Blade worker 1 「トラとクロヒョウのコーヒー大作戦!!」



衛宮士郎は、穂群原学園、いや、深山町一の有名人だ。それは彼の外見に起因する。

―ミイラ男―

十年前の大火災、その中心地区、唯一の生き残り。全身の火傷の痕を、包帯を巻いて隠している。加えて、185cm超の長身、鍛えられた筋肉質な肉体。「包帯マッチョ」などと揶揄する者もいる。
人は、己と異なるものを虐げたり、忌避したりする。だが、彼の境遇を考えれば、虐げるのは憚られる。故に、衛宮士郎は忌避された。彼を見れば災禍を思い出す。だから目を逸らす。同情、憐憫を交えながら、関わりを避ける。緩やかな拒絶。五年前、亡くなった養父の他、しょっちゅう出入りしている女性とその家族(広義な意味での)以外、彼と接する者はいなかった。………いなかったのだが。



―1月31日・一日目

衛宮家にある土蔵。その奥の作業場―金属の加工が出来るモノ。一年ほど前に作った―でツナギを着たミイラ男が寝ていた。

ギギィ〜〜。

土蔵の扉が開き、制服姿の少女が一人、ミイラ男、衛宮士郎に近付いて行く。

「衛宮君、衛宮君、朝だよ、起きて〜」

ゆさゆさと士郎を揺する少女。

「ウ、ウウ〜ン」

ムクリと起き上がり、首を回す士郎。

「イテテテテ。寝違えちゃいないみたいだけど…」

「ダメだよ、衛宮君。ちゃんとお布団で寝なくちゃ。体、壊しちゃうよ?」

「悪い。まあ、頼まれた分は終わったんだ。今日からは、布団で寝るさ」

「うん。それじゃ、私は桜ちゃんを手伝ってくるね」

「ああ、わかった。あ、それと、おはよう、三枝」

「おはよう、衛宮君」

土蔵を出た士郎は自室に向かう。制服に着替え、居間に向かう。

「おはよ、衛宮」

「おはよう、衛宮」

「おはよう、衛宮。また土蔵で寝てたのか、あんた?」

「おはよう、蒔寺、氷室、美綴。ああ、昨日で終わらせたかったからな」

「風邪引くなよ。あんたの射は、あたしらの目標なんだからさ。休まれると、練習に身が入らない」

「気を付ける。今日は、間桐が当番だったな」

「おお、間桐にゃ珍しく和食の献立みたいだね」

「だが、蒔の字。香りから察するに期待できそうだぞ。なぁ、衛宮?」

「ああ、俺もうかうかしてられないな。……それにしても女五人揃って、食事の用意をするのが二人ってのはなぁ」

「女だから料理しろってのかぁ、オーボーだぞぉ、衛宮!」

「ふむ、ならば、私たちも食事の準備に参加するか?」

「どうせなら、美味いもの食いたいけどね、あたしゃ。だから、パス」

「と言うわけだ、衛宮。素晴らしい朝食を敢えて台無しにする事もあるまい」

「……なら、せめて食器の用意とかをさ」

「そうだね。……桜、どの食器出せば良い?」

台所に向かう美綴。

「蒔寺と氷室は行かないのか?」

「流石に狭かろう」

「今行っても、邪魔者になるだけだって」

まあ、確かに。今、台所にいるのは間桐、三枝、美綴の三人。流石に狭いよな。

「それに、そろそろタイねえが来るだろ。タイねえの相手って言う崇高な使命があたしらにはあるのさ」

「崇高かどうか知らんが、藤ねえさんの相手が必要なのは確かだな」

「まあ、な」

我が家に出没する猛獣、理不尽タイガー。その名は藤ねえ。

「今日の朝ご飯、何ーーー!!?」

「おはよ、タイねえ」

「噂をすれば、だな」

「朝はおはようだぞ、藤ねえ」

と、その時台所から三人が出てくる。

「出来ましたよ、先輩」

「おう、運ぶの手伝うよ」

これが、衛宮家の朝の風景。


朝食の献立は、鶏のささ身と三つ葉のサラダ、鮭の照り焼き、ほうれん草のおひたし、大根と人参の味噌汁、とろろ汁まで完備されている。

「「「「いただきます」」」」
「「………」」

と、いつもと違う反応の人間が二人いる。藤ねえと蒔寺だ。二人して新聞なんか広げてる。何だ?

「藤村先生、食事中に新聞読むのはお行儀悪いですよ」

「そうだよ、蒔ちゃん。お行儀悪いよ」

「「ん」」

と答えて、新聞の影に顔を隠す二人。

「ああ、間桐。醤油とってくれるか?」

「はい。とろろにかけるんですか?」

「ああ、やっぱ、とろろには醤油だろ」

醤油さしを受け取り、とろろにかけようとして、その動きを止めた。

ピク。

俺の行動に反応する二人。

「そういや、藤ねえと蒔寺は醤油、かけてないな。レディーファーストって言うし、俺がかけてやるよ」

「「ヘ?」」

チャー。

二人が行動するより早く、二人の分のとろろに黒い液体をかける。

「「ああ〜〜〜!!!」」

新聞を投げ捨て、大声をあげる二人。

「ななな、何すんのよぅ、士郎!?」

「そそそ、そうだぞ、衛宮!?」

「何って、醤油かけただけだろ、二人とも」

「「う」」

「どうしたの、二人とも?」

「つまり、その醤油さしに入っているのは、醤油ではないと言うことだ、由紀」

「良く気付いたね、衛宮」

「まあな。オカシかったしな、二人の態度」

解析して良かった。

「それで、何を入れたんですか、藤村先生、蒔寺先輩?」

自分の作った朝食を台無しにした二人に問いかける間桐。少し、声のトーンが低いなぁ。

「「濃く淹れたコーヒー」」

間桐の迫力のせいか、小声の二人。……何してんだか。

「ちゃんと、残さず食えよ、二人とも」

「「ええ〜」」

「食べてくださいね、藤村先生、蒔寺先輩」

「「ハ、ハイ!」」

言って、とろろをかっこむ二人。

「ウウ〜〜、おいしくないよぅ〜〜」

「ウゲ、まず!」

渋い顔して朝食を食べる二人を尻目に、美味しく朝食を頂いた。
衛宮家がこんなに賑やかになったのは、三年ほど前からだ。士郎が中2の時、ある事をきっかけに蒔寺楓と接点を持ち、いつの間にか、氷室鐘、三枝由紀香と共に衛宮家へ出入りするようになった。そして、高校に入ってから、弓道部で、美綴綾子と接点ができ、翌年に入部してきた間桐桜が、衛宮士郎に料理の弟子入りをして、その監督と言う名目で美綴も衛宮家に出入りするようになった。

「ダメ〜〜〜!!!」

当然、藤ねえは反対したが、

「妹が出来たみたいで嬉しいよぅ」

いつのまにか、受け容れていた。……なら、反対する度、俺を虎竹刀で打つなよ。


学校に向かう町一番の有名人と、タイプは異なるがそれぞれに美少女と言える集団。とても目立つが、朝も早いため、向けられる視線の数は少ない。

「じゃあ、蒔寺達も、朝練頑張れよ」

「ああ、衛宮もな」

「行こうか、由紀。それではな、衛宮」

「あ、待ってよ、二人とも。衛宮君も頑張ってね」

校門で別れる。

「あたしらも行こうか、衛宮」

「行きましょう、先輩」

「おお」

「うんうん、部活に汗を流すのだぁ、若者よ〜」

「藤ねえ、HRに遅れるなよ」

「士郎に言われなくっても、分かってるわよぅ!!」

「はいはい。それじゃな、藤ねえ」

「藤村先生って呼びなさーい!!」

「なら、俺の事もちゃんと衛宮君って呼んでくれよな」

「ウ。………士郎のイジワル、イジメッ子、チョモランマンーーー!!!」

「いや、なんだよ、チョモランマンって!?」

藤ねえは人を撥ねる勢いで、職員室の方に走って行った。

「へぇ〜、衛宮はチョモランマなんだ」
「………」

面白そうにする美綴と、顔を赤くして俯く間桐。

ゴッド、何故、あのトラが教師をやってんですか?

俺の疑問は青い空に消えていった。


他の弓道部員が来る前に、朝練を終わらせ、教室に向かう。

「まったく、あんたの射は相変わらず、神業だね」

「本当に凄かったです、先輩」

興奮気味な美綴と間桐。

「でもさ、衛宮。あんたは正式な部員な訳だし、こんな真似をしなくても…」

「俺がいると、皆やり辛いだろうし。それに早起きには慣れてる」

本当は辞めようかとも思ったんだが、美綴と間桐に強硬に止められた。もちろん藤ねえにも。

「付き合わされるあたしらの身にもなれって言うの、なあ、間桐?」

「え、え?わ、わたしは別に大丈夫ですけど。早起きすると気持ち良いですし」

「はぁ、あんたには聞くまでもないね」

「それなら、美綴。お前はなんで俺に付き合うんだ?」

「…主将だからね。それにあんたはあたしのライバルだ。じっくり観察させてもらわなきゃ」

「ふむ」

「気のない返事だね。あたしの事なんて眼中に無い?」

「いや、付き合いの良い友人が居て、俺は幸運だなぁっと」

「友人ねぇ…」
「友人ですかぁ…」

複雑な表情をする同年と後輩。

「それじゃ、失礼します、先輩、美綴先輩」

階段で間桐と別れ、

「じゃあね、衛宮」

2-Aの教室の前で美綴とも別れ、教室に入る。

「おはよう、衛宮。今日も精進してきた様だな。善哉善哉」

「おはよう、一成。今日も早いな」

柳洞一成。俺のこの町唯一の男友達。高校入学からしばらくして、

「衛宮、俺の友人になってはくれまいか?」

と言われた。初めての事だったので面食らったが、それ以来の友人だ。ただ、俺が友達だったせいで、生徒会会長選に落選。その事を詫びたら、怒られた。

「衛宮のせいではない!!大体、衛宮の良さを判らぬ者に認められずとも、痛くも痒くも無いわ!!」

良くも悪くも真っ直ぐな奴だ。家に招かれたり、学校の中では、大体行動を共にしている。

「ところで、衛宮。頼みがあるのだが」

「何だ、一成?」

「宗に…葛木先生が我がに逗留している事は知っておるな?実はな、先日、婚約者を紹介されたのだ」

「へえ、おめでたい話じゃないか」

「うむ。それでその御婦人は異国の方で、日本の料理を学びたいと仰ってな。寺の料理では味気無かろう?そこで、衛宮に頼みたいと思っているのだが」

「ああ、構わない。その人が良いって言うんなら」

「うむ。ついでに寺の者にも、衛宮の料理を振舞ってくれ。皆、禁断症状が出始めておるからな」

「ハハハ。じゃ、近い内にお邪魔するぞ」

「うむ、頼んだぞ」

それから、他愛も無い話をしながら、授業の始まりを待った。



放課後の練習には、俺は基本的には出ない。他の人間に先んじて家路に付く。
今日の料理当番は、間桐だ。とはいえ、飯を炊く位はしとかないとな。それに風呂を洗っとかないと。……それにしても、男の一人暮らしの家で、風呂に入っていくなんて、あいつら、俺を男として見てないんだろうか?この状況に慣れてる俺に言える事じゃないか?

今日のメニューは、鯛のクリームソース煮、粗挽き黒胡椒を散らしてある。温製トマトスープ。コールスローサラダ。洋風な趣の夕食だ。

「うう、美味しいよぅ。桜ちゃん、おかわり」

「黒胡椒が良いじゃん、これ」

「ふむ。トマトスープも素材の味が活きているな」

「サラダも、歯応えが良いね」

「桜ちゃん、凄く上手になってる。もう、追い越されちゃったかなぁ?」

「そんな、まだまだですよ、三枝先輩」

そんな、和やかな夕食の時間も過ぎ、皆が家に帰る時間となる。

「じゃあね、士郎」
「それじゃな、衛宮」
「ではな、衛宮」
「また明日ね、衛宮君」
「じゃあね、衛宮」
「失礼します、先輩」

「おう、みんな、気を付けてな」

門で皆を見送る。

「さてと」

部屋に戻り、着替える。

「新都でガス漏れ事故か」

ニュースでやってた事件を思い出す。深山町は藤村組の人間が見回りをしてる。こう言う事では、警察より地元の信頼があるんだよなぁ。雷画爺さんは、不審者をとっ捕まえた事で、何度か表彰されてるし。

「見回る人間は多いほうが良いよな」

まあ、ちょっと人に見られたらマズイ格好だけど、人に見られないように見回るから良いか。正義の味方として、見回りは欠かせないしな。

先ず日課の鍛錬をして、深夜になってから見回りをする。今日は何事もなかったので、家に戻って寝る。こんな日々が衛宮士郎の「日常」だ。



あとがき:YEAH!!(嫌と掛けてる)と言う訳で、ヒロイン、増やしました。無謀です。ただでさえ、把握が大変だったのに増やすとは、お前バカか!?と、自分を責めてます。でも、蒔の字に、鐘ちゃんに、由紀っちにラヴってしまったのです。………ヤッパリダメ人間ですわ。
とりあえず、今回は日常。説明臭く、回りくどく、ギャグも、シリアスも少ない。まあ、これからに期待?して欲すぃー。


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