『立派な魔法使いと歩き続ける悪魔』 第8話『それぞれの日常』
「ふむ、ネギ君が受け持つ生徒達が現れたこと以外は、これといった問題は無いのじゃな?」
「後、高音とかいう奴が乱入してきたが……まぁ、どっちも大した怪我はしてない」
マンイーターの事件から一夜明け、和也はミーナリアと共に事後報告に来ていた。もっとも、その報告は嘘を交えてだが。まぁ、生徒の1人が犠牲になり、それを助ける為に契約交わして人で無くした。と、報告しようもんなら問題になるのは目に見えている。幸いというべきか、学園長は事の一部始終を見ていなかった。マンイーターの力場を狂わせる能力が遠見の魔法を阻害していたからである。
「そうか……して、生徒の方はどうするつもりじゃ?」
「夕べの内に事情をある程度話しておいた上で秘密にしてもらうことにした。記憶操作は後々問題が出そうだったしな」
学園長の疑問にでたらめ交じりに嘘を付く。本当は単にめんどくさいだけだったりするが、それを聞いた学園長はどこか納得しているようだった。
「それと夕べはネギ君を連れていったらしいが、なんでかの? 確か、マンイーターは普通の魔法使いでは危険だと聞いておったのじゃが?」
「戦いってのを教える必要があったからな。後、限定的にだが身を守らせる方法があるんでそれを使わせた。先に言っとくがその方法は多用出来ないから、今ここで出せといわれても出せないぞ」
学園長のそんな疑問に和也はよどみなく答える。ここで昨夜のネギのことを話すことはまずいことになると勘が告げていた。故にこのような形で答えたのだ。また、異世界ミッドチルダや時空管理局の存在も話していないのも理由に含まれている。
ネギ達が持つ『デバイス』。それは麻帆良に住まう魔法使い達にとってはハッキリ言って驚異的なテクノロジーと言える。完璧に近いとも言える魔法と機械の融合。その恩恵は計り知れなく、故にデバイスの存在を知れば何かしらの問題は確実に起きるだろう。そのため鍛錬時などでデバイスを使用する際は認識阻害を使い、知られないようにしている。
「そうか……で、ネギ君はどうだったかの?」
「やっぱりガキだった。ていうのがわかったよ」
表情を変えずに答えるが、それは学園長の首を傾げるだけであった。予想した答えと違ったことと、答えの意味がわからなかったためであるが。
「ふむ……わかった。戻ってよいぞ」
「ああ」
納得は出来ないが追及しても無駄と思い、学園長は下がらせることにした。それに返事をした和也はミーナリアと共に学園長室を去っていく。
「問題が無ければ、それで良いのじゃがな」
ふと、そんな不安が出てきた学園長がぼそっと漏らすのであった。その不安が実際に起きていたことには気付いてないが。
「あ〜……つっかれた〜」
管理人室に戻ってきた和也は言うなりソファーに倒れ込む。
「まぁ、今回は誤魔化さなきゃならないことが多かったしね」
一緒に戻ってきたミーナリアが苦笑混じりにそんなことを漏らす。といってもそれは事実でもある。昨夜のことは知られるとまずい事が多く、そのため誤魔化さなければならなかったのだが、それが意外に疲れるのだ。
「あ、あの、カズヤ……その……ごめん……ボクのせいで……」
「あ〜……なんていうか、今回のことは色々と不幸な偶然が重なったと思って、もう悩むのやめろ」
そこにネギが頭を下げて謝ってくる。昨夜はかなり泣いたのであろう。目が真っ赤になっていた。そのおかげか、落ち着いた様子ではある。ただ、和也としてはこれ以上話しても長引かせてしまいそうだったので、話をやめることにしたが。ふと、管理人室を見てみる。見てみれば、いつものメンバーに和美やチアリーダー組と裕奈にアキラ、千鶴や高音に愛衣が増えていた。和美はしょうがないにしても、なぜチアリーダー組や裕奈達がいるのか、ふと疑問に思う。
「そういや、和美は関係者になったからしょうがないにしても、なんでお前らまでいるんだ?」
「ん? 暇だったし……それに魔法に興味あるしね。だからかな?」
と、答えたのは裕奈だが、別の理由もあるのは言わない。言わないのだが、顔はしっかりと赤かったりする。それはチアリーダー組やアキラ、千鶴も同じだったりするけど。それはあえて問わず、和也はため息を吐く。
「まぁ、いいけど……しかしそうなるとここも狭くなるな……ばあさんに頼んで、部屋を作ってもらうかね?」
ふと、そんなことを考えてしまう。管理人室は狭くはないが、それは和也とネカネだけならの話である。こうも大人数が集うと、どうしたって狭くなってしまう。このか達に魔法を教えるなどで、それは問題になるのでそうしようかと考えたのだ。ただ、この問題は別の形で解決することになるが。
「さてと、今日はちょいとお休みして……今回は戦いってものがなんなのか? ってのを話そうと思う。で、戦いに必要なものってなんだと思う?」
「それは……戦う力です!」
ソファーに座り直していきなりそんなことを話し出す和也。それに対してネギは力強く答えるのだが、
「0点」
和也にバッサリと切られてしまう。
「あのな。格闘技じゃないんだから、力に力で対抗してどうするよ? そんなの馬鹿のすることだぞ?」
〈昨夜も言ったであろう? 下手に動かず周りを見ろとな。あれは状況を確かめる必要があったのだ〉
「戦いってのは勝てば良し、なんて単純なものじゃない。何が必要で何がそうでないのか? それがわからなければ、勝ってもそれは意味が無い時もあるんだ」
和也とベオウルフの言葉にネギは驚いたような顔をする。一方で真名や刀子などは納得といった顔をしていたが。ネギはネギで勝てば良し的なことを考えていたのだが、戦いとはそんな単純なものではない。スポーツのような試合とは違い、戦いは勝利とは無縁なもののためにやらねばならない時もある。まぁ、10歳の少年にそれをわかれと言うのは無理に近いのだが。
「ネギもそうだが、お前らには状況把握とかそういうもんが絶対的に不足してる。まぁ、それはそれでしょうがないんだが……なんで、明日からの鍛錬は基本と共にそういった方面も教えていくんでそのつもりで」
「あ、あの……それに私も参加させてもらってもいいでしょうか?」
和也の発言にそんなことを言い出したのは高音であった。それに驚いているのは愛衣。というのも、高音がこんなことを言い出すとは思わなかったのだ。しかも、なんか申し訳なさそうな顔をしている。彼女の普段を知る愛衣にとっては信じられないことでもあった。
「なんでまた?」
「いえ、その……今のあなたの言葉に思う所がありまして……それに私も修行の身ですし……」
和也の疑問になんかもじもじと話し出す高音。まぁ、言ってることの半分は本音でもある。彼女の場合、自分の考え……というか、魔法使い達が思い描く立派な魔法使いのあり方こそ、正しいと思っていた。でも、昨夜の件でそうではないのでは? と考えるようになる。それじゃあ、何が正しいのか?その答えを求める為に自分の修行も兼ねて和也の元で教えを乞おうと思ったのだ。
悪魔という点に嫌悪感が無いわけではないがそれほど悪い者ではないようだし、実力も確かであるというのが決意した理由だが。それに色々と気になるのも事実だし――
「まぁ、いいけど。しっかし、どうするかね」
断る理由も無いのでOKを出しつつも、これからどのような鍛錬にしていくかを考える和也であった。
で、次の日から高音と愛衣も参加するネギ達の鍛錬は基礎的なものに加え、状況把握を覚えさせるためのものが行われるようになった。といっても、状況把握の方は座学が中心となってしまっているが。というのも、状況把握はある種の経験によって培われるものである。
訓練という形で覚えさせるのが普通だが本格的にすると結構大掛かりになるし、ネギ達の錬度がそこまで達していないので実行するのは難しかった。なので、和也が体験談を踏まえて座学という形で教えることになったのだが、かといって訓練をしなくてもいいというわけにはいかず……
1週間後。鍛錬の場となっている丘でネギ達はどこか呆然といった表情を見せていた。というのも――
「あ〜、和也がはやてに呼ばれてミッドチルダに行ってるんだが、その間お前らの訓練を任されたヴィータだ。よろしく頼む」
と自己紹介するヴィータ。その姿は教導でお馴染みのシャツとズボン。手にはグラーフアイゼンが握られている。ただこの姿、ネギ達には子供がなんかえばってるようにしか見えないため、戸惑いの色が濃い。10歳のネギが先生しているよりもあまりに現実味が無い為である。だったらネギはどうなのかとなるが、すでに慣れてしまっているアスナ達にそんな疑問が浮かぶことは無かったりする。
そんな様子を知ってか、和也に監督を頼まれていたフリムとジェスターはくすくすと笑っていた。
「ふふふ……見た目はネギ君と同じだけど彼女はあなた達よりもずっと年上だし、教導官としても優秀だから安心してもいいわよ」
「なんか、チビって言われた気がするのは気のせいか?」
笑いをこらえつつ話すフリムだが、ヴィータはそう思ったようで頬を膨らませて不機嫌そうにしていた。それはそれで戸惑いの様子で見ていたネギ達だったが、実はもう1つ戸惑う理由があった。それは2人の女性……というか、少女の姿があるからである。
1人はネギと同じくらいの身長に背中まで伸びる白い髪の少女。もう1人は先程の少女よりも背は高く、赤い髪を後ろで纏め上げていた。これだけなら普通の少女と変わらないのでネギ達はまだ戸惑うことはなかったのだろうが、着ている物が普通ではなかったりする。というのも2人が着ているのは体のラインがモロに浮き出るウェットスーツみたいなもので、白い髪の少女はその上にコートを羽織っている。ある意味、淫靡さを感じさせる姿に戸惑いを感じているのだ。
「あっと、こいつらの紹介はまだだったな。こいつらはナンバーズっていうチームから来てもらった――」
「チンクだ」 「ウェンディッス。よろしくッス」
2人に視線が集中していることに気付いたヴィータに紹介されて名乗るチンクと笑顔のウェンディ。和也が介入したJS事件が正史とは違う道を辿ったのは以前話したが、和也の手引きによってナンバーズ達は全員更正プログラムを受けることとなった。
なおジェイル・スカリエッティはどうしたかといえば、軌道拘置所で非常に真面目に懲役を全うしている。和也と裏取引があり、それでそうしているなどと噂されているが……事実はそうではないことはスカリエッティの表情を見れば一目瞭然である。なんか、恐怖におののいた顔をいつもしてるし……
それはそれとしてナンバーズ達はその能力を買われ、今現在は更正プログラムを受けつつも機動六課の手伝いをしている。本来、彼女らのような犯罪者が受ける扱いとしては破格なのだが、この事に関して和也は「あの手の組織は出されたくない膿の1つや2つはあるもんだ」と答えている。暗に脅しを使ったと認めてるようなもんであるが……
ちなみにだがチンクにはちゃんと両目がある。和也が「女の子なんだし、眼帯よりもこっちの方がいい」と義眼を与えたからである。最初、チンクはある思い出があってこうしてると断ったのだが、なんやかんやで説得されて義眼を付けることになった。その時、まるで少女のように頬を紅く染めていたそうだが、何があったかはチンクと和也以外、知る者はいない。 なお、チンクに与えられた義眼。和也が与えるものなのだから、ただの義眼であるはずがない。まぁ、それは機会があったらお話しよう。
「さてと、本当なら六課みたくお前らを鍛えてやりたいところだが……和也から指示があってな。今回はそれを実践する」
ヴィータの話にネギ達の顔が引き締まる。本格的なものが始まると思い気を引き締めるのだが、それを察したヴィータの顔になぜか笑みが浮かんでいる。なんか、してやったりといった感じの笑みが……
「意気込んでる所を悪いが、やるのは単なる鬼ごっこだぞ」
「へ?」
ヴィータのその一言にアスナが間抜けな声を漏らす。ネギやアーニャ、高音と愛衣もへ? といった顔をしており、見学に来ていた者達もなにそれ? といった顔をしていた。
「ルールは簡単。1時間以内にチンクとウェンディ、どっちかを捕まえれば終わりだ。方法は怪我をさせなきゃ何したっていい。ああ、1時間以内に捕まえられなかった場合は30分休憩とってから、再開して更に1時間やる。で、それでも捕まえられなかった場合は……お仕置きだそうだ」
ルールを説明するヴィータだが、その一言が出た途端アスナとアーニャが固まった。和也のお仕置きがどんなものなのか身をもって知ってるからなんだが。
「ネ、ネギ!! 絶対に捕まえるわよ! いい!?」
「は、はいぃ!?」
なんか鬼気迫る表情で詰め寄るアスナに、ネギも戸惑いながらも返事をする。アーニャも捕まえなきゃと頭を抱えていたりするけど。一方で突然のアスナとアーニャの豹変振りに高音と愛衣は戸惑い、見学者達はご愁傷様という顔で見ていたのだが――
「ああ、言い忘れてたがお仕置きは鍛錬関係者も含むんだそうだ」
ポンと手を叩きつつ、そんなことをのたまうヴィータ。その途端、楓と古菲も固まった。他の者達は何それという顔になっている。一方でキョトンとするのはチアリーダー組や裕奈にアキラ、千鶴である。まぁ、お仕置きの意味を知らないのだからしょうがないのだが。
「ちょ、ちょっとなんでよ!? なんでそうなるわけ!?」
「さぁな。それは和也に聞いてくれ」
アスナ達の様子から絶対にヤバイと感じたハルナが問い詰めるのだが、ヴィータはといえばなぜか明後日を向いて答えていた。実を言えば、理由は聞いているのだが……その理由が今回の目的でもあるため、あえて答えなかったのだ。 それはそれとして、焦り出したのはアスナ達である。というのも――
「マズイわよ……絶対に捕まえないと……」
「え、ええ……今度はどんなことされるのか……」
なんか、ガタガタと震えながら話し合うアスナとアーニャ。ネギもその様子を苦笑しつつも、若干顔色が青い。一方で高音と愛衣は首をかしげていた。というのも――
「あの……なにをそんなに怯えているのですか?」
「あなた達は知らないでしょうけど……和也のお仕置きはね……凄いの……」
「す、凄い?」
「ええ……あれは二度と体験したくはないわ……」
高音の疑問にアスナは顔を青くしながら答え、それを聞いて怯える愛衣の言葉にアーニャが震えつつそんなことを漏らす。なお、見学者の中にも数名震える者がいたりするが。
「ネギ坊主! 絶対に捕まえるでござるよ! むしろ捕まえてください、お願いするでござるから!?」
その内の1名、楓が若干言葉遣いがおかしくなりながら懇願してたりする。横では夕映がこくこくと必死にうなずいてるけど。
「お仕置きって……何されたんだ?」
「聞かない方が……いや、知らない方がいいぞ……」
その様子を見ていたチンクは頬に汗を浮かべつつそう思うのだが、ヴィータはといえばなぜか震えた様子で答えていた。実はヴィータも和也のお仕置き体験者だったりする。
それはそれとして、鬼ごっこは始まったのだが――
「まてぇ!」 「ていうか、待ちなさい!」
それぞれほうきや杖に乗るネギとアーニャ、愛衣が空を飛んで追いかけるが――
「そんなんじゃ、捕まらないッスよ〜」
追いかけられてるウェンディはボードみたいなのに乗りつつ、余裕といった感じで逃げ回っていた。
「くっ! ちょこまかと!」 「速い!」
「そんな動きでは捕まらんよ」
地上ではアスナと高音がチンクを追いかけるが、巧みに動くチンクに翻弄されてるようにしか見えない。すでに20分が経過してるが、始めからこんな感じであった。開始と同時にウェンディがボードに乗って空に逃れた為、空を飛べるネギ達がウェンディの方へ。まだ空を飛ぶまでに至ってないアスナがチンクを追いかけることとなったがアスナ1人では触れることが敵わず、それを見かねた高音が援護に来たのだが……捕まえられずに半ば遊ばれてる感じになっていたりする。
「あの2人……結構やるようだけど……」
「1人はなかなかでござるが、もう1人は単純に逃げているだけでござるな」
一方で真名と楓はチンクとウェンディをそんな風に評価していた。でも、この指摘は間違ってはいない。チンクとウェンディは作られた存在ではあるが、生きてきた時間の長さが違う。それにチンクはかつてゼストと戦い、右目を犠牲にして勝利した経験も持つ。
故にチンクの方が錬度が高いのである。同時に真名と楓はチンクが手加減していることにも気付いていた。あれだけの動きが出来るならば、とっくの昔にアスナと高音を振り切っていてもおかしくはなかったからだ。
「もう、こうなったら――」 「え? 何を――」
どこかイラついた様子の高音が何かしようとしていることに気付いたアスナが声を掛けようとするが、その前にそれは起きてしまった。影法師……高音が使う使い魔。それを4体喚び出し、チンクへと向かわせた。実をいえばこの行動は考えてのことではない。逃げ回るチンクに翻弄されてイライラが募り、ついには爆発して捕まえようと半ば勢いでやってしまったことなのだ。
「ほう、この世界にはそういう魔法もあるのか。だが、それでは!」
それを見たチンクは慌てることも無く即座に指に挟めるようにして投げナイフ型の固有武装スティンガーを構え、それを影法師に向けて投げ放った。
「そんなもので!」
その行動に高音はにやりと笑みを浮かべる。影法師自体はそれほど強くは無いが、ナイフが刺さった程度ではやられはしない。そのまま突っ込ませて捕まえようと考えるが――
「な!?」
ナイフが影法師に突き刺さった瞬間、爆発が起きる。それによって影法師は砕かれ、その事実に驚いた高音は足を止め、アスナも突然のことに同じく止まってしまう。インヒューレントスキル。通称ISという能力をナンバーズ達は持っている。これは魔力を用いない特殊能力で、ナンバーズそれぞれに能力の形が異なっている。チンクはランブルデトネイターという名のISで、金属であるならば爆発物に変えるというものである。 このISでスティンガーを爆発物に変えて投げ放ち、影法師を爆砕したのだ。
「な……攻撃なんて……そんなの卑怯ですわ!?」
「言わなかったか? 怪我させなきゃなにしてもいいって?」
ヒステリックに叫ぶ高音だが、ヴィータは落ち着いた様子で――どこかしてやったりの笑みを浮かべてるが――返していた。高音はただの鬼ごっこだと思い講義したのだが、それは彼女らの勘違いである。これはある目的によって行われるもの。それにヴィータは説明で怪我をさせなければ何をしてもいいと確かに言っている。実はここが肝であった。
なのだが……ネギ達はそれに気付かないまま1時間が経ってしまった。ネギ達の方は結局ウェンディに追いつけないまま、アスナ達の方もチンクのランブルデトネイターを警戒して攻められなくなったためであった。休憩時間。ネギ達の表情はどこか暗かった。
「うう、まったく追いつけませんでした」
「あのウェンディって奴……本気で速すぎるわよ……」
落ち込む様子のネギの横でアーニャが怒っているのだが……実はアーニャの言葉は思い違いだ。ネギ達はただ単に追いかけているだけであった。ウェンディも生きている時間はチンクほどでないにしろ、ナンバーズとして戦ってきた身だ。故にそれなりに戦いを心得ている。なのでウェンディなりに巧みに動き、ネギ達の追撃をかわし切ったのだ。
「こっちは……爆発を起こしてくるもんだから、思いっきりいけないのよ」
アスナはといえば納得いかないといった様子でぼやいていたが、それは高音も一緒である。まるで卑怯だといわんばかりに怒っているのだが――
「ちょっとよろしいですか? 先程のを見せていただきましたが、客観的に言わせてもらいますとネギ先生達は実に単純であると言わざるおえません」
「それはどういうことですの?」
やってきた夕映の言葉に心外だという顔の高音。そんなのは気にせず、というかスルーして夕映は人差し指を立て、
「まず、ネギ先生達はただ単に追いかけているだけなのです。そんなのは子供にだって出来ますです。
一方、追いかけられているウェンディさんはわざと立ち止まって引き寄せてかわすということをしているのです」
夕映の説明にネギとアーニャ、愛衣は彼女を追いかけている時のことを思い出し、あっという顔をした。ただ単に走って追いかけるのであれば、ネギ達はすぐさまウェンディを捕まえられたであろう。が、空中というのがネックとなった。ネギ達はわかってないのだが、空中というのは地上とは違い上下という感覚が加わる。ネギ達は地上と同じ感覚で追いかけていたのだが、ウェンディはその3次元的な感覚も駆使して逃げ切ったのだ。
「後、アスナさん達は卑怯とお思いなのでしょうが、今回の鬼ごっこを考えたのが和也さんだとすれば、それは間違いだと言わざるおえません」
「あ、なんか納得……」
夕映の説明にアスナは納得といった顔をするが、逆に高音や愛衣、チアリーダー組や裕奈、アキラに千鶴といった面々は首をかしげていた。和也と付き合いが短い彼女らにはわからないのだが、和也は前々から卑怯がどうした? ということを言っている。高音や愛衣もその話は何回か聞いているのだが、流石にすぐには和也がそういう人物だとは思い当たらなかったのだ。
「なので提案なのですが、両方を追いかけるのではなく、どちらか1人に絞って追いかけるべきだと思いますです」
「それは……こちらが卑怯ではありませんの?」
夕映の提案に高音は明らかな嫌悪感を見せていた。彼女としては夕映の考えは明らかに卑怯にしか思えなかったからなのだが――
「だけど、普通にやって捕まえる自信ある? このままじゃ、私達お仕置き決定よ?」
「う……」
「あの……先程から気になっているのですが、お仕置きとはどういうものですの……」
「聞かないで……お願いだから……」
アーニャの言葉にアスナの顔が歪ませ、その横にいる何のことかわからない高音が問い掛けるのだが、アーニャがどこか影の入った顔でうつむきながら答えていた。彼女らにしてみれば、思い出したくもない黒歴史だったりするのだ。この様子にただならぬものを感じ始めた高音と愛衣。
「でも、そんなことしてカズヤがなんていうか……」
こちらは別のことで悩むネギがそんなことを漏らすのだが……
(やれやれ、これではろくな結果にはならんか。まぁ、元々はそのつもりではあったしな。これもいい経験になるであろう)
他の鍛錬組何人かが心配そうに(このままだと自分達もお仕置きを受ける為)見守る中、ベオウルフはそんなことを考える。今回の鬼ごっこの目的を知っているが故にこの後ネギ達がどんな反応を見せるか、実は何気に楽しみにしていたりする。
ネギ達の横でジェスターと和美は話し合っていた。何を話し合っているかというと――
「これは私の持論なんだけど、基本的に情報屋は自分の存在を気付かれてはいけないのよ」
「え? どうしてですか?」
思わず疑問を口にする和美。まほら新聞の記者である自分としては記者と名乗ってから取材をしているだけに、どうして? という思いが強かった。
「そうね……まず裏の世界の情報……特に和也が関わるようなものはそれ1つで表の世界がひっくり返るようなものがごく稀にあるの。情報屋は時としてそういうものを調べなきゃならないこともあるわ。でも、そういった類の情報がある所は危険な奴らがいるのは当たり前と言ってもいい。そんなのにそういう情報を調べてると知られれば、それだけで命を狙われる理由になるの。和美ちゃんも命を狙われるのは嫌でしょ?」
ジェスターに問われた和美は無言でうなずいた。確かに命を狙われるのは勘弁したい。ただでさえ自分は一度死に掛けているのだし。と、少々乾いた笑みを浮かべつつ、和美はそんなことを考えてしまう。
「だからこそ、自分の存在を気付かれないように情報を探るの。どうやるかは追々話していくけどね」
そう言ってウインクするジェスター。なるほどと和美は思ったのだが、ふとあることに気付く。何に気付いたかといえば――
「あの……ちょっと気になったんですけど、私って和也さんと契約して強くなったんですよね? だからその……鍛えるとかしなくていいんですか? ネギ先生みたく……」
と、なぜか視線を逸らしつつ聞いてみる。確かに和美は和也と契約することにより力を得た。でも、和也に何かをしろと言われてはいないのだ。そんな和美を見て、ジェスターは思わず笑いを漏らしてしまう。
「うふふ……あ、ごめんなさいね。で、疑問に対する答えなんだけど、和也が行った契約ってのは悪魔との契約と一緒でね。悪魔と契約した者は魔性化といって、魔物みたいになっちゃうのは話したと思うけど……実はこの魔性化ってのが曲者なの。個人差があって、契約したらすぐに魔性化する者もいれば時間が経ってから出来るようになる人もいるし、何かがきっかけで出来るようになる人もいるの。
たぶん、和美ちゃんは時間が経つかきっかけがあれば出来るようになると思うけど……それまでは下手に鍛えない方がいいのよ。魔性化はどんな形になるかわからないから、魔性化した姿と鍛える方向性が違ってると色々と困ることもあるし。まぁ、基礎トレーニングくらいでいいと思うわよ」
「へぇ……それと魔性化って……どんな姿になるんですか?」
ジェスターの説明に納得しつつも更に出てきた疑問を問い掛ける。それにジェスターは笑みを浮かべ――
「さぁ? それも個人差だしね。でも、和也との契約でとんでもない姿になるってことはないと思うわよ。私のも機会があったら見せるわね」
と、満面の笑みでこたえるのだった。それを聞いて、自分はどうなるのだろうと不安を感じられずにはいられない和美。そんな2人を真名は静かに見ているのだった。
「あ〜……たく、あんなので人を呼ぶなっつの……」
「まぁまぁ……」
麻帆良の商店街を歩く和也とミーナリア。だが和也はどこか不機嫌であり、ミーナリアがそれをなだめていた。和也達ははやてに呼ばれてミッドチルダに行っていたのだが、そこでの出来事は……まぁ、あまりにもくだらなかった。あまりにもくだらなさすぎて、和也も思い出したくはない。で、何があったかというのは……どこかでわかるだろう。それはそれとして、はやてに呼ばれた用事をさっさと済ませ、こうして戻ってきたのだが――
「さてと、今回の鬼ごっこ。ネギはともかく、アスナとアーニャは怒るだろうな。あの高音の嬢ちゃんも」
「ま、いいんじゃない? 戦いを教えるって簡単じゃないんだし」
なんてことを言い合う2人。実は今回の鬼ごっこ、結構重要な意味合いを持つ。どんなものかはその時に教えるが、ともかくとして結果がどうなるかが予想できる為、思わずそんな会話が出たのである。まず、怒り出すだろう3人の顔が今にも思い浮かべることが出来そうで――
「見つけたぞ……」
その時だった。そんな声が聞こえてきたので、思わず振り返る和也とミーナリア。その先にいたのは小柄な人物だった。背はアスナと同じかそれよりも低いくらい。服装はスニーカーにジーンズ、白のシャツに紺のジャケット。また、帽子を深く被っており、そのせいで顔は良く見えないが……幼いといった印象を受ける。そんな小柄な人物を見て、和也は目を細めた。気付いたのだ、小柄の人物がアレであることに。あえて、それを言おうとはしないが。
「見つけたって……俺のことか?」
「ああ……あんた、Devil Walkerだろ? わた……俺の兄さんの仇だ」
和也の問いに小柄な人物は憎悪の瞳を向ける。人通りが少ないのが幸いしたのか、その会話は通行人には聞こえなかったが……聞こえていたら、ちょっとした騒ぎになっていただろう。が、その小柄な人物の言葉に和也は首をかしげる。
「まさか、知らないと言うんじゃないんだろうな?」
「あ、いや……実は心当たりありすぎてどれだかわからんだけだ」
憎悪がこもる声で小柄な人物は睨むが、和也は気にした風も無く頭を掻きながら答えていた。今まで語られていないが、和也はこれでもかなりの数の人を殺している。あの真祖の吸血鬼以上に……まぁ、殺してるといっても和也が悪党と認めた者だけなんだが。なお、彼の場合悪党なら例え女子供でも容赦はしなかったりする。
ともかくそんな理由で和也には誰のことを言っているのかわからなかった。それを知ってか知らずか、小柄な人物は震えていた。怒りで……
「ジェナス・グレイソン……この名に聞き覚えはないか!?」
「ジェナス……って、あいつ生きてるぞ? ていうか、ここにいるはずだが?」
小柄な人物が問い掛けるが、叫んだために通行人に顔を向けられていた。で、和也はといえばしれっとそんなことを言い出したりするが。
「へ?」
「あいつ、もしかしてお前に連絡取って無いのか?」
「あ〜、職業柄しょうがないかも。それにああなっちゃったから、言いづらかったんじゃない? それで連絡取らなかったもんだから、死んじゃったと思われたのねぇ〜」
思わず間抜けな声を漏らす小柄な人物を気にすることも無く、そんなことを言い合う和也とミーナリア。
「ちょ、ちょっと待て!? どういうことなんだ、それは!?」
「早い話、生きてるってことだよ。まぁ……あんたには色々とショックかもしれないが……」
戸惑う青年に和也は頭を指で掻きつつ答えた。なぜか明後日を見つつ……つ〜のもそのジェナスという人物がどうなってるかを知ったら、小柄な人物がどんな反応をするのか……
和也はそれを考えると不憫に思えてしょうがなかった。あのジェナスがあんな風になるとは……いや、初めて会った時にはあんな感じだったけど。
「とりあえず、案内するが……まぁ、なんだ……気をしっかりとな……」
「どういう意味だ……それは……」
考えていることはあえて表には出さずに和也は言うのだが、その言葉に一抹の不安を感じ始める小柄な人物。その不安は間違いではなかった。だって、あれじゃねぇ……そんな思いをミーナリアは言葉には出さず、小柄な人物を哀れむかのように見つめるのであった。
その頃、ネギ達はというと30分の休憩が終わり、鬼ごっこを再開していたのだが――
「なるほど、こちらを優先してきたか」
ネギ達の行動にチンクは苦笑を浮かべつつ、逃げ回っていた。今現在、ネギ達はチンクを追いかけている。といっても全員でというわけではなく、ウェンディの方はアーニャと愛衣が追いかけているが。で、なぜこうなったかといえば、ベオウルフのアドバイスからであった。
〈まったく、お前らは……まぁいい、良く聞け。夕映の1人に絞るというのは悪くない作戦だ。だが、1人か2人はもう一方を抑えなければならない。一方を自由にしてしまえば、確実に邪魔をしてくるだろうからな。ルールは覚えているであろう? 怪我をさせなければ何をしてもいいと。だから、遠慮せずにやれ。お仕置きが嫌ならな〉
ベオウルフの言葉に顔を青くするアスナとアーニャ。楓や古菲も同じようなもんだったが。そんなわけで夕映が考えた作戦にベオウルフの考えが混ざる形で実行されることとなる。お仕置きが嫌なアスナとアーニャのごり押しで……なのだが、ネギと高音には戸惑いの表情があった。本当にこれで良いのか? その思いが2人の動きを鈍くさせてしまう。
「こんのっ! いい加減、捕まりなさい!!」
一方で必死になってるのがアスナだ。まぁ彼女の場合、和也のお仕置きが本気で嫌なだけで、卑怯とかそういうのを考えている余裕は無かった。なので、両腕を振り回しつつチンクを追い掛け回すのだが……ネギと高音の動きが悪い為、実質1対1になっているようなもの。そのため、容易く逃げられてしまう。
「もう! ネギ! 高音さん! このままじゃ、あんた達もお仕置きなのよ! それでもいいの!? ていうか、さっきの影みたいなの出せないの!?」
「え? あ、その……ですが……」
アスナの悲鳴に近い叫びにも高音は戸惑うだけであった。さっきのは勢いでやってしまったが、先程の繰り返しになりそうな気がしてしまう。それに今思うとたかが鬼ごっこに影法師を出すのはどうかと躊躇われてしまう。どうにも卑怯な気がして……
「やれやれ……だな」
と、ため息を吐くチンクが立ち止まってしまう。今回の鬼ごっこの目的を知っているが故、これ以上は無駄だと判断したのだ。
「やった!」
そんなチンクの思いに気付かないまま、アスナがチンクの体に触れて汗を浮かべる顔で笑みを浮かべた。
「終わりだな。全員、集まれ!」
それを見たヴィータが集合を掛けるが、その表情は落胆の色が見えていた。それに気付く楓や真名、刹那やシャークティ、刀子は訝しげな顔をしていたが。
「集まったな。良くやった……と、言いたいところだが、今回の鬼ごっこの点数を付けるなら10点だ。言っとくが百点満点中でだぞ?」
「な、なんでよ!?」
集まってきたネギ達に少し怒った様子で言い放つヴィータ。アスナは点数のあまりの低さに驚くが、ネギと高音はやはりなという顔をしていた。当然だ、あんな卑怯なことを――
「お前ら馬鹿か? 怪我させなきゃ何してもいいって言ってただろうが? なんで、この場にいる全員で掛からない?」
「へ?」
ヴィータの言葉にアスナは思わず間抜けな声を漏らす。ネギや高音も戸惑いの色を浮かべていたし、愛衣も理解出来ずにオロオロとヴィータやネギ達の顔を見ていた。他の者達もヴィータの言葉が意外だったため、それぞれに戸惑った様子を見せていたが。
「な、なんですの、それは!? そんなのはあまりにも卑怯――」
「――今回の鬼ごっこの目的がお前さん達の実力をはかるもんじゃなく、戦いに対する考え方を見るためのものだからだ」
文句を言おうとした高音の言葉を遮るかのように答えたのはミーナリアと見知らぬ小柄な人物と共にやってきた和也であった。そんな彼に誰もが顔を向ける中、ジェスターが驚いたような表情を見せたが、それに気付いたのはそばにいた和美だけである。ただ、どうしてそんな顔をするのだろうかと首をかしげるだけだったが。
「何よそれ? どうして、鬼ごっこでそんなのがわかるっていうのよ?」
「戦いってのはな、程度の差はあっても決して軽視していいもんじゃない。かといって、なんでもかんでも全力で行っていいってわけでもないがな。それはそれとして、今回もそうだ。人がせっかくやる気を出せるようにしたってのに真面目に鬼ごっこしやがるし……言っとくが、さっきのはチンクが手を抜いたから捕まえられたんだ。でなきゃ、最後まで捕まえられんって」
怒りを隠そうともせずに問い掛けるアスナに、和也はやれやれといった表情で答えていた。その返答に対し、明らかに嫌悪の表情を浮かべるのはネギと高音。当然だ。そんなのは認められない。第一 ――
「でも、みんなで捕まえるというのは卑怯だと思います!」
「それに! 私達で行けと言ったのはベオウルフだし!」
〈我は捕まえ方のアドバイスはしたし、全力で行けとは行ったが、お前達だけでやれとは一度も言ってないぞ〉
怒ったように言い出すネギにアスナも反論するが、そこはベオウルフが否定した。それを聞いたアスナは恨みがましそうにベオウルフを睨んでいたが。それはそれとして、アスナも全員で捕まえるなんて卑怯だとネギ達ほどではないにしろそう思うので、そんな文句が出てしまうのだが。
一方でそんな言い訳を聞いた和也は盛大なため息を吐き――
「ひどい言い方かもしれんがな……あえて言ってやる。自己満足に他人を巻き込むな」
「え?」
その一言にネギは戸惑った顔で声を漏らした。高音もアスナも同じような顔になり、和也を見ている。
フリムやジェスター、ミーナリアや真名と刀子以外のみなは一様に戸惑うが……言葉の意味を理解出来てはいなかったからだ。
「正々堂々と戦う。聞こえはいいが、実際は何の意味も無い。特に命やら人を守るといった時にはな」
視線だけを向けながら話す和也。だが、その表情はどこか暗いものを漂わせている。それにミーナリアやジェスター、フリム以外のみなが息を飲む。
「そうだな……今の鬼ごっこを犯罪者の追跡に例えてみるか……その犯罪者はとにかく凶悪で絶対に捕まえなきゃならない。その場合、お前達ならどうするべきだと思う?」
「え? え、えっと……追いかけるしかないんじゃないかな……と、思うけど……」
和也の突然の質問にアスナは戸惑いながら答えた。それに対し、和也はやれやれといった様子でため息を吐いたが。
「間違いじゃないが……なら、追いかけるにはどうすればいいのか? どのように犯罪者を追いかけるべきなのか? 他にも色々とあるが、そういうのも考えなくちゃいけない。そして、その考えに私情は挟むもんじゃない。立派な魔法使いだからとか正義の為とか、そんなのは卑怯だとかは論外だ。そんなのがなんの役に立つ? 後、感情に任せてなんてのもだ。そこら辺のことは高音やネギは経験済みだろうが……」
和也の言葉にネギと高音がうっと呻いてから、つらそうに顔をうつむかせてしまった。確かに言うとおりだった。先日のアレは自分のせいで……と、落ち込みだすネギと高音。ただ、それはある意味間違いでもあるのだが、和也がそのことに関して何かを言うつもりはなかった。言ったとしても、今の彼女達にはまだ理解出来ないだろうからと……それでもフォローはしとくかと考えてるが。
「まぁ、なんだ。そこら辺はやはりというか経験しなきゃわからんだろうがね。でも、先輩の話も聞くもんだぞ? ともかく、正義の為にとか卑怯だとかそういう云々はお前達の自己満足にすぎない。それにそういうのは問題とか失敗を起こす種にもなりかねないからな。それでその自己満足で実際に問題やら失敗やら起きたらどうする? それのせいで守るべき者が傷付き命を落としたら? それが元で怒りや恨みを向けられたら? まぁ、怒りや恨みやらはこういう仕事をしてりゃ、少なからず受けたりはするが……守るべき者達からそういうのを向けられたら、お前達はどう思う?」
あまりフォローになってないことを言いつつも和也は静かに……でも、重みがある声で話した。その言葉にネギ、アスナ、アーニャ、高音、愛衣はうろたえるような顔を見せた。ネギ達は考えたこともなかった。それが正しいと思っていた。でも、実際はそうではない。物事はおとぎ話や物語のようにはいかない。そうとは知らないネギと高音はそれ故にあのような事態を起こしてしまった。
もっとも、これはこのようなことを学ぶ機会が無かったためでもある。原作を見る限り、魔法使い達はあくまでも魔法のみを教えている節が見て取れる。むろん全てではないのだろうが、そういうのを学ぶのは実際に戦いの場に出てから、というのが大多数なのだろう。
このことを聞いたネギ達はうつむき、ならばどうすればいいのかと思うのだが……見学組の中にもその言葉に思い知らされた者がいた。刹那である。彼女は自分がバケモノだから、という理由からこのかから離れていた。最初はその方がいいと思っていた。でも、それはただの自己満足なのだろう。いや、今考えるとそれは自己満足に程遠いものなのだが……けどそれは自分勝手な事情にすぎない。
本来はこのかの傍で守らなければならないものを、私はそんな自分勝手な理由で離れた場所で見守っているにすぎなかった。刹那は長くはないとはいえ裏に……戦いに身を置く者。だから、和也の言葉が理解出来た。故に思う。自分は和也に救われたのだと。でなければ、自分はずっとこのかから離れたままで――
「ま、延々と話したが……急ぐ必要は無い。何をどうすればいいのか? なんてのはこれから学んでいけばいい。俺も出来る限りだがそういうのは教えてやるしな。でも、これだけは覚えて欲しい。何かを守るというのは、時には何かを奪わなきゃならなくなるってことを」
顔を向けつつ話す和也。ネギ達はその話を聞き終えるとうつむいたままだった。自分達の知らない現実がある。それを聞かされたために思い悩む。それに最後に言っていた何かを守るというのは、時には何かを奪わなきゃなくなる。守らねばならないのに、どうして奪うなんてことをしなければならないのか? それがわからずに更に思い悩んでしまう。
「さてと、ひとまずこの話は終わるとして……ジェスター、客だぞ」
「ええ……まさか、こんな所で再会するとは思わなかったけど……」
今までの話で重くなった場の空気を変えようと、和也がそんなことを言い出す。話を振られたジェスターはため息混じりに答えたのだが――
「ちょっと待て! 私は兄がいると聞いてきたんだぞ! どこに兄がいるんだ!」
「私はそんな格好はして欲しくないって、いつも言ってたんだけどな……レミリア……」
戸惑って素が出ている小柄な人物にどこか寂しそうな笑みを向けるジェスター。その言葉にレミリアと呼ばれた小柄な人物は体を振るわせた。今の言葉は兄にいつも言われていた――
「私に憧れてるのは嬉しいけど……だからって、姿形を似せなくてもいいって言ってたじゃないの……」
ジェスターの言葉にレミリアと呼ばれた小柄な人物は帽子の陰からでもわかるくらいに驚愕の表情を浮かべていた。そんなはずは無い。でも、今の言葉は兄がいつも――
「えっと、どういうことやの?」
「ああ、ジェスターはな……元男だ……」
このかの問いに和也は沈痛な面持ちで答え――
『え、ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?』
途端に和也、ミーナリア、ジェスター、フリム、未だ驚いてるレミリアを除く全員が絶叫した。
「ちょ、ちょっと、それってどういうことなのよ!?」
「そうです! 何度か、その……裸を見ましたが……失礼かと思いますですが、手術の跡とか見受けられませんでした」
慌てた様子で和也に詰め寄るアスナと夕映。というか、2人以外にもジェスターと一緒にお風呂に入った者はいる。その時はジェスターの素晴らしいプロポーションを目の当たりにし……何人かは自分の体型にため息を漏らしていたりするが。ともかく、その時見る限りでは手術をした跡などは見受けられなかった。もっとも、現代の技術だと手術跡を目立たないようにも出来るのだが。
「あ〜、それなんだがな――」
頭を掻きつつ、和也はその事を話し始めた。それは今から大体7、8年前程前――
和也はFBIからある依頼を受ける。依頼内容はある情報屋の身柄の保護というものだった。その情報屋はある犯罪組織の情報を持っており、それがあれば犯罪組織を検挙出来る。だが、それは犯罪組織にも知られており、奴らも情報屋を狙っている。なんとしても奴らより先に情報屋を保護して欲しいというものだった。
ちなみにだが、国家機関でもあるFBIが和也のような者にこのような依頼は本来はしない。ただ、今回は危機感を抱いたFBIの職員の1人が和也の噂を聞きつけ、個人的に依頼してきたのだ。これにより、和也はFBIともパイプを持つこととなる。それはそれとして、その依頼を暇つぶしにちょうどいいと受けた和也はあっさりと情報屋と合流した。合流したのだが……
「その時にはすでに女装してやがったな、こいつは……」
「あはは……あの時は奴らから逃げる為にね。ただの変装じゃバレるかと思ったし……それに普通は女になってるなんて思わないだろうからって考えたんだけどね」
和也のぼやきにジェスターは苦笑交じりに答えた。まぁ、その女装が上手くいったのは事実である。犯罪組織も追っている者が女になっているとは考えておらず、完全に見失っていた。もっとも、上手くいったのは当時ジェスターの顔立ちが中性寄りであり、女装による化粧ではた目から見ても女性にしか見えなかったためでもある。そんなわけで無事和也に保護されたジェスター(当時はジェナス)はFBIに情報を渡し、一件落着……かと思われたのだが――
「その……和也と出会った時にね……一目惚れっていうか、なんというか……あ、自分は本当は女性なんじゃないかって……自覚しちゃってね……」
苦笑交じりにてれてるジェスターの言葉に和也は右手で顔を覆いつつ、うつむいてしまった。一方でミーナリアとジェスター、フリム以外のみなはぽかんと話を聞いていたけど。
女装を始めた頃、あまりのも似合いすぎた為に思わず女性気分になっていたが、その一方で自分は本当は男性。女装は奴らから逃げる為と自己嫌悪にもなった。それが吹き飛んだのは和也と出会ってからである。それは一目惚れと言っていい。ただし、男性としてではない。女性的な何か――ジェスター本人にしかわからな気持ちだが、自分は女性なんだと自覚させるようなものを和也を見た瞬間から感じてしまった。
その後、情報を得たFBIによって検挙された犯罪組織は壊滅し(壊滅の経緯には和也も関わってたりするが)、身の安全を確認したジェスターは和也を探した。なぜ探そうとしたのか? ジェスターにとってはこの気持ちが本物なのか? それを確かめたかったのだ。情報屋であるジェスターにとって和也を捜索するのはたやすく、あっさりと見つかり……で、出会うなり抱きついてしまった。女装した姿で。そこでハッキリと自覚した。自分は女性なのだと。
そのため、最初は性転換手術を真面目に考えていたのだが……ある時、和也がハーフデビルであることを知り、その力で自分を女性にしてもらえないかと考えた。
「でね、和也にお願いして……私は女性にしてもらえたの」
「お願いね……ああ、そうなんだろうがな……」
恥ずかしそうにしてるジェスターの横で、和也はなぜか遠い目をしていた。確かに熱心だった。女性にしてくれたら、添い寝とか一緒にお風呂とかも言い出したし。でも、元は男性だという理由でして欲しくないなぁと、和也もその辺りは結構ひどいかな〜ってことを思いつつも願い通りに女性にした。女性となったジェスターはそれはもう心の奥底から喜んだ。喜んだジェスターは献身的に和也に尽くした。
ジェスターにしてみれば和也は自分の願いを叶え、新たな人生を与えてくれた人だから。
そんなこんなで色々とあってジェスターは和也と契約を交わし、ついでに体を重ねたりもする。その辺りについて、和也は自分も大概いい加減だよなぁ〜……と、猛省したとかしないとか……ちなみにだが、ネギ達には体を重ねたことは話していない。話したらどうなるかはわかっているだけに……
「とまぁ、そんなこんなで今に至ると……」
ため息が出そうな雰囲気で話し終える和也だが、ジェスターとミーナリア、フリム以外のみなは未だ呆然と話を聞いていた。まぁ、ジェスターが元男だったなんて事実に未だに信じられなかったこともあるのだが――
「ほ、本当に……兄さんなの?」
「ええ……といっても、今はお姉ちゃんになっちゃったけどね。ほら、そんなの被ってないで、顔を良く見せて」
「あ……」
レミリアと話しながら、ジェスターは彼女が被っていた帽子を取り去った。その下から現れたのはさらりと風に揺れる、ジェスターと同じ色のショートヘア。そして、ジェスターを幼くしたような顔立ちがあった。 そう、少女といっても差し支えないような幼く可愛らしい顔立ちがそこにあったのだ。まぁ、最初から少女なのだから、当然といえば当然だが。
「こんなに可愛いのに……あなたは私じゃないの。だから、あなたはあなたの道を歩んで欲しいのよ……私みたいにね」
レミリアの頭を優しく撫でながら、ジェスターはどこか悲しそうな声で語る。まだレミリアが幼かった頃、彼女はジェスターにベッタリな状態だった。当時は両親が仕事の関係で家を空けることが多く、結果としてジェスターが世話をするのが当然となっていた。そんなジェスターにレミリアは懐き、いつも一緒にいようとした。そのたびにジェスターはレミリアをなだめていたのだが。
やがて、両親の仕事も安定し家にいる時間が増えた頃、レミリアはジェスターの真似をするようになる。両親と折り合いが悪かったわけではない。でも、レミリアはジェスターに心の拠り所を求めていた。なまじ一緒にいる時間が多かった為に……そんな彼女をジェスターはどうするべきかと悩んでいた。この頃はまだ男性であり、どっちかというとカッコイイ系であったジェスター。
レミリアはそんな彼の服装や髪型を真似るようになり、やがて言動も似せるようになってしまう。ジェスターもやめさせようと言い聞かせるのだが、レミリアは頑として聞き入れなかった。
結局、ジェスターはレミリアから離れる決心をした。自分が一緒にいてはレミリアは自分の真似をし続けるだろう。それにその頃はスリルを求めて情報屋を始めたのだが、危険なものも扱うようになったため、危険が及ばぬよう家族から離れる必要があったのだ。両親には適当な理由を伝えて家を出る日、レミリアはジェスターを引き止めようとした。いつまでも一緒にいたかったから。
でも、ジェスターはそれを振り切った。レミリアの身の安全とこれからのために。こうして離れて暮らすこととなったジェスターだが、連絡だけは取っていた。そのたびにレミリアに戻ってきて欲しいと懇願されたが……だが、先程の事件でその連絡も出来なくなってしまい。自身が女性になってしまったことでどう向き合うか悩んでしまい、結果今の今まで連絡を取らずにいたのだ。
それが今回の引き金になってしまったのだが……なお、レミリアがどうやってここにたどり着いたのか? 実はあの事件後、和也に依頼したFBI職員がジェスターの家族を訪れ、多少の嘘を交えて事件のあらましを話したのだ。嘘を交えたのはそのまま伝えるには問題があったからである。和也に依頼し、事件を解決してもらったなどと言ってはFBIの沽券に関わることもあって。
それを聞いたレミリアはその職員からジェスターが住む場所を聞き出し慌てて向かったのだが、そこにジェスターはいなかった。焦ったレミリアはFBI職員を問い詰め、和也のことを聞き出し、探して……今に至るのだが、その間にレミリアの中では和也はジェスターを殺したことになってたりする。なぜそうなったのかは……まぁ、心情的に暴走傾向にあったためなんだが……
「私はね、こんな姿になっちゃったけど、今は危険な仕事をしているの。だから、一緒にいられないのよ。あなたを巻き込むわけにはいかないから……」
「知ってるよ……兄さんが情報屋をしていて、危険な目にあったのは……でも……でも、一緒にいたいの! また、あの時のように一緒にすごしたいの!」
寂しそうな笑みを浮かべながらジェスターはそういうのだが、レミリアは泣き出しながらそれを拒否した。間違いない。兄だと実感しながらも、もう離れたくないという気持ちから――
「でも――」
「一緒にいた方がいいんじゃないか? もしかしたら、その子がお前さんを探したおかげで姉妹だってのがバレたかもしれんからな。両親の方は知り合いのマフィアに頼んどきゃ大丈夫だろ」
「確かにその方がいいかも。あなたの仕事の関係上、家族が危険にさらされるかもしれないしね。だったら、一緒にいた方が守りやすいと思うわよ?」
「あの……今、聞き捨てならない言葉が出たような……」
なんとか断ろうとするジェスターに和也とフリムがそんなことを提案する。その中に不穏なものが混じっていたので、シャークティが思わず問い掛けてしまうが。
「いいの?」
「ああ。それにちょうどいい物件を見つけたんでな、そこに引っ越そうと思っていた所だ。広いから、お前さん達が同居しても別に問題は無い。まぁ、ミーナリアやばあさんも一緒に住むことになるけどな」
ジェスターの疑問に和也はうなずきながら答えた。最近、女子寮管理人室では何かと手狭になったため、いい物件はないかと学園長に問い合わせていたのだ。で、4日ほど前に古い洋館を紹介され、今現在は改築の真っ最中である。改築が終わり次第、そこへと移り住むのだが、その話をネカネにしたらすねられてしまった。まぁ、空間を繋げることで出来る管理人室から直通の通路を作ることで妥協してもらったが。
「じゃあ……じゃあ、一緒に住めるの?」
「そう……みたいね」
恐る恐る問い掛けるレミリアにジェスターは笑顔で答えた。それを聞いたレミリアはぱっと顔を輝かせ、ジェスターに抱きつくのだった。
「どうやら、一件落着みたいだな。ああ、ヴィータ。悪いが休んだら、少しでいいからネギ達を鍛えてやってくれ」
「あ、ああ……わかった」
和也の言葉にヴィータはなんとか返事を返していた。まぁ、先程のやりとりで驚愕の事実を目の当たりにしたせいなんだが。
「これから、もっと大変になりそうね」
「だろうな。問題が山積みだしな」
ミーナリアの言葉に、和也はため息混じりに答えた。ジェスターのおかげで先程の重苦しい空気は振り払われたが、何かが解決したわけではない。ネギ達は何かを守ろうとする戦いをするのならば、色々と学ばなければならない。それをどうやって教えていくか……それに和也は頭を悩ませるのであった。
―――そう、終わってはいない。ネギはその心に暗いモノを宿したまま……それがどうなるのか、今はまだわからない。
「ふふふ……もう少しだ。もう少しで私の悲願は叶う。待っていろ、坊や……」
「次のターゲットは闇の福音か……せいぜい愉しませてもらおうか……」
「ネギ・スプリングフィールド……貴様を殺す。殺して――」
今ここに新たな事件が起きようとしていたのだから……
あとがき
ども〜、ついに来ました第8話。いかがでしたでしょうか?
私的になんかダメじゃん? 的なものを感じてたりしますけど……文章めちゃくちゃっぽいし……それはさておき、今回は新たなる日常……みたいな? 感じで書いてみました。
現実を叩きつけられたネギはどうなっていくのか? そして、それを見守る和也はどうしていくのか? 次回はそこら辺をメインに……書けたらいいなぁ……(おい)
さて、次回は8話の番外編っぽいものになります。まぁ、本当はそれを書き終えてから投稿するつもりでしたが……思ったよりも時間が掛かってます^^;
で、9話からはエヴァンジェリン編となります。迎えた新学期。和也がいることでどうなっていくのか……そして、謎の人物達の正体は?
次回をお楽しみに〜……してくれますよね?(おいおい)
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