episode :07 『外より来る賢人と人より外れ始める少女』 休日のこの日、超は頭を悩ませていた。違う……自分が知っている歴史と違う。今日、初めてそれを知った。といっても、違うというのはネギのこと。彼には後見人なんて者がいるはずが無いし、故郷も滅ぼされてしまったはずだ。 なのに、後見人と名乗る人物は現れ、更には故郷の方もちゃんと残っている。超が知る歴史と完全に食い違ってしまっている。この時代へ来た時、ネギが存在するのを確かめると他も同じだろうと思ってしまい、それ以上は調べなかったのだ。これだけならまだいい。問題なのはネギの後見人と名乗るシンジの存在である。彼は得体が知れなさすぎる。 レックスを造った知識と技術力にあの馬鹿みたいな戦闘力。更には茶々丸を見て、自分の正体に気付きつつあるようなので頭も切れるだろう。このままでは自分の計画が狂うのでは? と、考え始めた。ならばどうするべきか……こちらに抱き込むか? そんなことが頭をよぎる。 「大変です!?」 「な! どうしたネ!?」 と、いきなりハカセが叫ぶもんだから驚くハメになり、超は現実に戻されてしまう。あのハカセがここまで驚くのだから、ただ事ではないと思ったのだが―― 「それが……茶々丸の反応が無いんです!?」 「それは本当ネ!?」 ハカセの悲鳴に近い返事に超は更に驚く。茶々丸の反応が消える? それはまずありえない。例え、破壊されたとしても何かしらの反応が出るはずなのに。 「消滅、もしくはそれに近い破壊をされたとでもいうのカ!?」 「わかりません!? それに戦闘とかの反応も無いんですよ!?」 ありえない事態にただただ混乱する。何が起きているのか、必死に調べようとするが…… 「最後の反応はどこであったネ?」 「エヴァさんの家です。そこでぷっつりと――」 それを聞いた超はエヴァンジェリンの家に携帯で連絡を取るが……繋がっているようだが、誰かが出る気配は無かった。出ないと判断した超は慌ててエヴァンジェリンの家に向かうが……そこにあったのは誰もいないログハウスだけであった。エヴァンジェリンも消えて更に混乱する2人。結局、エヴァンジェリンと茶々丸が戻るまで彼女らは必死に探し回るハメとなる。 さて、エヴァンジェリン達がどこにいるかといえば……やはりというか幻想郷の博麗神社。だが、博麗神社はいつもの雰囲気とは違っていた。というのも、真昼間だというのに宴会に来るメンバーが揃っているということ。思い思いのことをしてるが、宴会をしているわけでは無いこと。そして、シンジ、霊夢、魔理沙の姿が無いのである。 「で、大丈夫なの?」 「シンジも一緒だし、大事にはならないでしょ」 ネギと古菲が美鈴と組み手をする光景を見ながら、紫はアーニャの疑問に答えていた。さて、何が起きているのか? それは数日前に幻想郷で起きたことが発端となる。突然というか、博麗神社の近くで間欠泉が沸いたのだ。これに喜んだのは霊夢である。これで参拝客が増えると―― なお、余談となるが正史とは違い博麗神社にはそこそこ参拝客が来ている。理由はシンジである。彼、人里では『外より来る賢人』とも呼ばれ人望があったのだ。何しろ、人里にいくつかの恩恵を与えているのである。そのためか、中には拝める人も出たりする。 そんなシンジが博麗神社に居を構えている(実際は寝泊りしてるだけだが)と人里の人達が知ったため、彼目当ての参拝がちらほらと現れたのだ。霊夢はといえばそんなこと気にしていなかった。賽銭が入ったのだからそれはそれで良しと考えたようである。 それはともかくして、そんな霊夢の希望的観測は外れる。というのも噴出したのが温泉水だけでなく、怨霊の群れなんかも出てきてしまったのだ。怨霊の群れは暴れるようなことはしなかったので霊夢はほっとこうとしたのだが、それがなぜか妖怪達が不満を買ってしまう。 で、どうしたもんかと考えてたら、紫によって霊夢と魔理沙が地底に向かうこととなった。なんでも、人間の彼女らなら大丈夫とのこと。詳しいことは話してはくれなかった。とりあえず、サポートはすると送り出し……なぜか、シンジも向かうことになった。紫曰く、「サポートよ」とのこと。 「シンジも相変わらずよねぇ……」 なんか、アーニャは呆れていたが……シンジがこういう目にあうのはいつものことであった。トラブルメーカー……といっても、生み出すのではなく呼び出す方だが、シンジはそんな体質なのである。しかも、起きるトラブルはいつもシャレにならない。そんなことがシンジの周りでは良く起きるので、アーニャも慣れてしまった。 とりあえず、ため息を吐いてからアーニャは辺りを見回す。エヴァンジェリンと茶々丸、ネギの他にはアスナ達はもちろんのことアキラ達もいた。エヴァンジェリンとアキラ達は幻想郷の存在に驚いてたが……そういや、なんで彼女らもいるの? 確か、エヴァンジェリンだけじゃなかったっけ? いつの間にやらアキラ達も一緒に来ることになってることに首を傾げるが……ま、いいかと別な方に顔を向ける。 ココネはフランと仲良く遊んでいた。どうやら仲良くなったようである。その光景にシャークティは苦笑していたが……まぁ、見習いとはいえシスターであるココネが吸血鬼のフランと遊ぶというのは……同じシスターとして色々と考えてしまうのだろう。 あっちでは刀子と刹那と妖夢が剣の稽古をしてるし、このかにのどかと夕映はパチェリーに魔法を習い、楓は鈴仙と鍛錬中。ハルナは天子となにやら話しており(後日、いらん知識を与えたとお仕置きされるハルナがいた)、まき絵とアキラに裕奈と亜子は輝夜や永琳となにやら話して、驚いていたりする。アスナだけは1人ネギの様子を見ており、真名は静かに銃の手入れなどをしていた。 そんな光景をエヴァンジェリンは不満そうに見ていた。シンジに詳しい話が聞けると思ってみたら、彼は不在。幻想郷という見知らぬ世界に来た時は心躍ったが…… 「あら、なにやら不満そうね」 楽しそうにレミリアが声を掛けてくる。そう、これだ。レミリアもそうだが、神社の母屋にいる紫に幽々子、萃香……人間でないのは一目でわかった上に持っている力が半端ではないことがわかる。間違いなく自分以上の力を持っている者もいるだろう。それがエヴァンジェリンには悔しかったが―― 「――あまりにも世界を知らなすぎたことです」 ふと、そんなセリフが思い出される。そうか……と、思った。こんな奴らがいるとは思ってもいなかった。確かに甘すぎるな。そう思うのだが、やはり悔しいので不満となって出てしまう。 「私としては久しぶりに同属に会えた。だから、聞かせて欲しいのよ。外でどんなことをしてきたかを――」 「ふん、そんなことを聞いてどうする?」 「退屈しのぎ。異変はいずれ解決される。それは決まっていること……だけど、そうなるのはまだ先。そうなるまでは待たなければならないから、暇なのよ」 「わかったような言い草だな?」 「レミリアお嬢様は運命を操る程度の能力をお持ちです。なので、お嬢様はその先の運命を見ることも出来るのです」 レミリアとの話に咲夜が代わりに答える。が、聞いたエヴァンジェリンはなぜか瞳が釣り上がっていた。まぁ、運命を操る能力を程度扱いしたのだから、彼女にしてみれば聞き捨てならい。エヴァンジェリンが持つ力は苦労と努力、血の滲むようなとかそんな言葉で片付けられないような経緯を経て手にしたものである。正に生き残るため。そのために血反吐吐こうが、体が砕かれようが、それに耐えて力を付けていったのだ。 もっとも、能力の話はエヴァンジェリンの勘違いに他ならない。程度と呼ばれているが、幻想郷ではそう呼ばれてるに過ぎないのである。 「ほほぉ……そういうのなら、どんなことでもわかるのかな?」 「例外はあるけど、大抵のことなら……そうねぇ、今あなたとネギが戦ったら、ネギが勝つと断言出来るくらいわね」 してやったりの笑みを浮かべるレミリアの言葉に、顔が引き攣っていたエヴァンジェリンからなんか音が聞こえた。なんかこう……ピシィと……石にひびが入ったような音が……冗談抜きで…… 「ふ、ふふふ……言ってくれるじゃないか……そういえば、坊やとの対決もうやむやになったんだったな。ならば、ここで決着を付けても構うまい」 「だそうよ。がんばってね」 「いや、なんでエヴァンジェリンさんと戦うことになってるんですか?」 なんかこう、いい感じに殴っ血KILL!! てな様子のエヴァンジェリン。にこやかに笑顔を向けるレミリアだが、話を聞いていたネギはデッカイ冷や汗を浮かべていた。 「あら、大丈夫よ。”1枚”で片が付くから」 「ん……はぁ……わかりました」 微笑むレミリアの言葉の意味を理解して、ネギは懐から1枚のカードを取り出す。 「ふふふ……いい覚悟じゃないか、坊や……茶々丸はそこで待っていろ!」 「はい、マスター」 「いや、なんかもう……嵌められたんですけどね。僕的には……」 「ちょ、ちょっとちょっと!? なんで、ネギとエヴァちゃんが戦うことになってるのよ!?」 「大丈夫よ。ああ、空でやってね。流れ弾に当たりたくないから」 それはもういい感じに反転してるエヴァンジェリンに諦めムードのネギ。その様子にアスナは慌てて駆け寄るが、レミリアは関係無いとばかりに手を振る。それを聞いたエヴァンジェリンはマントを広げ、ネギは杖にまたがって空へと舞い上がり―― 「まずは小手調べだ。リク・ラク・ラ・ラック・ライラック――」 と、詠唱を始めるエヴァンジェリンだったが、ここである失敗をやらかす。茶々丸をお供に付けていない……ことではない。例え、茶々丸がお供にいたとしても結果は変わらないだろう。では、失敗とはなんなのか? それは外の世界の魔法使い同士の戦いと勘違いしたことだ。それが普通のエヴァンジェリンにとって思い付きもしなかったことだろう。結果―― 「霊符『夢想封印』!!」 「へ?」 呪文も唱え終わらぬ内にスペルカードを発動されてしまい―― どっかぁ〜ん―― 「うっぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」 あっさりと撃墜される。ひゅ〜……ぽて……なんて、擬音が似合いそうな落下をしながら―― 「ああ、マスター!」 茶々丸は慌てて駆け寄り、助け起こす。幸いにも目を回していただけのエヴァンジェリンはすぐに目を覚まし―― 「おい、あれはなんだ!?」 「スペルカード……この幻想郷の決闘のルールみたいなものよ。にしてもネギ。あなたならオリジナルのスペルカードが作れるはずよ。どうしてやらないの?」 「ええと……まだ、どんな形にするか決めかねてまして……」 正直に言わなきゃぶっ飛ばすといった様子で迫るエヴァンジェリンに、レミリアは答えつつもネギにそんなことを聞いてくる。確かにネギが持つスペルカードは物真似ばかりである。作りやすくなるというのもあるが、ネギ自身どのようなスペルカードを作るか決めかねている状態でもあった。 なので、まずは物真似をしてみて、それで自分にあったものを探そうとしている。今の所、魔理沙のような砲撃系や霊夢の誘導爆撃系との相性がいいとわかってきてる為、それを元にしようとしている所だった。 「スペルカード? どんなものなのだ?」 「それはねぇ――」 訝しげな顔をしつつも興味を持ったエヴァンジェリンが問い掛けてくる。レミリアはしてやったりの笑みを浮かべつつ、弾幕ごっこの話を始めた。 「ふむ、なるほど……どんなものか一度見てみたいものだな」 「大丈夫よ。すぐに見れるわ」 「なに?」 笑みを浮かべるレミリアの言葉に、エヴァンジェリンは訝しげな顔になるが―― 「ここか〜。温泉ってのがあるのは」 まるで待っていたかのようなタイミングで現れる、自称最強の氷の妖精チルノ……この登場に引き攣った笑みを浮かべる者が1人―― 「来たわねぇ〜。馬鹿妖精!!」 「あ、また出た! なんなのよ、あんたは!!」 「うっさい! 今日こそ勝って、勝ち越すんだからね!!」 「ふん! さいきょーのあたいに勝てると思うなよ!!」 先日の鬱憤(何も出来ずにエヴァンジェリンに操られたこと)を晴らすかのようにチルノと弾幕ごっこを始めるアーニャ。それを呆然と眺めるエヴァンジェリン。話に聞いてはいたが……確かに華麗ではある……でも、苛烈すぎないか、あれ? 言葉通りの弾幕にただただ見ているしか出来ない。でも、エヴァンジェリンはまだ知らない。2人のやっている弾幕はまだ初級レベルだということを―― 「ふ、ふふ……」 ふと、弾幕ごっこを見ていたエヴァンジェリンから笑みが漏れ出す。外の魔法しか知らなかった彼女にとって、弾幕ごっこはまさしくカルチャーショックに等しかっただろう。同時に素晴らしいと思えた。ルールがある以上それはスポーツみたいにも思えるが……それがどうした? あれはまさしく決闘だ!チルノが放つ弾幕の1つ1つは当たり所が悪ければ、死ぬ事だってありえるのだ。 それが弾幕ごっこを見ていたエヴァンジェリンの感想だった。それにあの弾幕は美しささえ感じる。これだ……これが私が求めていたものだ! 「あれは……私にも出来るのか?」 「やり方さえ覚えれば……ね」 笑顔で答えるレミリアの返事を聞き、エヴァンジェリンにも笑みが浮かぶ。まさしく未知たるものとの邂逅。これが自分が求めていたものだから。久方ぶりに心躍るというものを感じるエヴァンジェリン―― 「教えてもらうなら、ネギかアーニャに頼みなさい。外の世界で出来るのは2人くらいよ」 「え?」 だけど、それを聞いて呆然とし、次に悩むことになったが……それがわかっていたかのようにレミリアはしてやったりの笑みを浮かべ、アーニャとチルノの弾幕ごっこを眺めることにしたのだった。ちなみにだが、初めて弾幕ごっこを見たアキラ達の反応はといえば、楽しいと怖いが1:2の割合であったということを……一応言っておこうと思う。 ま、そんなこんなをしている内に異変はレミリアの言葉通りに解決した。なお、今回の2人の対戦も引き分けに終わったことを言っておこう。 「私、なんで大工仕事と佐官仕事をしてるんですかね?」 かなづちで釘を打ちつつ、そんな疑問をシンジは漏らす。何をしてるかといえば、温泉に入るための風呂場の建設をしていた。異変解決後、戻ってきたのはいいのだが……「温泉に入りたいの。お願いねw」と紫が言い出してきたのだ。 最初は断ろうと思ったのだが、女性陣(というかシンジに男性はいないんだが)にもお願いされ……押し切られる形で請け負うハメになったのである。まぁ、流石に一人で作ってるわけではないが…… 「なんだいなんだい、暗い顔して?」 「いや、ちょいと世の中の理不尽に関して考えていたところです。無駄なんですがね……」 掛けられた声に答えつつも仕事はこなすシンジ。声を掛けたのは星熊勇儀(ほしぐま ゆうぎ)。額に1本の赤い角が生える鬼である。同じ鬼である萃香とは四天王と呼ばれていた時の仲間であり、その昔地上に嫌気が差して旧都と呼ばれる地底に移り住んでいた。 んで、今回の異変でシンジや霊夢達と知り合い、色々とあって地上に再び訪れることとなったのだ。ちなみに彼女、霊夢達もだがシンジを大層気に入っている。なにしろ、自分を負かしたのだ。弾幕ごっこではなく拳で……一応、霊夢達と弾幕ごっこをした後に打ち合ったのだが、彼女にしてみればそんなことをしたのはいつぶりか――戦闘狂では無いがあれほど心躍るものも中々なかった。それ故にである。で、今は萃香と共にデカイ岩を担いでシンジの手伝いをしていた。 「あ〜う〜……疲れた……」 「頼まれた物、持ってきたよ」 「はい、じゃあ次の物もお願いいたします」 「人使い……荒くないかい?」 「誰のせいで苦労するハメになったと思ってるんですか?」 ぐったりする諏訪子の横で神奈子は汗を浮かべながら担いできた木材を下ろして文句を言うのだが、シンジに睨まれてしまう。今回の異変の発端……実はこの2人が原因であった。2人は幻想郷にエネルギー産業革命計画なんてものを考え、火焔地獄跡にいた地獄烏の霊烏路空(れいうじ うつほ)に、あろうことか八咫烏の力を与えたのだ。 太陽神ともされる八咫烏の力は霊烏路空……お空に核融合を操る程度の能力というとんでもねぇもんを身に付けさせた。結果、彼女の力は火焔地獄跡では支えきれずに間欠泉として余剰エネルギーを噴出さねばならぬほどに肥大化してしまう。 しかも、調子に乗ったお空は地上支配なんてのも考え……それに気付いた彼女の友達である火焔猫 燐(かえんびょう りん)ことお燐は、怨霊を間欠泉に乗じて送らせることでこの異変を伝え……シンジや霊夢達が向かうことになったのである。ちなみに今回のことで神奈子達は霊夢に「勝手なことをするな」と怒られてたりする。 なお、お空とお燐もシンジの手伝い中。お燐は友達を助けてくれたことに、お空は強い奴という尊敬からだが。 「お〜い、これはこれでいいのかい?」 「はいはい。ええ、大丈夫です。しっかしここを管理してくれる人、探さないとダメですよねぇ……」 作業をしていた少女にOKを出しつつ、シンジはため息を吐いた。少女の名は河城にとり(かわしろ にとり)。妖怪の山に住む河童で、通称は「谷カッパのにとり」。幻想郷に住まう河童は高い技術力を持っているが、人前に現れることは滅多に無い。「人間は盟友」と言って接してくるのはにとりくらいなのだ。 そんなにとりにシンジは応援を頼んだのである。なにしろ、パイプとかそういうのはそれなりの知識と技術力がないと出来ない。 「あのさ……あんたの力ならすぐに出来そうに思えるんだけど?」 「流石に一からやるのは今の状態ではね……はいはい、それはそうとさっさと作業再開してください」 神奈子の疑問に答えつつ、手を叩きながらうながすシンジ。なお、温泉の建設は1時間後に終了する。 「あ〜いいわねぇ〜……シンジも良いものを造ってくれたわ」 温泉につかり、堪能してます〜という顔をしている紫。それは博麗神社に来ていた者達も同じだったけど。彼女らは温泉が完成すると宴会前に一風呂と早速入ったのだ。ちなみにだがシンジはちゃんと男湯と女湯の両方を造っており、今は男湯の方でゆっくりと入っている最中である。それはそれとして酒を飲んだり、景色を楽しんだり、気持ち良さそうにしている中で、なぜかため息を吐く者が2名……霊夢と魔理沙である。 「どうかしたのですか?」 「あ、いや……なんでもないわよ」 夕映に問われたものの、霊夢はぶっきらぼうに答えるのだが……やはりというか、元気は無い。流石に様子がおかしいと思う者が出始めた時―― 「ふむ、シンジさんですか。確かにあの人はいい方ですね」 「う!?」 「あ!?」 古明池さとり(こめいじ さとり)の一言に霊夢と魔理沙は一気に顔が紅くなった。確かにシンジのことを考えていたのは事実だが――さとりは心を読めるので2人が考えたことを口に出しただけだが……ただ、言う場所が悪かった。 「あら、どういう心変わりかしら?」 「おお〜、本当ですか霊夢さんに魔理沙さん? そこんところ詳しくお願いいたします!」 「ラブ臭よ! ラブ臭がするわ!?」 面白いものを見つけたという顔をするレミリアにいきなり取材なんて始める文。ハルナはハルナで1人勝手に盛り上がっていたりする。ただ、この様子を面白くなさそうに見ている者が4人……真名、輝夜、幽香、四季である。刀子とシャークティー、早苗は複雑そうな顔をしてたけど。 「あ、や……なんでも無いのよ、本当に!?」 「ふむむ……危ない所を助けられたのですか……」 「それ、なんてエロゲー!?」 必死に否定をする霊夢だが空気を読まないさとりにバラされ、それを聞いてたハルナが更にヒートアップしてたりする。まぁ、確かに助けられたのは事実だ。お空との戦いの時、霊夢と魔理沙は火焔地獄の灼熱で気を取られ、攻撃を受けそうになった。というか、核融合を操る程度の能力を持つ彼女の攻撃は正に太陽と言ってもいい。そんなものを受けたら、ひとたまりも無いどころか――それが当たりそうになった瞬間、2人は見た。 自分達の前に現れてお空の攻撃を受け止め、攻撃するシンジの姿を。その時のシンジの顔があまりにも印象深くて――それを思い出している2人は、すでに真っ赤になっていた。 「確かにあいつは面白いよなぁ〜。私と腕比べをした時にあいつが言ったことがそれはもう笑えてさ〜」 「なになに? なんて言ったの?」 「あ、もしかして――」 勇儀の言葉に裕奈が興味を持ったようで聞いてくる。一方で紫はあれではと思う。そう、あれはシンジが初めて幻想郷を訪れた時―― 「最初に言っておく! 俺はか〜な〜り、強い!! てさ。最初は言うじゃないかと思ってたけど、実際に強くてねぇ。楽しかったよ」 「ちょ!? それって!!?」 楽しそうに語る勇儀の言葉に、ハルナはなにそれ!? と言わんばかりに驚いていた。つ〜のも知ってるからである。そのセリフで有名な特撮ヒーローのことを。まぁ、シンジもオタクな人であり、その特撮ヒーローのことが気に入ってるので、時たまそのセリフを使ってたりする。なお、このセリフ。紫と初めて会った時にも使っている。なんで使ったかは……まぁ、機会があったらお話しよう。 ともかく、なんやかんやと盛り上がる中、アスナだけは面白くなさそうな顔をしていた。なぜ? なぜ、あいつのことでそんなに楽しそうに出来る? あいつは―― 「ひどいことをしたのに……ですか。ふむ、なるほど……あなたにはそう見えていたのですね」 「な!?」 いきなりそんなことを言われて驚くアスナ。見てみるといつの間にやらさとりが横にいたりする。 「ああ、エヴァちゃんのことね。シンジってば結構派手にやらかしたものよねぇ〜」 「だ、だって……あいつはエヴァちゃんにひどいことをしたのよ! それにエヴァちゃんのことを考えてたネギの思いを踏みにじって――」 「ちゃん付けで呼んで欲しくはないのだが……まぁ、いい。言っておくが私はもう気にしていないし、それはお前の勘違いだ」 「へ!?」 紫の話にあれこれ言い出すアスナだったが、エヴァンジェリンの話に驚く。彼女にしてみればエヴァンジェリンは被害者だ。その彼女がなぜそんなことを言うのか理解出来なかった。 「生温い生活をしてきたお前にはわからんだろうが、裏の世界とはやるかやられるか……大雑把に言えばそういう世界だ。それから見ればシンジの奴がしたことは慈悲深いと言ってもいい。それにな。私はある意味感謝もしてるのだぞ? 私は奴が現れるまで自分が最強と信じて疑わなかった。裏の世界ではそれこそ愚かなことだというのにな。 だが、そうでは無いと奴は示した。奴の実力とこの幻想郷の者達を見せることで……後、ここでは面白いものを学べそうだからな。それに関しても感謝してるよ。 もう1つ、お前が気にしているネギだが……奴も父親のことを考えればいずれ裏の世界に関わることになる。シンジはいつそうなってもいいようにしてるのだろうよ。ハッキリ言おう。お前の感覚では許せないことなのかもしれないが、今後を考えれば必要なんだよ」 言いたいことを言い終えたエヴァンジェリンはお猪口を満たす酒を飲み干す。彼女の話したことはほぼ真実である。吸血鬼になった当時、エヴァンジェリンは自分を倒そうとする輩から身を守る為に必死に戦ってきた。同時に様々な手段で力を磨いてもきた。その結果が今の自分である。だが、いつの頃からかエヴァンジェリンは自分の力を誇示するようになった。自分こそが最強なのだと…… それは裏の世界ではあまりにも愚かなことだ。組織としてならまだしも個人でそのようなことをすればどうなるか――だが、それもシンジの登場で思い知らされることとなった。いや、次元の違いを見せられたと言う方が正しいか…… 自分の力を凌駕する存在がある。自分はそれを知っていたはずなのに……シンジのおかげでそれを再認識出来たのは感謝すべきかと考えていた。まぁ、やられたことは悔しいのでいずれリベンジをとも考えてるが……こういう所までは早々変わるもんでもないだろう。 と、ここでエヴァンジェリンの瞳がピクリと動き、顎に手をやりながら考え込む。違和感……何かに違和感を感じたのだが…… 「あ、あの……ネギ君のお父さんって、何かしたんですか? それにシンジさんって何者なんですか?」 ふと、アキラがそんな疑問を漏らす。話を良く理解出来てはいないが、気になる部分があったので問い掛けたのだ。 「そうねぇ……ネギのお父さんはナギ・スプリングフィールドっていうんだけど、その人は魔法界じゃ英雄って言われてるわね」 「へぇ、凄い人なんだ〜」 話を聞いた裕奈がはしゃいでいるが、話したアーニャはどこか面白くなさそうな顔をしていた。ネギはそのせいでいらぬ苦労をさせられているのだ。ナギ自身がそうしたわけではないとはいえ、面白くないのと感じてしまう。そんなアーニャの様子にアキラと亜子は首をかしげていたが。 「シンジは……2人の上司に仕えているわ。一人は詳しくは言えないけど……神奈子さんや諏訪子よりも凄い神様とだけ言っておくわ」 「ちょっと待て……それって奴も神ということか?」 アーニャの話にエヴァンジェリンは思わず冷や汗混じりに問い掛け―― 「まぁ……そんなもん……かな……」 なぜか明後日を見るアーニャの言葉にざわめく者が出始めた。実際、シンジは神というわけではない。彼は滅ぼす者であり、神にはなれないのだ。その辺りのことを説明するのは面倒なのでそういうことにしたのだが―― ちなみにその人物とアーニャとネギは会ったことがある。なぜ、そんな存在が喫茶店なんてやってるんだと大いに混乱したけど。 「あ、あやつが神……いや、確かにあの力はありえるかもしれんが――」 エヴァンジェリンはなにやら混乱している。ハルナやアキラ辺りからは「凄い人だったんだね〜」とか、そういう感想が出てるが……一方で幻想郷の者達は静かであった。今更、神様くらいで騒ぐことは無い……のは、ここにいる面々だからだが……事実を知る者もいるからである。その事実はあまりにも重く、四季のように気落ちしている者もいたりするが…… 「続けていい? もう1人は銀河統一政府首相のクラウスさん。シンジはそこでエージェントとして働いてるのよ」 「銀河って……宇宙人ってこと?」 「正確には違うけど……まぁ、そう思ってもいいわ」 「って、宇宙人ってマジでいんの!? すげぇ!」 首をかしげる裕奈にアーニャがうなずくと、ハルナはまたもやヒートアップしていた。そのまま、夕映やこのか達も巻き込んで宇宙人の話に突入してしまう。一方でアスナは面白くなさそうな顔をしている。エヴァンジェリンにああ言われたものの、やはりというか納得出来ずにいたのだ。それを察したのか、アーニャは静かにアスナに近付き―― 「納得出来ない?」 「あ、う……その……」 その問い掛けにアスナは思わず顔を背ける。正にその通りもであるので何も言えないのだが。 「ま、別に認めろって言うわけじゃないわ。あなたのような人もいたのも事実だしね。でもね、私は感謝してるのよ」 「え?」 話を聞いていたアスナが思わず顔を向ける。そこにはどこか遠い目をしたアーニャがいた。 「シンジのおかげでネギはネギでいられる。ネギはね、シンジと会う前は本当に無茶ばかりして……シンジはそんなネギに色んなことを教えていったの。無茶はいけないって……だから……でも――」 でも……うつむくアーニャのその言葉だけは小声になってしまう。その部分だけは聞こえず、またアーニャの様子に首をかしげるアスナ。ネギがそのことを理解するのは遅すぎた。それはシンジのせいじゃない。それはわかる……わかるけど……でも、あの時シンジがいてくれたら……そう思う時がある。 「アスナ……お願い。いつまでもネギをネギとして見て欲しいの」 「え?」 不意にそんなことを言われたアスナは戸惑う。どうしてと聞こうとして、言えなかった。アーニャが一筋の涙を流していたから…… 「アーニャ……ちゃん?」 「ごめん……でも、お願い……お願いだから……」 どこか沈んだ様子のアーニャを見て、アスナは何も言えなくなってしまう。なぜ? と聞きたかった。でも、聞けなかった。今のアーニャの姿を見てるとそんな気になれなくて……そんな2人に気付く者は無く、時は静かに過ぎ去っていく―― 「はぁ……ま、たまにはいいもんですねぇ〜。こういうのも」 さて、こちらは1人温泉を満喫するシンジ。頭に手拭いを乗せつつ、ゆったりとしていたが…… 「しかし、広く造りすぎましたかねぇ? この広さで1人ってのも……まぁ、あのメンバーで男は私だけですしねぇ……」 ふと、ため息を漏らす。別に嫌というわけではないのだが……まぁ、そこら辺考えても仕方ないかと納得することにする。 「あ、あの……シンジさん……」 「おや?」 声を掛けられて振り向いてみると、そこには胸の辺りでタオルを巻くネギの姿があった。 「ネギ君でしたか。あなたもお風呂に?」 「あ、いや……見て欲しいものがあって……」 「ふむ……」 湯船に入りながら答えるネギに、シンジの瞳が一瞬鋭くなる。逆にネギの表情は……どこか辛そうで―― 「見て……ください」 そう言って、ネギは巻いていたタオルを落とす。その下にあったのは丸みを帯びてきた体に、その年頃としては大きくふくよかな胸。そして、股間には男性の象徴が無く、代わりに綺麗なスジがあった。そう、少女としての体がそこにあった。同時にその少女の体には明らかにおかしな部分があった。左胸と下腹部の近く。そこだけは塗りつぶされたかのように黒くなっている。見ていると呑み込まれそうな黒で―― これが今のネギの体であった。8歳の誕生日の時に神との契約をしようとして失敗し、この体になってしまったのである。しかも、ただ少女の体になったわけではない。失敗した代償……それは契約しようとした神の力に呑み込まれてしまったことである。黒くなっている部分は神の力に呑み込まれ、侵食されたのが表側に出てきてしまった証なのだ。 「あ、ぅん……」 シンジの手が左胸に触れる。ネギの年齢としては大きくふくよかな胸をつぶしながら、黒くなった箇所を確かめるかのように触っていた。 「は、ぁ……シンジ、さん……」 「ああ、これはすいません。しかし……思った以上に侵食が早いですね」 紅くなりながら震えるネギを見て、シンジは手を引っ込めるのだが……ネギはといえばなぜか息を少し荒くし、更には瞳が艶っぽくなってたりする。それはそれとして、問題は深刻であった。ネギは今はまだ人間である。しかし、神の力に呑み込まれた以上、いずれそうではなくなる。このまま侵食が続けば―― 「早くても1年後……体の最適化が始まるでしょうね。そうなれば……」 それ以上は言わなかった。もう、何度も言ってきたことだ。ネギもわかっているのか、うずくまるかのように湯船につかる。侵食がネギの体全体に広まれば、その体は最適化が行われる。神の力に適応するための最適化が……そうなれば、見た目にも明らかな変化が起きる。とても、隠し通せるようなものではない変化が…… そうなれば、ネギは魔法界から姿を消さねばならない。女になっただけでなく神の力に浸食されたと知られれば……まず、普通の扱いはされないから……下手をすれば実験動物同然の扱いになるかもしれない。 だからこそ、このことはシンジやアーニャなどごく親しい者にしか知らせていなかった。アスナ達に話さないのはネギが話すのが怖いというのがある。信じていないわけではないが、もし知ったらどういう反応をされるのか……それが怖かったから―― これは刹那と似た状況にあるように思えるが……ネギの場合、話せば状況が一変してしまう立場にある。故に安易に話せないのだ。 「シンジさん……ごめんなさい……」 「今更ですよ。それに、もうどうにもなりませんからね」 うなだれるネギにシンジはキッパリと言い切る。そう、いかにシンジといえど、ネギの体を元に戻すことは出来なかった。後はもう、その時が来るのを待つだけ……ただ、シンジもただ待つつもりは無く、いつそうなってもいいように鍛え、教えてきた。 確かにナギと会う為に鍛えてきたのも事実であるが、実をいえばアスナが嫌悪するほどやる必要は無い。鍛える必要はあるが会うだけならなんとでも出来るのだ。実際は……ここまでするのはネギの今後を考えてのこと。いずれ、人から外れた存在になってしまうから―― 「シンジ……さん……」 「あ〜、はいはい……」 胸に顔をうずめながら泣き出してしまうネギ。そんなネギをシンジは優しく抱きしめ……優しく頭を撫でてやった。ネギのこの秘密はいずれアスナ達に知られることになるだろう。その前にエヴァンジェリンがネギを鍛える理由の矛盾に気付く可能性だってある。もし、そうなったらどうするか……シンジはそれを考えずにはいられなかった。まぁ―― 「なんとかしなきゃいけませんよねぇ〜」 結局はそうするしかない。ないのだが……戸籍とかどうしようとか、考えてることがすでに犯罪チックなのは……まぁ、いつものことである。 「聞いたぞ。貴様があの黒き勇者だそうだな」 宴会での席。横にいたエヴァンジェリンが声を掛ける。シンジは気にした風も無くコップに満たされた酒を煽り―― 「昔、そう呼ばれていただけです。それを名乗った覚えはありませんし、これからもそうですよ」 素っ気無く答える。エヴァンジェリンはそれを聞いて瞳を細めた。違うのだ。自分が聞きたいのはそんなことでは無い。 「質問を変えよう。貴様は数多くの破壊や殺戮をしたと聞く。なぜ、そんなことをした?」 「あ〜……良く勘違いされるのですが、昔の私は戦いをするのが目的でしてね。余程のことが無い限り自分から戦いをするようなことをせず、戦いのある場へと赴き、戦いをする。ただそれだけ……破壊や殺戮はその戦いをする過程で起きてしまったことであって、目的ではないんですよ」 「戦いが目的だと?」 問い掛けたエヴァンジェリンは聞いた話に訝しげな顔をする。黒き勇者の噂は色々と聞いている。それゆえに彼女は黒き勇者を殺戮者と見ていたが……それは違った。いや、それ以上に異常だった。それはまるで戦闘狂ではないかと―― 「そんなのは同じだ。貴様がどう考えようと戦いがしたくて戦いをして、それにより破壊と殺戮をしたのだからな」 「ま、そうですよねぇ〜」 不機嫌そうに話すエヴァンジェリンの言葉をシンジはあっさりと認めてしまう。事実は事実だ。だから、当然とも言えるが…… 「で、なんで戦いを求めた?」 「お恥ずかしい話なのですが……実は今でもわからないんですよ」 「は?」 シンジの返事を聞いて、エヴァンジェリンは思わず間抜けな顔になる。なにしろ、考えていた返事とはまったく方向が違うものだったから。 「なんで、戦いを求めたのか……それは自分でもわからないんです。この先に何かある……と、感じていたのは事実なんですが……」 ため息混じりにシンジは答える。なぜ、戦いを求めたのか。それは彼自身も答えを今もなお見出せずにいた。ただ、吸い寄せられるように戦いを続けて……気が付けば――そんなシンジの姿を見て、エヴァンジェリンは違和感を感じる。それがなんなのかはわからないが、少なくとも今まで自分が見てきた者達とはまったく違っているのは確か…… 面白いと思った。見極めてやろうと考えた。シンジという者がどんな奴なのかを。それを考えたら自然と笑みが漏れてくる。だからだろう……彼女はこの時、考えもしなかった。それが知らなくてもいい世界を知るハメになることになることを…… 「もう1つ……なぜ、ネギを鍛える?」 これ以上は意味が無いだろうと、エヴァンジェリンはもう1つのことを聞くことにした。あの温泉での話し合いの時に感じた違和感。確かに自分でも言ったとおり、ネギが裏の世界に来てもいいようにというのもあるのだろう。だが、それだけではないような気がした。 「聞かぬが華……ということがあるのを知った方がいいですよ」 そうとだけシンジは返す。事実、その類の話なのだ。ネギのことは―― 「それで納得しろと?」 「好奇心は猫をも殺す。いらんことに首を突っ込んで、後日バラバラ死体になってた〜……というのは嫌でしょう?」 睨み付けるエヴァンジェリンだが、すぐに息を飲むことになった。いつもどおり穏やかな顔で話すシンジ。でも、その言葉を口にした瞬間、彼女は自分が無数の刃に貫かれる姿を幻視した。彼が見せた殺気。それはエヴァンジェリンが今まで経験したことが無いもので……だからだろうか、先程の姿を幻視してしまったのは。 「わ、わかった……」 わずかに震える声で答える。今のはなんだ? あれは本当に殺気か? 畏怖……エヴァンジェリンは今になって、シンジからそれを感じ取っていた。普段はそんなものを欠片と見せないのに……この時、彼女はシンジを異常な人間と見ていた。それが間違いだと気付くのは……まだ先の話である。 かくて、エヴァンジェリンは世界を知ることとなった。もっとも、それはこれからの一端にすぎないというのをいずれ思い知ることになる。 この時はまだ誰も気付いてはいなかった。シンジでさえも彼女達の姿が見えないと思ったくらいで…… 「まったく、しつこいわね……あなた達も……」 「う、ああ……」 博麗神社……といっても、外の世界にある荒れ放題の方のだが、そこに3つの人影があった。2つは八雲紫と八雲藍。もう1つは男性……は、恐怖で顔が引き攣っていたが…… 「さて、あなた達は……何をするつもりだったのかしら?」 「ひ!? あ、あぅぁ……」 閉じた扇子を口元に当てながら睨み付ける紫に男性は声すら発することが出来ない。彼女が放つ殺気はそれほどまでに怯えさせていたのだ。ちなみにあなた達といっているが、どう見ても男性しかいない。先程までは男性以外にもいたのだ。いたのだが……その光景に男性は後悔していた。 強力な妖怪がいると言われている場所がある。そこは結界に覆われており、その中にその妖怪がいるのだという。そんな噂を聞いた男性はそいつを使役出来れば色々と役に立つと考え、仲間達を集めてその場所へと向かい……今のような状況になったのである。 最初は戦った。戦ったが……無駄だった。自分達の力がまるで無意味かと言わんばかりの差を見せ付けられた。と、紫が左腕を振るう。放たれるは妖気弾。それが何かとぶつかったように弾け散り、男性を更に怯えさせ……悲鳴も上げられぬままスキマへと落とされた。男性をスキマに落とした紫は空の彼方を睨みつけるかのように顔を向け―― 「口封じのようね。何のつもりか知らないけれど……手を出すというのなら、それ相応の覚悟をなさい」 その言葉を残し、紫も藍と共にスキマの中へと消えていく。その様子をその者は上空から見ていた。 「あれが結界の中にいる妖怪か……欲しい所だけど、流石に今のままじゃ無謀か……まぁ、いずれは貰い受けるよ」 無表情の少年の姿をした者はつぶやき……水が弾けたように消えていくのであった。この時、この者は気付いてはいなかった。手を出そうとしたものが自分の理解を超えるものであるということに……そのことをいずれ思い知ることとなる。 かくて、この異変は幻想を巻き込もうとしていた。それがどんなことになるのか……今はまだ、誰もわからない。 オマケ さて、幻想郷にいたシンジ達だが、泊まる際は二手に分かれることとなった。何しろ人数が人数なのでネギ達は紅魔館に泊まっている。ネギ達の人数が泊まるとなれば永遠亭でも良いのだが、エヴァンジェリンがレミリアと話し合いたいことがあるということでこちらになったのだ。まぁ、紅魔館の妖精メイド達はシンジのおかげでそれなりに働くようになったので大した負担にはならないだろう。 なぜ、シンジがそんなことをしたかといえば、妖精メイドの問題ぶりに不憫と感じたからである。で、シンジはといえば―― 「これはどういう状況なんでしょうか?」 思わず疑問を漏らす。彼は博麗神社に泊まっていた。正確には泊まるハメになったのだが……シンジは非常に困った顔をしていた。布団の上で……そんな彼を取り囲みつつ、互いを睨み合う3人の少女達……霊夢、魔理沙、早苗である。 「あなた達はなんでここにいるのかしらね?」 「夜も遅いから、泊めてもらおうと思ったんだぜ」 「わ、私もです」 睨む霊夢(なぜか、お札を構えつつ)に、胸を張って答える魔理沙(なぜかミニ八卦炉を持って)と早苗(なぜか、お払い棒を持ちながら)。その光景にシンジは深いため息を吐いた。シンジも紅魔館に泊まらせてもらおうと思ったのだが霊夢に拉致に近い形で泊まらされることとなり……なぜか、魔理沙と早苗も泊まると言い出したのである。で、いつの間にやら今の状況になったと―― 「あの〜……寝ませんか? 時間も遅いですし……」 止めた方がいいかな〜と思いつつシンジはそんなことを言ってみるのだが……霊夢達はといえばなぜかうなずきあい……いそいそと寝る準備を始めたのだが―― 「あの、寝づらいんですが……」 本気でどうしようかと考える。布団に入ったまでは良かった。良かったのだが……シンジの右隣には魔理沙、左隣は早苗、上に覆いかぶさるように霊夢が体を寄せてきたのだ。 「気にしないで」 「無理ですって……」 顔を真っ赤にしてる霊夢はそういうが、シンジも引き攣った顔で返す。寝れないわけではないが、この状況では色々と……こうして夜は更けて行くのだが……この後、どうなったのか? とりあえず、紫と神奈子と諏訪子の笑顔で察していただきたい。 「これで博麗も安泰ね」 「守屋も安泰だよ」 さいですか…… あとがき DRT:というわけで、今回は日常編でした。いかがでしたか? シンジ:日常なのか? これ…… DRT:そこはかとなく気にしないでもらえると助かる。 シンジ:いや、無理だと思うぞ、それは…… DRT:で、次回は修学旅行編……の準備段階。でもでも、幻想郷でも動きがあります。 シンジ:引きが思いっきりそうだしな。でも、どうやって関わるんだよ? DRT:そこはお楽しみということで。ではでは、次回をお楽しみに〜 シンジ:なぁ、あとがき。最近ぞんざいになってないか? DRT:……気にしちゃいけないよ。 シンジ:おいおい…… |