Blade worker 32 「馬鹿とバカと莫迦の戦い〜トンビハサンあぶらげ橙士」 <HEY2さん>



――2月10日・十一日目

「――うわぁ」

それがこの日、目覚めた衛宮士郎の第一声であった。士郎の目前に広がる光景は、確かにその声を上げさせるに相応しい物だった。
力尽きたようにうつ伏せで寝ている桜とライダー、そんな彼女たちが寝ており、自分も先程まで寝ていた布団は、もう、それはスンゴイ事になっている。

「…………この頃、疑問に思い始めてきたけど、俺って本当に人間なのかなぁ?」

噎せ返るような情事の臭いが充満した部屋の中で、自分を疑うように独語する士郎。そのまま部屋の空気に溶けて消えていく筈だった呟きに答えが返ってくる。

ハッハッハッハッハッ、士郎様が生物学的見地であれば、「人間」と言う種であることに疑いはありませんが、概念的見地で申し上げれば、「人間」とはチガウ種ではないかと疑ってしまいますなぁ

「ア、アレックスさん!?」

耳許で言われているような、ハッキリとした声に周りを見回すも、アレックスの姿は見えない。

「み、耳許ウィスパー?」

おや、「Skill of Butler」の事を御存知でしたか? 流石は士郎様。叶うならば、あなたを後継者として育てたかったものです。言っても、詮無い事ではありますが。さて、士郎様

「は、はひっ!?」

士郎的にはイッパイイッパイの状態だ。何せ、アレックスはルヴィアの忠実な執事なのだ。そんなアレックスに、知られてしまった。士郎の脳内にある図式が浮かぶ。
アレックス、ルヴィアに報告→ルヴィア、禁断の必殺ホールドを俺にキメる→その騒ぎで、みんなに知られる→「この世、全ての地獄」、再びしっとヘル、アゲインDEAD END

……浴室の準備は整っております。早々に桜様、ライダー様をお連れ下さい

「え?」

だが、DEAD ENDの恐怖に震える士郎に掛けられたアレックスの言葉は、士郎の予想外の内容だった。

お嬢様を始めとした皆様には、睡み……、ゴホン、失礼。皆様、今しばらくは、お目覚めになられない筈です。その間に、全てを終わらせましょう

「……は、はい! あ、でも、何で?」

何故、皆が起きてこないのかは華麗にスルーする事にした士郎。その方が精神衛生的に大吉だと、本能が告げる。

……懐かしいですなぁ。こうして、切嗣様と幾度、修羅場を潜り抜けたことか。血が繋がらずとも、父と息子の絆とは、強いモノですなぁ

「……そんなこと、感慨深く言わないで欲しいんですけど」

全くである。と言うか、士郎にして見れば、知りたくも無い切嗣の一面だ。しかも、己の行状をキッカケとした物だから、更にキツイ。

「正義の味方にはなれなかったけど、愛の狩人にはなれたよ?」

ミ、ミトメタクナァァァイッ!! 脳裏に響いた憧れの養父の幻聴を、必死に否定する士郎だった。

そして、子とは親を越えて行くものなのだと、このアレックス、士郎様に教えて頂きました。感動しております。……切嗣様、見ておられますか? 士郎様は、こんな立派な、あなたを越える、ケ、ケダモノにっ

「……ホントウニ、カンベンシテクダサイ」

涙を堪えるようなアレックスの口調に、巨大な精神的ダメージを受け、項垂れる士郎。
とは言え、いつまでもそうしている訳にもいかない。アレックスの言葉通り、今の士郎には迅速な行動が求められているのだから。

「そ、それじゃ、俺は、桜とライダーを風呂に連れて行きます」

はい。後のことは私めにお任せを

「お願いします、アレックスさん」

それと、士郎様。……浴室での暴走は控えて頂きますよう、お願い致します

「し、しませんよっ!」

ハッハッハッハッ、これは、出過ぎた事を申しました。それでは、お急ぎを

「は、はいっ!」

そうして、俺は桜とライダーを抱きかかえ、風呂に向かった。……風呂で暴走しかけたのは、秘密だ。


風呂で、桜とライダーの体を綺麗に洗い、二人が使っている部屋で寝かし付けて、自室に戻る。自室は既に、綺麗に片付けられていた。
着替えて、居間に向かう。台所では、アレックスさんが朝食の準備をしていた。

「て、手伝います、アレックスさん」

「ハッハッハッハッ、もうすぐ、終わりますので、お気遣いは無用ですぞ、士郎様。士郎様はテーブルに着いて、お待ち下さい。皆様も、五分後には揃われる筈ですから」

「そ、そうですか?」

五分後、本当に桜とライダーを除く全員が揃った。……本当に底知れない人だ、アレックスさん。
アレックスが作った朝食に舌鼓を打つ傍ら、桜とライダーがいない事を追及してくるあくま達。それを生きた心地が全くしない士郎に回避できる筈も無いのだが、アレックスのフォローにより、「この世、全ての地獄」サイアクの事態だけは避ける事が出来た。
楽しげに、千尋の谷を綱渡りするような寒気のするバランス感覚で、あくま達を手玉に取るアレックス。……そのせいで、士郎の精神は朝からズタボロになってしまっていたが。

「……体は剣だけど、心は硝子」

虚ろな瞳でそんな呟きを漏らす士郎。……まあ、自業自得なんだから、しょうがない。ナムアミダブツ。


「……それにしても、どうしたもんかな?」

精神がある程度回復した士郎は、台所で頭を悩ませていた。何を悩んでいるのかと言うと、ぶっちゃけ、食料が尽きかけているのだ。
まあ、これだけ人数が増えれば、当然と言えば当然の話だ。次に食料が来るのは明日だ。つまり、今日の分をどうするかなのだが。

「どうしたの、おとうさん?」

衛宮邸に於ける重要な問題に、士郎が頭を悩ませていると、橙士が台所に入ってくる。当然のように、その後ろには赤い弓騎士が従っている。

「ああ、食べ物がもう無くなりそうなんだ。それでどうしようかなと考えてたんだよ」

橙士の目線に合わせて、口を開く士郎。

「それなら、ぼく、おつかいにいく!」

「え?」

目をキラキラさせながら、士郎に提案する橙士。
橙士は、父、士郎が大好きである。しかも、士郎の役に立ちたいと常日頃から思っている孝行息子なのだ。
おとうさんのおてつだいをするぞ。橙士の心は今、そんな気持ちで一杯だ。

「あ〜〜、橙士、気持ちは嬉しいんだけどな」

『敵』の動向が掴めていない以上、迂闊な行動は控えるべきだ。特に橙士は、色々な意味で衛宮家の『アキレス腱』だ。何かあれば、洒落では済まない事態になる。

「……うん、わかった」

橙士は、士郎の言葉を理解し、ションボリと首肯する。で、勿論、そんな橙士の様子に黙っていない奴がいる訳で。

「――死ね」

明確な意志の篭った一言と共に、繰り出される必殺の一撃。

「投影、開始っ!」
ギィィィィィィンッ!!!

アーチャーの必殺の一閃を、投影した「奇跡齎す輝煌の剣デュランダル」で防ぐ。

「い、いきなり、何すんだ、お前はっ!?」

「黙れ、この人でなしがっ! 橙士の願いを踏み躙るなど、例え、誰が赦そうとも、この私が赦さんっ!!」

二撃目を放たんと構えるアーチャー。対する士郎も構える。台所なのに、『エミヤ』のBGMが流れてきそうな雰囲気だ。

「踏み躙るって、大袈裟な事言うなっ! 大体、今の状況で、橙士にお遣いに行かせる訳にはいかないのは、お前だって分かってるだろうがっ!」

「橙士の願いは、全てに優先するっ! それに、橙士一人で、行かせなければ良いだけの話だろうが、このたわけっ!!」

「む」

言われてみれば、その通りである。

「それじゃ、橙士。皆で、買い物に行こうか」

確か『士郎君スキン』は、まだ有った筈だ。問題無く出かけられる。と、

「このたわけがっ!!」
ギィィィィィィンッ!!!

「って、いい加減にしろっ!」

「……衛宮士郎、貴様は、何も分かっていないっ!」

激昂する士郎に、逆ギレするアーチャー。

「良いか、衛宮士郎っ! 橙士は「おつかい」に行きたいのだっ! 単純に買い物に行きたい訳ではないのだっ! どうしようもなく気に喰わんが、貴様のために何かをしたいと言う橙士の純粋な想いを、貴様は間違いと言うのかっ!?」

「だから、何でそう言う流れに持ってくんだ、お前はっ!?」

「く、悔しくなどないっ、私は悔しくなどないぞぉぉぉぉぉぉっ!!!」

悔しさに身悶えるアーチャー。どうも、橙士が士郎の役に立とうと行動している事に、嫉妬しているらしい。

「とにかくだっ! 橙士の『はじめてのおつかい』に関しては、万事、私に任せるが良いっ!!」

「……ある意味、お前に任せる方が危険な気がするけどな」

「フッ、何をふざけた事を言っているのだ、貴様は。私が共に居れば、橙士に針の先程の危険も無いっ!」

断言するアーチャーを放っておいて、不安そうに自分を見る橙士に向き直る士郎。

「……それじゃあ、橙士、お遣い、頼まれてくれるか?」

「うん、おとうさん!」

士郎の言葉に嬉しそうに頷く橙士。余程、士郎の役に立ちたかったのだろう。
橙士に対し、過剰に過保護な周りの面々のおかげで、橙士は今まで、碌にお手伝いをした事が無い。だいすきなおとうさんによろこんでもらいたいと、いつも想っている橙士は、この機会の到来を待ち望んでいたのだ。
「おつかい」をして、おとうさんにいっぱいよろこんでもらおう。そんな微笑ましい使命感に燃える橙士。
こうして、橙士の『はじめてのおつかい』が始まった。当然、反対者が多数出たのだが、上目遣いでお願いしてくる橙士に、厳しく応じれる者など、衛宮邸にはいない。
結局、護衛として立候補したアーチャーとメディアが、霊体化して憑いて行くことで落ち着いた。

「いってきま〜す!」

元気良く、衛宮邸を出ていく橙士。そんな橙士を未だ起きて来ない桜とライダーを除く全員が、心配そうに門の所で見送る。
まあ、サーヴァントが二騎、憑いているんだから、危険は無いとは思うけど。そう考えていた士郎だが、橙士をお遣いに行かせた事を、物凄く後悔する事になるのをこの時点では知りようも無かった。
ちなみに、後日、そんな『美味しいイベント』を勝手に始めたとして、過剰に過保護な面々に、お仕置き・制裁の名を借りた八つ当りを士郎とアーチャーが受けるのだが、それは余談である。


深山町に住む人々の生活を支える「マウント深山商店街」。その通りを歩く金髪紅眼の男がいた。彼の名はギルガメッシュ。冬木で生き始めて十年の人類最古の英雄王だ。
Aランクの「黄金律」を持つ彼は、この十年で冬木の経済に無くてはならない人物となっている。新都には、「FUYUKI KING HOTEL バビロニア」の他に、持ちビルを何棟も有し、現在建設中の「わくわくざぶーん」も彼の持ち物である。実は、新都の急成長の理由は、彼の存在が大きかったりするのだ。
そして、深山町では、「マウント深山商店街」の人気者として、商店街を潤していくのである。ギルガメッシュが商店街を訪れた日は、商店街全体の売り上げが平均で50%近く増すようだ。
ギルガメッシュ自身も湯水の如く金を出すし、彼が気に行った物は、何気に売れるのだ。凄いぞ、素敵だ、「黄金律」。でも、遠坂さん家のお嬢さんには、内緒だよ?

「……ハァ〜〜、エンキドゥ。お前は今何処にいるのだ」

いつもは傲岸不遜に胸を張り、無駄に豪華な王氣オーラを放っているギルガメッシュが、トボトボと肩を落として歩いている姿は、商店街の店主達を心配させる。何せ、人気者なのだ、ギルガメッシュ。

「どうしたんだい、王様? 元気ないじゃないか?」

「……む、江戸前屋か。オレは、いつもと何ら変わらぬ」

「いや、そんな顔で言われてもなぁ」

今日のギルガメッシュには、覇気が無い。塗りが甘くなっており、少し気を抜けば、落書き調になってもおかしくないくらいだ。

「何か悩みでもあんのかい? 話して貰えりゃ、少しは力になれるかも知れねぇよ?」

「……フンッ、雑種である貴様が、王たるオレの力になどなれるものか」

「そうかい? それじゃあ、しょうがねぇなぁ。まあ、元気出してくれよ。王様が元気ねえと、こっちも商売上がったりになるからなぁ」

「フンッ、そんな事、オレの知った事か。貴様ら雑種は、汗水垂らして馬車馬の如く働いておれ」

「ハッハッハッハッ、言われなくてもそうするがね。それでも、上手くいかないよりも上手くいった方が、断然良いからなぁ」

「無駄話は、もう良い。いつもの通り、『王判焼き』を十個、疾く用意せよ」

「あいよ、毎度有り!」

『王判焼き』とは、全ての材料に国内産の最高級品が惜しみなく使用された大判焼きである。味は極上、一個千円と値段も王様規格。これを食べながら、商店街を回るのがギルガメッシュ金ピカスタイル。
ちなみに、『王判焼き』は、ギルガメッシュが普通の大判焼きを食べた時、

オレの舌を満足させたければ、この三倍上等なモノを持ってくるが良いっ!!!」

と言った事がキッカケとなって生まれた商品だ。これも密かに人気商品だったりする。実は、士郎達も食べた事がある。

「うむ、今日も雑種が作るにしては、中々の味わい。褒めてやろう」

「ハッハッハッハッ、ありがたき幸せってなぁ。それじゃ、またのお越しを」

「フンッ、よかろう。また、来てやろうではないか。ありがたく思うがいい」

そう言って江戸前屋に背を向け、商店街を歩き出すギルガメッシュ。

「……エンキドゥ、お前と共にこれを食せたら、どれほどの美味であろうか。……あぁ、エンキドゥ」

そして、ふと手にした『王判焼き』から目線を上げた瞬間、彼の目がある三歳くらいの幼児の姿を捉える。アーチャーであるものの、ギルガメッシュは特に目が良い訳ではないが、それでも、今の彼の視力は千里眼並になっている。
何故なら、彼の視線の先には、

「エ、エンキドゥーーーーーーーーー!!!」

リスの耳と尻尾を付けた、とっても愛らしい橙士が居たのだから。

「んぅ?」

叫びながら土煙を上げて、自分に近付いてくる存在に小首を傾げる橙士。その仕草は、リス耳とリス尻尾と相俟って、脅威すら感じさせる程のラヴリー!!

「エ、エンキドゥゥゥゥゥゥ!!!」

土煙に加え、血煙も伴って橙士に突進するギルガメッシュ。当然、そんな行動を看過するアーチャーとメディアではない。

ドンドンドンドンッ!!
ズギュズギュズギュズギュッ!!


「むおぉぉぉぉぅっ!?」

襲い来る剣弾と魔力弾の雨を寸での所でかわすギルガメッシュ。そして、実体を顕したアーチャーとメディアを凄まじい殺気を込めて見る。
繰り広げられる非日常の光景にマウント深山商店街の目が集まるも、ギルガメッシュが騒ぎの中心に居る事から、日常風景扱いされ、「また、王様の奇行か? しょうがないなぁ」的な空気が商店街に広がる。

「おのれ、贋作者に魔女めが。一度ならず二度までも、オレとエンキドゥの再会を邪魔立てするかっ!!」

「黙れ、この変態王。前にも言ったが、橙士には指一本触れさせん」

「そうよ。あなたのような変態と関ったら、橙士が穢れてしまうわ」

ここまで己を棚上げ出来るのも、ある意味英雄の業と言えるのかも知れない。……凄く嫌な業である。

「あくまでもオレの邪魔立てするか、下郎どもがっ!」
「フッ、来るが良い。いつかは打倒しなければならない相手だっ!」
「私の幸せの為には、あなたを排除しなければならない気がするわっ!」

「けんかしちゃ、めっ!」

橙士の一言。それは、サーヴァント三騎の間に発生していた一触即発の空気を、実に鮮やかに霧散させる。

「ハッハッハッハッ、橙士。私達は、喧嘩などしてはいないぞ?」
「そうよ、橙士。私達がそんな野蛮な事をする筈がないでしょう?」
「うむ。贋作者と魔女の言う通りだ、エンキドゥ。オレは王。その様に狭量ではないぞ?」

喧嘩はしませんよ、仲が良いですからと言うアピールか、三人で肩を組むアーチャーとメディア、ギルガメッシュ。……顔がめっさ引き攣っているが。

「ほんとうに?」

「「「ホントホント」」」

インディアン、嘘吐かないと言わんばかりに首を縦に振る三人。全員、相性最悪の筈なんだが、息ぴったりである。

「それにしても、逢いたかったぞ、エンキドゥ。エンキドゥに逢えぬ日々は、オレにとって、千日の如く永く、世界が意味を失うが如く虚しき時であった」

二日逢えなかっただけで、エライ劇的な表現です、ギルガメッシュさん。

「ぼく、えんきどぅって、なまえじゃないよ。ぼくのなまえはあおざきとうしだよ?」

「……トウシ、か。良き名だな。うむ、実に良き響きで、トウシに似合っているな」

「えへへ、ありがとう」

大好きな父と母に付けられた名前を褒められて嬉しい橙士。そんな嬉しがる仕草も実に萌える。

「くっ、貴様、私の台詞をパクッたなっ!?」

「何を言っている、贋作者。それは貴様の得意技であろう?」

「何をっ!」
「何だっ!」

「けんかし「「はい!」」

超反応。再び肩を組むアーチャーとギルガメッシュ。……橙士に見えない背後で地味な攻撃をし合っているが。

「おにいちゃんのおなまえは?」

!!! お、おにいちゃん? オレが、『おにいちゃん』っ!?」

雷に撃たれたような衝撃を受けるギルガメッシュ。先日も、そう呼ばれたのだが、その後に続く言葉で吹っ飛んでいたらしい。
とにかく、激しい衝撃により硬直するギルガメッシュ。そして、

――ステータス情報が追加されました。

『お兄ちゃん属性』ランクA++:血の繋がりの有る無しに関係なく、「弟」、若しくは「妹」をこよなく溺愛する属性。Aランクに達すると「弟」、「妹」が全てに於いて最優先となる。
「弟」、「妹」との親愛度によって、能力に大きな影響が出るようになる。親愛度が高ければ能力補正により、能力も高く、親愛度が低ければ、能力も低くなる。
類似スキルに、『お姉ちゃん属性』有り。

「な、何だっ!? 今の不埒なステータス情報はっ!?」

「フッ、フハハハハハハハハハハッ、トウシ、オレの名はギルガメッシュ!!! そなたの魂の兄!!! 親愛を込めて『ギルおにいちゃん♪』と呼ぶのだっ!!!」
「「なっ!?」」


「ギルおにいちゃん?」

「うむ、そうだっ!オレはトウシの兄だっ!! おお、そうだ、トウシ。これはオレが気に入っておる民草の菓子だ。トウシも食してはみぬか?」

「うわ〜〜、おいしそう♪ でも、たべていいの、ギルおにいちゃん?」

「フッ、この兄に遠慮するでない。オレが手ずから食べさせてやろう」

そう言って、橙士の口元に『王判焼き』を持っていくギルガメッシュ。橙士の可愛い口に、『王判焼き』の一部が納まる。

「美味か、トウシ?」

「うん、おいしい♪」

「そうかそうかっ!!」

そして、橙士が口を付けた『王判焼き』の残りを己の口の中に納めるギルガメッシュ。

ドンッ!!!!!×2

「むっ!?」

「「……今、貴様/あなたが口にしたのは、橙士の食べかけか/なの?」」

二人とも穏やかな気性でも何でもないが、激しい怒りでナニかが目覚めたっぽい。

「「今食べたのは、橙士の食べかけかぁぁぁぁぁぁっ!!?」」

ス○パー・サーヴァント、アーチャーとメディア、ここに爆誕っ!!

「クッ、小癪なっ! だが、オレは負けぬっ! オレはトウシの兄だからなっ!!」

「兄」とは、「弟」と「妹」を護れるほど強くなければならないと言わんばかりに、前に出るギルガメッシュ。
高まる緊張感。そして、

「待って!!」

メディアの緊迫した声に、状況が動く。

「どうしたのだ、メディア!?」
「今更臆したか、魔女っ!?」

「……と、橙士が居ないわっ!」
「「な、何だとっ!?」」


メディアの言葉通り、橙士の姿が無い。惑乱する三人。

「と、とにかく、橙士を捜すぞっ!!」
「ええ!!」
「貴様に言われるまでもないわっ!!」

ここで少し時間を戻す。
ギルガメッシュの注意が、アーチャーとメディアに向いた時、橙士はあるモノを目に留める。

「うわ〜〜、コーカサスオオカブトだ〜〜」

世界最強のカブトムシに目を煌かせる橙士。橙士の目に留まったコーカサスオオカブトは、商店街の路地の方に消えていく。

「あっ、まて〜〜」

コーカサスオオカブトを追って、路地に入る橙士。そして、

――トン
「ふぇ?」

首筋に軽い衝撃を感じて、橙士は意識を失った。橙士を抱えた影は、周りの風景に溶けるように消えて行く。……白い髑髏の仮面が、運命を嘲笑うかのような響きを残して。

結局、三人は橙士を見つける事が出来なかった。彼らが見つける事が出来たのは、路地に置かれていた橙士が付けていたリス耳と尻尾だけであった。
今、衛宮士郎は、最大の窮地を迎える事となった。………本気でヤヴァイDEATHよ!!?


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