Blade worker 19 「魔術師殺しの孫 〜体は萌えで出来ている〜」 <龍崎天馬さん>



―2月6日・七日目

目が覚める。………物凄ぉ〜く在り得ない夢を見ていたような。まあ、気にする事もないか? 何だかえらくスッキリした感じだし。精神も肉体も。それじゃ、起きようかなって、

「む」

俺の右腕を枕に和む寝顔を見せる由紀香。そして、左腕を枕にあどけない寝顔を見せる鐘。
……鐘、いつの間に。俺、そんなに深く眠ってたのか。だから、こんなにスッキリしてるんだな(違っ)。

「……んっ……むにゃ……」
「……ふぁ……すぅ……」


下手に動いて起こすのは忍びない。それに何と言うか、「早起きは三文の得」って感じだ、うん。二人が自然に起きるまでは、可愛い寝顔を堪能させて貰おうかな。

「………ふぅぁ…しろう、くぅん……」
「………ひぁぅ…しろぉう……」


甘い響きを持った寝言と共に、俺の肉体に押し付けられる柔らかな感触。意識すると途端に薫る二人の香り。
朝の生理現象を越えて元気一杯の暴れん棒を、ありったけの精神力で鎮める士郎。色欲煩悩退散、喝!!
早朝から、何だかんだで精神的に疲労する士郎君でありました。……自業自得だけど。


あの後、目を覚まし身繕いの為部屋に戻る二人と別れ、台所に移動する士郎。台所では、既に赤い家政夫が朝食の準備の真っ最中。

「何してるんだ、アーチャー?」

「見て解らんのか。だとしたら、聞いても解らんだろうさ」

やれやれと大袈裟に肩を竦めるアーチャー。どうして、コイツは、人の神経を逆撫でする事に長けているんだろう? ……殺るか?

「朝食作ってるのは見れば解るさ。俺が訊いてるのは、何でお前が作っているのかって事だ」

「フッ、そんな事は決まっている。勿論、橙士の為だ。橙士の健やかな成長の為には、普段の食生活、取分け朝食は重要だからな」

そう言う事は、橙士を溺愛している先生がキチンと考えてる。勿論、俺も考えてるぞ。……先生に密告チクってやろうか、この野郎。
とりあえず、朝食の準備は全部終わってるようだし、皆が揃うまでは居間で待つか。味噌汁の味見をするアーチャーを尻目に居間に行く。
テレビの電源を入れると、昨日の学校での出来事が事件として報道されていた。事実の隠蔽だろう、原因は学校中に人を昏倒させる様な薬物がばら撒かれたと言う事になっている。

「………」

自然手を握り締める。何故、俺は校舎を破壊してでも結界を排除しなかったのか。死者は出なかった。だから、良かった等と言える訳がない。
この身に全てを救う力は無い。解っている。それでも、誰も泣かないで済む世界を、俺は目指す。だから、後悔に囚われるな。後悔も糧として、護る為の力に変えろ!!

「お〜〜は〜〜よ〜〜ぉ〜〜」

と、俺の葛藤をブッ飛ばすどんよりとした声。その声の主は、普段の凛とした様子を欠片も感じさせない歩みで、居間に入ってくる。

「と、遠坂?」

どよんと坐った半眼で、重苦しいオーラを放ちながら、台所に向かう遠坂。

「ふむ、起きたのか…、なっ、どうしたのだ、凛!?」

アーチャーまで驚いているし。

「ぎゅ〜にゅ〜」

「あ、ああ、すぐ用意しよう」

大ジョッキに注がれた牛乳を受け取ると、片手を腰にやり一気に飲む遠坂。実に男らしい飲みっぷりだ。

「フゥ〜〜、やっと目が覚めたわ」

言葉通り、いつもの様子の遠坂。もしかして、朝弱いのか? でも、さっきの様子は初めて見たぞ?

「ところで、士郎」

「な、何だ、遠坂?」

「今日から私も、母屋を使わせてもらうわ」

「お、おう。良いけど、いきなりどうしたんだ? 何か、離れに不味い所が在ったか?」

「〜〜〜ッ!! う、うるさいわね、気分よ、気分!!」

「そ、そうか。まあ、部屋はまだ余ってるから、好きに使ってくれ」

何でか顔を真っ赤にした遠坂を不思議に思いつつ告げた、ちょうどその時、一組の男女が居間に入ってきた。

「おはよう、セイバーのマスター♪」
「早いな、衛宮、遠坂」

とってもお肌艶々なキャスターと平素と全く変わらぬ葛木宗一郎。二人を見た遠坂は湯気でも出そうなくらいに全身を赤くし、二人から目を逸らす。

「おはようございます、葛木先生、キャスター」

遠坂はこの二人に何かされたのか? でも、二人の様子からはそんな事は窺えないし。……解らない。

その答えを知るには、昨夜まで時間を巻き戻さねばならない。
昨夜、離れに部屋を定めた葛木とキャスターの所に、由紀香がキャスター用にと「Real Animals」を持って行った。
この時、キャスターは自分に縁の在る「羊」を選んだ。ちなみに、イヌ由紀香を見て、陵辱イベントを発生させかけたのは、キャスターだけの秘密である。
で、美味しそうな羊さんになったキャスターを見ての葛木宗一郎先生オオカミさんのお言葉が、こちら。

「……激しくしか出来んぞ」

宣言通り、激しかったのに加え、「Real Animals」を着れて浮かれていたキャスターが結界を張り忘れたせいで、ダダ漏れだったようだ。
綾子や楓に弱味は見せられないと頑張っていたにも関わらず、今朝は素が出たのはそう言う訳である。なお、凛が居間に来る前に脱衣所へ寄ったのは、乙女の秘密だ(爆)。

「おはよ、士郎」
「おはよう、衛宮」
「おはようございます、先輩」
「おはよう、シロウ♪」
「おはよう、おとうさん♪」
「おはよう、皆」

楓に美綴、間桐、イリヤ、橙士が居間に入ってきたので、朝の挨拶を交わす。と、

「セセセセセ、セイバーのマスター!! あ、あの子は、誰なのっ!?」

身体能力は間違い無く最弱の筈のキャスターが、最速のランサー並みの速さで俺に詰め寄る。

「え、ああ、俺の子供だけど……」

自分の事が話題に上った事に気付き、士郎の所にトテトテとやって来る橙士。そして、キャスターにペコリとお辞儀して自己紹介する。

「あおざきとうし、3さいです。おねえちゃんのおなまえは?」

お、お姉ちゃん……。わ、私の名前はメディアと言うのよ!!」

「メディアおねえちゃん? ぼくとなかよくしてくれる?」

「〜〜〜ッ!!! もちろんよ!!!」

「キャハハハッ、くすぐったいよ〜〜、メディアおねえちゃん」

感極まって、橙士を抱き上げ頬擦りする「コルキスの魔女」メディア。でっかく幸せそうです。しかし、その幸せも長くは続かない。

「そうだ、橙士。私、あなたにとてもよく似合う服を持っているのよ!! 着てみてくれないかしら!?」

橙士を下ろして、どこからか、フリルとしか表現できない服(もちろん女の子物)を取り出すメディア。目が少し血走ってはいます。

「………」

その服を目にした瞬間、橙士は額に皺を寄せ下唇を突き出し頬を膨らます(アーチャーはこの表情を写真に撮って御満悦)。とても判り易く拗ねて、士郎の後ろに隠れる。そして、

「………キライ」

「えっ?」

「メディアおねえちゃん、キライ絶望導く言霊!!」
ガァ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!


そのまま「英霊の座」に還ってしまいそうな程、真っ白になりよろけるメディア。それを宗一郎が抱き止める。

「ううっ、そぉ〜いぢぃろぉ〜さまぁ〜〜〜、うわぁぁぁぁぁんっ」

宗一郎の胸に顔を埋め、マジ泣きするメディア。その惨状を余所に凛が士郎に事の原因を尋ねる。

「ねえ、どういう事? あの子が「キライ」って言うの、よっぽどじゃない?」

「あ〜〜、先生を始めとしてさ、皆が橙士に女の子物の服、着せたがるんだ。そのせいでキライなんだ、その手の服着せられるの」

蒼崎橙士、3歳、男の子としての意識が萌芽し始めたお年頃である。

「成る程ね」

すっかりムクれている橙士に、士郎は膝を折り目線を合わせる。

「橙士、お姉ちゃんを許してあげてくれないか?」

「ムゥ〜〜〜」

「橙士と会ったばかりで、お姉ちゃんは橙士のイヤな事が解らなかったんだ。だから、な」

「……うん、わかった」

そうして、メディアの所に行き彼女の服の裾を引いて呼び掛ける橙士。

「メディアおねえちゃん、なかないで」

「ううっ、……と、橙士? ゆ、許してくれるの?」

「うん。だから、なかないで」

「〜〜〜ッ! ありがとう、橙士っ」

今度は橙士に抱きついて泣くメディア。泣くメディアを慰めるように橙士がメディアの頭を撫でる。とりあえず、一件落着か?

「おっはよーーーーーー!!!」

と思いきや、今度はトラ登場。……何なんだ、今朝は一体!?

「おはようございます、藤村先生」

「あ、おはようございます。って、あれ? 葛木先生に……誰?」

「初めまして。私は宗一郎様の婚約者で、メディアと申します。今後ともよろしくお願い致します」

「あ、これはこれは御丁寧に。こちらこそよろしくお願いします、メディアさん」

泣いてた事を全く感じさせないメディアと頭を下げ合う藤ねえ。……藤ねえにしては、やけにあっさりしてないか?

「多分、暗示ね。内容はあの二人がここに居る事に疑問を感じないって所だと思うわ」

「ホントか、イリヤ? って、何で俺の考えてる事が?」

「愛の力よ♪ まあ、タイガへの説明の手間が省けて良いんじゃないかしら」

「でもなぁ」

「下手な説明だと、アレが出るかもしれないわよ。それでも良いの、士郎?」

「む。………………そ、そうだな。藤ねえに説明のしようがないしな」

「別に私達に言い訳しなくても良いわよ」

と、士郎達が話している間に事態が動く。

「おはよう、たいがおねえちゃん♪」

「おはよう、橙士ちゃん♪ そうそう、今日は、お姉ちゃん、橙士ちゃんにプレゼントを持って来たのだぁ〜♪」

「プレゼント? なになに?」

「ムフフフフフ、橙士ちゃん、目、瞑ってくれる?」

「うん」

目を瞑った橙士の頭とズボンの後ろに「何か」を付ける藤ねえ。付け終わると橙士の全身が映る鏡を取り出して(どこから?)、

「目、開けていいよ、橙士ちゃん♪」

「はぁ〜〜い」

鏡に映るのは、ネコ耳(虎縞)カチューシャとクリップで服に付けるネコのシッポを装備した橙士の姿。それを見て橙士は可愛くビックリして一言。

「ぼく、ネコさんになっちゃった……」

ブブゥーーーーーーーーーー!!!!!(鼻血)
イクゥーーーーーーーーーー!!!!!(弓)
キタァーーーーーーーーーー!!!!!(魔)


凄まじい勢いで鼻血を噴き倒れる、己が理想にすら裏切られた赤い騎士と裏切りに人生を彩られた紫の魔女。
鼻血の海に沈みながらも、何かイイ表情で嬉しそうに笑っている。……とても英霊には見えない。
説明しよう!! 肉体と言うフィルタの無いサーヴァントは、対「萌え」力が無いに等しいぞ!!

「クッ、遠坂の、家訓に、賭けて……」
「せ、先輩の前で、だ、だめ……」
「レディは、人前で、そんな事、しないの……」


鼻を押さえ、何かに耐える魔術師三人。
説明しよう!! 魔術師とは、物事の本質を感覚的に捉える力に長けており、才能が有れば有る程、「萌え」に弱いぞ!!

「「可っ愛いいぃ〜〜〜♪」」
「うにゃ〜〜〜」

楓と美綴が両サイドから橙士を抱きしめる。
説明しよう!! 実はこの二人、可愛いモノに目がないぞ!!

―――その頃、欧州・某所

ブブゥーーーーーーーーーー!!!!!(鼻血)
「うわっ、汚っ」
「写真が汚れたらどうするつもりだ、この変態爺」
「そうじゃぞ、全く。トウコ、この写真を焼き増ししてくれ」

「……ぐふっ、ぐぅうっふっふっふっ、も、萌へ」

橙士を遠視の魔術で見ていた魔法使いが、鼻血の海に沈んだりしていた。
これ以後、「橙士ラヴラヴフォトアルバム」に動物シリーズが出来るのは甚だ余談である。

萌え騒動もひとまず治まり、席に付く面々。ちなみに、鼻血で存在を知られたアーチャーは、髪の色繋がりで、イリヤの関係者と藤ねえに説明した。
イリヤが本家筋、自分が分家筋でイリヤの護衛も務めている。生前の切嗣には色々教わり、師の様な存在だと。……微妙に真実も混ざり、バレ辛い嘘の出来上がりだ。決め手は、料理が上手い事だろうが。
ちなみに、イリヤはとっても嫌そうであり、アーチャーは実体化の口実ができてとっても嬉しそうである。
そして、朝食がテーブルに並ぶ中、まだ来ていなかったアルトリアと鐘、由紀香が居間に入ってくる。

「おはよう、皆」
「お、おはよう、みんな」
「おはようございます」
「おはよう、って、どうかしたのか、アルトリア?」

「………」

まるで感情が抜け落ちたような無表情のアルトリアが、凍えるような冷たい眼差しを俺に向ける。

「シロウが己の行いを鑑みれば解る事です」

「お、俺の行い?」

む、そう言われてもなぁ。ホントに解んないんだけど……。

ビシィッ!!!
氷結地獄、再びコキュートス・アゲイン


ヒッ、なななな、何だぁっ!? 昨日の朝と同じ凍るような怖気に満ちた禍々しい空気はっ!?

「……フゥ〜〜ン、私には解りましたよ、衛宮くぅん?」

あかいあくま、降臨!! あわわわわわ。なして笑顔でそげに凄まじか殺気ば出せるとですか、遠坂しゃん!?

「………」

ここに弓が有れば、俺を射つんじゃなかろうかと思う位、剣呑な表情の美綴。……遠坂並みに怖いですよ?

「クスクスクスクスクスクスクスクス」

俯いて顔を隠し小声で笑う間桐。……何か、く、黒いモノが出てる!? いや、気のせい、そう、気のせいだ!!

「やっぱり、待ってるのはダメね。わたしから攻めなきゃ」

真剣な表情で何かを考え込むイリヤ。なんか不穏な呟きが聞こえたような……。いや、俺は何も聞いてない、聞こえない!

ギリリィィ。
「いっ、痛あぁぁぁっ!! な、何するんだ、楓!?」

「うっさいうっさい、このバカ士郎!! ……ムカつくモノはムカつくんだからしょうがないだろ

冷たく重い雰囲気の中、楓に思いっきり背中を抓られた。何故? 俺、楓に何かしたか……、んっ? 楓、昨 日の朝と同じ様な空気?

「「………」」

皆の視線の先には少し頬が赤い鐘と真っ赤になった由紀香。……あ゛っ(滝汗)。

「どうやら、解ったようですね、シロウ」

脂汗を掻く士郎の前で、ゴゴゴゴゴと擬音を背負い仁王立ちするアルトリア。

「朝食を摂った後、私があなたの性根を叩き直してあげます!!」

「ア、アルトリアちゃん? 士郎が何かした?」

ビクゥッ!! ふ、藤ねえに、しし、知れたら、ヤヤヤヤヤ、ヤヴァイDEATHよ?

「心配無用です、タイガ。私がシロウを真人間に戻してみせましょう!!」

「アルトリア、私も手伝わせて頂くわ。任せて下さいますね、藤村先生?」

「よ、良く分かんないけど、二人に任せるよぅ。私や葛木先生は昨日の事件のせいでしばらく忙しいから」

「はい、任せて下さい、タイガ!!」

「ええ、任せて下さい、藤村先生」

二人の有無を言わせぬ迫力に、押し切られる藤ねえ。……助かったけど、助かってない。

「あと、皆も保護者にキチンと連絡しとくのよぅ。学校はしばらく休校になるけど、怠けちゃダメよぅ?」

「「「「「「はい」」」」」」「お、おう」(士郎)

学生組の答えを機に、朝食の時間が始まる。朝食の場を支配する空気は2種類。
俺限定に圧し掛かる氷結地獄の重圧の中、何とか朝食を食べる。……ぶっちゃけ、味なんて判りません。
穏やかに朝食を摂る橙士、アーチャー、藤ねえ、葛木先生、メディア。――ああ、そこは全て遠き理想郷アヴァロン。俺はそこには、辿り着けないんだな。


そして、実に胃が痛ぁい朝食の時間が終わり、教職にある二人は出かける。あと、出かける間際、メディアが藤ねえに、

「あなたの事は師匠と呼ばせて頂きます!!」

なんて言う一コマがあったりした。何の師弟関係だ? ……彼女もブルマを穿くのか(爆)?
教師二人を見送った後、消耗しきった士郎を引きずる様に連行して、橙士、アーチャー、メディアを除く全員が道場にいた。

「お、想いが通じているとは言え、ひ、一晩に、二人と関係を持つなど、湖の騎士ランスロットにも劣る所業!!」

「そうよねぇ。ケダモノは、キチンと躾けなきゃダメよねぇ?」


アルトリアと遠坂から迸る青と赤の気炎。それは混ざり合い紫の禍々しいオーラとなる。余談だが、紫は「高貴」、「」を暗示する色だったりする。

「さあ、覚悟は良い(ですか)、士郎(シロウ)?」

「……良くない、って言ったら止めてくれるのか?」

「……勿(無)論」

ニッコリと笑う遠坂とアルトリア。みんなも笑ってる。お日様も笑ってる。るぅるるっ、るるっるぅ〜〜〜〜。

「逝きなさい(ます)、士郎(シロウ)」

・・・以下、残虐な表現が多分に含まれる為、しばらくお待ち下さい・・・

「イテテテテテ」

「鞘」に魔力を流し傷を癒す。……酷い目に合った(自業自得)。アルトリアの殺気を孕んだ剣風、遠坂の殺人級ガンドの雨、時たまイリヤのガンドも飛んできて、軽く死ねる内容だった。

「それにしても、シロウ、あなたの体術はかなりのものです。サーヴァントと闘える事と言い、どういう鍛錬を積んできたのですか?」

「あ、それ、わたしも気になる。教えて、シロウ」

「確かに、興味をそそられるわね。教えなさいよ、士郎」

俺を甚振ってスッキリしたらしいアルトリアと遠坂、その様子を見て溜飲を下げてスッキリした感じのイリヤ、楓、美綴が、俺を心配して見守ってた鐘、由紀香と間桐が、興味深そうにしている。

「俺がしてきた鍛錬かぁ。……そうだなぁ。皆がとてもキツイ鍛錬と聞いて連想できる内容……」

それぞれに自分の想像力を働かせ、とてもキツイ鍛錬を想像する。もっとも、内容に大きな差があるが。

「そんなものは、天国だぁっ!!!」

アブナイ雰囲気を纏い叫ぶ士郎に、その場に居る全員が目を丸くする。

「生きる生きるとき生きれば生きれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

虚ろな瞳で悶える士郎を心配そうに見守る面々。そして、

「おっ、おおおおっ、おるぅぅとぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

頭を抱え裏声で絶叫する士郎。そのまま、道場をゴロゴロと転がる。そして、不意に転がるのを止め、何事も無かったかのように立ち上がると、

「っと、こんな感じの鍛錬だった。解ってくれたか?」

笑顔で訊いてくる。それにコクコクと頷く皆。頷きながら彼女たちは心を一つにした。士郎に鍛錬の事を聞くのは、金輪際止そうという形で。


俺の更生を謳った鍛錬という名のイジメが終わった頃には、日は南の空近くにあり、ちょうど良い時間になっていた。
昼食は山梨の郷土料理「ほうとう」。かぼちゃやじゃが芋、ねぎ、ごぼう、人参などの野菜と肉をたっぷり入れ、幅の広い平麺を生のまま味噌で煮込んだ料理だ。

「メディアとアーチャーは何してんだろ? 橙士、知ってるか?」

「ん〜〜、たのしそうだった。あとは、ぼく、わかんない」

昼食に二人は出て来なかった。離れで二人一緒になって何かしているらしい。……何となく気にしない方が良い気がする。
ちなみに、橙士は今ネコグッズを装備していない。あの二人が今持ってるようだ。……ヤメヤメ、考えるな。

「それじゃ、タイねえにも言われたし、いっぺん家に顔出してくる」
「まあ、流石に事件のあった後だしな」
「うん、みんな心配してると思うし」
「……それじゃあ、行こうか」

「おう、気を付けてな。皆の事頼むな、アルトリア」

「ええ、任せて下さい、シロウ」

楓、鐘、由紀香、美綴が一旦家に戻るのを玄関で見送る。遠坂は一人暮らしだし、間桐は迷った末に、家に帰る意味がありませんと言って残った。
四人には護衛としてアルトリアに付き添ってもらった。日中、町中とは言え、昨日の事を鑑みれば油断は出来ない。俺も行こうとしたが、家族への説明が難しくなるからと言われ引き下がった。
だが、俺はこの時、引き下がるべきじゃなかった。何故なら、

「……シロウ、申し訳ない。アヤコをライダーに連れ去られました……」

顔色を蒼白にした楓、鐘、由紀香を連れて帰って来たアルトリアが、沈痛な表情でそう答えたから。
―――夜の帳が下りようとしていた。


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