から現れたのは、蟲惑的な肉置きの肢体。白い肌を包む紫陽花の刺繍が施された黒い下着が、息を呑むほどに煽情的だ。
「……衛宮士郎からの、バースデイプレゼントです」
「!! シ、シロウ、あなたと言う人は!?」
カレンの妖艶さに目を奪われていたアルトリアが、カレンの言葉に視線を厳しい物に変えて、士郎に移す。
「いや、嘘を付くな、カレン! 俺のプレゼントは、俺が作ったオルゴールだったろ!!」
「ええ。この下着は、橙子さんより頂きました」
「………なに考えてんだ、先生は!?」
「あなたを困らせる事でしょうね。その点に関して、私はあの人ととても気が合います」
カレンの言葉に、士郎の脱力レベルが上がった。士郎は萎えている。
「では、アルトリア。あなたの渇きを、満たしましょう」
項垂れる士郎を無視して、カレンはアルトリアににじり寄る。傍から見れば、今のカレンとアルトリアは、獲物を嬲ろうとしている黒豹とその獲物のような様相だ。
「カ、カレン、ま、待って下さい。わ、私はシロウに抱かれる事は了承しましたが、あなたに肌を晒す理由はない筈でしょう?」
「……つれないのね。私とあなたは、同じ渇きを持つ者だと言うのに」
「!! そ、それは……」
「それにイヤなのなら、私をどうとでもできる筈よ? あなたの力なら私を拒む事など容易いでしょう?」
「………」
アルトリアはカレンが怖かった。カレンはまるで「鏡」だ。カレンを見ていると、自分が抑えようと、目を逸らそうと、隠そうとしていた「想い」が、晒されてしまうような気がする。
『箱』の外でゼルレッチの話を聞いた時、確かに胸の奥が高鳴ったのを感じた。だが、それは恥ずべき、そして許されざるモノだ。ただ、ラインを繋ぐ為だけ。――そうでなければ、「想い」が痛くて耐え切れそうにない。
「隠さなくても良いわ。耐えなくても良いの。……「想い」は自由で良いのよ」
心の内を読み取ったかのような言葉と共に、アルトリアの服を脱がしにかかるカレン。
「今のあなたは王でもなければ英霊でもない。あなたは衛宮士郎の奴隷。だから、あなたが彼を「想う」事は、何一つおかしくはないわ」
「……シ、シロウを「想う」事は、おかしく、ない」
小川のせせらぎのような衣擦れの音と共に、カレンの手で脱がされていくアルトリアの服。それは、楽器を弾く様なしなやかなで洗練された手際を以って、騎士
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