Blade worker 25 「後より出でて妻と言うもの」 <虹夜さん>



――夢を見た。いや、それは夢ではなく、もう変えようのない冷たい過去げんじつだった。

「みんなを守りたい」と願った少女は、それを成し遂げる為、「みんなを守りたい」と言う感情を捨て、王となった。その果てに、避けられない孤独な破滅が待っている事を知りながら。

「――多くの人が笑っていました。それはきっと、間違いではないと思います」

そうして、国よりも人を愛していた事を知られず、みんなを護るため、無慈悲な王であり続け。
頑張って頑張って、恨まれて、裏切られて。
それでも、得られるものがあると信じていたからこそ、一点の汚れも出さずに走り続けた。

――そんな、気高き少女の過去だった。

だからこそ、少女アルトリア聖杯への望みやりなおしは、どうしようもなく、間違っていると、彼女に解って欲しかった。

「……とは言え、どう伝えたもんかなぁ」

両サイドをイリヤと橙士に拘束された状態で、士郎は布団の中で独りごちた。


――2月8日・九日目

「おはよう」
「「おはよー♪」」

士郎とイリヤ、橙士が居間に入って行く。

「はよー」
「「おはよう」」
「おはよ」
「「「おはようございます」」」
「おはよー」
「おはよう、橙士♪」

朝の挨拶が飛び交う衛宮邸・居間。

「……おはよう、士郎」

「おはよう、鐘」

決まりの悪そうな俯いた鐘が、士郎の前に進み出て朝の挨拶をする。そして、意を決して顔を上げ口を開く。

「士郎、「ありがとな、鐘。俺なんかのために怒ってくれて」

だが、鐘の言葉が続く前に、そう言って笑いながら、優しく鐘の髪を梳く士郎。

「〜〜〜〜ッ!! ばっ、馬鹿者っ!!」

ポスンと士郎の胸に顔を埋めるしかない鐘。……何気に二人だけの空間になってるっぽい。となれば、居間の空気が重くなるのは必定で。

「……、あ〜〜、鐘、そろそろ」

居間に満ちる無言の圧力に負け、鐘に体を離す事を提案するが、

「……うむ、もう少しだけ、士郎分を補給させてくれ」

「しっ、士郎分!? なにさ、それ!?」

「士郎と密着する事で得られる、素敵な成分だ」

「素敵って、どんな成分さ!?」

「ずっる〜〜いっ、カネ!! わたしもシロウ分、補給する〜〜!!」

イリヤが背中に飛びついてきたのを皮切りに、

「あたしもほっきゅう〜〜♪」
「えと、えと、わ、わたしも、い、良いかな?」
「是非とも補給させてもらうよ、士郎」
「わ、わたしも補給させてもらいます、せ、先輩」
「……私は、アヤコ分も補給させて頂きましょう」
「ぼくも〜〜♪」
「私は橙士分を補給させてもらうわ。……宗一郎様分は、昨夜たくさん注いで頂いたし♪
「私も」
「あなたには、そのような訳の分からない物、必要ないでしょう! ああっ、イリヤスフィール様、そのケダモノにそのように長く接触していたら、それだけでご懐妊してしまいます」

何と言うか一種異様な光景である。余す所無く抱き付かれ身動きのとれない士郎。

「な〜にが、士郎分よ。……羨ましくもないし、補給なんて必要無いんだからっ!!」

独りその光景に入っていけず、拗ねてる少女も居たが。

――ちゅうい♪ ちゅうい♪ しんにゅうしゃだぞ〜〜♪――

と、そこに、橙士の声で侵入者を告げる警報?が響く。どうも、キャスターが探知結界を衛宮邸に敷いていたようだ。
キャスター本人は満足しているようだが、侵入者の存在を告げているのに緊張感を拭い去り、和ませてどうする?

ドスドスドス。

力強い足音が、居間に向かってくる。そして、襖が開け放たれる。

「士郎、私は悔しいです!!」

そんな台詞と共に居間に入って来たのは、女性だった。
赤毛をショートにした、泣き黒子が印象的な男装の麗人。彼女は真っ直ぐに士郎の前に進み出て、

「さあ、士郎、私と共にあの変態を討ち滅ぼしましょう!!」

「いや、バゼット、脈絡が無いから、どういう事か全然解んない。とりあえず、落ち着けって」

「落ち着け!? 私はこの上も無く、落ち着いています!!」

「……周りを見ても、そう言えるか?」

「周り!? 何を言って、あっ」

ようやく士郎以外の人間がいる事に気付いたバゼット。よっぽど頭に血が昇っていたようだ。と、そこに、

「皆、無事ですかっ!?」

警報?を聞いて、武装したアルトリアが居間に踊り込んで来た。

「そこを動くなっ、魔術師メイガス!!」

見知らぬ魔術師を標的に定め、不可視の剣を振り上げるアルトリアと即座に臨戦体勢をとるバゼット。……このままじゃ家無き子決定です。

「アルトリア、バゼットは敵じゃない! 剣を収めてくれ!」

「!! ……解りました」

士郎の言葉に答え、剣を収めるアルトリア。だが、士郎と眼を合わせようとしない。どうやら、昨夜のことが尾を引いているようだ。
おそらく、今は何を言っても逆効果だろう。鎧を解かずに、無表情に皆から一歩離れている事からも、その事が窺える。

「バゼットママ〜♪」

「元気そうで何よりです、橙士。冬木に行ったと聞いて驚きましたよ?」

そんなアルトリアを余所に、嬉しそうに抱きついて来る橙士を受け止めるバゼット。

「ぼく、おにいちゃんだから、だいじょうぶ♪ ねぇねぇ、リーシャちゃんは?」

「こちらに連れて来たかったのですが、ゼルレッチ翁に攫われました。士郎、あの方に、事ある毎にリーシャを攫うのを止めるように言って頂けませんか?」

「俺が言っても、聴かないさ。橙士に言ってもらったほうが良いだろ」

「それもそうですね。お願いできますか、橙士?」

「ゼルじぃじにリーシャちゃんをつれていっちゃダメっていえばいいの? うん、いいよ」

何とも割って入り難い空気を生み出す三人。しかし、衛宮邸には、そんな空気を物ともしない者が結構居るのだ。

「いきなりやって来て、ファミリードラマを繰り広げるたぁ、あんた何者だぁーーー!?」

「君も落ち着け、蒔。失礼、バゼットさんとお呼びしてよろしいか?」

「ええ、構いません。名乗るのが遅れましたね。私の名前はバゼット・フラガ・マクレミッツ。士郎のです」
「いや、結婚はしてないだろ」

「ですが、妻を名乗っても差し支えない関係なのは、事実です。子供リーシャも授かっていますし」

「む」

その言葉に居間の空気が重くなり、特殊結界「他者封印・嫉妬神殿」が構築される。士郎君、ラ・イ・ヴでぴ〜んち☆

「朝食が出来たぞ、新婚さん」

更に、台所から出てきたアーチャーの一言で圧力が増す。

「申し訳ありませんが、その、士郎と一緒に居る時は、士郎の作った食事以外、口にする気は無いのですが……」

頬を薄く染めながら言うバゼット。

「了解した。朝からお熱いことだ」

ニヤニヤと愉しそうなアーチャー。士郎の身に降り掛かる「朴念仁」のスキルを保有していようが危険レベルに突入する重圧。

「お、俺、あ、朝飯、つ、作って、く、くる」

この状況で、逃げる様に台所に入る士郎を誰が責められようか!? ……いや、責められて、当然か!!
ちなみに、今のバゼットは、士郎の料理だけは味わって食べる。その理由は、妊娠である。
バゼット、悪阻がかなり酷く、食べられなくなった物も多かったし、安定期に入るまで情緒もかなり不安定だった。そんなバゼットに、士郎は手と心を尽くして世話をした。それ以降、バゼットにとって士郎の料理は特別な物になったのだ。
それと、その時の士郎の冬木と倫敦の二重生活を支えたのは、時差約9時間、ほぼ地球半周分の距離の転移を惜しげも無く毎日行使した、ゼルレッチ翁。橙士のお願いに「喜んで!!」と、某居酒屋チェーンの店員張りに請け合った。やる事が常に壮大な爺馬鹿である。

「とりあえず、座りませんか?」

腰を下ろすバゼットに続くように、居間にいる全員が腰を下ろす。
何気に機嫌の良さそうなバゼット。先程の周りも見えていない様な怒り様は何処へやら。……士郎分を補給したからだろうか?

「改めて、バゼット・フラガ・マクレミッツです。お見知りおきを」

「蒔寺楓、よろしくぅ」
「氷室鐘です」
「三枝由紀香です。よろしくお願いします、バゼットさん」
「美綴綾子って言います。よろしく」
「ま、間桐桜です、よろしくお願いします」
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルンよ。……お義姉さんなんて呼ばないわよ?」
「……遠坂凛よ」
「ライダーです」

「ええ、よろしく、皆さん。……それにしても、御三家の人間だけでなく、サーヴァントが五騎も居るとは。まあ、士郎ですから、しょうがありませんね」

現在の衛宮邸の状況に嘆息するバゼット。予想は付いていても、現実に眼にすれば、彼女の性格なら溜息の一つも出るだろう。……まじょ姉妹や、はっちゃけ爺辺りなら欠片も動じないだろうが。

「はいはーい」

「? 何でしょう、カエデさん。手を挙げたりなどして?」

「バゼットさんに質問! 士郎とはいつ、どんな風に知り合ったん?」

「蒔、初対面と言う事を判っているか?」

「気にしない気にしない。それに鐘だって気になんだろー?」

「それは、蒔の台詞ではないと思うのだが。まあ、気になるのは確かだな」

「だろー? 由紀っちも聞きたいよな?」

「えっ? ……う、うん」
「あたしも聞きたいね」
「わ、わたしも聞きたいです」
「もちろん、わたしもよ」

バゼットに集まる居間中の視線。

「別に構いませんが。私と士郎が出会ったのは3年前、橙士が生まれる前の事ですね。詳しくは言えませんが、彼と初めて会った時は敵対、と言うか、戦闘をしたものですから」

「「「「「「「「戦闘!?」」」」」」」」

「はい。その後、色々あって今に至ります。こんなところでしょうか」

そう言って、バゼットは、台所に居る士郎に暖かな眼差しを向けた。


3年前、トップクラスの封印指定の執行者であるバゼットに一つの指令が降った。

封印指定、最狂・最悪の人形遣いドールマスター蒼崎橙子オレンジの確保。

彼女の所在と妊娠の事実が明らかとなり、協会はすぐさま動いた。封印指定と言う名の標本と優れた血統を手に入れられる、この上も無い好機として。
バゼットは指令を受けた。その指令の背景にある協会の思惑から気が進まなかったが、組織を越えて信頼していた人物の言葉、「海を渡れ」が、彼女の背を押したから。

そうして、出逢ったのだ。自身の世界を変えてくれた存在と。

廃ビル前の激闘。戦闘能力から言えば、相対した少年に負ける事などない――、その筈だった。
だが、結果、膝を付いていたのはバゼットだった。
バゼットは、戦闘を決するのは純然に戦闘能力であると信じていた。そこに精神論等が入り込む隙間など無いと。
だが、敗れた。油断や慢心もなく、任務を遂行するために全力であった。敗北は在り得なかったのに。
それでも、敗北は事実だった。倒れた自分が一番良く解っていた。
倒れた状態で、自分を倒した少年を見やる。そして、少年の眼を見た時、自分でも驚くほどあっさりと、敗れた理由に気付き受け容れていた。
戦う理由を他人に預けていた自分と、戦う理由を自身で持っていた少年。鎧を纏わねば、動く事すらできない自分と、傷付くことも厭わず全てを背負って前に進もうとする少年。
どちらが強いかなど明白だった。ただ、そんな風に、今まで認められなかった考えが、ストンと胸に落ちるように受け容れられた事が、不思議ではあったが。

そうして、「海を渡り」、彼女の世界は変わったのだった。……少々、いやかなり破天荒にはなったが。


「――士郎は、私にとって、愛する男性というのは勿論ですが、「海を渡った場所」でもあるのです」

そう言って、花が綻ぶように微笑むバゼット。何人かが頬を染めてしまうくらい、可憐な微笑だった。

「あ、朝飯、出来ましたよ?」

おっかなびっくり居間に入って来る士郎。……少し情けないぞ、「海を渡った場所」。

「そうですか。早速頂きます」

「お、おう。み、みんなも食べるよな?」

御機嫌取りか、全員分作っていますよ、このへっぽこ。アーチャーが作った分もあるのに。藤ねえは来ないのに、どうするつもりだろう? まあ、来てたら、絶体絶命のぴんちですがっ!!
まあ、何だかんだで朝食を終え、食後のお茶を飲み終わった士郎がバゼットに尋ねる。

「ところで、バゼット。ここに来た時、何であんなに怒ってたのさ?」

バッキィィィン!!!

士郎が淹れた食後のお茶の入っていた湯呑みが、派手な音と共に砕け散る。

「フッ、フフフフフフッ、そうでした。士郎、協力を要請します。あの真性変態神父を完膚なきまで討滅するために」

純度100%の殺意が居間を埋め尽くす。流石は封印指定の執行者のトップ1。士郎とサーヴァント以外は落書き調になって、震えている。

「頼むから落ち着いてくれ。それで、真性変態神父って誰さ?」

「キレイ・コトミネです!!」

忌々しそうに口にするバゼット。蛇蝎の如く嫌っているようだ。


さて、バゼットが組織を越えて信頼していた言峰綺礼に対し、このような反応をするのには理由がある。
3年前、蒼崎橙子の確保を失敗した彼女は、一時日本に滞在していたのだが、その時に、言峰に会う為に冬木を訪れていた。バゼットは、言峰に「海を渡った」事を話したかったから。
教会に向かう途中、バゼットは言峰を発見する。彼が居た場所は、ブティックだった。
言峰が笑顔で服を選ぶ様子に引いてしまうバゼット。勿論、周りの人間も引いていた。店員は頑張っていた。
そこまでなら、彼への淡い想いが消えるだけで済んだ。問題はここから先である。
彼が購入したのは、青いリボンをあしらった白のブラウスと、青いスカートだった。それは良い。だが、何故、言峰は商品の入った紙袋を二つ持っているのだろうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・? 彼が購入した服は、間違い無く一つの筈である。
言峰に声をかけ損ねたバゼットは、冬木教会を訪ねる。そこで、バゼットが見た物は―――
これ以上は、バゼットが「踏み外し」てしまうので割愛する。ただ言えるのは、今、アルトリアが鎧姿でなかったのなら、バゼットはこう叫んでいたかもしれない。

「その窓を開けるなと言っているでしょうーーーーーー!!!」


「言峰綺礼って、聖杯戦争の監視役してる教会の神父だろう? 何でそいつを、討たなきゃいけないんだ?」

「アレは、私から令呪ごとランサーを奪い取りました。ですが、それはどうでもいい!!」

さらっと問題発言、バゼットさん。

「アレは、私の大事大事なリーシャの写真を奪って行ったのです!! どうして許す事が出来ますか!!?」

殺る気満々バゼットさん。人間凶器っぷりに拍車がかかっているっぽい。

「令呪ごとランサーを奪われた? いつ?」

「23日です。その後、義手の調達に「伽藍の堂」へ行き、ようやく今日、戻ってきたのです。途中でトウコが欧州に行ってしまったので、余計な時間が掛かりましたが」

「それにしても、バゼットがサーヴァントもいながら、そんな事になるとはな」

「えっ!? そ、それは、その、不意を突かれてしまって。油断していましたし」

「……さっき、リーシャの写真って言ってたよな? リーシャの自慢していたのか、もしかして?」

「うっ、そ、その……、面目ありません」

士郎の半眼の視線から逃れるように顔を背け、項垂れるバゼット。


23日、訪ねてきた言峰に会う気など微塵もなかったバゼットだったが、

「娘が産まれたと聞いた。祝福を贈らせてくれ」

そう言われれば、悪い気はしない。拠点である今は使われていない洋館に彼を招き入れた。
娘の事を聞かれ、始めてしまった娘自慢。ランサーは一度で辟易して、聞いてくれなくなったため、溜まっていたようだ。言峰が職業柄、人の話を聞くのが巧いのも、娘自慢に熱が入る一因となった。
結果、油断とか言うレベルを突き抜けていたバゼットは、左腕ごと令呪を奪われ、更に致命傷に近い傷を負わされる。
そして、ランサーにマスター変えを賛同させ、去って行く言峰が、バゼットに向かってこう言った。

「安心するがいい、バゼット。お前の娘は、私が引き取って育てよう。実に、着せ甲斐のある娘に成長するだろうからな。―――今から、楽しみだ」

ドアが閉まる。と、しばらくして、ドアが内側から吹き飛ぶ。

「コトミネェェェェェ、殺す!!」

そこには、ドス黒い魔力を放つ般若がいたのだった。


「とにかく、教会の神父、言峰綺礼がバゼットから令呪ごとランサーを奪ったんだな」

「リーシャの写真もです!!」

「分かってる分かってるって」

「ったく、綺礼の奴、何企んでんのかしら?」

「さあな。それは直接、訊くしかないな。最低一発は殴ってやらないといけないし」

「? それは良いけど、何でよ?」

「どういう理由があったにせよ、バゼットの左腕を奪ってるわけだからな」

「……はいはい!! お熱いことねっ!!」

「? 何怒ってんのさ、遠坂?」

「怒ってないわよっ!!」

「そ、そうか? なら、良いんだけど……。それじゃ、今日は冬木教会に行くって事で良いか?」

居間を見渡す士郎。特に拒否の意思表示は見られない。

「行くのは、俺、バゼット」
「勿論です」

「私も行くわ。綺礼が関っているんだし」

「ああ、頼む、遠坂」

「……私も、行こう」

「アーチャー!?」

「何だね、その顔は、凛? 私は君のサーヴァントなのだ。君が行くのなら、私も行くのは道理だろう?」

「……当然の事言ってる筈なのに、釈然としないのは何故かしら?」

「気のせいだろう」

「……分かった。頼むぞ、アーチャー」

「……ああ」

――あの「宝石」と親交があるのなら、私の正体に勘付いたのかも知れんな。橙士のためとは言え、「熾天覆う七つの円環ロー・アイアス」の投影は不味かったか?

「ねっねっ、シロウ、わたしはわたしは!?」

「イリヤは、万一の時のために、家でみんなを守っててくれないか?」

「また〜〜〜? ……まあ、でも、ここはわたしの家でもあるし、ど〜んとまかせておいて♪」

「ああ、まかせた、イリヤ」

「まかされたわ、シロウ♪」

「ライダーとキャスターにも、家のこと頼んでいいかな?」

「シロウの望みのままに」
「安心しなさい。橙士を、必ず守り抜いてあげるから。……一応、他の子もね」

「頼むな、二人とも。……アルトリア」

アルトリアの正面に立つ士郎。今日、初めて二人の目が合う。

「……アルトリア、戦えるか?」

士郎は自分と一緒に戦えるか? そう訊いた。もし、彼女が首を横に振るのなら、契約を解除し、バゼットか遠坂に委ねるつもりだった。
彼女の望みは、間違っている。それは譲れない。だが、その事と自分と共に戦えるかは、別の事だと士郎は考えていたから。

「……戦えます」

だが、アルトリアの答えは、共に戦う事だった。アルトリアにとって、聖杯への望みと比べられない位、士郎を守るという誓いも大事な物なのだ。彼女もまた、己の望みを否定された事と、共に戦う事は、別の事だと考えていたから。

「少し良いか、アルトリア嬢?」

「!! ……何でしょうか、鐘?」

声をかけてきた鐘に、ビクリとするアルトリア。

「……昨夜はすまなかった」

「!! 鐘、頭を上げて下さい。あなたは事実を言ったのだけなのですから」

深く頭を下げる鐘にアルトリアは狼狽する。

「そうかもしれないが、私が言うべきではなかったし、あなただけに言う事でもなかった。本当にすまなかった」

「……鐘、私には、あなたの謝罪を受ける事ができない。私にできるのは、「誓い」を果たす事のみです」

「……頼む、アルトリア嬢」

「はい」

アルトリアは力強く、鐘に応えた。

「それじゃ行くぞ、冬木教会へ」


新都、冬木教会のある丘の麓の道に黒いベンツェが停まる。停まったベンツェから現れたのは士郎達だ。

「ありがとな、雷画爺さん」

「良いって事よ、しろ坊」

黒尽くめ姿の士郎に雷画も運転している若衆も動じなかった。藤村組。抗争は避けているが、胆の太さは並じゃないぞ!!

「しろ坊」

「ん?」

「――負けるんじゃあねぇぞ」

不敵に笑いそんな言葉を残す雷画を乗せ、去って行くベンツェ。侠客、藤村雷画。只者ではない。
去っていくベンツェに苦笑を零し、冬木教会に向かう士郎達。そして、

「よう」

冬木教会前の広場で、気安く声をかけてくる蒼い槍兵に迎えられた。


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