さて、あれから数日。ネギは少しづつ麻帆良に馴染んでいきながら、教師を務めていた。

「それじゃあ、ここを……アスナさん、訳してください」

「なんで私なのよ!?」

「いや、適当にですけど……もし、わからないならおっしゃってください。授業というのはわからないことを教える場ですから。それにシン……ごほん。僕の先生も言っていました。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と。つまり、わからないことを聞くのは恥ずかしいかもしれませんが、わからないものをそのままにしておくのも問題があるということです。それはそれとして、この本文なんですけど……わかりますか?」

「う、その……わかりません……」

「あ、そんなに落ち込まないでください。ちなみにこの本文は――」

とまぁ、シンジの教えによってそれなりにフォローもこなすネギは、クラスの評価もそこそこに得ていたのであった。
そんなこんなで、麻帆良に来て最初の休日となる前日――

「ネギ、そっちは?」

「着替えは終わった所だよ。レックス、持って行くのはノートパソコンだけでいいの?」

〈今のところはそれでいいだろう。あそこへは必要以上にここの物を持っていくわけにもいかないからな。念のため、バッテリーは持って行く必要はあるが〉

なぜか、アーニャと共に準備をしていた。まるで旅行にでも行くような準備を。

「あのさ……なにやってるの?」

「あ、修行です。僕達が魔法使いの修行でここへ来たのは話しましたよね? でも、この近くだと魔法の方の修行をするのが難しくて」

「一般人には魔法のことは秘密だからな。だから、一般人がいない所へ泊りがけで修行をすることになったのさ」

アスナの疑問にネギが答え、カモが補足する。それにアスナは「ふぅ〜ん」と納得したような顔をしたが……

「それはネギ先生とアーニャさんだけでですか?」

「レックスとカモも一緒だけど……私達だけじゃないわね。一応……」

のどかと共にいた夕映の疑問に、アーニャが考えつつ話す。なにしろ、明日向かう場所は秘密にしなければならないのだし。

「あのなぁ〜。うちらも一緒にいっちゃダメかな?」

「え? え〜と……泊りがけになりますよ? それにシンジさん……僕達の先生なんですけど、その人にも聞かなきゃなりませんし……」

「にしても、なんでまた?」

このかの疑問にネギは戸惑いつつも何とか断ろうとして、アーニャがそんなことを聞いてくる。

「あのなぁ〜、うちも魔法習えないかなぁ〜、思ってな」

「あ、なるほど……その気持ち、わかるです。私も魔法というものに興味があるですし」 「わ、私も……です」

このかの返事に夕映とのどかもうなずく。ネギ達が魔法使い見習いと知ってからというもの、魔法というものに触れてみたくなったのだ。特に夕映は、新たな知識を得られるかもと乗り気である。

「は、はぁ……一応、聞いてみますね。レックス、シンジさんにメールで聞いてみてくれないかな?」

〈了解した〉

「もし、OKなら私も付いて行っていいかな?」

レックスがネギに返事を返した後に、そんな声が聞こえてくる。振り向いてみると、そこにはいつの間にいたのか、壁に背を預ける真名の姿があった。

「真名さんも魔法を習うん?」

「いや、私は別の用事でね」

〈返事が来た。OKだそうだ〉

このかと真名がそんなやりとりをする中、レックスがメールの返事を話し、それを聞いたこのかとのどか、夕映は嬉しそうな顔となった。真名も表情にこそ出さなかったが、心の中ではガッツポーズを取ってたりする。

「アスナはどうするん?」

「ん? そうねぇ……土日はバイトも休みだし、行ってみようかな?」

というようなやりとりがあり、アスナ達はネギ達と同行することとなった。そんなやりとりを部屋の外で聞く者が1人――

「お嬢様……」

その者はどこか寂しそうな声で呟くのだった。

で、次の日の朝。ネギ達は林の中にいた。

「ここで修行するん?」

「いえ、そうではなくて……あ、来ました」

このかの疑問にネギが答えようとした時、その変化は現れた。ネギ達の目の前の空間が開いたのである。開いた先にあるのは無数の目や手、なぜか標識などが見える空間だった。それを見たアスナとこのか、夕映にのどかは息を飲む。

「な、何これ……」

「大丈夫ですよ。ちょっと怖いかもしれませんけど、修行場所はこれを抜けていった所です。離れずに付いてきてください」

戸惑うアスナに答えてから、アーニャと共に中の空間へと入っていくネギ。アスナ達は互いの顔を見合ってから、慌ててネギ達を追いかける。やがて、全員が空間へ入ると、その入口は閉じてしまった。そこへ慌てて駆け寄ってくる者が1人――

「く!? お嬢様はいずこに!?」

桜咲刹那。わけあってこのかを護衛しているのだが、その護衛対象となるこのかの姿が消えたことに慌てていた。

「まさか、ネギ先生は敵の間者では――」

そんな考えがよぎった時、刹那は気付いた。足元にあったはずの地面が無く、ネギ達が入っていったのと同じ空間が代わりに広がっていたことに。

「しま、うわぁぁぁぁぁ――」

抗う暇も無く、その空間へと落ちていく刹那。やがて、その空間が閉じると、どこからともなく女性の笑い声が響くのだった。



episode :02 『幻想卿』




さて、ネギ達はというとすぐにあの空間を抜け、なにやら神社の境内らしき場所に来ていた。

「ネギ君。ここは?」

「幻想卿。あなた達が幻想の存在とする者達が住まう世界。そして、ここは博麗神社。幻想卿を支える所……と、お答えしておきましょうか」

このかの疑問に答えたのはネギではなかった。ネギ達から少し離れた場所で、1人の青年が立っていた。どうやら、先程の声はこの青年のようだが――

「あ、あの人がシンジさん――」
「ああ!? あなたは!!」

ネギが紹介しようとした時、アスナは青年ことシンジを指差しながら驚いていた。あの時、自分を慰めてくれた人とこんな所で再会するとは思わなかったからである。

「あの、アスナさんはシンジさんをご存知なので?」

「ちょっと、お話をした程度ですよ。自己紹介はしてませんでしたがね。では、改めまして。アオイ シンジと申します。故あって、ネギ君の後見人もしております。以後、よろしくお願いいたします」

「あ、はい。こちらこそ……」

ネギの疑問に答えつつ、シンジは自己紹介しながら頭を下げていた。アスナも慌てて頭を下げていたりするけど。

「後見人……ですか?」

「ええ、ですがそれを含めて私のことは秘密にしてもらえないでしょうか? 訳は今は言えませんが、ちょっと厄介なことになるので。それとあなた方のことはネギ君から聞いておりますので、自己紹介の必要はありませんよ」

「は、はぁ……」

夕映の疑問の声にシンジはそんなことを言い出す。のどかは思わずうなずいてしまうが、どうして? という疑問をぬぐえない。それを問い掛けるべきか……と、思った時だった。真名がシンジに抱きついたのである。

「へ?」

「おやおや、いきなりですか?」

「ふふ、久しぶりだね、シンジさん。でも、なかなか会いに来てくれないなんて、ひどいじゃないか」

「ははは、色々と忙しいことが多かったので。申し訳ありません」

いきなりな光景にアスナが呆然としてる中、シンジは真名の頭を撫でつつ、そんなやりとりを交わしていた。真名はそれを気持ち良さそうに受けていたが。

「え、っと……お2人はどんな関係なので?」

「昔、助けてもらったことがあってね。その時からの付き合いさ」

戸惑う夕映の問い掛けに真名はあっさりと答えるのだが、未だにシンジに抱きついたままである。この様子からだと、普通の関係でないと言ってるようなものなのだが――

「さてと、霊夢さんと魔理沙さんがお待ちですので、さっさと行きましょうか?」

「魔理沙もいるの……私、苦手なのよねぇ……」

真名に抱きつかれてるのに変わった様子の無いシンジの話を聞いて、うんざりといった様子のアーニャ。そんなシンジに真名はちょっとムッとしながらも、離れていったが。それはそれとして、アーニャの話の意味がわからず、アスナ達は首をかしげていたが。

「まぁ、そう言わずに。では、こちらへ」

シンジ促され、ネギとアーニャ、真名はあっさりと奥に進み、アスナ達も戸惑いながら顔を見合わせ、やがて付いて行くのであった。



「く……ここ……は?」

その頃、刹那は森の中で1人うつぶせになっていた。いきなり落とされたかと思えば、そのまま地面に落ちたのだ。起き上がり、辺りを見回してみるが……そこで気付いた。ここがどこなのかがわからない。先程までいたはずの麻帆良の林の中で無いのは間違いない。なぜなら、ここに取り巻くものが麻帆良とは違うのがわかるから――

「なんなんだ、ここは? それよりもお嬢様! お嬢様はいずこに!?」

悩むものの、唐突にそのことを思い出し、慌てて探し回るのだが……近くに自分以外の気配が無いとわかると更に気持ちを焦らせていた。ここがどこなのかわからない以上、下手に動き回るのは危険だ。森とはいえ、歩いていれば抜けることは出来るだろう。だが、森がどれだけの広さかわからない上に、位置も方角もわからない状態では遭難しに行くようなものだ。やもえないか……刹那がそんなことを考え始めた時――

「あやや、こんな所でどうしましたか?」
「え?」

不意に聞こえてきた声に、刹那は顔を向けた。そこには1人の少女が立っていた。白のブラウスと黒のスカートに、なぜか山伏が身に付ける頭襟(ときん)と結袈裟(ゆいげさ)が一緒になった物を身に付けており、更に履いているブーツの底には高下駄のような歯が付いていた。しかも、手にはどこか古めかしいカメラが握られている。
そんな少女に、刹那は警戒するように持っていた夕凪を抜かないまでも構えていた。なぜか? それは少女の背に、黒い翼があったからである。人ではない。背中の翼もそうだが、少女から感じる気配に刹那はそう思うと同時に焦りを感じていた。

「あ〜、そんなに身構えないでください。それにしても、その格好は外の方ですよね? どうしてここに?」

「外?」

女性への警戒心はそのままに、疑問に出たことをそのまま漏らした。外? 外とはどういうことなのか? わからないが、それでも少女への警戒を怠れない故に、その疑問を考えることも出来ない。

「その様子だと、何も知らないようですねぇ〜。ここは幻想卿といいまして……まぁ、私のような妖怪や妖精なんかが住まう所と思ってくだされば。あ、ちゃんと普通の人間も住んでますよ」

とまぁ、少女はにこやかに話すのだが……刹那の方は警戒しつつも、軽く混乱していた。幻想卿? なんだそれは? といった感じで、訳がわからないことが立て続けに起きたためである。

「ここは……麻帆良じゃないのか? そうだ、お嬢様……私以外に人はいないのか?」

「ここは先程言ったとおりですし、この近くにはあなたしかいませんでしたが……お知り合いがいたので?」

警戒しつつもなんとか情報を得ようとするが、返ってくるのは芳しくないものばかりだった。それが刹那の焦りを強くしてしまう。

「あの〜、ここにいてもなんですし、移動しませんか? ちょっと離れてますが、力になってくれる所を知ってますし。あ、申し遅れました。私、射命丸文(しゃめいまる あや)と申します。お見知りおきを……」

「あ、ああ……桜崎刹那だ……変な空間に落とされたと思ったら、ここに来てしまって……」

なのに、あくまで礼儀正しく接してくる少女こと文。そのためか、刹那の警戒心も少しだが薄れてしまい、思わず名を名乗ってしまう。

「と、ところで力になってくれる所とは?」

「博麗神社という所にいる人です。その人なら、力になってくれると思いますよ。では、行きましょう」

戸惑う刹那に文はにこやかに答えつつ、翼を広げてふわっと宙に浮かび上がる。それに刹那が困惑する。まさか、空を飛ぶとは思わなかったのだ。

「お、おい……空を飛んでいくのか?」

「ええ、博麗神社はここから離れた所にありますしねぇ〜。ま、飛んだ方が早く着きますよ。それにあなたも翼があるんですし、飛べるでしょう?」

にこやかに答える文だったが、刹那は逆に顔を強張らせていた。知られてる? なぜ? その思いから、体を震わせてしまう。

「な、なぜそれを――」
「これでも烏天狗ですので。それはそうと、行きませんか?」

文の言葉に自分の秘密を知られたと感じ、それによる恐怖で震えていた刹那の目が見開かれる。人では無いのはわかっていたが、烏天狗だとは思いもしなかった。確かに身に付けている物でそうも見えなくも無いが、文自身を見てもそうだとは普通は思えない。確かに感じるものが並の者ではないのはわかっていたが……
それはそれとして、刹那は迷っていた。翼があったことを知られたことよりも、翼を出した時のことを。なぜなら、自分はこの翼のせいで迫害されて――

「あの、どうかしましたか?」

首をかしげながら問い掛ける文。どうしようかと思ったが、やがて刹那は意を決して翼を出した。

「はい、それじゃあ、行きましょうか」

「え? あの……なんとも思わないんですか? この翼……」

「は? 別に普通の翼だと思いますけど?」

恐る恐る問い掛ける刹那だったが、にこやかにしていた文は首をかしげていた。文にしてみれば、刹那の翼に変な所は無い。綺麗な翼だとは思うが、それ以外は幻想卿では普通と言えるものだった。もっとも、そのことを知らない刹那は翼を出したことを未だに恐れているのだが。

「ほら、行きますよ」

「は、はい……」

文に急かされ、結局飛んで付いていくことにした刹那。その間も翼のことで恐れていたが……

(まったく、紫さんにも困ったものです。なんで、私がこんなことを……)

と、刹那を案内する文は、そんなことを考えていたが。



さて、ネギ達はシンジに案内され、博麗神社の母屋に来ていた。その母屋の縁側に腰を掛ける2人の少女の姿があった。

「ご紹介します。この博麗神社の巫女さんで、博麗霊夢(はくれい れいむ)さんと、魔法使いの霧雨魔理沙(きりさめ まりさ)さんです」

「よろしく」 「よろしくな」

シンジに紹介され、お茶を飲みつつ返事をする紅白の巫女霊夢と、なんというか男っぽい笑みを浮かべる黒白の魔法使いの魔理沙。それにアスナ達も頭を下げた。

「にしても、なんでここなの? 修行ならここ以外に出来る場所があったでしょうに?」

「あ〜、そうなんですがねぇ……一番安全なのがここですしねぇ」

霊夢の言葉にシンジは頭を掻きつつ答えた。確かに他の場所でもやろうと思えば出来るが、幻想卿という場所を考えると、安全な場所でするのが一番である。で、一番安全な場所というのがこの博霊神社になるのだ。いや、他にも無いわけではないのだが……シンジの個人的な理由でここにしたのである。

「ま、いいわ。でも、あんま派手にやらないでよ?」

「もちろんです。では、早速――」
「あ、あの……私達にも、魔法を教えてもらえないでしょうか?」

霊夢に答えてから、シンジは早速始めようとして、夕映がそんなことを言い出した。

「ネギ先生の魔法を見てから、興味を持ちまして……それで教えてもらえないかと……」

「ん〜……教えること自体は問題は無いのですが……困りましたね〜」

「なんでだよ? 教えてやればいいじゃんか?」

夕映の言葉に悩むように首をかしげるシンジ。その様子に魔理沙は訝しげにしていたが――

「魔理沙さんみたいな幻想卿に住む人達にはわからないでしょうが、外では魔法は秘匿されるものですからね。その特性上と言いますか、裏の世界に少なからず関わることがあるんですよ。つまり、危険な目に遭う場合があるのです」

「そう、なんですか?」

シンジの言葉にのどかは戸惑いながら問い掛けた。魔法を教えてもらうだけで、危険なことになるとは考えてもいなかったのだ。

「必ずしもというわけではありません。ですが、魔法に関わってると危険なことに関わる可能性が高いのも事実ですので」

シンジの説明にこのかと夕映、のどかは互いに顔を見合わせていた。興味本位だったこともあり、そんなことは考えたことも無かったのだ。なので、魔法を習おうとしていた3人には戸惑いを感じずにはいられなかったのである。

「ネギ君とアーニャちゃんは、そのこと知ってるん?」

「まぁね。そこら辺のことはシンジに教えられてるし」

「僕はある目的があるんですけど、それには危険が伴うのを教えられてますから」

このかの問い掛けにアーニャは肩をすくめつつ、ネギは真剣な表情で答えたのだが――

「目的ですか?」

「ええ……その、色々とありまして……」

夕映の問い掛けに先程とは違い、困ったような顔をするネギ。その様子にアスナ達は気になるが、なんか問い掛けるのもはばかれる気がして聞けなかった。

「ま、そんなわけなんですが……どうしますか?」

「……教えて欲しいのです。どれほど危険なのかはわかりませんが、私は早々そういうのに関わる気はありませんから」

シンジの問い掛けに夕映は少しの間を置いて、ハッキリと答えた。誰だって、普通好き好んで危険な目に遭おうとはしない。それ故の返答だった。で、それに対し、シンジはため息を漏らし――

「わかりました。魔法を教えること自体に別に問題があるわけではないですし、私としても早々危険な目に遭わせるつもりもありませんので。というわけで、アーニャちゃんと魔理沙さん、お願いしますよ?」

「は?」 「え? なんで、私達?」

説明した後に出た言葉にポカンとする魔理沙と戸惑うアーニャ。このか達3人もシンジに魔法を教えてもらうつもりでいたので、戸惑っていたが。

「いや、私魔法が使えるだけで、魔法使いじゃないですしね。それにネギ君やアーニャさんの指導をしなきゃいけませんから。後、このかさん達に教えるとまずは基本からになりますしね。それでしたら、アーニャさんや魔理沙さんでも出来ますよ」

「私は教えるのって、得意じゃないんだけど……」

「いい機会です。人に教えることで学べることもありますよ。というわけで、お願いしますね。私はネギ君を指導してますので。しばらくしたら交代って事で」

「しょうがないわね……やればいいんでしょ?」

断ろうとする魔理沙にそう返すシンジ。アーニャはやれやれといった感じながらも引き受けるつもりのようである。

「では、始めましょうか」

それを見て、シンジはにこやかな笑みを浮かべるのだった。

そんなわけで二手に分かれて始まったのだが――

「とまぁ、私達が使う魔法とこの幻想卿で使われる魔法の違いなんだけど、わかった?」

「ええ……しかし、奥が深いです」

アーニャの説明に夕映が返事をしつつ、持っているおもちゃっぽいステッキに目を向けていた。ステッキはアーニャ達側の魔法使いが使う杖である。といっても、初心者用の物なのだが……どう見ても、おもちゃにしか見えない。もう少し、まともな形に出来なかったものだろうか?
ちなみに杖はネギ達が幻想卿に来たばかりの頃に魔理沙がネギ達が使う魔法に興味を持ち、教えて欲しいとお願いされたので持ってきた物である。

「そ。じゃあ、まずは魔力の流れを感じ取ることから始めるわよ。魔法は呪文を唱えれば使えるってもんじゃないし、どっちの魔法を使うにしてもまずこれが出来なきゃ意味が無いしね。まずは手本。プラクテビギ・ナル、火よ灯れ!(アールデスカット)」

説明してから、初心者用の杖で火を灯してみせるアーニャ。それを見ていたこのか達から感嘆の声が出た。

「初心者用の魔法よ。ま、マッチやライター使った方が早いんだけどね。感覚としては息をするみたいに魔力を取り込んで、それを杖に集中させるの。まぁ、いきなりじゃわからないから、焦らずにね」

「は、はい」 「わかったです」 「んと、プラクテビギ・ナル、火よ灯れ!(アールデスカット)」

アーニャの説明に夕映とのどかがうなずく横で、このかが早速始めていたりする。すぐに夕映達も始めるが火は中々出ず、しまいにはどこか変な踊りを踊るように動き回ってしまっている。

「あははは、なんだそれ」
「あ〜、私も教えられた頃はやってたわねぇ……」

それを見て魔理沙は笑い出し、アーニャもどこか懐かしむような顔をしていた。夕映達はそんなのに気付かずにまだ続けてたけど。

「はぁ……別に動けば魔法が使えるってわけじゃないからね。ていうか、今自分達が何してるかわかってる?」

見ていられず、思わず忠告してしまうアーニャ。それで自分達がなにをしていたのか気付いたようで、夕映達は縮こまって恥ずかしそうにしていた。

「おや、なんか賑やかだねぇ〜」

そんな時、そんな声が聞こえてくる。皆がそちらに顔を向けてみると、そこには女の子がいた。いや、女の子と言っていいのだろうか……確かに見た目は夕映と同じくらいに見える。が、なぜか両手首には鎖が付いてたり、頭には2本の角が生えてたり、微妙に揺れている。まるで酔ってるかのように……

「おや、新顔がいるねぇ〜。もしかして、こっちに迷い込んだのかい?」

「私達が連れてきたのよ。ていうか、また酔ってるの?」

「あはは、私が飲んでるのはいつものことさ」

と、にこやかにアーニャと話し込んでいたりするのだが――

「あの、どちら様ですか?」

「伊吹萃香(いぶき すいか)。鬼さ」

のどかの疑問に魔理沙がにこやかに答えるのだが……

「鬼……ですか?」

「見た目はこうだけど、私なんかより凄く強いわよ。後、全部ってわけじゃないけど、妖怪とか妖精とかは見た目が萃香や私みたいなのが多いわ。そうだ。シンジ! この子達に人喰いする妖怪がいるって教えてないでしょ!」

「あ、そういえば……」

夕映の疑問の声に答えたアーニャは叫び、ネギの相手をしているシンジは思い出したかのように声を漏らした。

「ひ、人喰い……ですか?」

「そ。もちろん全部がそうってわけじゃないけど、気を付けておいてね。私も一度、襲われたことあったから。まぁ、この神社に来る連中は大丈夫……じゃないかも……」

怯えるのどかを安心させようとして、不意にそのことを思い出し、自信なさ気になってしまう。というのも……

「吸血鬼とかいるしなぁ……いきなり、血を飲ませろとか言ってきそう……」

その存在を思い出したからである。

「吸血鬼もいるのですか?」

「そ。しかも、姉妹でね。言っておくけど、その姉妹もとんでもない力持ってるから、失礼のないようにね」

夕映の問い掛けに、アーニャは忠告交じりに答えたのだが……

「あはは、アーニャ、それは心配しすぎじゃないのか?」

「言っとくけど、私は魔理沙みたいに弾幕ごっこが出来るわけじゃないからね。相手しろって言われても無理よ。絶対に」

笑う魔理沙にアーニャはうんざりとした様子で答えた。弾幕ごっこの意味がわからなかったが、強いというのはわかったので、夕映とのどかは不安そうな顔をしていた。

「まぁ、そんなに怯える必要も無いわよ。下手なことしなければ、紳士的に付き合ってくれるしね」

そんな2人に気付いてか、アーニャはため息混じりにそんなことを言っておく。だって、ここに来る奴らって……そのことを思い出して、アーニャは頭痛を感じずにはいられなかった。なぜなら――

「よし! 今日はこのか達が来た記念に宴会しよう!」

「私、ここに来るたびに宴会をしているように思うんだけど……」

魔理沙の提案にアーニャは頭痛を感じつつ、そんなツッコミを入れた。ここの人達って能天気すぎる。いや、大半が人じゃないけど……そんな事実に頭痛を感じずにはいられなかった。

さて、ネギとシンジはといえば、鍛錬の真っ最中……のはずである。ただし、真名と一緒に見ていたアスナにはそうは思えなかった。というのも――

「うわっ!?」

「ははは、そんなんじゃ当たりませんよ〜」

鬼ごっこにしか見えなかった。確かにネギは殴る蹴る、魔法を使うなどをしているが……シンジは両手を後ろで組みつつ、それらを軽やかなステップで避けていた。うん、ネギが必死なのはわかるんだけど、シンジのせいでどう見ても鬼ごっこにしか見えない。なんて、アスナは自分で納得させていたし。

「なにやってるの?」

〈ネギが仕事で使う書類の作成をしている〉

「ふ〜ん、そう……」

で、アスナの横では携帯の形になってるレックスがノートパソコンとコードで繋がれ、なにやら操作をしている最中であった。気になった霊夢は返事を聞くと、興味が無くなったようでネギとシンジの鬼ごっこに顔を向けていたが。

「あのさ……詳しくは無いんだけど……あれって、修行とか……そういう風には見えないんだけど……」

「まぁ、普通はそうだよなぁ。でも、旦那の話だとアニキはまだ成長期だから、あまり無茶なことをすると成長に影響するらしくてな。それで体が出来上がるまでは基本を続けていくんだとさ。ちなみにあれもその一環でな。相手の動きを把握するためのもんなんだと」

アスナの疑問にカモが器用に腕を組みつつ説明してたりする。余談ではあるが、マンガやアニメでは良くスパルタ特訓が取りざたされているが……実は危険と隣り合わせのものであったりする。スポーツ選手が怪我で引退という話はあるが、それと同じで自分の体を壊しかねないのである。
それにネギはまだ10歳。下手な怪我をさせて、それが後遺症になったりする可能性がある。魔法で怪我が治せるといっても、時と場合があるのだ。もう1つ余談となるが、今でこそ鬼ごっこみたいなことになってるが、これでもかなり成長してるのだ。レックス、アスナ、真名、霊夢は知らないのだが最初の頃、シンジは椅子に座ってコーヒーを嗜みつつ、ネギの相手をしてたりする。一応、戦闘訓練も兼ねてるので、シンジも手を出す。だからこそ出来た芸当でもあるのだが……

「ふぅ〜ん……」

カモの説明を適当な相槌で返すアスナ。でも、ふと考えてしまう。なんで、そんなことをするのだろうかと。目的がある、ということは聞いたけど、どんな目的なのかまでは聞いて無かった。でも、大事な事なんじゃないかと思える。だって、修行をしているネギの顔は真剣そのものだから――

「失礼する。紫様はいらっしゃるだろうか?」

アスナがそんなことを考えていた時、そんな声が聞こえてきた。誰だろうと思い、顔を向けてみて……固まった。それはもう、ものの見事に。驚きのあまりに。そこにいたのは女性と少女だった。女性はどこか中国風の着物を身に纏い、ナイトキャップみたいな帽子を被っている。もう1人の少女も同じく中国風の服に帽子を被っている。それだけならば、まだ驚きはしなかっただろう。
だが……女性の金糸のような髪の上には動物の耳があり、しかも腰には複数の尻尾があった。少女の方も髪の上には動物の耳があり、腰には二又の尻尾がある。

「おや、藍さんに橙さんではありませんか。紫さんなら……そういえば、見てませんね」

「あ、そういえば……そうですね」

2人の登場に気付いたシンジが不意に何かを思い出したように考え込む。ネギも同じように考え込んでる様子だが。

「えっと……どうしたの? それと……この人達は?」

「背が高い方が九尾の狐の八雲藍(やくも らん)さん。もう1人が猫叉の橙(ちぇん)さんと言いまして、橙さんは藍さんの式神です。で、紫さんというのは藍さんが式神として仕えている方でして、アスナさん達がこちらにやって来る時に通った空間を作った人でもあるんですけど……」

2人を指差し問い掛けるアスナに、シンジは考える仕草をしながら答えていた。なぜ、こんな仕草をするのか? というのも――

「僕達がこっちに来ても、姿見せてないですよね?」

「何か企んでなきゃいいのですがねぇ……」

ネギの言葉にシンジも不安に駆られるようにい呟いた。なまじ、紫という人物がどんな者なのかを知ってる故に、姿が見えないというのが逆に不安になる。本人聞いたら、問答無用で弾幕ぶっ放しそうだが……

「うっわぁ〜!? かわいいやん、この子!」
「ふにゃ!?」

と、いつの間にやらこのかが橙に抱きついていた。良く見れば夕映にのどか、アーニャと魔理沙に萃香もこちらへと来ていた。

「あの、この方々は?」

「八雲藍さんと橙さんです。見ての通り、九尾の狐と猫叉でして――」

夕映の問い掛けにシンジはアスナに話したのと同じ紹介をするのだが――

「九尾の狐……もしかして、白面金毛九尾の狐ですか?」

なんか、真剣な眼差しで夕映がそんなことを聞いていたりする。まぁ、普段から読書を趣味とする彼女である。その手の本も読んでいても当然かもしれない。

「さて、それはどうかな」

一方で聞かれた藍は素知らぬ顔をしてたりするけど。

「かわええなぁ〜、橙ちゃん」
「あうぅ〜、藍様助けて〜」

もう一方ではこのかに抱き付かれて、じたばたと困った様子の橙が助けを求めてたりするけど。まぁ、なんであれ、平和だった。今この場は――別名、カオスともいうけど……

さてその頃、刹那は文の後を追うように飛んでいる最中であった。それでわかったことは、ここは自分がいた所とはまったく違うということ。麻帆良とは違う場所、という意味ではない。雰囲気とか感じられるものや見るものが、麻帆良……この場合、外の世界と言った方がいいだろうが、まったく違う。
時折、自分達と同じように空を飛ぶ者を見かけるが、そのどれもが少女の姿であり、羽や翼が生えているのがほとんどであった。文の話だと、妖精や妖怪の類とのことだが……自分が知っている妖怪の姿とは違いすぎるため、違和感がとても強い。だからなのだろうか? 自分のこの翼を見ても、反応が普通だったのは……ふと、そんなことを考えてしまい――

「あ、見えましたよ。あれが博麗神社です」

と、前を飛んでいた文が指差した先には、確かに神社が見えた。2人はそのまま境内に降り立ち、刹那は文に付いていくまま、母屋の方へと向かい――

「橙ちゃん、お菓子食べる?」

「え? 何それ? 本当にお菓子?」

「そうやで。ポッキーいうんや。美味しいんやで」

「さ、シンジ。飲みな。グッとな!」

「いや、萃香さん。私、この後アーニャちゃんの相手しなきゃならんのですが……」

「ふむふむ、式神とはそういうものなのですか。興味深いです」

「まぁ、私のようなのは稀ではあるようだがね」

「よっしゃ、アーニャ。シンジは忙しそうだし、私が相手をしてやるぜ!」

「絶対に断る!! 誰が弾幕ごっこなんてするかぁ!!」

「まったく、騒がしいわねぇ……」

「あのぉ……どうしましょうか?」

「いやぁ、あれって収拾付くのか?」

〈たぶん、無理だな〉

「あわわ……」

カオスを見た。ちなみにどれが誰のセリフかは……めんどいので省略させてもらう。ともかく、カオスだった。とんでもなく、カオスだった。というか、刹那から見て、とんでもない力の持ち主(萃香や藍、霊夢に魔理沙)はいるし、このかはなにやら猫叉と戯れてて――

「って、お嬢様!?」

そこでやっとのことそのことに気付いて、慌ててこのかの元に駆け寄る。

「あれ? せっちゃん。なんで、ここにいるん?」

このかも刹那に気付いて、首をかしげて問い掛ける。だって、こっちに来る時には、刹那の姿は無かったし。それはそれとして――

「良かった。無事なのですね、お嬢様!」

「いや、まぁ……なんともあらへんけど……なぁ、せっちゃん?」

「なんでしょうか、お嬢様?」

「その翼、何?」

このかの疑問に刹那は固まった。そう、刹那は翼を出しっぱなしだったのである。幻想卿の雰囲気に当てられてなのか、忘れていたのだが……

「え、あ、その……こ、これは……」

真っ青になりながらあたふたとする刹那。知られたという恐怖と、どうしたらいいという混乱によるものだが。気が付けば、アスナ達麻帆良組がこちらに来て、自分を見ている。そのためか、知られた恐怖が強くなり――

「あらあら、どうしたのかしら? そんな怯えた顔をして」

そんな時だった。女性の声が聞こえてきたのは。

「それはまぁ、彼女の事情もあるのでしょうけど……もしかして、彼女をこっちに連れてきたのって、紫さんですか?」

「ええ。なにやら、来たがってたみたいですし」

いつの間にやら自分の横にいる、紫と呼ばれる女性と話し込むシンジ。なのだが、その紫の姿を麻帆良組は驚きの顔で見ていた。というのも、紫の下半身が無いのである。いや、それは正確ではない。下半身はなんというか、ネギ達が幻想卿に来る時に通った空間の中にあったのだ。そんな紫を刹那は恐怖に震えながら見ていた。自分の正体を知られた恐怖ではない。純粋な畏怖によるもの。わかるのだ。あまりにも巨大な紫の力が……あの藍ですら、まだマシに思えるほどに……

「さてと、自己紹介がまだでしたわね。八雲紫(やくも ゆかり)と申します。みなさま、よろしくお願いいたしますわ」

「別名、スキマ妖怪とか言われてますけどねぇ〜」

「シンジ。あなたとは一度話し合った方がいいかしら?」

優雅な仕草で挨拶をする紫。シンジにツッコミを入れられてたりするけど。それには横目で睨んでから、ネギに視線を向け――

「お久しぶりね、ネギちゃん。ごめんなさいね、挨拶が遅れて」
「遊んでたからでしょうが」

「シンジ。本気で決着付ける?」

微笑を向ける。のだが、シンジのツッコミのせいでなんか黒いオーラを出してたりする。そのせいでアスナやアーニャ、夕映にのどかとかは怯えてたりするけど。

「紫さん、お久しぶりです!」

「ふふ、元気そうで良かったわ」

「時たま、スキマから見てたでしょうに」

「シンジ。一回、ぶっ放すわよ?」

抱きついてきたネギを紫は優しく抱きとめ、頭を優しく撫でていた。シンジのツッコミには黒いオーラで返してるけど。ちなみにだが、紫はネギがお気に入りであった。というのも、ネギが幻想卿に来て、初めて会った時に――「お姉ちゃん、お母さんみたいな感じがする〜」なんて、ネギが言い出したのである。普段、胡散臭いだの加齢臭(少女臭)とか言われてる彼女だが、今まで言われたことのない一言がなぜか嬉しくて――それ以来、ネギとは親子みたいな感じで接するようになったのである。

「にしても、来たがってたって……?」

「あら、嘘は言ってないわよ? 正確にはお嬢様って呼んでる人を探してたみたいだけど」

「文さん、真相は?」

涼しい顔で答える紫だが、すでに信じてないシンジは真相を知っていそうな人物に問い掛けるのだが――

「あや〜、私も詳しいことは聞いてなくて……紫さんに彼女を連れてくるように言われただけですし……」

と、文も困った顔をしながら答えていた。それを聞いたシンジはため息を漏らしてから、紫に顔を向けるのだが――

「あ、あの……なんとも思わないんですか?」

「は? 何がです?」

「いや、その……翼が……」

「いや、幻想卿の人達から見たら可愛いもんだと。むしろ、普通?」

「なんで疑問系なのよ?」

恐る恐る問い掛けてきた刹那に、シンジはなぜか首をかしげながら答える。霊夢からツッコミが入ったけど。その答えを聞いてから、刹那は怯えながらこのかに顔を向け――

「せっちゃん、この翼なに? すっごく綺麗や!」
「え?」

抱きついてくるこのかを、刹那は驚きながら見ていた。怖がっていない。それどころか、興味津々といった様子だ。刹那にとっては予想外のことに戸惑いを隠せない。

「ふむ、どうやらお話をしたようがいいですねぇ〜」

その様子を見ていたシンジが、ため息混じりに漏らすのだった。

で、場所は変わって、神社の中。シンジと紫が隣り合って正座で座っており、向かい合うように刹那とこのかが同じように正座をしていた。なお、刹那の翼は流石に引っ込めてるが。で、このかの横ではなぜかアスナが座っている。紫が話があるのでというので、こうして同席させられたのだが。
なお、ネギは夕映とのどかに魔法の基礎を教えており、アーニャはシンジに頼まれた藍に鍛錬の相手をしてもらっている。まぁ、鍛錬というよりは戦闘訓練に近い。ちなみに自分がアーニャの相手をすると言っていた魔理沙は不機嫌そうにその光景を見ていたが……常識ある藍の方がマシとシンジとアーニャが判断したためである。

「さてと……あなたが何をしていたのかは、大体ですが調べております」

シンジの一言に刹那の顔が険しくなる。もしや、このかを狙う者なのかと思ったからなのだが――

「ネギ君の周りにいる人達のことを簡単に調べただけですよ。ネギ君は色々と複雑な事情がありますからね。安全を確保するためにです」

刹那の表情で察したシンジがやれやれといった様子で答える。それでも刹那の険しい表情は変わらなかったが。

「複雑な事情って?」 「あいにくですが、今はそれを話すことは出来ません。機会があれば……ということにしておいてください」

このかの疑問にシンジは答えてから、お茶を一飲みした。このかは首を傾げたものの無理に聞くのもと思い、引き下がることにしたが。

「さて、あなたがこのかさんの護衛をしているのは、調べた際にわかりましたが……ハッキリと言いましょう。あなたがしているのは護衛ではありません。というか、見捨てているようなものです」

「な――!」

シンジの言葉に刹那は立ち上がり、怒りの形相を向ける。だって、自分の決意を侮辱されたのと一緒なのだから。

「貴様――」
「あら、私もシンジの意見には賛成よ。偶然見かけたけど、あれは護衛とは言えないわ。遠くから好きな人を見てるストーカーのようだったわね」

「もうちょい、言葉選んでもらえませんかね?」

怒りのあまり叫ぼうとしたのだが、紫が更に容赦ない一言を言ってくる。言葉があれなんで、シンジに突っ込まれていたけど。

「あの、護衛って……」

「それはですねぇ――」 「あ、待て――んぐ!?」

首をかしげるのどかに、シンジは説明を始めた。刹那が止めようとするのだが、横に現れたスキマから伸びる手に口を塞がれてしまう。まぁ、説明と言ってもシンジはあくまで書類上のことまでしか知らないため、それを言い含めた上での説明となったが。

「お父様が関西呪術協会の長で、じいちゃんが関東魔法協会の理事長?」

「そうです。裏の世界の話とはいえ、身内がそういう身分の人達ですからねぇ。あなたが狙われる可能性は高いでしょう」

「それに気付いてないようだけど、あなたは膨大な魔力を秘めているわ。それを狙ってくる輩もいるでしょうね」

ポカンとするこのかにシンジと紫は答えた。そして、この話は事実でもあった。悔しそうな刹那の顔がそれを物語っている。

「それで……うちはどうすればいいん?」

「そうですね。まぁ、麻帆良にいる間は身の危険はそれほど高くは無いでしょう。ただし、あくまでということになりますが……」

「今は刹那ちゃんみたいな子とかがそうならないように守っているけど……あなた自身もある程度は自衛の方法を身に付けた方がいいわね」

未だポカンとしてるこのかだが、シンジと紫はどこか安穏としていた。話してる内容はまったくもってそうではないんだが……

「で、ですが……お嬢様の父上である詠春様は、お嬢様には普通の暮らしをして欲しいと……私もそれ故に傍にはいられず――」
「下手な言い訳はおよしなさい」

「う……」

このままではマズイと思った刹那は言い訳をしようとするのだが、紫の自らの存在感を含めた睨みで何も言えなくなってしまう。

「あなたの場合は自分の正体を知られるのが怖かっただけでしょう? そんな理由で放棄するなんて、護衛の自覚が足りないわ」

「余程のことがない限り、護衛は対象の傍を離れてはいけません。私情を挟むなんてのはもっての他ですよ」

「うぅ……」

紫とシンジの言葉に刹那は何も言えない。その通りでもあるので、なおさらだ。確かに恐れていた。自分が人ではないということをこのかに知られるのを……だって……だって、このかに嫌われてしまったら、私は……

「よう、わからんのやけど……結局、どういうことなんや?」

「なに、刹那さんは妖怪と人間のハーフだということです。翼はその証拠ですね」 「な!?」

このかの疑問にシンジがあっさりと答えてしまい、刹那はそれに驚愕していた。知られてしまった。知られたくない人に……

「ふぅ〜ん。そうなんや」
「……あれ?」

なんか、反応があっさりしてるこのかを見て、刹那はポカンとしている。ていうか、普通だった。あまりにも普通な反応だった。

「お、お嬢様……なにか思うことは無いのですか?」

「ん? ん〜……別にせっちゃんはせっちゃんやしな〜。それにそれが何か変なん?」

「え、いやその……」

「なまじ知識が無い分、先入観とかそういうのが無かったんですねぇ」

「つまり、あなたの考えすぎということよ」

このかの反応に戸惑いを隠せない刹那。刹那の場合、裏の世界を知っているが故に、自分が正体が知られたらどう思われるか? 化物、恐ろしい存在と見られる。それを体験しているが故からの怯えであった。
で、このかの場合は妖怪のよの字も知らない。本を読んでいるとはいえ、それはあくまで空想上の存在としか思っていない。それに裏の世界も知らない。それに刹那は幼馴染でもあった。それもあって、彼女が恐ろしい存在とは思えなかったのである。裏の事情を知る者と知らない者の温度差から生まれたすれ違いだった。

「ところで、アスナさんは刹那さんをどう思いますか?」

「え? ん〜……確かに翼があったのには驚いたけど……別に怖いとかそういうわけじゃないし……」

シンジに問われたアスナの答えにも刹那は驚きを隠せない。アスナもまた刹那と同じとも言えるので、刹那が恐ろしいとは思えなかったのだ。

「まぁ、誰もがこのかさんやアスナさんみたいにというわけではないでしょうけどね。私や紫さんから見れば、あなたは普通の人と変わりありませんよ」

シンジの言葉に紫もうなずく。その言葉に刹那はうつむくのだが……この時はまだ、この言葉の本当の意味を理解してはいなかった。シンジと紫は化物と言われても仕方が無い存在だ。そんな2人から見れば、刹那の悩みは子供の駄々っ子と変わらないのである。もっとも、刹那達がこの言葉の本当の意味を知るのは先となるのだが……

「ですが……私には掟が――」
「んなのは、丸めてゴミ箱に捨てちゃいなさい。護衛をやめる言い訳にもなりませんよ」

このかに知られた恐怖から逃れようと、そんなことを言ってしまう刹那だが、そんなのはシンジにばっさりと切られてしまった。

「せっちゃん……せっちゃんはうちの前からいなくなるん?」
「え? いや、その……」

このかに寂しそうな顔を向けられ、戸惑ってしまう刹那。でも、どうしていいかわからず、困り果ててしまい――

「傍にいてあげなさい。それがこのかさんとあなたの為ですよ」

「私もそう思うよ。時々、このか寂しそうな顔をする時があるから……」

シンジの言葉に紫はうなずく。アスナもその方がいいと、そんなことを漏らしてしまうが。でも、気になっていたのだ。あの明るいこのかが、時折見せる何かを思いつめたような表情を見せることに。

「ま、今すぐ答えを出せと言ってるわけじゃありませんし。ゆっくりと話し合うといいでしょう」

「そうね。さてと、今度はアスナちゃん。あなたのことよ」

「はい?」

シンジが2人にそう告げた時、紫がそんなことを言い出す。言われたアスナは首をかしげていたが。というのも、自分がここに呼ばれた理由がわからないのだ。

「あなたには能力があるわ。魔力を無力化出来る程度の能力がね。まぁ、ネギちゃんを見ていた時に気付けたんだけど」

「なんですかそれ?」

紫の言葉にシンジが顔を向けた。ただ、その表情は疑問を感じたというよりも、驚いたといったという感じに見えたが。ちなみに紫の話の補足となるが、ネギがアスナの傍にいた時に彼の魔力が感じられなくなったため、その事実に気付いたのである。

「あなた、もしかして気付いてなかったの?」

「足場固めに集中していましたからね。そこまでは気が回らなかったんですよ」

「あの、それってどういうことなんですか?」

なんてやりとりをするシンジと紫にアスナは問い掛ける。まぁ、意味がまったくわからないからなんだが。

「そうですね……アスナさんは魔力……魔法を無力化出来るんですよ。もちろん、全てというわけではないでしょうけどね」

と、シンジは答えるのだが、その表情はどこか真剣なものだった。それを見たアスナは思わず息を飲んでしまう。

「この幻想卿では大した能力ではないわ。でも、外では違う。まさしく、希少種と言ってもいい能力よ」

「故に狙われる可能性が高いのです。魔法関係者とか裏の世界の人達に。なので、人に言いふらしたりしてはいけませんよ?」

紫とシンジの話しにアスナは首を傾げるしかなかった。あまりにもいきなりすぎて、理解し切れなかったのだ。それに狙われるかもといわれても、いまいちピンと来なかったし。

「ま、秘密にすればいいという話です。なので、刹那さんとこのかさんも、このことはご内密に」

「は、はい……」 「うん、わかったわ」

シンジの言葉に刹那とこのかはうなずくのだが……アスナはやはりというか、言葉の意味を理解し切れていない。それはこのかも一緒であったが。アスナが自分の能力の重要性とそれに付随する危険性を理解するのは、まだ先の話であった。

「さてと、話し合いはこれでおしまい。それじゃあ、宴会の準備をしなきゃね」

「宴会はいいんですが、彼女達は未成年ですから、お酒は飲ませないでくださいよ?」

「あら、別にいいじゃない。霊夢や魔理沙も飲んでるわよ?」

「本当は2人も飲んじゃいけないんですがね。ともかく、飲ませちゃダメですよ」

なんてやりとりをする紫とシンジ。もっとも、アスナ達はなぜ宴会? という疑問があったりするけど。

そんなこんなで夜となり、博麗神社の境内には多くの人の姿があった。そのほとんどが女性や少女だったりするけど。

「あ〜、こうして見てると、コスプレしてるように見えるわね」

「ハルナが喜びそうなのです」

なんてことを話し合うアスナと夕映。確かにこの場にいる者達の服装は様々であり、見ようによってはアスナの言うこともわからなくはない。

「あら? 見たことの無い顔ね。ここに迷い込んできたのかしら?」

「あ、レミリアさん。お久しぶりです」

そんなアスナ達に声を掛ける少女が一人。ネギは知っているようで、頭を下げて挨拶をしていた。

「ネギ先生、どなたなのですか?」

「レミリア・スカーレッドさんです。紅魔館というお屋敷の主で吸血鬼でもあります。隣にいるのが十六夜咲夜(いざよい さくや)さん。レミリアさん付きのメイドさんです」

夕映の問い掛けにレミリアと咲夜を紹介するネギなのだが――

「吸血鬼……ですか?」

「あら、信じられない? それじゃあ、あなたの血を吸ってみせましょうか? それはそうとして、先生って?」

「あははは……外での話ですけど、勉強を教える先生をすることになって……」

呆然と見ているのどかにレミリアは意味ありげな視線を向けてからネギにそんなことを問い掛ける。しかしながら、レミリアを見てると吸血鬼という風には見えない。まぁ、本や映画の知識が元になっているためでもあるのだが。が、刹那は別であった。わかるのだ。レミリアの力の強さが……なので、ちょっと顔が引き攣っている。

「お姉様、その人達誰?」

「ネギの知り合いだそうよ」

「あ、フランさんもお久しぶりです。ご紹介しますね。フランドール・スカーレッドさん。レミリアさんの妹さんです。で、紅美鈴(ほん めいりん)さん。紅魔館の門番をなされてます。パチェリー・ノーレッジさんは、紅魔館の図書館でいつも本を読んでいる魔法使いです。パチェリーさんの隣にいるのが小悪魔さん。紅魔館の図書館で司書のようなことをなされてます」

「よろしく」 「よろしく、みなさん」 「よろしくお願いいたしますね」

フランと呼ばれた少女と共にやってきた3人の女性を紹介するネギ。紹介されてか、フランを除く3人が軽い会釈をしたのだが――

「図書館……ですか?」

紹介を聞いた夕映が問い掛けてくる。なんか、物凄く真剣な表情で。そのせいか、聞かれたパチェリーは少し引いてたが。

「ええ、そうよ……それがどうかしたの?」

「いえ、私は本を読むのが好きでして……出来ましたら、その図書館にある本を読ませていただけないかと」

その疑問に夕映は真剣な表情で答えた。それを聞いたペチェリーの中で何かが閃く。そう、直感的な何かが――

「あなた、ネギの知り合いだそうね。ということは、外の人なのかしら?」

「あなた方から見るとそうと言えますね」

「ならば、外の世界の本を持ってきて。外の世界の本は中々手に入らないのよ」

「どんな本が良いのですか? 魔法の本は流石に無理なのです」

「魔法の本? ああ、魔導書のことね? 別にそんなんじゃなくてもいいわ。面白そうな本ならなんでもいいわよ」

「わかりましたです。こちらに何冊か持って来てますので、後でお見せするのです」

なんてことを真剣に話し合う夕映とパチェリー。そのまま見詰め合ったかと思うと、いきなり互いの手を握り合い―― 「不思議ね。あなたとは気が合いそうだわ」
「私もです」

なんてことを同意してたりする。まったくの余談だが、ここに動かない大図書館コンビ(師弟ともいう)が誕生した瞬間でもあった。まぁ、そうなるのはずっと後の話となるが……

「あらあら、なにやらにぎやかねぇ〜」

と、新たに5人の少女と女性がやってくるのだが……それを見たアスナと夕映、のどかと刹那の顔が引き攣る。なぜか? 1人の女性の周りにはなぜか人魂がいくつも浮かんでおり、もう1人の少女の傍にも少女と同じくらい大きさの人魂があったからである。

「幽々子さんに妖夢さん。お久しぶりです」

「早苗さんに神奈子さん、諏訪子もお久しぶり。でも、珍しいわね。幽々子さんと一緒なんて?」

「なに、お前さん達を見つけたんで声を掛けようと思ったら、一緒になっただけでね」

ネギと共に挨拶をするアーニャの問いかけに、背になぜかしめ縄を背負う女性が笑うように答えていた。

「ああ、紹介がまだでしたね。西行寺幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)さん。幽々子さんは亡霊……でしたっけ?」

「ええ、そうよ」

「魂魄妖夢(こんぱく ようむ)といいます。よろしく」

ネギの紹介にうなずく幽々子の横で、妖夢が頭を下げながら自己紹介する。のだが、アスナ達は呆然としていた。というのも――

「ぼ、亡霊ということは……幽霊さん……なのですかぁ?」

「ええ、あなた方から見れば、そうと言えますわね」

「はぁ〜、だから、人魂があるんやねぇ〜」

「これは私に憑いてくる幽霊よ。あと、妖夢は半人半霊でね。そばにいるのは、彼女の半身というわけ」

怯えるのどかに幽々子はからかうように答えるのだが、このかは興味深そうに彼女の周りを飛び交う人魂を見ていた。それを微笑みながら眺めつつ、妖夢の紹介もしてたりするのだが、アスナ達は理解し切れなかったので、曖昧な返事を返すのがやっとであった。

「その刀……二刀流ですか?」

「はい……あなたも刀を使うので?」

「ええ……まだ未熟なのですが――」

その横では妖夢と刹那が話し合っていたりする。互いに剣を使う者同士。気が合ったようである。

「洩矢諏訪子(もりや すわこ)さんと八坂神奈子(やさか かなこ)さんは神様でして、東風谷早苗(こちや さなえ)さんはそんな2人に仕える巫女さんだそうです」

「神様……ですか!?」

ネギの紹介に驚いたのは刹那だ。確かに感じられる力は強いだけでなく、神聖的なものを感じなくもないのだが……神様だとは思わなかったのだ。

「その服装……あなた方も外から来たので?」

「あ、そっか。早苗さんは元々外の世界の人なのよね」

そんな中、早苗の言葉にアーニャはそのことを思い出し、思わず漏らしていた。

「どういうことなのですか?」

「私達はシンジや紫さんのおかげで外の世界と行き来出来るけど、本当ならこの幻想卿に入ってしまうと元の世界に戻るのは無理と言ってもいいわ。早苗さん達は外の世界で信仰を得ることが難しくなったから、幻想卿に来た……のよね?」

「ええ、そうです。確かに外の世界に未練が無いわけではありませんが……シンジさんのおかげでなんとかなりましたので」

夕映の疑問にアーニャが答えて、それに早苗が同意するようにうなずく。ただ、その顔はどこか紅かったりするけど。

「まったく。気になるんなら、付き合っちゃえばいいのにさ」 「す、諏訪子様、何を言って……第一、シンジさんの気持ちも――」

「大丈夫なんじゃないの? ていうか、あいつってば奥さん何人もいるらしいじゃない。今更1人2人増えたって、問題無いって」

諏訪子にからかわれて真っ赤になる早苗であった。というのも、この幻想卿に来てから時々ではあるが、何度か助けてもらったことがある。といっても、生活の面での話しだ。元々、早苗達は外の世界の住人である。勝手が違う幻想卿に戸惑うのは当然であり、そのつどシンジに助けられていた。そのためか、早苗はいつしかシンジに淡い恋心を抱くようになったのだが―― 一方で麻帆良組は聞き捨てなら無い一言を神奈子から聞いたために驚きの顔になっていた。

「あの……奥さんが何人もいるっていうのは?」

「そのまんまだよ。詳しくは聞いてないけど、仲良くやってるそうだ。確か、ネギのお姉さんもだったよな?」

「はい」

顔が引き攣ってるアスナに神奈子が答え、ネギもさも当然といった顔で同意したのだが……アスナ達は呆然といった様子だった。だって、あのシンジを見てるとそうは見えないのだ。

「ほら、早苗もあの輪に入ってきなよ」

「いや、その……押さないでください、諏訪子様!?」

諏訪子に押され、慌てる早苗。その先ではシンジの姿があったのだが……なぜか、女性達に囲まれていた。1人は真名。嬉しそうに……寮では同室である刹那が見たこと無いような笑顔でシンジと接していた。その他に3人の女性の姿があったのだが――

「ところでシンジさんの周りにいる女性はどなた達なのですか?」

「ん? ああ、あのチェック柄の服を着てるのが風見幽香(ふうけん ゆうか)といって、花の妖怪よ。ただ、花の妖怪といってもその実力はとんでもないけどね」

「黒い髪の女性は蓬莱山輝夜(ほうらいざんかぐや)様。私達の主でもあります」

夕映の問い掛けにアーニャが答えた後に、女性の声が聞こえてくる。振り向いてみると、そこには5人の女性の姿があった。

「初めまして、外の世界の方。私は八意永琳(やごころ えいりん)と申します。この子は私の弟子で鈴仙・優曇華院・イナバ(れいせん・うどんげいん・いなば)です」

「私は因幡てゐ(いなば てい)。よろしくね」

と、永琳の紹介に鈴仙は頭を下げ、それに続いててゐも自己紹介するのだが――

「あ、これはご丁寧に。私は……かぐや?」

夕映が挨拶をしようとして、ふとそのことに行き当たった。いや、まさかとは思いたいが……と、葛藤してる彼女を不思議そうに見ているアスナ達。

「あの、つかぬことをお聞きしますが……輝夜さんは竹取物語と何かご関係が――」
「関係も何も、その本人だよ。ああ、私は藤原妹紅(ふじわらの もこう)。隣にいるのは上白沢慧音(かみしろさわ けいね)だ」

夕映の問い掛けに妹紅が自己紹介を交えて答えたのだが……それにこのかとのどかが夕映と共に目を見開いて驚いている。

「え? あの、みんな……どうしたの?」

 アスナはこのか達の反応の意味がわからず、戸惑っていたが……

「アスナはかぐや姫のお話は知ってるやろ? 竹取物語はな、そのお話の元になったもんやけど――」

「ああ、それくらいなら私にも……って、ええ!?」

このかの説明にアスナもそれに行き当たり、ものすっごく驚くはめとなった。そう、輝夜はマジで日本で有名な御伽噺であるかぐや姫ご本人なのである。

「本当に……本物のかぐや姫なん?」

「ええ、そうですわ……」

「幻想卿……あなどれませんね」

マジマジと輝夜を見るこのかに、永琳はにこやかに答えた。それを聞いた夕映はどこか興奮気味であった。元々、知的探究が好きな彼女なのだ。こういうのに興味を持ったとしても、それはおかしなことではないのである。

「それであの小さな子は誰やろ?」

「四季映姫・ヤマザナドゥ(しきえいき)様。ああ見えても、おっかない閻魔様さ」

他の3人の女性にはなにやら睨みつつも、シンジには嬉しそうな顔で甘える少女が誰なのか疑問を持ったこのかに答えたのは、スタイルの良い和服姿の女性であった。その横には桃をかたどったアクセサリが付いた帽子を被る少女と、なにやら羽衣を纏う女性がいるが、少女の方はなにやら嫌そうな顔をしている。

「え、閻魔……ですか?」

「そ。あ、私は小野塚小町(おのづか こまち)。三途の川の渡し守をしてる死神さね」

驚きながら四季を見るのどかに小町は笑いながら答えるのだが、それを聞いたアスナ達は小町を驚いた様子で見てしまう。確かにデッカイ鎌を持ってはいるけど……まさか、死神とは……いや、四季も服装とか持っている物を見ると見えなくもないんだが……いかんせん、小さすぎて閻魔だとは見えない。

「で、隣にいるのは比那名居 天子(ひななゐ てんし)っつ〜天人さ」

「天人……というのは?」

「天人とは、天界に住まう方々のことです。初めまして、外の世界の方々。私は竜宮の使いの永江衣玖(ながえ いく)と申します」

小町の紹介を聞いて出てきた新た疑問を夕映が問い掛けると、衣玖が優雅な仕草で頭を下げつつ自己紹介をする。が、夕映はその言葉に首をかしげた。というのも――

「竜宮の使いというのは……あの浦島太郎の?」

「いえ、竜宮とは龍神様が住まう場所です。私の役目は龍神様の言葉を伝えることなのです」

微笑を浮かべながら、衣玖は夕映の疑問に答える。もっとも、夕映達は驚いていたが。なにしろ、本などに書かれている架空と思われていた存在が当たり前のように出てくるのだ。あまり本を読まないアスナでも、驚かずにはいられなかったのである。

「にしても、天子ちゃん……だっけ? なんか、不機嫌そうだけど……どうかしたの?」
「天子ちゃん!?」

「あっはっはっ! 天子ちゃんか! こりゃいいねぇ〜。まぁ、この子が不機嫌なのはちょっと訳ありでね。あんたらが気にするほどでもないさね」

アスナにちゃん付けされたことに驚く天子を見て、笑いつつも理由を答える小町。ちなみにだが、天子と小町の仲が悪いのは職業柄的な理由である。どういう意味なのかは長くなるので省くが、天子は小町を毛嫌いしてるのだ。それは小町も一緒なのだが、彼女の場合は天子ほど気にはしてないようである。
さて、女性達に囲まれているシンジはというと――

「まったく、私の知らない所で女性と付き合ってるとはね。しかも、3人も……」

「いや、付き合ってるわけではなく、単なる知り合いなんですがね」

じと目なのだが、どこか妖艶な笑みを浮かべる真名に、シンジはやんわりと事実を否定するのだが――

「知り合い……ね。私をあんなに滅茶苦茶にしたくせに?」

「いきなりケンカを売ってきたのはあなたでしょうが」

幽香の言葉にじと目になるシンジ。幽香との付き合いは、幻想卿で様々な花が咲き乱れるという異変が起きた時に遡る。その時にシンジも手伝い(というか、霊夢に無理矢理手伝わされたのだが)、得た情報から花の妖怪である幽香なら何かを知ってるのでは?と思い至り、それで彼女の元へと赴いたのだが……弱い奴に用は無いと、いきなり弾幕を撃ってきたのである。結果はシンジの勝利。ただ、その戦いで何かあったらしく、以来幽香はこうしてシンジに理由を見つけては付き合おうとするのだった。

「ホント、つれない方……こんなにも人を狂わせておいて……」

「いや、私なにもしてませんよ?」

輝夜の言葉に困った顔をするシンジ。輝夜とのきっかけは、シンジをからかおうと思った時である。蓬莱人……すなわち不老不死たる彼女は、永遠に生きる退屈を紛らわせようとしたのだ。まぁ、宴会以外に屋敷から滅多に出ることが無い彼女は久々に男性に出会い、それでいたずらしちゃおうと考えたのだ。
が、シンジはそんな輝夜の思惑には乗らず、意地になった彼女はことあるごとにシンジに追いかけるようになった。いつかはシンジを参ったと言わせるために……が、いつの間にか、輝夜の方がシンジに夢中になることになったが。

「本当にあなたは……自分の罪を考えないのですか?」

「考えないわけじゃないですがねぇ……ですが、考えたとしても、罪が変わるわけでも消えるわけでもありませんよ」

四季の言葉に、シンジはどこか遠い目で答える。閻魔たる四季がシンジの罪に気付くのは当然と言えた。彼女はそれを償わせようとしたのだが……シンジは今の言葉を言うだけで、何かをしようとはしなかった。それが四季にとっては許せないことだったのだが……ある日、彼女は気付いたのだ。シンジが何者であるのかを……それは閻魔たる彼女だからこそ、気付けたのかもしれない。そう、彼は――

「まったく……でも、それがあなたなのでしょうね」

やれやれといった様子で四季はため息を吐く。彼はもう人ではない。それどころか、永遠にまともな運命を全うすることも叶わないだろう。それを哀れとは思わない。彼は罪を犯しすぎた。その運命では償えないほどに。でも、彼の運命を思うと……それが四季がシンジと付き合おうとした理由でもあるのだが。

「それで、お子様はいつまでここにいるのかしら?」

「おこ……なんですって!?」

なんか、見下すような目でからかう幽香。四季はあからさまに反応してしまい、明らかに激怒してしまう。確かに四季の姿は少女である。四季のことを知らない者が、彼女が閻魔であると聞かされても、まず信じないだろう。もっとも、幽香も普通なら四季にこんなことは言わない。閻魔である彼女を怒らせては、ろくなことにならないとわかっているからである。ただ、今回は酔っていることと、邪魔をされたくない……というか、説教じみた話を聞きたくないという理由からの暴言だったが。

「だ、誰がお子様ですか! 誰が!?」

「どう見ても、あなたじゃないか」

怒り出す四季に真名がとどめの一言を言い放つ。ちなみにだが、真名は四季が閻魔だとは知らない。いや、知っていてもシンジが関わってたら、同じようなことになってたかもしれないが……まぁ、それはそれとして。音がした。何かが割れるような、ぶち切れるような音が――

「ふ、ふふ……ふふふふ……お子様……この私がお子様ですって……」

「あ〜、四季さん。キャラ、壊れてません?」

いい感じに震えてる四季の様子に、嫌な予感しかしてないシンジが待ったを掛けようとした。止めないと色々とまずいな〜とか、メルトダウン寸前の核融合炉その傍にいるような感覚で……

「これは……シンジ以外に見せるつもりはありませんでしたが……見るがいい! 小娘ども!!」

「四季さん。それあなたのキャラと違いますから」

叫ぶと共にいきなり輝き出す四季。それにシンジがツッコミを入れる。すっごく遅すぎたけど。その輝きに目が眩みそうになるがすぐに収まり、幽香達が視線を戻して……驚愕に目を見開いた。そこには1人の女性が立っていた。威厳と気品に満ち溢れた美しく整った顔立ち。真名ほどの身長で、スタイルも彼女並。ただ、胸だけは遥かに上回っていたが。
ただ、着ている服が小さいのかパツンパツンな上にボタンがなぜか無く、そのせいで前が開いてしまって胸の谷間やら下乳やらへそ出しやらの状態になっていた。スカートもその意味をほぼ成しておらず、下着が完全に見えてしまっている。なお、青と白のストライプで、なんかローレグ風になっていた。
もう、お気付きの方も多いだろう。このトンデモダイナマイトボディの女性の正体は四季である。ただ、変身したのは肉体のみで、服までは変わらなかったようだが。なお、本気で余談だが、実際の四季にはこんな変身能力は無い。あくまでもこのSSオリジナル設定であることを付け加えておこう。
それはそれとして、四季のそんな変身に呆然となる幽香達。というか、この宴会に来ているほぼ全ての者達が四季の変身した姿を初めて見るので、同じようなもんだったけど。なお、紫と幽々子はいつも通りだったが、紫は知っていたからであり、幽々子の場合は気にしてないだけである。

「ふふ、これでもお子様に見えますか?」

魔乳と化した胸をたゆんと揺らしながら、誇らしげに胸を張る四季様。ハッキリ言おう。彼女も酔っている。でなければ、人前でこんな姿にはならないだろう。でも、変身した姿は宴会に来ている多くの者達が羨むものであるのも事実なので、何も言えなくなっていたが……

「あなたは知ってたの?」

「まぁ、その……ついポロっとその一言を漏らした時に見せられましてねぇ……」

なぜかじと目の輝夜の問いに、シンジは困った顔で答えていた。彼女がこんな目をするのはある勘を感じたからだ。そう、女性としての勘。なにやら、ただならぬものを感じたのだ。何かで一歩後れを取っているような……

「ふぅ〜ん……それなら行くとこまでいっているのかしら?」

「ええ、それはもちろん。私はシンジに全てを捧げ、彼も私を受け入れ、抱いてくれました」

輝夜の問い掛けに四季はなんか誇らしげに答えるのだが……それを聞いた輝夜を含めた3人はシンジを睨みつける。シンジはといえば、困った顔で頬を指で掻いていたが……

『じっくりと話し合いましょうか!』
「はい……」

幽香達3人の言葉に、逃げられないと悟ったのか、シンジはやけにあっさりとうなずくのであった。ちなみにだが、四季の話は他の者達にも聞こえていたので、興味深々だったり、顔を赤らめてたり、なんかシンジを睨みつけてたり、そんな思い思いの様子である。

「シンジさんって……もしかして、すっごい女誑し?」

「いや、旦那はそんなつもりねぇはずだぜ。ネカネさん……あ、アニキの姉ちゃんなんだがな。その時も旦那は特にこれといったことしてなかったしな」

顔が引き攣ってるアスナに、ネギの肩に乗るカモがフォローのつもりなのか答えていた。ちなみに横にいるのどかは真っ赤になって、「あわわ……」となぜか慌てていたりする。このかはぽか〜んとしており、刹那は目が泳いでおり、夕映は……なぜか、変わらぬ様子で飲み物を飲みつつ、シンジを見ていた。ちなみに飲んでいるのはお酒である。
一方で紫と幽々子は嬉しそうにシンジを見ている。からかうネタが出来たというような笑顔を浮かべながら……ま、そんなこんなで幻想狂の夜は更けていく。なお、次の日の朝、なぜか肌がツヤツヤになっている幽香、輝夜、四季、真名の姿があったりする。ただ、四季は元の姿に戻っており、恥ずかしいのか顔を真っ赤にさせていたりするのだが……

さて余談となるが、麻帆良はどうだったかといえば、それはもう平和そのものであった。ネギ達がいなくなったことにも気付かずに……まぁ、シンジが用意したデコイによって、気付かれないようにしてるのだが。
どういうことかというと、麻帆良に張られた結界は対象を気配などで認識するようになっている。シンジはこれを利用してネギ達の気配を発するデコイを設置したのだ。これにより、ネギ達はそこにいると誤認させられたのである。学園側も結界を信用してしまっているために、直接確認するようなことはしなかった。
また、ネギ達が住む寮の住人にもネギ達がいないことを怪しまれないよう、認識誤認させる機械式のフィールドを張り、いないことを当然であると誤認させている。ちなみに機械式にしたのは、魔法でやると魔法使いの巣窟とも言える麻帆良では一発でばれるからであった。
まぁ、そんなこんなでネギ達も何の問題も無く、修行を行えたのだが――

「ところで……なんで、ここ(幻想卿)でネギちゃんを鍛えようと思ったの? 場所なら、なのはちゃん達の所でも貸してくれたでしょうに?」

「私はネギ君達を政治の道具にするつもりはありませんよ」

「なるほどね……」 裏ではこんなやりとりがあったことを、この2人以外に知る者はいなかった。2人は願う。ネギに穏やかな日々を過ごして欲しいと。でも、それが叶わぬ願いであることもわかっている。周りがそうさせてくれないことと、ネギ本人が父であるナギに会うために努力をしているのだから……
故に2人はネギに出来うる限りのことをしようとする。ネギに人としての幸せを得てもらうために……それも叶わぬ願いと知りながらも――



あとがき

DRT:というわけで、ついに登場東方キャラ達。うん、扱いがすっごく難しい^^;
シンジ:書いてから言うなよ。でも、なんでまた東方を出そうと思ったんだ?
DRT:思いつき
シンジ:うん、お前らしいよなぁ……本当に……
DRT:あははは、まぁ気にしない。さてと、次回はまたもや東方が登場します。
シンジ:ん? 次回って図書館地下での話じゃなかったっけ?
DRT:時系列的にはね。でも、私はそうも簡単に話を進めると思う?
シンジ:何する気だ?
DRT:それは次回をお楽しみにということで。
シンジ:すっげぇ、心配なんだけど……


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