「――ということなのよ」

紅魔館の一室。そこに幻想郷に住まう実力者たる人妖達が集い、紫の話を聞いていた。

「なるほどね。で、どうする気なの?」

紫の話に納得するレミリア。事の発端は先日、幻想郷に攻め入ろうとした者達を紫が撃退し、その1人を連れ帰った時のこと――その者を尋問した所、強力な妖怪がいるという噂を聞いたのでそいつを使役しようと来たのだという。その噂はささやかれ始めたのは組織の1人が見慣れない少年を連れてきてから少し経った頃だということがわかった。
話を聞き終えるとその者には『退場』してもらったが……ともかく、これは困ったことになった。たぶん、今後もそういう輩が来るだろう。何しろ、組織内で広まった噂なのだし。撃退する分には問題は無い。ただ、そうしていくと組織自体が動くことになりかねない。幻想郷に攻め入ろうとした者達が戻ってこないとなれば、おかしいと思われるのは明白だ。
どうにかする手がないわけでもないが、問題はその少年だった。話の内容からすると噂の根源はその少年の可能性が高く、それに攻め入ろうとした者達を撃退した時に紫が見つけた少年はその少年と同一人物の可能性がある。となれば小手先の工作など無意味だろう。根源である少年を抑えない限り、噂は広がり続ける可能性があるからだ。

「なんとかするしかないわね。ま、幸いこの手の類の工作を得意としてる人がいるし。その人にお願いするわ」

「ああ、なるほど……」

微笑みを浮かべる紫の話にレミリアは納得といった顔をする。思い浮かべるは穏やかな顔をした青年である。

「ですが……シンジさんもお仕事があるはずです。やってくれるでしょうか?」

「その点に関しては問題無いわ。お馬鹿さん達の組織がある地域に来週ネギちゃん達が学校の行事の一環で旅行に行くそうよ。シンジも同行するだろうから、そのついでってことでお願いするわ」

四季の疑問に紫は当然といった様子で答える。まぁ、シンジが同行するのは間違いない。本人、ネギが担当するクラスの修学旅行の行き先を聞くと嫌な予感がしたからだ。なにしろ、修学旅行先には関東魔法協会と浅からぬ因縁を持つ組織があったのだから当然とも言える。

「ただ、事が事だから今回は私達からも協力者を出すことになるけど」

「あら、いいの? 幻想郷から出しても?」

「本来ならダメよ。でも、今回は少々気になることもあるから――」

その言葉を意外と思った幽々子が問い掛ける。なにしろ、幻想郷の者が外の世界に行くなぞまずありえない。例え、それが巨大な力を持つ人妖でもだ。だが、答えた紫もわけがあってのことだった。あの少年、人間では無い気がした。確認したわけではないので確かとは言えないが……だが、捨て置ける存在でもない。故にの判断である。

「そう……それで誰を行かせるのかしら?」

「そうねぇ……本当なら、人の方がいいのよね。シンジなら妖怪でも誤魔化すことは出来るだろうけど、バレたら騒ぎになるし――」

幽々子の問い掛けに紫は誰を行かせるかで悩む。その時、口元に笑みを浮かべる者がいた。



episode :08 『幻想の月』




さて、修学旅行が近くなった頃。ネギはこのかと一緒に修学旅行の準備を兼ねたアスナへの誕生日プレゼントを買いに麻帆良の外の街へ来ていた。その光景を同じく修学旅行の準備で買い物に来ていたチアリーダー組が発見。アスナに通報するものの正史のようにはならなかった。
あやかが目撃したが、「修学旅行で使う物の買い物でしょう」という的確な判断をしてたし。どうやらショタの本能はネギが男の子ではないと気付いているようである。そのため、正史とは違い冷静な対応を見せていたのだ。本人自体ははまったくもって気付いていないのに……本能恐るべし、だろうか?
ともかく、何の問題も無く買い物を終えたネギとこのかはそのまま寮に戻り――

「これアスナさんの誕生日プレゼントです」 「アスナが好きな曲、探すの大変だったんえ」
「え?」

次の日の放課後、2人は自室でアスナにプレゼントを渡した。アスナは思い掛けなかったことに一瞬と惑ったものの――

「あ、ありがとう……わ、私……」

思わず涙ぐんでしまう。嬉しかった。同時にちょっと恥ずかしかった。釘宮達の報告で2人の仲を疑ってしまったことに。

「はい、これは私から。それとシンジからよ」

「あ、ありが……シンジから?」

アーニャからもプレゼントを受け取り、お礼を言い掛け……その事実にアスナは固まる。

「本当は自分から渡したかったそうだけど、急な仕事が入ったからって私に預けたのよ。それとこれは伝言。出来れば、それはいつも身に付けておけだって。なんでも、あなたの身を守るものらしいわよ」

アーニャの話に複雑そうな顔をするアスナ。未だにシンジのことが認められない。ハッキリ言うと嫌いと言ってもいい。そんな理由からプレゼントを開ける気にもなれなかった。そのため、シンジからのプレゼントはアスナの机の中にしまわれることとなる。それが後に自分自身を苦しめる結果になるとは知らずに……
で、更に次の日。修学旅行を明日に控えたこの日、ネギは1人学園長に呼ばれていた。

「つまり、関西呪術協会が僕がいることで難色を示していると?」

「そういうことになるのう」

ネギの見解に学園長がうなずく。話は修学旅行の京都行きで先方がそのことを嫌がっているというものだった。先方とはネギが話していた関西呪術協会。そこと関東魔法協会は仲が悪く、修学旅行にネギがいると話したらそうなったという。ここでネギはおかしなことに気付いた。仲が悪いのならなんで自分のことを話したのだろうか? と。

「ワシとしてはもうケンカはやめて仲良くしたいんじゃ。そこで君にそのための特使をしてもらいたい」

てなことを考えてる間に学園長は話を進めていたが、ネギは更におかしいと思い始める。話がいきなり変わったからだ。相手がなぜ難色をしていたのかの話なのに、いきなりそんな話になればそう思ってもしょうがないが。

「あの、質問なんですけど……なんで僕のことを話したんですか?」

「いや、それはのぉ……先方の方もうちの学園から修学旅行に行くことはわかっておるからの。勘違いされぬように誰が行くかという名簿を渡しておるのじゃが……ネギ君の名前を見て、そうなってしまったのじゃ。君の父のことは先方も知っておるしの」

ネギの疑問に学園長はやれやれといった様子で答えるのだが……確かに関東魔法協会を敵視してる関西呪術協会が修学旅行に来た学生や先生達を自分達を狙う刺客と思ってしまう可能性が無いわけではない。それに学園長は関東魔法協会の理事もしている。そのため、何かしらの思惑があると思われても仕方がないのだ。だから、少しでも誤解されないように名簿などを提出している。
何も知らない一般人の学生や先生方を無用な危険から守るのは当然だろう。なので、そのような対処も当然とも言える。だからだろう。ネギの名前を見た関西呪術協会が過剰な反応をしたのは。ナギ・スプリングフィールドの名がそれほどまでに知れ渡っているからしょうがない……と、普通なら考えそうなものだが――

「正直におっしゃったらどうですか? 最初からネギ君を特使にするつもりだったと」

「む?」 「え?」

不意に聞こえてくる声に2人が顔を向けると、そこにはドアを開けて入ってくるシンジの姿があった。その横にはなぜかエヴァンジェリンの姿もあったけど。

「おぬしは――」
「お初にお目に掛かります。ネギ君の後見人をしております、アオイ シンジです。以後、お見知りおきを」

戸惑う学園長にシンジは優雅な仕草で頭を下げる。それをエヴァンジェリンはにやにやと見ていたが。

「あの、シンジさん……今のはどういうことですか?」

「なに、関西呪術協会で問題が起きたので、その解決にネギ君の力を借りたい。そういうことですよ」

戸惑うネギにシンジはあっさりと答えるのだが、逆に学園長は睨みつける。彼としてはネギに言わずに実行させたかったのだ。関西呪術協会の状況は芳しくなく、どうにか打開せねば最悪抗争が勃発しかねなかった。そのため、サウザンドマスターの息子であるネギが和平の使者として訪れることで、形だけでも和平への道を作りたかったのである。ナギ、そしてネギのネームバリューはそれを可能に出来るほど大きかったのだ。
だが、一方でこのことはネギに伝えずに実行して欲しかったというのもあった。余計な心配を掛けたくないというのもあるが、出来る限り修学旅行を楽しんで欲しい。本末転倒とはわかってはいるが、学園長としてはそういう心情だったのである。

「まったく、詠春も情けないな。自分の所の者を押さえ付けられんとは」

「組織なんてもんは、えてしてそういうもんですよ。一枚岩の組織なんてものはまずありえないですし、あったとしても大抵ろくなもんじゃありませんしね。組織のトップといえども飾りとまでは言いませんが、1人で一から十まで把握し制御出来る人なんてまずいませんよ」

不満そうな顔をするエヴァンジェリンをシンジはそう言ってなだめた。確かに組織とは単純なものではない。組織を運営するにあたり、何かしらと必要になるのだ。そして、それは組織が大きくなればなるほど多彩になり複雑化していく。関西呪術協会の規模が少なくとも関西及びその近郊ともなればかなりの規模と言えよう。それを1人で運営するというのはまず不可能なのだ。

「その昔に起きた戦争が発端というのもありますが、伝統を重んじる人達があなた方を毛嫌いされている。といったところでしょうね」

なんて指を立てつつ話すシンジだが、これは調査によって判明したことである。シンジもただ単に調べてるわけでなく、ネギがいる所はどういう所なのか? そこはどうなっているのか? そういうのを調べるのは本人曰く、基本中の基本なのだという。

「それでどうするつもりかね?」

「今回のことは必要なことでしょう。下手に抗争を起こされるのはネギ君だけでなく、この麻帆良の人達も危険にさらされますしね。なので、私も協力いたしますよ」

睨み付ける学園長にシンジはいつもの様子で答えていた。実際、そうなるのはまだ先かもしれないが、今のうちに予防線を張っておくに越したことはない。それに物語に描かれてないだけで、関西呪術協会の強硬派による嫌がらせはいくつか起きていた。今の所は被害も大きくないものの、いつ過激になるかわからない状況でもあるのだ。

「ただ、私も学園長と同じで平穏無事で済むに越したことはありません。ですが、ほぼ確実に妨害は起きるでしょう。その辺りのことを詳しく話して置くべきですよ」

シンジはそう言うのだが、学園長としてはそれほど目立ったことをしないと考えていた。彼らも一般人への秘匿を主としている以上、いかに強硬派といえども強引な手を使ってくるとは思っていなかったのである。

「確かにそうじゃが、流石に考えすぎではないかの?」

「では、質問します。もし、ネギ君が失敗した場合、関西呪術協会はどのような態度を取ってくるでしょうかね?」

それは無いと考える学園長にシンジはそう言い放つ。そこでやっと学園長も気付いた。シンジが言おうとしていることを。確かにネギが和平の使者として訪れれば、形だけとはいえ和平の道を歩まざるおえない。それは強硬派にとって歓迎したくない事態だ。では、それを邪魔し、失敗させたら? 失敗の状況にもよるのだろうが和平の道は断念。更には関係悪化となり、一気に抗争へとなる可能性もある。そのことに気付いた学園長はうつむき、うなってしまう。

「学園長、あなたの気持ちもわからないわけではありません。ですが、上に立つ者としてあらゆる可能性を頭に入れておくべきですよ」

静かにシンジはそう告げる。学園長は決して愚鈍ではない。前回も言ったが優秀であるのは間違いない。ただ、身内に甘い所が見受けられる。そうはならないと考えているのか、そうあって欲しくないと考えているのかはわからないが。ただ、ネギにはいかなる苦難も乗り越えて欲しいと考えてる節もあるため、それもあいまっているのかもしれない。

「ま、それはそれとして……和平は私としても歓迎する所ですので、可能な限り協力いたしますよ」

「ふん。お前も大概身内に甘いのだな」

「あいにく、楽観視ほど危険なものはないという世界にいますのでね。それに2つの組織の関係を考えれば、その方が後々楽になるのも事実ですし」

「楽観視は危険ではなかったのか?」

「そうですが、少しは負担が減って欲しいのも事実ですしねぇ」

内容を聞けばそうとは思えないが、なんか他愛の無い会話をしてるようにも見えるシンジとエヴァンジェリン。だが、エヴァンジェリンは明らかに不機嫌そうに見えた。なぜなら、なぜここに連れてこられたのかまったくもって説明が無いからである。

「そんなわけですので、エヴァさんにも手伝ってもらいますので」

「はぁ!? なぜ、私が手伝わねばならない!?」

だが、シンジのいきなりの発言にエヴァンジェリンが心外だとばかりに怒り出すのだが――ちなみにシンジがなぜエヴァと呼んでいるかというと、その方が楽だからという個人的なものだったりする。ただ、エヴァンジェリンもそう呼ばれていることが多いので、別に文句は無いようであるが。

「そういえば、エヴァさんは欲しい茶器があるそうですね?」

「い、いきなりなにを――」

「ちゃんと仕事をこなしてくれましたら、それをプレゼントしても良いですよ?」

と、意味ありげな視線を向けるシンジ。エヴァンジェリンのことは調査済みなので、欲しい物を餌にして仕事をさせようと考えている。それにエヴァンジェリンはあからさまな反応を見せた。確かに欲しい茶器があるのは事実だ。日本通な彼女としてはぜひとも欲しいのだが、値段がそれなりに張る。かといって買えないわけでもないのだが、そうすると流石に財政的に厳しくなる。なので、半ば諦めていたのだが――

「それは本当だろうな?」

「仕事をしてもらうのですから、それなりの報酬を払うのは当然でしょう? 一から十まできっちりとこなしてくれましたら、私の自腹で差し上げるとお約束いたしましょう」

どこか真剣な眼差しで答えるシンジ。それを聞いたエヴァンジェリンはしっかと彼の手を取り――

「なかなかわかっているではないか、貴様も」

「なに、正当なビジネスです。ですから、当然のことですよ」

と、なんか怪しい笑みを浮かべる2人に、ネギと学園長は困った顔で見ていたが……

「ちょいと待て。エヴァは呪いのせいで麻帆良を出れんのじゃが――」

「ああ、その呪いならとっくに解いてますよ」
「は!?」

顔を向けるシンジにそのことを忠告しようとした学園長は愕然とする。なぜなら、何をやっても解けなかったエヴァンジェリンの呪いを解いたというのだから、呪い強固さを知っている身としては驚くことである。もっとも、シンジのあの実力を思い出して、ありえるかもと思い始めてもいたが。

「ナギさんもいずれ解こうとは考えていたでしょう。それを私が代わり解いたというだけです。ああ、呪いや封印は誤魔化してるので、すぐにバレるといったことはありませんのでご安心を」

シンジの言葉に学園長もなるほどと思うしかなかった。確かに彼の言うとおり、ナギもいずれ呪いを解くつもりではいたのだろう。ああ見えて、かなり義理堅いことを知ってもいたし。ただ、同時に驚いてもいた。確かに魔法的な視野ではエヴァンジェリンは呪いと封印が掛かった状態に見える。どうやったかはわからないが、それを可能とするシンジの技量は凄まじいと考えてしまう。

「それはそれとして、修学旅行中の警護状況をお教え願いたいのですが」
「は?」

次に出たシンジの言葉に学園長はなぜかぽかんとしていた。この様子にシンジは嫌な予感を感じる。

「まさか……なんにもしてないとか?」

「いや、その……な?」

シンジの問い掛けに学園長はしどろもどとといった感じだった。で、学園長曰くほとんど何もしてないとのこと。ネギが担任の3−A以外に京都へ修学旅行へ行くクラスは2つ。それに対し、魔法先生はネギを除くと2名。魔法生徒は3−A以外は0とのこと。その事実にシンジはしゃがみこみ、額に指を当てていた。明らかに悩んでいる様子で。
今回ばかりは学園長の見通しが甘すぎたとしか言いようがない。関西呪術協会も自分達と同じく存在を秘匿せねばならない。なので、一般人が多く出歩く修学旅行先で下手なことをしないと考えていた。確かに通常ならそうであろう。だが、今回はネギが特使として出向くことになっている。それを強硬派は疎ましく思っているはずなのだ。なので、どんな行動に出るか予想しづらい状況になってしまう。何もしないかもしれない。でも、下手をすれば過激な手に出る可能性もありえるのだ。

「まったく……これは困ったことになりましたね」

「は? どういうことだ?」

それを交えて説明するシンジ。ただ、立ち上がった時に深いため息を吐いたが。一方でエヴァはわからないといった顔をしている。まぁ、この辺りは彼女の専門では無いのでしょうがないとも言えるが。基本的にこの状況は防衛戦に等しい。
1つの例を上げよう。四角形の陣地があり、自分達はその陣地を守らなければならない。その陣地に敵が攻め込んでくる。一方からではなく四方から。当然、陣地を守らなければならないのでこちらも四方に味方を配置しなければならない。
問題はここからとなる。敵は攻め込むために兵を増やした。本来ならそれに対抗すべくこちらも人を増やさねばならないが、味方は陣地にいる者達以外にはいない。外からの応援はほぼ見込めず、逆に敵は更に増える可能性がある。これで守れるかと聞かれれば、大抵の者が無理と答えるだろう。
今から行く先ではそれよりも厳しい状況が待っている可能性があるのだ。シンジが頭を悩ませるのもしょうがないとも言える。

「あの……今から増員は出来ないんですか?」

「その……すでに予定を組んでおってしまってるしの。それに修学旅行は明日からじゃし……」

ネギの疑問に学園長は答えにくそうにしてるが、それはシンジも話を聞いた時点ですでにわかっていた。となると――

「まったく、今回は多少強引な手で行きますかね」

「何を……する気じゃ?」

「ま、とりあえず手を出されないようにするとだけ」

呟きを聞いた学園長にシンジは頬を指で掻きつつ答える。もし、やり方を聞いたら学園長は必死にやめろと言いそうだが……

「それじゃあ、後は私達の方で話を進めますので、これで……あ、そうそう」

「なんじゃな?」

「修行とはいえ、ネギ君はまだ10歳です。あまり、無茶なことを言わぬように」

それを言い残し、シンジはネギ達と共に学園長室を去っていった。それを学園長はただ見守るしか出来ずにいた。シンジがあの言葉を言い残した瞬間、確かに感じた殺気。まるで心臓を一突きされたような感覚に学園長は冷や汗を流さずにはいられなかった。

「なんなんじゃ……あやつは……」

今回のシンジとの邂逅でわかったこと。あまりにも得たいが知れなさすぎる。その事実に学園長は今後どうするか、悩まずにはいられなかった。



「というわけですので、今回の修学旅行ではなにかしらのアクシデントが十分考えられます」

放課後。幻想郷に来たことがある者達を集め、学園長室であった話を交えて説明をしていたのだが――

「ちょっと聞きたいガ……なんで、ここでやるネ?」

「なにって? 私と超さんの仲じゃないですか」

なんてことを当たり前って顔で超に答えるシンジ。ちなみにここは超とハカセの研究室である。まぁ、シンジの返事は冗談なのだが。

「それってどういうことネ?」

「ま、本音としてはレックスさんのメンテナンスも兼ねてですがね」

超の睨みにシンジは気にした風も無く答えた。実際、シンジの横ではノートパソコンに繋がれてるレックスの姿がある。

「それはそれとして、私の方でも対策はしますが……それでも修学旅行に行く人達を完全に守れるものではありません。そのため、今回はあなた方にも協力してもらうこととなると思います。本来、修学旅行を楽しむはずだったあなた方にこういうことを頼むのは心苦しいのですがね」

「なに、これも修行と思えば構わないでござるよ」
「私はもらえるものさえもらえれば、それでOKさ」
「もし、襲ってきたらぶっ飛ばしてやるネ」
「ま、やるしかないみたいだしね」

楓、真名、古菲、アーニャはやる気満々といった様子であるが、シンジはこの様子にため息を吐いた。楓と真名はほぼ問題無い。彼女らは戦う者として必要な戦いの場を見るということが出来る。なので、必要に応じて対策を取ることが出来るだろう。
問題はアーニャと古菲である。アーニャは戦いの場を見ることは出来るが、いかんせん経験と実力が乏しい。いざという場合においては不安が残る。古菲においては猪突猛進な所が見える。下手をすると敵に突っ込んでしまうかもしれない。そこら辺を何とかするべきかとシンジは対策を考える。

「あの、私はその……お嬢様の警護がありますので……」

「ああ、それはこちらからお願いするつもりでしたのでお気になさらずに。それにネギ君とアスナちゃんも付けようと思ってましたので」

すまなそうにする刹那にシンジはそう答えた。こうしたのには理由がある。このかが微妙な立場にあるからだ。このかは学園長の孫であると同時に関西呪術協会の長の娘でもある。つまり2つの組織において重要人物なのだ。そんな彼女を利用出来れば? なにしろ、このかの立場なら何かと事を起こせることが出来る。そう考えない者がいない方がおかしいのだ。
 それを踏まえてネギとアスナを付ける理由を話すシンジ。これはこのかの護衛強化と共にネギの特使しての護衛強化を兼ねてもいたのだ。

「あんたに言われなくても私の親友に手を出す奴は容赦しないわ!」

というアスナだが、シンジとしては不安が大きかったりする。というのも、アスナは戦いを習い始めたばかりの素人同然なのである。古菲と一緒で敵に突っ込みそうな気がしてならないのだ。刹那は刹那で微妙な状況にある。戦う者としてはそれなりの実力があるが、戦いの場を見るという面が疎い。
また、ある程度改善されてきたとはいえ、刹那はこのかにまだ距離を置いている面が見える。その2つがネックであった。ネギに関しても言えることだが、こちらはエヴァンジェリンにフォローを頼むしかないだろう。物に釣られたとはいえ、彼女もやる気を見せているので期待してもいいの……かは不安が残るが。

「てなわけで、超さんにもご協力をお願いしたいのですがね」

「ちょいと待つネ。なんで私が協力しなければならないネ?」

シンジの突然の言葉に待ったをかける超。確かの顔見知り程度の相手にそれを頼むというのはいささか無茶である。もっとも、それがわからぬわけではないシンジはある物を懐から取り出した。それに超の表情が変わる。

「それは……なにネ?」

「レックスさんにも使っているAIチップの……ま、サンプル品です。手伝ってくれましたら、これを差し上げてもいいですけど?」

透明なプラスチックケースに入ったチップを見せつつ、シンジは意味ありげな笑みを浮かべる。ちなみにそんなことをして問題無いのか? と聞かれそうだが、シンジとしては思惑があってのことだった。これを複製する為には地球上には無い物質を使う必要がある。
だからといって超が複製出来ないかと言えば、そうでもないだろうとも言える。確かに地球上に無い物質を使っているが、何かしらで代用することも可能なのだ。むろん、そうなると何から何まで一緒というわけではなくなるが、使う分には問題はあまり無いだろう。
では、なぜ渡そうとするのか? 超がこれをどうするかを見たかったというのがある。彼女のことだからこのチップを何かに使うであろう。これをどう扱うかで相手を図ろうとしていたのだ。それに対策はすでに施してある。まぁ、その対策に彼女が気付くかどうかは賭けではあったが。
一方で超もシンジが何か思惑があってのことだとは気付いている。その何かまではわからないが……といっても、目の前のチップがいらないというわけでもない。むしろ、自分の目的の為には欲しい。

「わかったネ。協力させてもらうヨ」

「ありがとうございます。チップは仕事が終わってから……で、いいですかね?」

「構わないヨ」

なんて笑いあう2人。もっとも、超もチップになにかあるだろうと考えているので、それをどうするかを考えていたりするけど。

「あの……私達はどうすれば……」

「あ、そうでした。あなた方は何かおかしいと感じたら、私達にそれを伝えてそれに近付かないようにしてください。後、出来るだけ人通りが多い所にいてくださると助かります」

おずおずと手を上げながら問い掛けるアキラにシンジはそう答える。図書館探検部メンバーに運動部4人組は一般人に等しい。なので、出来るだけ危険なことに近付かないように注意する。そんなこんなで注意事項などを話し、後は解散……という時に――

「御機嫌よう」

「何しに来ましたか」

スキマから現れる紫にシンジはあからさまに嫌そうな顔をした。こういう風に登場する時は決まって何かあった時だからだ。一方で超は驚愕に満ちた顔をしていた。紫が現れたスキマもそうだが、彼女から感じる存在感。たやすく自分を塗りつぶすような感覚に飲まれそうになる。ちなみにハカセも驚いた顔をしてるが、こちらは超ほどではなかったりする。

「あなたにお願いがあってね」

そういって、紫は今までのことを話し、聞いたシンジは思いっきりため息を吐いた。

「なんでそう仕事を増やしますか……」

「ごめんなさいね。でも、事が事だもの。今回はあなたに頼った方が良いと考えたのよ」

微笑……といっても胡散臭さが混じってるが、そんな顔をしながら紫は答える。紫の場合、結界を守るという役目がある以上、あまり遠くへ行くことは出来ない。かといって外にいる協力者に頼むには荷が重過ぎる。その点、シンジはこのようなことに慣れている。なので、シンジに頼ったのだ。

「まぁ、今回はこちらから協力者を出すわ。彼女達と協力してやって頂戴」

「そうですか? で、どなたが来るので?」

紫の話にシンジは納得する。自分の仕事を手伝わせるわけにはいかないものの、ネギ達の護衛には役に立つと考えたのだが――

「輝夜と永琳、それに妹紅よ」

「なんですか、その火に油コンビは」

出てきた名前にでっかい汗を浮かべるハメになった。

「ちょっと待て。輝夜って、確かかぐや姫本人だろ? そんなのが戦えるのか?」

「ああ、そういやエヴァさんは知りませんでしたね。昔は輝夜さんと妹紅さんは週一で殺し合いをする仲だったそうですよ。まぁ、今でも時たま弾幕ごっこで殺し合いしてるようですがね」

エヴァンジェリンの疑問にシンジは頭痛を感じるのか額に指を当てていた。知っている方は知っているだろうが、輝夜は東方本編ではれっきとしたラスボスである。妹紅もエクストラステージのボスキャラであるし、永琳も実は輝夜より強かったりする。弾幕ごっこでの話しになるが、戦闘力なら一個師団を相手に出来そうなメンバーだったりする。マジで……
ただ、ネギとアーニャ以外は初めて聞く話でもあって、あの輝夜と永琳、妹紅がそうだとはとても思えなかった。なお、超とハカセは意味がわかってないので、首を傾げるばかりである。

「他にはレミリアとかもいたのだけどね。彼女達を外に出すのはね」

「まぁ、確かに……」

紫の言葉にシンジはうなずいた。レミリアなどの人妖は姿や気配などは誤魔化すことは出来るとはいっても限界はある。やりすぎれば、逆に怪しまれる可能性があるからだ。その点、輝夜達は気配だけを誤魔化せばいいのでやりやすい。

「それと他に連れてきて欲しい人はいない?」

「なら、萃香さんをいつ呼んでも来れるようにお願いします」

額に指を当てつつ、シンジは紫に答えた。仕事が増えたとはいえ、やると決まった以上どうするかを考えなければならない。もっとも、今回はやることが多すぎて頭が痛かったりするのだが……

「そう、わかったわ。それじゃあ、お願いね」

その言葉を残し、紫はスキマへと消えていく。残された者達はそれを見送り――

「あの、大丈夫……なんでしょうか?」

「大丈夫にするしかないですよ。あなた方を無関係な事情に巻き込ませるわけにはいきませんからね」

不安そうなのどかにシンジは静かに答えた。正義というつもりは無いが、無関係な者を巻き込むようなことをシンジは良しとはしない。それがどんなことになるのか……色んな結末を見ているがゆえである。反面、関係者となったらとことん利用するのだが。

「ところで……今の人は誰ネ……」

「あ、え〜と……」

多少、強張った顔で問い掛ける超に、ネギはどう話したもんかと悩むハメとなるのだった。



そんなこんなで修学旅行当日。

「ふ、清々しい朝だな、茶々丸」

「はい、まさに旅行日和です」

修学旅行出発の集合場所である駅でエヴァンジェリンは胸を張ってそんなことを言い出し、茶々丸はそれに同意していた。まぁ、エヴァンジェリンは15年間麻帆良から出れなかったこともあり、また目的地が一度は行ってみたいと思っていた場所だけにテンションがうなぎ上りなのである。

「エヴァちゃん、楽しそうね」

「まぁ、今まで麻帆良から出られなかったみたいだし。嬉しいんでしょ?」

その様子を見て顔を引き攣らせてるアスナにアーニャはやれやれといった様子で答える。正にその通りなのだが。

「あれ? なんか元気無いねぇ〜? なんかあったの?」

「あ、その……なんでもない」

桜子に問われるアキラは無理矢理笑顔になって返していた。なにしろ、何かが起きると聞かされているだけに不安にならない方がおかしい。それは話を聞いていた者のほとんどがそうだった。唯一、このかやハルナは楽しむ気満々であったりするけど。

「本当に大丈夫でしょうか?」

「そうですね。シンジさんもいるとはいえ、気を引き締めないといけませんよね」

刹那の呟きにネギは決意を新たにするのだが、それに嫌そうな顔をするのはアスナである。なにぶん、エヴァンジェリンとのやりとりを見てるとろくなことをしそうに思える。ま、実際にそうなのだが……それだけではないとアスナが知るのはまだ先である。
で、シンジはどうしているかといえば――

「へぇ、これが外の世界の乗り物か〜」

「あんま離れないでくださいね」

興味深そうに辺りを見回す輝夜に忠告していたりする。輝夜達はいつも着ているのと似ている現代風の服装になっている。これはいつもの服装だと目立ってしょうがないとシンジが用意した物なのだが、受け取った際に輝夜は何を思ったのかにやにやと笑っていたりする。

「お、おい……本当にこれしかなかったのか?」

「これだけってわけじゃないですが、なにぶん急なことでしたので」

なにやら恥ずかしそうにしている妹紅にシンジは頭を掻きつつ答えた。今の彼女の姿は上の方はいつもの服の上にブラウスをはおり、下はズボンではなくスカートとなっていた。しかも、ちゃんと似合っているので周りの男性達に輝夜と永琳同様注目を集め、それもあって慣れない事に恥ずかしがっていたのだ。

「そういや、輝夜さんや永琳さんはわかるとしても、なんでまた妹紅さんまでこちらに?」

と、ふと気が付いた疑問を投げ掛ける。輝夜は興味本位とかそういうものだろう。だが、妹紅まで来る理由がわからない。輝夜との仲が悪いことを知っている分、なおさらに。

「なに、ちょいと見ておきたかったのさ。京の都がどうなっているのかを……」

ふと、妹紅は遠い目をした。今となってはその面影は残ってはいないだろうが、それでも見ておきたかったのだ。かつて自分がいた所を――ま、実は輝夜も似たような理由もあるが、どちらかというと興味本位の方が強かったりする。

「そうでしたか。では、乗りますよ。時間ですしね」

「は〜い」 「どんなものか、楽しみですわね」

話を聞いて納得といったシンジは3人を促して新幹線へと乗り込んだ。輝夜と永琳は楽しそうにしながら、妹紅は恐々といった様子で。こうして、様々な想いと共に修学旅行が始まる。そこで待つものはなんなのか……それはまだ、誰も知らない。



あとがき

DRT:ついに始まりました、修学旅行編。いやぁ〜、ここまで来ましたねぇ〜。
シンジ:何をしみじみと……それにデビルウォーカーはどうする気だ?
DRT:ははは、どうしよかね?
シンジ:おおい!?
DRT:さて、次回はいよいよ修学旅行開始。そこで待ち受けるのはなにか?
シンジ:ところでこのあとがき。回を追うごとにおざなりになってきてねぇか?
DRT:……そうだね。
シンジ:もちっと考えようや。
DRT:そだね〜。おっと、今回の修学旅行編ではオリキャラが登場します。
シンジ:なんでそんなことを?
DRT:まぁ、君や東方組がいることで起きた歴史の変化って奴を出したくてね。
シンジ:いいのか、そんなことして?
DRT:さぁ?
シンジ:おいおい……(汗)
DRT:というわけで、次回をお楽しみに〜


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