さて、シンジやネギ達はよく幻想卿へ行くのだが、ここで疑問に思った人はいないだろうか? 彼らはいつ幻想卿の存在を知ったのか? 今回の話はそれを紐解きたいと思う。それはシンジがネギと出会った数年後のこと――



Side episode:01 『かくて、幻想への道は開かれた』




その日、シンジはある調査である場所へと向かっていた。調査とは行方不明者の捜索。これだけならばシンジが動くことはない。なのだが、事件の状況にシンジの上司たる者が興味を持ち、その結果シンジが動くこととなったのだ。で、調査対象となった行方不明だが、実は一件だけではない。数年に1回の割合で起きていた。事件性はほぼ皆無。失踪の線も薄かった。なにしろ、事件にしろ失踪にしろ、その痕跡が無いに等しいのだから。
いわゆる神隠しというモノだ。聞けば不可思議なものに思えそうだが、実はあまり珍しいものではない。日本でも報道されていないだけで、毎年のように起きている。ただ、それだけならその上司は興味を持たない。だが、調査対象となった行方不明だけは違った。1つは同一地区で起きているということ。まぁ、これはさほど重要視出来るものではない。が、もう1つがその上司の勘に触れた。それとは……行方不明になった者達が、行方不明になる前に何かを見たというのだ。これに何かを感じたのだろう。上司たる者はシンジに調査を命じたのである。
そんなわけで調査を始めたシンジはつい最近行方不明となった女性をピンポイントに調査を開始。で、わかったことは「博麗神社で巫女を見た」という、行方不明になる前にその女性が言っていたというものだった。
それだけを聞けば、それがどうかしたのか? と、思われそうだが……シンジが調べてみるとその博麗神社に巫女はいないということ。管理者はいるものの神主というわけでは無く、神社は長いこと放置。建物自体は残ってるものの、荒れ放題になっているということだった。
なお、この行方不明のことを警察も捜索願が出されて調査しているので当然この話のことを知っている。で、その女性はそれを確かめようと博麗神社に行き、そのまま山の中へと入って遭難したのでは? そう判断して、博麗神社を中心に捜索したが……結局、女性の痕跡は発見出来ず、捜査は打ち切りとなってしまった。
これまでの調査内容を元にシンジはある仮説を立てる。行方不明となった女性は消えたのではなく、何らかの理由で”別の場所へ”行ってしまったのではないのかと。それを証明するためにシンジはここ博麗神社へと来ていたのだった。
うっそうと生い茂る木々の間から漏れる朝日に照らされる博麗神社。境内は荒れ放題であり、建物も形がしっかり残っているだけで、手入れがされているようには見えなかった。見えないのだが……シンジにはそれが異常に思えた。なぜなら――

「境内の様子からして、放置されて数年ではありませんね。建物の造りからしても、最低で200年前後……それが朽ちることなく残っている?」

シンジの見立てでは放置された期間はそれくらいだと思われる。木造でこれといった手入れもされずに残るものだろうか? 答えはほぼ否である。条件が揃っているならばありえなくもない。だが、この博麗神社ではその条件は揃っているようには見えない。普通に考えればすでに朽ち果て、建物の原型は留めていないはずだ。
なのに、この博麗神社はその形を留めていた。多少壊れている箇所もあったが多分台風などの災害などによるもので、それ以外はほぼ完璧なまでに形を残しているのだ。明らかな異常。その異常がなんなのかを確かめるべく、シンジは目をつぶり――

「結界?」

その存在に気付いた。この博麗神社を中心にかなりの広さで……街をも呑み込む形で張られていたのだ。だが、問題はそれだけではない。この結界は包んでいるものや外部になんら影響を与えていないのだ。普通、結界とは守りなどの理由で張られることはあるが……シンジが見る限りではそういった類の結界で無いことがわかる。それに結界の存在が感じられない。シンジでも注意深く意識を集中しなければ、結界の存在に気付かなかった可能性があるくらいに。

「何かを隠そうとしている?」

ふと、そんなことを思いつく。意図不明の結界がその存在がわからないように隠匿された形で張られている。そこから推測される答えがそれであった。ならばとシンジは意識を集中させ、探し……それを見つけた。それに触れたシンジはそのまま中へと入っていき――



「ん……?」

八雲紫は自分の寝室で目を覚ました。時間は朝をすぎた頃。大抵ならば誰もが起きて、仕事や学業などで活動する時間である。が、紫は妖怪。しかも夜行性なのでこの時間は寝ているものなのだが……あることに気付き、目を覚ましたのだ。すぐさま布団から起き、立ち上がって素早く着替え、廊下へと出た。

「これは紫様……珍しいですね。どうなされたのですか?」

廊下を掃除していた紫の式、八雲藍は主の早い起床に少し驚きながらもただならぬ雰囲気を感じ、問い掛けていた。

「準備なさい。結界を通り抜けた者がいます」

「結界を……ですか?」

紫の言葉に藍は首をかしげた。確かに外の者が偶然にも結界を通り、この幻想郷へと来てしまうことはある。そうなった場合、その者は幻想郷で生きなければならなくなる。稀に帰る者がいないわけではないが、その時は紫が気紛れを起こしたくらいである。 それはともかく、結界の外から誰かが入ってきたくらいで紫が動くことは無い。まず、博麗神社の巫女が保護の為に動く。放っておくと妖怪に食べられてしまうからだ。

「結界を抜けた者がいる。そういうことよ」

紫が同じことを漏らす。最初、その意味がわからなかったが、しばらくしてその事実に気付いた。

「結界を……自ら抜けたというのですか?」

「ええ、そうよ」

うなずく紫を見て、問い掛けた藍は驚きを隠せなかった。幻想卿と外の世界を隔てる結界。その存在を知覚することはまず出来ない。簡単に知覚されては結界の中に何かがあるとすぐに悟られてしまうからだ。例え知覚出来たとしても今度は簡単に通ることは出来ない。無理にしようとすれば、紫の知ることとなり――その後はどうなるかはその時次第であるが……
それはそれとして、偶然ではなく自力で。しかも、紫に通り抜ける瞬間まで悟られずにそれを成したとなれば……その者がただ者なわけがない。なんらかの目的があって、幻想卿に入り込んだと思った方がいい。となれば―― それを確かめる為に、主従は動き出すのであった。



さて、その頃シンジは博麗神社にいた。あの荒れ放題……だったとは思えない、綺麗にされた境内。建物の方も多少古ぼけてはいるものの、立派な佇まいを見せていた。そんな博麗神社に2人の少女がいた。1人は赤と白を基調にした巫女服……なのかは微妙にわからなかった。
というのも、上はノースリーブ状になっており、その上で両腕に和服のような袖が付いており、下の方も袴というよりはスカートに見えた。もう1人は黒と白を基調にした服を着ており、こちらは被っている帽子もあいまって魔法使いのように見える。

「あの、申し訳ありません。ここは博麗神社でよろしいのでしょうか?」

「そうだけど……あなた、もしかして外から来たの?」

問い掛けるシンジに巫女風の少女がうなずいてから逆に問い掛けてきた。それにシンジはどういうことかと考え――

「結界を抜けてきた……という意味でしたら、確かに外から来たということになるでしょうね。私は」

うなずくのだが、それを聞いた少女達は驚いたような感心したような、そんな顔になっていた。

「博麗の結界を抜けるなんて……あんた、凄いな?」

「ははは、若い頃は無節操に知識を学びましたからねぇ〜。そのおかげか、結界を抜けることが出来ましたよ」

魔法使いな少女が感心したような顔になっていたが、シンジはといえば遠慮がちな顔をして答えていた。シンジがかつて黒き勇者と呼ばれていた頃、知識もまた力になると考えた彼は言葉通り無節操に……魔道だけでなく、ありとあらゆる知識を学んでいった。そのおかげでシンジは策士や技術屋などの能力を身に付けることが出来たのだ。

「そう……それでこの幻想郷に何の用なの?」

「幻想郷……というのですか、ここは?」

「て、知らずに来たのかよ!?」

巫女風の女性に疑問にシンジは答えるのだが、その返事に魔法使いな少女が驚いていた。何の理由も無しに幻想郷に来たと思えなかったからだ。

「いや、私は仕事で人探しをしている内に結界があることに気付きましてね。もしかしてと結界の中にいるのではと思いまして、この中に入ってきたのですよ。ここが幻想郷というのも今聞いて初めて知りましたしねぇ〜」

と、シンジは人差し指を立てながら答えた。まぁ、事実その通りでもあるので、そうとしか答えられないのだが。

「というわけでして、この方をご存知ないでしょうか?」

と、シンジは探している女性の写真を2人に見せるのだが……

「う〜ん、人里で見た覚えはあるような気がするな……」

「人里ですか……そこにご案内してもらえないでしょうか?」

「めんどくさいけど……まぁ、いいわ。どうせ、夕飯の物を買いに行かなきゃならないし」

魔法使いな少女の話を聞いてシンジはそんなことを頼むのだが、それを巫女風の少女がやれやれといった様子でため息を吐いていた。

「ああ、そういえばまだ名前を言ってなかったわね。私は博麗霊夢。この博麗神社の巫女よ」

「霧雨魔理沙。魔法使いだ」

「魔理沙さんは見た通りですねぇ〜。アオイ シンジと申します」

少女達の自己紹介に、シンジもまた頭を下げて自己紹介をする。それに霊夢は「そう」とだけ漏らし、空へと浮かび上がる。

「それじゃあ行きましょう。あなたは魔理沙の箒に乗せてもらいなさい」

「あ、いや……私も一応、空は飛べますが……幻想卿の人達って、誰でも飛べること出来るんですか?」

「誰でもってわけじゃないな。霊夢は空を飛べる能力を持ってるし、私も魔法で飛んでるからな。んで、シンジは魔法使いか何かなのか?」

「ええと……魔法は使えるだけでして、魔法使いというわけでは……空を飛ぶのは別の力ですし……」

「へぇ、そうなのか」

なんてことを話しつつ、3人は空飛んで人里へと向かうのだが――

「ん? どうかしたのか?」

「いえ、なんでも」

魔理沙にそう答え、シンジは先程まで見ていた所にもう一度視線を向けてから向き直して人里へと向かい飛んでいく。シンジが向いていた先。そこには紫と藍が注意深く睨むようにシンジの姿を見る姿があった。



「む、博麗神社の巫女と魔法使い……おや?」

人里の守護者たる上白沢慧音はその光景に首をかしげる。ハーワクタである彼女の目には常人では捉えられない遥か空の彼方からこちらに向かって飛んでくる者達の姿が見えていた。その内2人は顔見知りなのだが、もう1人は見たことの無い顔であった。どうやら、男性のようだが……

「まぁ、あの2人が連れてくるんだ。悪人ではあるまい」

と、自嘲気味に笑みを浮かべてしまう。なぜなら、あの巫女が一緒にいるのだから。なんてことを考えてからしばらくして3人は慧音の前に降り立った。

「やぁ、博麗の。そこの人は外から来たようだが?」

「ええ。初めまして、私はアオイ シンジと申しまして……人探しでこの幻想郷に来た次第でして――」

「幻想郷に……来た?」

シンジの話しに問い掛けた慧音は軽く驚いていた。なにしろ、幻想郷を覆う結界がどんなものなのかを知っているのだ。話から察するに彼はその結界を自力で抜けたのだろう。それはそれで凄いことなので驚いたのだが――

「で、この方なのですが……ご存じないでしょうか?」

「ん? あ、ああ……ああ、この子か。それならば知っている。案内しよう」

「ありがとうございます」

慧音の言葉にシンジは頭を下げ、そのまま人里へと案内されるのであった。



「では、ここに残ると?」

「はい。確かに外の世界にいる両親は心配ですが……ここには家族がいますから……」

人里に入ったシンジ達は慧音のおかげで目的の女性をあっさり見つけることが出来た。その女性と色々と話をした結果、幻想郷に残ると言い出したのである。確かに女性の言うとおり、その傍には夫と思われる男性と小さな男の子、その腕には赤ん坊が抱かれていた。

「なるほど……わかりました。ご両親にはそれとなく伝えましょうか?」

「え? 外の世界に出れるんですか?」

「ええ、私なら……となりますがね」

「じゃあ、お願い出来ますか?」

てなことを話し合ってから、買い物を終えたらしい霊夢が戻ってきたこともあり、女性の伝言を頼まれて人里から去っていく。

「慧音さん、今回はありがとうございました」

「いや、大したことをしてないさ。しかし、本当に外の世界に戻れるのか?」

頭を下げるシンジに慧音は手を振って謙遜していたが、そのことが気になったので聞いていた。霊夢と魔理沙も気になったようで顔を向けていたし。

「ああ、そういうことでしたか。私は思えばほぼ自由にあらゆる場所へ行くことが出来ますので。結界の外へ出ることも可能なのですよ」

「それは……凄いな」

「ま、この手の能力は時には厄介ごとを生む原因にもなりますがね」

その話を聞いて慧音は感心していた。確かにそれが事実ならこの幻想郷を行き来出来ることになる。まぁ、結界を抜けてきたのなら当然なのかもしれないが。

「では、私はこれで失礼しようと思うのですが……そこのお二方。何か御用ですか?」

振り向き、声を掛けるシンジ。霊夢達も釣られてそこへ顔を向けるとそこには2人の女性がいた。

「紫! それに藍まで……なんでここにいんのよ?」

霊夢が驚いたといった様子で問い掛ける。藍はまだしも紫がいつの間にかそこにいる分には驚かないのだが……表情こそいつもの胡散臭い笑顔なのだが、どこか殺気立っているようにも見えた為に驚いたのである。

「気付いていたのね。まぁ、いいわ……あなたがどうやって結界を抜けたかなんてのはどうでもいいの。でも、聞いておきたいのよ。あなた、外の世界に戻ったとして……この幻想郷を誰かに話すつもりなの?」

「まぁ、私の上司には話すことになるかと……報告しなきゃいけませんし……」

紫の問い掛けにシンジは頬を指で掻きつつ答える。実際、この幻想郷に来た理由が行方不明者の捜索なので当然とも言えるのだが――

「そう――」

それを聞いた紫はうつむき――

「じゃあ、死んで頂戴」
「へ?」

いきなりそんなことを言われて、シンジは間抜けな声を漏らしてしまうのだが……その直後、紫は右手を向けると同時に妖気弾を放った。

「な!?」

その光景に霊夢は驚く。何がなんだかわからないが紫は本気だ。だが、いきなりすぎて何も出来ないままその光景を眺め――

「おわ!?」

シンジは間一髪それを避けた。まるで某映画のような形で――

「てぇ、なぜにいきなり撃たれますか!?」

「外の世界の人達にこの幻想郷のことを知られるわけにはいかないのよ。だから――」

「あ〜、その辺りのことは話し合いませんかね? というか、人の話聞く気あります?」

とんでもねぇ殺気と威圧感を放つ紫に、怒鳴ったシンジは聞いてみるのだが……

「そう、それが遺言なのね?」

「うっわ〜……やる気満々ですか……」

明らかに笑ってない笑みの紫を見て、冷や汗混じりにぼやいた。その後、深くため息を吐き……

「やれやれ……霊夢さん達は離れていてください」

「どうする気なの?」

「なんとか話し合えるようにしてみます。なんか、このまま帰っても追いかけてきそうですし」

問い掛ける霊夢にシンジは肩を落として答えるが、実際その考えは正しかった。境界を操る程度の能力を持つ紫にとって、シンジを追いかけるなど簡単なのだから。

「そう……」

とだけ答え、霊夢は離れていった。それを見て、魔理沙と慧音も離れるのだが――

「なぁ……シンジの奴、大丈夫なのか?」

「さぁね。何か考えでもあるんじゃないの?」

聞いてくる魔理沙に霊夢はそうとだけ答える。勘だが、たぶん大丈夫じゃないかと思ったのだ。で、シンジはといえばため息を吐いてから顔を上げ――

「最初に言っておく! 俺はか〜な〜り、強い!!」

なんてことをポーズを付けて言い出す。その光景に霊夢達は思わず「え?」という顔になっていた。良く見ればシンジの表情も変わっている。先程の穏やかな顔と違って、今はどこか刃物のような鋭さを感じさせる顔になっていたのだ。

「それがあなたの本性ってわけね」

「本性? 何のことだ? 俺は素のままだが?」

呆れた様子の紫だったが、シンジは首をかしげていた。一見すると二重人格にも見えなくもないが、実際はテンションが上がるとこのように雰囲気が切り替わってしまうだけである。しかも困ったことにシンジ自身にはその自覚が無かったりする。更にはこの状態になると”やりすぎたり”してしまうのだが……

「あら、そう……でもまぁ、関係無いわね」

興味ないとばかりに妖気弾を放つ。しかも、弾幕張りの数を。これは様子見だ。これで相手の実力を測り――

「魔闘術奥義――」

と、シンジは右手を拳にして構え――

「魔砕両断撃!!」

それを振り下ろすと縦に伸びるエネルギーの塊が刃となって妖気弾をかき消し、紫へと迫る。もっとも、紫はそれをあっさりと避けるが……表情は少し驚いたような顔をしていた。魔闘術。シンジが独自に生み出した戦闘術で魔力と闘気を掛け合わせ、それを技として放つものである。
こう聞くと咸卦法と同じように思えるが、咸卦法は身に纏うものに対し魔闘術は1つの技として放つ、いわば使い捨てのようなものなのだ。当然、燃費は激悪。しかも負担が大きい。そんなのを平然と使ってる時点でシンジも大概化物なんだが……
そんな魔闘術を目の当たりにした紫の感想は面白い、だった。今のような技は幻想郷の者でもないとまず出来ない代物だ。外の世界の者も侮れない……が――

「やるわね。では、これはどうかしら?」

それは好奇心からだった。目の前の者がどこまで出来るのかを見てみたかった。だって、勝つのは自分だから……そんな考えをしつつ、紫は1枚のカードを取り出し――

「結界『夢と現の呪』」

スペルカードを解き放つ。まさしく結界とも言える弾幕。それがシンジに迫っていく。さて、どうするのか? 思わず笑みが浮かぶ紫だったが、ここで1つ失念していたことがある。紫は弾幕ごっこの基準でやったのだが、目の前の者は弾幕ごっこなんてものを知らないのだ。故に本来なら避けるか同じくスペルカードをぶつけて相殺するそれを――

龍牙ドラゴンファング!!」

シンジは技と共に突っ込んできた。いや、それは技と言えるのだろうか? 右の拳が体ごと龍の幻影と重なり合い、弾幕を弾き飛ばしながら向かってくる様は――龍覇動。龍気とも呼ばれるものでその昔、邪龍という種族の龍から教えてもらった技である。龍の気を纏い戦うというものだが、いくらシンジでも龍の気なんてものは持ってはいない。
そこで龍の気だけを召喚し、それを纏うというとんでもねぇ無茶をして使ってるのである。ちなみにだが人間がこれをやると普通に死ねる。シンジの化物っぷりがわかる技でもある。紫もそれが理解出来たようで慌てて日傘を広げ、シンジの拳を受け止めようとする。ぶつかる龍と日傘。一見シュールに見えるそれは、凄まじい轟音と衝撃を撒き散らす。紫は表情を歪めながらも耐え、シンジも歯を喰いしばりながら同じように耐え……やがて、弾けるように互いに離れていく。

「つ……何よそれ……あなた、本当に人間?」

「今頃気付くなぁ!!」

思いがけない攻撃に毒づく紫にそれに対して吼えるシンジ。

「え? シンジさんって妖怪なの? もしかして……」

「いや、感じとしては人間だろう。ただし、外側だけは……だろうがね」

2人の会話を聞いて霊夢はそう思ったようだが、慧音はそうではないと判断した。事実、シンジの体は人間と変わりは無い。だが、その体は死んでもおかしくないほどの力を振るっても、平然と酷使出来るように変質してしまっているのだ。それを慧音は感じ取っていた。歴史に関する能力を持つが故にか、もしくはもう1つの姿の方が本能で感じ取ったのかはわからないが……

「なるほど……人の形をした化物……というわけね。まさか、そんな存在に会えるとは思わなかったわ」

「わりぃか、妖怪ババァ!!

紫もその事実に気付いて思わずぼやいてしまうが、それが聞こえたシンジが吼える。まぁ、自分も大概化物だという自覚はあったからなんだが……その言葉を言う相手が悪かった。

「あら、そう……」

その一言を聞いた紫から表情が消える。直後、とんでもねぇ殺気があふれ出したけど。

「ゆ、紫様……落ち着いた方が……」

「大丈夫よ、藍。私はこれまでに無い位に落ち着いてるわよ」

と、慌てる藍に紫は笑顔となって落ち着いた声で答える。ただ、体中から明らかに危険な色のオーラが出てたけど……

「なんか知らねぇけど、やる気になったってことでOK?」

こっちもこっちで自分が何を口走ったことを自覚もせずに挑発するシンジ。しかも、なにやら龍の幻影が彼の周りを飛んでたりする。

「なぁ……あれって、やばくないか?」

「そうね。結界、張っとくわ」

その光景を見ていた魔理沙がやばいと感じる。というか、もう色んな意味でやばい。霊夢も同意見だったようで結界を張り始めていたし。

「は!」

その間にシンジは上空に高く舞い上がり、紫も右手に妖気を集約させる。紫はすでに弾幕ごっこをする気は無い。消す……ただ、それだけを実行しようとしていた。

「見せてもらおうかしら……外の世界の化物の力というものを」

「ああ、そうかい。それじゃあ……龍覇動が奥義!」

紫の挑発に乗るかのように叫ぶと龍の幻影が顎を開いてシンジへと突っ込んできて――

「龍皇破山脚!!」
があぁぁぁぁぁぁ!!――


龍の幻影と共に蹴りを繰り出すシンジ。それと共に紫と藍からも巨大な妖気弾が放たれる。ぶつかり合う龍と妖気。それは凄まじい轟音と衝撃を発生させ、あらゆる物を吹き飛ばさんばかりに思えた。

「うおぉぉぉ!? なんか、やばくないか!?」
「ええ……正直ここまでとは思わなかったわ!」

驚く魔理沙の横で霊夢は耐えるような表情で結界を維持していた。この結界がなければ、霊夢達は吹き飛ばされていただろう。そこまでに凄まじい衝撃だったのだ。慧音も表情には出していないものの、その凄まじさに内心驚いていたのだし。
一方で紫は笑みを浮かべる。この妖気弾、放ったのは藍である。そう、自分はまだ何もしていない。この拮抗状態で一撃を放てばそれで終わり。それが紫が組み立てた勝利への計算式。それを実行すべく、妖気を右手に込め――

「双龍――」

それを見た。シンジへと向かい、飛び込んでくる白と黒の龍の姿を――
紫の敗因。それはシンジを力押しの者と勝手に思い込んだことである。戦いが長引けば、そうは思わなかっただろう。勝負を早く終わらせようとするあまり、見誤ってしまったのだ。シンジは戦士では無い。策士なのだ。今の一撃も紫の狙いを見抜いての布石――

「撃砲!!」
「きゃああぁぁぁ!?」 「紫さ、わあぁぁぁぁぁ!?」


3匹の龍の特攻。それに紫と藍は呑み込まれる。その光景を背後にシンジは着地し、少しして紫と藍は地面へと倒れた。

「ふぅ……さて、あなた達なら大して怪我をしない程度の威力にしたつもりですがね?」

と、いつもの穏やかな様子に戻ったシンジが問いかける。確かに2人は服装こそボロボロになってはいるが、見た目ほど怪我は負ってはいなかった。

「とりあえず、先程の話の続きですが……私の上司は人じゃありませんし、例え話したとしても下手な干渉をしようとはしないでしょ」

人差し指を立てながら、シンジは話した。事実、彼の上司は一方は元魔族、もう一方は全ての世界の基となった者だ。そんな2人が幻想郷のことを聞いたとしてもすぐには行動したりはしない。基本的に必要と感じなければ、無理に動こうとはしないのである。その辺りのことを含めてシンジは説明するのだが――

「それを信用しろというの?」

「じゃあ、お会いになります? 私の上司に?」

紫の疑問にシンジはそう答える。実際、ここで押し問答してもしょうがないのも事実だし。

「ええ……そうさせてもらおうかしら?」

それに紫はうなずいた。もしもの場合は消してしまえばいいのだし、と物騒なことを考えつつ。

「終わったのかしら?」

「まぁ、一応そうなんでしょうねぇ〜」

下りてきた霊夢にシンジは答える。一緒に下りてきた魔理沙に「あんた、凄いな〜」とか言われてたりするが。とりあえず、今回の事態はこれで終了する。その後、紫はシンジの案内で彼の上司に会うことになるのだが……その場を見ていた八雲藍は語る。「あんなに驚いた紫様を見たのは初めてだ」と――



「で、あなたはなぜここにいるのかしら?」

ふと、そんな疑問を霊夢は投げかけた。隣に座って茶を嗜むシンジに。

「なんといいますか、ここは落ち着けますので。休暇の時に使わせてもらおうかと思いまして」

などとにこやかに答えてるが。それに対し、霊夢はまぁいいかと思っていたりする。こうして、シンジは幻想郷を訪れるようになった。それが後の物語に続くこととなるのだが……その話はいずれまた。



あとがき

DRT:というわけで、今回は外伝です。シンジ君が幻想郷を訪れた時の話です。
シンジ:ところでさ……これって結構前に書き上げてた奴だよな? なんで今まで出さなかったんだ?
DRT:いや〜。本編の方掲載されてから送ろうと思ったら結構経っちゃってねぇ^^;
シンジ:あ、なるほど……
DRT:さて、次回は本編ですが……たぶん、今月中は無理かと;;
シンジ:なんでまた?
DRT:いや、私作家登録してる会社から執筆の仕事もらったんだけどね。今現在(平成22年5月4日)で3本入ってて……
シンジ:あ〜……大丈夫か?
DRT:ふふ、栄養ドリンク片手に書いてるよ……
シンジ:体……壊すなよ?
DRT:というわけで次回は結構掛かると思いますが、お楽しみに〜


書棚
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