Blade worker 29 「金のお嬢様襲来!士郎、心の準備は万端か?」 <ギアスさん>
――2月9日・十日目
「……フゥ、いいお湯です」
「……そうだなぁ」
東の空が仄かに明るくなり始めた早朝、衛宮邸の風呂で、士郎とバゼットが寛いでいた。……ちなみに、バゼット、湯の火照り以外でも赤くなっているのだが、ソコはスルーの方向で。
「そろそろ、上がろうか?」
「私は、もう少し入っています。……全く、体を綺麗にして、疲れをとるために、ここに来たはずなのに」
「ベ、ベンカイノシヨウモゴザイマセン」
「……まあ、その点に関しては、士郎ですから、諦めています」
さ、刺し穿つ言葉の槍!! 衛宮士郎の心は、硝子の様に砕け散る一歩手前だっ!!
「士郎、いつまでも固まっていたら、湯冷めします。上がるのなら早く上がりなさい」
「そ、そうだな。それじゃあ、お先に」
カラカラ。
ガチャ。
「「えっ?」」
俺が風呂場の扉を開けるのと、洗面所兼脱衣所のドアが開くタイミングが重なり、自然入ってきた人物とお見合いをする形になる。
「「………」」
静止する時間。空間を充たすは緊張感。この状況では、先に動いたほうが負け……って、そういう問題じゃないだろ!?
「き」
「き?」
何故聞き返す、俺!?
「きゃーーーーーーーーーーーー!!!!」
甲高い悲鳴を上げる、アインツベルンの腹黒いのに青いメイド、セラ。……何か、前にも似たような状況が在ったような(それはともかく、先ずは隠せよっ!?)。
「どどどどどどどう言う了見なのですか、エエエエエエミヤシロウ!?」
「な、何の事だ?」
両手で顔を隠しているのは良いんだが、指の隙間から、バッチリ、赤い瞳が覗いてる。視線の先は……まあ、その、アレだ。
「そそそそのようなまままま凶々しいモノを腰に付けて、ワワワワワワタクシを脅そうともムムムムムダです!! ワワワワワタクシがいいい居る限り、おおおお嬢様には、ふふふ不埒な真似は、ゆゆゆ赦しません!!」
何にもしてないのに、性犯罪者扱いですか。何か、どんどん扱いが落ちていってる気がするなぁ。……俺、本当に家主かなぁ?
「わわわ分かったのなら、ソソソソレを、はははは早く取り外しなさい!!」
「無茶言うな!」
取り外せるか! 俺は何処の改造人間だっ!?
「……まままままさか、ソソソッソソレは、あああああなた自身の、モモモッモモノと、おおおおお仰るので!?」
「当たり前だ!」
「……………………フゥ」
パタリ。
「って、気絶したぁっ!? お、おい、セラ、しっかりしろ」
「どうしたのです、士郎。先程から騒がし…………」
騒ぎに眉を顰めながら、風呂場から出てくるバゼット。そして、洗面所の状況を認識すると、体も拭かずに、自分の脱衣籠に向き直る。
「ああ、バゼット。何か急にセラがって、バ、バゼットさん? な、何故に、ふ、風呂上りにグローブから着けるんで?」
「分かりませんか?」
「え〜〜と、その、な、なんとなく、分かるんだけど、ご、誤解ですよ?」
「ゴカイもロッカイも必要ありません」
「微妙に言い回しが違っ!?」
「覚悟は良いですね、士郎?」
バゼットの笑顔を見て確信。ここは戦略的撤退が適切ですっ。
「死ね」
「こっ、殺す気かっ!?」
物騒極まりない発言と共に繰り出される、バゼットの必殺コンビネーションを辛うじて躱し、反転。開いたドアから、自室へと撤退しようとした瞬間。
「シロウ、セラ、いじめちゃ、ダメ」
ドゴン!!
「のお゛っ!!?」
突飛なお茶目が大好物な黒いメイド、リーゼリットの振るう超重量のハルバートが脳天直撃!! ほっ、星がっ、星が見えたスターッ!!!
そうして、俺は星の瞬く闇へ沈んでいった。
「うわぁ、まだ頭がズキズキする」
「ごめんね、シロウ」
「あ、すまん。リズを責めた訳じゃない。誤解って分かって貰えたし、俺も悪かった訳だし、気にしないでくれ」
「……ありがとう、シロウ」
朝食を食べ終わり、今はみんな、食後のお茶を飲んでいる。風呂場の件は、そう大事にならなかった。まあ、なってたら、ここでお茶を飲んでいられなかった気がするけど。
あの後、気絶した俺をバゼットが、同じく気絶したセラをリズ(俺もこう呼ぶよう、言われた。イリヤ承認済み)が運んだらしい。
しかし、「鞘」は脳細胞もちゃんと蘇生してくれるだろうか? 少し、不安だったり。それにしても、
「…………」
めっちゃめちゃ、セラに怯えた目を向けられてます、俺。どちらかと言うと、見られた俺の方が被害者寄りと思うんだけど……、えっ、気のせい、俺が加害者っ!?
あれだ、まるで、吼えそうな犬を怖がっている子供みたいに、リズの後ろに隠れている訳だが。ただ、立ち位置を調節する事でそう言う形にしており、周りに、いつも通りイリヤの側に控えているように見せているのは、流石である。
「…………」
と言うか、アルトリアも俺を見てたりする。セラのような怯えた視線を向けてきてる訳じゃないんだが、どうも様子がおかしい。
まだ1週間ちょいしか一緒に居ないが、アルトリアの性格なら何かあるのなら言ってくれると思うし、遠慮なく言ってくれるだけの関係は築けてるとも思う。
にも関らず、俺が目を向けると目を逸らすし、なんだかソワソワと落ち着かない様子だ。……いや、昨日はラインは閉じたはずだけど。
「………!」
「あ」
やっぱり、俺と目が合おうとすると、慌てて逸らしちまう。と言うか、合わないのが凄い。もしかして、「直感」使ってる? そこまでして避けられるような事、俺、したかな? ……心当りが無い訳じゃないんだが、どうも違う気がする。
そう言えば、朝食の時、
『シロウ、おかわりをよろしいでしょうか?』
『おう。……ほい、アルトリア』
『ありがとうございます、シロウ、…あっ』
突然、受け取った茶碗から手を引っ込めるアルトリア。宙を舞う大盛りの茶碗。あわや、お百姓さん達に顔向け出来ない事にと言う事態の寸前、アルトリアが再び茶碗をキャッチした。
『も、申し訳ありませんでした、シロウ。私とした事が』
『どうしたんだ、アルトリア? 何か、顔が赤い気がするけど、もしかして、熱があったりするか?』
言って、アルトリアの額に掌を当てる。
『シッ、シシシシシシッシシシシロウ!?』
『熱は無いみた』ドガァン!!『ヘブッ!?』
『サーヴァントが熱出したり、風邪ひいたりする訳ないでしょうが、この馬鹿士郎!!』
『だ、だからって、ガンド撃つのは止めてくれ、遠坂……ガク』
この後からか、アルトリアの様子がおかしくなり始めたの。と言う事は、……なるほど、アルトリアがおかしくなった原因は、俺が気安く額に手を当てたせいだな。確かに女の子相手に気安すぎたな。後で、謝っとこう。
「さて、これからの事、話したいんだけど、士郎良い?」
「ああ、分かった、遠坂」
「それでは、私達は外そう」
「それじゃ、あっち行こうか、橙士」
「うん、かえでおねえちゃん」
「洗い物はどうしよう?」
「士郎かアーチャーさんに任しときなよ、三枝」
鐘、楓、由紀香、綾子の一般人組は橙士を伴って、居間を出て行く。ちなみに、藤ねえと葛木先生は、もう出勤した。
「こっち」関係の話の時、鐘、楓、由紀香、綾子にはなるべく席を外して貰う事に、いつの間にかなっていた。
情報がある事で危険を回避できるが、逆に危険を呼ぶ事もある。先ず俺達だけで話し合って、そこら辺の選別をしてから、情報を話す事にした。
「さてと、私は新しい動物装具の製作に――」
「橙士、今日は少し肌寒いから、暖かく――」
と、皆に続くように居間を出て行こうとするサーヴァント二騎。
「――あんたらは、残んなさい?」
レッドデヴィルスマイル。サーヴァントすら畏怖させるあくまの笑顔。……遠坂、どんどんパワーアップしてないか? 後、機嫌もなんか悪いみたいだし。何でだ?
アーチャーとキャスターが席に付いてから、遠坂が口を開く。
「とりあえず、分かっている情報から、整理していきましょうか」
「ああ」
「先ず、現在現界しているサーヴァントは、ここにいるアルトリア、アーチャー、ライダー、バーサーカー、キャスター。それと前回の聖杯戦争に参加した金ピカ。脱落したのはアサシン、ランサー」
「? 前回の聖杯戦争に参加していたサーヴァントがいるのですか、士郎?」
「そうなんだ。害は……、有るのか無いのか微妙なところだけど」
「不確定要素であるのなら、早々に殲滅して、排除すべきでは?」
「……極端過ぎだ、バゼット」
「話の腰折るんじゃないわよ。で、癪な話だけど、バカ綺礼のお陰で聖杯戦争の本当の目的が見えてきたと」
「本当の目的? 何さ、それ?」
「聖杯戦争の真の目的は、聖杯を手にする事じゃなくて、聖杯を「完成」させる事。サーヴァントって言う極上の「贄」を使ってね。そうでしょ、聖杯の一族?」
遠坂の冷めた瞳がイリヤを捉える。それを柳に風と受け流しながら、イリヤが口を開く。
「そうだけど、それがどうかしたの、リン?」
「別に? ただの確認よ?」
「そ、そんなカラクリが有ったのか」
「「願望器」である「聖杯」を餌に魔術師達を集め、その魔術師達の召喚する「サーヴァント」を以って「聖杯」を充たす事で「完成」させる。……まんまと乗せられてたって訳ね」
淡々と話しているので、特に気にしてる訳ではなさそうだ。まあ、「こっち」では騙される方が悪いのだが。
「つまり、「聖杯」は欲しければ、中身を充たすまで戦わなきゃいけない訳だけど。……どうする?」
遠坂が居間にいる面々を見渡す。
「私は要らないわ。私が欲しいのは宗一郎様と共にある日々よ。……ああ、宗一郎様、御飯になさいますか? 御風呂になさいますか? そ、それとも、わ、私になさいますか? なんちゃって、きゃ〜〜、きゃ〜〜♪」
「私は別段、聖杯を欲していません。サクラとシロウと共にあれれば、それで充分です。……出来ればアヤコとも」
「昨日も言ったが、私は聖杯を欲してなどいないのでね。今は、橙士と共にあれれば、それで充分だ」
「私は聖杯を手にする為に、ここに来ました。ですが、今はシロウの剣である為に、ここにいます。〜〜〜ッ、クッ、な、何故、シロウのことを考えると、顔が熱くなり、動悸も激しくなって、落ち着かなくなるのでしょう? わ、私は一体……」
「わたしは、シロウに決めた事に従うわ。え〜と、こう言うのを「夫の影に三つ指を付く」だったかしら?」
「いえ、イリヤスフィール様。「三歩下がって夫の影踏まず」であったと記憶しております」
「夫唱婦随、だと思う」
「!!?」
「リズ、物知り〜〜」
「勉強した。えっへん」
「リ、リーゼリットに、ま、負けてしまうなんて……」
「わ、私も別に聖杯が欲しいと思いません。……先輩と一緒に居られれば、それで」
「私は、協会から聖杯獲得の指令を受けてはいますが、その指令は放棄する事にします」
「俺は、最初から言ってる通り、聖杯は要らない」
「……ハァ、予想通りだけど、誰一人、聖杯が欲しがらないのね。まあ、私も要らないから、人の事言えないんだけど。それじゃ、ここに聖杯の「完成」を望んでいるのは一人もいない、O.K?」
「そう言う事になるよな」
「で、昨日の口振りから察するに、バカ綺礼の奴は、聖杯を「完成」させたい。つまり、言峰綺礼は私達の「敵」。ま、サーヴァントの無いあいつに、早々負けたりはしないでしょうけど」
「いえ、リン。あの男はサーヴァントをもう一体、従えている筈です」
「えっ!?」
「十年前の聖杯戦争、あの男こそが、アーチャーのマスターでしたから」
「で、でも、綺礼の奴は、前回の聖杯戦争で一番最初にリタイヤして……」
「いえ、アーチャーのマスターは、間違い無く、あの神父です。キリツグが、「師匠殺し」と侮蔑していたのを良く覚えていますから」
「し、師匠殺しですって?」
「はい」
「……アルトリア? あなたと衛宮切嗣が斃したマスターの中に……」
「私とキリツグが討ったのは4組。いずれも外部からこの街に来た者でした」
「……そう」
燃え盛り爆発しそうな赫怒を、抑えつける。魔術師であるのなら、己が激甚たる感情を抑えて当然だからだ。だが、遠坂凛にとって、言峰綺礼は討つべき敵となった。冬木の管理者として、……父を失った一人の娘として。
「とにかく、綺礼の奴の思い通りにはさせない。となれば、聖杯の「器」を押さえておきたいんだけど、イリヤスフィール?」
「何かしら、リン?」
「今代の聖杯の「器」は、何処? 聖杯の担当はあんた達、聖杯の一族なんだし、知ってるんでしょ?」
「ええ、知ってるわ」
「で、何処?」
「リンの目の前よ」
「!? そ、それって……」
「わたしが、今回の聖杯の「器」よ」
「……そう。なら、取り敢えずは、イリヤを綺礼から護るのを、基本方針にって事にして」
「リン。「敵」はコトミネキレイだけじゃないわ」
「? どういう事よ、イリヤ?」
「今、わたしの中に在るのはランサーだけ。アサシンはいないわ」
「え、でも、アサシンは士郎が倒したんでしょ?」
「ええ、その通りよ、リン。でも、いないわ」
「何、それじゃあ、アサシンはまだ現界してるって言うの?」
「それは無いわね。ラインを通じて、アサシンが消えたのは確認したわ」
「キャスターの言う通りでしょうね。けど、わたしの中にアサシンがいないのも本当よ。最初は、受け容れたサーヴァントの事なんて分からないものだと思っていたけど、わたしの中のランサーの存在は明確だわ」
「それじゃあ、アサシンはどうしたって言うのよ?」
「トオサカは冬木の地を、アインツベルンは聖杯の「器」を、そして、マキリは「令呪」を要とした「システム」を」
「!! なに、間桐臓硯が動いてる、そう言う訳?」
「そうよ。ゾウケンなら、消えかかったサーヴァントを苗床に、正統なアサシンのサーヴァントを召喚するくらいやってのけるでしょう?」
「……でしょうね。今まで、動かなかった妖怪爺が、ここに来て動くなんて。厄介だわ」
「間桐臓硯? 何者なんだ? 間桐の人間らしいけど」
「間桐の当主で、500年は生きているって言う妖怪爺よ。この200年、殆ど舞台に上がってくる事も無かったって言うのに。……目的は、何なのかしら? 聖杯が目的なのは疑いようも無いけど、それなら、今までの聖杯戦争で、碌に動きも見せなかった理由が分かんないわ」
「そんな理由、分かんなくても良いじゃない。どうせ、ゾウケンの目的なんて碌なものじゃないと思うわ」
「……そうね。間桐臓硯の目的が何であれ、警戒すべき相手なのには変わりないわ。持ってるサーヴァントがアサシンと言う事は、真っ向からじゃなくて、搦め手で攻めてくるわね」
「バーサーカーの敵じゃないけどね」
「搦め手で来るって言ったでしょうが。アサシンの強みは、気配遮断を活用してのマスターの排除よ。それでなくても、衛宮邸にいる誰かを人質にとるのも有効だわ。橙士が攫われでもしたら……」
「「私が、それを許すと思うかね(って)?」」
怪しい光りを眼から、ドス黒いオーラを全身から迸らせるサーヴァント二騎。「反英霊」を越える禍々しさだ。
「対策を打ってない段階じゃ油断は禁物って言ってるのよ。とにかく、言峰綺礼とそのサーヴァントと、間桐臓硯とそのサーヴァントが、私達の「敵」って事で良い?」
「ちょっと、待ってくれ。その間桐臓硯と会う前から、「敵」って断じるのは早計じゃないか?」
「最初から、「敵」と見做しておいた方が付け込む隙を与えなくて済むわ。それとね、士郎、500年間、間桐臓硯がどうやって命を繋いでいるか分かる?」
「!!」
「私は、慎二の奴以上に、間桐臓硯と話す場を持つのも、ましてや、手を結ぶのも御免だわ」
「……分かった。多分、俺も遠坂と同じだ」
「そうね。そうでなきゃ、同盟なんて結べなかったわよ。それで、今言った事を踏まえた上での、私達が執るべき行動なんだけど」
「ああ、どうするんだ?」
「綺礼にしても、間桐臓硯にしても、早々、姿は見せないでしょうから、基本的にこっちは受身にならざるを得ないわ。もちろん、居所を探るけど、簡単に掴ませてはくれないでしょうし」
「結局、相手の動きを待つって事なの? そんな事、改まって言う必要あったの、リン?」
「う。私だって、相手の出方を待つのなんて性に合わないけど、しょうがないじゃない。昨日から、使い魔飛ばして、冬木中視て回らせたけど、綺礼の足取りは何も掴めなかったし」
「ゾウケンの方は?」
「ああ、昨日の段階じゃ警戒の対象に入れてなかったから、何も調べてないわ。そうね、間桐邸を調べてみましょうか。手掛かりがあるかも知れないし」
「!!」
「そうだな。それじゃあ、間桐の家に行ってみよう。間桐も良いか?」
「えっ、あ、そ、その」
「よろしければ、マトウ邸の調査は私にお任せ頂けませんか、シロウ?」
「ライダー?」
「サクラのサーヴァントである私が、あの家に入る事はおかしな事ではありませんし、この場にいるサーヴァントの中で、私が最もあの家の事を把握していますので、情報を得る可能性も高いと思います。どうでしょうか?」
「ライダーの言う事も最もだな。俺は良いと思うけど、遠坂やイリヤはどうだ?」
「そうね。この中じゃ、ライダーが一番、偵察とかに向いてると思うし。異存はないわ」
「わたしも良いと思うわ、シロウ」
「それじゃ頼むな、ライダー」
「お任せ下さい、シロウ」
「……ライダー」
「行って来ます、サクラ」
「……ありがとう、ライダー。それと、気を付けてね」
「はい、サクラ」
ライダーの姿が居間から消える。早速、間桐邸へと向かったようだ。
「さてと、今日はどうしようか?」
「士郎、トレーニングに付き合ってくれませんか?」
「皆で一緒に遊ぼうよ、シロウ」
「楽しいから、遊ぼう」
「よ、よろしいですか? ゆ、遊戯を口実にして、お、お嬢様に不埒な行いをしたら、ゆ、赦しませんよ」
「せ、先輩、お昼の献立はどうしましょうか?」
「橙士を護るため、この屋敷を要塞化しなくちゃ」
「フッ、橙士を害そうとするモノは、有象無象の区別無く、我が弓で撃ち墜としてくれる」
「ところで、アルトリア、何か元気ないみたいだけど、どうかした?」
「い、いえ、何でもありません、リン。わ、私は何ら変わりありません」
とりあえず、ライダーが間桐邸から戻るまでは、特にできる事もないので、それぞれ、思い思いに動こうと腰を上げる。
ちなみに、士郎は先ずバゼットのトレーニングに付き合った後、イリヤの提案通りに皆と遊び、桜と一緒に昼食を作る事にした。……何気に忙しい。
バララララララララララ
「ん?」
「どうしたのですか、士郎」
「いや、随分低空を飛んでるヘリがいるな」
バララララララララララ
「って言うか、こっちに向かってきてる?」
「何ですって?」
士郎の言葉に警戒の色を浮かべる面々。だが、
バララララララララララ
「シェロ〜〜〜〜♪♪」
ヘリから垂らされた縄梯子から一人の少女が、こちらに飛び下りるのを見て、驚きに染まる。
「バッ、バカッ!! 危ない!!」
疾風の如き迅さで、間一髪少女を抱きとめた士郎。
「危ないだろ、ルヴィア!」
「あら、シェロが受け止めてくれると解っていたのですから、危険などありませんでしょう?」
「そう言う事じゃなくてだな……」
「逢いたかったですわ、シェロ♪」
チュ♪
「ル、ルヴィア!?」
「「「「ああーーーーーーーーー!!?」」」」
きんのあくま、襲来。
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