Blade worker 12 「泣く子と泣く虎には勝てぬ」 <烈風601型さん>
「で、どうするの、これから?」
遠坂がこっちに来て、訊いてくる。……向こうじゃ、橙士と皆はまだじゃれ合ってるみたいだ。
「これからって?」
「学校の事よ」
「そうだな。今日、結界が発動するかもしれないしな」
「それもあるけど、明日からどんな顔して学校に行くつもりよ?」
「どんな顔って……」
「あの子の事で持ちきりよ、今頃」
「あ」
「……あんたねぇ」
「ど、どうしよう?」
「まあ、同盟相手の窮地だから、一肌脱いであげようかしらね」
「遠坂?」
「完全な記憶操作じゃなくて、暗示による印象の希薄化なら、そう手間も掛からないしね。その代わりと言っちゃあ、何なんだけど」
何故、そこで上目遣いになる、遠坂?
「聖杯戦争終わった後で良いから、お金貸してくれない? ……無利息で」
「……遠坂」
「う、な、何よ、その目は。……しょうがないでしょ。宝石魔術はお金掛かるんだから。頂戴って言ってるわけじゃないんだし」
「……ハァ。分かったよ。でも、そんなにたくさんは貸せないぞ?」
「それは分かってるわよ」
「で、いくらくらいなんだ?」
「100万くらいかな。それで欲しかった宝石のローンが組めるのよ」
「ダメよ、シロウ。リンにお金貸したら、絶対戻ってこないと思うわ。それに、わたしがいるんだから、リンの力なんて必要ないんだから」
いつの間にかやって来たイリヤが、俺の背中に抱きつきながら、遠坂をフフンって感じで見据えて言う。
「ちゃ、ちゃんと、返すわよ!! 大体、あんたじゃ目立ち過ぎるでしょうが」
「あら、だから良いんじゃない。人も集まってくるだろうし、わたしの魔眼はその手の暗示に長けてるし。何より愛するシロウのためだから、無条件で頑張るよ♪」
後半は俺に向き直りながら言うイリヤ。……あのお婿さん発言、本気なのか?
「な、何よ。魔術師の取引は等価交換が原則でしょうが」
バツが悪そうな遠坂。……色々、苦労してんのかな?
「それにしても、そのくらいの事で100万ユーロを借りようとする、リンの神経を疑うわ」
「ハァッ!? そ、そんな大金借りようだなんて思ってないわよ。100万円よ、100万円! 大体、100万ユーロじゃ士郎の貯金の額、越えてるじゃないのよ」
「? 何言ってるの、リン? 昨日、シロウ、1500万ユーロ持ってるって言ってたじゃない?」
不思議そうに遠坂を見ながら、言うイリヤ。
「あのねぇ、そんなわけないでしょうが。ねぇ、士郎?」
思わず、目を逸らしてしまう俺。……失敗シチャッタ。
「嘘!? ホントに!?」
チャリーーーン!!!
うお、遠坂の目が¥マークに!?
「パトロン、ゲットね!!!」
なんか、決まっちゃってるし!?
「あのなぁ、遠坂」
遠坂の勢いに、ちょっと引き気味な俺。
「冗談よ、冗談」
いや、あれは本気の目だったぞ、遠坂。
「ホント、図々しいのね、リンは」
大袈裟に呆れて見せるイリヤ。その言葉にムッとした表情になる遠坂だが、一転、心臓の動悸を促進するようなニヤッとした笑みを浮かべ、
「あら、私が士郎と結婚すれば、そんな事もないと思うけど?」
イリヤを挑発する。……何で、そんな話になるのさ?
「フフ、叶わない夢を見てるのね、リンは。シロウのお嫁さんになるのは、わたしに決まってるんだから」
俺の知らない内に、いつ、決まったんだろうか?
「「フフフフフフ」」
俺を挟んで、笑い合う遠坂とイリヤ。その背後に、落書き調に二頭身にデフォルトされ、煙草を咥えた遠坂と、ブルマを履いた体操服姿のイリヤが、睨み合っているのが見えたのは気のせいだろう。
「で、話は変わるんだけど」
イリヤが、遠坂と睨み合っていた時とは違う不穏な雰囲気を漲らせながら、俺に顔を向ける。
「え?」
急な話題転換に付いて行けない俺。
「オレンジって、どんな人?」
「あ、それ、私も気になってた」
遠坂も乗り出してくる。
「どんなって……」
説明がし難いよなぁ……。
「写真とかは無いの?」
腕組して考え込む俺に、イリヤが訊いてくる。
「ああ、それなら、橙士が持たされてる筈だ。橙士、お母さんの写真持ってるか?」
まだ、じゃれ合ってる皆の方に声をかける。……「お母さん」って辺りで、何か空気が重くなったような?
「うん。リュックのなかに、はいってるの」
そう言って、背中に手を回す橙士。だけど、
「あれ〜?」
背中には何も無い。首を一生懸命回して、背中を見ようとする橙士。何て言うか、微笑ましい。……台所から「も、萌え!! くは、指がぁ!」って聞こえたのは、聞かなかった事にしよう。
「おとうさん、リュックがないの」
「ちゃんと、持ってきてたんだよな?」
「うん」
「校門の所に置いて来たのかな?」
なら、取りに行かなくちゃいけないなと思っていたら、
「申し訳ありません。橙士君にリュックを渡しておくのを忘れておりました」
そんな台詞と共に、秋隆さんがテーブルの下から、仰向けで滑る様に出てきた。
「あ、秋隆さん?」
全身がテーブルの下から出終わると、滑らかな動きで起き上がりこぼしのように起き上がる秋隆さん。……この人、ホントに人間なんだろうか?
「な、何者ですか!?」
アルトリアは武装し剣を構え、遠坂は指で宝石をいくつか挟んでいる。
「あ〜、俺の知り合いだから落ち着け、二人とも」
「シロウの知人、ですか?」
「怪しすぎる知り合いね」
否定のしようが無い事言うなぁ、遠坂。蒔寺達はテーブルの下を調べてる。……多分、調べても何も見つからないに違いない。秋隆さんはそう言う人だ。
「それでは、リュックもお渡ししましたので、私は失礼致します」
「ありがとう、あきたかおじちゃん」
「いえいえ。それでは、失礼」
お辞儀したまま、隣の部屋に滑るように消えていく。
パタン。スパーン!
襖が閉まった瞬間、イリヤが襖を勢い良く開けるが、
「………居ない?」
秋隆さんは影も形も見えない。
「ホント、何者なの?」
遠坂が厳しい表情で訊いてくる。……俺に訊かれてもなぁ。
「知り合いの執事さんだ。得体が知れないけど、悪い人じゃないぞ」
「どんな執事よ……」
まあ、確かに。
「はい、おとうさん」
「ん、ああ、ありがとうな、橙士。ほら、これが先生の写真だ」
橙士がリュックから取り出した写真を受け取り、皆に渡す。
「「「「「「「「………」」」」」」」」
喰い入る様に写真を見る皆。
「おねえちゃんたち、どうしたの?」
「さあ?」
呆けた様に無言で写真を見続ける皆に首を傾げる橙士。
「スゲエ美人じゃん……」
「うむ、美人だな」
「凄く綺麗な人だね」
「美人ってこう言う人なんだな」
「……綺麗な人ですね」
「流石に美人ね」
「む〜、悔しいけど、美人ね」
「確かに美人です」
美人と言う、共通の感想を漏らす皆。ちなみに、写真には橙士を抱っこした先生が写ってる。撮影者は俺だ。
橙士を抱っこした橙子は、とても優しい慈母の表情をしている。老若男女の別なく、見惚れてしましそうな綺麗な微笑み。
ただ、この写真と言うかこの表情を、「蒼崎橙子」を知る者が見れば、有り得ない事象を観測した人間の如く取り乱すに違いない。
某赤ザコは、
「ハハ、これはユメだ。そうだ、ユメだ、ユメに違いない。ユメでなければならない。そう、ユメ、ユメ、ユメ。ラララ、ユメ〜」
とイイ感じにぶっ壊れるだろう。
某「静止」が起源の破戒僧は、
「む。………最早、この体も限界か」
と、いきなり活動不能になる位のダメージを受けそうだ。
妹である「青」を冠する魔法使いは、
「うわ! 鳥肌立つわね、未だに」
なんて言いそうであると言うか実際本人の前で言って、姉妹喧嘩に発展。結局は橙士に泣かれて、中断したが。
まあ、ともかく、その写真の橙子は、文句無しに美人と認識させるくらいに美しかった。
「「「「「「「「………」」」」」」」」
再び、黙り込む皆。写真を見ながら、自分の胸を見たり、腰回りを確かめるように手を当てたりしているけど、何でだ?
「何してるんだ?」
「?」
橙士は首を傾げながら、皆の真似をして、自分の胸を見たり、腰の辺りをペタペタ触ってたりする。
「なな、何でもないっつーの!」
「衛宮には関係あるが、ない事だ」
「な、何でもないから!」
「衛宮は、気にしなくて良いよ。て言うか、するな」
「そうです、気にしないで下さい!」
「深く追及しないほうが身の為よ?」
「シロウは判らなくても良いの」
「シロウ、判らないのなら、そのままにしておくべきです」
「そうなのか? まあ、皆がそう言うのなら」
しかし、何か、皆の表情が少し思い詰めた様な感じがするのが気になるよな。
「橙士、朝食が出来たぞ」
台所から、アーチャーが各種サンドイッチを載せた皿を持って出て来た。
「うわ〜、おいしそう」
「橙士の為だけに作ったのだ。さあ、しっかり食べると良い」
「いただきま〜す」
手を合わせてから、一口サイズに切ってあるサンドイッチを食べる橙士。その様子に異様なほど頬を緩ませるアーチャー。……何か、最初の印象とえらい違いがあるんだが。
「遠坂。アーチャーてあんな感じだったのか?」
気になって、遠坂に聞いてみる。
「私も、初めて見るわよ、あんなアーチャー」
何か嫌な物見たって表情の遠坂。……まさかと思うが、白騎士と同じ趣味人か? だとしたら、あまり橙士に近づけないようにした方が良いな。
「どうかね、橙士?」
「うん、すごくおいしいよ!」
「そうかそうか」
橙士の笑顔に、更に顔を緩ませるアーチャー。う〜ん、白騎士じゃなくて、爺さんを連想する表情だな、あれは。……どちらにしろ、橙士に近づけたくないが。
「遠坂、アーチャーの事、頼む」
「ええ、わかったわ」
遠坂も同じ気持ちのようで、実力行使も辞さないって表情だ。実に頼もしい。
「おとうさん」
「ん。何だ、橙士?」
サンドイッチを食べ終わった橙士が俺の所にやって来た。
「おとうさんといっしょにあそびたい」
「そっか」
橙士の頭を撫でてやる。まあ、今日はもう学校には行けないしなぁ。
「何して遊ぶ?」
「ん〜、かくれんぼ!」
「分かった」
「おねえちゃんたちもいっしょにあそぼうよ」
橙士が皆に上目遣いで呼びかける。
「しょうがないなぁ」
「私は構わぬよ」
「わたしも良いよ、橙士ちゃん」
「かくれんぼか、久し振りだねぇ」
「わたしも良いですよ」
「私もするの? しょうがないわね」
「かくれんぼかぁ。楽しそうね」
「私もですか? ……分かりました」
橙士に期待一杯の目で見られて、全員付き合う意思を示す。と、
「橙士、勿論私も参加す――」
ゴッ!!
勢い良く出て来たアーチャーの後頭部に、遠坂がどこからか金属バッドを取り出し、イ○ロー並みの切れのあるスイングを直撃させた。
「あんたは屋根の上で、周辺の警戒。イリヤスフィール、頼んだわ」
「ええ。バーサーカー」
遠坂がアーチャーを縁側から中庭に放り込むと、中庭にいたバーサーカーが動かないアーチャーを屋根の上に放り投げる。……少し、憐れだ。
この後、昼まで、家の中でかくれんぼをした。橙士は余程楽しかったらしく、終始笑顔だった。
そして昼食は、俺達は弁当をそのまま食べ、橙士は、アーチャーが作ったパスタをを食べた。麺は全て手打ち、茄子とミートソース、鮭とほうれん草のクリームソース、ペペロンチーノの3種類。
橙士一人に食べ切れる量ではなかったが、アルトリアの分を考慮に入れていたらしい。まあ、アーチャーの奴、微妙にアルトリアに対して腰が低いしな。橙士が食べたサンドイッチをアルトリアが、ジィ〜っと見ていたのも関係しているだろう。
最初、アーチャーが橙士に食べさせていたが、マスターの強権でその役目を奪われ、その後は皆(アーチャーは含まず)が変わりばんこに橙士に食べさせていた。……アーチャーがハンカチの端を噛んで悔しがっていたのが、見苦しかった。
昼食の後は、ト○ロのビデオを見たり(イリヤとアルトリアは大層気に入った様だ)、昼寝をしたり(どこから持ち出したかは分からないが、アーチャーがその様子をビデオに収めてた)、のんびり過ごした。
「さて、今日の夕食は気合入れるか!」
台所に入って、夕食の準備に取りかかる。昼、アーチャーの奴が俺の作った弁当を見て、フフンと鼻で哂いやがった! 家では、全力を出すつもりはなかったが、このままじゃ、癪に障ってしょうがない! 見てろよ、アーチャー!
士郎の料理の腕は、べらぼうに高い。勿論、これも解析の力だ。日本、欧州の一流どころの料理人の技をその身に宿している。連れ回したのは蒼崎姉妹と、宝石爺だ。曰く、旨い物をいつでも食べたいからだそうだ。
ちなみに、倫敦に超不定期に開く料理店「EMIYA」がある。昼、この店に訪れる事ができれば、僥倖だ。至福の時間を堪能出来るだろう。
だが、夜訪れたなら、手早く食事を済ませ、早々に店を辞す事をお勧めする。そこは「ヒト」の居て良い場所では無くなっているから。
「こちら側」に対する見識が深い者なら、「EMIYA」の扉を開けた瞬間、回れ右をし、脇目も振らず走り、己の最速を持って、倫敦、いや、英国を離れる。
死徒の頂点、祖たる者が複数、加えて最凶の姉妹までそこにいる。それ以外にどんな理由が必要だろうか?
我侭、無軌道、理不尽の権化の如き彼等を満足させる士郎の腕は、英霊となった後も腕を磨いていた(予想)赤き弓兵に勝るともお劣らぬレベルである。
「料理は愛情で、勝負で、コテコテだ!」
節操の無いポリシーだ。どうやら、料理関連でも色々あったようだ。包丁を振るう背中が少し煤けているのも気のせいでなかろう。
「ん〜〜〜、何か、忘れているような」
料理が進むにつれ、漠然とした危機感が頭に湧き起こってくる。料理の手順に不備は無い。
だが、何か料理に関連した事で、危機感は徐々に募っていく。
それは、死に至る病を放置しているような感覚。何か、決定的な事を忘れているような……。
「まあ、思い出せないって事は、大した事無いんだろ」
口にして、何かを確実に間違ったと確信した。そして、
「コラーーー!!! なんで、みんな、お姉ちゃんに無断で学校を休むのよぅーーーーーー!!! あと、今日の晩ご飯、何?」
その声が向こうから聞こえてくると共に、己の過ちを知った。
今日の夕食は、炊き込み五目ご飯と大根とワカメの味噌汁、天麩羅だ。
「うっわ、今日のご飯、すっごく美味しいじゃないのよぅ。お姉ちゃんは、大満足なのだぁ〜。士郎、おかわり」
ニコニコ顔で、ご飯を頬張りながら、俺に茶碗を突き出す藤ねえ。
「お、おう。しっかり食ってくれ、藤ねえ」
俺は炊き込みご飯を山盛りにして、藤ねえに渡す。そんな俺と藤ねえを見守る蒔寺、氷室、三枝、美綴、間桐、アルトリア。遠坂は、一口食べた後、
「………負けた」
何か呟いて、難しい顔しながら、料理を食べている。イリヤは、
「ア〜ン♪」
「あ〜ん」
橙士にご飯を食べさせるのに没頭していた。アーチャーは霊体化して、その光景を羨ましそうに見ていた。
バーサーカーは、庭で「人生に悔い無し」といった感じに片腕を天に掲げ、立っていた。
「ねえねえ、ところで、士郎?」
「な、何かな、ふ、藤ねえ?」
「そこの可愛い子、誰?」
来たーーー!!! 腹を括れ、俺。藤ねえは俺の家族だ。嘘を付く訳にはいかない。例え、どんな未来が先にあるとしても――。
「お、俺の子供だ」
「あおざきとうし、さんさいです」
「そっかー。橙士ちゃんは士郎の子供で、三歳なんだー」
そう言って、飯をかっ込む藤ねえ。避難する皆。静止する藤ねえ。
「えっと、橙士ちゃんは士郎の子供?」
「おオオおおオ、おう」
ワーニン、ワーニン、ワーニン!! にげロにゲろニげろにゲロニげロニゲろ!!
「どぉぉぉういうぅぅぅことぉぉぉぉぉぉ、しろうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
ガオゥ、ガオゥ、ガオゥ、ガオオゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!!!
過去最大の咆哮。死を予感させる猛虎の気配が居間を支配する――。
「どういうこと、ねえ、どういうことなの、士郎!? そんな士郎の歳で、子供なんて、切嗣さんもブッチぎって、単独トップじゃないのよぅ!! ダメ、ダメ、ダメ、ダメーーーーーー!!! そんな事、絶対にお姉ちゃんは、認めませーーーーーーん!!! 目を喰いしばれーーーーーー、士郎!!!」
「無茶だーーー!!!」
藤ねえが虎竹刀を手に踏み込んでくる。その踏み込みは正に雲耀。その瞬間、藤村大河は英雄に到れる力をその身に宿していた。が、
クイ。
大河の服の裾を誰かが掴んでいた。
「だ…れ?」
憤怒の形相で振り返った藤村大河が見たのは、目に一杯涙を溜めた、今にも泣きそうな橙士。
「どどどどどどどどど、どうしたの、橙士ちゃん!?」
虎竹刀を士郎に投擲してから、橙士と目線を合わせて向き合う。
「ひっく、ぼ、ぼく、ぅっく、おとう、さんの、ひっく、こどもじゃ、だめ、うぅ、なの?」
涙が零れないように懸命に堪えながら、大河に問いかける橙士。
「そそそそそそんなことないわよぅ!!」
大河は、凄い良心の呵責を感じている。て言うか、大河まで泣きそうになっている。
「っく、ぼく、おとうさんの、ひっく、こどもで、うっく、いい?」
「ももももちろんよぅ!! お姉ちゃんが、橙士ちゃんのお父さんになっても良い位なんだから!!」
いや、普通に無理だ、それ。
「ね。だからもう泣かないで、橙士ちゃん。可愛いお顔が台無しだよぅ。ほら、笑って笑って!!」
「ん〜、たいがおねえちゃん、くすぐったいよ〜」
橙士を抱き締め、くすぐったり、頬擦りしたりする大河。橙士が泣き止んでホッとしている様だ。
「士郎。詳しい話は後でね」
その時、士郎は、明日の朝日を拝めるか本気で憂いたのだった。
その後の事は筆舌にし難かった。
事情(「こちら側」の事は伏せた)を話し終えた後、先生の写真を見た藤ねえに結局、雲耀の唐竹を決められて、本気で号泣された。しかも、オヤジ以上の誑しと言われた。……心外だぞ、それだけは。
号泣する25歳と、それを慰める3歳児。
「………今日は帰る」
そう呟いて、藤ねえは帰って行った。立て続けに、衛宮父子の子供の存在を知らされ、相当のショックを受けているようだ。いつもの無意味なまでの元気が嘘かのように、トボトボと家路に着いた。
「大丈夫かな、藤ねえ……」
「あんたの責任でしょうが」
「むぅ……」
「まあ、時間が解決してくれるんじゃない?」
「そうかな……」
居間に戻ってくると、
「おとうさん、おふろ、はいろ♪」
「橙士、私と一緒に――」
ゴッッ!!!
アーチャー、沈黙。
「そうだな、入るか」
「うん♪」
久し振りに、父子水入らずで風呂に入った。そして、皆も風呂に入り終わり、
「わぁ〜、おねえちゃんたち、かわいい〜♪」
衛宮邸は動物王国になっていた。ちなみに橙士は、ネコがプリントされたパジャマだ。
「ところで、橙士。良ければ、今日は私達と寝ないか?」
「? かねおねえちゃんたちと?」
「うむ。嫌かな?」
「んん〜」
フルフルと横に首を振る橙士。
「ならば、行こうか。おやすみ、衛宮」
「おやすみなさ〜い、おとうさん」
「おう、おやすみ」
皆も口々にお休みの挨拶をして、居間を出て行く。
「俺も、寝るかな」
何だかんだ言って、今日は疲れたし。部屋に向かう。布団を敷いて、隣の部屋を見ると、
「バーサーカー? 何してんだ?」
鉛色の巨人が正座している。イリヤとアルトリアの姿は見えない。どうも、皆と一緒に居るようだ。
つまり、バーサーカーが俺の護衛役?かな。……寝辛そうだ。
「お、おやすみ、バーサーカー」
一応、挨拶して目を閉じた。
不意に目が開く。時間がそれなりに経過しているのを感じる。
襖の向こうに人の気配。……敵意や、害意の類はない。こんな時間に誰だ?
「誰だ? 俺に何か用か?」
俺の問いかけに、襖の向こうにいる誰かがビクッとしたようだ。でも、その場から動かない。
そして、ゆっくりと、襖が開いていく。そこに居たのは―――。
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