立派な魔法使いマギステル・マギ歩き続ける悪魔デビル・ウォーカー』  第7話『少年戦士 現実を見る』



今回の話をする前に少々時を遡る。それは和也が釘宮達を助けた数日後のこと。
1人の女生徒が何かを探すかのように歩き回っていた。女生徒の名前は朝倉和美。報道部に所属しており、報道部が発行するまほら新聞の記者でもある。
そんな彼女がなにを探しているかといえば、当然の如くというか和也である。釘宮達を助けた(かは本気で疑問だが)件の人物。まほら新聞のネタになると捜していたのだが、その目的の人物は意外なまでにあっさりと見つかった。カフェで足を組みつつ優雅にコーヒーを嗜んでいる姿を。それがまた様になっており、和美は思わず見惚れてたりする。 それでも取材のことを思い出し、頭を振って正気を取り戻し――

「すいません。まほら新聞の者なんですけど、取材いいですかね?」

「まほら新聞? ああ、学校で出してる新聞か……取材と言われても、そんなのを受けるようなことをした覚えは無いのだが?」

声を掛ける和美に片目だけを向けつつ、和也はまったくもって自覚の無いことを言い放つ。不良達をぶちのめしておいて(釘宮達視点で)、本人の無自覚な発言に和美は汗を浮かべてたりするが。

「あはは……ほら、不良達を追い払ったって話を釘宮達から聞きましてね。興味が出たんで取材ついでにどんな人かな〜と思いまして」

「不良? ああ、あれのことか……あれは単に仕事だからやっただけなんだがな」

苦笑を交えながらも穏便に話を進める和美だが、和也はといえば気にした風もなく答えていた。

「そうなんですか……えっと、和也さんは警備員……なんですよね?」

「正確には警備員として雇われた何でも屋だな」

早速質問をするのだが、返ってきた言葉に和美は首をかしげる。というのも――

「何でも屋……ですか?」

「ああ。俺はデビルウォーカーの名で何でも屋をやっていてね。何でもといっても、殺しと犯罪はこちらからごめんだがな。で、ここの学園長から警備員の依頼を受けて、引き受けた。なんでも、普通の警備員じゃ荒事の対処も難しいらしくてね。荒事が出来る俺に依頼してきたらしい」

和美の疑問にコーヒーを飲みつつ和也は答えるが、当然の如くこれは嘘である。むろん全てが嘘というわけではないが。

「へぇ……それじゃあ、今までどんなことを?」

「そうだな……」

そんな問いに和也は差し当たりないことを話し始める。もっとも、和美に冷や汗を流させるには十分な内容だったが。
それでも和也の話に和美は引き込まれていった。それに和也自身とても興味深い。ぶっきらぼうに見えて、紳士的というかそういった印象を受ける。なのに、やってることはとんでもない。まぁ話が真実かは別にして、和美にはとても面白く感じられたのだ。

「あれ? 朝倉じゃない。なにしてるの……あ!」

そこに釘宮達チアリーダーの面々と明石祐奈に大河内アキラ、那波千鶴がやってきた。現れてすぐに声を掛ける円だったが和也がいることに気付いて驚きの声を上げ、一緒にいた者達も驚く。アキラと千鶴だけはその後に頭を下げていたが。

「あの時の嬢ちゃん達か……元気そうでなによりだ」

「えっと、その……あの時はありがとうございます。ところでなにやってんの?」

「取材……と言いたい所だけど、ただ単に話を聞いてるだけかな? 面白いんだよ、和也さんの話って?」

「和也さん? ああ、この人の名前か〜」

和也に頭を下げる円の疑問に和美は楽しそうに答えた。美砂は和也の名前を知ってか、どこか嬉しそうな顔をしている。その後円達も話の輪に加わり、和也から色んな話を聞くこととなった。それを円達は楽しんでいた。なお、和美が和也のことを記事にすることはなかった。なぜか、そんな気になれなかったのだ。こうして、和也とのひと時は彼女らの心の内にしまわれることとなる。

後に自分達が大きな運命の渦に巻き込まれることを知らずに……



さて、時間は戻り――
放課後のこの時間、今日は和也から直接戦いの指導を受けることになったネギ達。もっとも、それを知った刹那に真名、楓と古菲に刀子とシャークティも参加してたりするが。なお、このか達図書館探検部の面々と美空、ココネは見学で来ていたりする。

「さてと……余計な面々もいるようだが、今回は歩法を教える」

「歩法……ですか?」

余計な一言を交えつつ和也はそんなことを言うのだが、それに首をかしげるのは刹那。というのも和也のことだからなにか特別なことをすると思ったのだ。それは他の面々も同じ様子である。ただし、ネギ、アスナ、アーニャは歩法の意味がわからないという理由だったりするが。

「あのな……お前らは魔法とか気とかに頼ってるからわからんかもしれんけど、達人クラスになれば歩法も本気で馬鹿に出来ないんだぞ。ま、実際にやってみた方がいいか……刹那、これから俺が近付くから遠慮なく打ち込んでこい」

「え? あ、はい!」

刹那はいきなり言われてきょとんとするものの、慌てて返事をしてから持っていた刀を鞘から抜いて構える。それを確認した和也は一旦離れてから刹那へと向かって歩き出した。速くも無く遅くも無い普通の歩きで。それに戸惑ったのは刹那だ。歩法というから特別な移動法を見せると思ったのだが、これでは拍子抜けすぎる。 やがて、和也が間合いに入ったため刹那は刀を打ち込もうとして――

「え?」

固まる。触れそうなくらいに間近にある和也の顔を見て。何が起きたのか、刹那にはまったくもってわからなかった。

「え? あ……きゃあ!?」

だが、和也の顔が間近にあるという事実を理解していく内に顔が赤くなり、ついには可愛らしい悲鳴を上げながら後ろに倒れてしまう。
それを見ていたネギとアスナ、アーニャや図書館探検部と美空にココネは感心していたが、一方で真名と楓、古菲に刀子、シャークティは驚きを隠せずにいた。なぜなら和也が刹那の間合いに入り、触れそうなくらいに顔を近付けた間が見えなかったのだ。真名は魔眼のおかげで動きはかろうじて見えたが、それでも同じことをされて反応出来るかといえば、答えはNOであろう。というのも――

「今のは……縮地でござるか?」

「いえ……気をまったく使ってないから……違うと思うけど……」

楓の疑問を否定するかのように刀子が漏らすが、それでも戸惑いの色が強い。なぜなら、和也は今のを魔法も気も使わずに実行したからだ。

「当然だ。最速の一歩で間合いに入る歩法なんだが、これは単純な足運びによるもんでね。だから、魔法や気は一切使ってない」

と、和也はなんでもないように言うのだが、聞いていた刀子達は驚きを隠せなかった。今のは気か魔法を用いなければ出来ないという、半ば常識的なものが彼女達に染み付いているのがあるためなんだが。なお、ネギ、アスナ、アーニャはといえば感心しているように見えるが、実はこれといって理解出来てない状態だったりする。

「こいつはどっちかというと相手のタイミングを狂わせるものだ。覚えておいて損は無いだろ」

「あ、申し訳……ありません……」

刹那を助け起こしつつ、そんなこと言う和也。刹那は赤くなってたりするが。なお、それを刀子やシャークティ、真名は羨ましそうに見ていたりする。このかと美空も同じようなもので、ハルナは視線がなぜか鋭い。

「気にすんな。ま、それはそれとして、気や魔法使わなきゃ魔物なんかと戦えないってわけじゃない。 それなりに準備や装備が必要になるが、倒そうと思えば倒すことは出来る。まぁ、流石に無茶すぎるからやれとは言わんけどな。だが、こういう小手先の技も結構役に立つから、覚えておいて損は無いぞ」

「はい、わかりました!」

「お前らは基礎を覚えてからだ」

和也の言葉に元気良く返事をするネギ。和也はそれにツッコミを入れてりするが。

「ところで……和也さんはこれをどこで覚えたんですか?」

「ああ、昔ある侍とやりあってな。侍が使ってたのを見て覚えた」

刀子の疑問にあっさりと答えるが、聞いた方は驚いていたりする。なにしろ、教えてもらったわけではなく見て覚えたというのだから。和也が持つスキルゆえに可能にしてるとはいえ、普通はそうはいかないのだから当然といえば当然である。

「侍ですか……どんな方なのですか?」

「ん? 佐々木小次郎だけど?」

気になった刹那の問いに和也はまたもあっさりと答えるのだが……ネギ、アーニャ、古菲、シャークティ、ココネ以外のみんなが固まる。ネギ達はそういった方面の知識が無い為、わからないといった顔をしてるが、知ってる者達はそれはものの見事に固まっている。
佐々木小次郎と言えば、かの巌流島の戦いが有名な剣士……ではあるが、近年その存在が架空のものではないかと言われている。もっとも、和也のことを考えるとその当人と本気で戦っていそうだったりするが……

「あの……それって……」

「侍の名前がそうなんだからしょうがないだろうが。ちなみに燕返しも使ってきたぞ。完全同時の三撃を繰り出すってものでな。いやぁ〜、あれは楽しめた。バトルジャンキーじゃないしそういうのは本気で嫌いだが、ああまで楽しめる戦いはそうはないな」

夕映が何かを言おうとするが、それを無視して和也は懐かしむかのように話していた。ちなみに和也、何気に異世界に行って聖杯戦争に参加してたりもする。結果の方は……まぁ、大団円と言った所……とだけ言っておこう。神父と蟲じいさんなどは哀れ……といった所だが。

「とりあえず、やり方は教えてやるけど最初はゆっくりとやれよ。慣れないとこけたりするからな。 後、ネギ達はいつもどおりの基礎をやっておくこと。そんじゃ、始めろ」

「はい!」

和也の言葉にネギが返事をし、指導が始まる。この時、ネギ達は確かな充実感を感じていた。
そんな時間もすぐに終わってしまう。アスナとアーニャは未だ学生だし、ネギは先生をしている。そのため疲れを残すわけにはいかず、戦闘指導は1〜2時間程度で終わってしまう。春休みになればもう少し長く出来るのだが、出来ないものを今ねだってもしょうがない。それにネギ達にはまだやることがある。

「このようにデバイスの使用の際にはマルチタスクという技術が必要になるわ。特にネギ君とアーニャちゃんみたいな魔法使いにはね」

「あの、それってどういうことなんですか?」

デバイスの使用に関することを教えているフリム。なのは達時空管理局は仕事の都合上、早々この世界に来ることは出来ない。そのため、デバイスの知識を持つフリムが座学で教えているのだが、いまいち理解し切れてないアスナが手を上げて聞いてくる。

「そうねぇ……アスナちゃんは左手で本を読みながら、右手でゲームすることって出来る? それも同時に」

「えっと……たぶん無理……」

フリムの問いにアスナは少し考えて答えを出した。まぁ、普通は無理だろう。人というのは基本的にどちらか一方にしか意識を向けられない。故に本を読みながらゲームを同時にするというのはまず無理なのである。

「ちょっと意味合いは違うけど、マルチタスクはこの2つを同時に行う為の思考による技術なの。まぁ、なのはちゃん達くらいになると2つどころか複数の思考を同時に行えるけどね」

苦笑交じりにフリムがそんなことを言うのだが、ネギ達としては感心した様子であった。ある程度理解している身としては、それが出来るなのは達をある意味尊敬もしていたのだ。

「で、なんでこの技術が必要かというと、デバイスを使える人全員ってわけじゃないけど、基本的に空を飛びながら魔法を使うのよ。でも、空を飛ぶ魔法の制御と攻撃魔法の制御はまったくの別物でしょ?だから、別々の制御が出来るマルチタスクが必要になるってわけ。今からやり方を教えるから、1週間までに2つの並列思考を行えるようになってね? でないと、これからがキツくなるわよ」

「はい!」 「わかったわ」 「うう、自信ないなぁ……」

フリムの話にネギとアーニャは返事をするものの、アスナとしては少々つらい話であった。アスナの場合勉強はあまりにも得意ではない為、覚えるのが大変そうだと考えていたからである。一方のネギ達は魔法使いにも似たもの……といっても、技術的にはマルチタスクの方が上だが……があるため、なんとか覚えることが出来そうだと思っていた。
こうして始まるネギ達のデバイス操作の訓練。なお、3日目には3人とも2つの並列思考がなんとか出来るようになる。アスナの場合、感覚的なものだったので比較的覚えやすかったというのもあるが。なおこの間、このか達の魔法の授業はネカネやココネらによって行われていたりする。
で、デバイスの使い方を学び終わったら1日が終わる……というわけではなかったりする。

「とまぁ、そういう失敗をやらかしたりしたわけだ」

「ふむ、和也ほどの者がそういう失敗をやらかすとはね」

管理人室にお馴染みのメンバーとなりつつ者達が集まり、和也の話を聞いていた。話しているのはデビルウォーカーとしての仕事での出来事や失敗談である。で、それに感心を示してるのが真名や楓、刀子とシャークティである。というのも、和也の話は参考になるものも多いためだ。そんな話の中で出た失敗談に真名はそれが意外という顔をしていたのだが――

「まぁ、昔は一般人として生活してたからな。一般人がいきなりんなことしようとすれば無理も出てくるし、失敗だってするさ」

当然だと言う顔で語る和也だが、気になる一言があった。昔は一般人だった……和也はハーフデビルのはずなのになぜ? 疑問には感じるのだが、この時は誰も聞けずにいた。ネカネの場合、なのはが和也自身がいずれ話すということを聞いていたので、今聞くようなことをしなかったのだが。

「にしても……その人達はあまりにも卑怯すぎますです」

「うん……そうだね……」

 と、夕映が和也の話に出てきた者達のことを酷評し、のどかも同意するかのようにうなずくのだが――

「そいつらにしてみれば、それで飯食ってるようなもんだからな。卑怯だろうがなんだろうが、仕事は仕事。こなさなきゃならない。それに言うだろ? 死人に口無し、勝てば官軍負ければ賊軍って? 過程はどうであれ勝てば良しっていう世界なんだよ」

なんてことを平気でのたまう和也だが刀子とシャークティ、真名と楓は納得といった顔をする。なまじ裏の世界を知る者にとっては、和也の話は納得出来るものなのだ。逆に裏の世界をあまり知らない者達にとってはいい感じがしない話であるのだが――

「ま、魔法に限らず裏の世界ってのはこういうのがごろごろしてるからな。だからそういうのに出くわした場合、どう対処するか見極めるようにしていかなきゃならんわけだ」

話し終えてから、コップに満たされたワインを飲む和也。一応学生寮の中なのだが、このことを注意する者はこの中にはいなかった。それはそれとして和也がなんでこんなことを聞かせるかといえば、ネギの教育の一環である。
ネカネに聞いたのだが、ネギに両親はおらず知り合いのおじいさんやネカネらによって育てられてきたという。この時ネギの母親に関して疑問に思う所があったのだが、それはいずれ考えるとして……和也にしてみるとネギは情操的な面があまりにも未熟なような気がした。
むろん、10歳という年齢を考えれば当然なのだが……ネギの場合、あまりにも極端な感じがしてならないのだ。両親がいないというのもあるのかもしれないが、父親の存在というのが一番の原因だろう。ネギの父であるナギ・スプリングフィールドはいわゆる英雄だった。それにあの村で起きたことをネギは見ている。それらが重なり合った結果、今のネギの状態なってしまった。他にもあるかもしれないが、可能性としてはこれが一番強いだろう。
故に和也はこの面をどうにかすべくこんなことを話し聞かせているのだ。それに知識を持っておけば、必ずしもというわけではないが役に立つ。

「ま、そういうのが出たなら、こっちはこっちで相手をしてやりゃいい。それが卑怯だろうがなんだろうが、な」

その和也の言葉にネギは難しい顔付きとなっていた。それは自分には受け入れられないようなものだからだ。でも、今までのことを思い返してみれば、わからなくもないのだが……どうすればいいか、悩まずにはいられなかった。



そんなこんなでこのような日々を繰り返し、ようやく春休み初日を迎えたこの日。それはネギ達の鍛錬中にやってきた。ココネよりも小さい背格好。だがこちらは色白であり、髪の方も白のショートヘアにしている。瞳の色も白く、長袖のシャツに膝が隠れる丈のスカートも白いし、フード付きのローブも白い。顔付きは可愛らしく整ったものだが、今は無表情であった。まぁ、ぶっちゃけてしまうと某零号機のパイロットに似てなくもなかったりするのだが……
そんな白一色の少女を見るやいなや、和也は珍しく難しい顔をしていた。

「お久しぶり……あなたがここにいるとは思わなかったけど……気配を感じたから来た」

「俺としてはこういう形で会いたくは無いんだがな。マジで……」

 なんてやりとりをする少女と和也。ネギ達は気になる様子で見ていたが……

「あの……この子は?」

「アリア……と、俺達は呼んでるがね。死神だよ」

「へぇ……て、死神ぃ!?」

刀子の問い掛けに和也はため息混じりに答え、それを聞いたアーニャは素っ頓狂な声を出してしまう。 まぁ、死神と聞いて驚いたのだが……ネギ達の方も驚き半分、疑い半分といった感じでレイアを見ている。 白一色という以外は普通の少女にしか見えないからなんだが。

「漫画やゲームとかで勘違いしてる奴も多いが、死神は死後の采配を司るれっきとした神様だからな。あんま失礼なことすんなよ。あと、死神ってのは基本的に姿形なんてものは関係ない。アリアのその姿だって、楽だからって理由でしてるに過ぎないしな」

なぜか額に指を当てつつ話す和也。今も難しい表情をしている。それを聞いていたネギ達は驚きというよりも戸惑いといった様子になっていた。まぁ、神様がこうして訪ねてきたことに対するものなのだが――

「あの……その死神がどうしてここへ?」

「俺としては聞きたくないんだが……仕事の依頼か?」

「うん……マンイーター狩りを手伝って欲しい。ここへ来たのは上からの指示だが、あなたがいるとは思わなかった。でも、いるのなら手伝ってもらえると助かる」

「断っていいか……マジで……」

シャークティの戸惑いの声に答えるかのようにアリアは淡々と答えるのだが、和也はといえば本気で嫌そうな顔をしていた。彼にしてみれば珍しいのだが、ネギ達には疑問の方が強かった。

「あの、マンイーターとは?」

「ああ……ソウルイーターっていうゴーストがいるんだがな……そいつは低級の浮遊霊やら悪霊やらを喰い散らかす奴でね。死神の仕事の1つとして、このソウルイーターを狩らなきゃならない。つ〜のも、こいつがマンイーターに成長すると厄介度がとてつもなく上がるからなんだわ」

刹那の疑問に和也は難しそうな顔を変えずに答える。それを見ていたネギ達は和也がどうしてそんな顔をするのか首をかしげていたのだが――

「マンイーターになると人を喰らう」

「え!?」

「正確には人の魂をだ。しかも、生きたままでな。それに喰うごとに強くなるから早めに狩らなきゃとんでもなくなるんだよ」

アリアの言葉にアスナが驚きの声を上げる。ネギ達も同じような心境を表情に出していた。つまりは人を襲うということなのだ。どうにかしなければならないのに、和也の表情は未だに難しそうな顔をしている。

「大変じゃないですか! 早くなんとかしないとダメですよ!?」

「そうなんだがなぁ……ただ狩るだけなら問題は無いんだが……すっごくめんどくさいんだよ。マンイーターを狩るのって」

慌てるネギとは対照的に今度は嫌そうな顔をする和也。彼自身、ほっておくつもりなどないのだが……問題はやり方であった。というのも――

「めんどくさいとはどういうことでござるか? なんなら手伝うでござるが?」

「ん〜……マンイーターは魂そのものを消滅させる力か魔法、またはそれが可能な武器でないとダメージを負わせることが出来ないんだわ。お前ら、それが出来るか?」

気になった楓がそういうが、返ってきた和也の言葉に一同が難しい顔をすることになった。この場にいる誰もがそんなこと出来ないからである。

「後、マンイーターに対しては防御は本気で意味が無い。なにしろ、マンイーターに触れられただけで魂を喰われるからな。例え、気や魔法で障壁を張っても素通りさせられる。俺やアリア、ミーナリアみたくそれなりに高位の悪魔か死神でもないと撫でられただけでお陀仏ってわけ」

という和也の話に一同は顔をこわばらせる。すなわち自分達ではどうにもならないということになる。 そのことに刹那と刀子、シャークティが悔しそうな顔をする。刹那と刀子は退魔を主とする神鳴流の剣士だし、シャークティはシスターだ。滅するべき魔、すなわちマンイーターというゴーストがいるのに自分達に対処出来ないという事実がそうさせていた。
なお、例外として和也と契約しているフリム、ジェスター、ネカネならマンイーターの魂喰いになんとか耐えることが出来る。ただし、耐えることが出来るというだけであって、戦いに参加出来るかは別問題となるが……

「そういう奴だからな。一般人とか関係の無い奴が来ないようにしなきゃならないんだが……マンイーターってのはその場にある力場みたいなのをかき乱す性質があってさ。人払いの結界を張ってもすぐに壊されるんだわ。だから、そういうのにすっごく気を使わなきゃならんし……低級の浮遊霊やら悪霊やらを大量に操ることも出来るからな。そっちの相手もしなきゃならんから……すっげぇ、めんどくさいんだよ」

ため息混じりに語る和也だが、聞いているネギ達は困惑顔であった。聞く限りだが確かに非常に相手にしづらい……というか、自分達では対処出来そうに無い。それが理解出来ている者達はどうすべきかを悩むが、そうでない者もいる。ネギである。彼は悔しがっていた。このままでは犠牲者が出る。自分の村と同じように。彼にとってそれは許容出来ないものであった。だから、どうにかしようと思考をめぐらせる。
それに和也は感付いていた。故にどうするかを考える。たぶん、断ったとしてネギはどうにかして来ようとする可能性がある。むろん、ちゃんと説得するか極端だが気絶させるかして来ないようにすることも出来る。ただ、その場合ネギは反発しそうな気がする。
和也にはなんとなくだが、そんな気がしてならないのだ。そうなると後々厄介ごとが増えることもありえる。ただ、参加させることは可能だった。身を守るという点だけなら、ネギはもう1つの例外を持っているためである。

「今回の仕事は相手が相手だからな。俺とミーナリア、アリアだけでするが……ネギ、お前さんはこっちの言うことをちゃんと聞くなら参加してもいいぞ」
「え?」

和也の言葉にネギは顔を輝かせる。逆に驚いているのはアスナ達だった。というのも――

「ちょっと待ってよ!? そいつって危険なんでしょ? なんでそんな所にネギを連れていくのよ!?」

「訳は色々とあるが……そいつは後で話す。まぁ、危険なのは確かだが……別に根拠なしで言ってるわけじゃない。つ〜のも――」
〈私だな?〉

 怒り出すアスナに和也は頭を掻きつつ答え、ベオウルフが声を出した。その一言にうなずく和也。

「どういうことですか?」

「力はより強い力に敗れる。ベオウルフの魂はそこらのマンイーターの力を上回っているからな。よっぽどのことが無い限り、ベオウルフの魂を傷付けるなんて出来ない。そのベオウルフが障壁となってネギを守ることが出来るってわけだ。それにネギには少し経験を積ませないとならんし。だが、何度も言うようだがちゃんと言うことは聞けよ? いくらベオウルフがいるっていっても、危険がなくなったわけじゃないんだからな」
「はい!」

 シャークティの疑問に答えつつ問い掛ける和也に、ネギは元気良く返事をするのだが……

「なんでネギは良くて私達はダメなのよ? 危険なのは変わりないんでしょ?」

アスナは納得出来ておらず、再度問い詰める。アーニャも同じようで睨んでいた。ネギは喜んでいて、それには気付いてないが。

「さっきも言ったが、ベオウルフのいないお前達じゃ撫でられただけで終わりだからな。今のお前達じゃそういうのを相手させるわけにはいかないの。それにネギにはいい経験になる。良くも悪くもな」

呟くように答える和也だが、その意味をアスナやアーニャも含め誰も理解出来ず、訝しげな顔をするだけだったが。

「ま、最悪のケースにならないようにはするが……」

そんなことをばやきつつ、和也はこれからのことを考え始めるのであった。



さて、その頃和美は学園内を歩いていた。取材……も兼ねて和也の元へ訪ねようとしているのだが。

「今日は和也さんいるかな?」

と、和也が行きつけの喫茶店へと向かう。女子寮の管理人室にいるのは知っているので、本来ならそこに行けばいいのだが……なぜか、それが出来ない。管理人であるネカネに見られると、どうにも恥ずかしくて……自分らしくないなぁと苦笑する和美。
そんな時であった。道を歩く和也の姿を見かけたのは。声を掛けようとしたのだが、見知らぬ2人(ミーナリアとフリムのことである)と一緒に歩いていることに気付き、思わず隠れてしまう。どうやら、ただの知り合いではないようだが……と、見ていた和美は思うのだが――

「――学園の外れの丘で――」

そんなことが聞こえてくる。詳しくは周りの雑踏に紛れてしまい、聞き取ることは出来なかったが。

(学園の外れの丘? そこで何かやるのかな? もしかして、デート……には見えないよね、あれじゃ)

そんな邪推はすぐに消えた。和也の表情はいつもの無表情ではなく、どこか真剣なものだった。といっても、わずかの変化で普通はわかりそうもない。でも、和美にはなぜかそう見えた。なので、デートという考えはすぐに否定した。別な理由が混じっていたのは本人気付いていないが。

(そういや、和也さんはなんでも屋……確か、デビルウォーカーだっけ? をやってるって言ってたし……)

ふと、そんなことを思い出す。では、お仕事なのかな……と、そこまで考えた時に興味を刺激された。 和也の仕事……となると普段とは違う彼を見れるかもしれない。

(どんなことをするか興味があるし、もしかしたら記事になるかもしれないしね。行ってみるか!)

と、ガッツポーズをとりつつ、そんな決意を固めていた。そこに待っているものが危険だけでは済まされないものだとは知らずに。で、そんな和美を見ていた者達がいたりする。

「どう思う?」
「なにか、気付いたみたいだよね〜」
「行ってみる?」
「うん、行こうよ! 和也さんが何かするのかもしれないしね」
(和也さんと一緒に歩いている人達、誰なんだろ? 綺麗だな……)
「あらあら」

チアリーダー組の会話にこちらもガッツポーズの裕奈。和也達の会話は聞こえなかったが、和美の様子を見ると何かに気付いたことがわかる。気になる。なので、何をしようとしているのかを聞こうと考えていた。
なお、一緒にいたアキラは和也と一緒に歩いていたミーナリアとフリムのことが気になり、千鶴にいたっては4人を止める気はないようである。この後、彼女らは和美を捕まえて問い詰め、同行することになる。 彼女らが運命に巻き込まれる時は、すぐそこまで迫っていた。



しばらくした後、和也達は学園長室でマンイーターのことを話していた。話を聞く学園長の表情はどこか微妙であったが。まぁ、今初めてマンイーターというのを知ったのだが、学園長としては半信半疑といった感じだからである。

「てなわけでな、その場所に人を近付けないようにして欲しいんだが」

「ふむ、それはいいのだがな……他の先生方や生徒達がどう思うか……」

「なにか問題でもあるの?」

和也の言葉に渋い顔をする学園長。気になったミーナリアが問い掛けるが……

「実はの。和也の評判が他の先生方や生徒達に悪いんじゃよ。基本的にサボってるし……性格も問題があると思われておるしな……」

「あ〜……なんかわかるかも……」

学園長の話にフリムも苦笑するしかなかった。夜の見回りの時間、和也は基本的に女子寮の管理人室にいる。サボってるように思われるが、和也の感覚は能力を併用することで担当場所を感知することが出来るのだ。その証明として、3話にて真名達のピンチに気付いたのも管理人室である。ただし場所的に感知がしにくい場所であったり、即座に駆けつけれない場所の場合は普通に見回りをするが。
それはそれとして、そのことを知らない魔法先生や生徒達にとっては和也がサボっているとしか見えない。そんなわけで管理人室にいることが多いのと噂や評判のせいで、魔法先生や生徒達からの評価はかなり低かったのだ。

「だけどな……下手に本当のことを話して、興味本位で来られると厄介なんだがな。相手が相手だし」

「ふむ……マンイーターというゴーストはワシも初めて知ったしの……わかった。シフト変更ということで配置換えをしておく。今日は高畑君が急な仕事でおらんでの。ちょうどいいといえば、ちょうど良いのだが……」

「その辺は任せるよ。俺が言っても問題になりそうだしな」

「やれやれ、真面目に仕事をする気はないのかの?」

「あいにくだが、世間体を気にするつもりはないんでね」

そんなやりとりをした後、和也はミーナリア達と共に学園長室を去ろうとして――

「そういえば、ネギ君を鍛えているそうじゃな。どうかね、ネギ君は?」

「あいつは10歳のガキだ。それを忘れるな」

 学園長にそう言い返し、ドアを閉める和也だが――

「どういうことじゃ?」

何を当然なことをと学園長は首をかしげる。この時はまだ、和也の言葉の意味を理解出来てはいなかった。



和也達がマンイーター退治をすることになり、その場所へ人が来ないように配置換えが行われ、そのことが各魔法先生や生徒達に知らされたのだが――

「デビルウォーカー……ちょうどいいですわ。その本性を暴いてやります!」

なんてことを言ってるのは高音・D・グッドマン。なお、今彼女がいるのは自室だったりする。さて、なんでこんなことを言ってるのかといえば、和也の噂や評判、仕事態度から悪と決め付けており、悪事を働く為に麻帆良に来たと疑っていた。で、今回のシフト換えで高音の担当場所は和也の隣になり、絶好のチャンスとばかりに和也の本性を暴こうと考えていたのである。

「お姉様……」

そんな高音を心配そうに見守るのは佐倉愛衣。高音のパートナーである。彼女達もまた、運命に巻き込まれようとしていた。



夜。管理人室ではどこか重苦しい雰囲気があった。その発生源はアスナとアーニャ、のどかに夕映であった。ネギが戦いに赴く。心配なのもそうなのだが……アスナとアーニャとしては自分が置いていかれた。そんな感じがしてならない。ハルナやこのか、古菲や楓もそんな彼女らを心配そうに見ている。

「あ〜、そんなに心配なら付いていけば――」
「ダメよ。今度ばかりは相手が悪すぎる。いくら和也でも面倒見切れないわよ」

自分としても気になるハルナがそれを言い出そうとして、ジェスターが待ったをかけた。なぜこの場にジェスターがいるかといえば、アスナ達の監視のためである。和也は彼女らが興味本位やネギのために来てしまうのを半ば予想していた。それを防ぐためにジェスターを呼び、彼女達が来ないように見晴らせているのである。

「アスナちゃんにアーニャちゃんも耐えるってのを覚えた方がいいわ。ネギ君が心配なのはわかるけど、今回はあなた達が行ったら足手まといじゃ済まなくなるかもしれないのよ?」

真剣な眼差しを向けながら、ジェスターはそんなことを言い出す。その言葉にアスナ達は納得出来ないという顔をする。なんでそうなるのか? それじゃあ、なんでネギを連れていったのか。わからないというよりも納得出来ない思いが、彼女達に反感をつのらせていた。

「限度というものは何にだってある。和也だってそうよ。確かに和也は強いわ。でも、強いからといっていつどんな時でも戦えるわけじゃない。和也にも無理なことはあるし、マンイーターはあなた達を守りながら戦える相手じゃないの。それをわかってちょうだい」

「じゃあ……なんで、ネギを連れて行ったのよ?」

ジェスターの言葉に反感するかのようにアスナが睨み付けるように問いかける。悔しかった。ネギと一緒に戦うために鍛えているのに、それが無駄だといわれたような気がして――

「ネギにはベオウルフがいるから、マンイーターの攻撃に耐えられるのはわかったわ。でも、それなら私達にも同じことが出来きる――」

「和也は完全に悪役に徹する気なのよ。今回のことは……もしかしたら、ネギ君にとってもツライことになるかもしれないから……」

悔しそうに話すアスナをさえぎるようにジェスターは先程とは打って変わるように落ち込んだ様子で答える。

「どういう……ことなの?」

「もしかしたら、起きて欲しくないことが起きるかもしれない。でも、それがわかっていながら和也はネギ君を連れていったの。このまま戦い続けるつもりなら、必要なことだから……でも、それはあなた達にとってもあって欲しくはないこと……だから……あなた達は和也を嫌いになっちゃうかもしれないわね」

自嘲気味な笑みを浮かべながら、ジェスターはハルナの問いに答える。それを聞いたアスナ達は何も言えなくなり、ただジェスターを見つめていた。アスナ達はわからなかった……その言葉の意味を。彼女達は知らないのだ。戦いとはどういうものなのかを。戦いとは彼女達が思うほど単純ではないのだから。

「和也さん……ネギ……大丈夫だよね……」

台所にいたネカネがふとそんなことをつぶやく。不安になった。それになぜか嫌な予感が強くなっていく。無事でいて欲しい。ただ、それだけをネカネは強く願っていた。



夜も更けた時間。その丘にその者達はいた。血のように紅いコートを纏い、背中に抜き身の大剣を背負う青年、和也。いつも持つ身の丈よりも長い杖は持たず、バリアジャケット姿のネギ。いつもの女性もののスーツを身に纏うミーナリア。つなぎ姿のフリム。そして、その身も身に纏う物も白一色の少女アリア。
そんな彼らだがネギはどことなく怯えた様子を見せている。感じているのだ。この丘に漂う、どこか相容れない雰囲気に。

「なにこれ……これって……」

〈マンイーターが近くいる証拠だな。奴はその場の力場を乱す性質あるのは聞いておろう? それと共に奴はその場を汚染する。汚染された場はマンイーターの霊場となり、霊場にいる霊はどんなものであろうとマンイーターの眷族となるのだ。お前が感じているのはこの場が汚染されているものだろう。気をしっかりと持て。心が折れれば、いかに我がいたとしても魂を喰われるぞ〉

「う、うん!」

ベオウルフの言葉に怯えていたネギの表情が引き締まる。だが、それは表情のみ。内心はまだ怯えがある。図書館島の地下で経験した戦いとはまったく別のもの。でも、ここには守るべきものがある。その思いにネギは自分を奮い立たせるが――

「肩の力を抜いておけ。下手に意気込んで突っ込んでも、無駄になったら意味がないだろうが」
「え?」

不意に肩に手を置く和也の言葉に、ネギは思わず顔を向ける。そこにいたのはいつもと変わらぬ様子の和也だった。

「始まる前からそんなんじゃ疲れるだけだっての。それにお前は戦いでの気配りが出来ないんだからな」

落ち着いた……というよりは、のん気な様子で和也は言うのだが、ネギはその言葉の意味を理解出来てはいなかった。そのため、首を傾げるが――

〈今のお前は周りが見えておらぬということだ。いくら意気込んでも周りが見えてなければ意味は無い。ただ闇雲に突っ込むのは野生の猪よりも性質が悪い。今のお前は動かず、待ち構えろ。下手に動き回るのは自分の首を絞めるだけだ〉

ベオウルフが和也の言葉の意味を教えるのだが、ネギはといえば理解出来てないようでやはり首をかしげるだけだった。それに納得が出来ない。待ち構えろということに。なぜ? ここで戦わないと大変なことになるかもしれないのに……
理解出来ず、故に反発を覚えるネギ。彼は知らない。戦うというものがどういうことなのか。戦いは勝てば良しというものではないことに。それを教えるために和也はあることを承知でこの場へと連れてきた。それがトラウマを作ることになろうとしても……

「ま、意気込みはいいとして……約束は守れよ? ミーナリアとフリムはネギのフォロー。アリア、サボるなよ?」

「わかってる」

和也の言葉にミーナリアとフリムはうなずき、アリアも静かに返事をする。そんなアリアを見て、和也はやれやれといった様子でため息を吐いたが……その直後、真剣な顔付きで空へと顔を向ける。

「さてと、来たか……」

その言葉にネギも同じように顔を向け……その光景に息を飲んだ。それはあまりにも異様な光景だった。白くもやがかかったようなものがいくつも……無数に、広範囲に渡って広がっていた。そのもやの1つ1つに顔があり、そのどれもが無念の表情を浮かべ、怨念が込められた声を発していた。その光景にネギは改めて怯えた。自分が対峙しようとしていたものに対して。その一方で和也の表情は訝しげなものに変わっていた。

「本命がいない? おい、アリア。どういうことだ?」

「わからない……でも、何かを企んでるのかもしれない。知恵を持ったマンイーターがいるのも事実」

「くっそう……やっぱ、受けるんじゃなかった。ていうか、ネギ連れてきたの失敗したかも」

アリアの返事に和也は思わず顔を片手で覆いながら呻いていた。冗談交じりに聞こえたかもしれないが、実際は本音であったりもする。マンイーターの厄介さは人の魂を喰らう、その場の力場を乱す、多くの霊を従える、だけではない。幾人もの人の魂を喰らい、力を増したマンイーターは自己が確立していく。それは同時に知恵と理性を身に付け、狡猾に魂を喰らうようになるのだ。
今回のマンイーターがその類だった場合、今回ネギを連れてきたのは失敗だったと和也は遅すぎる後悔をする。喰らった魂の数や質にもよるが、知恵と理性を身に付けたマンイーターは本当に厄介なのだ。なにしろ、搦め手を使ってくる。事前にわかっていれば対処のために準備をするが、今回はそれを一切していない。何しろ、アリアが何も言ってこないのだ。
アリアは必要だとわかれば必ず行動する。この手の情報もわかっていれば伝えるはずなのだ。が、今回ばかりはアリアも詳しい情報はわかっていない。なぜか? 実は麻帆良に張られている結界が原因だった。麻帆良に張られた結界は悪意ある侵入者の対策だけでなく、魔法の秘匿のために認識をある程度誤認させたりなど、いくつかの効果が合わさったものである。今回、その結界がマンイーターを隠す結果となってしまったのだ。マンイーターもそれをわかってなのかはわからないが……
ともかく、そのことでそこにいるという以外の詳しい情報を取得出来ないまま、アリアはマンイーター対峙を請け負う結果となったのだ。むろん、時間を掛ければそれなりにわかるのだろうが、マンイーターは時間が経てば厄介さが増すのを恐れたからでもある。
なお、マンイーターの侵入になぜ結界が反応しなかったかといえば、学園の結界はあくまでも生物、もしくは魔法などによって召喚されたものが対象となっている。力を持ってるとはいえ、基本的にゴーストであるマンイーターは対象外なのだ。今まで力ある悪霊などが現れなかったのも一因でもあるが。
それはそれとして遅すぎる後悔をする和也だが、すぐさま気持ちを切り替えケルベロスとフェンリルを持つ。失敗したらしたで、そのつど対処していけばいい。というのは今までの経験からによるものだが。そんな和也はケルベロスとフェンリルのグリップを2丁銃エイミー&エネミーUのグリップと組み合わせ、それを両手に構える。エイミー&エネミーUの銃身とケルベロスとフェンリルの刀身が平行になっている状態で。

「ミーナリアはネギの援護を。だが、遠慮するな。今回ばかりは何が起きてもおかしくない。アリアは俺と前に出てくれ。ネギ、お前はばあさんとそこでゴーストどもの相手をしてろ!」
「は〜い」 「わかった」

構えつつ指示を飛ばす和也。ミーナリアとアリアが返事をしながら、その姿を変えた。ミーナリアは悪魔の姿へと。アリアは――

「あわわわわ!?」

ミーナリアとアリアの姿にネギが慌て出す。ミーナリアもそうだが、アリアも凄かった。幼女くらいの背がこのかと変わらぬくらいとなり、その身からローブと服が消えて代わりに骨のようなもので包んでいた。といっても、包んでいるのは腕と足のほんの一部であり、体の方はささやかな双丘の頂点と女として大事な所を隠すのみ。ほとんど裸といっていい、悪魔の姿のミーナリアとアリアの今の姿を初めて見たネギは恥ずかしさと驚きで慌てたのだ。
そんなのは無視して、和也と自分の身の丈よりも大きくシンプルなデザインの鎌を持つアリアがゴーストの群れへと突っ込む。目的は早急にマンイーターを見つけ出すこと。和也もまた感じていたのだ。嫌な予感を。が、それを考えるあまりもう1つの懸念を忘れてしまっていた。すなわち、乱入者が現れることに……



その頃、高音と愛衣は和也の担当地域へと向かっていた。和也がなにかを企むのなら、それを見逃さないために。

「でも、いいのですかお姉様? 私達の担当地域をほっておいて?」

「その点はぬかりありません。使い魔を要所要所に配置しておきました。何かあれば、すぐにわかります。今はあの男の真意を確かめるのが先です!」

心配そうな愛衣にガッツポーズ付きで答える高音。が、愛衣の不安は消えなかった。なぜか、怖い雰囲気を感じてしまうのだ。でも、それを言うべきか迷い……彼女らは運命の場へと足を踏み入れた。



一方で和美達も和也の担当地域へと向かっていた。

「本当にこっちで合ってるの?」

「どうだろ? なんかあるなぁ〜とは思うんだけどね」

円の疑問の声に和美は乾いた笑みを浮かべるしかなかった。というのも、和也がどこにいるかという詳しい位置を知らないのだ。わずかに聞き取れたのが麻帆良の外れにある丘ということだけ。詳しい位置はこれから探すしかない。なのだが、和美はよどみなく歩き進んでいく。まるで誘われるかのように……

「でも、大丈夫なのかしら……」

「どうしたの?」

千鶴の漏らした一言にアキラが声を掛ける。千鶴はといえば、どこか困ったような表情を浮かべながら空を見上げ――

「なにかね。良くないことが起きそうな気がするの。星の並びが良くないようにも見えるし……」 千鶴はそういうのだが、アキラはなんと言えばいいかわからない。確かに不安を感じなくもないが、そんなわけがないと言いたい気持ちである。でも、千鶴の表情を見ているとなぜかそれが言いはばかれる。そんなこんなで彼女達もまた運命の場へと足を踏み入れる。同時に千鶴の不安が的中する場へと――



「ちぃ! やけにゴーストの数が多くないか!」

「うん……明らかに異常……これだけの数を操れるのは上位クラスくらい。だけど、それなら事前にわからないはずがない。そんなのは凄く稀なのに」

「くっそぉ〜! 死神ども、手抜きしてんじゃねぇよ!」

ぼやきながらゴーストを撃ち抜き、時には切り裂く和也。アリアも今という状況にわずかに焦りの表情を浮かばせながら、鎌でゴーストを切り裂いていく。今の和也達が知ることはないが、事前に情報がないのは麻帆良の結界によってその存在がぼかされたのもあるが、もう1つにマンイーターという存在がごく限られた者達にしか知られていなかったというのもある。
というのも、相手が低級のマンイーターでも普通は敵わないのだ。それがかなりの力を持つ魔法使いであったとしても……普通のゴーストとは違いマンイーターは基本的に魂に直接ダメージを与える力でなければ、傷を負わせることも叶わない。魔法にそういった類のものがないわけではないが、使えるのは一握りといってもいい。というのも、その手の魔法は禁忌に近いからだ。故に敬遠される。
なので大抵は何も出来ずに襲われ、魂を喰われる。だが、マンイーターに魂を喰われた者は基本的に外傷はない。そのため、普通の者には原因がわからず……心臓発作的なものと思われ、襲われたと思われないのだ。こんな悪循環がマンイーターという存在を半ば隠す結果となってしまう。
麻帆良に現れたマンイーターは低級だったものの麻帆良に張られた結界のおかげでその存在を知られず、また麻帆良にもマンイーターのことを知る者がいなかった為、誰かに気取られることなく魂を喰い続けることが出来、力を増していったのである。
なお、和也は気付かなかったのかといえば、前にも言ったが力を増したマンイーターは狡猾になっていく。和也が来た頃はかなり力を増していた為、姿を隠していたのだ。和也という存在を感じ取った為に。だが、魂を喰らうという本能には勝てず動き出したため、死神達にその存在を悟られたのだが。

「で、どうするよ。 本命が見つからないとやばいぞ。 最悪、ここが囮で本命は別な所で食事してるかもしれないしな」

「でも、これをほっておくのは危険。これだけのゴーストともなれば、この地に影響が出かねない」

和也の懸念にアリアは静かに答えた。アリアはそう言うが、和也としてはほっておいても別段問題は無いような気がした。というのもこの麻帆良には刹那や刀子、シャークティのようなゴーストを滅することが出来る者がいる。マンイーターに対しては無力でも、時間は掛かるだろうが対処は可能なはずだ。ただ、後で文句を言われそうではあるが。 和也がそんなことを考えつつゴーストの相手をしてる中、ネギ達もゴーストの相手をしていたのだが。

「魔法の射手!光の42矢!!」

和也達とは離れた場所で魔法の矢を放つネギ。それは数匹のゴーストを弾けさせたが、何事も無かったかのようにゴーストは元の形を取り戻していく。

「き、効かない!?」
〈馬鹿者。ゴーストにただの魔法が効くものか。奴らは基本的に空気と変わらん。それ相応のやり方でなければならない。だが、今はそれを教える暇は無い。魔力を手足に込めよ。後は我が制御する〉

「う、うん!」

ゴーストに魔法が効かないことに戸惑うがベオウルフのアドバイスに正気に戻り、言われるままに手足に魔力を込めていく。と、手足に込めた魔力が変質していくのをネギは感じていた。軽く戸惑うがベオウルフの言っていたを思い出して構え直す。

〈よし! 魔力を込めたまま打て! だが、絶対に霧散させるな!〉
「うん! たぁ!!」

言われるままに古菲に教えられた型で拳を突き出すネギ。その拳がゴーストに当たると風船のように破裂し、今度は元に戻ることは無かった。

「やった!」
〈この程度で喜ぶな馬鹿者! 周りを見てみろ〉
「え?」

ゴーストを倒せたことで喜ぶネギだったが、ベオウルフに言われて辺りを見回す。

「もう、うっとしいわねぇ〜」

ネギの上、すなわち上空ではミーナリアが体に巻き付けている帯と同じ物を振り回し、まるでハエを払うかの感覚でゴーストを打ち砕いており、

「確かにね〜。これならもうちょっと持ってくればよかったわ」

そんなミーナリアに同意するかのようにフリムが腕を組みながらうなずく。その彼女の周りではどこか鳥の形に似た機械が3機飛び回り、ゴーストを打ち抜いていた。フリムは技術者であり、戦闘には不向きである。だが、戦えないわけではない。不向きといっても直接的には向いていないだけで、自分自身が持つ技術を戦闘に使うことは出来るのだ。今のようにして。

〈貴様の今したことは和也達には児戯にも等しい。それにこの技は本来私のサポート無しで行うことなのだ。この程度のことで喜ぶな。今は自分の身を守ることに集中しろ。貴様に出来ることなど、今はほとんど無い〉

「で、でも――」
〈和也を見ろ! あれが余裕があるように見えるか?)

ベオウルフの言葉にネギが反論しようとして、いきなり言われて思わず顔を向けてみる。そこにはいつになく厳しい顔付きをした和也がゴーストを屠っていた。

〈あやつにとって、この状況は芳しくはないようだ。下手な動きは和也の枷となるぞ〉
「だ、だけど――」

ベオウルフの言葉にネギは怒りを覚えていく。彼にしてみれば役立たずと言われたも当然なのだから、しょうがないのかもしれない。ただ、その怒りゆえか和也の状況を忘れてしまうが。ベオウルフはネギを怒らせるつもりなど無い。ちゃんと話して状況を理解させるつもりだった。
当初の目的では今のようにネギを怒らせて突っ込ませて失敗をさせる。そうすることで今の自分がどんなものなのかを思い知らせるものであった。だが、今の状況ではそれは自殺行為に等しいとベオウルフは考えた。なので言い聞かせようとするのだが――

〈良いか、下手に動かず周りを見ろ。この状況で下手に動くのは――〉
「もういい! それにこの状況をなんとかしないといけないんでしょ!」
〈待たぬか、馬鹿者!〉 「ちょ!? ネギ君待ちなさい!」

ベオウルフの言葉を聞かずに突っ込んでしまうネギ。フリムとベオウルフが止めようとするがそれを聞こうともしない。この状況でネギを1人にするのはまずいとフリムが追いかける。ネギが突っ込んでいったのは反発からだった。
ネギには自分が役立たずと言われたとしか思っていない。それにベオウルフから学んだ力なら自分でも何とか出来るとも考えてしまった。故に話を聞こうともしないし、それは間違いだとも気付かない。聞けば大事なことなのだと気付くのに。 この行動をネギは後に後悔することとなる。

「しょうがない! アリア、一気に終わらせるぞ!」 「うん」

和也の叫びにアリアがうなずく。和也の考えた方法はこうだ。まず、ゲヘナの力で周辺のゴーストを滅する。全てを倒すのは無理だが、数は大幅に減る。その間にマンイーターを見つけ出し、見つけ次第倒す。ネギに戦いとはどんなものなのかを教える為に請けた仕事だが、この状況ではそんなことも言ってられない。短期決戦で終わらせる。その決意と共にゲヘナを喚び出そうとして――

「苦戦してるようですわね、デビルウォーカーさん?」 「お、お姉さま……」

固まった。なぜか悠然と立つ高音とゴーストの大群に少し怯えながらもおずおずと声を掛ける愛衣の姿を見て。和也としては乱入者が現れることは予想していなかったわけではない。だが、今はタイミングがあまりにも悪すぎた。マンイーターがどこにいるかわからないのだ。このままでは餌食になるようなものである。

「ちぃ! こんな時に!」

 舌打ち混じりに和也は高音達の元へと急ぐ。この状況では彼女達は的でしかない。

「俺から離れるな。状況はかなりヤバイ!」
「ちょ!? 人が助けに来たというのになんですかその態度は!?」

やってきた和也の言葉に高音が怒り出す。彼女には邪魔だと聞こえたのだ。しかし、それは和也の表情を見ればそれは間違いだとわかる。だが、高音にしてみればたかだかゴーストが群れているだけ。数は多いが何とか出来なくはない。でも、和也の手に余るようなので手伝ってやろう。そんな考えだった為、怒り出したのだ。むろん、マンイーターのことなど知らない。だから、今がどんな状況なのもわかってはいない。

「詳しい話は後でする! 今はヤバイんだ! 俺から離れるな――」

叫ぶように言いながら、和也はゲヘナを喚ぼうとして……最悪のタイミングに直面する。



その頃、和美達は和也達がいる場所へと足を踏み入れ、その光景に呆然としていた。血のように紅いコートを纏い、銃とナイフが組み合わさった物を振り回す和也。コスプレにも見えなくない物を纏い、なにやら戦っているネギ。それに見知らぬ女性3人。内2人はほぼ全裸に近く、1人は空を飛んでいる。そして、この場に漂う無数のゴースト。

和美達にとっては完全に理解を超えたものであり、結果として訳のわからない光景として見ているしかなかった。わかるのはなにやら戦っているということだけ。なので、彼女らにはここが危険な場所だという認識は無く――

「なに、あれ……」
「さ、さぁ……」
「なんか凄そうだけどねぇ〜」

呆然としている円の疑問に美砂は首をかしげ、桜子はなにやら楽しそうに見ており、

「なんで、あの女性はあんな格好なの? もしかして、なんかの撮影? ていうか、空飛んでるよね、あれって?」
「どうして、ネギ君がいるんだろ? それにあれってなんだろ?」

なにやら混乱している裕奈の横で、アキラはそんな疑問を感じていたが……

「ダメ! みんな、ここから離れて!」

突然、そんなことを言い出したのは千鶴だった。

「どうしたの、そんなに慌てて? もしかして、怖くなった?」

「違うわ、ここにいたら良くないことが起きる。どうしてもそんな気がしてならないの。だから、ここから離れるべきだわ」

この様子を撮影していた和美が軽い感じで問い掛けるが、逆に千鶴は真剣な表情で答えていた。これは千鶴自身にしかわからないことなのだが、どうにも悪いことが起きそうな感じがしてならないのだ。しかし、和美達には戸惑いの種にしかならなかった。いきなりそう言われても信じられないし、今の状況を最後まで見ないのはもったいない気がするからだった。どうしようかと和美達がお互いの顔を見合わせていた時、千鶴の不安が的中することとなる。

「なんで、あいつらがあそこにいるんだよ!?」

その事実に和也は珍しく驚いていた。和也が高音達や和美達のことに気付かなかったのはゴーストの大群のせいで気配が紛れてしまった為。また、マンイーターを探すのに意識を集中していたのも重なった。上空にいたミーナリアも同じ理由で彼女達の存在に気付けなかった。 それはそれとして、なぜ和美達がここにいるのかという事実に和也は戸惑う。
が、それも一瞬だった。和也はすぐさま和美達へと右手の銃を向ける。なぜなら、彼女達の目の前に現れた一際大きいゴースト。これこそが和也達が探していたマンイーターだっだ。状況は最悪。ここからでは離れすぎているし、あの近くにいたはずのネギとフリムの姿も無い。このままでは和美達が餌食となる。声を掛ける暇は無いと本能的に察知する。故に銃口を向け、トリガーを引――

「何をなさるおつもりですか、あなたは!?」

それを高音が右手をつかんで阻んでしまう。彼女にしてみれば、和也の行為は危険なものにしか見えてない。確かにここに一般人がいることは驚きであり、ゴーストに襲われそうにはなっている。だが、それだけ。ゴーストならば、多少の怪我はするかもしれないがそれほど危険は無い。そう思った高音は和也を止めようとしたのだ。

「くっ!?」
高音のいきなりの行動に舌打ちしそうになりながらも和也は左の銃口を向け、弾丸を発射する。弾丸は真っ直ぐとマンイーターへ向かい――

「なにこれ?」

それを見た和美の感想はそんなものだった。飛び交うゴーストの中でも一際大きく、表情がが厭らしく歪んでいる。それがマンイーターというゴーストだとはわからない。でも、ヤバイと感じる。だから、離れようとして――

「あ――」

マンイーターの爪が和美の胸に触れた瞬間、喪失感が彼女を襲った。何かが消えていく感覚。それと同時に体の力が抜けていくような――

「あ、れ?」

意識がぼやけてくる。何かが……消えていく。そんな感覚に呑まれそうになる――

『ギャギャ!?』

その直前にマンイーターの爪が弾け飛んだ。すぐさま和美から弾かれるように離れていくマンイーター。

「な、に……こ、れ……」 「朝倉!?」 「和美ちゃん!?」

か細い声を漏らしながら何が起きたのかを確認しようとするが、今の和美にはそれを行うことは出来なかった。すでに体を動かすことも出来ないほど魂を喰われた彼女はそのまま崩れ落ちていくしかなかった。 その彼女に円も驚き、千鶴が助け起こすが……和美の表情はうつろで、すでに体に力が無いように見えた。

「ばあさん! ミーナリアは和美達の所へ行け! ネギ! 止まらないと殴るぞ!」
「え?」

和也の怒号にネギが立ち止まる。なぜ、怒られたのかわからなかった。でも、和也は確かに怒りの表情を……ネギにとって初めて見る表情をある所へと向けている。どうしてと思いながら、ネギはそこへと顔を向け……固まった。そこには自分が受け持つ生徒達がいた。なぜいるの? その事実に慌てそうになって、気付く。和美が千鶴に支えられていることに。その和美はネギには意識が無いように見えた。

〈マンイーターに喰われたか……戻るぞ!〉
「え?」

ネギはベオウルフの言葉の意味を理解出来なかった。でも、喰われたという言葉に……その事実に気付く。すなわち、和美はマンイーターによって――

「あ、ああぁ……」

その事実にネギは立ちすくむ。同時に気付く。和美達がいる場所は、自分がさっきまでいた所の近くだということに。

「ああ……ああ……わああぁぁぁぁぁぁ!!?」

そのことにネギは頭を抱えながら膝を付き、泣き叫んだ。ボクは……ボクはとんでもないことをしてしまった。ただ、そうとしか思えず……ネギは自分を責めた。

〈泣くな、大馬鹿者!! 落ち込むのは後だ! まだ、何も終わってはおらぬのだ! 立て、ネギ・スプリングフィールド!!〉

ベオウルフがそう怒鳴るが、今のネギにはその言葉は届いてはいない。ただ、自分のしたことに後悔し、泣くことしか……今のネギには出来なかった。

「ち、遅かったか!」

苦々しい表情を見せながらも和也はマンイーターに顔を向ける。終わってはいない。だから、今は考えるのをやめる。和美のことを。それは経験と……人で無くなっている証拠。人でなしと言われてもしょうがない。でも、終わってないのだ。マンイーターはまだいるのだから。
その一方で高音は呆然としていた。何が起きたのかわからなかった。だが、和美が崩れ落ちていくのと、和也の一言でその事実に思い当たる。先程、和也がした行為は危険だと思った。だから、止めた。でも、本当は危険でもそうしなければならない相手だった。なのに、自分は何をした?

「あ、あの……それはどういう――」
「悪いがそれは後にしてくれ。にしても、食事の邪魔されてトサカにきてるってか? けどなぁ……それは俺もなんだよ。知り合いの魂喰われて、はいそうですかって終わらせるほど大人しいもんじゃないんでね!」

高音の疑問の声を遮って、和也はゲヘナを右手に取る。が、その言葉は彼女の疑問の答えともなった。 その事実を認めたくは無かった高音にとって、打ちのめされるには十分な一言だった。自分のせいで犠牲者が……彼女とて、立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指す者。故にその事実は彼女にとって、致命的なものでしかなかった。
自分のしたことを思い知らされ崩れ落ちる高音を愛衣が慌てて支える。 もっとも、和也は高音を責めるつもりは無い。そういうものだと経験で知っているから……知っているからこそ、これ以上の犠牲が出ないように彼はゲヘナを投げ放つ。

「怒り狂え、ゲヘナ!!」

和也の叫びにマンイーターへと向かい飛んでいくゲヘナがその力を解放した。人とは相容れぬ何かを暴風の如く撒き散らし、ゴーストの大群をかき消していく。上位の力を持つマンイーターになんら影響はなかったが、自分が従えていたゴーストの大群を一瞬でほぼ全滅させられたことに憤怒の表情が一転して戸惑いのような表情を見せた。その間にゲヘナは和美達の前の地面に突き刺さり――

「混沌へ誘え、ゲヘナ!!」

和也の叫びに呼応するかのように相容れぬ空間を形成していく。マンイーターを逃さぬ為に。その間にフリムとミーナリアは和美達の元へとたどり着いていた。

「フリム、なんとかなりそうなの?」

「念のため秘薬は持ってきてるけど……どれだけ、喰われたかにもよるわ。ごめん、その子を診せてちょうだい」
「え、あ、はい」

いきなりやってきたフリムとミーナリアに戸惑いつつも千鶴は和美をフリムへと預けた。一部意味が理解できない所があったが、話を聞く限り和美を助けようとしているのだろうと思って預けたのである。 千鶴達が見守る中、フリムは和美に持っていた薬瓶の中身をかけ、魔力が込められた右手を彼女の胸元へと当てる。すると和美の表情が少し穏やかとなったが、大してフリムの表情は険しかった。

「あの……ネギ先生は……あのままなのですか?」

「怪我してるわけじゃないし……もう大丈夫でしょ。でも、ネギ君はそうはいかないだろうけど……」

アキラの疑問にミーナリアは困った表情を浮かべるしかなかった。実を言えば、ネギに責任はほとんどない。確かに持ち場を離れるという失態を犯してしまったが、持ち場にいたら和美達を守れたか? といえば、なんとも言えない。例え、その場にいたから確実に守れるというわけではない。今のネギは低級のゴーストを祓える程度の実力しかないのだ。
それに圧倒的に経験が足りない。確かに魔物に襲われたり、戦ったりした経験はある。でも、それくらいで何とかなるようなものは得ていないのだ。でも、ネギ自身はそうは思わないだろう。だから、あんなにも落ち込んでいた。でも、もう終わる。それを確信していたからこそ、ミーナリアはそっとしておくことを選んだ。そう、終わるのだ。

「アリア、さっさと終わらせるぞ」
「うん」

アリアが返事をするとその姿を一変させた。白い刀身を持つ大振りのサーベル。和也は両手の銃をホルダーにしまい、そのサーベルを握った。それと同時に和也が身に纏うものが一変する。まるでゲヘナのように相容れない何かと……
それを感じたマンイーターが表情を変えた。まるで何かに恐れるかのように、恐怖に歪んだ表情を見せていた。それはまるで天敵に睨まれたような――だからだろう、逃げ出そうとしたのは。もっとも、和也がそれを許しはしないのだが。

「ケルベロス! フェンリル! 逃がすな!」

叫ぶと共に片腕だけでケルベロスとフェンリルを投げ放つ。黒と白の短剣は円盤のように高速回転し……輝き出したかと思うとその姿が女性のものへと変わる。
一方が両手足と体がビキニのように黒い毛に覆われ、黒い短髪の幼い顔立ちながらも刃のような鋭さを輝かせる黒い瞳。もう一方は両手足とこちらは体がレオタードのように白い毛で覆われ、地に付きそうな長い銀髪と優しくも知性漂わせる顔付きに銀の瞳。
そして、互いに頭にはそれぞれの色の耳と腰からはしっぽが伸びており、自己主張するかのような豊か過ぎる双丘があったりする。本来、魔神具にはこのような人型になる能力は無い。だが、和也が持つ力により一時的だが人と変わらぬ姿を得ることが出来るのだ。
人の姿を得たケルベロスとフェンリルはほぼ一瞬でマンイーターの目の前に詰め寄り、互いに爪を一閃させた。それ受けたマンイーターは苦悶の表情を浮かべる。ダメージ的には無いに等しいが、それでも不快なものでしかない。

『ギイィィィィィィィィィ!!?』

そこに駄目押しとばかりに和也がサーベルとなったアリアで袈裟斬りにし、されたマンイーターは聞く者に不快な悲鳴を上げた。死神のような高位な存在はそれ自身が”意思”であり”力”。だから、本来は姿形を取る必要は無い。それに死神は不定形なゴーストの相手や希薄となった死者の魂を扱う関係上、姿形を取らない方が良いのだ。
では、なぜアリアは姿形を取るのかはいつか話そう。ともかく意思であり力であり、死後の采配を司る死神であるアリアをその身で受けたのだ。マンイーターが受けたダメージは重い。もっとも、それで終わりはしないのだが……

「さっさと消えろ!」

サーベルとなったアリアを掲げると、サーベルは変形しで禍々しくも神々しくもある白銀の大鎌となる。その大鎌を振りかざし―― 『ギャアアアアァァァァァァァァッ!!?』

一気に切り裂かれ、マンイーターが耳障りな悲鳴を上げると共に、その背後に巨大なものが現れた。それは扉。表面にありとあらゆる屍が掘り込まれたあまりにも巨大な扉。その扉が開いていく。その扉の向こうは……漆黒だった。何かがうごめく漆黒。それがなんなのか……ただ生きているものにとって、それは拒絶感を感じるものだった。 その漆黒から数本の腕が伸び、マンイーターをつかみ引きずり込んでいく。

『ギギ、ギ……ガアアアァァァァァァァァァッ!!?』

引きずり込まれまいと抵抗するマンイーターだったが、最期は呆気なく引きずり込まれ……漆黒の中へと消えると扉は閉まり、扉も景色に溶け込むかのように消えていった。 それを振り向いて確認することなくアリアは人の形に戻り、あの幼女の姿へとなる。和也もまた、振り返ることなくネギへと歩み寄った。

「いつまで落ち込んでるんだ? もう終わったぞ」
「あ、う……うあ……あぁぁ……」

声を掛けるがネギはただうつろな顔を向けるだけだった。余程ショックだったのだろう。涙を流し続け、目は赤くなっていた。

「やれやれ……今回は俺の失敗かね?」
〈いかしかたあるまい。今回はネギにはいささか強烈すぎたようだしな〉

やれやれといった様子の和也にベオウルフはため息が聞こえそうな声で答えた。それを聞いた和也はため息を吐き、猫を持つかのようにネギを持ち上げて和美達の元へと向かう。呆然としていた高音だったがそれに気付いて慌てて追いかけ、愛衣も高音に付いていくように追いかけてきた。
和美達……チアリーダー組と裕奈、アキラと千鶴が心配そうに見守るが、フリムとミーナリアの表情は暗かった。

「で、状況は?」

「助からないわ……魂を喰われすぎてる。少ないなら秘薬か彼女の力で回復出来るんだけど……この状態じゃ、彼女がいても無理ね」
「そんな……」

和也はネギを静かにおろしながら問いかけ、それにフリムが暗い表情で答えた。聞いた高音がショックを受け、他の者達も同じような顔となる。ネギも聞こえていたのだろう。うめき声を漏らしながら、再び泣き出していた。だが、和也だけは違った。やれやれといった表情で頭を掻くだけだった。

「まったく……お〜い、和美。俺がわかるか?」
「ん……あ……和也……さん……」

和也の声に反応したのか、和美がうつろな顔を向けた。だが、その動作に力が無いことが見てわかる。

「後がうるさそうだけど……嬢ちゃんには2つの道が残されてる。1つはこのまま人として静かに一生を終わること。もう1つは……人をやめて無様に生き続けること。さて、どっちにする?」
「それは……どういうことですの?」

和也の言葉に疑問を感じた高音が問い掛ける。ネギとミーナリア、フリム以外のみなも顔を向けた。ネギだけは……未だ泣き続けるだけだったが。

「悪魔と契約を交わせば、とりあえず生きることは出来る。ただし、生きるだけだ。契約した時点で人間としては死んだも同然となり、人ではなく魔性……魔物になって生きることになる。ついでに契約した悪魔に絶対服従になってしまうがな」

「そんなの認められますか!? 大体、悪魔となんて……どこの馬とも知れない……いえ、悪魔と契約自体間違ってます!」

和也の話を聞いて、高音が怒り出す。彼女としては悪魔とはすなわち悪。そんなものに助けてもらうことを認められなかったのだ。だが……

「契約するのはこの俺とだがな」
「え? どういう……ことですの?」

「俺も悪魔でね。正確には人とのハーフなんだが……とりあえず、生きるだけならこれしか方法がないぞ?」

戸惑いの表情を浮かべる高音に悪びれた様子も無く和也は答えた。もっとも、それは高音や愛衣、千鶴達を驚かせることとなったが。もっとも、高音にしてみれば和也が悪魔であるという事実が信じられず……悪魔に対する偏見を含めても、和也にそんな感じを受けなかったからだが。愛衣は和也が悪魔と聞いて、怯えた様子で高音の背中に隠れてしまい、千鶴達は和也が悪魔であるということに驚いていた。

「で、どうする? 後、話すのを忘れてたが俺と契約すると俺が死ぬまで生き続けることになる。肉体は老いることなくな。人で無くなり、俺が死ぬまで生き続ける地獄を見ることになるが、契約すれば命だけは助かる。それともこのまま人として死んでいくか?」

顔を向け、和也は問い掛ける。それを和美は静かに考えていた。すでにまともな思考が出来ない程に衰弱している。でも、なぜかこの話だけはちゃんと考えることが出来た。確かに人で無くなるのは怖い。でも、凄く魅力的な話でもあった。だって――

「それ以外に……それ以外に方法は無いんですの?」

「失ったものは戻らない。確かに新たに生み出して、それを補填する方法がないわけじゃない。だが、今の和美じゃ新たに魂を生み出すほどの力が残ってないんだ。純粋な魂を精製して使う方法もあるにはあるが……それが出来る知り合いがいなくてね。結局、残った方法がこれしかないってわけだ」

どこか戸惑いを浮かべる高音の問いに和也はやれやれといった表情で答える。実を言えば、和也も純粋な魂の精製が出来ないわけではない。だが、それをするにはいくつかの条件をクリアしなければならない。また、例え条件をクリアしても厄介なことになりかねない。和也自身にも麻帆良にも……
そうなると現状としては和也との契約しかないのだが……和也としては人の死を選んで欲しかった。彼とて和美を助けたい。だが、契約すれば彼女は後悔することになる。ネカネの場合、それを含めて決意したことなので応じた。だが、和美はそういうものが無い。和也が生きる世界がどういうものかを知らない。そんな状態で契約すれば、彼女はきっと深い後悔をするだろう。 だからこそ、和也は和美に人としての死を……残酷なようだが受け入れて欲しかったが――

「和也さんと……一緒に生きるか……いいな……それ……」

「おいおい、人で無くなるんだぞ? それに俺と一緒にいたって、ろくなことがないしな」

和美の言葉に和也は呆れていた。和美との付き合いはそんなに長くはない。たまに会って話をする程度だ。でも、和美にとってそれは尊いものとなっていた。確かに和也と話した回数は手で数えるくらいでしかない。けど、それは和美には大事な思い出であり、大切にしたい時間でもあった。そこでふと思う。ああ、私はこの人に一目惚れしたんだなと。 想いとしては単純なものかもしれない。でも、この人に会えなくなるのは嫌だから――

「私にとっては……大事なことだからさ……だから……会えなくなるのは……嫌、だ……」 「くっ……和也、これ以上はもう……」

うつろな笑みを浮かべながら和美は自分の想いを伝えるが、フリムの言うとおりその言葉から徐々に力が失われていくのがわかる。一方で和也は頭を掻いてから盛大にため息を吐いていた。

「やれやれ……別に特別なことしたわけでもないんだがな」

「でも、彼女は本気みたいだし……人助けってわけにはいかないけど、してあげたら?」

「はいはい」

ミーナリアに言われながら、和也は和美の胸に手を置いた。そして、目を閉じ……しばらくすると、和美の顔に生気が戻ってくる。

「あ、私……」 「はい、契約終わり。体のどっかに印があるはずだから、確認しといておいてくれ」
「あの……本当に契約しましたの?」

起き上がる和美を見て、チアリーダー組や千鶴達の顔に笑顔が戻る。起き上がる和美に和也は忠告するのだが、そこに高音がそんなことを聞いてきた。契約したら人ではなくなると聞いていたのだが、外見上和美に変わった様子は無い。なので、疑問に感じたのだ。

「別に契約したらすぐに外見が変わるってわけじゃないからな。まぁ、力が馴染んでいけば肉体変化を自力で起こせるようになるけど……なぁ、なんか適当に試せるものないか?」

「これでいいんじゃない?」

答える和也にフリムが空き缶を渡した。それを見た和也は受け取ると和美に差し出し、

「思いっきり握ってみろ」
「へ? う、うん……」

恐る恐る受け取りながら、和美は力一杯空き缶を握り締める。と、あっさりと空き缶は潰れてしまった。

「これが何か……」
「それスチール缶だぞ」

問い掛ける和美に和也は缶を指差しつつそう答えるのだが、彼女は良くわかってない。でも、その意味に気付いた者がいた。千鶴である。

「あの、和美ちゃん……缶コーヒーの缶が固いのは知ってる? それがスチール缶なんだけど……」

「まぁ、たまに飲んでるからわかるけど、それがどういう……」

千鶴の言葉に和美は最初首をかしげるのだが、やがてそのことに気付いたのか表情が変わっていく。戸惑いへと。スチール缶は強度が高く、普通の人が握り締めたくらいで簡単に潰れたりはしない。なのに自分はそれをあっさりとやってしまった。

「言っとくがそれはまだ序の口だぞ? 馴染んでいけば、K−1ファイターを片手でひねれるくらいにはなる。だから、普段の振る舞いには気を付けろよ?」

「う、うん……わかった……」

和也の忠告に返事をするものの、和美の表情には戸惑いが見える。人で無くなるとは聞かされていたがこうまで変わるとは思っていなかった。ふと、怖いと思いながら自分の両手を見つめ……そこで気付いた。左手首になにやら模様があることに。
それはなのはやネカネにもあった文様。それこそが和也との繋がりを示すもの。そういえば印があると聞かされていたことを思い出し、和美の顔に笑みが浮かぶ。これが自分と和也が繋がっている印。そう思うと嬉しかったのだ。

「さてと……お〜い、いつまで落ち込んでるんだ? もう終わったぞ?」

「う、あ……あ、あさく、ら……さん……う、うう……うわぁぁぁぁぁぁ!」

和也に呼ばれて泣きはらした顔を向けるネギだったが、和美の姿を見て再び泣き出してしまった。彼女の姿を見て、罪悪感が更に強まってしまった為である。

「泣くなよ……終わったことを……」
「終わったって……あなたは何を言ってるかわかってますの!?」

呆れた様子の和也に高音が怒り出す。彼女にしてみれば、簡単に終わりに出来るようなことではなかったのだ。だが……

「じゃあ、なにか? 誰かが和美達が来ているのをすぐに気付いてりゃ助けられたか? ネギがあの場を離れてなけりゃ助けられたか? お前さんが俺が撃つのを邪魔しなけりゃ助けられたか? 確かにそうなのかもしれない。でも、そうじゃないかもしれない。もっとも終わった後じゃ、そんなのは全て仮定に過ぎないがな。仮定を話し合っても今となっちゃ遅すぎるんだよ」
「で、ですが……」

「だが、反省しなくてもいいってわけじゃない。今がダメなら、次に生かせばいい。でも、終わったことを引きずっちゃいけない。残酷かもしれんが俺達がいる世界はそういうものなんだよ」

反論しようとする高音だったが、和也はそれを遮った。和也の言葉は経験からでもあるが、ある意味事実でもある。
例えばの話、受け持つ科目にもよるが医師……特に救急病院に勤める医師は常日頃から人の生死に関わることが多い。そして、助けられず死なせてしまうことも少なくはない。でも、そのことを悲しんではいられない。悲しくて何も出来ないからといって、次の患者は待ってはくれないのだ。だから、彼らはただ治療を続ける。失敗したのなら、なぜ失敗したのかを考えて次に生かす。
そうすることでしか、報いることが出来ないから……そして、和也や魔法使い達の世界もまた、似たようなものなのだ。

「覚えとけ、ネギ。お前が踏み入れようとしている世界はこういうものだってことをな」

和也の言葉をネギはただうつろな表情で聞くだけだった。今のネギはただただ罪悪感にさいなまれ、和也の言葉の意味を理解出来てはいなかった。それに気付いたのだろう。和也はやれやれといった様子でため息を吐くのだが……

「ところで彼女達はどうするの?」

「説明……しなきゃダメだよなぁ……すっごくめんどくさいんだけど」

ミーナリアの言葉に和也はまたため息を吐いた。それにきょとんとするチアリーダー組や千鶴達。和美が助かったのは嬉しいが、なぜこうなったのかを彼女達は知らないのだから、当然といえば当然だろう。 その説明が凄くめんどくさそうなことになることを半ば予想していた和也はどうしたもんかと考えつつ、三度目のため息を吐くのだった。



「それでネギ先生はあんなに落ち込んでいるのですね」

和美達と共に戻ってきた和也は、学園の見回りから戻ってきた刹那と真名、シャークティと刀子やちゃっかりいる美空とココネとアスナ達に今までのことを話した。なお、和美達への魔法使いのことに関しての説明などはネカネやフリムがしている。2人に丸投げしたともいうが。その話を聞いた和美達はアスナ達が関わっていることに驚いていたりもするけど。
ちなみにアリアは「迷惑を掛けた。このわびはいずれ」といって、すでに帰っている。で、いまだ落ち込むネギを見つつ、刹那がポツリとそんなことを漏らしていた。

「まぁな〜……って、あいつはいつまで終わったことを引きずってんだか……」

「終わったって……それってひどすぎない?」

「そっちの嬢ちゃん……高音だったか? にも言ったが、終わったこと蒸し返したって結果は変わらんだろうが?」

なぜかいる高音を親指で指す和也を見て、少し怒った様子のアスナ。彼女にしてみれば、クラスメートが犠牲になったのだから怒りたくもなる。でも、和也にしてみれば全ては終わったこと。アスナにしてみれば残酷な話かもしれないが、終わったことをああだこうだ言ってもしょうがないのだ。

「ま、俺に非が無いって言うつもりは無いが……今回のことはネギに責任があるってわけでもないんだがな」

なんてことを言う和也の言葉に高音は体を振るわせた。彼女にしてみれば、自分が原因で和美をあんな目にあわせてしまったと負い目を感じているのだ。そんな高音を愛衣が心配そうに見つめる中、それに気付いた和也がため息を吐く。

「気にするなとは言わんが、今後もああいうことを続けていくつもりがあるなら覚えておいた方がいい。どんなにがんばっても報われない現実があるってことを」

なんてことない感じで話す和也だったが、瞳だけはそうは見えなかった。どちらかといえば、真剣な感じを受ける。和也も経験があるのだ。それも一度や二度ではない。だからこそ、わかることでもあるのだが。それに今回のことは不幸な偶然が重なったとしか言いようがない。いかに和也とて、ああも重なると対処しろという方が無理なのである。 ちなみにだが、その話を聞いていた高音が今の和也の顔を見て、顔を赤らめていたりする。その様子にまたかという顔をしたのはミーナリアとフリム、ジェスターだった。

「ま、それでもやる時にはやるしかないんだがな。例え、人にどう思われようが……汚いと言われようが、卑怯だと言われようが」

「そ……そんなのは立派な魔法使いマギステル・マギのすることではありません!?」

「人を守るのに……いや、何かをするのに肩書きなんて必要なのか?」
『え?』

その言葉に反論する高音だったが、続いて出てきた和也の言葉にネギと共に疑問の声を漏らす。そんな2人に和也は真剣な眼差しを向けた。

「人を守るってのはな、極端だがそこら辺に歩いてる奴でも出来る。結果がどうであれってオマケが付いちまうがな。立派な魔法使いマギステル・マギだからとか、そんなのは俺に言わせればくだらないプライドだ。ただ、人を守るってのはそう簡単ではないのも事実なんだが……ま、これは今話すようなことじゃないな」

ため息混じりに話す和也。今日はため息ばっかり出るな〜と思いつつ、ネギと高音に目を向けてみる。2人はどこか戸惑った顔をしていた。2人にしてみれば、立派な魔法使いマギステル・マギを目指すのは当然であり、だからこそ助けを求める人を守るのは当然だと考えていた。
もっとも、ネギの場合は故郷で起きた出来事もあって、それは半ば強迫観念にもなっているのだが……それは今は語る時ではない。

「俺に言わせりゃ、お前さん達には人を守るにはどうしたらいいのか? そういう考えが圧倒的に不足してるんだよ。ネギはそれが極端に出ちまったな。本来なら、待ちに徹さなきゃならん所を突っ込んでいった。それでどうなったかは言わないでおくが……今回のことでただがむしゃらに突っ込んでいけばいいってわけじゃないことはわかっただろ?」

和也の言葉にネギは静かにうなずいた。確かにあの場を離れなかったら、和美を守ることが出来たのにと考える。もっともその考えも間違いなのだが、今のネギが気付くことは無かった。

「チームプレイってのはな。ただ、仲良くやりましょうってわけじゃないんだ。やろうとしている目的の成功率を上げたり、手段の幅を広げたりとか、そういうのもチームプレイっていうんだよ。なのに、それを放棄してどうすうするよ?」

和也の言葉にネギはただうなだれるしかない。それを見た和也は頭を掻きながらため息を吐く。これ以上話しても今のネギには通じてないと同じと感じたからである。

「ま、今日は遅いし、これで解散にしとくか」

「え? あの、彼女達は……どうするんですの?」

 頭を掻きながら話す和也に高音がチアリーダー組や裕奈にアキラ、千鶴を指差し問い掛ける。和美はまだしも彼女達は一般人。本来ならば、魔法のことを知られたのなら記憶を消すなどの対処をすべきなのだが――

「言いふらさないようにお願いするしかないだろ。まぁ、言いふらしたら……泣かすがな」
「いいでござるか! このことは内密にするでござるよ!?」 「そうよ! あいつはやるって言ったら、絶対にやるから!」

和也のその言葉を聞いて、慌て出したのは楓とアーニャである。良く見れば、アスナや夕映らもこうこくとうなずいている。必死な表情で。

「え、あっと……」 「わ、わかった……」

円や裕奈はわけがわからないまま2人の勢いに押されるままうなずくしかなかった。まぁ、世の中知らない方が幸せということもある。楓とアーニャが必死になる理由もその類なので、言わぬが華だろうが。

「そうだ。ジェスター、和美の教育係頼んでもいいか?」

「え? どうして?」

「和美は確か新聞記者だったよな? 今後のことを考えると必要になるだろうから、頼みたいんだがね」

「なるほど……よろしくね、和美ちゃん」

和也との話で納得いったのか、笑顔を向けるジェスター。

「え? あ、その……よろしくお願いします……」

こちらはいきなりのことで戸惑う和美。それでも頭を下げて……気付く。目の前にいるジェスターもまた和也と契約していることに。それにネカネやミーナリア、フリムも契約していることが感覚でだが、わかった。でも、不思議と怒る気持ちにはなれない。どこか、やっぱりなという感じがあった。和也には惹きつける何かを感じるのも事実だし。

「さてと、こっちはどうしたもんか……」

と、和也が振り向いた方向には未だ落ち込んでるネギが1人。どうしようかと考えて、何かを思いつく。

「あ、ろくなこと考えてないでしょ?」

「さてな。ま、ちょっとした罰と思ってもらいましょ」

なんてことをミーナリアに答える和也の顔には笑みが浮かぶのであった。



「で、なんでこんなことになってるのよ?」

思わずそんな本音を漏らすアスナ。その格好は寝巻き姿であった。

「なんで、なんでこんなことを……私はその……」

なんかぶつぶつ言ってるアーニャ。格好はやはり寝巻き姿である。

「大丈夫、ユエ?」
「だ、だだ、大丈夫です、のどか。これしきのことで、ど、動揺するはずが……」

なんてことやってる夕映とのどかもまた寝巻きであった。で、なんで夕映が動揺してるのかといえば――

「これはどういうことなのでしょうか……」

なんてことを漏らすネギ。彼もまた寝巻き姿である。実は彼らは同じ部屋にいた。寝室らしいのだが、ベッドの大きさが半端ではない。ネギ達が全員横に寝てもまだ余裕がある大きさなのだ。そんな部屋にネギ達は和也に押し込められたのである。なお、この部屋はフリムが創り上げた異空間。和也曰く「これなら他の迷惑にならないから」なのだそうだが。

〈ま、和也なりにネギを慰めようとしておるのだろう。今回のことはあやつにとっても予想外のことが多かったからな〉

「だからって、なんでこうなるわけ?」

〈和也も今のネギの様子では何を言っても伝わらんのはわかっていたからな。落ち着かせる必要があったのだ。かといって、この方法というのが我にも疑問が無いわけではないが……〉

なんてことを言い合うアスナとベオウルフ。確かにネギは落ち込んでるし、何とかしたいと思ってもいる。でも、なんでこれなのか? という疑問が2人……というか、ネギ以外全員の疑問なのだが。

「でも、ボクのせいで和美さんが……」

〈和也が言っておったであろう? 終わったことだ。今更、言っても遅すぎる。もっとも、人としてのとどめをさしたのは和也だがな〉

「それは……和也さんは和美さんを助けようとして――」

〈人の話を聞いておらぬか? 人としてのとどめをさしたのは和也であると? それは人としての終わりという意味だ。今はまだいいが、いずれ彼女は様々な厄介ごとに巻き込まれることになろう。悪魔との契約とはそういうものなのだ〉

ネギの反論を遮るようにベオウルフは語る。ネギは勘違いしているようだが、悪魔との契約には人助けというものはない。基本的に隷属を作るためでしかないのだ。力を与えるというのは、あくまで付加価値でしかない。

〈結局の所、あの戦いで救えた者などおらぬよ。いくつかの問題を起こしてしまった。ただ、それだけなのだ……〉

ベオウルフのその言葉にネギはただうつむくしかなかった。むろん、ベオウルフとて今回の結果を良しとしているわけではない。だが、時にはこういうこともあるのも知っている。ゆえにネギを責めるようなことはしなかった。

「ボクは……ボクは……ボクはぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ネギ……」

それもネギとってはツライ現実でしかなく、ベッドに顔を押し付けるかのように泣き出す。そんなネギの頭をアスナは優しく撫で、アーニャ達は心配そうに見つめる。今はただ、こうするしか出来なかった。なんと言えばいいか、彼女達はわからなかったから……

〈今は気が済むまで泣かせてやるが良い。今はそれで良い……〉

(こやつにはいい経験になっただろうからな。悪い意味でだが……)

ベオウルフも言葉ではそう言いつつも、胸の内ではそう思う。今回のことはネギにとってはつらい出来事なのは間違いない。でも、得がたい経験であることも事実である。確かに人が犠牲になるのは良いことではない。だが、自分の行動がどのような結果になるのか、今回はその一例を示す結果になったのも事実だ。
それが今後良いことなのかそうではないのかは、まだわからないが……今はただ、ネギが泣き止むのを待つだけであった。



その頃、女子寮の屋根の上で和也は夜空を眺めていた。その横にはミーナリアが寄り添うように座っているが。

「どうしたんですか?」

「ん? 今回はネギには悪いことをしたなと思ってな」

やってきたネカネの疑問に和也は夜空を見上げたまま答える。今回のことはネギが目指すものを考えるならいずれ通る道とはいえ、早すぎたと和也は考えていた。それが意図したものではないとはいえ、彼なりに負い目を感じていたのである。

「今回は運が悪かった……としか言いようがないって。本人達はそうは思わないかもしれないけどさ」

「それに和也さんがそうしようと思ったわけではないのでしょうから……」

苦笑交じりにミーナリアが話すと、ネカネは気遣うようにそんな一言を漏らした。それを聞いた和也の顔に笑みが浮かぶ。その言葉だけでも和也にとっては嬉しく感じるものだから……

「あいつらも、仲間の大事さってのに気付いてくれるといいんだがな」

ふと思ったことを漏らすのであった。



こうして、いくつかの遺恨を残して今回の事件は終わりを告げる。これが今後にどのような影響を与えるのか、今はまだわからない。

「兄さん……見つけたよ……兄さんの敵を!」

「和也と契約したか……やれやれ、そんな柄じゃないと思ってたんだけどな」 次なる騒動はすぐそこまで来ていたのだから。



和也のパートナー アリア

死神であり、れっきとした神族。和也とはゲヘナを手に入れる時に出会った。 それ以来和也を気に入り、自分の気が向いた時や仕事を手伝って欲しい時に姿を見せるようになる。 なお、出会った当初は姿形は無かったものの、和也に言われて人前では今のような姿をするようになった。(なんでも、危ない人に見られたらしい(和也曰く))
感情を表に出すことはあまりなく、必要なこと以外はあまりしたがらない。本人は死神としてはかなり高位な存在らしいのだが――

和也の武器について

今回見せた、ケルベロス&フェンリルとエイミー&エネミーUの組み合わせは、和也の「2つを同時に使えないか?」という意見からフリムの手によって実現したもの。ただし扱いは非常に難しく、和也も斬撃と射撃の使い分けを覚えるまでは相当苦労した。
ケルベロスとフェンリルの人化は和也の力を受けて初めて可能になる。なので、他の魔神具は一部を除いて和也の力無しでは不可能である。なお、ゲヘナとバルバトスにも可能であり、ゲヘナは軽甲冑姿の女性に。バルバトスはフルプレート姿の女性の姿となる。
女性の姿なのは和也曰く、「男より女の方がいい」からとのこと。

あとがき

というわけで7話です。今回は……ん〜どうなのかな〜……ネギの成長という形で書いていきたかったのですが……なんか、そうは見えませんね……
それと共にハーレムの一員となった和美(笑)は今後どうなるのか……書いておいてなんですが、大丈夫かなこれ?^^;
さて、次回ですがまたもや18禁となります。以前、大人組からと言いましたが……予定を変えることにしました(おい) 誰が誰とするのかはお楽しみに〜。てか、3Pも良くね?(おい)
後、あの人物の秘密が明らかに。こちらもお楽しみに〜


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