Blade worker 30 「乙女が修羅に変わる瞬間」 <ノーフェイスさん>



「ルヴィア、な、何でいきなりキスを」

「……したかったから、ではいけませんか?」

突然の事に狼狽する士郎の質問に、はにかみながら答えるルヴィア。

「「「「………」」」」

と、「他者封印・嫉妬神殿」が形成され、胃に穴が空きそう緊張感が、士郎を包む。加えて、赤、青、白、黒の気焔オーラを纏った視線が士郎の背中に注がれてて、着実に精神的ダメージが蓄積されていっております。
とりあえず深く追求せずに、話題転換を図る士郎。……いのちをだいじに。

「と、ところで、ルヴィア、な、何で、日本ここに?」

エーデルフェルトは、何か日本に因縁があって、ルヴィアも日本に来るのを避けてたはずなのに。

「シェロが心配だったからに決まってますでしょう?」

「俺が、心配?」

聖杯戦争の危険度を考えれば、ルヴィアが心配するのも無理ないか。心配をかけて申し訳ないと思う気持ち半分、心配してくれた事に対しての感謝半分と言った所だ。……続く言葉を聞くまでは。

「卑怯で卑劣で卑小なトオサカが、シェロの家に入り込んだと聞き、シェロが誑かされていないか心配で」

「―――」

赤い気焔が一際強くなる。……空気が軋んでいるよーな。

「シェロの優しさは好ましい物と思いますが、トオサカ産の非人間にまで与える必要はありませんわよ?」
ビキッ!

空気が罅割れる音がした。……気のせいと思いたい。赤い気焔が中庭を覆い尽くさんと燃え盛っているのも、気のせい、だよな?

「――士郎」

「は、はひっ!?」

背筋を駆け抜ける魂を凍えさせる戦慄を伴った悪寒。俺の頭の中で警鐘が鳴り響く。――逃ゲロと。

「そいつ、あんたの何?」

「えっ、あ、ああ、ルヴィアは、俺の欧州の友「ワタクシは、シェロの婚約者フィアンセ、ルヴィアゼリッタ=エーデルフェルトですわ」

「「「フィ、婚約者フィアンセッ!?」」」
「ル、ルヴィア!?」
「――ふぅん?」

初耳だぞ、それ!? で、ですので、そんなバロールの魔眼のような眼差しで、俺を見ないで下さい、遠坂さん!!

である私を差し置いて、何を言っているのです、あなたは」

「――あら、バゼット。あなたも居たのですか」

「当たり前です。士郎の側こそ、私の居るべき場所なのですから」

「フフッ、その事に関しては、ワタクシも同意見ですわ。シェロの隣こそ、ワタクシの居るべき場所なのですから」

「……話を逸らそうとしていませんか? 士郎は、私の伴侶ですよ」

「……ワタクシは寛容ですので、愛人くらい容認しますわ。まあ、シェロの魅力を思えば、致し方ない事ですし。それでも、シェロの最高はワタクシ、ワタクシの最高はシェロと言う真理は、些かも揺るぎませんわ」

そして、オホホホホホホと笑うルヴィア。この空気の中で、己のペースを貫けるルヴィアを素直に尊敬してしまう。

「……婚約者なんて言う、既成事実で押し切ろうだなんて、エーデルフェルトハイエナらしい、姑息で優雅さの欠片もないやり方ね。よっぽど、自分の魅力に自信が無いのかしら?」

「―――」

決して笑っていない笑顔でそんな事を言う遠坂。その言葉に固まるルヴィア。……このままだと、トンデモない事態になりそうな。しかも、その被害は俺に集束する、と言う予感がする。

「――貴方、お名前は?」

「遠坂凛よ。初めまして、バカ貴族さんエーデルフェルト

「ええ、初めまして、辺境の自称魔術師さんトオサカ


中庭の、いや、衛宮邸の空気が震える。――出逢うべくして出逢った二人ライバルであった。

ブンッ!! ピシャッ!!
「………」

ルヴィアが思いっきり投げて顔に当たった手袋を、無言で取る遠坂。……無言なのが、余計怖いんですけど。

「うわ、手袋投げたぞ、あの金髪縦ロール」

「実際に見ると、中々に感慨深いものがあるな」

「はわわわ」

「世界は広いねぇ、遠坂みたいなのがいるなんて」

「あ、ルヴィアおねえちゃんだ」

縁側にいつの間にか楓、鐘、由紀香、綾子、橙士が出て来ている。完全に傍観の体勢だ。……俺も、そっちに行きたいなぁ。

「トオサカ、貴方に決闘を申し込みます。負けたら大人しく、シェロの元から去りなさい」

最初から自分の勝利が決まっているような台詞のルヴィア。

「ああ、ハンデとして、ワタクシは魔術を使わないで差し上げますわ。――格の違い、思い知りなさい?」

ブンッ!! ピシャッ!!
「………」

今度は、遠坂がルヴィアの手袋を思いっきり投げ返した。ルヴィアも、無言で顔に当たった自分の手袋を取る。

「おおっ、さすが、遠坂。やられっ放しじゃないよな」

「ふむ、盛り上がってきたな」

「はわ、はわわわ」

「あれが、同族嫌悪ってヤツかねぇ」

「ああ、ど、どうしたら」

「ほっときなさい、サクラ」

「どっちが、勝つと思う、セラ?」

「興味ありません。しかし、決闘などと、トオサカも、エーデルフェルトも、我がアインツベルンに比べ、粗野なものです」

「双方共に、腕に幾ばくかの覚えがあるようですね」

「そのようですね。ルヴィアの事は知ってますし、リンさんの自信も実力に裏づけされた物と見受けられます」

「けっとうて、なに?」

「まあ、遊びのようなものだ、橙士。だが、真似してはいかんぞ、危ないからな」

「そうよ、橙士。危ないから、真似をしてはダメよ?」

……いつの間にか、俺以外の全員が、傍観者になってるね。俺も、そっちに行くのは、……ダメなんだろうなぁ。

「その決闘、受けたげるわ。あんたが負けたら、先祖と同じように尻尾巻いて逃げ帰んなさいよ? ああ、あと、ハンデをあげるって言うのは、こっちの台詞よ?」

両者一歩も譲らない。殺るか殺られるか、と言う所まで逝きそうな勢いである。

「地ベタに這い蹲るのだけは、勘弁してあげるわ」
「それは、こちらの台詞ですわ」


そう言って、道場を決闘の舞台と決め、移動する遠坂とルヴィア。
二人の間で弾ける紫電。そして、二人の放つ赤の気焔と蒼の気焔が混ざり合い、凶々しい紫の気焔が道場を満たし、支配する。

「ところで、そんなドレスで闘るつもり? だとしたら、私も舐められたものね」

「フッ、安心なさい。獅子は兎を狩るのにも、全力を尽くすと言います。つまり、ワタクシの手にかかれば、このドレスも」パチッ、パチッ「戦闘用に早変わりですわ」

ルヴィアのドレスの袖が、無駄に華麗な動作で取り外される。……袖を外しただけで、戦闘用って言うのも何だかなぁ。

「……何、その、袖が取り外し自由なドレス?」

「シェロがワタクシの為に、夜なべしてくれた物ですわ♪」

ちなみに、ルヴィアの持つ長袖の服の半数以上が、士郎の手により着脱自在な物になっていたりする。……裁縫もお得意、士郎君。さすが家事技能、Aランク。

「この勝利、シェロに捧げますわ」

構えるルヴィア。その安定感のある前傾姿勢から、彼女の実力が窺える。対する遠坂も構える。高まる緊張感。そして、

「一撃で決めたげるわ、この時代錯誤縦巻ロール!!」

宣言と共に先手を取ったのは遠坂。一気に間合いを詰める。

「おおっ、中国拳法!? 何かやってるとは思ってたけど、これ程とはね」

遠坂の功夫クンフーの高さに、複数の武道を修める綾子が唸る。

――この間合い、殺ったぁ!!!

勝利を確信して繰り出された崩拳。だが、しかし、

「甘いですわ!!」

それを地を這うが如き戦闘体勢で、躱すルヴィア。

「正にキャッチアズ、キャッチキャン。見事なランカシャースタイル。腕は衰えていないようですね、ルヴィアゼリッタ」

バゼットの冷静な注釈を裏腹に、展開は熱い。

「――バック、とりましたわよ、この田舎の魔術師モドキ!!」

持ち上がる遠坂の体。美しいアーチを描きながら、道場の床に叩き付けられる、と思いきや、

「あんたこそ、甘いって言うのよ!!」

両手を付いて床との激突を押さえ、バックドロップの勢いを利用して、ルヴィアのロックを外し間合いを取る遠坂。ルヴィアもすぐに体勢を立て直す。

「「……やるわね/やりますわね」」

二人の呟きが重なると共に、再び高まる緊張感。……何か、泥沼な異種格闘技戦になりそうだ。

「……し、士郎君」

「……わかってる」

遠坂とルヴィア、双方の身を案じる由紀香の声に頷く。……俺が、止めるんだ、あの二人の闘いを。

「ハァッ!!」
「シィッ!!」

二人がほぼ同時に間合いを詰めるように動き出す。それに合わせ、俺も動く。二人の激突を止める為に。

「オオッ!!」

解析により、二人の攻撃を予測。そして、二人の攻撃を何ら問題なく制止できると確信した瞬間、

「―――フィッシュ」

俺の右足首に、何か赤いモノが絡まった。

「――へ?」
メキャ!! メシャ!!
「グハッ!?」

バランスを崩した俺の体に叩きこまれる、遠坂の掌底とルヴィアのエルボー。

「「し、士郎っ/シェ、シェロッ!?」」

よっぽど当たり所が良かったのか、完全に脱力した状態で崩れ落ちる士郎に、慌てる遠坂とルヴィア。

「こ、これは、マグダラの聖骸布。ま、まさか?」

「颯爽と制止するより、コメディアンのような今の姿の方が、あなたには似合っていますよ、衛宮士郎?」

騒然となる道場内を尻目に入り口で佇んでいたのは、銀髪金眼の毒舌シスターでした。


「……粗茶ですが」

「……それは、普通、俺の台詞だし、尚且つ、今飲んでるのは、家で一番良いお茶だ」

所と時が変わって、衛宮邸居間。メンバー勢揃いでお茶を飲んでいる。

「何故、あなたまでここにいるのですか、カレン・オルテンシア?」

「あなたへ、私の行動を報告しなければならない理由があったかしら、バゼット?」

それなりに険悪なムード。……あかときんのあくまの、それ程ではないにしても。

「いや、『悪魔祓いシゴト』の方はどうしたんだ? 見たとこ、一人みたいだけど」

カレンは、上司でもあり師でもある神父エクソシストと行動を共にしていたはずだ。……俺、あの人には、思いっきり『悪魔』扱いされてるからなぁ。

「その事に関しては、私めから御説明致しましょう」

そんな言葉と共に、台所から姿を見せた壮年の紳士。丁寧に手入れされたカイゼル髭が誇らしげである。

「「(Mr.)アレックスさん?」」

「お久し振りです、若旦那様、もとい士郎様、バゼット様。それと皆様、お初にお目に掛かります。私めは、エーデルフェルト家、筆頭執事を勤めさせて頂いております、アレックスと申します」

恭しく挨拶をするアレックス。ちなみに、「若旦那様」の辺りで、居間の空気がギシギシと軋んだのは、気のせいではあるまい。

「――略して、アレクサンドルとお呼び下さい」
「長くなってんじゃんっ!!」
ビシッ!!

顔を上げ、笑顔で言ってのけたアレックスの台詞に、楓のツッコミが間髪入れずに入る。

「――お嬢さん、お名前を聞かせて頂けませんか?」

「冬木の黒豹、あ、あと、士郎の、こ、恋人、う、うわ、こっぱずかし〜、……こほん、と、とにかく、蒔寺楓たあ、あたしの事だ!」

「楓様ですね。……楓様とは、仲良くなれそうです」

「あたしも、おじさんとは仲良くやれそうだよ」

「……アレックス。親交を深めるのは、またの機会になさい。それよりも、ワタクシも気になっていたのです。彼女は何者なのですか? 何故、今回、ワタクシ達と同行していたのです?」

「カレン様は、士郎様の知人でございます。お嬢様が日本行きを決定なされた時、たまたまフィンランドにいらしたので、拉……ゴホン、失礼、お連れした次第です」

「じゃあ、神父エクソシストはどうしたんです?」

「勿論、無事です」

無事と言う言葉が出る時点で、既におかしい気がするが。

「今頃は、元気ハツラツになられている事でしょう」

「……何したんです、アレックスさん?」

「先頃、日本のある健康食品会社より、『栄養ドリンク』を購入いたしまして。神父エクソシスト殿は、お疲れの御様子でしたので、それをお出ししただけですが?」

「あれは、美味しかったです。神父様も大変喜んでおられました。……激しく海老反られて」

「陸に上がったオマール海老のようでしたなぁ。……あれほど喜んでもらえて、お出しした甲斐があったと言うものです」

ちなみに、件の栄養ドリンクの商品名は、「ク○ハちゃんの手作り栄養ドリンク」である。キャッチフレーズは「味も効果も驚天動地!!」。……あな、恐ろしや。

「今頃、神父エクソシスト殿は己が五体で悪魔を祓える程、元気ハツラツになっておられるやも知れませんなぁ」

その原因を作った張本人の癖に、まるっきり他人事である、この執事。……大丈夫か、エーデルフェルト? こんな危険人物、執事に据えて。

「アレックス。シェロの知人と言うだけで、彼女をワタクシ達と同行させたと言うのですか?」

「勿論、それだけではありません。私めの楽しみの為、ついでに、ルヴィアゼリッタお嬢さまの御為でございます」

「ワタクシの為?」

小声の部分は、ルヴィアの耳には届かなかったようである。……士郎の耳には届いていたが。

「はい。お嬢様と士郎様が出逢われてから、一年半と少しになります。そろそろ、先に進んでも良い頃合かと」

そう言って、アレックスは居間を見渡した。


士郎とルヴィアの出会いも、戦いであった。「Blade worker」としての仕事で、バゼットと共にフィンランドを訪れた士郎。宿帳に「シロウ・エミヤ」と記入したのだが、この事が、二人の出会いの始まりだった。
その日の深夜、士郎達を襲撃するエーデルフェルト実働部隊。応戦する士郎達。
橙士を連れた大師父ジジバカの仲裁が無ければ、滅んでいたのはどちらだったか。
で、騒動の原因だが、実は衛宮切嗣にあったのである。……何してんだ、あのオヤジ。
先代のエーデルフェルトの当主、即ちルヴィアの母親であるのだが、彼女にはルヴィアの父親である夫よりも愛している男性がいた。そう、なんと衛宮切嗣である。
彼女と衛宮切嗣の間に、どのようなロマンスがあったのかは不明であるが、ルヴィアの母親にとって、衛宮切嗣は、唯一の恋にして愛であった。
が、この時より4年程前に、衛宮切嗣は一方的に別れを告げていったのだ。それまでは、居場所が分からずとも、連絡が取れなくても、去る時は必ず、「またね」と言っていなくなる切嗣が、「さよなら」と告げて去って行ったのだ。
切嗣が去った翌日、ルヴィアの母親はルヴィアに当主の座を渡し、魔術師をも引退した。この後から、彼女は、ただただ、穏やかな日々を過ごすようになる。
そして、ルヴィアは母親を堕落させた、衛宮切嗣を憎悪する。慕っていた分、激しく。
故に、エーデルフェルトの領地フィンランドに、「衛宮」の姓を持つ者がいると聞いた瞬間、行動を起こしたのだった。
だが、大師父の仲裁を受けた後、明らかになった衛宮切嗣の死。そして、その事を聞いた母親が、「やはり」、「キリツグらしい」等と言って納得していた事に、ルヴィアは自分が空回っていた事を知る。
士郎に謝罪するルヴィア。笑って許す士郎。その時、士郎はつい、ルヴィアの頭を優しく撫でてしまう。その瞬間、ルヴィアの脳裏に蘇る情景。幼い頃、慕っていた大人の男性に、優しく頭を撫でられながら笑いかけられた事。――そんな初恋の情景。
そして、始まる第二の恋。その事に欠片も気付いていなかった彼女は、自分の想いを続く日々に知っていくのである。


「士郎様と関係を持たれておられるのは、私めの見立てでは、この場に、……六人ですなぁ。いやはや、切嗣様もお盛んな方でございましたが、士郎様にもその気質は脈々と受け継がれている御様子。このアレックス、一人の男として、感服致しました」

「ブッ!?」
「「「「「「!!? ろ、六人!!?」」」」」」
「シロウ、お盛ん」

茶を噴き出す士郎。アレックスの言葉に驚愕し、周りを見渡すアルトリア、遠坂、間桐、イリヤ、セラ、ルヴィア。リズは感心している。
楓、鐘、由紀香、綾子は程度の差はあれ、赤面している。まあ、初対面の人間に指摘されれば、当然の反応と言えよう。バゼットは、平然としている。母は強し。
で、後、この場に残った女性と言えば。キャスター。葛木宗一郎を愛する彼女は、除外。そもそも橙士に構って、話を聞いていないし。
となれば、全員の視線が彼女、毒舌シスター、カレン・オルテンシアに集う。

「……六人ですか」

そう呟き、コクリとお茶を飲んだ後、彼女は、ニヤリと愉しそうに哂った。

「やはり、真性淫魔でしたね、衛宮士郎は。何度もこの身を捧げたのに、下半身で生きているケダモノの犠牲をそんなに出してしまうなんて、神に仕える者として誠に遺憾です」

神に祈るように手を顔の前で組んで、そんな事をのたまうカレン。……口元は哂いが歪んでいたが。
ちなみに、カレンとそう言う関係になったのは一年程前で、原因は、「悪魔+士郎の対魔力の低さ×若さ=真性淫魔ケダモノ」と言った感じだ。
カレン、士郎より二つ年下なので、一年前なら、カレン、中○二年? ……犯罪ですよ、士郎君?
カレンの発言により、居間の空気が深海の底を思わせる程に、重く冷たいものになる。その空気に、堪らず士郎が口を開く。

「お、おい、カレ」ガシィッ!!「え!?」

が、士郎がカレンに声をかけようとした瞬間、士郎の両隣に座っていた遠坂とルヴィアに、しっかりとホールドされる。

「と、遠坂、に、ル、ルヴィア? は、離して、くれない、か?」

冷や汗が滝の如く流れ、舌は麻痺し、頭を砕かんばかりに警鐘が鳴り響く。

「何だか、無性に絶招を撃ちたくなったわ。――受けてくれるわよね、士郎」
「封印したあの技を、無性に使いたくなりましたわ。――受けて下さいますわね、シェロ」


ヒィッ、人を殺せる笑顔とは正にこの事っ!! 二倍どころか二乗の恐怖に魂までも凍りつきそうですっ!!

「冬木の黒豹と呼ばれたあたしの黄金の脚が、唸りを上げるぜぃ!!」
「それでは、私は戦場で鍛えた脚をご覧にいれましょう」


猫科の猛獣コンビが、猛る猛るっ!! 衛宮士郎は草食動物(ハイ、うそ!!)なので、肉食動物には勝てませんっ!!

「あたしも、殺法、解禁させてもらおうかねぇ」
「それは興味深い。私にも教授、願えないかな、美綴嬢」
「くすくす、わたしも勉強させてもらいます、美綴先輩」


なんて物騒なお話っ!! いつもの、さっぱりとした気性を、動じないクールさを、陽だまりの様な穏やかさを思い出してっ!!

「セラ、リズ、アインツベルン式の拷問術の恐ろしさ、シロウの骨の髄まで教え込みなさい」
「仰せのままに」

「とびっきり、クールに、教える」

更に物騒だよっ!! ああ、目が、目が本気と書いてマジだ!!

「自業自得ですね、士郎。……そんな目で見ても、私は助けませんよ」

いや、そんな事言わず、助けて、お願い!!

「フッ、嫉妬に呑まれ、溺死しろ」

おい、アーチャー!! 何で、あらぬ方を向いてる!? 何で、小声なんだ、おい!?

「あれ〜、おとうさんは〜?」

「あら、いないわね。あっちを捜してみましょう、橙士」

「うん」

ああ、橙士が、俺の蜘蛛の糸がっ!! キャスター、認識阻害の魔術使ってまでっ!?

「みんな!」

俺を引き摺って道場に連れて行こうとしていた皆を、制するように声をかけたのは由紀香。――おお、マイ・ゴッデスッ!!

「救急箱の用意、しておくね」

か、神は死んだぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

この日、顕現したのは、「最終地獄ジュデッカ」よりも更に凄惨な地獄。
その名も、この世、全ての地獄しっと・ヘルである。
「最終地獄」ですら、小一時間で回復した士郎であったが、「この世、全ての地獄」では、そうもいかず、日中、全く行動できなくなった。……って、夜には回復したのかっ!? 恐るべし、衛宮士郎。
この後、帰還したライダーに、間桐邸に臓硯の姿は無く、一切の痕跡も残されていなかった事が告げられた。結局、大した事態の進展の無いまま、一日が過ぎようとしていた。
そんな中、衛宮邸のある一室で、

「もう、迷ってる場合じゃないです! ……、行きます!」

一人の少女が、決意を固めていた。


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