Blade worker 2 「邂逅―雪色の小姫―」 <樹影さん>



―2月1日・二日目

今日の食事当番は俺だ。献立は、アサリの味噌汁、鰯に軽く塩を振って焼き、叩いた梅肉、刻んだ大葉、胡麻を乗っけたもの、キンピラゴボウ、浅漬け各種だ。
……今日はちゃんと醤油だった。

皆で学校に行き、朝練を済まし、授業を受け、一成に弁当を分け、残りの授業を受け、気付けば放課後だ。

「衛宮、今日の晩飯って、何?」

「ああ、鍋にしようと思ってる。ところで、三枝が元気無さ気だけど、どうかしたのか、蒔寺?」

「ん、遠坂が休みでさぁ」

「…そうなのか?」

「憧れの遠坂嬢を心配しておると言うわけだ。彼女は一人暮らしらしいしな」

「まあ、葛木先生の話じゃ大した事は無いらしいんだけどね」

遠坂が、休み、かぁ。

「遠坂の事、気になんのか、衛宮?」

「まあ、彼女目立つからな。人並みにはな」

まあ、知り合いに似てるしなぁ。それに、遠坂の事は「知ってる」。

「でも、何でそんな事聞くんだ、蒔寺?」

「……気にしなくて良い」

「そうか?」

玄関に着いた。ここで別れ、皆は部活に行き、俺は家に帰る。

「じゃあ、また後でな。三枝、元気出せ。遠坂も明日には元気になってるさ」

言って、三枝の頭に手を置き撫でる。柔らかな髪の感触。無意識に手を動かし、手櫛に移行。三枝は心地良いのか、目を細め頭を俺の手に擦り付けて来る。

「衛宮、何してんだ!!」

ハッ、ホント何してんだ、俺。

(衛宮士郎、27の秘密、その4:衛宮士郎は某春が舞台のゲームの主人公張りの撫でリスト。)
(続けて、27の秘密、その7:衛宮士郎は髪が無いせいか、他人の髪を触るのが無意識レベルで好き。)

「……あっ」

何か名残惜しげな三枝から手を離し、

「じゃ、じゃあ、先に帰ってるな」

校門に向けて走り出した。背中に刺さる視線を感じながら。


紅く染まった坂を歩いていると、前方にいる人影に気付いた。小柄な少女だ。俺を認めると歩き出し、擦れ違いざま、

「早く呼び出さないと、死んじゃうよ、お兄ちゃん?」

「!!」

この子が言ってる事は、あの事に違いない。と言う事は。

「……君がイリヤスフィールか?」

振り返り、白銀の髪と赤い目をした少女に問いかけた。

「へえ、知ってるんだ、わたしの事?」

彼女も足を止め、俺を見つめる。

「まあな」

「ふ〜ん」

何か残念そうだな。

「とにかく、こんな所で立ち話も何だし。家に来ないか、イリヤスフィール?温かい物でも出すからさ」

「―え?」

呆けた表情になるイリヤスフィール。何か、妙な事言ったか?

「良いの?」

おずおずと聞いてくる。

「もちろん。ほら、行こうか」

歩き出すが、イリヤスフィールは動かない。

「イリヤスフィール?」

「シロウ、ちゃんとエスコートしてくれなきゃ。それと、わたしを呼ぶ時はイリヤで良いわ」

エスコート?イリヤは俺に手を差し出す。……分かった気がする。

「これで良いですか、イリヤお嬢様?」

「50点と言うところね」

「厳しいんだなぁ」

イリヤと手を繋いで、家に向かう。


家で最初に案内したのは仏間だ。仏壇の前で、イリヤはジッと立っていた。そして、請われるままに、切嗣の部屋をはじめ、家の中を案内した。その間、イリヤは無言だった。

「イリヤの口に合えば良いけど」

家の中を案内し終わって、居間でイリヤにホットミルクと貰い物のクッキーを皿に乗せて出す。

「ありがと、シロウ」

イリヤは心ここにあらずと言った感じだ。イリヤの今の気持ちを、俺が分かるはずも無い。今はそっとしておこう。俺はエプロンを付け台所に入り、夕飯の支度をし始める。

トントントントン。

今日は水炊きだ。骨付きの鶏肉、白菜、長ネギ、豆腐、葛切りを用意していく。ちなみに、家の水炊きにはつくねも入れる。鶏肉を包丁で叩いてミンチにし、刻んだネギと生姜を混ぜ練る。と、背後に気配を感じた。見るとイリヤが台所の入り口でこっちを見てる。

「どうした、イリヤ?」

「何してるの、シロウ?」

質問に質問で返された。まあ、何してるのか気になったって事か。

「何って、夕飯の用意だ」

「そんなにたくさん?」

用意された具材の量はかなりのものだ。女の子とはいえ、部活してる人間だし、一人?は比べ物にならないほど食べるからな。

「まあ、いつもの事だからな。……イリヤも食べてくだろ?」

「ええ!?……ホントに良いの?」

「おう。一人分くらい増えても大丈夫だ」

「……それじゃ、お言葉に甘えさせてもらうわ、シロウ」

「おう。たくさん食べてってくれ」

練り終わったミンチを団子状にしていく。と、その俺の手元をイリヤが見ていることに気付いた。

「イリヤもやってみるか?」

「良いの!?」

目を輝かせて聞いてくるイリヤ。

「ああ。じゃ、こっちに来てくれ」

俺の隣に並ぶイリヤ。俺が子供時代に使ってたエプロンを引っ張り出し、イリヤに付けてもらってから、俺達はつくねの製造作業に入った。


「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」

湯気が昇る鍋。それぞれに箸を伸ばす。

「う〜、美味しいぃ〜〜!!」

「どうして鍋まで、こう旨く作れるんだろな〜」

「ふむ、冬はやはり鍋だな。」

「まったくだねぇ」

「先輩、凄いです」

「はい、これ、もうできてるよ」

「ありがとう、ユキカ」

和気藹々と進んでいく夕食。

「ところで、士郎」

「ん、何だ、藤ねえ?」

「その娘、誰?」

箸でイリヤを指す藤ねえ。……行儀悪い上に失礼だぞ、それ。

「先ずは箸を下ろせ、藤ねえ。……その娘はイリヤスフィールって言って、オヤジの実の娘だ。俺とは義理だけど、兄妹って事になるかな」

「ふ〜ん、そうなんだ」

「おう、そうなんだ」

頷いて食事を再開する藤ねえ。しばらくは、鶏肉を頬張り、白菜や長ネギをハフハフ言いながら口に運んだりしていたが、つくねを鍋から取り皿に取った所で、動きを止めた。

「?えっと?」

小首を傾げながら、イリヤの顔をジッと凝視し始める。そして、答えを得たのか、クワッと目を見開くと、

「どどどどどどど、どういうこと、ししししししし、士郎ーーーーーーー!!!!!!?」

吼えた。立ち上がり、吼えた。手に持ってた取り皿を投げ出して。そして、取り皿の中にあった鍋からあげたばかりで、熱々のつくねが俺の服の中に入ってくる。

「アツーーーーーー!!!つくねがぁ、熱々のつくねがぁぁぁ!!!」

悶える俺。タイガーの咆哮の威力を知らないイリヤの耳を塞いでいたため、つくねの回避が出来なかった。

「士郎、お姉ちゃんに説明してーーーーーー!!!」

「待て、先ずはつくねを――」

「説明が先!!!」

「無茶言うなぁぁぁ!!!」


包帯越しでも熱いものは熱いんだ!!

とりあえず落ち着いてから、藤ねえに説明した。ちなみに、イリヤ以外の面々は慣れたもので、食事を続けてた。

「うう〜〜、切嗣さんにこんなおっきな娘さんがいたなんて〜〜」

ショックを受けたらしく、目の幅の涙を流す藤ねえ。

「イリヤちゃんのお母さん、美人さんだよぅ〜〜」

俺が渡した証拠の写真―切嗣と、イリヤを成人にしたような女性と幼いイリヤが写った―を手に項垂れている。ちなみにこの写真、俺の知り合いである黒の人から貰ったものだ。この写真出した時、イリヤの方が驚いていた。……どうやって手にいれたんだろうな?

「流石は衛宮のオヤジさんってとこかな」

「海外での話だからな。他にも衛宮の兄弟がいるかも知れんぞ?」

「実の親子じゃなくても、子は親に似るものらしいね」

「先輩の妹………」

「イリヤちゃん、綺麗で可愛い娘だね」

それぞれの反応を見せる蒔寺達。

「あ、シロウ。これ、わたしが作ったやつ。食べて食べて」

「ん、ああ」

と、イリヤがつくねを箸で刺し、

「はい、ア〜ン」

言いながら、こっちに差し出してきた。

「イ、イリヤ?」

「食べて、くれないの?」

傷付いたかのような仕草を取るイリヤ。だが、俺には分かる。面白がってるだろ、イリヤ。

「あ〜、分かったよ。……ア、ア〜ン」

とは言え、恥ずかしいがやるしかない。経験上、断れた試しが無いしな、この手のこと。

「美味しい、シロウ?」

ムグムグ。

「ああ、美味いよ、イリヤ」

「えへへへ」

嬉しそうにするイリヤ。恥ずかしかったが、まあ、良いかな?と、

「士郎?」
「「「衛宮?」」」
「衛宮君?」
「先輩?」

声がする方を見てみれば、それぞれの箸に具を掴んで、俺の方に向ける皆の姿。

「え〜っと、……やらなきゃダメか?」

「「「「「「ダメ(だよ)(です)」」」」」」

「………うい」


「うお、一寸食い過ぎた」

何と言うか、フォアグラ用に飼育されてるガチョウになった気分だった。

「士〜郎〜」

「何だ、藤ねえ。ヘンな声出して」

「変な声って、なによぅ。それよりも、士郎に命じます。お姉ちゃんの耳掃除をしなさい」

「そんぐらい自分でしろよ。25歳のくせに耳掃除もできないのか」

「士郎の方が上手なんだし、良いじゃないのよぅ。第一、お姉ちゃんは先生として生徒の声をきちんと聞くため、耳の中をいつも綺麗にしてなきゃダメなのだぁ〜」

「藤ねえが生徒の声を聞いてたことあったか?……ハァ、分かったよ」

太腿の部分をポンと叩き、

「ほら、ここに頭乗せろ」

「ヨロシク〜」

いそいそと士郎の太腿に頭を乗せてくる。

「ウニャ〜」

耳かきが細かく動きながら、耳の中を綺麗にしていく。

「ほれ、反対」

「…う、うん」

気持ち良かったのか、トロンとした目つきの藤ねえ。体を回して、逆の耳を上に向ける。

「ホニャ〜」

そうして、逆の耳の掃除も終わる。

「終わったぞ、藤ねえ。……藤ねえ?」

「……スゥ〜……スゥ〜……」

「……」

俺は無言で藤ねえの頭の下から、太腿を抜く。

「フギュ!?」

無論藤ねえの頭は畳の上に落ちた。眠りが浅かったせいかすぐに目覚める藤ねえ。

「ヒドイじゃないのよぅ、士郎!?」

「藤ねえが寝るからだ」

「士郎の耳掃除が良すぎるからダメなのよぅ。お姉ちゃんは悪くないもん!!」

「あのな、明日の職員会議の為に資料作りがあるから、今日は早目に家に帰るって言ったの藤ねえだろうが。この前の職員会議で、葛木先生に迷惑かけてピンチなんじゃなかったか?」

「あ、思い出した」

「……藤ねえ」

「じゃ、じゃあ、お姉ちゃんは一足先に帰るね。バイバ〜イ」

ピューと走り去っていく藤ねえ。

「まったく。……ん、イリヤ、どうかしたか?」

「え?」

俺の方をジッと見てたイリヤに問いかける。

「あの、あのね」

イリヤの視線は俺、と言うか俺の手にある耳かきに注がれている。イリヤ以外の視線もメッチャ注がれているが、何故か気付かない。先程の事もあり、無意識に気付かないようにしているのだろうか?

「イリヤも、耳掃除するか?」

「!うん、お願いして良い?」

「おう、お安い御用だ。じゃ、頭をここにな」

太腿をポンと叩いて、場所を示す。

「それじゃ、シロウ、優しくしてね?」

「ああ」

イリヤの小さな耳を掃除する。

「…ウ……ン…」

「イリヤ、逆。」

「……ウン…」

緩慢な動作で体勢を変え、逆の耳を上に向けるイリヤ。

「……ム…ニュ……」

「ほい、終わったぞ。…イリヤ?」

「クゥ〜……クゥ〜……」

「寝ちゃったのか、イリヤ。……三枝、隣の部屋に布団敷いてくれるか?」

「あれ、イリヤちゃん、寝ちゃったの?分かった、敷いてくるね」

「あ、三枝先輩、手伝います」

「ありがと、桜ちゃん」

「それにしても、タイねえと対応が全然違うじゃないか、衛宮?」

「……こんな顔して寝てるイリヤ起こせるか、蒔寺?」

「う、確かに。……可愛い寝顔してるよな」

「藤姉さんと比べるのが間違いだと思うぞ、蒔の字」

「どうだい、いきなりこんな可愛い妹持った感想は、衛宮?」

「どうだって、言われてもな」

イリヤは冬木に来た事情を考えるとな、複雑だよなぁ。

「衛宮君、お布団敷いたよ」

「先輩、もう良いですよ」

「おう、サンキュな、二人とも」

イリヤを俗に言う「お姫様抱っこ」で抱きかかえ、隣の部屋に敷かれた布団に寝かせる。

「さて、洗い物しなきゃな」

襖を閉じて、台所に向かう。

「あ、手伝います、先輩」

「いや、ゆっくりしててくれ、間桐。…ありがとな」

「……はい」

間桐の頭を撫でながら言う。今度は手櫛をしない。何故か、手櫛をすると視線が突き刺さるんだよな。……気を付けよう。


洗い物が終わり、今日の出来事なんかをお喋りした後、皆それぞれの家路について行った。
日課を終わらせ、今日の見回りに出る準備をする。

「シロウ?」

「起きたのか、イリヤ?」

着替え終わったちょうどその時、イリヤが俺の部屋にやって来た。

「………」

「イ、イリヤ?」

俺の格好に呆けるイリヤ。まあ、普通の反応だな。

「シ、シロウ。そろそろ、わたし、帰るね」

「え、でも、もう遅いぞ?今日は泊まっていったらどうだ?」

「ダメ。……それは出来ないの」

「……そっか。分かった」

着替えたイリヤと一緒に門の所に出る。

「シロウ」

イリヤが俺に手招きをしてる。

「何だ、イリヤ?」

イリヤの目線に合わせるように頭を降ろすと、イリヤが俺の額に自分の額を合わせてくる。流れ込んでくるイメージ。深い森、その中にある城?

「遊びに来てね、シロウ。バイバイ」

「ああ、またな、イリヤ」

イリヤは俺から離れ、坂を駆けて行く。見えなくなるまで、そこにいた。

「さて、行くか」

見回りに出る。勿論人目を避けて。見た目、俺は不審者だもんなぁ。

一通り、深山町を回るが異常は無かった。イリヤが来た事、遠坂が休んだ事を考えれば、何か起こるかとも思ったんだが、杞憂だったかな。

「!!」

杞憂じゃ無かった。交差点の近くの家に、結界が敷かれている。

「投影、開始」

二本の小太刀を手にして、俺はその家に飛び込んだ。


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