Blade worker 33 「究極のイレギュラー上陸」 <烈風601型さん>



「……す、すまない。……橙士が攫われてしまった」

一通り、冬木市内を捜索して、衛宮邸に戻ってきたアーチャーは、開口一番、そんな事を口にした。

「な、何ですってっ!? 橙士が攫われたっ!?」

その小さな声に反応したのは、あかいあくま。あくまイヤーは、地獄耳。

「「「「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」」」」

遠坂の言葉に、居間に居る全員に緊張が奔る。

「「「………」」」

そして、居間中の視線が集まり、小さくなるサーヴァント三人。……三人?

「って、何で『金ピカ一号』まで居るのよっ!?」

「『金ピカ二号』は、アイツだろ?」

「まあ、そうだろうな」

「キラキラして、綺麗な髪だよね」

「それだけで、『金ピカ』って言ってるんじゃないと思うけどね」


遠坂の言葉に呟きを漏らす楓、鐘、由紀香、綾子を尻目に、立ち上がって傲岸不遜に胸を張る『金ピカ一号ギルガメッシュ』。

「フッ、オレはトウシの兄!! ならば、トウシの住む家こそ、オレの家よ!!」

項垂れていたのが嘘かと思うくらい、無駄に威張るギルガメッシュ。その言動に、アーチャーのこめかみに、青筋が浮く。

「たわけた事を吐かすな、英雄王!! そもそも、貴様のせいで、橙士が攫われたのだぞ!!」

「何を言うか、贋作者!! 貴様のせいであろうが!!」

「何を!!」
「何だ!!」

「黙りなさい」
ドゴォッ!!×2
「「たわばっ!?」」

睨み合う赤と金の弓兵に、バゼットのパンチが突き刺さり、垂直に崩れ落ちる。更に、マグダラの聖骸布で一纏めに拘束され、イリヤの命令でバーサーカーが、そんな弓兵ズを中庭に放り捨てる。
停滞の無い、息の合った連携。……いつの間に、そんな鮮やかな連携ができるようになっていたのだろうか?

「……それで、どう言う状況で、橙士は攫われたのよ、メディア?」

向こうの騒ぎを無視して、メディアに問い掛ける遠坂。その質問に、沈痛な面持ちでメディアは答える。

「……す、少し、口論をしている間に、橙士を攫われてしまったの。け、警戒は怠っていなかったのよ!? ホ、ホントよ!?」

ちょっと?、捏造しているが、概ね、事実を答えるメディア。……でっかい冷や汗を貼り付けて説得力に欠けるが。

「……サーヴァントが警戒してる中、気付かれずに橙士を攫うなんて芸当が出来るのは、「アサシン」ね。……つまり、橙士は、マキリ臓硯の手に堕ちたって事になるわね」

苦虫を噛み潰したような表情で、状況を分析する遠坂。昨日、話した最悪の状況になってしまった。

「……士郎、どうするって、ど、どうしたのよっ、士郎っ!?

士郎の方に顔を向け、これからの行動を話し合おうとして、遠坂は驚愕する。

――ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ――
「シェロ、落ち着くのです!!」
「シ、シロウ、き、気を確かに!!」

残像が発生するほど震える士郎を、両脇からルヴィアとアルトリアが抑えている。

「ちょ、ちょっと、どうしたのよ、士郎!?」

「あ、アあAアaああアAAaアアaあッ!!!」

震えながら、頭を抱えるようにする士郎。……一体、何にここまで怯えていると言うのだろうか?

「……橙士は、溺愛されていますから。母親である蒼崎橙子、ミス・ブルー、宝石翁と言った凶悪な方々に。その方々が、橙士が攫われた事を知れば……」

ニヤリと、笑うカレン。彼女の脳裏には、凶悪な方々にお仕置きを受け苦悶する士郎の姿が、ありありと浮かんでいた。

「の゛ぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

士郎の脳裏にも、同様の光景が投影されていたらしく、断末魔のような悲鳴を上げる士郎。……橙子と知り合って以来の5年間が、朧げながら想像できる反応だ。

「シェロ、落ち着くのです!! 大師父達に知られる前に、橙士を救出すれば良いのです!!」

!!! ……そう、そうだな。ありがとう、ルヴィア。答えは得たよ。よし、これから橙士救出に向かう!!!」

ルヴィアの最もな言葉に、眼に光を取り戻し、橙士救出の準備の為に居間を出る士郎。が、その歩みは、すぐに停まった。

「シェロ、どうしたのです?」

石化したかのように硬直した士郎に、訝しげに声を掛けるルヴィア。と、向こう側から、アレックスが姿を現す。

「……お嬢様、手遅れで御座いました」

アレックスの言葉に続くように、居間に入ってくる者達。

「大師父っ!!?」
「「な、何ですってっ!!?」」


ルヴィアの言葉に、遠坂、イリヤが驚愕する。

「トウコ!!?」
「「「「「「!!?」」」」」」


バゼットの言葉に、楓、鐘、由紀香、綾子、アルトリアが驚く。

「こんにちわ、ミス・ブルー、アルトルージュ、プライミッツ・マーダー」
「「「!!?」」」

カレンの何気ない挨拶に、遠坂、イリヤに加えセラまで、声も出ないほど驚く。

「「……士郎/シェロ」」

驚愕に支配された居間を余所に、立ったまま気絶している士郎を気遣うバゼットとルヴィア。

「情けない奴だ。橙士を蟲如きに攫われただけでなく、私達を見て気絶するとはな。……念入りに鍛え直してやらなければいけないな」

眠る橙士を抱いた橙子が、何でも無い事のように、恐怖の余り気絶していた士郎に対して、死刑宣告をしたのだった。


ここで時を遡り、場面を移す。
柳洞寺地下、大空洞。聖杯戦争の根幹を成す「大聖杯」が鎮座する場所。

「ぞうけんおじいちゃんは、さくらおねえちゃんのおじいちゃんなんだ」

「そうじゃよ。よろしくのぅ、坊や」

「うん!」

その場所で、楽しげに会話する二つの人影。橙士とマキリ臓硯である。見た目、好々爺と愛らしい幼児の朗らかな語らいである。
だが、臓硯が聖杯戦争期間中は魔力に充ち、日のある内でも活動できる大空洞に、アサシンに命じて、橙士を拉致したのには、理由がある。
何故なら、危険だからだ。衛宮士郎。臓硯の想像を遥かに越える危険な存在だった。サーヴァントを単身、屠るその力。そして、見え隠れする彼の関係者。
その力の前に、五百年生きた事など何になろうか。敵に回せば破滅は確実。そして、十中八九、その力の矛先は自分に向くだろう。だから、その対応策として、橙士から情報を得て、上手く立ち回らなければ。……まだ、死にたくない、死ぬ訳にはいかない。
ちなみに、橙士を人質に取る気は無い。その危険性は、腐った頭と言えど十分に理解している。慎二ワカメとは違うのじゃよ、慎二ワカメとは。
橙士と話し、士郎との落し所を探る。その過程で、臓硯は、自身で破滅へと、踏み出してしまった。

「……坊や、もう一度、お母さんの名前、聞かせてくれぬかのぅ?」

「おかあさんのなまえは、あおざきとうこだよ。それで、おかあさんのいもうとがあおこおねえちゃん」

橙士の言葉に、臓硯は震える。それは歓喜。あまりの僥倖に、五百年を生き永らえさせた、狡猾なまでの慎重さを、忘れさせる。

――至れる。儂は至れる。この坊の『肉体』を使えば『 』へと、ヒトの更なる位階タカミへと――

アオザキ。何代か前の当主が開いた『道』により、当主が高い確率で『魔法使い』を継承する家系。そして、今代、『魔法使い』を輩出している。
アオザキの家系が持つ『道』を上手く使えば、自分にも『 』へ至れる可能性がある。――そう、自分が求めた真の願いが、叶うのだ。……橙士の『肉体』を、上手く使えば。

「うにゅ〜、なんだか、ねむく、なって、きちゃった」

「眠るといい。儂がちゃんと、お父さんの所に連れて行くからのぅ」

「……は〜い。……おやすみ、なさい、ぞうけん、おじい、ちゃん」

「……ゆっくりと、おやすみ、坊」

『眠り』の魔術で、橙士を眠らせる臓硯。そして、異様な光を瞳に宿して、橙士へと歩み寄る。橙士を己の目的のために蹂躙するために。

――リィィィン、リィィィン

「む? 何の音じゃ?」

その澄んだ音の発信源は、橙士の胸元。宝石で作られた鈴のペンダント。橙士に向けられる悪意、害意を感知して鳴る、ある意味、召喚器。

パッキィィィィィィィィンッ!!!!

「な、何じゃぁっ!!?」

甲高い破砕音に驚く臓硯。だが、その驚愕は、ほんの序曲でしかなかった。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!!

「な、何事じゃぁぁぁっ!!?」

甲高い破砕音と共に砕け散った空間。その空間の割れ目の向こう側。極彩のナニかが渦巻くそこから、来るモノが在る。
圧倒的な「死」の気配と、猛凶なる、凶暴なる、暴猛なる力を伴って、それらは、来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる来たる、来たるっ!!! 橙士に仇なす者を鏖殺せんが為に来たるっ!!!

「ヒッ、ヒィィィィィィィィィィィィッ!!!?」

大空洞を振動させる嵐の如く荒れ狂う凶々しい魔力を纏って、空間の割れ目より現れるは、五つの影。その内の四つの影に関しては初見だが、残る一つの影を知っている臓硯は腰が抜ける程、驚いた。……厳密に言えば、蟲の群れで構成された臓硯の肉体に、腰など無いに等しいが。

「久し振りだな、この、クソ蟲めがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

雄獅子の鬣を思わせる髪と髭を逆立たせ、赤い瞳からは怪光を発し、全身から瘴気を思わせる魔力を迸らせる老人の姿をした魔。
魔道の頂点、「魔道元帥」。「宝石」。「万華鏡カレイドスコープ」の名を持つ『魔法使い』。死徒二十七祖第四位。『月の王』を一騎打ちで滅ぼし、『月落とし』を力技で阻止した怪物。
キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。

「私の可愛い、可愛い、可愛い橙士に、蟲臭い、汚らしい手でよくも触れてくれたな。殺す。殺し尽くしてやろう」

薄い蒼みがかった髪と紫苑の瞳。冷厳なる容貌に、絶対零度の殺意と魔力が充ちる。美しい死神を思わせる不吉な姿。
最も有名な『封印指定』。「最狂の人形遣いマッド・ドールマスター」。魔術師の世界に於ける『厄介事アオザキ』の代名詞の家系の姉。原色に至らぬ「傷んだ赤オレンジ」。
蒼崎橙子。

「死刑。あんたに言う言葉はそれしか無いわ」

燃えるような赤い髪と青い眼。そして、魔力炉心を持っているのかと錯覚させるような、魔力の嵐を纏う。その姿、正に人間台風。
「マジックガンナー」。「破壊の女王クイーン・オブ・カタストロフ」。魔術師の世界に於ける『厄介事アオザキ』の代名詞の家系の妹。原色『青』を許された『魔法使いミス・ブルー』。
蒼崎青子。

「妾の愛する橙士に汚らわしい蟲風情が触れるなど。その罪、万死に値する」

夜の闇を思わせる漆黒の髪とドレス。煌々と輝く月のような白い肌。そして、血のような赤い瞳。高貴なる、絶対の格を有せし『姫』。
真祖と死徒の混血。死徒に於ける「吸血姫」。「血と契約の支配者」。死徒二十七祖第九位。プライミッツ・マーダーの持ち主。「黒の姫君」。
アルトルージュ・ブリュンスタッド。

「GYRUUUUUUUUUUUU!!!」

美しい白い毛並みを逆立て、赤い瞳を煌々と輝かせ唸る、最も濃い「死」の気配を放つ白い獣。
霊長の殺人者。アルトルージュの魔犬。死徒二十七祖第一位。「真祖」と異なる形の「自然の触覚」。「ガイアの怪物」。
プライミッツ・マーダー。

「あらなざはがたぱわだば!!!」

あまりの恐怖に舌の呂律がおかしいまま、悲鳴を上げる臓硯。ゼルレッチ以外は初見と言えども、これほどの圧倒的魔力を持った存在、容易くその正体に突き当たる。……つまり、絶体絶命と言う事だ。
逃げる? ――無理!! 戦う? ――もっと、無理!! 交渉する? ――言葉を発した瞬間、殺されそうだ。結論、無理!!

――ザッ

「おひょぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

死を呼ぶ足音に、絶叫する臓硯。恐怖で色々な体液を撒き散らしながら、這いずるように後ずさる。と、

「………」

「おお、ア、アサシンッ!!」

アサシンが臓硯の前に立ちはだかる。無論、臓硯もサーヴァントとは言え、アサシンで、目の前の脅威をどうにか出来るとは思っていない。だが、自分が逃げる時間を稼ぐくらいなら――

「ア、アサシン、目の前の者を倒せぃ!!」

令呪を使って命令する。逃げ出すためにも、僅かでも隙を作らなければ。その為にアサシンに命令を下す。
命令を受けたアサシンは、必殺の手段を用いて、目の前の脅威の最凶と思われる一角を崩そうとする。解放される右腕。

妄想心音ザバーニーヤ

本来、高い魔力を持つ相手には、二重存在である仮想心臓を作成出来ないのだが、令呪の力により、「妄想心音」の対象の仮想心臓がアサシンの右掌の内に顕出する。
後は、仮想心臓を握り潰すのみ――だったのだが。

「!!?」
「な、何をしておるのじゃ、アサシン!?」

アサシンがどんなに力を込めても、その仮想心臓を握り潰す事が出来なかった。髑髏の仮面の下で青筋が浮き出るくらい、渾身の力を込めてもだ。

「無駄じゃぁっ!!! ワシの橙士たんへのラァヴッが詰まった心臓ハァートを、貴様如きに握り潰せると思うたかぁっ!!!」

「ひょえぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

理不尽。その一言に尽きる答えに、悲鳴を上げる事しかできない臓硯。

「ゼルレッチィッ・パァァァンチッ!!!」
ドガァァァァァァァァァンッ!!!


ゼルレッチに右ストレートが、仮想心臓を握り潰そうと頑張っていたアサシンの顔面を捉える。

「!!!?」

髑髏の仮面は粉砕され、アサシンは擂り鉢状の「大聖杯」の縁を削るようにして、凄まじい勢いで縦回転しながら吹っ飛んでいった。

「にょわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

眼前の非常識な光景に、臓硯精神崩壊寸前五秒前と言った感じである。

「出ろ。そして、喰らい尽くせ」

橙子の頭一つ分くらい高いトランク?から溢れ出す無数のナニか。臓硯を構成する蟲を、貪欲に容赦なく喰っていく。

「塵も残さず、ブッ壊してあげるわ!!」

青子の魔力を孕んだ風が触れる度、蟲が崩壊していく。

「……消えよ」

アルトルージュの操る「影」に呑まれ、蟲が消えていく。

「ぎゃわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

――死ぬ。このままでは、間違い無く、死んでしまう。逃げねば、逃げねばあぁぁぁぁぁぁっ!!!

数多の蟲の力で五百年生きた生き汚さも、目の前の者達には取るに足らないモノでしかない。このままでは、殺されてしまう。だから、最も安全な「本体」へと、己の核たる意識を、「魂」を移動させようとした。
だが、臓硯は忘れていた。この場に「天敵」が居る事を。

「――――」

臓硯は、「魂」の移動を行う瞬間、その「存在」と目を合わせてしまった。それが、マキリゾウケンの最期の始まりだった。

――死ネ――

「あ」

その意思を感じ取った瞬間、「マキリゾウケン」の「死」は決定した。
プライミッツ・マーダーが保有する霊長の絶対殺害権。「ヒト」である以上、それから逃れる術などない。プライミッツ・マーダーが、死徒二十七祖第一位に座する理由である。
臓硯は、五百年と言う時の中で、数多の蟲でその肉体を構成して、「魂」も腐っていたが、それでも、その「魂」は「ヒト」であった。
「不老不死」と言う妄執ではなく、「ヒト」として、次の位階へ。そのマキリゾウケンの真の願い故に、彼の「死」は定まってしまった。

――アあAアアaあ、わ、儂は、つ、次の、い、位階へ、ヒ、「ヒト」の輝かしい「未来」へ、………ユ、ユスティー、ツ、………

そして、「マキリゾウケン」は、完全に死んだのであった。

「さて、橙士を連れて、士郎の家に行くとするか」

「うむ。それにしても、クソ蟲程度に出し抜かれるなど、不甲斐無い」

「ま、お仕置きよね〜〜」

「士郎には、猛省して貰わねばならぬな」

「GAW!!」

ゾウケンの「死」を確認した五人?は、橙士を連れて、衛宮邸に転移した。そして、

「……ふむ。イレギュラーな事態が続くものだな、此度の聖杯戦争は。だが、私のすべき事に、何ら変わりないが」

吹き飛ばされたアサシンが持っていた橙士のポシェットを手に、大空洞の入り口に当たる洞窟の影で、人影は不吉に微笑った。


そして、時は戻り、衛宮邸居間。

「…………」

「この世の終わりです」的なオーラを全身から醸し出している士郎。そして、その士郎を嘲る様に見る橙士に過剰に過保護な面々。

「さて、士郎?」

「ひゃ、ひゃいっ!!」

遠坂や、ルヴィア、イリヤをして完全な敗北を認めさせた凄絶な微笑と共に、橙子が口を開く。……士郎は涙目だ。

「私は、お前を信じていたぞ。……橙士を、息子を護れる父親オトコだとな」

「――――」

「……だが、まだ、鍛え方が足りなかったようだな」

「――――」


もう言葉も無い士郎。気絶寸前五秒前。でも、このプレッシャーの中、気絶してもすぐ覚醒する羽目になりそうだが。

「それに関しては、ワシも同意見じゃ、トウコよ。……士郎よ、もう一度、「アソコ」に逝くか?」

「!!!!!」
――ブンブンブンブンブンブンブンブンブンッ!!!


ものごっつい勢いで首を横に振る士郎。だが、

「ふむ、その意気や良し。―――逝って来い、士郎」

聞く耳なんて持っておられませんでした、この方々。
士郎の背後に顕れる異界への入り口。士郎のみが吸い込まれていく。

「いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

クロール、バタフライ、平泳ぎと、空中を必死に泳ぐ士郎。

「とっとと逝け」
パカァァァンッ!!!

橙子の投げた湯呑みが当たり、バランスが崩れる士郎。最早、「アソコ」に逝く運命は避けられない。

「おっ、おるとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

哀しみに彩られた絶叫を残し、士郎は消えて逝った。

「………さて、私は昼食の用意でも」

ガシィ!!

「さて、アーチャーのサーヴァントよ。橙士が攫われた原因は、お主にも在った筈じゃな?」

「た、確かにそうだが、私は、あなた方にこのような仕打ちを受ける謂れは無いぞっ!?」

「問答無用。それに、ワシは言ったぞ?『逝って来い、士郎』とな?

「なっ!!?」

ブォンッ!!!

「ぼっ、ぼぉぉぉんまぁいっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

ゼルレッチに投擲され、消えて逝くアーチャー。

「で、後は」

「ぬ、な、何故、オレを見る、雑種どもがっ!!」

「貴様、橙士の「兄」だと息巻いているそうじゃないか。だが、いざと言う時、「弟」を護れない「兄」では駄目だろう?」

「むむぅ、……いや、あれは贋作者が悪いのだっ!! 従って、王でありトウシの「兄」たるオレが、このような……」
「うっさい。グダグダ言わずに逝って来なさいっての」
ズバァンッ!!!

「めっ、そぽたみあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

青子の放つ無敵風味の蹴りで、消えて逝くギルガメッシュ。

「「「「「「「「「「「「「…………」」」」」」」」」」」」」

無言に沈む居間。士郎は無事だと信じて。……「触らぬ神に祟り無し」等と言ってはいけない。

「さて、バカ弟子の居ぬ間に、色々と話をしようじゃないか?」

朗らかに笑う橙子。けど、空気は全然朗らかになりませんでした。
ちなみに、キャスターは動物装具製作の功績により、「アソコ」逝きは無しだった。

「「「………帰って来た。オレ/オレ達は、帰って来たぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」

「アソコ」から生還した士郎、アーチャー、ギルガメッシュ。彼らは、莫逆の絆で結ばれる事となった。……この日限定の絆だったが。


そして、夜。士郎の部屋の前に人影が。

「シロウの体と心を癒してあげなくちゃね」
「了解」


そして、人影は士郎の部屋の中に消えていった。


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