「なんだこりゃ……」

ナギ・スプリングフィールドは、その光景を呆然と眺めていた。
自分の故郷である村が強襲される。それを知った彼は、すぐさま向かった。あそこには世話になった人や自分の家族がいる。ある理由で長くは留まれないが、それでも守りたいと思ったものを守る為に向かった。時すでに遅いことはわかってはいる。それでも、生き残っている者がいるのならば、それだけでも助けようと向かい……それを目の当たりにした。

「ナ、ナンダ……ナンナンダ、アレハァ!!?」

1体の魔物……おそらく中級辺りの悪魔だろう。それが悲鳴に近いものを叫びながら、光に呑まれていく。自分の故郷たる村を襲わせるために喚ばれた悪魔や魔物の群れ。破壊と殺戮で村を蹂躙し尽くすであろうその者らは……逆に蹂躙されていた。



episode :00 『邂逅』




彼らの離れた先にいる1人の青年。歳は10代後半……180台はあるであろう細身の長身をスポーツシューズ、ジーンズ、白のTシャツ、Gジャンにドライバーグローブで包み――それなりに整う若い顔立ちにやや短い黒髪と黒い瞳。それから見てアジア系……日本人に見えなくもない。それだけならどこにでもいる青年に見えただろう。だが、ナギにはまったく別の者に見えた。
その青年の手には持つ者の身長ほどもある大剣が握られていた。しかも、その大剣は刀身も柄も漆黒に彩られ……禍々しい何かを放っているように感じられる。そして、その大剣を持つ青年の表情は……無かった。無表情……時折、まばたきをしていないと仮面を被っていると錯覚しそうなまでに表情が無かった。
だが、それ以上に青年から感じるものは異常だった。殺気……いや、これほどまでに大きく、異様なものは殺気とは言えない。まさしく殺意……そうとしか言えないものを放ちながら、青年は悪魔や魔物の群れへと向かい歩んでいた。
と、その青年に向かい悪魔の群れが魔力の塊を放つ。その1つ1つがたやすく青年の体を砕くであろうそれらは……それを実現せずに掻き消えた。青年の体に触れる手前で、何かにぶつかるようにして……魔力障壁。しかも、とんでもなく強固な……その様子を見ていたナギはそう判断する。実はまったく違うのだが、今のナギにそれを知る術は無かった。

「バ、バケモノカ! キサマハァ!!?」

「なんだ、今頃気付いたのか? まぁ、いい……これで終わりだ」

悪魔の1体が叫んだ時、青年が呟くと共に空にいくつもの魔方陣が描かれる。そのどれもがナギの知識に無いもの。物覚えが悪く、まともに覚えてる呪文は手の平で数えられる程度。他はアンチョコがなければ唱えられない彼だが……それでもわかる。あれは自分が知っている……いや、自分が使う魔法体系とはまったく違うものだと。
青年が指を鳴らすとその魔方陣から光の柱が降り注ぐ。というよりは、あまりにもドデカイ魔力の塊。 それが昔、ナギが日本に滞在してた時に見たアニメの波動砲みたく放たれる。魔方陣全てから……それから逃れる悪魔、魔物はおらず……全てが押し潰されるかのように消えていった。そこでナギはあることを思い出す。昔聞いた話を――
やがて、全ての悪魔と魔物が消え去ると、青年の手から大剣が消える。それと共にあの異様なまでの殺意も消えた。心なしか表情も……いや、間違いなく表情が変わっている。どこにでもいそうな……いや、あれは違うのか? だって、あれは――
ナギがそう思う中、青年は悪魔や魔物の攻撃を受けて燃え盛る村へと体を向け、顔の前で手を合わせから両手を広げると、無数の光の粒子が降り注いだ。すると村の火は消え……遠目で良くわからないが、なんか建物自体も元に戻ったように見える。更にはなにやら歓声なんかも聞こえてきた。

「これで良しっと……大丈夫でしたか? それとそこの人、どこのどちら様でしょう?」

と、青年がナギに声を掛けてきた時、そこで彼は気付いた。青年の後ろに3つの人影があったことを。 1つは小さな男の子。もう1つはまだあどけない少女。最後にパイプをくわえた老人。その老人にナギは見覚えがあったが、それ以前に驚いたのは青年の方だった。
あの異様な殺意は消えた今は……なんというか穏やかだった。そう、穏やかなのだ。穏やかすぎるのだ。あんた本当に若者か? ってくらいに穏やかな顔をしていた。そんな青年に戸惑いつつも、ナギは歩み寄る。

「お前……ナギか?」 「え? おじさま?」

そのナギに気付いた老人と少女は驚いた顔をしていた。それもそうだ。だって、彼……ナギは―― 「おぬし……生きとったんか?」

「まぁ、色々とわけあってな……ところであんた……黒き勇者か?」
「なに!?」

聞かれたことには誤魔化しながらもナギは青年に問い掛け、それを聞いた老人は驚きをあらわにしていた。あの時、ナギが思い出したもの。それは彼の黒き勇者の噂。それと青年の戦う姿が重なっていたように思えたから……だから、問い掛ける。一方で少女は首をかしげ、男の子は不思議そうな顔を青年とナギに向けていたが。

「昔、そう呼ばれていた……のは事実ですがね。私がその名を名乗ったことはありませんよ。そして、これからも……ね」

と、青年は意味ありげな笑みを浮かべつつ答える。それにナギと老人は驚きと困惑が入り混じった表情を浮かべていた。

「あの……黒き勇者とはどういうことなのですか?」

「あ、いや……その、じゃな……」

少女の問いに老人は答えにくそうにしている。勇者と呼ばれていても、それは悪名に他ならない。いや、悪名と呼ばれる分ならば、まだいい方だ。黒き勇者はそれこそ害悪。その名を知る者は、そういう意味で認識している。もっとも、少女の方は若すぎるせいか青年が放っていた殺意が気付かなかったため、意味を図りかねていたが。

「昔、色々とありましてね……ま、それは機会があったらお話しましょう。で、私がそれだった場合、どうするので?」

「いや、あんたがあの黒き勇者なら、なんで村を助けてくれたのかと思ってな」

青年の問いにナギは素直にその疑問を口にした。この青年が黒き勇者ならば、村を助けるはずが無い。なぜなら、黒き勇者は滅ぼす者で――

「お仕事ですよ。今の私は、いわゆる宮仕えの身という奴でしてね。この村が襲われるという情報があり、それで私に村を守れという命令が下った。ま、そんなところです」

にこやかに青年は話すのだが、ナギと老人は困惑の色を濃くしていた。あの黒き勇者が宮仕え? 嘘だろ!? なまじ、黒き勇者の話を知っているだけに、ナギと老人にはその話は驚き以外の何者でもなかったのだ。

「ああ、確かに私は多くの破壊と殺戮をしましたが……それが目的だったわけではありません。目的を遂行する過程で起きてしまった。気を悪くなされるでしょうが、当時の私としてはその程度のことだったんですよ」

ナギと老人の表情を見て、青年はそんなことを言い出す。にこやかな表情のままで。それに老人は嫌悪感を示し、女性は破壊と殺戮という言葉に驚いていた。違った反応を見せたのは男の子とナギ。男の子は意味がわからずキョトンとしていたが、ナギはどこか興味を深めたように青年を見ていた。

「じゃあ、その時の目的ってなんだ?」

「戦うこと、ですね」

「今は何の為に?」

「暇つぶし……といえば、納得なさいますか?」

睨み付けるように見るナギの問いに、青年はにこやかに答える。いや、答えているというよりは流しているようにも見えるが……だが、ナギには満足な返答だったのだろう。途端に笑顔になる。

「あんたに……頼みがある」

「私が出来る範囲なら……となりますが、なんでしょうか?」

「息子を……ネギを頼みたい」

「ナギ!? いったい何を――」 「おじさま!?」

ナギの言葉に老人は驚く。少女も驚く中、青年だけは冷静にナギに顔を向けていた。

「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

「戸惑うと思ったんだがな……俺は長くここに留まることが出来ない。ここに来れたのもやっとのことだったしな」

「なるほど、あなたから感じるものがおかしいとはわかっておりましたが、そういうことですか……やれやれ、世界も罪なことをしてくれますね」

ナギの話に青年は大筋を理解したようで、そんなことを漏らした。ナギはそれを聞いて、わずかに驚いていたが。

「わかるのか?」

「何、ちょいと昔に戦う為に力を追い求めましてね。そのために、その手の知識も仕入れた……というだけですよ」

「どういうことじゃ?」

2人の話に老人は疑問を漏らす。2人の会話では何がどうなっているのかまったくもって検討がつかなかったためだが。

「知らない方がいい……という類の話です。それで息子さんをどうして私に?」

「お前さんなら託せる。ただ、そう思っただけだ」

老人に答えつつ、青年が不思議そうに問い掛けたが、それにナギは満面の笑みでそう答え、老人と少女が呆然と見つめる中、男の子へと振り返った。

「お前がネギ……だよな?」
「え? あ……」

ネギと呼ばれた男の子の頭をナギは撫でていた。それを不思議そうな顔をしながらも、されるがままのネギ。

「この杖をやろう。俺の形見だ」

「あ、あうぅ……」

「ははは、ちょっと重すぎたか」

杖を渡されたネギだったが、小さな体にナギの身長くらいもある杖は重く、上手く持てずにいた。それを面白そうに見ていたナギだったが、やがて顔を引き締め空を見た。

「さてと、時間か……悪ぃな。お前には何もしてやれなくて……」

「お、父さん?」 「ナギ、おぬしは……」 「おじ、さま……」

ふわりと宙に浮かびながらナギはそんなことを漏らす。それで気付いたのだろう。ネギは不思議そうな顔をしながらその言葉を漏らした。老人と少女はなぜ去らねばならないのか? それを言いたそうな顔を向けていた。

「私なら、世界をどうにかすることが出来ますが?」

「はは……あんたなら本当にやれるかもな。でも、これは俺の手で何とかしなきゃならないんだ……だから……ネギを頼む」

「やれやれ、気負いすぎだと思いますがね。ま、そこまで言うのでしたら……私の出来うる範囲で……」

「ありがとう……そうだ。あんた、名前は? 俺はナギ、ナギ・スプリングフィールドだ」

シンジ。アオイ シンジと申します」

笑顔でそんなやりとりをする青年ことアオイ シンジとナギ。ネギ達はその様子を呆然と見つめていたのだが――

「こんなこと言えた義理じゃねぇが……元気に育て、幸せにな!」
「あ、お父……」

その言葉を残し飛び去っていくナギ。ネギは慌てて追いかけるが、途中で転んでしまう。

「お父……さん……」

ネギが顔を上げた時、ナギの姿はどこにも無く――

「お父さぁーーーーーん!!!??」

悲しさと寂しさのあまり泣き叫んでいた。そのまま泣き崩れるネギだったが、その頭をシンジは優しく撫でていた。

「大丈夫ですよ。またいつか、会える日が来ます。あなたが、お父さんに会いたいと思うのならね」

「うぐ……う……で、でも……僕が……僕がピンチになったら……ピンチになったら、お父さんが助けに来てくれるって思ったから……村が――」

なだめるように優しく語るシンジだが、ネギはそれでも治まらず……逆にそんな罪悪感にさいなまれていた。自分がそんなことを考えたから罰が当たってしまった。まだ幼いネギはそう思ってしまったのだ。

「いえいえ。誰かに会いたい……それは誰もが考えることです。そのために努力を惜しまない人だっています。ですが……今回は運が無かった……なんでしょうねぇ……ですから、次はちゃんと会えるようにがんばればいいのですよ」
「え?」

頭を優しく撫でつつ、シンジは微笑みながらそう言い聞かせる。その言葉にネギは顔を上げた。そこにあるのはシンジの優しい笑顔。

「今度はちゃんと会えるように努力すればいいのです。ただし、やり方をきちんと考えなければなりませんがね」

微笑みつつ、シンジは立ち上がりながらそう言う。でも、その言葉はネギにとって心に響き渡るものだった。そこで思い出す。シンジのあの戦う姿を……そう、あの戦う姿は……

「お兄ちゃんは……勇者様なの?」

と、聞いてしまう。まだ幼いネギが殺意を感じ取れるはずが無く……また、シンジはネギを守る為に持っていた大剣を振るっていたりもした。その姿がおとぎ話に出てくる勇者と重なって見えて――

「いえいえ。私は単なる小悪党ですよ」

「こあく……とう?」

やんわりと否定しつつ、なんかとんでもないことを言い出すシンジ。もっとも、ネギには理解出来ず、首をかしげていたが……

「そうです。必要ならば、人を騙し。必要ならば、奪い。必要ならば、人を傷付ける。下手に出てでもあらゆるものを利用し、目的を達する。私はそういう小悪党なのです」

と、またしてもとんでもないことをのたまうシンジ。でも、ネギは驚いたような、困ったような顔をするだけだった。まだ幼い子供がシンジの話の意味を簡単に理解出来るわけないので、当然とも言えるけど。

「小悪党……たった1人で悪魔や魔物を駆逐した貴様のような害悪がか?」

「時間があるならば、村人を使って防衛戦も出来たのですがね。そんな暇が無かったので、私自身が戦った。というだけですよ」

嫌悪感をあらわにする老人の言葉に、シンジは気にした風も無く答える。それを少女は不思議そうに見ていた。確かに破壊や殺戮をしたと聞いた時には驚いたが……でも、不思議と怖いとかそういう感情はほとんど無かった。先程の戦いを見て怖いと思ったけど、今の彼を見ていると本当に同一人物か思えるほどに様変わりし、故に老人ほど嫌悪感も無い。

「さてと、ネギ君でしたね? 君はどうしたいのですか?」

と、シンジは笑みを浮かべながら問い掛けた。ネギはといえば、キョトンと見ているだけだったが……

「会いたい……今度こそ、キチンとお父さんに……会いたい!」

「そうですか……いいでしょう。仕事があるゆえ、毎日とは行きませんが……あなたがちゃんとお父様に会えるように、その術をお教えいたしましょう」

決意を秘めた瞳を向けるネギに、シンジは笑顔で答えた。それを老人は睨むかのように見つめる。というのも――

「貴様……ネギをどうする気じゃ?」

「言葉の通りですが? ああ、あなたが危惧しているようなことはしませんよ。私のようになるのは、ただの不幸でしかありません。人の不幸を見るのが好きというのは、よほど奇特な方だけでしょう。私はそんな奇特な人になった覚えはありませんよ?」

肩をすくめながら話すシンジだったが、老人は逆に驚きを隠せなかった。自分のことを不幸と認めたのだ。老人だって、自分が不幸だなんて思ったことは無い。というか、大抵の人はそうだろう。なのに、シンジは――

「そんなこと……無いと思います。昔、何があったかは知りませんが……私はそう思います。だって……そうじゃなきゃ、私達を助けてくれるはず……ないですから……」

少女は真剣な眼差しをシンジに向けていた。今までの話や老人の様子を見てると、この人は怖い人なのかもしれない。でも、少女にはそうは思えなかった。だって、この人を見てると……どこか、安心出来るから――

「そんなことは無いのですがね。でも、その優しさは大事にしてください」
「あ……」

笑顔のシンジに頭を撫でられ、少女は顔を赤らめる。恥ずかしいから……ではなく、どこか心地良かったから――

「さてと、今日はもう遅いですし、帰ってお休みした方がいいでしょう。これからのことは後で話し合えばいいでしょうしね。あ、そうそう。今回のことですが、私のことは秘密ということでお願いします」

「え? どうして……ですか?」

シンジの言葉に少女が疑問を漏らす。なぜなら、この人は村を守ってくれたのだ。感謝はされてもいいはずなのに――

「お嬢さんは知らないでしょうが、黒き勇者という名は悪い意味で有名ですので。下手に言ってしまうと、色々と問題があるのですよ。私自身、早々表舞台に出るわけにもいきませんしね。そうですね……ナギさんがしたということにしましょう。それなら、問題は無いはずです」

「そんな……」

シンジの言葉に少女は悲しそうな顔をする。村を守ったのはこの人なのに……なんで、そんなことを言うのだろうか? 少女にとっては当たり前のような疑問。でも、老人の方はわかっているようで、感心したような顔をしていた。

「ま、おぬしの言うとおりだな……じゃが、ナギがしたことにするにも問題がある。あやつはすでに死んだことになっておるからの。それに村を襲った奴らは多分、ナギに対しての意趣返しのつもりでやったんじゃろう。ナギはおぬしとは別の意味で有名じゃしの」

「あや、そうでしたか。では……通りすがりの人がやったことにしちゃいましょう。それなら、問題は少なくて済むでしょうしね」

老人の言葉の意味を理解したのだろう。いかにも思いついたという顔でシンジはそんなことを言い出す。もっとも、老人としても同じ考えだった。ナギが生きていた。その事実は後で大変なことになりかねない気がしたからだ。少女は不服そうにしていたが。

「そういう顔をなさらないで。さっきも言ったでしょう? 私がしたことにしても、色々と問題があると。ま、そこら辺のことは追々……ということでいいでしょうか? これからどうするかは、明日にでも話すことにしましょう」

「ふむ、そうじゃの……」

シンジの言葉に老人は納得したようにうなずく。同時に思う。こいつは噂のような者ではないのかもしれないと。実際は半分ほど違うのだが、今の老人にそれを知る術は無かった。

「なにはともあれ、今日はお帰りなさい。途中まではお送りいたしますから」

「え、あ……はい」 「うん、ありがとうね、お兄ちゃん!」

シンジの言葉に少女は悲しそうに、ネギは嬉しそうに返事をした。そんな少女の頭を撫でつつ、「気にしないで」とシンジは言ってたりするが。

「そういえば、自己紹介がまだじゃったの。わしはスタン。ナギに頼まれての……ネギの世話をしておる」
「あ……ネカネ・スプリングフィールド……ネギの従姉弟です……」
「スタンさんとネカネさんですか。これからよろしくお願いいたします」

というような、やりとりを村の入り口が見えるまで続けられ、見えた所でシンジはネギ達と別れ、どこかへと行ってしまう。それをネギと少女……ネカネは寂しそうに見送っていた。老人……スタンはそれを苦笑交じりに見ていたが。
こうして、正史では滅ぼされるはずだった村は奇跡の生還を果たした。後日、通りすがりの者が村を救ってくれたとスタンが説明し、村人達はその人にお礼がしたいと言い出すのだが……全てが終わると名も告げずに去ってしまった。なので、どこの誰かなのはわからない。と、シンジと話し合った通りにスタンは説明する。
その説明のために様々な憶測が飛び交う。もしかして、ご高名な魔法使いが来ていた? いや、あのナギ・スプリングフィールドが生きていたのでは? 憶測が憶測を呼ぶが、結局の所真相は当事者以外わからないままとなる。もっとも、そうなったのはシンジが一枚噛んでたりするのだが……
その間、ネギ達はシンジと共にこれからのことを話し合う。その話し合いのさなか、スタンはシンジの認識を更に改めることとなったのだが。

「おぬし……そこまで考えておるのか?」

「先日のこととナギさんの有名さを考えるならば……ですがね。まぁ、私は仕事柄、策士となることが多かったですから。時には戦術士として、時には戦略家といった形で。そんなわけで、小悪党というのが今の私の性に合ってるのですが。
ま、それはそれとして、ネギ君のことを含めてあらゆる可能性を考えなければいけません。ネギ君は子供ですしね。無茶なことをさせるわけには行きませんよ。私としては、元気にすごしてくれるのが理想ですしね」

などと笑顔でシンジは答えるのだが、スタンはそれに感嘆していた。シンジの考えは長期的に考えれば、納得出来るものだった。いや、それもあるのだが。シンジはネギを1人の人間として……いや、子供として見てくれている。
多くの村人や魔法使いはネギをナギの息子として見ていた。ネギは気付いてなかったが、そのためにもてはやす者も少なくなかった。なぜなら、ナギは英雄とも言える偉業を成し遂げている。その息子のネギも、ナギ譲りの巨大な魔力と才能を秘めていた。
それはそれで仕方なかったのかもしれないが、そのことをスタンは危惧していた。このままではネギもまたナギのようになってしまうのではないかと。なので、ひどいこととはわかってはいたが、ネギの前ではナギのことを悪く言うようにしていた。ネギにはナギとは別の道を歩んで欲しかったから……
そんな中でシンジはネギをそんな風には見なかった。どこにもでいるような子供と同じように見ていた。それがスタンには嬉しかった。

「言ったでしょう? 私のようにするつもりは無いとね」

スタンの顔を見てそう思ったのだろう。シンジはウインク交じりにそんなことを言っていたりする。そこでスタンは思う。ナギの勘は間違っていなかったと。

「頼めるかの? ネギのことを――」
「言ったでしょう? 出来うる範囲でやれるだけのことはすると」

スタンの言葉にシンジは笑顔で答えていた。その様子をネギは不思議そうに見ていたが、ネカネは憧れの者を見るかのように見つめていた。主にシンジを――



こうして、シンジはネギに(なぜか、ネカネも混じって)様々なことを教えていく。自分が知る知識や魔法、時には策などを。それはネギが魔法学校に入学してからも続いた。途中でネギの幼馴染のアーニャやオコジョ妖精のカモも加わったが、他の者には知られないようにしていた。他の者達にこんなことをしていると知られると、後々面倒なことになる。とシンジに言われていたためにである。
やがて、ネギが歳を重ねるごとにシンジは徐々にであるが、あちこち連れて行っては世界の真実の姿を見せていく。それはネギにとってはショックなものだった。周りの人は正しいことこそ絶対とネギに言い聞かせていた。ネギが英雄であるナギの息子だからと。それが自分達が望む英雄を作り出そうとする行為であると気付かないままで……
でも、シンジは少しづつではあるが、そうではないと教えていく。相対する矛盾。その狭間の中で思い悩み、ネギはいつしか力を望むようになっていた。自分に力があればシンジのように村を守ることが出来た。幼い故に単純な思考でその思いに至る。あの時、村を守る為に戦ったシンジの姿を見てたので、なおさらに……だから、強くなりたいとシンジにお願いしたのだが……

「今、君に必要なのは力ではありません。智の理です」

「チノリ?」

「ええ。かつて、私を追い込んだのも力ではなく、智の理でした。智の理は使い方次第で自分よりも強い力をくつがえすことも出来ます。確かに力は必要です。ですが、それだけを求めるようなことをしてはいけません。力とは、場合によっては宝石や麻薬以上に厄介なことになりますからね」

と、シンジはなだめるかのように言い聞かせるのだが、ネギはそれでも力を求めるのをやめなかった。 強くなれば、シンジもネカネもアーニャも喜ぶと思ったから……その思いゆえに、ネギはシンジには内緒で動き始め……それは起きてしまった。
8歳の誕生日の数日前。ネギはたった1人で、ある魔法を発動させようとしていた。図書館の奥の奥……まるで人が寄り付かないような所に置かれていた一冊の魔導書。その魔導書に書かれていたのは神との契約方法。その術が書かれていた物だった。確かに神と契約を交わせば、力を得ることは出来る。だが、同時に制約も受ける。
ネギは後になって知るのだが、シンジは同じ方法である神と契約を交わし……不老という制約を受けていた。見た目が若いのはそのためである。
しかし、手っ取り早く力を得る方法と思い込んでいたネギは、制約や失敗した時のリスクも考えずにその魔法を発動させてしまう。案の定というか、まだ幼いネギはあっさりとその魔法を暴走させてしまった。
この時のネギは気付いてないが、神と契約しようというのだ。簡単なものであるはずがない。では、この魔法を失敗したらどうなるか? どんな神と契約しようとしていたかにもよるが、大抵は死に至る。もっとも、それはまだ救いがあった。時には姿を変えられてしまうこともある。それこそ、二目と見れないような醜いものにされたり……魔物と化したり……ともかく、人生を狂わされるのは間違いない。 もっとも、成功したとしても、制約という枷のおかげで同じであろうが……
それはそれとして、ネギもまたそうなる所であった。ただ、幸か不幸か完全に発動する前に暴走した為か、ネギは人のままでいることが出来た。失敗か……暴走させて気を失い、しばらくして正気に戻ったネギはそう思って落ち込んだが……しばらくして、自分の体の違和感を感じ――

「う、うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

自分の身に起きた事態を知って、悲鳴を上げてしまう。その事態に混乱したネギは、シンジ達に泣きついていた。

「こ、これって……」 「ああ、ネギ……」 「アニキ……」

魔法学校の外れにある小屋の中。なぜここでなのかといえば、他人がいる場所でネギの身に起きたことを明かすわけにはいかなかった為である。そこでネギの身に起きたことにアーニャは打ち震え、ネカネは立ちくらみを起こし、カモは複雑そうな顔をしていた。
一見すれば、どこが変わったの? と思うくらいに、表面的には変わった所は無い。でも、あくまで表面的にだ。ネギを知る者ならば、それを見れば一目で変わったとわかってしまう変化がそこにあった。 それを見ていたシンジは苦笑していた。そんな彼を見て、ネギは怯えるようにうつむいてしまう。怒られる……そう思ったから……でも、ネギの考えに反して、シンジはその頭を撫でていた。

「これでわかったでしょう? 力を求めることがどういうことなのかを……今回はそれで済んで良かったですが……もしかしたら、私はあなた殺さなければならなかったかもしれないですからね……」

困ったようにシンジは呟いていた。でも、嘘ではない。場合によってはネギを殺してでも止めなければならなかったから……ただ、力が手に入るわけではない。制約によって望まぬ結果となり、命を奪わねばならない可能性だってあった。神との契約とはそういうものなのだ。

「う、うぅ……うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!?」

シンジを悲しませてしまった。言葉の意味をちゃんと理解出来てなかったが、それでも彼の顔を見てるとそう思えてしまうから……ネギは泣き出した。シンジの胸の中で……

「あの……ネギは……元には戻れませんの?」

「姿が変わっただけならば、簡単に戻せるのですがね。ネギ君の場合、魂自体を書き換えられています。出来ないわけではありませんが……あまりにも危険すぎます。失敗すれば悪化させてしまいますし、死んでしまう可能性だってありますよ」

ネカネの疑問にシンジは首を振るように答える。ネギが行おうとした神の契約は、魂に刻み込まれるものだ。それは例え失敗して、姿を変えられようとも同じ。ネギの身に起きたことは元からそうであったと魂に刻まれている。そのため、シンジであろうと元に戻すのは困難だった。それに人の魂は単純なものではない。その魂を弄ろうとしてるのだから、当然とも言える。

「僕……僕……」
「はいはい。もう、泣かないで……そうだ。あと少しで誕生日でしたね? ちょうどいいので、いい物をあげましょう」

「いい物?」

にこやかなシンジの提案に泣いていたネギは顔を上げた。

「あ、そういえば……忘れる所でしたわ」 「私も……ここの所、勉強で忙しかったから……」

と、ネカネやアーニャもはっとしたように思い出す。その中でネギはキョトンとシンジを見ていた。この頃のネギから見て、シンジは兄であり父でもあった。色んなことを教えたり、時には褒めてくれたり、時には怒られたり……それは今でも変わらないはずなのに……でも、先程の彼の顔を見ていると、何かが変わったような気がした。それがなんなのかわからないまま、数日が経ち――

「誕生日おめでとう、ネギ」

「あ、ありがとう……ございます」

ネカネの言葉にネギは照れくさそうにしていた。今日はネギの誕生日。先日の小屋の中でアーニャとカモ、シンジが一緒になって祝っている。なぜ、同じ小屋かというとシンジのことを他人に明かすわけにはいかないからだが。それはそれとして、ネカネ、アーニャ、カモからプレゼントをもらうネギ。

「では、私からも。レックス、ご挨拶を」

〈了解〉
「え?」

シンジの番となった時、聞こえてくるのは聞き覚えの無い声。それにネギが首を傾げると、シンジはGジャンの内ポケットからそれを取り出した。折り畳み式携帯電話。ネギもシンジが使っているのを何度も見ているので珍しくは無いのだが……取り出した携帯は若干大きいような――

〈ふん!〉
「え?」

なんか、携帯から声が聞こえたかと思うと、シンジの手から携帯が飛び上がり、なんか変形して……その携帯はいつの間にやら立っていた。そう、立っていたのだ。開いた状態の携帯から手足が出ており、その足でしっかりと。しかも、画面にはなんか顔みたいのが映し出されている。それを目を丸くして見ていたネギ。まぁ、ネカネにアーニャ、カモも同じようなもんだが。

〈携帯型デバイス、レックスだ。よろしく頼む〉

「ネギ君のサポート用に私が造り上げた物です。電子面が主ではありますが、心強い味方になると思いますよ」

「ちょ、ちょっと待ってくだせぇ。じゃあ、あっしの立場はどうなるんですかい?」

携帯ことレックスを紹介するシンジだが、カモは慌てたように文句を言い出す。余談であるが、ここでのカモは結構真面目な性格になっていた。昔こそ下着ドロなどをしていたが、そのことでシンジに苛烈なお仕置き(?)を受け、それ以来足を洗ったのだ。
一方でシンジの教育(?)を受け、ネギの作戦参謀的な役割をしてたりする。なので、ネギのサポートとしての長い付き合いから、文句が出てしまったが――

「まぁ、落ち着きなさい。別にあなたに問題があるわけではありません。ですが、今後のことを考えると、ネギ君のサポートは多いに越したことはないのですよ」

「今後のこと……ですか?」

なだめようとするシンジの言葉にネカネが首をかしげながら問い掛ける。それにシンジはうなずき――

「このままで行けば、ネギ君は来年には卒業出来るでしょう。ただ、私の調べではそれに関して、魔法使い達が動き出してるようですがね」

と、困ったような顔をして答えていた。正史と同じように、ここのネギもシンジの教えのおかげか、優秀に育っている。その一方で魔法使いにとって、ネギはナギ・スプリングフィールドの息子。すなわち、英雄の息子だ。そのために立派に育って欲しいと考えている者が大半である。だが、性質が悪いことにそれが一方的な決め付けであることに気付いていない。なまじ、当然だと考えているだけに、始末が悪すぎる。そして、このことにシンジは危機感を感じていた。こんなのは飼い殺しと一緒だと思いながら……

「まだ、詳しい動きはわかりませんが……下手するとネギ君が一方的に苦労しそうな感じもありえますので……なので、サポート出来る人は多い方がいいと考えたのです」

「確かに……ネギって、ドジな所もあるしね」

シンジの言葉に納得顔のアーニャ。そんなアーニャをシンジは冷たい目を珍しく向けていたりするが……まぁ、ネギもあったがアーニャの方がシンジに多く苦労を掛けてたりするためだったりする。

「ともかく、今後ネギ君のサポートをカモ君とレックスに任せたいと思います。いいですね?」

「兄さんがそう言うのなら……俺っちとしては文句はねぇけどよ……」

〈君がカモだな? これからよろしく頼む〉

「あ……ああ、こっちもよろしくな」

シンジの言葉にカモはしぶしぶではあるが、レックスと握手を交わす。それをネギとネカネは微笑ましそうに見ていたが。こうして、ネギの誕生日会は静かに終わり、皆が寮の自室に帰るのだが――

〈ネギ、君にメールだ〉

「え? メール?」

レックスに言葉に首をかしげるネギ。というの、レックスは今日受け取ったばかりだ。誰かにメールアドレスを教えたわけではないのに……疑問に思いつつも携帯モードのレックスを操作してメールを開いてみる。

『ネギ君へ。もう1つ渡す物があります。先程の小屋にレックスとだけ来てください。シンジより』

「シンジさんから? なんだろ? 渡したい物って?」

なぜ、あの時言わなかったのか気になりつつも、すでに寝ているカモを起こさないようにネギは部屋を抜け出し、先程の小屋へと向かった。

「すいませんね、呼び出してしまって」

「いえ、そんなことは……それで渡したい物って?」

小屋にやってきたネギを笑顔で向かえ、シンジはある物を差し出した。それは紅い球体で小石ほどの大きさ。見ようによっては宝石のようにも見える物だった。

「これは?」

「なのはさんが持っていたレイジングハート・エクセリオンを、私独自の技術を盛り込んで複製した姉妹機。”レイジングハート・エクスペリオンス”です」

「なのはさんの!?」

〈初めまして、マスター。レイジングハート・エクスペリオンスです。よろしくお願いいたします〉

シンジの言葉に驚くネギ。そんな彼にレイジングハートはキッチリと挨拶していたりする。そう、シンジは異世界にも足を伸ばし、ネギに様々なものを見せていた。なのはとはその時に出会い、レイジングハートのことを知ったのだが。

「バリアジャケットの方はすでに設定済みです。試しに装着してみては?」

「え? あ、はい!」

シンジの言葉に一瞬戸惑いながらも、次には喜びをあらわにするネギ。実は内心、なのは達が持つデバイスが羨ましかったのだ。それを使える。嬉しそうに思いながら、ネギはレイジングハートを掲げ――

「セットアップ!」

掛け声を上げる。するとレイジングハートを中心に黄金の魔力光に包まれ――

「え? え? え? ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」

その事実に驚愕する。だって、これってバリアジャケットを纏うというよりは……

「な、なんなんですか、これぇぇぇぇぇぇぇ!!?」
「はっはっはっ、この間私達を心配させた罰ですよ。まぁ、私の趣味が多分に含まれてますがね」 〈そういえば、シンジ殿はオタクであったな〉

混乱しているネギにシンジはしれっとそんなことを言ってのける。レックスは呆れていたが。でも、ネギはその言葉に呻きつつ、自分の姿を見てみた。変わりすぎた自分。これではバリアジャケットの装着では無く、変身したと言った方がいい。それにこの姿は……不意になんか悲しさがこみ上げてくる。

「ま、その姿こそ私の趣味ですが、持っている能力は伊達ではありませんよ」

なんてことを楽しそうに語るシンジ。そんな彼へとネギは振り返るが、そこで気付いた。変身したことによって、背が伸びたことに。流石にシンジほどではないが、目線が近く……なぜか、無性に気恥ずかしくなったネギは紅くなっていた。

「ですが、その力は出来る限り使わないでいるのがいいのですがね。ネギ君の今後を考えると……そうもいかないでしょう」

どこか寂しそうに……悲しそうに語るシンジ。この世界の魔法使いにとって、レイジングハートはオーバーテクノロジーに等しい。何しろ、完璧に近いとも言える魔法と機械の融合。それを実現してるのだから。確かにその技術が渡るのは危険だ。
でも、それ以上にネギのことをシンジは嘆いていた。周りの魔法使い達はネギの意思を無視して、戦いへと押し出そうとしている。ネギはそれを否応無しに受けなければならないだろう。この世界にいる限り――周りの魔法使いの身勝手さにシンジは憤りを感じていた。自分の身勝手さを自覚しているだけに……複雑ではあったが。

「あ、確かにこれって使うのには問題ありますしね……わかりました。でも、もしもの場合は使ってもいいですよね?」

「ええ、でなければ贈った意味がありませんしね」

話を聞いて、ネギは思いついたように言い出す。もっとも、レイジングハートのテクノロジー漏洩を恐れたのではなく、この姿になるのが問題だと考えたからだが。そんなネギを見て、シンジは苦笑しつつもネギの頭を撫でていた。それをネギは心地良さそうに受けるのだった。



それから1年。シンジの予想通り、ネギは通常よりも早い課程で魔法学校を卒業した。そして、卒業証書を授与され、修行地が出るのを待つばかりとなったのだが――

「日本で先生をやること?」
『え? えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』

その修行内容にネカネとアーニャが悲鳴を上げる。まぁ、10歳の子供に先生をやれというのだ。驚かない方がおかしい。当然の如く、2人はネギを引っ張って校長室へと雪崩れ込む。むろん、抗議するために。

「何かの間違いではないでしょうか? 10歳で先生など無理です!」 「そうよ! ネギったら、ただでさえチビでボケで――」

撤回しようと抗議するネカネとアーニャ。もっとも、アーニャの方は悪口みたいになってたりするが。

「しかし、卒業証書にそう書かいてあるのなら、決まったことじゃ。立派な魔法使いになるためには、がんばって修行してくるしかないのう」

が、校長はさも当然という感じで取り合おうとはしなかった。卒業証書に書かれた修行先は絶対とも言わんばかりに――

「でも、私がロンドンで占い師で、ネギが先生だなん……あれ?」

それでもアーニャは抗議しようとして、再び自分の卒業証書に視線を向けた時、その異変に気付いた。 さっき卒業証書を見た時は、ロンドンで占い師をしてくることと書かれていた。でも、今は――

「日本で学生をしてくること? あれ? さっきと違うような……」
「なんじゃと?」

卒業証書に目を通すアーニャの言葉に、校長は訝しげな顔をする。昔でこそ魔法によって修行先は決められているが、現代ではその方法だと修行に問題が出てくることもしばしばあった。なので、現在は魔法と併用し、先生の判断によって修行先が決められている。アーニャの修行先もそのように決まったはずだが……

「ふむ……安心せい。修行先の学園長はワシの友人じゃからの。ま、がんばりなさい」

アーニャのことは後で先生に確認することにした校長は、3人に意味あり気な笑顔を見せた。この時、校長を含め3人は気付いていなかった。この様子を見ていた者がいたことに……それに気付いていたレックスとレイジングハートはあえて言わなかったが。

「はい、わかりました」 「ま、決まっちゃったことだしね」

それを聞いたネギとアーニャは返事をし、ネカネはその様子を心配そうに見ていたのだった。
後日、校長はアーニャの卒業証書に関わった先生に確認したのだが、聞かれた先生はアーニャの修行先に問題は無いと返した。ただ、修行先がネギと同じ麻帆良だというのが気にはなったが、校長はそれくらいならば問題無いと判断した。その後、数日分の記憶が曖昧になっていることにその先生は気付くのだが、働きすぎかとあまり気に止めることはなかった。



「まったく……危惧してたことが現実になりましたね」

いつもの小屋に集まったネギ達の前で、シンジは深いため息を吐いた。

「どういうこと?」

その言葉の意味を理解出来ず、アーニャは首を傾げるのだが――

「良く考えてくださいよ。先生なんてものが、どうして修行になりますか?」

シンジの言葉にアーニャは首を傾げたままだったが、ネカネははっとした顔になった。彼女も魔法学校で教員をしているのでわかるのだが、先生になって魔法の修行が出来るか? と聞かれたら難しいと答えるしかない。
学校に行って授業を行うだけが先生の仕事ではない。授業の準備はもちろんのこと、テストなどの必要な書類を作成しなければならない時もある。また、会議やら授業方針やら細々したのも含まれれば、ほぼ1日働き尽くめなんてことも珍しくない。
で、ネギは魔法学校は卒業したものの、まだ仮免の状態。すなわち、まだ魔法使い見習いであり、修行中の身なのである。そんなネギが先生をやりながら修行をするなんてのは、ある意味自殺行為だ。無理をすれば、過労でぶっ倒れるのは目に見えている。後、ネギ達は気付いてないが、校長がネギの修行先に関して関わっていることを認めているのである。

「ふむ……安心せい。修行先の学園長はワシの友人じゃからの。ま、がんばりなさい」なんていうセリフは、関わってなければ出てくるはずが無いのだ。まぁ、校長も校長でこの失言には気付いてなかったが、シンジはしっかりと聞いており、その事実に思い当たっていた。

「こんなのは魔法使いがやることであって、修行中……しかも、子供にやらせるもんじゃないでしょうが……」

頭を掻きつつ、ぼやくようにシンジは漏らす。この時のシンジは知らなかったのだが、魔法学校の校長も麻帆良の学園長も、そのことを考えていないわけではない。彼らはエヴァンジェリンがいるからなんとかなると考えていたのだ。そう、正史で使われていた別荘のことだ。それを使えば修行も大丈夫だろうと考えていたのである。だが、これには問題があった。
正史では修行が始まったのはネギが麻帆良に来た数か月後だった。理由はエヴァンジェリンの性格のせいである。これを聞くと本人は激怒して否定するかもしれないが、正史では彼女の個人的な理由で苦労させられた挙句、紆余曲折があって、やっと修行が始まったのだ。
だが、修行方法にも問題があった。正史ではエヴァンジェリンはネギを煽るような形で行っていた。そうなった理由は力の誇示という彼女の考えによるものだが、それが後々ネギに問題を抱えさせることになる。
また、麻帆良の学園長が取った方針にも問題があった。彼は文化祭が始まる数日前まで他の魔法先生や生徒の存在をネギには明かさなかった。これはネギの自立の為であり、人に頼ることを覚えて修行をかまけることを防ぐ為……というのは、麻帆良の学園長の考えだ。
確かにそれはわからなくもない。人に頼ってばかりではダメなのも事実だ。だが、ネギに関していえば、それは間違いだと言わざるおえない。こちらのネギはそうではないが、正史のネギは自分1人でなんとかしなければ、という半ば強迫観念にも似た状態であった。でなければ、アスナ達の協力を拒んだり躊躇したりはしないだろう。正史の物語では、未だその葛藤に苦しんでもいたし。
麻帆良の学園長は教育者としては優秀かもしれないが、現場を見ていない。いや、本来はそうではないのかもしれないが、ナギの息子だから乗り越えてもらわなければと、そんな決め付けがあえて無視させていたのかもしれない。 で、これを知ればシンジは必ずこう言うだろう。「あまりにもふざけてる」と――

「魔法抜きで考えても、子供に先生をやらせるなんて馬鹿げてますよ……ナギさんの名がここまで悪影響を及ぼすとは……スタンさんが心配するはずですよ」

またもや、ぼやくようにシンジはつぶやいた。周りの魔法使いは英雄の息子。だからこそ、それに相応しい修行をと考えてるのかもしれない。だが、ネギ自身にしてみると、一方的に苦労をさせられているようなものである。

「どうにか……ならないのでしょうか?」

「どうやら、かなり前から決まっていたようでしてね。今更変更は問題が起こるでしょう。その代わり、アーニャさんの修行先の変更は問題無かったようなので、手を加えさせていただきましたが」

「て、やっぱり変わってた……ていうか、あんたの仕業なの!?」

心配そうにするネカネにシンジは肩をすくめつつ答えるのだが、事実を知ったアーニャは慌てるように怒り出した。まさか、勝手に修行先を変えられると思っていなかったのだが――

「落ち着いてください。これにはわけがあるんですよ。このままだと、ネギさんは修行先で孤立するかもしれないんです。確かにカモさんやレックスはいますが、あくまでサポートであって、手助けとなると無理に近いですよ。ですので、身近で手助けをしてくれる人が必要なのですが、現段階ではそれをアーニャさんにお願いした方が良さそうでしたので」

困ったような顔をしつつ、シンジは答えた。ちなみにだが、ネカネとアーニャにはレイジングハートのことは秘密にしている。ネギが変身した姿を恥ずかしがったこともあるが、レイジングハートの存在を彼女達がなんらかの拍子で漏らすのを防ぐためでもあった。
それはそれとして、シンジはそのことを危惧していた。正史では様々な出会いがあったが、ここでもそうなるとは限らない。となると、ネギは孤立無援となりかねない。それは色んな意味で危険な為、誰かの助けがなければならなかった。
だが、カモやレックスはサイズの関係上、サポートが精一杯である。レイジングハートは戦闘面ならば、これ以上無いほどの手助けは出来る。ただ、あくまで戦闘面だけであって、それ以外となるとカモとレックスと同じくサポートが精一杯であろう。 ネギの理解者となり、身近な所で手助けをしてくれる人物。今現在、それに当てはまるのがアーニャ。
他はというと、ネカネは魔法学校の教員という立場上、ここから出るわけにはいかないので却下。スタンは歳のせいで無理が利かなくなってきたと言っていたので同じく却下。となると、残りは――

「私も行った方が良さそうですね。アーニャさんはネギ君と付き合いが長いですから、手助けに最適でしょうが……やはり1人だけというのは……負担も大きいですしね」

ため息混じりにシンジはそんなことを言い出すのだが、それに今まで黙って話を聞いていたネギの顔が輝き出した。修行中ともなれば、シンジとそんなに会えなくなると思っていた。けど、シンジも一緒に来てくれるなら、そんなこと考えなくていいと思ったのだ。
一方でシンジは、ある危機感からこんなことを言い出した。ネギの生まれ故郷の村で起きた襲撃事件以来、ネギに対する襲撃などは起きていない。だが、これからもそうだとは言い切れないし、修行先ではその危険度が高まるかもしれない。そんな危機感からの考えであった。

「行って……しまわれるのですか?」

「ええ、ネギ君のためにもね。もっとも、他にも色々とやらせていただきますがね。ま、私に距離なんてものは無いに等しいですけど」

話を聞いていたネカネが寂しそうな声で聞いてくるのだが、シンジは意味あり気な笑みを浮かべながら答えるのだった。それを聞いたネカネの顔も笑顔となっていた。そうだった。この人はものの数秒で日本とここウェールズを行き来出来るのだから……



そんなこんなで月日が流れ、ネギとアーニャの出発当日――

「それじゃあ、体に気を付けてね」
「うん。お姉ちゃんもね」 「私がしっかりと世話するから、安心してよね」

赤ん坊を抱くネカネにネギが笑顔で答える横で、アーニャはなんか自信満々といった様子で胸を張っていたりする。さて、気になった方もいるだろう。ネカネが抱いている赤ん坊は何者なのかを?
ミネア・スプリングフィールド・アオイ。ぶっちゃけるとネカネとシンジの間に出来た娘である。あの村の強襲事件の時、ネカネはシンジのことを尊敬していた。だが、長く付き合う間にその尊敬は愛情へと変わり、やがて告白……皆に祝福される形で結ばれたのであった。なお、ワールドフューチャーのことを知っているみなさまなら、シンジがすでに既婚者なのは知っているだろうが……そのことに関してシンジの妻、アオイ マリナはというと――

「まぁ、シンジだしねぇ〜……いつものことよw」

と、中々に意味深な発言をなされたりしていたりする。
それはそれとして、仕事の関係上、ミネアはマリナに預けているものの、時間を見つけてはマリナの家に向かい、ちゃんと育てていた。こうしている理由は、ミネアの存在を他の魔法使いに知られないため。直接ではないとはいえ、ネカネもまたナギの血縁者である。そんなネカネが子を産み、育んでいる。その子供は誰の子なのか? そんな思惑がシンジにたどり着くのは間違いないだろう。
シンジはまだ、魔法使い達にその存在を知られるわけにはいかなかったし、黒き勇者であったことを知られれば……問題が起きるのは必然だろう。なお、妊娠中はどうしたかといえば、認識阻害によって誤魔化した。ただ、魔法での認識阻害は気付かれる可能性があったため、シンジお手製の機械式での認識阻害を行っていたりする。

「じゃあ、行ってきます」

「ええ……お休みが取れたら、会いに行くからね」

「ネカネさんも元気でねぇ〜」

ネギの言葉に手を振りながら言葉を返すネカネ。そんな彼女にアーニャもまた手を振りながら、ネギと共に搭乗口へと向かうのだった。それを静かに見守るネカネ。やがて、2人の姿を見送ると、横へと顔を向ける。そこにはいつの間にやら、シンジの姿があった。

「それじゃあ……ネギのこと、お願いいたします」

「ええ、ナギさんとの約束でもありますしね」 ネカネにそういうと、シンジは口付けを交わし……やがて、笑顔と共に人ごみの中へと消えていくのだった。

「それじゃあ、私達も帰ろっか、ミネア?」

それを見送ったネカネもまた人ごみの中へと消えていく。その後、ネギ達が無事旅立ったのを確認する為に監視していた先生もその場から去っていった。ただ、この先生。ネカネが抱いていた赤ん坊のことや、ネカネとシンジのやりとりの部分だけ記憶が抜け落ちていたりするのに、気付いていない。



その昔、黒き勇者と呼ばれた者がいた。その者は戦場に現れては、数え切れないほどの破壊と殺戮を繰り返してきた。なのに、なぜ勇者と付けられたのか? それはその戦いぶりからである。勇猛果敢に――引かず媚びず顧みず。例え、それが複数の相手だろうと軍隊であろうと国であろうと……その姿勢を崩さなかった。故に誰かが彼の者を比喩するように呼ぶようになる。黒き勇者と――

これはかつて黒き勇者と呼ばれた者と、立派な魔法使いを目指しながら父にいつか会えるよう努力する子供。そんな2人が織り成す物語。その物語が今後どうなっていくのか……それはまだ、誰もわからない。



あとがき

DRT:というわけで、書いちゃいました。
シンジ:書いちゃいましたって……お前な……
DRT:何? 嬉しくないの? 久々に登場したっていうのに?
シンジ:いや、嬉しいことは嬉しいけどな……1つ聞きたいんだが……なんか、このSSってネギに過保護っぽくないか?
DRT:ふむ、そのことか……いやね、いくつかのネギま二次創作SS読んで思ったことなんだけど……大抵は原作通りだったりするけど、二次創作オリジナルストーリーだとそれ以上に大変な目にあったりするのもあったな。まぁ、中にはそうでもないのもあったけどね。
シンジ:確かにそうだが……それでなんでこんなことに?
DRT:いやね、そういうのを見ててつくづく思ったんだよ。そんなの10歳の子供にすることじゃないだろって。
シンジ:いや、そういうマンガだし……
DRT:わかってはいるんだよ。そういうのにツッコムのは無粋だというのは……
シンジ:いや、タブーだと思うんだけど……マジで……
DRT:ま、そういうのをやってみたい。という思いから、あえてやってみたのだ!
シンジ:お前って……
DRT:というわけで、このSSではネギ君を擁護するようにしていきます。
シンジ:デビルウォーカーも同じような気が……ちょっと待て、デビルウォーカーはどうなるんだ?
DRT:……どうなるんだろうね?
シンジ:お〜い!!?


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