大停電当日、1分前――
アーニャは大浴場にいた。エヴァンジェリンとの対決前にシャワーを浴びておこうと思ったのだが、アスナ達が自室のシャワーを使っていた為こちらでシャワーを浴びることにした。もちろん、手早く終えるつもりだったが……気が付けば停電までもうすぐという時間になってしまっていた。のんびりしすぎた。そう思って、上がろうと思った時に明かりが消えてしまう。

「キャー!?」 「いや〜ん!?」

一緒に入っていたまき絵、大河内アキラ、和泉亜子、明石裕奈の4人も騒がしい。まぁ、当然か……と思った時、変な気配を感じた。なんだろうと思った時、まき絵達の様子がおかしいことに気付いた。いや、正確にはまき絵自身の様子がおかしい。こちらを見て、ニヤリと笑みを浮かべていて……犬歯が見えた。それを見て、アーニャは思い出した。まき絵はエヴァンジェリンに噛まれていた事に。となれば、彼女は―― アーニャがその事実に気付いた時、まき絵は目前まで迫っていたのだった。



episode :06 『そして、それは現れた』




その頃、停電となって明かりが消えた自室でネギとアスナは最後の準備を進めていた。

「大丈夫ですか、アスナさん?」

「あははは……ちょっと緊張してるかな……」

ネギの問い掛けにアスナは苦笑混じりに答えるのだが……実を言えばちょっと怖がっていた。思い出されるのは紫との試合。あの時に感じた恐怖がこの戦いでもあると聞かされていたので、アスナとしては緊張よりも怖さが出ていた。でもあの時、ネギとアーニャは臆することなく戦ってみせた。年下の2人がそうなのに、自分が怖がってもいられない。それに――

「にしても……アーニャちゃん、遅くない?」

「確かにそうですね」

アスナがそんなことを考えていた時、このかが首をかしげながらそんなことを聞いてくる。護衛の為に一緒にいた刹那がうなずくが、確かに遅い。アスナ達の都合で大浴場に行くことになったとはいえ、すでに停電は始まっている。あのアーニャなら遅れることは無いと思うのだが――

「レックスの旦那。アーニャに連絡してみたらどうですか?」

〈そうだな〉
コンコン――

「ん? 誰?」

カモに言われて、レックスが連絡を取ろうとした時だった。ベランダの窓をノックする音が聞こえ、アスナが思わず問い掛けてしまう。といっても返事が返ってこなかった為、気になってカーテンを開くと――

「え? ま、まき絵ちゃん!? って、なんで裸なの!?」

そこには裸のまき絵が立っていた。それに驚くアスナだったが――

「ネギ・スプリングフィールド……エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさまがきさまにたたかいをもうしこむ……10ぷんごにひがしひろばにこい……じゃ〜ね、ネギくん。まってるよ〜」
「あ、まき絵さん!?」

ネギが止める間も無く、まき絵は言い終えると共に新体操のリボンを使って跳び去ってしまう。とても常人とは思えぬ身体能力で……

「ど、どうしちゃったのよ、まき絵ちゃん!? なによあれぇ!?」
「まさか……半吸血鬼化しちまってるのか?」

「ですが、まき絵さんは今までなんともありませんでしたが?」

「封印だ! 力の封印のせいで潜伏してたのが隠されてたんだ! くそ! 封印がとんだ仇になっちまった!」

慌てるアスナにカモがポツリと呟くが、それに刹那が首を傾げ……カモはその事実に思い当たり慌て出す。一方でネギは言い知れぬ不安を感じていた。

「レックス、アーニャに連絡を取って!」

〈それなんだが、携帯に出ない。まだ、風呂に入っているのか、もしくは――〉

レックスはネギと同じ考えをしながら答えていた。それを聞いて、ネギの不安が強くなる。まき絵はエヴァンジェリンによって、半吸血鬼されて僕にされてしまったのだろう。そのまき絵は今までどこにいた? なぜ裸だった? それを考えれば、その事実に思い至る。

「アスナさん、行きましょう!」

「え? でも、アーニャちゃんは……」

「たぶん、アーニャは……ともかく、行きましょう!」

戸惑うアスナであったがネギに急かされてしまい、わけもわからぬまま部屋を出ることになってしまう。残されたのはこのかと刹那――

「どうしたんやろ、ネギ君?」

「もしや……エヴァンジェリンさんは――」

首をかしげるこのかだったが、刹那もまたそのことに思い至って言い知れぬ不安を感じるのであった。

ネギとアスナはまき絵が言っていた場所に走って向かっていた。ネギは焦っていた。あって欲しくは無い。だが……それに耐えながら、走っていた。その横を走るアスナは首を傾げるばかりだった。というのも、どうしてネギが焦るのかがわからない。アーニャもまだ来ていないのに……そんなこんなをしている内にカモとレックスを含む4人は目的の場所に到着する。

「ふ、来たか……まぁ、あれだけ大見得を切ったんだ。来なければ、どうしようかと思ったところだ」

その広場の真ん中でその女性は立っていた。体を覆う部分が少ない黒いドレスを着た女性が……

「え? だ、誰!?」

見覚えの無い女性にアスナは慌てるが……

「エヴァンジェリンさん……ですか……」

「当然だろう? 誰だと思っていたんだ?」

すぐにわかったネギの呟きにエヴァンジェリンは何を言っているんだという顔をするが……今の姿は小さいエヴァンジェリンとは似ても似付かぬ姿だ。アスナのようにわからないのも当然であろう。本人だと言っても疑われても仕方ない。そんなエヴァンジェリンの周りには6人の少女の姿があった。1人は茶々丸。後は――

「てぇ!? まき絵ちゃんに裕奈!? アキラに亜子ちゃん……それにアーニャまで!?」

「くそ! やっぱり噛まれちまったか!」

驚くアスナの横で、ネギの肩に乗っていたカモは悔しそうな顔をする。半吸血鬼化した者に噛まれれば、噛まれた者も同じように半吸血鬼と化す。まき絵はエヴァンジェリンに噛まれ、すでに半吸血鬼化していた。だが、エヴァンジェリンは自身の力の封印を利用して隠したのだ。そして、時が来たらまき絵を操り、裕奈達を巻き込んだのである。更にはアーニャまで操ってしまっている。そんなアーニャ達は茶々丸と同じミニスカタイプのメイド服を着て、エヴァンジェリンの周りに立っていた。
ともかく、これはマズイとネギは焦る。何かをするとは考えてはいた。だが、まき絵達を巻き込み、更にはアーニャを操るとまでは考え付かなかったのだ。自分の過ちにネギはただ悔しく思うしかなかった。甘すぎた、自分は……シンジにあれほど教えられたのに――

「ふふふ、悔しいか? だが、人を散々コケにしてくれた礼はさせてもらうがな!」

ネギの表情を見て、エヴァンジェリンはそう感じたらしく、楽しそうに語るのだが……全て自分の勘違いだとは気付いていない。だが、そんなものはどうでも良かった。許さない。許すわけにはいかない。ここで徹底的に叩きのめし――

「ひ、卑怯よ!? それは!?」

「ふん、言ったろ? 私は悪い魔法使いだとな?」

怒りをあらわにするアスナを、エヴァンジェリンは小馬鹿にしたように見ていた。そう、これだ。これでいいのだ。その表情だ。もっと見せろ……楽しさのあまり、笑みが自然と漏れてくる。

「ふふふ……はははは……さぁ、お前達――「まったく。ここまで来ると、逆に滑稽ですよねぇ〜」

ネギを捕まえるべく、エヴァンジェリンが命じようとした時……それはいた。

「な……」

一体、いつそこにいたというのか? 少なくともエヴァンジェリンはネギから目を離してはいない。なのに、いつの間にかそこにはそいつがいた。穏やかな顔をした、青年が……

「き、貴様……何者だ!?」 「シ、シンジ!? いつ来たのよ!?」

予想外のことに一転して怒りをあらわにするエヴァンジェリン。アスナもいきなりの登場に慌てていた。

「シンジさん……ごめんなさい……わかっていたのに……わかっていたのに……」

「なに、人というのは頭でわかっていても、気持ちはそうはいかないというのがありますよ。今回、それを学んでくれただけでも良しとしましょうかね」

ネギはいきなりの登場にもかかわらず驚く様子は無く、逆に泣きそうになっていた。そんなネギの頭を青年ことシンジは優しく撫でる。

「聞いているのか! 貴様、何者なんだ!?」

「ああ、これは失礼をいたしました。私、ネギ君の後見人。アオイ シンジと申します。以後、よろしくお願いいたします」

怒りをあらわに怒鳴るエヴァンジェリンに、シンジは優雅な仕草で頭を下げる。

「後見人……だと?」

それを聞いたエヴァンジェリンは一転して訝しげな顔をする。自身に掛けられた呪いを解く為、解く鍵であるネギの周辺は念入りに調べた。だが、そんな存在は影も形も無かったはずなのだが……

「まぁ、いい。貴様、なんのつもりだ?」

「何、ルール違反をされたら、今更そのルールに従う必要もありませんからね。ま、助っ人ですよ」

「て、手伝ってくれるの?」

エヴァンジェリンの問いにシンジは穏やかな顔で答え、それを聞いたアスナが嬉しそうな顔をする。シンジの実力は知っている。何しろ、ネギに色々と教えているのだ。これほど心強いものはない。と―― だが、それはアスナの勘違いである。あんなものはシンジの全てではない。もし、知れば……アスナはどう思うだろうか?

「は、貴様が助っ人だと?」

「ええ。なんでしたら、私1人でお相手してもいいのですが……ネギ君はどうしますか?」

「……やります。やらせてください!」

見下した顔をするエヴァンジェリン。彼女にはシンジは一般人と変わらぬように見えた。魔力は一般人並だし、動きからも何か武術をかじったようにも見えないからだ。見下されたシンジは気にした様子も無く問いかけ、それにネギは真剣な表情で答えた。責任を取りたかった。これもわがままだというのはわかってはいるけど……でも、何もしないのは嫌だから……

「そうですか。では、茶々丸さんのお相手をお願いします。後は私にお任せください」

「貴様、何をしている」

ネギにそう言いつつ、シンジは何かを始めた。それを訝しげに見ているエヴァンジェリン。シンジは大きな布を懐から取り出し、それを一振りするとテーブルと椅子の一式が手品の如く現れた。テーブルの上には本とコーヒーが満たされたカップが置かれていた。布を畳んで懐にしまうと椅子に座り、本を手に取って読み始めてしまう。

「貴様……ふざけているのか!?」

「ハンデですよ。普通に戦っても勝つのは目に見えてますからね。私をこの椅子から動かしたら……いえ、カップからコーヒーをこぼすことが出来たら、あなたの勝ちで構いませんよ?」

本に視線を向けたままシンジは答えるのだが……エヴァンジェリンは呆けたような顔をする。だが、それも一瞬。すぐに怒りへと変わる。侮られている。この私が! ふざけるな! この私を誰だと思っているのだ!

「ふざけるな!!? 私を誰だと思っているのだ!? エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル!! 真祖の吸血鬼にして「闇の福音ダーク・エヴァンジェルと呼ばれた!!?」

「名にこだわるのは雑魚か三流のすることですよ」

とてつもない殺気をぶつけながらエヴァンジェリンは怒りと共に叫ぶのだが、シンジはそよ風を受けるが如くといった様子だった。しかも、エヴァンジェリンを見ず、本に視線を向けたままで。

「あんた!? ふざけてるんじゃ――」
「アスナさん! 行きますよ!」

シンジのやることにアスナも怒りを感じ、怒鳴ろうとしたのだが……それをネギに止められてしまう。 見れば、ネギは真剣な表情でエヴァンジェリンを見ている。シンジを気にしているようには見えない。

「なに言ってるのよ!? あんなの絶対にふざけてて――」
「多分ですが……今回は全てシンジさんの思惑通りだったんだと思います。だから……エヴァンジェリンさんに勝ち目はもうありません」

文句を言おうとするアスナであったが、ネギはエヴァンジェリンを睨みつつも、どこか気落ちした様子で答えていた。だが、アスナには意味がわからずにきょとんとするだけだが――

「ええ。しかし、エヴァンジェリンさんがあそこまでやるとは思いませんでしたが……ま、結果オーライですかねぇ〜」

あっさりと肯定するシンジは、本に視線を向けたままコーヒーを一口飲んだ。ネギは……自分の甘さに落ち込みそうだった。考えればわかることだった。今になって思えば、シンジの行動は今回のことをにおわせるものを何度か見せていたのに……けど、不思議と彼を憎むようなことは無かった。だって、今まで散々言われてきたから……これが自分が立とうとしている世界だと――
アスナは怒りのあまり、シンジを睨みつけていた。なんでこんなことをする? 何でこんなふざけた……人の思いを踏みにじるようなことをする!? それが理解出来ず、アスナはシンジを憎む。

「行けぇ!? 奴を八つ裂きにしろ!!」

その会話を聞いていたエヴァンジェリンは即座に理解した。馬鹿にしている、自分を! この「闇の福音」を! だから、後悔させてやる! いや、そんなものでは済まさない! 殺さぬように切り刻み、踏み潰し、貫きながら痛めつけ……最後に殺す! それを実行せんと、茶々丸達を向かわせる。が、ネギが飛び掛り、茶々丸はそれを受け止めるために立ち止まるしかなかった。

「行かせません!」

「なぜです? ネギ先生は利用されたのですよ? それなのになぜあの人の為に戦うのです?」

自己が乏しい茶々丸であるが、そんな彼女でもシンジがネギを利用したのはわかった。ネギもそれがわかったはずなのに、なぜ彼の為に戦う?

「それが僕が選んだ道です!」

返事と共にネギは弾幕用の魔力弾を茶々丸にぶつける。それを両腕で弾いたり防いだりしながら茶々丸は離れ――

「あ――」

カクンと膝を付きそうになった。ネギの攻撃によるダメージでは無い。自身の動作系のトラブルだった。茶々丸は科学と魔法のハイブリットである。なので、魔法を使われているのは当然なのだが……その魔法に属するものに異常が出たのだ。

「これは……一体……」

〈イニシエイト・クラック・シークエンス。アクセス開始!〉

何が起きたのか自己診断プログラムを走らせようとした時、レックスが電子戦を仕掛けてくる。

「無駄です。それはもう……な!?」

その対策を施されている茶々丸はそれを言おうとして、その事実に驚いていた。レックスが自分にアクセスしている。なぜ? 超とハカセは気付いていないが、レックスは通常の方法でハッキングを仕掛けているわけではない。レックスにはプログラムが形となって見えているのだ。そんな彼にしてみれば、超達が施したプロテクトなどあってないようなものである。

「あ――」

何も出来ないまま、茶々丸はその動きを停止した。ネギの胸ポケットに入っていたレックスはそれを見届けると、ネギへと顔を向ける。

〈終わったぞ〉

「そうですね」

「ネギ……」

うなずくとアーニャが声を掛けてきた。見てみればまき絵達は正気に戻っており、驚いた顔をしながらそれを見ていた。アスナはさっきとは違い、戸惑った顔をしてそれを眺めている。それを見てから、ネギとアーニャはそれへと顔を向ける。場面は終焉間近であった。

少し時を戻し、アーニャ達は爪を煌かせながらシンジへと飛び掛る。だが、シンジは顔を向けることなくカップをテーブルに置くと指を鳴らし――

「なん……だと……」

その光景にエヴァンジェリンは目を見開いた。止まったのだ。操っていたアーニャ達が、シンジの直前で。

「あ、あれ?」 「どこ、ここ? ていうか、あんた誰?」 「あ、あれ? シンジさん?」 「な、なんや!?」

しかも、まき絵達が戸惑いながらも辺りを見回す光景に更に驚く。吸血鬼化が解かれたことがわかったからだ。確かに魔法使い達には吸血鬼化を治療する術はある。魔法薬なり儀式なり、専門の魔法などで……なのだが、シンジは何かをした様子は無い。ただ、指を鳴らしただけだ。魔法を行使した様子は無い。なのに、まき絵達の吸血鬼化は解かれていたのだ。 何をした? それがわからないエヴァンジェリンは理解出来ず、ただ驚くしか出来なかった。

「シンジ? あ、そうか……私……」

アーニャも正気に戻り、目の前にいたシンジの姿を見て、自分に起きたことを理解したようだった。

「後は私に任せて、アスナさんのそばで見学でもしててくださいな」

「そう……ほら、みんな。危ないからこっちに来て」

「え? なになに?」 「あのさ、何がどうなってるの?」 「あれって、エヴァンジェリンさんだよね?」 「あ、まってぇな!」

シンジに言われて、アーニャは未だに戸惑うまき絵達を下がらせた。そのままアスナの所に来るのだが、アスナは憎しみを込めた目でシンジを睨んでいる。

「なんなの!? なんなのよ、あいつ!? なんで、こんなことするのよ!?」

「それが……シンジのやり方だからよ」

憎しみをぶつけるかのように叫ぶアスナを、アーニャは非常に冷めた様子で答えていた。まき絵達は普段見せないアスナの様子に怯えていたが……

「いいの!? あんた達はそれで!?」

「ええ……というか、会ってすぐにそういうのを見せられたしね。それにシンジは策士よ。策の為にはなんだってするわ」

未だ怒りの収まらないアスナに、アーニャは変わらぬ様子で答えていた。そう、シンジの今の姿を見たのは別に初めてじゃない。何度か見せられ、そのたびに教えられてきた。ネギが立とうとする世界のことを。だから、今更という感じであった。

「だ、だけど――」
「確かにシンジは自分のことを小悪党と言ってるし、やり方も褒められたもんじゃないからアスナが怒るのもわかるわ。でも、見ておきなさい。シンジはそれだけじゃないってことを……」

それで何かを言おうとするアスナだったが、アーニャはシンジの方へと顔を向けながらそう言い放つ。 わけのわからないアスナは怒りをあらわにしたまま同じように顔を向け……その光景に驚くこととなる。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック!!」

エヴァンジェリンはシンジを睨みながら呪文を唱え――

(なんだ? 魔力が……)

その違和感を感じながらも、そのまま詠唱を終え――

「魔法の射手、氷の50矢!!」

発動させた、が……

「な!?」

放たれた魔法の射手は発動させようとした数よりも少なく、しかも魔法の射手自体も本来放たれるものよりも細く弱々しいものだった。その魔法の射手もシンジに届く前に、まるで溶けるかのように消えてしまう。その光景をエヴァンジェリンは目を見開いていた。驚いたのだ、純粋に。すぐさま、どういうことなのかを理解しようとするが……わからない。手応えがおかしかったのはわかるのだが……
この時、エヴァンジェリンは気付いていなかった。自身に掛けていた幻術が解けていたことに。シンジへの怒りと、今起きた不可解な現象へ意識を向けていたせいで。

氷神の戦鎚マレウス・アクイローニス!!」

ならばと今度は上位魔法を詠唱し、放つ。やはり、本来の威力よりは弱体化しているが、それでも今度は当たる……と、思った。シンジから少し離れた所で、壁にぶつかったかのように弾け飛ぶまでは。

「な!?」

起きた現象にエヴァンジェリンは驚愕のあまりに動けなかった。障壁を張って防御する。それは戦いをする魔法使いなら当然とも言えることだ。だが、シンジはそれをしていない。未だカップを持ちつつ、本を読んでいた。障壁を張る魔法も、なんらかの防御もしていない。なのに、自分が放った魔法は弾け飛んだ。あまりにも理解不能な現象に、エヴァンジェリンの思考は徐々に混乱を始める。
シンジは何をしたのか? 先に防御の説明をすると、シンジはエヴァンジェリンが放った魔法に力をぶつけただけである。魔法でも気でもない、その高みにある者が持つ力。あえて、意志力と名付けるが、シンジはそれを扱うことが出来る。
そして、エヴァンジェリンの魔法の威力が弱体化されたのはなぜか? これはある技術が使われているからである。AMFアンチマギリンクフィールド 。本来はなのは達の世界で使われる高位防御魔法である。それをかの狂気の科学者は戦闘マシンに搭載し、使っていたりするが。どんなものかといえば、効果範囲内の魔力結合を解くことで、魔法を無力化させるというものである。ただし、高い魔力が込められてたりすると完全にとはいかなかったりする。
それをシンジはエヴァンジェリンを中心に展開させていたのだ。先程の茶々丸の異変はその範囲内にいた為、影響を受けてしまったのである。なにしろ、茶々丸を造り上げる際に科学技術を主に使われているが、所々に魔法技術も使われている。そんな彼女が魔力結合を解くAMFの中に入ったらどうなるか? 結果は先の通りとなるわけだ。
なお、エヴァンジェリンが詠唱中に感じた違和感もAMFが関係している。基本的に魔法使いは魔法を使う際、大気中の魔力を取り込み、それを精製することで魔法として発動させている。ただ、なのは達の世界との相違点があったとすれば、魔力の質の違いだろう。ネギ達の世界の魔法使いには個々に属性と言うものがある。その属性と相性の良い……例えばネギのように風を得意としているならば、風とその風と相性が良い雷の精霊を魔力と一緒に取り込んで、魔法として放つのだ。
なので精霊はネギ達の魔法の特性を考えるなら魔力の塊であることは否めない。それがAMFの中ではどうなってしまうのか? 想像は難くない。もっとも、そんなことがわかるはずもないエヴァンジェリンにとっては、混乱の極みにあったが……

「なんなんだ……なんなんだ、貴様は!?」

「先程、名乗ったと思いましたがね?」

苛立ちながら叫ぶようにエヴァンジェリンは問うのだが、シンジは気にした様子も無く答える。それはエヴァンジェリンを更に苛立たせ、瞳は狂気の色と化していた。すでに理性は吹っ飛んでしまっている。殺す……それだけがエヴァンジェリンを支配していた。それが本来気付けるはずの事を失念させていると気付かずに――

エクスキューショナーソードエンシス・エクセクエンス!!!」

それを実行すべく、エヴァンジェリンは相転移の刃を生み出し、それを掲げて飛び上がり――

「死ねぇぇぇぇぇ!!!」

一気に振り下ろした。シンジの体を真っ二つにする為に。だが――

「な!?」

そうはならなかった。受け止められたのだ。相転移の刃を……読んでいた本で……その光景をエヴァンジェリンは驚愕の表情で見ていた。シンジは障壁を張っていないし、本に魔力を纏わせたわけでもない。それなのに受け止められたのだ。実際はシンジの意志力によって受け止められたのだが、それがわからぬエヴァンジェリンはただ驚くことしか出来ず――

「がぁ!!?」

直後、シンジがカップを向けたかと思った瞬間、エヴァンジェリンは吹っ飛んでいた。そのまま吹っ飛んで地面に激突し、バウンドも交えて幾度か転がってようやく止まる。殴られたような感触にエヴァンジェリンは軽く頭を振りながら立ち上がる。すでに何をされたとか考えてはいない。奴は最強たる自分に何をした? それによる怒りが彼女から判断力を奪っていく。もう、殺すことしか彼女は考えられなくなっていた。

「リク・ラク・ラ・ラック・ライラック! 契約に従い、我に従えト・シュンボライオン・ディアーコネート・モイ・ヘー――」

ただ、それを実行しようとして、その為の魔法の詠唱を始め……そこでエヴァンジェリンは正気に戻った。カップをテーブルに置き、顔は向けず人差し指をこちらに向けるシンジ。その指先には魔力が込められていた。今、自分が放とうとする魔法を軽く凌駕する魔力が……

「な、なんだと……」

「あなたの敗因はクソつまらないプライドにこだわったこと……そして、あまりにも世界を知らなすぎたことです」

その光景に詠唱を止め、呆然と見てしまう。いつだ? いつ、あんな魔力を溜め込んだ? それよりもいつ詠唱したというのだ!? 混乱するエヴァンジェリンだがすぐさまその事実に気付き、飛び立とうとした。多少時間があるならまだしも、すぐにあんな魔力を防げる障壁を張れるはずが無い。
転移魔法も同様だ。障壁を張るよりは短いものの、それでもあれが放たれる前に出来るかと言われれば微妙だ。だから、飛んで逃げることを選択する。それも遅すぎたのだが――

「あ――」

暴風のような音と共に、その魔力は放たれた。広場をを容易く呑み込むかのような光……それが悲鳴を上げる間さえ無くエヴァンジェリンを呑み込み……通過するものを呑み込みながら、彼方へと光は飛んでいく――

「やれやれ……さてと……意思を貫くということ自体が悪いわけではありません。ですが、それとどう向き合い、どう行っていくか? それを考えないと、今見たとおりのこととなりえますので。今後は気を付けましょうね」

「自分でやっといて、人事みたいに言うな!」

本を閉じてテーブルに置いてから、人差し指を立ててそんなことを穏やかな顔で語るシンジ。アーニャに突っ込まれてたけど。ネギがその光景に苦笑する中、アスナはまき絵達と一緒に呆然と視線を向けていた。エヴァンジェリンがいた場所へと……死んだ……としか思えなかった。あんなものに呑み込まれたら、跡形も無く――

「それでエヴァンジェリンさんは?」

「気絶してるだけですよ。手加減しましたし、非殺傷設定にしましたしね。ただ、デバイスの補助無しでやるもんじゃないですね。結構、疲れますよ」

ネギの問い掛けにシンジはそういうのだが、疲れた様子は見受けられない。いつもの穏やかな表情を浮かべるだけである。そこでアスナは気付く。”気絶”している? 誰が? 彼女が? そんなはずは……そう思いながら、顔を向け……そこで気付いた。エヴァンジェリンが倒れていた。それに……広場が変わらずそこにあった。あの光に呑み込まれたのはずなのに、まるで何も無かったかのようにあったのだ。

「エヴァちゃん!?」

広場のことには気付かずにアスナはエヴァンジェリンの元に駆け寄り、助け起こす。エヴァンジェリンは苦悶の表情を浮かべていたが、ちゃんと息をしていた。それにほっとしてから、アスナはシンジを睨んだ。

「なぜ!? なぜこんなことをするの!?」

憎しみをぶつけるが如く、アスナは叫んだ。まき絵達も先程までの光景に恐々とシンジを見ていたが、思いはアスナと変わらなかった。なぜ、こんなひどいことをする? エヴァンジェリンが何をしたというのだ? それが彼女達の思いであったが――

「そうですね……エヴァンジェリンさんはネギ君の目的を知れば、首を突っ込んでくる可能性が高いですからねぇ〜。そんなのは彼女を見殺しにするようなもんですしね。だから、知って欲しかったのですよ。”こちら側の世界”というものを……ね」

と、シンジは変わらぬ様子で答えてしまう。シンジは今の今まで、エヴァンジェリンをただ策に嵌める為に動いていたわけではない。策に嵌める為に彼女のことを徹底的に調べたのだ。その結果、エヴァンジェリンはナギに対し、何かしらの感情を抱いていたことがわかった。それが愛情なのか、それに順ずるものかまではわからなかったが……そんな彼女がネギの目的を知ったらどうなるか?
なんらかの形で関わろうとする確率が高いのは事実である。むろん、静観する可能性も無いわけではないが……ただ、もし関わるとすればエヴァンジェリンを危険にさらすことになる。それは同時に彼女の命を落としかねないのだ。シンジとてただ人を死なせるつもりは無いが、エヴァンジェリンの性格を考えると言っても止まらなそうな気がしたのだ。
むろん、シンジもこれは推測だとはわかってはいるものの、もしもの場合を考えたのである。エヴァンジェリンが”こちらの世界”に来てしまってもいいように……

「な、なにそれ……こちら側の世界ってなんなのよ!?」

「あなたが知らない方がいい世界ですよ。そして、ネギ君が踏み入れようとしている世界でもあります」

話が理解出来ず、ただ怒りに任せて叫ぶアスナだが、シンジは気にした風も無く答える。もっとも、その答えはアスナにとって、聞き捨てならないものだったが。

「な!? なんでそんなふざけた世界にネギを巻き込もうとするのよ!?」

「違います! これは僕の意思なんです……父さんが……僕の父さんがそういう世界にいるんです。だから!」

怒りを抑えられないアスナだが、ネギの言葉に驚くハメとなった。確かにネギの目的が父親に会う為だというのは聞いていた。だが、あの時はたかが会う位で、なんでこんなことをと思ったのだが……

「ちなみに事実です。一応、危険だからやめといた方がいいとは言ったんですがねぇ……ネギ君の意思は固かったというわけです」

肩をすくめつつ、シンジは答えた。ネギと初めて会ってからしばらくして、シンジはナギの行方を追った。結果は……最悪だった。生きてはいるが、とても普通では生きてはいられない所にいたのだ。そのことをネギには話したのだが……ネギの意思は固く、シンジもそれならばとそこへ行っても生き残れるように鍛えることにしたのである。もっとも――

「あ、いけね」

「シンジさん?」

「派手にやりましたからねぇ〜。人が来ますね、こりゃ」

「自分でやっといて、それを言うわけ?」

首をかしげるネギだったが、シンジの漏らした言葉にアーニャが突っ込みを入れた。何かを壊したりしたわけではないが、シンジが放った馬鹿みたいに巨大な魔力。あれを麻帆良の魔法使い達が放っておくはずがない。事実、すでに数名の魔法先生が向かっていたのだ。

「やることもありますし……続きは別の場所でということにいたしましょ」

シンジはそんなことを言い出すと右手を上げ、指を鳴らす。それから少しして魔法先生達がやってくるのだが、彼らが見たのは誰もいない広場だけであった。

「やれやれ……凄まじいでござるな……」

「ホント、凄いアルナ〜」

少し離れた場所でシンジとエヴァンジェリンを見ていた楓と古菲の2人はそんなことを漏らすのだが……笑顔の古菲とは違い、楓は表情こそいつもとかわらないが、額には汗を浮かべていた。シンジの実力は自分が思っていたよりも上……いや、想像を絶していた。それに多分だが、シンジはまだ全力ではないだろう。もし、全力となったらどうなるのか……考えるのが怖かった。

「やれやれ、敵でなくて本当に良かったでござるな」

「楓?」

楓の様子に古菲は首をかしげる。楓としてはいずれシンジと手合わせをと考えていたが……やめといた方がいいかなぁ〜と考え始めていたりする。余談となるが、シンジがエヴァンジェリンと戦った話を聞いた真名が、その光景を仕事のせいで見れなくて悔しがるという場面があったりするのだが……それはまぁ、別にいいだろう。



「く……ん……んん……」

エヴァンジェリンは目を覚ました。まだ意識が朦朧としているらしく、軽く頭を振っていたりするが……

「ヨ〜、御主人。派手ニヤラレタミタイジャネェカ」

「く、うるさいチャチャゼロ……少し黙れ――」

自分の従者に文句を言おうとして、エヴァンジェリンはふとあることに気付く。そのまま顔を向けると、そこには従者であるチャチャゼロがテーブルの上に立っていた。立っていた? そんなはずは無い。だって、こいつは私の力を封印されたせいで動けなくなったはずだ。

「チャチャゼロ、なんでお前がここにいる?」

「ハァ〜、気付イテナイダロ、御主人?」

「あなたの呪いは解かせて頂きました。封印の方も誤魔化しておりますので、力を取り戻せたはずですよ?」

その問いに答えたのは青年の声。見てみれば、向かいのソファーにシンジがカップを持ちつつ座っていた。そこで別なことに気が付いて辺りを見回してみれば、ここが自分が住むログハウスであること。更にはネギとアーニャ、アスナにまき絵達がいる。

「ふむ……私はコーヒー派なのですが、こういう美味しい紅茶を飲みますと、遇にも紅茶もいいと思えますねぇ〜」

「ありがとうございます」

なんてことを言うシンジに、茶々丸は礼と共に軽く頭を下げていた。その光景に頭痛を感じつつも……思い出す。

「茶々丸……私は負けたのか?」

「はい……と言いましても、私もネギ先生とレックスさんに敗北し、機能をフリーズさせられていたため、一部始終を見ていたわけでは無いですが……」

どこか落ち込む様子で茶々丸は答える。それを聞いていたエヴァンジェリンも徐々に思い出してきた。 あの光に飲み込まれ、激しい痛みで気を失い……気を失った? ちょっと待て――

「待て、私はあの馬鹿でかい魔力に飲み込まれたはずだ。なのに、なんで――」

「ああ、非殺傷設定というのがありまして……簡単に言いますと物理的なダメージを与えずに痛みなどを与えることが出来るんですよ」

人差し指を立てつつ答えるシンジだが、エヴァンジェリンは驚きを隠せなかった。非殺傷設定なんてものは初めて聞いたし、それに自分をたやすく呑み込んだあの魔力……悔しいが認めないわけにはいかない。こいつは……自分よりも強い……だが――

「貴様……本当に何者だ?」

「はて? 名乗ったと思いましたがね?」

「く……では、こう聞こう。貴様は人間か?」

言葉を返すシンジに怒りを感じるもののなんとか堪え、改めて問い掛ける。あれだけの力、とても人間のものとは思えない。同属……ではないだろう。それらしいものをシンジから感じないのだし――

「ふむ、YESかNOで聞かれたら、確実にNOですね。人であるのはあくまでも外見だけですよ」

と、シンジはあっさりと答えた。それにエヴァンジェリンはやはりと思いつつも、意外に感じてもいた。まさか、こんなにあっさりと明かされるとは思ってもみなかったし。ちなみにそれを聞いていたアスナはやはり驚いていた。まき絵達は意味がわからず首をかしげ、ネギとアーニャは変わらぬ様子であったが。

「やはりか……だが、貴様のような化物が、なぜ小僧の後身人なんてやっている?」

「否定出来ませんねぇ〜……それはともかく、後身人をしてるのはナギさんに頼まれましてね。それでやっているのですよ」

「なんだと?」

答えるシンジだが、エヴァンジェリンは訝しげに視線を向けた。今、奴はなんと言ったか?

「ナギに頼まれた……だと? いつだ?」

「ネギ君の故郷が襲われた日です。私も仕事で出向き、そこでナギさんと出会ったのですよ」

「なにぃ!?」

紅茶を飲みつつ答えるシンジの話に、エヴァンジェリンは驚愕と共に立ち上がった。ナギ・スプリングフィールドは死んでいる。それが魔法使い達の間で言われていることだったが……エヴァンジェリンもネギの故郷が襲われたことを話で聞いている。それが確か6年程前の話。だが、ナギが死んだのは10年前で――

「ナギは生きているのか?」

「生きてはいます。ですが、会おうと思うのでしたら、やめておいた方がいいですよ。そこへ行けば、あっさりと殺されるのがオチですしねぇ〜」

答えるシンジだが、その一言にエヴァンジェリンの瞳が釣りあがる。殺される? あっさりと? 誰が? この私が?

「おい、私を誰だと――」
「先程の結果が気絶ではなく、死に変わる。そうなりえる世界にナギさんはいるんですよ」

 文句を言おうとするエヴァンジェリンだったが、その前にシンジにそう言われてしまう。思い出されるのは先程の戦い。自分はまったくと言っていいほど、手も脚も出なかった。策に嵌って全力を出せなかったとはいえ……いや、全力を出せたとしても勝てるかどうか……自分を負かしたシンジのような奴らがいるという世界……とても、想像は出来ないが……もし、本当なら――

「エヴァンジェリンさんは表も裏も知っているつもりでしょうが、それはあくまでも人間の範囲での話です。世の中、退屈ってだけで世界を滅ぼそうとする方々がおりますからねぇ……しかも、指を鳴らすだけで実行出来ちゃう方もいますし。あ、ナギさんがいる所は流石にそこまで出来る方はおりませんが……それでもエヴァンジェリンさんにはシャレにならない方がおりますねぇ〜」

どこか遠い目をしながら答えるシンジ。実際、彼は黒き勇者と呼ばれていた頃(今でもだが)、神や魔王なんて存在とも戦ってきた。無論だが、そんな奴らにエヴァンジェリンが敵うかと聞かれたら……絶対に無理と言うしかないだろう。
ちなみにそれを知るネギとアーニャは顔を引き攣らせていたりするが、アスナ達はやはりというか首をかしげている。

「どんな奴らだ、それは?」

「人を人と……いや、存在とすら見てない奴らと言いましょうかね? 嫌な言い方をすればおもちゃですね。気になったら遊び、飽きたら捨てる。その程度にしか見てませんよ」

流石に疑うエヴァンジェリンだが、シンジはやはりというか遠い目をしながら答える。確かにエヴァンジェリンが疑うのもわかる。奴らが姿を見せることなど、まず無い。姿を見せずに人を操り、世界を時には狂わせ、時には滅ぼす。そういうのを遊び感覚でやってしまう。
しかも、自分達の存在を気付かせること無く……故に彼女が知らないのは当然であり、知らないのだから存在を疑うのもわかる。次元が違うのだ。時には神、時には舞おうと呼ばれる奴らとエヴァンジェリンとは……だから、理解出来ないだろう。永遠に――

「さてと……時間ですか……申し訳ありませんが、私はここでおいとまさせていただきます。あ、そうそう。付けさせていただいた腕輪ですが、それは呪いと封印に掛かっていると誤魔化すための物ですので、出来れば外さないでおいてください。力が戻ったこともそれで誤魔化しておりますので」

立ち上がるシンジに言われて、エヴァンジェリンは自分の左手首を見てみる。確かに腕輪が付いているのだが……飾りがあるわけでも、呪法が刻まれてるわけでもないのに確かに何かしらの力を感じる。見た目的にはただのアクセサリにしか見えない。
なにかしらの魔法を掛けているのだろうが……この腕輪だけでもシンジの技量の高さが伺える。何しろ呪いと封印の両方を同時に誤魔化しているのだというのだから。

「もし、もう少し詳しい話がしたいのでしたら、今度の休日にでもネギ君に同行してください。あ、それと……アスナさん。あなたはこちら側に来てはダメですよ。確かに鍛えることになりましたが……それはあくまでもあなた自身を守る為のものですからね」

ふと思い出したように言い出すシンジだが、そこでエヴァンジェリンは訝しげな顔をした。アスナを鍛える? 確かにネギと共に戦うことになったのだろうから、鍛えてはいるのだろうが……自分を守る為だと?なぜ、そうする必要がある? ふむ、あのじじぃの孫と同室なのだから、何かあるとは思っていたが……わずかながらの情報でそこまで推測するエヴァンジェリン。
シンジの策に嵌り、自分を見失うほどにペースを乱された彼女であるが、本来は聡明なのだ。彼女もただ真祖になったわけではない。かつては自分を狙う者達から身を守る為に必要なことを学び、身に付けてきた。だからこそ、今という自分がいる。もっとも、そんな自分もシンジによって砕かれたのだが……

「そんなの頼まれても行かないわよ!? でも……でも、それならネギはどうなるの!?」

怒りを滲ませながら、アスナは怒鳴り返す。シンジがやったことを許したわけではないのだから、当然とも言えるのだが……でも、ネギはどうなるというのだ? あんな奴に付き合わされてたら、ろくなことにならない。それが彼女にとって気になる所であった。

「ネギ君の願いは聞いているのでしょう? 私としてはナギさんと再会した後は、人としての幸せを得て欲しいのですがねぇ……」

どこか困った顔で答えるシンジだが、エヴァンジェリンはそこに違和感を感じた。アスナは気付いていないようだが、何かがおかしいと感じるのだ。人としての幸せ? ネギはあのナギの息子だ。それが元で馬鹿どもが群がるのは、エヴァンジェリンにもたやすく予想出来る。
それを危惧しているのか? そんなのは無駄だと思うのだが……でも、それも違うような気が、エヴァンジェリンにはあった。 なんてことを考えていた時、シンジの目の前にスキマが現れる。それがなんなのかわからない者達には、スキマを見て驚いていたけど。

「では、機会がありましたら――」

そのスキマの中へと入っていくシンジ。スキマはシンジを呑み込むと、閉じるように消えてしまった。

「エヴァ! 大丈夫か!?」

その直後、高畑が慌てた様子で駆け込んでくる。エヴァンジェリンが正体不明の者に敗れたと聞いた時は何の冗談かと思ったが……でも、事実だとわかって心配になり、こうして来たのだ。なお、情報源は当然ながら学園長である。

「無事だ。もっとも、コテンパンにされたがな」

ふんと鼻を鳴らしながら答えるエヴァンジェリン。ソファーにどっかと座り直し、考える。負けたのは悔しい。だが、同時に楽しみにしているもの事実だ。自分の知らないものを知ることが出来る。何しろ、未知の世界に踏み入られるかもしれないのだ。永劫とも言える時を生き、色んなものを見てきた彼女にとって、未知との遭遇は楽しみとも言える。
そんなことを考えていた為か、なぜか笑みが漏れるエヴァンジェリン。そんな彼女の様子に高畑は戸惑うばかりだった。

「それでさ……どういうこと……なの?」

「あ、え〜と……何から話したもんだか……」

アキラの問いにアーニャは悩む。一応、何があったかを魔法使いのことも含めて話したが……後はなんと言えばいいか悩んでしまうのだ。
ま、何かと問題はあったものの、エヴァンジェリンの事件はこうして終わる。だが、エヴァンジェリンは知らない。この後、自分の常識までも木っ端微塵にされることに……知らないことは時として幸せであるとは……良く言ったもんである。



さて、その頃学園長は学園長室で自分の椅子に座りながら考え込んでいた。ネギとエヴァンジェリンとの戦いは見ていた。当然、シンジのことも見ていたのだが……彼がネギの後見人であることは、その時初めて知った。何しろ、ネギの周りにそれらしい人物はいないはずなのだ。
ネギはある意味、重要人物とも言える。なので、定期的にネギ自身や周りのことを調べることになるのだが……それらしい陰は見えなかった。それにあの力……とてもではないが、人の力とは思えない。何者なのか……何が目的なのか……それを調べるべく、学園長は行動を開始することとなる。

さて、余談となるのだが――

「今、なんとおっしゃりやがりましたか?」

「だからね、手伝って欲しいのよ」

「いや、なんでですか……」

紫の一言にシンジはある出来事に巻き込まれることになるのだが……それは後日話すことになる。



あとがき

DRT:というわけでぇ、エヴァ編いかがでしたでしょうか?
シンジ:ぐだぐだだな。しかも、俺。完全に悪役チートになってるし……
DRT:それは言わないで……
シンジ:お前は……で、次回はどうなるんだ?
DRT:気が早いねぇ……次回は日常編にして、ついにネギ君の身に起きたことが明かされるよ。
シンジ:ん? プロット見たら、地霊殿組が登場みたいだな?
DRT:季節は完全にズレちゃったけど、そこは誤差の範囲ということで。
シンジ:いいのかなぁ……
DRT:まぁ……実は季節がずれてたのに気付いたのは、エヴァ編書き終える直前だったりするんだな〜、これが。
シンジ:おお〜い!?
DRT:ではでは、次回をお楽しみに〜。新たなラブロマンスもあるよ!
シンジ:それは無い無い……


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