Blade worker 10 「父の気持ち、子知らず・弟子の心、師匠知らず」 <M/Mさん>



夢を見た。
懐かしい夢。
俺は、その病院の廊下を早足で急ぐ。
目的の病室に入ると、身内である人達が口々にお祝いを言ってくれる。
そして、ベッドで体を起こしている女性ひとは、今まで見た事のない優しい表情かおで、――を抱いていた。
ただ、遅れて来た俺に対しては、いつもの不敵な笑顔でイヤミを言ってきたけど。


―2月4日・五日目

目が覚める。ただ、少し違和感。

「なんか、暗い?」

窓の方に目を向けて、原因が分かった。――正座する大英雄。その堂々たる体躯は座っていても、窓から差し込む陽光を遮るほど巨きい。

「……おはよう、バーサーカー」

その存在を無視などできず、挨拶をする。俺を捉えるバーサーカーの視線。……もしかして、一晩中、こうしていたのだろうか? 俺、良く寝ていられたな。結構、太い人間なのだろうか、俺は?

「………」

バーサーカーは、無言だ。視線も動かさない。………気まづい。

「そ、それじゃ、俺は、朝食の支度をしてくるから!」

気まずさに耐え切れず、手早く布団をたたみ台所に向かう。

「………」

それを見送ったバーサーカーは立ち上がろうとして、

ズッシィィィン!!!

………すっ転んだ。

「■■■ーーー!!!」

隣室で眠る主を起こさぬよう、小声で悶えるバーサーカー。どうやら足が痺れたらしい。……まあ、一晩中正座してればねぇ。
結局、士郎達が学校に出かけるまで、バーサーカーは動けなかった。

十二の試練ゴッド・ハンドと言えど、無効化出来ないダメージがあったか。……戦いの役には立たんがな」

そんな様子を見て、アーチャーがやれやれといった感じで肩を竦めていたりした。

――平和な朝だった。だが、しかし、この後、士郎は自分に降りかかる出来事を知らなかった。
そう、それは正にサプライズ。衛宮士郎は、後に語る。

「俺の決して長くない人生で、驚くような事にはたくさん遭ったけど、アレくらい驚いた事はなかったな」

騒動とは、突然やって来る。望むと望まないに関らず。


学校に向かう士郎達。蒔寺達には家に残るように言ったのだが、

「学校には、私と士郎の二人で行くから」

と言う遠坂の発言の後、何故か皆が強硬に登校する事を訴え、結局、皆で登校する事になった。……アーチャーも居るんだけど、最後まで無視されていた。いと悲し。
霊体化できないアルトリアと、何かと目立つイリヤとバーサーカーは留守番である。

「何かあれば、令呪で呼んで下さい、シロウ」
「つまんな〜い。早く帰って来てね、シロウ」

アルトリアもイリヤも不満顔ではあったが。

「それじゃ、私は蒔寺さん達についてるわ」

校門の所で、弓道部組と陸上部組に別れる。遠坂はアーチャーと共に蒔寺達に付いて行った。……蒔寺、露骨に嫌そうな顔するなよ。

「嫌そうね、蒔寺さん。それなら、アーチャーだけ憑けて、私は弓道部の方に行こうかなぁ」

「……別に嫌じゃないから、こっちに来い!」

「はいはい」

「〜〜〜っ」

仲が良いのか、悪いのか。……まあ、良いんだろうな、あれは。
そうして、朝練を終わらせ、蒔寺達と合流した後、

「ん、何だ?」

校門の前に人だかりが出来ているのに気付いた。

「なんか人が集まってるな」

「ふむ、何かあったか?」

「何かって、何があったのかな?」

「何があっても、おかしくないんだろ? 今の冬木じゃさ」

「……アレ聖杯戦争絡みと言うことですか?」

「あり得ない話じゃないわ」

俺達の間に緊張が走る。

「でも、そう言う不穏な感じじゃないわね」

確かに、そう言った雰囲気ではない。人だかりの中心から聞こえてくる声は、なんというか黄色い。

「……お、一成がいる。ちょっと聞いてくるな」

人だかりの端っこに友人の姿を見つけ、駆け寄る。

「おはよう、一成」

「おお、おはよう、衛宮。朝練は終わったのか?」

「ああ。ところで何なんだ、この人だかり?」

「それがな、幼子がここに父親を訪ねて来たらしいのだ」

「幼子?」

「うむ。愛らしい子供でな。そのせいか、女生徒に取り囲まれておる」

「ふ〜ん。誰か先生の子供かな?」

「であろうな。しかし、我が校の教師にあのような赤毛の方がいたか?」

「………赤毛?

「赤と言うよりは、鮮やかな橙だがな。珍しい髪の色をしている」

「一成!!」

ガシッと一成の肩を掴む。

「ど、どうした、衛宮?」

「……その子供、いくつだ?」

「は?」

「だから、その子供はいくつなんだ!?」

「さ、先程、話しているのを聞いた限りでは、三歳らしいが……」

「!!!」

「お、おい、衛宮。本当にどうしたのだ?」

「………」

一成に応えず、人だかりの中心に目を向ける。

「な、なんで?」

果たして、そこにいたのは予想通りの人物。
一人の女生徒の膝の上にちょこんと座り、人懐っこい笑顔で周りを取り囲む女生徒達に笑いかけている。

「好きなものはな〜に?」

「んっとねぇ、おとうさんのつくってくれるごは〜ん♪」

「「「「「「「「「「カ、カッワイイ〜♪」」」」」」」」」」

黄色い歓声が上がる。と、そこに周りの声とは、明らかに違う声が俺の耳に届く。

おはようございます、士郎君

「あ、秋隆さん!?」

周りを見渡すが、秋隆さんの姿は無い。あの声の感じなら、近くにいるはずなのに。

「え、衛宮!? 先程から、どうしたと言うのだ!?」

突然、辺りを見回す俺に、一成が訝し気な顔をする。どうやら、一成には秋隆さんの声は聞こえていないらしい。

安心して下さい。私の声は士郎君にしか聞こえていません

「ど、どうやっているんです?」

この48の執事スキルが一つ、「耳許ウィスパー」の事を知りたいのですか?

「み、耳許ウィスパー?」

そうです。執事たる者、いつ如何なる状況においても、主に対し助言できなければなりません。そんな時に使うのが、この「耳許ウィスパー」です。主の敵に対して、精神的ダメージを与えたりも出来ます。例えば、24時間、エンドレスで武○鉄矢の歌を聴かせるとか

「その時は、秋隆さんが歌うんですか?」

いえ、CDですが?

肉声以外も伝達するなんて、どう言うスキルだ?

興味がおありですか? 士郎君が、式お嬢様と黒桐様のお子様に仕える執事となると誓ってくれるなら、お教えしましょう

「その話は……」

戦う主に仕える執事も良いですが、昼は執事、夜は正義の味方というのも乙と思いますよ。まあ、まだ先の話ですし、焦らずいきましょう

「って、それよりも、なんで?」

あの子がここにいるかですか? 私が連れて来たからです

「そういうことじゃなくて!!」

私も、お嬢様の命を受けただけですので。それでは、そろそろ失礼致します

「ちょ、秋隆さん!!」

申し訳ありません、士郎君。私は、式お嬢様のお着替えを手伝わなくてはなりません。黒桐様も脱がす事にかけては、達人級になられたのですが。……む、黒桐鮮花様と浅上様が黒桐様のお部屋に迫っています。一刻の猶予もありません。それでは、士郎君、…………頑張って下さい

「その間は、確信犯って事ですかぁぁぁ!!!」

状況を忘れて、声を張り上げる。注目される士郎。当然、

「ああ〜♪」

士郎は認識された。嬉しそうに、女生徒の膝から下りて、一直線に士郎にトテトテと駆け寄る子供。そして、

「おと〜うさん♪」

そう言って、士郎に抱きついた。

ビシィ!!!!!

その時、世界が罅割れる音を、その場に居た者達は確かに聞いたのだった。

「ええええええええええ、衛宮ぁぁぁぁぁ!? おおおおお、お主、おと、おおととと、おとうさんとは、どどど、どういうことなのだぁぁぁぁぁ!!!!?」

一番最初に再起動を果たしたのは、一成だった。無論、冷静ではありえなかったが。

「アアコノコハオレノシリアイノコドモデイツモセワシテイルカラオレノコトヲ「オトウサン」ッテヨンデイルダケサ、イッセイクン」

早口アンド棒読み。これで、誤魔化せる人間は滅多にいないであろう。……冷静であればだが。

「そ、そうか。…そ、そうだな。俺達の歳で、このような大きな子供がいる筈もないな。はハはハ、び、吃驚させるな、衛宮。じゅ、寿命が縮まるかと思ったぞ」

今の士郎の態度を不審に思うほどの余裕は無いらしい。

「ハハハハスマンスマン。アイッセイオレヨウジヲオモイダシタ。トイウワケデキョウハソウタイスル。フジムラセンセイニソウツタエテオイテクレ」

勿論、士郎にも余裕なぞ無い。

「う、うむ。承った」

「アリガトウイッセイ。ソレジャナ」

そして、士郎はその子供を抱っこして、

「同調、開始!!!」

「わぁ、はやいはや〜い♪」

蒼い槍騎士と何ら遜色ないスピードで走り去った。

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

取り残される生徒達。だが、動揺が治まると、皆、校舎に向かい始める。勿論、士郎が話題になっているが。………これからの学校生活、どうするつもりだろうか、士郎は?

「さて、俺も教室に向かうとするか」

そんな周りの動きに促され、一成も教室に向かおうとする。が、

ガシィ。×5

後ろから掴まれた。

「な、なんだ!? と、遠坂!?」

後ろから自分を掴んできた人間の一人に、目を剥く一成。

「柳洞君、私も早退するから、よろしくお願いするわ」

「ふ、ふざけるな!! 何故、俺が、そのような事を―」

「お・ね・が・い・ね?」

「………う、うむ」

その時の遠坂凛を見た2-CのG君は、こう語った。

「いや〜、拙者、人を殺せそうな視線と言うのを、初めて見たでござる。くわばらくわばら。……それでも、拙者も遠坂嬢に睨まれてみたいでござるなぁ

一成が首を縦に振ったのを認めた次の瞬間、駆けて行く凛。

「柳洞、あたしもだ。待て、遠坂!!」
「柳洞、私も早退する旨、葛木先生に伝えておいてくれ」
「柳洞、あたしも早退するんでよろしく」
「柳洞先輩、私も早退しますので、よろしくお願いします」

それを追う四人。凄まじいスピードだ。

「……何故、俺が違うクラス、あまつさえ、学年も異なる女生徒達の早退を言付からねばならぬのだ?」

「……あの、柳洞君……」

呆然とした一成に、声をかけてきた人間は、申し訳無さそうにした三枝由紀香さん。

「……分かった。速くせぬと、置いて行かれるぞ」

「ありがとう、柳洞君。みんな、待って〜」

ぺこっとお辞儀をして、後を追う由紀香。……先行するメンバーに比べれば、随分と遅いが。

「……行くか。しかし、週の初めから、何故こんなにも疲れねばならんのだ?」

哀愁を漂わせ、校舎に向かうその姿は、苦労人と言った風情であった。


走れ、走れ、走れ、走るんだ、俺!!
心臓が弾け飛ぼうとも、肉体の限界を越えようとも、
音を凌駕し、光の速さで駆け抜けろーーー!!!

ズザザザーーー。ガラガラ。ピシャ。ドタドタ。

過去最高のスピードで家に帰りつき、中に入った瞬間すぐ、電話の所にまで行く。

ピポパポピピポピ。

子供を抱いているため、片手の五指のみで電話を掛ける。

トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル。

だが、誰も出ない。すぐに、次の相手の電話に掛ける。今度はすぐに出た。

「はい、黒桐です」

「幹也さん!!!」

「わっ!? し、士郎君? びっくりしたぁ。どうしたの?」

「せ、先生は!? いないみたいなんですけど!?」

「ああ、妹さんと欧州に出かけたよ?」

「じゃ、じゃあ、何で橙士がこっちにいるんです!? いつもは連れて行ってるのに!!」

「ああ、それなんだけど、橙士ちゃんがね、自分で士郎君の所に行きたいって言い出したものだから」

「でも、今俺がどう言う状況か知ってる筈でしょ!?」

「それは、分かってるんだけどね。こっちの事も分かるでしょ、士郎君?」

「……なんとなく」

「士郎君の気持ちも分かるけど、橙士ちゃんの気持ちもって、ちょ、ちょっと、式!?」

「士郎か?」

「式さん?」

「お前がこの頃、こっちに来ないからこうなったんだ。自業自得だ。手が足りなくなったら、すぐ連絡をよこせ。じゃあな」

「ちょ、まっ」

ツゥー、ツゥー。

電話は切られた。とにかく、ここに橙士がいるのは事実だ。何を言おうとそれは変わらない。と、

「おとうさん?」

小さな声に顔を向けると、橙士が目に涙を溜めて、こっちを見ている。

「と、橙士? どうした?」

「ぼ、ぼく、きちゃ、ダメ、だったの?」

先程の電話のやり取りからすれば、歓迎されていないと、とられてもおかしくない。

「い、いや、そんなことないぞ。橙士に会えて、凄く嬉しいぞ」

「……ほんと?」

「ああ、本当だ」

「……えへへ、おと〜うさん♪」

俺の首に抱きついてくる橙士の頭を優しく撫でる。

「シロウ? もう戻ってきたのですか?」
「シロウ、おかえり〜」

アルトリアと、イリヤが奥から出てきた。そして、俺が抱っこしている橙士を見て、

「「その子は誰(なのですか)、シロウ?」」

「え、あ〜、そのな」

ガラガラァァァ!!!

豪快に開かれる扉。そこにいるのは、

「ハァハァ、私も、是非話を聞きたいわ、衛宮君?」
「「「「ハァハァ、以下、同文!!」」」」
「ありがとう、アーチャーさん」

肩で息している遠坂、蒔寺、氷室、美綴、間桐と、三枝をお姫様抱っこしているアーチャーだった。

「………とりあえず、居間に行こう」

「そうね。居間で、じっっっくりと話を聞かせてもらうわ」

絶対、誤魔化しは許さないと言ったオーラを出す皆と共に、居間に向かった。


居間の空気は果てしなく重い。ただ、この状況の中心である橙士は俺の膝の上でご機嫌だ。

「それで、その子、あんたの何?」

先ず口を開いたのは、遠坂。……笑顔なのが余計に怖い。

「いや、だから、さっき一成に言った通り」

「それは嘘ね。で?」
「「「「「………」」」」」
「あの子供がどうしたと言うのでしょうか?」
「さあ?」

そう言って、追及の手を緩めない遠坂。蒔寺達もうんうんと頷いている。アルトリアとイリヤは状況を掴めておらず、首を傾げている。
まあ、いつかは言わなきゃいけないと思っていたけど。こんな形でとはなぁ。

「分かった。本当の事、言うよ。……この子は、俺の」

「「「「「「「俺の?」」」」」」」

「……実の息子だ」

「「「「「「「は!?」」」」」」」

「だから、実の息子!! 橙士、皆にご挨拶!!」

「は〜い。はじめまして、ぼくは、あおざきとうし、さんさいです」

橙士は、俺の膝から立ち上がり、皆に向かってぺこっとお辞儀した。

「「「「「「「ええ〜〜〜〜〜〜〜!!?」」」」」」」

驚愕する皆。まあ、驚くわな、普通。

「どういうこったぁぁぁ、衛宮ぁぁぁ!!!」

ガックンッガックン!

「おお落ち着け、まま蒔寺」

襟を掴んで揺らしてくる蒔寺。

「これが落ち着いていられるか!!! 説明しろ、衛宮!!!」

「あわわわわわわわ」

蒔寺と一緒になって、俺の頭を揺らす美綴。……喋れないって。

「……先輩に子供……先輩に子供……先輩に子供……」

「はわわわわわわ」

俯いて何か呟いている間桐と、ひたすら困惑する三枝。

「へぇ〜、ずいぶんと甲斐性があるのねぇ、衛宮君は?」

デヴィルスマイル、遠坂。……怖すぎ。

「初めまして、橙士。私は君のおとうさんの友人で氷室鐘と言う。これからよろしくな」

「初めまして、トウシ。わたしは、イリヤよ。よろしくね」

「うん! なかよくしてね、かねおねえちゃん、イリヤおねえちゃん」

さっき大声で驚いていた割には、もう落ち着いたのか橙士に自己紹介なんかしてる氷室とイリヤ。

「………」

何か微妙に半眼で俺を見ているアルトリア。

「初めまして、橙士。私はアーチャーと言う。よろしくな」

「うん! よろしくね、アーチャーおにいちゃん」

何故、お前が出てくるんだ、アーチャー?

「「で、どういうことだよ?」」

ようやく、頭を揺らすのを止めてくれた、修羅二人。……怖えぇ!!

「いえ、ですから申し上げた通りなのですが」

何だか敬語になっちゃうよぉ〜。

「母親は、母親は誰なんですかぁ!?」

俯いていた間桐がガバッと顔を上げ、虚ろな瞳で聞いてくる。正直、かなり怖い。

「えぇ〜と、お、俺の魔術の先生で、蒼崎橙子って人だ」

「なっ!?」

俺の言葉に驚く遠坂。……先生は有名だからな。そりゃ驚くか。

「やるじゃない、シロウ。あの「オレンジ」との間に子供作るなんて」

本気で感心しているイリヤ。……勘弁して下さい。

「……衛宮君は、その人と結婚するの?」

おずおずと訊いてくる三枝。うぅ〜、そんな目で俺を見ないでくれぇぇぇ。

「いや、俺は今結婚できないだろ」

この世界では18歳以上でも、高校を卒業しなければ結婚できません(爆)。

「まあ、多分しないと思う。先生も結婚をする気は無いって言ってるし」

そういや、俺と先生って、どういう関係になるんだろ? 恋人って訳じゃないし、う〜ん、……分からない。アレは、未だにしているけど(核爆)。

「子供がいりゃ、十分よ!! 大体、橙士って子が3歳なんだから、………あんた、中1の時に!?」

「いや、そんな計算するなよ、遠坂!」

「まあ、中1なら可能だな」

「あのなぁ、氷室」

「とにかく、橙士はシロウの子供なのですね?」

「ああ、その通りだ、アルトリア」

なんか、物凄ぉく疲れた。

「「「「「「「「………」」」」」」」」

気まずい。こんなに気まずいのは、初めてだ。……出来たら逃げ出したい。オヤジに習っとくべきだった、こんな時の対応。

「え、え〜と、そ、そうだ! 橙士は朝ご飯食べたのか?」

とにかく、どうにかこの状況を抜け出したい。

「ん〜ん、まだぁ」

「よ、よし、それじゃ、俺が「私が作るから、貴様はそこに座っていろ」

揺るぎない意思を背中で語り、台所に入って行くアーチャー。口元が哂っていたのは俺の見間違いか? いや、見間違いじゃない。あの野郎!

「おとうさん♪」

「ん、何だ、橙士?」

「えへへ〜、よんだだけ〜」

「そっか」

橙士は久し振りに会えた事が嬉しいのか、俺に甘えてくる。ただ、橙士が甘えてくる度に空気が重くなるのは気のせいだ。そうに違いない!! そう思わせて!!

「……橙士だったよな。あたしは蒔寺楓って言うんだ。よろしくな」
「あたしは美綴綾子。よろしくな、橙士」
「えっと、わたしは三枝由紀香だよ。仲良くしてね、橙士ちゃん」
「間桐桜です。よろしくね、橙士ちゃん」
「……遠坂凛よ。まあ、よろしく」
「アルトリアです。橙士、よろしくお願いします」

「うん、かえでおねえちゃん、あやこおねえちゃん、ゆきかおねえちゃん、さくらおねえちゃん、りんおねえちゃん、アルトリアおねえちゃん」

と、不意に空気が軽くなったと思ったら、皆が自己紹介を始めた。何で、いきなり?

「いつまでも、黙っててもしょうがないでしょ。それにこの子が悪いわけじゃないし」

何か、暗に俺が悪いって言ってないか、遠坂。……いや、そりゃ黙ってたから悪いんだけどさぁ。

「おお、柔らかいほっぺた♪」
「うむ、触り心地の良い髪だな」
「うわ〜、スベスベしてる」
「ほれ、こちょこちょこちょこちょ」
「プニプニですね」
「トウシの髪、ホントにサラサラ」
「むむぅ、素晴らしい感触です」

「キャハハハハ、おねえちゃんたち、くすぐったいよ〜♪」

見れば、橙士を抱き締め、撫で、頬擦りし、髪を梳るとやりたい放題、楽しそうにじゃれ合ってる皆。

「ちょ、ちょっと、私も混ぜなさいよ」

じゃれ合いの中に入って行く遠坂を見ながら、

「あらかじめ連絡位下さいよ、先生」

絶対届かないであろう愚痴を零した。


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