Blade worker 37 「無為なる神父」 <戯言草紙さん>



――2月12日・十三日目

朝、目を覚ました士郎は、自己嫌悪に悶えていた。「裏・士郎」状態の己の所業をしっかりと憶えているからだ。

「……俺って奴は、俺って奴はぁ〜〜」

今更、何をと言う気がしないでもないが。

「士郎様、おはよう御座います」

「!!! ……ア、アレックスさん」

自己嫌悪中の士郎の背後に、突如として現れるアレックス。この神出鬼没っぷりも、執事の嗜みである(アレックス談)。

「浴室の準備は既に整っております。こちらの事は私めに任せ、お嬢様と遠坂様をお連れになり、身支度をお済ませ下さい、士郎様」

「……あ、あの「こちらの事は私めに任せ、お嬢様と遠坂様をお連れになり、身支度をお済ませ下さい、士郎様」は、はい」

士郎を圧倒する威圧感を発するアレックス。……流石に、今回の士郎の所業は、彼としても看過できる物ではないようだ。

「……そ、それじゃ、あとの事は、おまかせします」

一昨日のようにアレックスの言葉に従い、凛とルヴィアを抱えて士郎は、部屋を出て浴室に向かう。そして、そんな士郎の姿を見送りながら、アレックスは、

「……過程は、少々過激な物になりましたが、奥様に良い報告が出来そうです。しかしながら、切嗣様の七つ道具をアレほど使いこなされるとは……、あの若さで全く、末頼もしいものです」

威圧感を消して感慨深げに呟き、何かカメラ的な物を回収するアレックス。……え、報告? それは、「執事」の仕事を、間違い無く逸脱してる。
が、アレックスの執事としての姿勢は、「主人の幸福を、自身の娯楽とせよ」であり、彼的には、何ら問題は無いノー・プロブレムのである。

「『お嬢様の愛の回顧録・VOL.1』。将来、夜の性活のカンフル剤として使用したり、お嬢様のお子様にお見せしたりと、用途は幅広いものと思われます」

ちなみに、アレックスの言う「七つ道具」とは、愛の狩人たる切嗣の愛用していた愛欲の七礼装(笑)を指す。切嗣の遺品の中にあったソレを、ちゃっかりと受け継いだ士郎。……だって、男の子だもん。

「それでは、士郎様のお命の為に、証拠隠滅をしませんと」

そんな心にも無さそうな事をのたまいながら、アレックスは士郎の部屋の掃除しょうこいんめつを始めたのであった。


世の中には、「状況証拠」と言う言葉がある。朝食の席に凛とルヴィアの姿が無く、

「あれ、りんおねえちゃんとルヴィアおねえちゃんは?」

それを不思議に思った橙士の純粋な疑問に、

「橙士様、お嬢様と遠坂様は、昨夜、激し過ぎる夜更かしをなさり、大変お疲れの御様子。その為、まだお休みになっております」

と、アレックスが今日は婉曲どころか、剛速球な表現でバラしてしまった。……「状況証拠」、関係ない。当然、すぐに居間を支配する重圧。

『……キチク』

そして、声と想いの揃った言葉に、燃え尽きたかのように真っ白になって、打ちのめされる士郎であった。

「―――それじゃあ、ちょっと行ってきますね」

食後のお茶も飲み終わった後に、桜が日用品の買出しのために、出かける事となった。皆が士郎の家に滞在を始めて、10日になる。その為、そろそろ補充しなければならない物が出てきたのだ。
言峰綺礼と言う敵対者が未だ存在している現状を考え、士郎が付き添おうとしたのだが、皆にダメ出しされた。まあ、肉体関係を持ち、体の隅々まで知られていようと、見られたくない物は在るものなのである。
言峰の存在に付いても、彼のサーヴァントギルガメッシュは、士郎側に付いたも同然であり、護衛としてサーヴァントが一人付いていれば、問題ないだろうと判断され、結果、桜がライダーを連れて、買出しに出かける事と相成った。

「気を付けてな、桜」

「はい、士郎さん」

「心配は要りません、シロウ。サクラは、私が必ず守ります」

「ああ。頼んだ、ライダー」

二人がマウント深山商店街に出かけるのを、門まで出て見送る士郎。見送る後ろ姿に、ほんの僅か悪い予感が過ぎるが、心配のし過ぎかと苦笑する。
言峰の狙いは「聖杯イリヤ」であり、本来のマスターである桜の魔力を受けるライダーと対峙する危険を冒してまで、桜を狙ったりはしないだろうと、思い込んで。……言峰の真の目的と、彼の持つ「切り札」を知らないままに。
―――事態は最終局面へと転がり始めた。


マウント深山商店街で、買出しを済ませた桜とライダーの二人は、衛宮邸への帰路に付こうとしていた。

「――サクラ、私の後ろへ」

「? ライダー、どうしたの?」

と、戸惑う桜を背に庇うようにして立ち、ライダーが鋭い視線を向けた先は、「紅州宴歳館 泰山」の入り口だった。
そして、扉が開き、一人の男が姿を現す。厳粛なる空気を纏う神父。――言峰綺礼。

「初めまして、と言うべきだな。間桐桜と……そのサーヴァント、ライダー」

瞬時に高まる緊張。ライダーは「無銘・短剣」を構え、その切っ先を綺礼に向ける。今、冬木で、聖杯戦争の事を知っているのは、士郎達以外では、言峰綺礼だけ。その情報と目の前の神父が重なる。
突然、虚空から物騒な物を取り出し構えているにも関らず、道を行く誰もが注目していない事から、認識阻害の結界が敷かれていることも明白であり、その事からも裏付けられる。

「……ライダー、貴様に用は無い。私が用の在るのは、間桐桜、いや、マキリゾウケンが作った歪んだ聖杯だ」

「―――」

言峰の言葉に桜が息を呑むのと同時に、鋼の蛇の顎が言峰に襲いかかる。が、その攻撃は、言峰が取り出した「盾」に弾かれる。

「!!?」

その「盾」は、鏡の如く磨き上げられた青銅の盾。彼女にとって、その「盾」が映すのは『過去』。自分の末路しょうたいが、『■物』だと言う、最早変えられない『過去げんじつ』を彼女に突きつける。

「―――――ッ!!!」

溢れ出す悔恨と罪業を糧に、『■物』が外に出ようとする。それを、ライダーは、「自己封印・暗黒神殿ブレーカー・ゴルゴーン」で自身を、内にある『■物』を抑えつける。それでもなお猛る力の脈動に、肩を抱き蹲るライダー。

「ラ、ライダー!?」

桜の声が聞こえる。自分と同じ運命を持つ少女の声が。……守ると、誓った。守りたいと、願った。だから、『■物』の出る幕など無い、と強く強く封印を施す。

「ラ、ライダーに何をしたんですっ!?」

「ライダー、いや、メドゥーサに対峙する以上、ペルセウスが所持していた『宝具』を用意したまでだ。……ただ、この反応は予想外ではあるが、好都合には違いない」

ちなみに宝具の出所は、勿論ギルガメッシュだ。

「……クッ、あっ、AAaaaaAAAaa!!!

「ラ、ライダー、大丈夫っ!?」

必死に自分を抑えつけようとするライダーを、桜は抱き締める。その様子に眉一つ動かさず、言峰は二人に近付き、預言者のような厳かさで言葉を紡ぐ。

「――さて、選定は終わった。「聖杯」は、60年求め続けた者に授ける事とする。その為には間桐桜、おまえの助けが要る。私と共に来て貰おうか」

「い、嫌です!」

「……そうか。ならば、ライダーは死ぬ事になる」

「え?」

そう言って、言峰は「鎌」を取り出す。そして「鎌」が振り下ろされるよりも先に、

「ライダー、士郎さんの所へ戻って!!」

桜は令呪を使って、ライダーを転移させる。そして桜は、自分を見下ろす様に立つ神父が放つ圧迫感に負けぬよう、力を振り絞り問い掛ける。

「……あ、あなたの目的は、一体?」

桜は恐怖を抱いていた。何の躊躇も無くライダーを殺そうしたことが。その瞳に映る虚ろな闇が、怖かった。
――言峰綺礼には、自身に還る「望み」が無い。だから、誰を殺そうとも、自身が死を迎えようとも、目的が達せられようとも、目的が叶わずとも、世界が滅びようとも、彼にとっては全てが等価値でしかない。
それが何よりも恐ろしいと、桜は感じていた。そんな桜の恐怖を嘲笑うかのように、桜の問いに答える言峰。

「聖杯戦争の監督役としては、聖杯を最も望む者に授ける事だ。……私個人としては、「娯楽」としか言えんな」

そう言って、言峰は不吉に微笑う。彼が紡ぐ「娯楽」と言う言葉が持つ響きに、例えようも無い恐怖を感じる。桜は恐怖に凍りつき、悲鳴すら上げられない。

「――さて、間桐桜。衛宮士郎のキズもそうだったが、おまえのキズも切り開き甲斐がある。……衛宮士郎の時はつまらないモノになったが、おまえのキズの切開は、私を楽しませてくれそうだ」

「――――ッ!!!」

伸ばされた魔手に、声無き悲鳴が響いた。


自己封印・暗黒神殿ブレーカー・ゴルゴーン」を施してなお自身の抑制に苦しむライダーが、士郎の腕の中に転移してきた衛宮邸は騒然となる。
そして、ライダーの口から途切れ途切れに伝えられる、言峰綺礼の手に桜が落ちたと言う事実。

「……綺礼の奴、何で桜を」

ライダーはキャスターの力を借り、自身の抑制に成功した。が、消耗が激しかったので、別室で休んでいる。それと入れ替わりに、凛とルヴィアが復帰する。
復帰前、アレックスに某健康ドリンクを飲まされしばらく悶絶していたが、緊急時と言う事で黙殺された。

「コトミネの狙いは「聖杯」です。サクラさんとイリヤスフィールの交換を要求するつもりなのでは?」

「それでは、ライダーの話との整合性に齟齬が生じますわ、バゼット。コトミネと言う男の狙いは、最初からサクラのようですから」

「桜は確かに魔術師でマスターだけど、それだけじゃ綺礼が攫う理由には弱いわね。となれば、関係しているのは、「60年聖杯を求め続けた者」なんだろうけど」

「60年、ですか。……確か、第三回の聖杯戦争は、60年前に行われたのではありませんか?」

「……そうですわね。忌まわしい事に」

「そう言えば、第三回だっけ? どっかの馬鹿貴族が意気揚々と乗り込んできた癖に、仲間割れで早々に退場したのって」

「……何が仰りたいのかしら、リン?」

「別にー?」

睨み合う凛とルヴィア。その様子を目を細め、懐かしそうに見るゼルリッチ。

「ワハハハハッ、お主らを見とると、60年前のエーデルフェルトの双当主を思い出すわい。いやはや、奇縁じゃのー」

「!? ……き、奇縁とは、どういう事ですか、大師父?」
「……な、何か、非常にイヤな響きを、その言葉に感じるのですが」

「あの二人、確かに不仲ではあったが、ソレで敗北を招く愚か者ではなかった。……実はの、60年前、双当主が聖杯戦争中に仲違いした本当の原因はな、男なのじゃ。その男、東洋のある一族の当主で、魔法使いの系譜に名を連ねる優れた男でな。双当主はどちらもその男にたいそう熱を上げてのー。凄まじい殺し愛の結果、妹がその男のハートを射止め、死んだ事にしてその男の下へと嫁き、姉は本国に泣き帰ったと言うのが真相じゃ」

「「――――」」

ゼルレッチの話す衝撃の内容に、言葉を失う凛とルヴィア。……凛は、クォーター。つまり、祖父か祖母が日本人じゃないと言う事だ。更に言えば、年代的な計算もバッチリ合うっぽい。

「…………第三回の聖杯戦争で、何かあったと見るのが妥当ですわね」

「…………そうね。そこら辺、何か情報持ってない、イリヤ?」

明確に示唆された訳ではないので、凛とルヴィアはその衝撃を封印することに決めたようだ。……この話題は、「あくま」の逆鱗となり、二度と衛宮邸の卓上に上る事は無かった。

「…………」

凛の問いに沈黙で返すイリヤ。だが、その空虚な表情が答えとなっていた。

「イリヤスフィール、 何か、心当たりがあるのですね?」

「……ええ。コトミネの言う「60年聖杯を求め続けた者」と言うのは、多分、復讐者アヴェンジャーよ」

復讐者アヴェンジャー? そいつは何なんだ、イリヤ?」

「……聖杯戦争における第八のクラス。アインツベルンがルールを破ってまで召喚した「反則」。それが、復讐者アヴェンジャー。第三回の聖杯戦争でアインツベルンのマスターが召喚してしまった、喚んではいけなかった『反英雄』」

そして、イリヤの口から語られる、聖杯戦争の真の目的。それは―――現存する五つの魔法の内、三番目に位置する黄金の杯、『天の杯ヘブンズフィール』への到達。

「うむ。故に儂も関わったのだからな」

何処となく自慢げな「魔法使い」。……空気、読んで下さい。

「……イリヤ。聖杯戦争の本当の目的とかはいい。それより、さっき言った復讐者アヴェンジャーとかいう奴の話を聞かせてくれ」

「人の話の腰を折るな、士郎。まあ、確かに今は関係ない事じゃな」

喀々と笑うゼルレッチの言葉を継いで、イリヤの話が続けられる。

「儀式の一度目は失敗し、二度目は序盤で敗退し追い詰められたアインツベルンは、三度目の戦いにおいて、ただ殺すだけに特化した英霊を召喚したわ。
アインツベルンが手にした異国の伝承を記した古い経典を触媒にして、手にある内の最悪の「魔」を喚び出した。世界最多とも言える、あらゆる呪いを体現した殺戮の反英雄、―――その英霊の名は、アンリマユ」

アンリマユ。拝火教における最大の悪魔で、人間の善性を守護する光明神と九千年間戦い続けると言う、悪性の容認者。

「そんな訳ないでしょう、イリヤ。聖杯は英霊しか呼べないし、そんな神霊レベルの現象を再現できるなら、聖杯なんて必要ないじゃない」

「その通りですわ。そもそも、アンリマユの名を冠する英霊などいる筈がありません。いたとしても、それは無名の、歴史に何の痕跡も残していない悪霊でしょう。呼び寄せた所で聖杯に相応しい魂など、持ち得ないのではなくて?」

「……ええ。彼は無名だったし、真実悪魔などではなかった。けれど、アンリマユの名を冠した英雄は確かに存在したの」

―――それは、もうずっと昔、気の遠くなるくらい昔の、ちっぽけな世界の話。それは、拝火教の名前もない村落のお話。
そこに住む村人は、世界全ての人の善性を証明する為、たった一人の青年にこの世の全ての悪性を押し付けた。狭い世界。けれど完成された一つの世界で、究極の悪性が誕生する。その存在が在るだけで、人々がどれだけ悪事を重ねようとも、『清く正しい』と赦される免罪符として。
そう、方法は違えど、彼は救った。忌み嫌われる対象としてだが、確かに彼は人々を救った『英雄』だったのだ。
人々に恨まれ憎まれ呪われ蔑まれ恐れられ忌まれ、自分などとうに無くなって、いつか本当にそうなってしまったモノ。世界中の人間の代わりに悪を公言する哀れな生贄。拝火教に於いて、六十億の悪全てを容認する悪魔の王。その体現者として葬られた、原初の人の想念が創り上げた、『願い』と言う名の呪いのカタチ。
―――ソレが反英雄アンリマユ。サーヴァント、復讐者アヴェンジャーの正体。

「……復讐者アヴェンジャー、アンリマユの話は判ったわ。けど、そいつが『聖杯』を求め続けているってのは、どういう事?」

「……第三回の聖杯戦争で喚び出されたアンリマユは、すごく弱かった。当然ね。彼は、ただこの世を恨んでいただけの人間。ただ「この世の悪たれ」と望まれただけの人間。元から何の力も無く、周りの人間の想いだけで構成された、在り得ない筈のモノ。
結果、彼は序盤に敗れ、いち早く聖杯に取り込まれた時、全てが逆転してしまう。
聖杯は人の望みを叶える願望機でもあるわ。本来サーヴァントは敗れた後、方向性の無い魔力として聖杯に戻り、そのまま解放の時を待つ。英霊としての人格も無くなった彼らは、万能の力として聖杯に溜まるだけ。
けど、アンリマユだけは違った。彼は自分ではなく周りが願って創り上げた英雄。人格など無くても、アンリマユである以上、悪であれと望まれる存在だった」

「……つまり、『聖杯』は既に『願い』を受諾していると、そう仰るのね?」

「……ええ。本来在り得ない存在。身勝手な願望だけで捏造された英霊は、人々の願いを叶える『聖杯』の中で、ようやく人々が望んだ姿に、サーヴァントの無色の魔力たましいを糧に自分の霊殻である『この世、全ての悪』を体現してしまった。『ただ悪であれ』と。二千年以上も前から続いた、神代から願われてきた『人間の理想』として」

「じゃあ、何? 聖杯が叶える『望み』は、もうとっくに決まってて、第四回の聖杯戦争は復讐者アヴェンジャーの願い、アンリマユを形にする為の、魔力ようぶん補充に過ぎなかったてこと?」

「ええ。だからでしょうね。キリツグが、聖杯を破壊したのは」

「…………そうだったのですか。キリツグは、裏切ったわけではなかったのですね」

「そうね。もし10年前、アルトリアの一撃で聖杯を破壊していなければ、アンリマユは『聖杯』によって受肉し、『この世、全ての悪』として、命ある限り人間を殺し尽くす魔王が誕生していたわ」

「……と言う事は、コトミネの真の目的は、復讐者アヴェンジャーの誕生と言う事になりますね」

「それじゃ、桜を攫った理由は何? 桜と復讐者アヴェンジャーに繋がりなんて……」

「……サクラも聖杯だからよ、リン」

「なっ!? ど、どういう事だ、イリヤ!?」

「シロウ、わたしが今代の『聖杯』と言う事は話したよね。だから、判ったの。サクラも歪だけど『聖杯』だって。おそらく、ゾウケンは復讐者アヴェンジャーに気付いていた。……多分、ゾウケンは10年前の戦いで、アンリマユの肉片でも手に入れて、それをサクラに植え付け、聖杯の中にいる復讐者アヴェンジャーとリンクさせたと思う。サクラをマスターにする事でアンリマユを、魂が物質化した架空の魔物であり第三魔法の成功例を、手に入れるために」

「つまり、桜は復讐者アヴェンジャーと契約しているって事なのか、イリヤ?」

「……証拠は無いわ。けれど、コトミネの言葉や動向から見て、間違いないと思うわ」

「……けど、桜を攫っても、『セイハイ』を開く魔力が無ければ、意味ないじゃない。金ピカギルガッメッシュの「宝具」を持ってるからって、本当にサーヴァントをどうにかできると思ってんのかしら?」

ちなみに、ギルガメッシュは言峰に宝具を渡した罰として、凛の崩拳を喰らい吹っ飛んだところに、ルヴィアのバックドロップを綺麗に決められ、ピクリとも動かなくなって放置された。
更に、ギルガメッシュが言峰に自分の持ち物を渡したのは、「紅州宴歳館 泰山」のマーボーを食わされそうになったからと話した時、

「あ、赤いの、イ、イヤァァァァァァァァッ!!!」

何かトラウマでもあるのか、楓が突然叫び、目に映った赤いの、即ちアーチャーに華麗なシャイニングウィザードを決めた。イイのを貰い昏倒するアーチャー。結果、弓兵二人は仲良く放置されていた。

「リンさんの言う通り、コトミネに手は無い筈です。後はサクラさんを救出し、コトミネを捕らえて殴り殺せば、聖杯戦争も終わりですね」

「……笑顔でスゴイ事仰いますのね、バゼット。それで、サクラとコトミネが居る場所に見当はありますの?」

「コトミネの狙いがアンリマユの誕生なら、居場所はただ一つよ。堕ちた霊脈。200年前、三家が定めた始まりの場所にして『大聖杯』のある場所。柳洞寺の地下に広がる大空洞。そこにコトミネは居るでしょうね」

「……なるほど、見つからない筈だわ。厳重に隠匿された其処なら、こっちの目に引っ掛かる訳ないわね」

「よし! それじゃあ、すぐに桜を助けに――」
「待て、士郎」

すぐに大空洞に向かおうとする士郎を、瞑目したゼルレッチが制止する。

「……ふむ、理由は解らんが、『宝石剣ゼルレッチ』が起動しておるな。そして、並列次元の大空洞に満ちる魔力を使っておるのか」

「何だよ!? 何が起こっているって言うんだ、爺さん!?」

「……どうやら間に合わんのぅ、これは。このままでは、お主らが大空洞に辿り着く頃に、『この世、全ての悪アンリマユ』が現界しそう勢いじゃ」

『なっ!!?』

「これは『この世、全ての悪アンリマユ』と対決する気で、大空洞に向かった方が良いぞ、士郎」

「で、ですが、相手は人間に太刀打ちできるモノでは、いえ、人間の最大の天敵なんですよ!? あっ、だ、大師父も付いて来て――」
「儂は当事者ではない。関るつもりはないぞ。……面倒そうじゃし。第一、お主らの戦争じゃろう? 決着はお主らで付けい」

「ですが、『この世、全ての悪アンリマユ』が現界すれば、ワタクシ達に勝機などありませんわ!!」

「何を言っとる、あるじゃろうが。『この世、全ての悪アンリマユ』の対極にある理想が」

そう言って、ゼルレッチが示したのはアルトリア。――そう、彼女が持つ『聖剣』こそ、人々の希望の想念が地上に蓄えられ、星の内部で結晶・精製された『最強の幻想ラスト・ファンタズム』。『この世、全ての悪アンリマユ』の対極に位置する『人間の理想』である。

「……爺さん、無理だ。アルトリアは、『聖剣』を撃てない」

「……何じゃと?」

「シロウとのラインが、何故か繋がっていないのです」

「なら、さっさと繋がんか!」

「はっ!? な、何を言ってるんだ、爺さんっ!?」

「時間の事なら心配せんでよい。こんなこともあろうかと、用意しておった物がある!」

言って、懐から人が辛うじて入れそうな宝箱を取り出すゼルレッチ。……第二魔法の応用ですか、その服?

「この箱の中の時間と外の時間の流れは異なっておっての。外の時間の1分が、中では大体2時間と言ったところか。と言う訳で、二人とも中に入って、ラインを繋げて来い」

「いや、ちょっと、待てよ、爺さん!! この展開は、絶対おかしいぞっ!!」

「いいから、とっとと入らんかっ!!」

「うわっ!!」「ま、待って下さい!?」

無理矢理、「箱」に詰められる士郎とアルトリア。そして、良い仕事したって表情のゼルレッチ。

「……朋友との約束での。これで妖精郷の美酒をゲットじゃ!」

……もしかして、そんな即物的な約束で、こんな事したのか、ゼルレッチ? ア、アンタ人間じゃねえよっ!(死徒です)

「………………もう1分経つが、まだ出てこんな。非常事態と言う事、わかっとるのか、あやつら?」

「……あの二人では無為に時間が過ぎるだけでしょう。ここは私に任せてもらえませんか?」

カレンが楽しそうに笑いながら進み出る。ちなみに、文句を言う人間は、既に居間から強制退場させられていた。

「自信満々じゃの。根拠はあるのか?」

「はい。私、人の隠したい「想い」を暴き曝すのが、好きですから」

「ほう。ならば、お前さんに任せる事にしよう。……おう、そうじゃ。これも持っていけ。使い方は……じゃ」

「……分かりました。それでは」

そして、士郎達が出てこれないタイミングで、カレンも「箱」の中に入って行った。


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