ネギ達はあれから麻帆良と幻想卿を行ったり来たりを繰り返す日々を重ねていた。アスナ達も幻想卿が気に入ったようで、魔法を習うことを口実に一緒に行ったり来たりを重ねている。
その中で変わってきたのが刹那であろう。まだ戸惑いがあるものの、このかと一緒に過ごすようになった。彼女も幻想卿に通うようになり、シンジと紫に言われたこともあってか心のわだかまりがわずかづつではあるが解けているようだった。それに幻想卿で友を得たのも大きいだろう。その友の名は魂魄妖夢。半人半霊たる彼女はどことなく刹那に似ている所があり、また互いに剣士であったこともあって、気が合ったのだ。それに幻想卿では剣を使う者が少ないため、妖夢も刹那との剣の相手を嬉々として受けていた。
そんな中でアスナはふと思う。自分は何をしたいのだろうと。ネギと出会ってから、周りのみんなは目標を持って行動を始めている。このかとのどかはネギやアーニャ、魔理沙に魔法を教えてもらってるし、夕映は本格的にパチェリーに師事してもらうこととなった。ネギは何かの目的の為に日々鍛錬してるし、アーニャも一人前の魔法使いになれるように日々努力している。じゃあ、自分は……

「どうかしたのかしら?」

「え? あ……その……」

いつの間にか隣にいた紫の問いに、アスナは答えにくそうにしていた。いや、なんと言えばいいのかわからない。

「自分が何がしたいのかわからない。そういった顔ね」
「う……」

が、あっさりと図星を指されて、気まずそうな顔をするはめとなったが。

「ま、あなたはまだ若いわ。急いで答えを探す必要も無いわよ」

「それは……」

紫にそう言われてしまうが、それでも悩む。自分がしたいこと……自分がしなければならないこと……しなければならないこと? いつの間にかそんなことを考えていた自分に驚く。なんで、そんなことを考えているんだろうかと。

「ふふ、どうしたの? 変な顔をしちゃって」

「あ、その……」

面白いものを見つけたような顔をする紫に、アスナはなんと言えばいいかわからずにいた。自分でもこの気持ちがなんなのかがわからない。なので、なんと言えばいいかもわからなかったのだ。

「そうね……あなたはもしかしたら、持っている能力以上の運命が待っているかもしれない。それを覚悟する必要はあるわね」
「え?」
紫の言葉に思わず声が漏れる。というか、いきなりすぎて訳がわからない。

「それって……どういう――」

「そうね。今言えることは、あなたには色々とあるということ。そして、それを話すということは、今のあなたが消えてしまうかもしれない。それでも聞く気はあるかしら?」

問い掛けようとした所に紫にそう言われてしまい、アスナは何も言えなくなってしまった。それはどういうことなのか聞きたい。でも、怖くて聞けない。なぜ、怖いのかはわからない。でも、確かに怖いのだ。体が震えるほどに……だから、聞くことが出来ない。

「脅かしすぎたかしら? でも、これだけは覚えておきなさい。いつになるかはわからないけど、あなたは否応無しにそれを知る時が来る。その時が来たら……今の自分を見つめなさい。今の自分から目を背けちゃダメよ。それでもダメなら……シンジに頼りなさい。彼はきっとあなたの助けになる」

紫の言葉にアスナは何も言えず、ただそれを聞くしか出来なかった。言われてしまうと凄く不安になる。でも、同時に気になるのは……

「あ、あの……シンジさんって、何者なんですか? どうして、私の助けになってくれるのですか?」

そう、それが気になった。アオイ シンジ。ネギの後見人であること。ネギを師事している以外は、まったくといっていいほど知らない。そんな彼が、どうして自分の助けになってくれるというのだろうか?

「そうね。確かなことは今も昔も、彼は滅ぼす者だということよ」にこやかに答える紫だが、アスナは逆に顔が引き攣っていた。滅ぼす者がなんで自分の助けになるんだろうか? 一抹の不安を感じつつも、いつものようにネギの相手をしているシンジの姿を見てしまうのだった。



episode :03 『道標』




  その後、麻帆良でも穏やかな日々が続いていた。高等部とのドッチボール勝負もあったが……特筆することでもないので省略させていただく。違うことがあったとすれば、高等部の女子生徒達の服が脱がされずに済んだことだろうか……
後、お風呂騒動は起きなかった。というのもネギはいつもシャワーを浴びているので、正史であったアスナに無理矢理お風呂場に連れ込まれることが無かったからである。一度、このかが誰も入ってない時に入ってみてはと言われたことはあったが、もしものことがあると困るからとアーニャと共に断った。これはアスナ達が未だ知らない、ネギの体の秘密を守るためでもあるのだが……
そんなこんなで3月となり、その日が来てしまった。

『ねぎ君へ。次の期末試験で二−Aが最下位脱出できたら、正式な先生にしてあげる。麻帆良学園学園長、近衛近右衛門』

廊下でしずなから渡された紙を見て、ネギは思いっきり顔を引き攣らせていた。正史とは違い、その実情を思い知っているからである。

「これ……どうしろと……」
「あはは……がんばってね……」

本気でどうしようか悩んでるネギ。しずなは乾いた笑みを向けることしか出来なかった。そこに桜子と裕奈が現れて、ネギが持っていた手紙を盗み見て――

「あー、ネギ君、本物の先生になるんだ!?」 「へー、なになに?」

「あははは……無理です……」

ネギが床に突っ伏して落ち込んでいる様子を見て、面白がっていた桜子と裕奈はそろって冷や汗を流すハメとなる。つ〜のもバカレンジャーと呼ばれる5人がネックとなっていた。5人揃って700位前後なのである。最下位脱出となると、この5人の平均を最低でも3〜40点以上上げなければならない。ハッキリ言おう。無理である。
試験までは後4日。丸暗記させたとしても……まず無理であった。以前、高畑に頼まれて居残り授業をやった時に実情を見ているだけに、それを否応無しに自覚してしまう。時間があるなら、まだやりようはあるのだが……

〈レックス……どうする?〉

〈あまり良い方法とは言えないが……脅しをかけた方が良いかも知れんな〉

念話でレックスとどうするかを素早く話し合う。それを終えると、ネギは素早く職員室へと向かった。あることを確認するために。それを呆然と見送るしか出来ない、しずな達3人であった。



「さて、今日のHRは勉強会にしたいと思います。次の期末テストでは最下位脱出をしないと色々と面倒なことになりますので、みなさんがんばってください」

で、HRの時間。ネギの言葉に感心していたり、いきなりなんだろう? と疑問に思ったりしている女子生徒達。アスナも不思議そうに思っていたのだが……

「特にアスナさん、まき絵さん、夕映さん、楓さん、古菲さんは前回より平均30点以上上がらないと、本当に面倒なことになりますよ」
「へ?」

だが、次に出たネギの言葉にアスナは戸惑う。それは名前を呼ばれた4人も同じであったが。

「ど、どういうことよ……うちはエスカレーター式だし、そんなに心配するほどじゃ……」

何を言ってるんだと言わんばかりにアスナは反論するのだが、ネギはあからさまなため息を見せていた。

「これは学年主任の先生にも確認したのですが、アスナさん達5人は今後もこの成績が続くようであれば……高校進学時に試験を受けてもらう可能性が高いそうです。それに高校に進学したらしたでもっと大変ですよ? 成績が悪ければ夏休み中でも補習を受けなきゃなりませんし、最悪留年もありえますからね」

ネギの話にアスナ達5人はあからさまに顔色を青くしていた。まさか、そんな状態になっていたとは思ってもいなかったのである。なお、ネギの話は8割方事実である。高校進学時はどうなるかはネギも確認しただけで、本当にそうなるかはわからない。でも、高校になったら補習や留年は真面目に存在する。もし、そうなったら困るのはアスナ達5人なのだ。

「アスナさんもバイトで忙しいのはわかりますが、せめて復習だけでもしっかりとやってください。それだけでも違いますから。では、プリントを配りますので、それを解いてください。わからない所は手順を教えますので、遠慮なく聞いてくださいね」

言い終えると共にプリントを配るネギ。それを2−Aは戸惑いの様子で受け取っていた。ネギの話が本気で予想外だったことがあり、騒げるような状況ではなかったのだ。正史では野球拳の言いだしっぺでもあった桜子も廊下でのやりとりもあって、それを言い出せる状況ではないと察していたし。そんなわけで重苦しい雰囲気の中、勉強会が始まる。その間、ネギはレックスと共に念話で対策を話し合うのだが……ネギが知らない所で事態が動くこととなる。



「えー!? 最下位のクラスは解散〜!?」

その日の夕方、風呂場にてそんな噂を聞いてアスナ達は驚いていた。むろん、それは単なる噂なのだが……

「で、でも……そんな無茶なこと……」 「ウチの学校はクラス替えなしのハズだよ」 「あ、そういえば……ネギ君、面倒なことになるって言ってたような……」

HRでのネギの言葉もあって、ただの噂のはずが彼女達の間で真実となり始め……更には中学校ではありえない留年や小学校からやり直しなんて話も真実とされてしまい……

「実は図書館島の深部に読めば頭が良くなるという魔法の本があるらしいのです」

なんてことを夕映が言い出したために、話は加速度的にややこしくなってしまう。というのも、アスナ、このか、のどか、夕映の4人は魔法の存在を知るが故に、そういう魔法の本があってもおかしくないと考えてしまったのだ。実際はまずありえないのだが、内3人は魔法を習ってるとはいえまだ初歩の段階である。なので、そのことを知らないのだ。
そんなわけで、いつの間にやら魔法の本を取りに行くことが決定してしまう。その様子を刹那はため息混じりに見ていた。事実がどうなっているのかを知っているが故に……



さて、ネギとアーニャは寮の廊下を並んで歩いている最中であった。

「で、どうするの?」

「今、レックスが出題範囲から予想して、問題プリントを作ってる所だよ。それをアスナさん達に繰り返しやってもらおうと思うんだ」

アーニャの問い掛けにネギは答えるのだが……その表情は優れない。というのも、この方法にはある問題がある。予想したものと実際のものがそっくりそのまま出るとは限らないからだ。それでも予想が外れた箇所が5問程度ならまだいいが、それ以上となるとかなり厳しくなる。
幸い、土日を挟むので、その間に出題範囲内の内容を集中的にやらせようと考える。だが、やはりというか時間が足りない。いかに的を絞ったとしても、覚えてもらうにはそれ相応の努力と時間が必要なのだ。 それでも出来うる限りのことをしようとネギが考えた時――

「あ、いたいた! ネギ、アーニャ。ちょっと来てくれない?」
「はい?」

アスナに呼び止められ、2人は引っ張られるように連れられてしまい――

「あんたらは……本気で何考えてるの!!」

図書館島に通じる橋の手前で、アーニャは激怒していた。ネギも怒ってるらしく、睨みつけるようにアスナ達を見ている。アスナを含むバカレンジャー5人とシェルバ&地下連絡員であるこのか、のどか、ハルナらから、連れてこられた理由を聞いたからなのだが。

「ハッキリと言うわ。んなもん無いわよ!」
『ええ〜!!?』

アーニャの断言にアスナ達が驚きの声を上げる。なまじ、モノホンの魔法使いだけに、その話は真実味を帯びていたし。もっとも、アーニャが魔法使いだと知らない楓、古菲、ハルナ、まき絵は、なんでそんなことを言うのだろうと首をかしげていたけど。

「例え、あったとしてもそれは絶対に碌なもんじゃないわ。それに夕映! あんた、パチェリーさんから魔導書の取り扱い聞いてるはずでしょうが!」

「それは……そうなのですが……」

怒るアーニャに、夕映は居心地が悪そうに顔を背けていた。魔導書は基本的に読む物である。持っていれば効果が現れる物ではない。いや、そういう物も無いわけではないのだが……その手の物は大抵碌な物がない。呪いが掛かってたりとか、原爆みたいなことになったりとか……また、普通に読む物だからといっても安心してはいけない。魔導書の内容をあまり理解せずに使おうものなら……時として同じ結果が待っている。落ち込むアスナがネギの方を見てみるが……未だに怒った様子であった。

「アスナさん達の気持ちもわからなくはありません。ですが、それがなんなのかを確かめずに頼ってはいけないんです。魔法なら、なおさらです!」

明らかに怒ってますよという口調で話すネギの言葉を聞いて、アスナ、このか、夕映、のどかはあからさまに落ち込んでしまう。一方で残された楓達は未だ話が理解出来ず、首をかしげていたが……ハルナだけは瞳を怪しく光らせていた。

さて、そんなネギ達の様子を見ている者達がいた。葛葉刀子、シスターシャクティ、ココネ・ファティマ・ローザ、春日美空。それと真名と刹那である。彼女らがなんでネギ達を見ているかといえば、ネギ達が目的の場所に無事たどり着けるかを見送るためであった。
ネギに言い渡された試験。実は表向きのものであり、本当の目的は魔法使いとしてどう行動するかを見るためのものなのだ。そのため、クラス解散や留年といった噂を流し、夕映が話した魔法の本の置き場所へ向かうように差し向けようとした。そこまでの間にネギとアーニャがどういった対応をするかを見るために。ハッキリ言おう。表向きの理由しか知らないネギにとっては、自分の努力を踏みにじられるようなもんである。
だが、ここでは刀子達にとって……学園長にとっても予想外のことが起きた。まず、アスナ達があっさりと目的を話したことである。流石におかしいと感じたネギとアーニャがしつこく聞いたからだ。そして、もう1つが……これが刀子達や学園長が予想だにしていなかったことだが、ネギとアーニャが本気で反対し始めたこと。
しかも、ただ反対してるのではなく、魔法の存在を隠匿せずにだ。まぁ、これには理由がある。ネギとアーニャは魔導書の扱いに関してはかなり慎重である。ネギ自身が魔導書の扱いが原因で人には明かせぬ体となった経験がある。そのため、かなり慎重になっていたのだ。そんな2人からしてみれば、アスナ達がしようとしているのはあまりにも危険極まりない。なので、魔法の隠匿を忘れてまでも止めようとしたのだ。
が、2人がこんなことをするとは刀子達も学園長も予想外である。そのため、彼女らの間で軽い混乱が起きていた。

「ど、どうしますか、シスターシャークティ……あれ、やばくないですか……」

「え、ええ……そうですわね……」

美空の問い掛けに、シャークティは戸惑いの色を含んだ声で答えるのだが……彼女自身もどうしていいかわからずにいた。まさかネギがあんなことを……あの英雄たるナギの息子があんなことをするとは、シャークティ自身思わなかったのだ。
どうしていいかわからず、彼女達の間で戸惑いが生まれる中、真名と刹那もまた複雑そうに彼女達とネギ達を見ていた。刹那は魔法の隠匿に関して心配してだが……真名はネギとアーニャがどうしてあんなことをするのか、なんとなくだが察していた。何かがあった。だから、ああするのだろう……そう思う。と、その時であった。

「ん? あれって……」 「あの人は……」

ネギ達を見ていた真名と刹那は起きた変化に気付き、思わずそれを凝視してしまう。

「ん、どうかしたのです――」

それに気付いた刀子はネギ達の方へと視線を向け……思わず固まってしまった。

「シンジ……さん?」

そこにいたのは、自分では恋仲になったと思っていた人物、アオイ シンジの姿があったからだが……

「わかりましたか? さぁ、帰りましょう。僕達もがんばって教えますから」

少し時間は遡り……ネギはアスナ達を説得し、寮へ帰そうとしていたのだが――

「その前に1つ聞いていいかな、ネギ君?」

「ん? なんですか?」

「なんで、そんなに必死になるのかなぁ〜って、思ってね。なんか、魔法を連呼してたしねぇ〜」

なにやら、面白そうなものを見つけたと言わんばかりの顔をするハルナ。それを聞いて、ネギとアーニャは自分達の失態に気付いた。良く見れば、楓とまき絵も怪しむような顔をこちらに向けている。古菲だけは、相変わらず首をかしげていたが。
ともかく、あまりにも必死になりすぎて、魔法の隠匿を忘れていたのは事実である。どうしたものか……ネギとアーニャがそのことで互いの顔を見た時――

「それはそれとして、魔法の本の代わりといってはなんですが、有意義に勉強が行える場所に案内いたしましょう」
「へ? って、シンジさん!?」

いきなり聞こえてきた声に顔を向けて、驚くネギ。そこにはにこやかな顔をするシンジがいたのである。

「あなたは?」

「まぁ、水先案内人……と、今は名乗っておきましょう」

ハルナの問いにシンジはにこやかに答えた。それをポカンと見守る一同。楓と古菲も構えるのを忘れて……まぁ、楓と古菲から見たら、シンジは普通の人と変わらないように見えたのだ。戦う者として優れたる彼女達から見ても……だ。

「というわけで10名様、ごあんな〜い」

なんて、楽しそうに言いながら指を鳴らすシンジ。

「へ、って、うわぁぁぁぁぁぁ!!?」 「なにこれぇぇぇぇぇ!!?」 「なんで、スキマぁぁぁぁぁぁ!!?」 「いや〜ん!?」 「にんにん」 「アイヤ〜!?」 「うひゃあぁぁぁぁぁ!?」 「きゃあぁぁぁぁぁ!!?」

それを待っていたかのように、ネギ達の足元に現れるスキマ。そのまま、ネギ達はスキマへと落ちていき……やがて、スキマは閉じてしまった。

「やれやれ……それでネギ先生達はどこへ?」

「幻想卿の紅魔館ですよ。フランちゃんの相手と献血することで、勉強場所を提供してもらいました」

スキマが閉じるのを待っていたかのようにやってきた真名の問いに、シンジは穏やかな顔で答えるのだが……

「では、お嬢様は……」

「無事ですよ。すでに着いて、丁重にもてなされてるはずです」

心配そうな顔をする刹那に答えてから、シンジはこちらを見る女性へと顔を向ける。いや、睨んでると言った方がいいかもしれない。刀子の顔は正にそうと言えるものだったから……

「シンジさん……あなたは……何者なのですか? 何が目的でこんなことを――」

「何者か……は、ナギさんに直々に頼まれたネギ君の後身人です。何が目的かは……まぁ、麻帆良に危機感を持ってもらうことでしょうかね?」

「どういう……ことですか!」

睨み付ける刀子の問いにシンジは穏やかな顔で答えるのだが、シャークティも叫びながら睨みつける。まぁ、彼女から見れば怪しい人そのものなので、当然とも言えるが。

「言葉通りですよ。麻帆良は日和見気味のようですからね。ここいらで危機感を持って欲しいのですよ。ま、ネギ君に対する扱いが気に入らないというのもありますがね」

そんな彼女に気にすることもなく、変わらぬ様子で答えるシンジ。それにシャークティは怒りを強めるが――

「というわけでして、あなた方も行方不明になってもらいます」
「へ?」 「は?」 「何言ってんの?」

シンジのいきなりの言葉に戸惑う面々。美空が思わずぼやいた直後、アスナ達と同じようにスキマに落とされ、悲鳴を上げることとなる。

「なんじゃと!?」

ネギ達と監視していた刀子達が行方不明になって十数分後。そのことを知った学園長は、驚きを隠せずにいた。というのも、どうして行方不明になったのかがまったくわからない。結界に反応はまったくといっていいくらいに無かった。
ネギ達や刀子達を合わせればかなりの人数となる。それだけの人数を誰にも悟られず、結界にも反応させずに連れ去るなぞ、まず不可能だ。それにネギやこのか、アスナに関しては連れ去られる理由がなくもないが、他の者達まで連れ去る理由がわからない。
ともかく、ネギの魔法使いとしての技量を図るための準備をしていたのが無駄になったが、そんなのは関係無いと学園長はネギ達を探すために奔走することとなる。当然の如く、ネギ達のクラスでも混乱が起き、それを鎮めようとしずなと高畑が奔走するハメとなった。

さて、ネギ達はどうしたかといえば――

「というわけで、ここはこうなります。また、この問題は――」

洋風の広い部屋でネギの授業を受けていた。受けているのはバカレンジャー5人にこのかとのどか、ハルナに真名と刹那、美空である。なぜか、その中にパチェリーの姿があったりするけど……彼女は外の世界の学問に興味があったので、参加してたりする。

「みなさま、お茶の時間ですわ」

「あ、咲夜さん。ありがとうございます。それでは休憩時間にしますね」

カップに満たされた紅茶を人数分載せた台車を押しながら現れた十六夜咲夜にお礼を言ってから、休憩を入れることにしたネギ。それを聞いて、授業を受けていた者達は伸びをするなどしていた。
いきなり幻想卿に連れてこられ、まき絵や美空などは混乱していたが……現れたシンジやネギらから幻想卿や魔法使いのことを聞き、打って変わって興奮した様子でまき絵とハルナは興味を持った。一方で刀子とシャークティは混乱しつつも怒り出す。幻想卿という異世界にいきなり連れてこられたこともそうだが、隠匿すべきことを話されたからである。
まぁ、シンジもそのことはわかっていたので、楓、古菲、まき絵、ハルナに幻想卿を含めて内緒にするように言っておいた。その際、バラしたらあれを喰らわせますと咲夜の弾幕を見せ……それを見た直後、楓達は必死に首を縦に振ることになったが。 その後、カモとレックスも紹介され(なぜか、喜ばれた)、ネギ達は期末テスト対策として紅魔館の一室を借りて勉強会を行うこととなり――

「ねぇねぇ、弾幕ごっこしようよ」

「弾幕ゴッコ?」

「フランちゃん……ココネちゃんにそれをやっちゃダメですからね……」

庭でココネと遊んでいたフランがそんなことを言い出す中、止めるシンジ。その様子をベランダから複雑そうな顔で見ているシャークティと刀子。シンジからここへと連れられた理由は聞いたが、納得してはいない。いや、出来ない。理解も出来ない。そんな必要があるのかとさえ思うのだ。
麻帆良の日和見は……確かに否定は出来ない。だが、だからといってこんなことをする理由がわからない。それにネギに対する扱いが気に入らないとはどういうことなのだろうか? 自分達はネギを無碍に扱った覚えは無いのに――

「あら、どうかしたのかしら?」

そんな2人をレミリアは楽しそうに見ていた。とたんに不快な顔をするシャークティ。まぁ、シスターでもある彼女にしてみれば、吸血鬼たるレミリアは天敵とも言える。本来なら、文句の1つも言いたい所なのだが……出来ない。シンジに敵わないから、絶対に手を出すなと言われたからだ。
その時はそれがどうしたと思ったが……じゃあ、見せてあげるとばかりにレミリアはフランと共にシンジ相手に弾幕を張ったのだ。しかも、スペルカード付きで。シンジもいきなりのことに驚きながらも、避けたり弾いたりしてしのいでいたが……刀子とシャークティを驚かせるには十分であった。同時に実力差を思い知らされ……こうして、文句も満足に言えない状態になったのである。

「1つ……お聞きしていいでしょうか?」

「何かしら?」

「シンジさんは……何者ですか?」

フランとココネの相手をしているシンジを見つめたまま、刀子はレミリアに問い掛ける。彼は……優しかった。紳士的に接してくれるし、悩みとかを嫌な顔をせずに聞いてくれる。他にも色々とあって、その度に彼には色々と助けられた。そんな彼がなぜこんなことをするのか――

「そうね……私が知っているのは2つ。彼は昔、黒き勇者と呼ばれていたということ。そして、今も昔も滅ぼす者ということよ」

楽しそうに語るレミリア。だが、シャークティと刀子は目を見開き、驚いていた。黒き勇者の名は裏の世界に関わる者なら、まず知らない者はいない。世界各国では数々の組織や軍隊を、魔法界ではいくつかの国を潰した存在。数多くの破壊と殺戮を振り撒いた者……それがシンジだとは……どう考えても信じられなかった。だって、そういうものが彼からまったく感じられないのだ。
刀子はこれでも神鳴流の使い手である。なので、相手の技量を読み取ることもある程度だが出来る。でも、そんな彼女から見ても、シンジは普通の人にしか見えない。動きや気配。どれを見ても、一般人と変わらないようにしか見えないのだ。

「滅ぼす者……とは、なんなのですか?」

「言葉通りよ。彼はね、ありとあらゆる世界の全ての未来を滅ぼせるのよ」

「ま、私はそんなことするつもりはまったくと言っていいほどありませんがねぇ〜」

シャークティの疑問にレミリアは楽しそうに答えるのだが、それにツッコミを入れる者がいた。両肩にフランとココネを乗せてやってきたシンジである。

「あら、そうなの?」

「んなことして、楽しむ趣味はありませんよ。ていうか、そういうのを楽しむのは、よっぽど奇特な方だけです。私はそんな奇特な人になった覚えはありませんよ」

からかうように問い掛けるレミリアに、両肩に乗せていた2人を降ろしながらシンジはやれやれといった様子で答えるのだが……シャークティと刀子はそんな2人を戸惑いながら見ていた。普通すぎる。話していることはとても普通じゃないけど……なのに、彼らは普通に話していた。まるで友達同士が日常会話を楽しむように。

「あなたは……なんとも思わないのですか? 彼は――」
「それがどうしたというの?」

「それに話してませんでしたが、この幻想卿では運命を操る程度の能力とか、ありとあらゆるものを破壊する程度の能力とか、死を操る程度の能力とか、境界を操る程度の能力とか、歴史を食べたり創ったりする程度の能力とか、狂気を操る程度の能力とか、あらゆる薬を作る程度の能力とか、永遠と須臾を操る程度の能力とか、奇跡を起こす程度の能力とか、神を創る程度の能力とか……そういう能力を持ってる方々が住まう世界ですよ。私なんて、まだマシな方かと……」

 何かを言おうとしたシャークティであったが、レミリアの気にしてないという様子と、シンジの言葉何も言えなくなってしまう。というか、出てきた能力の数々を疑ってしまう。あまりにもとんでもない故に、逆に信じられなかったのだが――

「それは……本当なのですか?」

「試してもらいます? ちなみにレミリアさんが運命を操る程度の能力を。フランちゃんがありとあらゆるものを破壊する程度の能力を持ってますけど?」

流石に疑う刀子であったが、シンジの言葉に思わず引いてしまう。まぁ、いくら疑ってるとはいえ、もし本当ならと思うと怖いからだが……

「では、あなたはネギ先生をどうするおつもりなのですか?」

鋭い瞳で睨みながらシャークティは問い掛ける。黒き勇者と呼ばれた者のこと。碌な事をしないと考えたのだが……

「そうですねぇ……人としての幸せを得て欲しいとは思うのですけどねぇ……」
「は?」

だが、思いもしなかった返答に、思わず呆気に取られることとなったが。

「ネギ君が目標を持ってそれを貫こうとするならば、私はそれを応援したり、必要ならば教えたり手を貸すだけです。それ以外のことに口出しする気も手を出す気もありませんよ。ああ、危害を加えようとする輩がいましたら、容赦なく叩き潰しますがね」

穏やかな顔で話すシンジだが、シャークティと刀子は息を呑んでその話を聞いていた。穏やかな顔をしているはずなのに、感じられるのは確かな意思。その意思に半ば呑まれそうになっていたのだ。

「私はね……ナギさんの息子だとか、そういうのとは気にせずに生きて欲しいのですよ。もっとも、周りがそうさせてくれないのが悲しいですが……」

「彼はナギ・スプリングフィールドの息子です! それに恥じない生き方をすべきです!」

どこか遠くを見るようなシンジに、シャークティは叫ぶように返した。ネギは英雄と呼ばれたナギの息子。ならば、それに恥じないようにするべきだ。それがシャークティの考えだ。シスターでもある彼女だからなのかもしれないが……

「それはただの押し付けですよ」
「え?」

だが、返ってきた返答はまたしても思いもしなかったもので、再度呆気に取られるハメとなったが――

「人が他人の生き方にあれこれ言う権利は本来は無いのですよ。例え、それが親であったとしてもね。 あなたが言うことも結局は押し付けでしかありません。ネギ君は確かにナギさんの息子であり、ナギさんは英雄と言われるような行いをしました。だからといって、息子であるネギ君がそれに見合った生き方をする必要は無いのですよ」
「で、ですが――」

「では、あなたはネギ君にどれだけいるかもわからない敵を全て倒せと言うおつもりですか? 極論ではありますが、あなたが言おうとしてるのはそういうことですよ? 何しろ、ナギさんはそういったことをしてきたのも事実ですしねぇ。ナギさんに見合ったことをしろというのならば、これくらいしないといけなくなりますが?」

シンジの言葉にシャークティは反論しようとするのだが、次に出てきた言葉に目を見開くこととなった。確かにシンジの言うことは極論だ。だが、ナギが今までそうしてきたのも事実だ。もちろん、ナギは自ら戦いを望んだわけではない。ナギは守ろうと思ったものの為に戦った。その結果として、数多くの敵と言われる存在を倒すこととなったのだ。
そして、その話をシャークティは知っている。多少美化されてはいるが、その事実は確かにあった。確かにそんなことをしろとは流石に言えない。事実、死ねと言ってるのに近いのだから……

「それに考えてください。ネギ君に課せられた修行の事を……あれが10歳の子供のすることですか?」

「しかし、修行ですし……その……ネギ君ですから――」

「では、聞きます。ネギ君がしてることを、同じ10歳の子供が出来るとお思いですか?」

シンジの話に刀子も反論しようとするのだが、やはり次に出た言葉に何も言えなくなる。いくら修行とはいえ10歳の子供が中学校の教師を行い、担任までこなす。それなりの経験を積んだ教師がしていることを、10歳で教師を始めたばかりのネギがしている。ハッキリ言おう。ネギは良くやっているという言葉では足りない位のことをしている。むしろ、出来すぎていると言ってもいいくらいだ。
普通、10歳ならば育った環境にもよるだろうが、精神的にも経験的にも肉体的にも未熟であり、色んなことに興味を持つ遊びたい盛りの頃だ。正史もそうであったが、ネギはそういうものには興味を抱かず、常にがんばって教師を務めてきた。なのに、周りは「流石はナギ・スプリングフィールドの息子。がんばってるな」位にしか見ていない。ナギ・スプリングフィールドの息子というフィルターが、本来の評価を隠してしまっているのだ。

「確かに環境によってはそれが許されないこともあるのも事実です。ですが、ネギ君の場合はナギさんの息子というだけで無茶なことをさせられてるのが実情です。期待をするのは別に構わないですが……出来て当然だとばかりに物事を押し付けるのはどうかと思うのですよ。それが10歳の子供なら、なおさらに、ね。ネギ君に対する扱いが気に入らないとはそういうことなのですよ」

シンジの話に刀子とシャークティは何も言えなくなり、うつむいてしまった。よくよく考えればおかしいことなのだ。10歳の子供が教師をするだけでなく、担任までこなすというのは。なのに、それが当然だと思ってしまった。英雄ナギ・スプリングフィールドの息子なのだからと……

「私に言わせれば、周りの人達がやっているのは自分達が思い描く英雄像をネギ君に押し付け、その通りに作り上げようとしているようなもんです。果たして、それがいいことなんでしょうかね? 私はそうは思えませんが……」

シンジの容赦無い言葉。でも、シャークティと刀子は何も言えない。気付いてしまったのだ。シンジが言おうとしてることを……自分達がしていることは、自分達の意のままに動くロボットを作ろうとしている。そして、それをネギに対して、行おうとしている。そんなつもりは無かった。自覚さえ無かった。でも、言われてしまうとそう思えてしまう。

「私達は……間違っていたのでしょうか……」

ぽつりとシャークティは漏らした。当然だと……正しいと思っていたことがそうでは無かった。それが彼女を思い悩ませる。

「さてね。あなた方の場合、ナギさんの息子というのが先に出てしまったのでしょう。一概に誰が悪いとか言い出したら、キリがありませんよ」

その疑問にシンジは肩をすくめながら答えた。そう、これは誰が始めたとか、そういうものではない。 誰もが英雄ナギ・スプリングフィールドの息子だから、それが当然なんだと考えてしまった。ネギに才能があったばかりに、それがあまりにも多くの人に広まってしまったのである。きっかけはあったのだろうが、それがなんなのか探すのは……もう無理だろう。

「私は……なにを……こんなのだから、美空は……」

「美空さん、どうかしたのですか?」

「ミソラ、言ってタ。魔法使いになるつもりは無かったけど、お父さんやお母さんに言われて、仕方なくやってるっテ」

気付かされて湧いて出てくる罪悪感にさいなまれるシャークティ。その時に出た名前が気に掛かったシンジがココネに問いかけ、彼女は知っていることを話した。美空の場合、両親の方針により魔法使いをすることとなったが、彼女自身はそんなつもりは無い。習得している魔法にイタズラ関係が多いのは、その現れかもしれない。

「ふむ、もしかしたら美空さん、自分でも何がしたいのかわかってないのかもしれませんね」

だが、シンジはココネの話を聞いて、そう考える。美空は陸上部に所属してはいるが、魔法使いの修行としてシスター見習いをしてるいるせいもあって、本格的にやっているとは言いがたかった。もし、どちらか一方を専攻していたのなら、美空はそれを目指していたかもしれない。でも、彼女は両立させるわけでもなく、ただやっているだけ。ココネの話だけなので必ずしもそうではないのだろうが、聞く限りではシンジはそう思えてしまう。

「私のせい……なのでしょうか……?」

「さぁ? 誰にだってやりたいことはあるでしょうが、自分が本当にやりたいことを見つけれる人は早々いませんからねぇ。ただ、あなたの場合はそれしかないと、それを美空さんに押し付けようとした。良くも悪くもあなたは真面目すぎたのですよ」

ふと、考えてしまった思いを漏らすシャークティに、シンジはそう言い放つ。別にシャークティが悪いわけではない。だが、それしかないという思いが盲目的になり、結果そうなってしまったのだ。

「ま、機会を見て話し合ってはいかがですか? 一度や二度で答えは出ないでしょうが話してみれば、道が開ける可能性も……あるんでしょうかね?」

「なんで疑問形なのよ?」

「いや、美空さんってシャークティさんを苦手にしてるみたいですしねぇ。話し合うと聞いて、説教されると思って逃げたりしないでしょうかね?」

レミリアのツッコミにシンジはしれっと答えるのだが、そうかもとシャークティは思ってしまい――

「ぷ……」

思わず笑みが出てしまう。

「すみません。あなたがそんなことを言うものだから、思わず……ですが、不思議ですわ……あなたは本当に黒き勇者ですの?」

謝りながらも、シャークティは出てくる疑問を投げ掛ける。どう見ても、シンジが黒き勇者には見えない。どこにでもいそうな……いや、ここまで穏やかな者は早々いないだろうが……青年にしか見えないし――

「それは周りの人が勝手にそう呼んでるだけですよ。私自身、その名を名乗ったことはありません。そして、これからも、ね」

シンジは気にした風もなく答える。それを見ていた刀子は思った。おかしな人だと……でも、同時にわかる。彼がネギを大事にしていることを。本当は違うのだが、刀子にはそう思えてならなかった。それに言うことも的確だし、いい人だし……気付かない内にシンジへの思いを強めている刀子であった。

さて、アスナ達は期末テスト勉強だけをしているかといえば、そうでもない。

「アイヤー!」

「そんな見え見えの打撃では当たりませんよ」

古菲の突きを左腕で軽く防ぐ美鈴。妖怪としては弱い部類の彼女ではあるが、それはあくまで弾幕ごっこでの話だ。格闘に関していえば、かなりの強さを持つ。なまじ、妖怪だけにその身体能力は高いのだ。もっとも、古菲も負けてはいない。手加減されてるものの、人の身で彼女と打ち合える実力は年齢的に見ても高いことが伺える。

「ほらほら、それでは当たりませんよ〜」

「く……流石は烏天狗ということでござるか」

こちらは楓が投げ放つクナイをこともなげに避けてみせる文。ちなみに楓は分身を使っての攻撃なのだが。なんで、文が楓の相手をしてるかというと、外の世界からまた新たに人が来たと知った文が取材に来たのはいいのだが……そこでシンジに捕まり、楓の相手をしてくれと頼まれたのである。これを文は仕方なしに了承。シンジには取材などで借りがあるため、断れなかったのだ。
ベランダの方ではこのか、のどか、夕映、アーニャ、ココネがパチェリーから魔法の講義を受けており、アスナとまき絵、真名とハルナに美空はそれぞれを見学している。
こんなことしててもいいのかと思いそうだが、シンジ曰く「適度に息抜きはあった方がいい」とのこと。これが果たして息抜きになるかは不明だが……彼女らの顔を見てると、それなりに息抜きになっているようだ。
もっとも、シャークティと刀子が見ているものはそうは見えなかったが……ていうか、かなり緊迫した雰囲気と言える。その発生源は3つ。1つは夕凪を構える刹那。もう1つは二刀を構える妖夢。最後は杖を持つネギである。その3人が睨むように見るのは1人の男。ご存知、シンジである。彼、腕を組みつつ穏やかな顔で3人を見ていたのだが……

「いきます!」

宣言するかのように叫んだ刹那が仕掛ける。上段から振り下ろすように夕凪を振り下ろすが、シンジは後ろに跳んでかわし――

「おおぉぉぉぉぉ!!」

そこに妖夢が弾幕を交えて突っ込んでくる。それをまるでダンスのステップを踏むかのように回り込み、弾幕と振り下ろされる二刀を避け――

「あう!?」

まるでのれんをくぐるかのように手の甲で妖夢を払いのけてしまう。力を入れてないので妖夢はバランスを崩す程度だったが、それが元で足をもつらせて見事に転んでしまった。

「いけぇ!」

それを待ってましたとばかりにネギも弾幕を張った。弾幕は幻想卿に来てから覚えたものだ。流石に幻想卿の者達から比べたら稚拙なものだが、それでも無詠唱で放つ魔法の矢と比べればその数はかなりになる。その弾幕を張ってから、ネギは懐から1枚のカードを取り出す。これもまた、この幻想卿に来てから覚えたもの。それを持ちながら、弾幕を避けるシンジの動きを見逃さぬよう、睨むように見つめ――

「恋符『マスタースパーク』!!」

ここだと思った所にスペルカードの一撃を放った。マスタースパーク……黒白の魔法使い霧雨魔理沙が良く使うスペルカードを、ネギが真似て作ったものだ。本家とも言える魔理沙と比べたら威力こそ劣るものの、光の濁流はシンジを呑み込まんと襲い掛かる。それをシンジは右腕を薙ぐように振り上げ、光の濁流を掻き消し――

「あう!?」

ついでにネギを吹き飛ばす。それを見届けずに、シンジは懐に右手を突っ込みながら素早く移動する。その先にいるのは刹那――

「はう!?」

迎え撃とうとしたのだが、シンジは懐から出したハリセン(懐に入ってたとは思えないデカイサイズ)の一閃を脳天に受け、その場にうずくまってしまった。

「はい、終了。妖夢さん、弾幕を織り交ぜるのはいいとしても、ただ突っ込んできたらダメでしょうが。刹那さんも連携が取りづらいのはわかりますが、それならそれで事前に打ち合わせするなりしたらいいでしょうに。で、ネギ君。あなた、私の後ろに紅魔館ある時を狙ってスペルカード使いませんでしたか?」

「あはは……そうすれば、シンジさんは避けないと思ったもので……」

「私が避けたらどうするつもりだったんですか……」

ハリセンを肩に掲げつつ評価を下すシンジだったが、ネギが頭を掻きつつ苦笑交じり話した理由を聞いて呆れてしまったが……

「あら……それじゃあ、お屋敷に当たったらどうするつもりだったのかしら?」

「え? あ、その……それは……ですね……」

いつの間にやら横にいたレミリアに問われ、ネギは慌てふためく。というのも、シンジならどうにかするだろうと思っていたのだが、もしものことはまったく考えてなかったのだ。それに気付いたのだろう。レミリアが怪しい笑みを浮かべながらネギに迫り――

「今日はあなたの血を頂こうかしら? たまには若い子の血も飲みたいしね。咲夜」

「はい」

「ち、ちょっと待ってくださいぃぃぃ!!? シンジさん、助けてぇぇぇ!!?」

「自業自得です。あ、レミリアさん。飲むのはいいですが、少しだけですよ? ネギ君はこの後もやることがありますしね」

レミリアの指示でいつの間にいたのか、咲夜が後ろから羽交い絞めにする。それに慌てるネギであったが、シンジはやれやれといった様子でそれを見ているだけであった。
さて、一連のことを見ていたシャークティと刀子は……正に開いた口が塞がらない状態になっていた。 ネギがあそこまで戦えることに驚いたのもそうだが、ネギ達3人の攻撃をあっさりといなしてしまうシンジの実力の高さにも驚かされた。先程、どう見ても黒き勇者に見えないと思ったばかりだが……こうして、戦う姿を見てると呼ばれるだけのことはあると思わされてしまう。

「それはそうと、刹那さんも本格的に弾幕やスペルカードを覚えてみてはどうですか?」

「え? ですが……」

シンジの提案に刹那は躊躇いを見せた。というのも、純粋に出来るのか? というのが疑問だった。それに符術などはある程度出来るとはいえ、まったくの畑違いと言える弾幕に抵抗を感じたのもある。

「弾幕の方は妖夢さんや文さんのを参考にするといいでしょう。スペルカードの方も構成を覚えれば、符術と同じ要領で使えるはずですしね」

「なるほど……」

が、シンジの説明に納得する。それにスペルカードに魅力を感じているのも事実だ。何しろ、無詠唱並の早さで強力な技を使えるのだ。戦う者としては、その辺りに魅力を感じないはずが無いのである。

「それに弾幕を覚えれば、このかさんの護衛の時に役に立つと思いますよ? 襲ってくるのが1人とは限りませんしねぇ〜」

「それは……確かにそうですね」

シンジに言われて、刹那はそのことに気付いた。確かにこのかを狙う者が1人とは限らない。数人、もしくはそれ以上の可能性だってある。そうなったら厳しいのは刹那だ。神鳴流に多数の相手に攻撃する技が無いわけではないが、容易に使えるものでもない。そんな時に弾幕を使えれば――

「妖夢さん、弾幕を教えてもらえませんか?」

「ええ、いいですよ。一緒にがんばりましょう」

頭を下げる刹那に、妖夢は笑顔で答えていた。それをうんうんとうなずきながら見ているシンジ。

「乗せるのが上手いわねぇ〜」

「ですが、覚えた方がいいのも事実ですよ。彼女がこのかさんを守るつもりならば、そのような手段を持っていても損にはなりませんしね」

いつの間にやら幽々子と共に横にいた紫に、シンジは気にした風も無く答えるのだが……シャークティと刀子は顔を引き攣らせていた。つ〜のも幽々子もそうだが、紫から感じる力や存在感は2人にとってはまさしく畏怖。まるで自分達を容易く塗りつぶしてしまうような、そんな感覚。自然と恐怖から震えが来てしまい――

「ところで2人とも、気配は押さえ込んでもらえますか? 刀子さん達は慣れてないんですからね」

「あら、ごめんなさいね」

ため息交じりのシンジの言葉に紫は幽々子と共に笑みを浮かべ、途端に刀子とシャークティは尻餅を付いてしまった。2人から感じられた気配が無くなって開放されたものの、腰が抜けてしまったのである。

「あ〜、大丈夫ですか? 申し訳ありません。紫さん達も悪気があったわけでは――」

「なんだか楽しそうじゃん! あたいも混ぜてよ!」

謝りつつ、刀子達に手を差し伸べるシンジ。が、その時上の方で少女の声が聞こえてきた。誰もがそこに顔を向けると、そこには1人の少女が空に浮かんでいた。氷の羽と青のワンピースを着ている少女。氷の妖精チルノである。そのチルノは面白いものを見つけたとばかりに笑顔になっているのだが――

「ふふふ……来たわね!」
「あ、アーニャちゃん!」

このかが止める間も無く、不敵な笑みを浮かべるアーニャはチルノへと向かい飛んでいく。

「あ、あんたは!」

「よくもまぁ、のこのこと現れたわね、この馬鹿妖精! 13戦5勝5敗3分け……今日は勝って勝ち越すわよ!」

「へん! さいきょーのあたいに勝てると思うなよ〜!」

なんてことを言い合ったかと思うと、いきなり弾幕ごっこを始めるアーニャとチルノ。スペルカードまで使ってるので、それなりに苛烈なことになっていた。
ちなみにアーニャがなんで戦いを挑んだかというと、以前チルノコテンパンにされそうになったことがあった。しかも、その時にあれこれ言われたらしい。その時は通りかかった魔理沙に助けられたものの、以来リベンジとばかりに弾幕ごっこを挑むようになったのだ。弾幕を覚えたのも、チルノと弾幕ごっこをするためである。では、なんで魔理沙とやらないのかといえば、アーニャ曰く「あんなの喰らったら死ねるわ!」なのだそうだ。ま、マスタースパーク喰らったら、ひとたまりも無いのは事実だし。

「なんですか……あれ……」

「なんていうか……ライバル? まぁ、刹那さんもあれくらい出来るようにがんばってください」

「は、はぁ……」
「なかなか凄いでござるな〜」 「そうアルねぇ〜」

シンジの話しに刹那は返事を返すのがやっとであった。ていうか、あれって自分に出来るんだろうかと、ちょっぴり後悔したりもしたけど。そんなアーニャとチルノの弾幕ごっこを楽しそうに見ている楓と古菲。他の者達も呆れたり戸惑ったり面白がったりと、思い思いにその光景を見ていた。
その光景に刀子とシャークティは不思議そうに見ていた。魔法という存在と裏の世界に触れる自分達でさえ、非常識だと思えるものが目の前にある。なのに、ここの者達は……麻帆良から来た者達でさえ、それを楽しんでいた。なぜ、そうでいられる? それが不思議でならない。

「どうしました? 不思議そうな顔をして?」

「え? いや、その……なんか、凄いなって思いまして……」

シンジの問い掛けに刀子は言いにくそうな顔をしていた。なんて言えばいいのかわからない。自分達には非常識な光景。でも、なぜかそれが当り前のようにも思えてならない。だから、そうとしか言えなかった。

「ま、慣れですよ、慣れ。慣れてしまえば、ここもいい所ですよ」

「は、はぁ……」

笑顔のシンジに、刀子はただ曖昧な返事を返すのがやっとであった。ただ、それはそれで問題があるような気がしてならなかったが……
そんなこんなで、幻想卿での1日はすぎていくのであった。なお、アーニャとチルノの弾幕ごっこの結果は、引き分けであったことを記しておこう。



試験前日の夜、行方不明となっていたネギ達が図書館島内部で、全員気を失った状態で発見された。行方不明中の記憶は無く、気が付いたらあそこにいたと証言。得られた情報が少なすぎたため、調査は混迷を極めることとなった。
次の日、ネギ達の無事を喜びながらも試験を受けた2−A。結果はブービーであったが、最下位脱出にクラスメートはささやかながらに喜んでいた。学園長も約束であるため、ネギの正式採用を決定することとなる。もっとも、ネギの実力を見ることが出来なかったので、次の策でそれを確かめようと考えていたりするが……この時、学園長は気付いていなかった。シンジが着々と麻帆良での自分の足場固めをしていたことを――

ま、それはそれとして――

「かんぱ〜い!」

魔理沙の音頭で始まる宴会。その中にはネギ達はもちろんのこと、刀子やシャークティ、ハルナにまき絵、楓に古菲、美空にココネの姿もあった。今回はシンジの誘いもあっての参加であり、麻帆良の方はデコイで誤魔化してある。

「なんか、凄いですね……」
「まぁ、色々な人が来ますしねぇ〜。おや、アリスさんもいますね。普段は参加しない方なんですが、珍しいですねぇ〜」

刀子の感想に答えつつもアリス・マーガトロイドの姿を見つけて、そんなことを漏らすシンジ。あちらの方ではハルナとまき絵、古菲が鈴仙やてゐと楽しそうにしている。鈴仙が若干、戸惑っているようにも見えたが。まぁ、その光景はこの宴会の中ではあちこちで見えていた。誰かに絡まれてたり、楽しそうに飲んでいたり……ともかく、とても賑やかなのは間違いない。

「人と妖怪……妖精がこうして揃って宴会をするとは……普通ならば、信じられません」

「あの人達にしてみれば、そんなのは些細なことのようですがね」

宴会を眺めるシャークティに、シンジは答えつつ酒を飲んでいた。なお、今回の宴会にはチルノとその親友である大妖精に他の妖精も参加している。

「ですが、人喰いをする妖怪もいるのでしょう?」

「弱肉強食……と言ってしまうのもあれですが、ここではそれが当然みたいなもんですしね。ま、いくら人喰いをするといっても、その人達も節度がわかってますからね。むやみやたらに襲い掛かったりはしませんよ。それに認めてもらえれば、友好的に接してもらえますしね」

若干、不安そうな刀子にシンジはにこやかに答えた。確かに厳しさはある。だが、同時に穏やかさもあった。シンジはその穏やかさが気に入っていた。それがこの幻想卿に通う理由でもあるのだが――

「それはそうと、彼女達はなんなのですか?」

納得しつつも、なぜかじと目になる刀子。彼女が見たもの。それは真名や輝夜、四季や幽香に囲まれているシンジの姿だった。というか、先程からこんな形になっていたのだが……

「なんていいますか……知り合い?」

「あら、私達はその程度の仲ではないでしょう?」

なぜか首を傾げつつ答えるシンジであったが、輝夜の妖艶な笑みを含んだ言葉に刀子の瞳が鋭くなる。

「どういうことなのでしょうか? シンジさん?」

「あ〜……色々とあったとしか言えないのですがねぇ……」

睨む刀子にシンジは乾いた笑みを浮かべるしかなかったのであった。そんな光景をシャークティは微笑ましそうに見ていた。不思議な人だと思う。何がどう不思議なのか聞かれてしまうと困ってしまうが。でも、そうとしか言えない。その時々で違うものを見せられてしまっては、そうとしか思えなくなってしまうから――

「本当……不思議な人」

女性5人に絡まれるシンジを見つめながら、シャークティはふとそんな一言を漏らすのであった。
余談となるのだが次の日の朝、なぜか肌が艶やかな6人の女性の姿があった。その中の1人がなぜか顔を紅くしてたりするのだが……その1人の姿がシスター姿だったりするのは……本当に余談である。



あとがき

DRT:つ〜わけで第3話はいかがでしたでしょうか?
シンジ:流れ(女性関係)がデビルウォーカーと同じなのだなぜだ?
DRT:なんつ〜か、好み?
シンジ:お前って……
DRT:まぁ、趣味に走ってるのは事実だけどね〜。そのおかげか、筆も進んでるんで助かってるけど。
シンジ:いや、それはそれでどうかと思うんだがな……
DRT:ははは。さて、次回は早々にエヴァ編です。エヴァ相手にシンジ君がどう動くのか必見です!
シンジ:プロットみたら、ついに麻帆良の表舞台に立つことになりそうだな、俺。
DRT:そゆこと。ではでは、お楽しみに〜
シンジ:楽しみにしてる奴、いるのか? この作品に?
DRT:それは言わないで……


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