立派な魔法使いマギステル・マギ歩き続ける悪魔デビル・ウォーカー』  第5話『半悪魔 悪魔と戦う』



その日の夜、和也は麻帆良を歩き回っていた。大して目的も無く歩いているようだが――

「和也」

そこにミーナリアが舞い降りるように姿を現す。スーツ姿ではなく、悪魔の姿で。

「どうだ?」

「うん、いるのは間違いないみたい。でも、隠密に長けてる奴みたいね」

和也の問い掛けにミーナリアはやれやれといった様子で答えていた。何があったのか? 話は刹那が自分の身を明かした時に遡る。
あの出来事からしばらくした後、和也は進入してきた悪魔の気配を感じ取る。ネカネ達に一声掛けてから捜索するも、すでに隠れてしまった後で悪魔の姿は見つからず……次の日……すなわち今まで探し回っているのだが、気配を感じることは出来ても居所まではわからなかったのだ。

「気配が広範囲に広がってるってことはデコイか……かなり慎重な奴だね、こりゃ」

呆れた様子でぼやく和也。だが、麻帆良の警護の依頼を受けている以上、ほっとくわけにもいかない。しかし、ただ探し回るのも非効率だし、いぶり出すことは可能だが後々うるさいことになりかねない。さて、どうしたものかと考えて、あることを思い出す。

「あ、なんか企んでるでしょ?」

「ああ……ちょっとした釣りをな」

ミーナリアの声に、和也はウインクをしながら答えるのだった。



次の日の朝――

「ほら、せっちゃん。テレんでええから」

「あ、その……お嬢様……なんというか」

「もう、前の時みたくこのちゃんって、呼んでくれへんの?」

「いや、その……それはですね……」

アスナとネギ、アーニャの横でそんなやりとりをするこのかと刹那。刹那の方は若干恥ずかしそうにしていたが。あの一件以来、刹那はこのかのそばにいるようになった。ただ恥ずかしさからか、呼び方などにぎこちなさが出てしまう。 もっとも、それも微笑ましいものなので、ネギ達は思わず笑みを浮かべてしまうが。

「おや、にぎやかだな」

「あ、カズヤ」

と、そこに現れた和也にネギが声を掛ける。いたの? という感じのアスナとアーニャ。このかは笑顔で手を振る一方、刹那は顔を紅くして頭を下げている。あの一件で和也に対する接し方が変わった……だけではないようだが――

「なにしてんのよ、あんたは?」

「昨日の夜いなかったから、ネカネさんさびしがってたわよ」

呆れた様子のアスナの横で、アーニャが意地悪っぽい笑みを浮かべながらそんなことを言い出す。まぁ、事実なのだが。このか達に魔法を教えている間、明らかに気落ちしてるネカネを見るのはある意味心痛かったし。

「たまに夜回りしないと周りがうるさくてね。ま、仕事なんだからしょうがないんだが」

頭を掻きつつ答える和也。ちなみにネギ達は知らないが、夜回りから帰ってきた和也にネカネが抱きついてきたという場面があったりする。その時はネカネが顔を真っ赤にしながらすぐに離れて頭を下げて謝り、それを和也は気にするなと頭を撫でたりしてるのだが――

と、ここで和也は辺りを見回すように顔を動かす。

「それにしても、周りがなんかピリピリしてるようだが、もしかしてテストが近いのか?」

「ええ、そうです。良くわかりましたね?」

「言っとくが、昔は一応普通に学生してたんでね」

刹那の返事に問い掛けた和也はそんなことを言うのだが……ネギ以外のみなは嘘だと考える。実際、半分ほどその通りだったりするけど。ちなみにネギは「そうだったんですか〜」と、完全に信じきっていたが……

「にしちゃ、お前さん達は余裕だな?」

「だって、うちは高校までエスカレーター式だもん。大して気にする必要もないわよ」

和也の疑問に胸を張ってるアスナ。なぜか、アーニャはそれにむっとする。その視線がアスナの胸に行っていることに気付いてる和也はあえて何も言わなかったが……それはそれとして、アスナを親指で指しつつ、このかの方に向き――

「こいつ、頭悪いだろ?」

「うん、よくわかったな〜」

「ちょっとあんた達!?」

和也とこのかのやりとりにアスナが怒鳴る。図星ゆえに……ネギと刹那はその様子を呆然と見ており、アーニャは後ろを向きつつ笑っていたが。

「ま、あんま悪い点を取って、ネギを困らせるなよ。おっと、そうだった」

「え? うわっと!」

そんなことを言う和也がネギに何かを投げ渡す。アスナがそんな彼を睨む中、ネギは慌てながらもそれを受け取る。

「えっと、これってブローチ?」

受け取ったものを見るネギ。アスナ達も集まって見てみるが、それは確かにブローチだった。紅く光沢を放つ楕円形の石で、金のふちにはめ込まれているシンプルなもの。

「カズヤ、これは?」

「ばあさんの試作品で、ちょっとしたお守りだそうだ。もっとも、俺は使う機会が無いんでね。坊主にやるよ」

不思議そうにブローチを見るネギに、和也は答えるが……なぜか無表情である。が、逆にネギは嬉しそうな顔を見せていた。

「あ、ありがとう! 大事にするよ!」

「ああ。ところで遅刻しないか?」

「あ! それじゃあね、カズヤ!」
「ちょっとネギ!」
「ネギ君、まって〜な!」
「あいつ、はしゃぎすぎよ!」

喜び和也にお礼を言いながら走り去っていくネギ。嬉しさのあまり舞い上がってるようである。それに慌てて追いかけるアスナとこのかにアーニャ。刹那はそんな彼女らを見てから和也に頭を下げ、彼女達を追いかけていく。そんな彼女らを見送る和也。

「ああ、無くすなよ。疑似餌を無くすのは困るんでね」

ふと、笑みを浮かべながら、そんなことを漏らすのだった。



さて、学校に着いたネギ達は廊下で別れる――

「あ、ネギ君にアーニャさん、ちょっといいかしら?」

「え? はい」

「なんでしょうか?」

「あ、私達先に行ってるわね」
「後でな、ネギ君」

ところでしずなに呼び止められるネギとアーニャ。アスナとこのかは声を掛けてから、刹那は頭を下げてから教室へと向かう。

「これ、学園長先生がこれをあなた達にって」

そう言いながら、しずなはネギとアーニャにそれぞれ封筒を渡す。不思議そうに思いながら受け取る2人だが、不意にその顔がこわばる。というのも、封筒には『最終課題』と書かれていたのである。それに慌て出したのはネギ。
攻撃魔法200個覚えなきゃならない? もしかして、悪のドラゴン退治? などとそんなことを考えつつ……クリアしないと先生にも立派な魔法使いにもなれないとプレッシャーを感じつつ、封筒の中の紙を開いてみる。
そこに書いてあったのは――

『ねぎ君へ――次の期末試験で、二−Aが最下位脱出できたら正式な先生にしてあげる。 麻帆良学園学園長 近衛近右衛門』

「な、な〜んだ、簡単そうじゃないですか。でも、うちのクラスって最下位だったんですか?」

「え、ええ……ずっとそうみたいだけど……大丈夫かしら?」

思ったよりも簡単そうな課題にほっとするネギ。そういえばここは普通の学園なんだし、ドラゴン退治は無いななどと反省するほど余裕を取り戻していた。逆にしずなは心配顔だった。というのも、2−Aの実情を知ってるからこそなのである。

「大丈夫なのかしら?」

と、しずなの様子を見て心配になるアーニャ。ちなみにネギはその存在を忘れてるが、彼女への最終課題はというと――

『あーにゃ君へ――次の期末テストで二年生中450位以上になれたら、正式な生徒にしてあげる』

というものだが正直な話、頭痛の種になりそうな課題だった。物理とか数学とか英語などはまだいい。魔法に直接関わるものではないが時には必要となるため、魔法使いによっては習う者もいる。アーニャもその1人なので、それは問題は無い。
問題があるとすれば、現国、古文といった教科である。こればっかりは日本独自の授業の為、向こうでは習いようが無かったのだ。そのため、この2つだけはアーニャはすこぶる成績が悪い。この2教科をどうするかで頭を悩める。

「あ〜、ネギ君本物の先生になるんだ〜」
「へ〜、どれどれ?」
「あ! 見ちゃダメですよう」

そんな中、ネギはいつの間にか来ていた裕奈と桜子から、課題が書かれた紙を隠していた。それを見ていたアーニャは本気で心配になったそうなのだが……数十分後、それが現実のものとなるのを知ることとなる。



で、その日の放課後。公園のベンチで落ち込むネギの姿があった。まぁ、ピンチなのである。
バカレンジャーと呼ばれる5人(アスナ、夕映含む)の成績がヤバイくらいに悪い上に、何も知らないクラスはといえば英単語野球拳なるもので遊ぶ始末。まぁ、野球拳をまったく知らないネギ――10歳の上に英国圏のネギが知ってるわけがない――の勘違いによる結果なのだが。そのおかげでひん剥かれたバカレンジャーは置いとくとして、あまりのピンチにどうしていいかわからず、こうして落ち込んでいたわけだ。

「ああ、どうしたらいいんだろ……今から勉強しても間に合うかどうか……それにどうやって勉強させればいいのか……」

てなことをぶつぶつつぶやきつつ悩んでるネギ。でも、誰に相談していいのかわからない。課題内容としては魔法使いよりも先生としての意味合いが強い。だが、2−Aの実情は目を覆いたくなるようなものであり、それもあって誰にどんな風に相談すれば良いかもわからない。
もっとも、ネギは1人でなんとか解決しようとしてしまう節がある。それもあって、そのことに思いつかなかったのもあるが。ともかく、次第に混乱に陥り、魔法を使おうとも思い始めた矢先――

「あれ? ネギ君じゃない。どうしたの?」

バイクを押すフリムが通りかかり、声を掛ける。で、ネギはといえば、今にも泣きそうな顔を上げていた。

「なんかあったの?」

「えう……それがその……」

フリムの問い掛けにネギは迷っていたが、やがて事の次第を話し始めた。話を聞いていたフリムだったが、聞いてるうちに困ったような顔になる。

「あ〜、それは難しいわよね」

汗を頬に浮かべつつ、思わずこんなことを言ってしまうがしょうがない。こればっかりはフリムが手を貸したからといってどうにかなるものでもないのだ。実情を聞いてるとなおさらである。でも、だからといって話を聞いておきながらさよならというのも気が引ける。

「そうねぇ……とりあえず、そういう課題が自分に出てるって話してみたら? そうすれば、やる気を出してもらえるかもしれないわよ?」

「そうでしょうか?」

フリムの言葉に疑問系なネギ。まぁ、フリムも同じ心情なのだが……

「まぁ、やるだけのことをやるしかないわね。結果がどうであれだけど。まぁ、それは和也も似たようなものね」

「そうなんですか?」

「ええ。和也って、自分で出来ることならなんでもやっちゃうけど、利用出来るものはとことん利用するしね」 (もっとも、そのおかげで色々ととんでもないことやらかしてるんだけど)

話しつつ、内心はそんなことを考えるフリム。和也の場合、結果を考えずにやれることをやってしまうタイプなのだ。まぁ、やれることがとんでもない上にその規模がでかく、人の迷惑をかえりみない(悪党は特に)ので、『ヒューマノイドタイフーン』とか『トルネードデビル』のあだ名で呼ばれたりするのだが……

「うん、そうですね。ありがとうございます。ボク、なんとかやってみます」

「ええ、がんばってね〜」

なにやら決心がついたのか、頭を下げてから笑顔で手を振りながら去っていくネギ。それを手を振って見送るフリムだが――

「本当に大丈夫かしら? そういえば、和也ってネギ君にあれ渡したかな? でも、あれってなにに使うんだろ? 作れって言われたから作ったけど」

ネギのことを心配しつつ、そんなことを考えるのだった。



さて、それから少し経って女子寮大浴場。ここでちょっとした騒ぎが起きていた。

「ええ〜!? 最下位のクラスは解散!?」

このかがどこからか聞いてきた噂にアスナや他のクラスメートは騒いでいたのである。普通ならばただの噂と聞き流されそうだが、学園長が引き合いに出されると彼女達の間で真実味が増してしまい――

「その上、特に悪かった人は留年! どころか小学生からやり直しとか……」
『え!?』

てなこと言うハルナの言葉に驚くバカレンジャー。今の話はハルナの想像が含まれているもので、確かめずとも嘘とわかりそうなものだが……

「今のクラスけっこう面白いし、バラバラになんのイヤやわ〜、アスナ〜」
「ま、まずいね。ハッキリ言って、クラスの足引っ張ってるのは私達5人だし……」
「今から死ぬ気で勉強しても間に合わないアル」

彼女達の間ではいつの間にか真実になっていた。アスナも完全に信じきっており、どうしたものかと悩んでいたのだが……

「実は図書館島の深部に、読めば頭が良くなるという魔法の本があるらしいのです」

夕映の話で状況が一変する。バカレンジャーの3人はそんなことは無いと笑っていたが、残りの2人――アスナと夕映、ついでにこのかにのどか、ハルナの顔色が変わる。

「魔法使いがいるんだから、そういう本があってもおかしくないわよね?」

「確実というわけではないですが、ありえなくもないです」

アスナの言葉に夕映がうなずく。魔法の存在を知るゆえだった。こうなれば、やることは決まっている。目指すは期末テストでの最下位脱出! そのため、2−A図書館島探検隊バカレンジャーズが結成されようとしていた。約2名が興味本位での参加となっていたが……


それから少したった頃、ネギとアーニャはそれぞれの自室へと戻るべく一緒に歩いていた。

「で、課題の方はどうなの?」

「うん、アスナさん達に事情を話して、勉強してもらおうかなって考えてるんだ。少しでも点数が上がれば、最下位を脱出出来るかもしれないし」

答えるネギだが、その表情は明らかに自信なさげに見えた。それはアーニャも同じなのだが……千鶴にお願いして勉強を見てもらえることになったが、それでも不安は残る。特に現国と古文が――両者共にその悩みでため息を吐いた時だった。

「あ、いたいた。ネギ! アーニャ!」

アスナが2人の姿を見つけると駆け寄って来たのだ。

「あ、アスナさん。ちょうど良かった。実は――」
「ごめん。2人にお願いしたいことがあるの。ちょっと来て!」

「え? うわわ!?」
「ちょ、ちょっとぉぉぉ!!?」

例のことを話そうとするネギだが、その前にアスナに強引に引っ張られ、アーニャと共に連れ去られていくのだった。


「もう一度聞くわよ。何がなんだって?」

「だから〜」

とある場所でアーニャは顔を引き攣らせながら説明を求め、アスナが困ったような笑みを浮かべていた。その様子にネギは困った様子で、なぜかいるこのか、夕映にまき絵、楓に古菲はにこやかに見てるが。
さて、ここはどこかといえば、図書館島の中。正確には図書館島にある図書館の地下である。アスナ達は噂を信じて魔法の本を取りに行こうとしてるのだが……が、自分達では少々心許ない。そこで魔法使いであるネギとアーニャにサポートしてもらおうと考えたのだ。ちなみにのどかとハルナは外で携帯や無線でサポートをしている。
そのことを説明するアスナだが、聞いたアーニャの額に青筋がはしる。それはもうハッキリと。

「あのね、そんな噂に引っ掛かってんじゃないわよ! 第一、そんなのがあるなら私だって苦労してないわ!」

「ええ!? そうなの!?」

いきなり絶望的な返答を怒鳴りで返すアーニャの言葉にアスナはショックを受ける。ちなみにだが、頭を良くする魔法が無いわけじゃない。副作用がとんでもないというリスクがあるが。

「まったく……それなら私やネギじゃなくて、あの悪魔に言えばいいじゃない。私もネギも暇じゃないのよ?」

「いや、あいつに言うと……なんか、からかわれそうで……」

視線をそらしつつ乾いた笑みで答えるアスナだが、それには問い掛けたアーニャも思わず納得する。なんとなく、和也がからかう場面が想像出来る。「そんなのに頼らなきゃならないくらいに頭が悪いのか」という感じで…… ちなみに楓、古菲、まき絵は2人の話の意味がわからず首をかしげていたが。主に悪魔の部分で。

「まぁ、行くだけ行ってみるです。なにか、いいものが見つかるかもしれないですし」
「ふむ、確かに。ここまで来て、手ぶらというのもさびしいでござるしなぁ〜」

夕映の意見に楓が同意する。意見の方向が間違ってる気がしないでもないが……ともかく、先を進むことにしたネギ達。

「本の雪崩だぁ〜!?」
「きゃ〜!?」
「まき絵! 大丈夫!」
「えへへ、なんとか〜」
「なんで、矢が飛んでくるのよ!?」
「盗掘者避けの罠ですね」

罠に掛かりながらの先行き不安なものであるが……一方でその様子を見る者がいた。

「ふむ、余計な者もいますが……まぁ、いいでしょう。手ごろな場所に来たら、さっさと終わらせますか」

なぜか、そんなことを漏らしながら……



さてその頃、和也はといえば図書館島が見える丘で座り込んでいた。隣にはミーナリアが同じように座り、肩を寄せてたりする。普通に見れば、それはカップルのふれあいに見えなくもない。和也の無表情が無ければだが……

「掛かるかな?」

「餌を間違えてなければな」

ミーナリアの疑問に、和也はそっけなく答えた。何をしているのか? それを説明したいが……その前に2人に近寄る集団がいた。
シャークティに刀子。美空にココネ。それに真名と刹那である。刹那は挨拶なのか頭を下げる。顔を上げると、なんか羨ましそうな顔をしてたが。 ちなみに刀子とシャークティ。互いにいつも同行している魔法先生がテスト期間中で手が離せないため、今回もこうして組んだのである。別の意図があってではない……とは言い切れないのだが……

「シスターと刀の淑女はいいとして、お前らここにいていいのか? 確か、期末が近いって聞いてたんだが」

「だからといって、警備の仕事を怠ることは出来ないさ。それに困るような点数は取ってはいないよ。刹那とは違って」
「う……」

視線だけを向けながらの和也の問い掛けに真名は笑みを浮かべつつ答える。指摘された刹那は思わず声を漏らしながら、紅くなっていたが。それを笑ってみる美空。ちなみに彼女、前回の中間の平均順位では真名と刹那よりも上だったりする。

「ところでそのシスターというのはやめなさい。私にはシャークティという名前があるのですから」
「私も……そう呼ばれるのはちょっと……葛葉――いえ、刀子と呼んでくだされば……」

シャークティはやや怒った様子で、刀子はなぜか視線をそらしつつ、そんなことを言っていたりする。 が、はたから見るとアプローチに見えなくもないため、美空が普段見ないシャークティの姿に笑いをこらえてたりするが。

「考えておこう」

「ところで……ここで何を?」

和也の返事の後に、そのことが気になった刹那が問い掛ける。

「釣りだ」

と、顔を向けて答える和也だが……

「でも、湖はずっと向こう……ここじゃ、釣りは出来ないケド?」

ココネが疑問を口にするが、確かに和也がいる所では釣りは不可能である。魚がいるであろう湖は彼がいる所からかなり離れているし。

「釣りっていっても、釣るのは魚じゃないがね」

ふっと笑みを漏らす和也だが、ミーナリア以外の彼女らにはその意味がわからず首をかしげていた。その時――

「和也さ〜ん!」
「あれ? 管理人さんだ」

和也を呼ぶ声が聞こえたと思ったらネカネがこちらへと駆け寄ってくる。そのことを不思議に思う美空。良く見れば、焦っているようにも見えた。

「どうしたんですか、ネカネさん?」

「はぁ……はぁ……それが……ネギ達がいないんです」
「どういうことだい?」

息を切らせながら刹那の疑問に答えるネカネだが、要領を得ないため真名が聞き返してしまう。ネギ達は今頃なら魔法を覚える為の集まりをしてるはずでは? そう思ったのだが――

「それが……いつもなら管理人室に来る時間なのに来なくて……最初はテストがあるって聞いてたから、その勉強のためかなって思ったんです……なので、様子を見に行ったんですがネギの姿が無くて……それどころかアスナさんやこのかちゃん、アーニャちゃんにのどかさん、夕映さんにハルナさんも…… それに他にもいなくなってしまった方もいるみたいで……」
「お嬢様が!?」

息を整えながら話すネカネだが、それに刹那が驚きの声を上げる。というのも、このかまでいなくなっていたことに気付いていなかったのだから当然だろう。慌ててこのかを探しに行こうとする刹那だったが――

「ああ、坊主達ならあの中だぞ」

と、指差す和也。その指先は図書館島に向けられていた。

「なんで、図書館島にネギ先生達が?」

「さぁな。でも、気配からして結構深い所に行ってるみたいだが」

「あ、そういやアスナ達、図書館島の噂のことを話してたような……」

「噂って?」

刀子の疑問の声に答える和也。それを聞いて思い出した美空がそんなことを漏らしたので、思わず聞こうとするミーナリア。

「確か、読めば頭が良くなる魔法の本がある……だったかな? そんなことを話していたね」

「なんですかそれは? そんなものあるわけないでしょうに」

「でも、あの嬢ちゃん。魔法のことは知ってるが、初心者程度の知識しかないだろうからな。それに頭悪いし。真っ先に飛びついたんじゃないのか?」

真名の話に呆れるシャークティだが、和也は冷静にそんな風に判断する。実にその通りだったりするが。

「でも、なぜお嬢様まで一緒に? それにネギ先生まで……」

「あ、このかって確か図書館探検部にも所属してたから、手伝わされたんじゃないの?」

「ネギ君は魔法使いだから役に立つかもって考えたのかもね〜」

刹那の疑問に美空はそんな推測を言ってみて、ミーナリアも自分の考えを言ってみる。ちなみにこのかの場合、興味本位の約2名の内の1人だったりする。ネギの方はまさにその通りなのだが。が、それを聞いた刹那は怒り出していた。詳しくは知らないが、図書館島の地下は危険だと聞いたことがあるのだ。

「連れ戻してきます!」
「待て。餌を泳がせてるんだから、邪魔しないでくれ」

今にも駆け出しそうな刹那を止める和也だが、ミーナリア以外の全員が首をかしげていた。というのも――

「あの、餌とは?」

「坊主のことだ。どうも、別の悪魔が入り込んだみたいでね。前の魔物は坊主を狙ってたみたいだから、今回もそうかなと思って泳がせてる」
「そんな……」

刀子の疑問に和也がそっけなく答えるが、ネカネはそれを聞いて青ざめていた。弟が悪魔に狙われてると聞いて、思わず最悪の事態を考えてしまったのだ。

「それで餌ね……まったく、ひどいことをするもんだ」

「俺が何者かっての忘れたか? まぁ、坊主には一応保険は掛けといたがね」

呆れた様子の真名に和也は顔を向けて答える。もっとも、無表情でだが……その会話にわからない部分があって、美空とココネは首をかしげていた。そう、2人は知らないのである。和也が悪魔だということを……正確にはそのハーフだが。
その時、刹那があることに気付いて、顔を図書館島に向けた。今、このかはネギと同行している。もし、悪魔がネギの前に現れたら、同時にこのかも――

「どう考えても危険です! 早く連れ戻さないと――」
「悪いがあっちの方が早かったみたいだぞ。餌に喰いついた」

やめさせようとする刹那だったが、いつの間にか和也は立ち上がっていた。笑みを浮かべた顔を図書館島に向けながら――



その少し前、ネギ達は仕掛けられた罠をかいくぐり、本当に図書館なのかと疑いたくなるような道のり――何十mもの高さもある(下手をするとそれ以上かもしれないが)本棚の上を歩いたかと思えば、その本棚からロープをつたって降りたり――なぜかある浅い湖の中を歩いて渡ったと思えば、今度はほふくでなければ通れないような狭い所を通り(なぜか、その中にも本棚がある)――
大変な思いをしながら、ある部屋へと来ていた。まるで神殿のようなな所……本棚がなければ、壮観なものだろう。

「す、凄すぎる〜!?」
「私、こういうの見たことあるよ。弟のPSで」
「ラスボスの間、アル〜」

そんなのは置いといて、出てきた場所になにやら賑やかなバカレンジャー達。

「魔法の本の安置室です。とうとう着きましたね」
「こ、こんな場所が学校の地下に……」

一方、夕映は来れたことに感動しており、アスナはなにやら呆れてかわいた笑みを浮かべてたりしてたが……その時だった。ネギとアーニャが何かに気付いたようで、表情が固まっている。

「うそ……あれって……」
「メルキセデクの書……こんな島国にあったなんて……」
「あれって、そんなに凄い本なの?」

部屋の奥に安置されている本を見て、驚いている様子の2人。それに気になったアスナは声をかけるが、

「凄いなんてもんじゃないわよ、あれは!」
「最高とも言われる魔法の本ですよ! ぼくも初めて見ますけど、確かにあれならちょっと頭を良くするくらいなら出来るかも……」

怒り出すアーニャの横でネギが解説する。もっとも、その事実の為か戸惑い気味ではあったが。

「やった〜!!」
「一番ノリアル〜」
「あ〜、あたしも〜」

それを聞いたバカレンジャーの面々は喜びながらメルキセデクの書に駆け寄ろうとしていた。これなら、最下位脱出出来るというので頭が一杯で、考えられることに気付かずに――

「みんな、待つんや〜!」
「そうよ! あんな貴重な本に罠が仕掛けてないわけないでしょうが!」
「そうですよぉ〜!」

このか、アーニャ、ネギはバカレンジャー達よりも冷静だったため、そのことに気付いて呼び止めようとするが……

「確かに……しかし、あなたを追っていたらこんなものを見つけるとは思いもしませんでしたが――」
「え?」
「誰アルか?」

 き覚えの無い声にバカレンジャー達は立ち止まり、ネギやアーニャも辺りを見回す。そんな時であった。メルキセデクの書の横に黒いタキシードに似たものをを着た1人の男性が現れたのは……それに驚くネギ達。それもそうだ。彼はまったく何も無い空間から、染み出すかのように現れたのだ。

「なにあれ〜!?」
「ただ者ではござらんようだが……」

明らかに驚くまき絵の横で、楓は油断なく構え始めた。気付いたのだ、あの男がただの人間ではないことに。

「ネギ先生、あの方も魔法使いですか?」
「いえ、違うと思います。だってあれは……」

いつの間にか横にいた夕映の問い掛けに、ネギも男に視線を向けつつ答える。一見すれば、魔法を使って現れたように見える。魔法の存在を知る夕映はそう思ったのだ。だが、ネギはそれを否定した。
なぜなら彼が現れた時、魔法の作用みたいなものがまったく感じられなかったのである。でも、同時に戸惑う。ならば、あの男は何者だというのか?

「さて、本の方は後回しにしましょう。ネギ・スプリングフィールド君でしたね。あなたの首を持ってくるように命じられておりますので、さっさと終わらせてもらいます」
「へ?」
「ちょっと、どういうことよ!?」

男はそう言いながら指揮者のように両手を挙げる。その言葉にアーニャは思わず声を漏らし、アスナが慌てて聞き直そうとした時だった。
安置室が紅い何かに包まれていく。それはまるで血のように紅く……それと共に何かがいくつも現れる。ドクロの顔に全身をすっぽりと包むボロボロのローブと骨だけの手には巨大な鎌を持つ、死神に見えるもの――まるで爬虫類が人になったようなものに、人と変わらぬ大きさの両手にナイフを持つ操り人形と動き出す石像――

「あわわわわ……はぅ〜」
「まき絵ちゃん!?」
「大丈夫か〜?」

慌て出すまき絵だが、雰囲気にあてられたのらしく、気を失ってしまう。慌てて抱きかかえるアスナと心配そうに様子を見るこのか。

「なんなのですか、これは……」
「あ……ああ……」

戸惑う夕映の横でアーニャは明らかに怯えていた。彼女にはこれらがなんなのか、なんとなくだがわかっていた。わかったからこそ恐怖する。どうにもならないと恐怖する。だって、あれは――

「ぼくの生徒に手出しはさせません!」

その中でネギは彼女達の前に出て、杖を構える。ネギもアーニャと同じようにこれらがなんなのかがわかっていた。わかっていたけど、逃げることはしなかった。逃げるわけにはいかなかった。だって、ここには大事な生徒がいるから……

「あれってなんなのよ、ネギ!?」
「たぶん……魔物です。それにあの人は……」

「ご名答。まぁ、魔法使いならばわかって当然だったかな? ついでに気付いているようだから自己紹介させていただこう。私の名はバゼル。ある方の命により、君の首を貰い受けに来た悪魔です」

「悪魔でござるか……」

アスナの疑問に答えるネギにそう返しながら名乗る男、バゼル。そのバゼルの正体に楓の目付きが変わる。古菲は状況を理解出来てはいなかったがヤバイということだけは感じ取り、構えを見せる。

「勇敢なお嬢さん方だ。でも、それもいつまで続きますかな?」

バゼルがそういうと1体の魔物が襲い掛かる。アスナやアーニャ、このかと夕映が立ちすくむ中、ネギは怯えながらも、楓と古菲は相手を見据えながら構えて――



「じゃあ、ネギ達は――」
「襲われてる真っ最中というところだ。じゃ、さっさと行くか」

その頃、外では心配のあまり青くなっているネカネの言葉に和也は気楽そうに答えると図書館島へと向いた。

「行くのかい?」

「当然。行かなきゃ損だしな」
「あ、なら私も……」

真名に和也がふっと笑みを漏らしながら答えると、ネカネがおずおずとそんなことを言い出す。心配だった。ネギが悪魔に襲われると聞いて……だから、確かめたかった。ネギの無事をこの目で。もちろん、怖い。悪魔と会うのは……でも……でも、ネギがどうなっているか気が気じゃなかったから――

「しょうがないな」
「きゃ!?」

ふっと息を漏らす和也。次の瞬間、ネカネを抱きかかえていた。いわゆる、お姫様抱っこという形で。ネカネはそのことに驚くが、すぐ後に顔を紅くしていた。まさか、こんなことをされるとは思わなかったことと恥ずかしさゆえに。
このことに美空は顔を紅くしつつも「おお〜」と声を漏らし、ココネはじっと見つめ、真名はふむと憮然とした様子で見ており……刀子とシャークティ、刹那はどこか羨ましそうに見ていた。ミーナリアはそれをくすくすと笑って見ていたが。

「急いだ方が良さそうだしな。悪いが少し揺れるぞ」
「え? きゃあ!?」

その言葉にネカネが疑問に感じる前に、和也は図書館島へと駆け出した。そのあまりの速さに思わず悲鳴を上げるネカネ。その後ろをミーナリアが追いかけ、刀子達もお互いに顔を見合わせた後、その後を追うことにした。先を行く和也とネカネ。だが、その先でなにやら慌てているハルナとのどかの姿を見つけ、ミーナリアと共にその場に降り立った。

「何を慌てている?」
「和也さん、いつの間に!? って、そんな場合じゃなかった。ユエ達が〜」

未だネカネを抱えたままの和也の問い掛けに、ハルナは慌てながらも説明を始める。その間、抱きかかえられたネカネは顔は紅いまま。のどかもそれを見ていて、なにやら羨ましそうにしながら同じく紅くなっていたが。

「なるほど。魔法の本を取りに行った坊主達と連絡が取れなくなったわけか」

慌てて要領を得ないハルナの説明からそう判断する和也。その間に刀子達も追いつき、話を聞いていた。

「ところでネギ先生達はどこにいるんだい?」

「マッピングはしてたけど、詳しい所まで良くはわかんない。結構、深い所で……行くのに2時間くらいは掛かってたし……」

「そんな!? それでは間に合わないじゃないですか!?」

真名の問い掛けにハルナはマップを見ながら答えるものの、それに刹那が慌て出した。和也によれば、今ネギ達は悪魔に襲われてるはず。このままではこのかが……刹那はそれを危惧していたのだ。

「ふむ、保険を掛けといて正解だったか」

和也がそんなことを漏らした時だった。いつの間にか現れた大きな魔方陣の上に立っていた。ネカネやミーナリアも一緒に……気が付けば、刀子達もその魔方陣の上に立っている。

「なになになに!?」
「飛ぶぞ」
「トブ?」

それに慌て出す美空をよそに、和也はそんなことを言い出す。ココネが何のことかわからず問い返すが……その時には彼らは魔方陣を残し、姿が掻き消え……やがて、魔方陣も地面に吸い込まれるかのように消えていくのだった。



「ラステル・ア・スキル・マギステル……魔法の射手!光の35矢!!」

呪文を唱えいくつもの魔法の矢を放つネギ。魔法の矢は死神の姿をした魔物に当たり――

「ハッ!」

そこに古菲が構えから繰り出す拳をその魔物の横腹に打ち抜き――

「ふっ!」

楓が数本のクナイを撃ち出す。それが魔物に次々と突き刺さり、魔物は解けるかのように消えていった。

「これで3匹……で、ござるか……」
「キリがないネ」

片手に3本のクナイを指に挟んで持つ楓はそんなことを漏らす。表情こそ普段のままだが、顔には汗が浮かんでいた。古菲は表情に余裕が無い。無理もない。2人が着ている服はボロボロであり、体の方も泥などで汚れている。良く見れば、傷もある。ほとんど浅いものなので、心配するものでもないが……状況としてはかんばしくない。
ネギもまた、2人と同じような状態にある。バゼルが放つ魔物はそのどれもがネギ達には強力な力を持っていた。それを楓と古菲との協力でなんとか還しているのだが……内心、ネギは悔しかった。本来なら、自分が守らなければならない生徒に守られながら戦うこと……でも、今はそんなことは言ってはいられない。
自分には守らなきゃならない生徒がいる。アスナにこのか、夕映にまき絵。それにアーニャ……その彼女達はネギ達の後ろで彼らの戦いを見守っていた。アスナとこのかは心配そうに。アーニャは怯えながら…… アスナはどちらかといえば悔しさもあった。何も出来ない自分に。なぜ、そう思うのかはわからないままで――

「なんで……なんで、ネギはあんなのと戦えるのよ……」

怯えるアーニャが漏らす疑問。わからなかった。あれだけの数の魔物に敵うわけが無い。今、戦えているのは魔物が1体づつ来ているからだ。それと楓と古菲の協力のおかげで戦ってこれる。でも、あれだけの魔物が一気に襲い掛かってきたら、確実に殺される。そんなわかりきったことなのに……
それでも戦うのは、ネギが幼い頃に同じような状況にあったからだ。もっとも、それを経験したからといって怖くないわけではない。本音を言ってしまえば、アーニャと同じようになってもおかしくはなかった。でも、そうなってしまったら、守りたいと思ったものを守れないから……それを知ってるからこそ、戦おうとする。
だが、それだけではない。ネギを突き動かしているものは。

「たぶんな。信じとるんよ。来るのを……」
「え?」

その言葉にアーニャは顔を向ける。話したであろうこのかは笑顔だった。怯えの色などまったくない、笑顔を。

「うちもな、怖いんよ。本当は……でもな、来るって信じてるんや。せっちゃんや……あの人が…… たぶん、ネギ君も同じなんや。だから、ああして戦ってるんやと思う……」
「あの……人?」

笑顔で語るこのかの話の意味をアーニャは理解出来てはいなかった。誰がここへ来るというのだろうか? こんな奥深い所に……だが、このかの話は間違いではない。ネギは待っているのだ。あの半悪魔が来ることを――

「ふむ、がんばりますね。1体づつとはいえ……ですが、いつまでもちますかな?」

「楓さん、古菲さん、がんばってください! 助けは必ず来ます!」

バゼルの言葉を遮るかのようにネギは叫ぶ。そう、来ると信じて……だが、それを聞いたバゼルは笑みを浮かべていた。

「助け? 無駄ですよ。たとえ、気付いたとしてもここに来るまでに時間が掛かるのはあなた方も知っているでしょ? それにここは私の結界で隔離されています。間に合ったとしても、助けは来ないでしょうね」

楽しそうに語るバゼルの言葉に、アーニャは表情を歪める。絶望……そんな思いが彼女を満たしていた。助けが来ない。そなわちそれは自分達の……一方でネギは表情を変えず、睨みつけるかのように顔を向けていた。

「あの人は……カズヤは絶対に来る! だから、こんな所で負けられない!」
「カズヤ?」
「誰アルか?」

決意を秘めた表情で叫ぶネギ。もっとも、出てきた名前に楓と古菲は首をかしげていたが。このことにバゼルの顔がわずかに歪む。本来ならば絶望し、恐怖に歪むこの状況下でありながら、ネギはそんな色を見せないのだ。それがバゼルには面白くはない。ならばと右手を軽く上げる。今度こそ、完全な絶望を与えるために……

「ならば、それが間違いだったと証明してあげましょう。後悔しなさい。くだらない希望を持ったことを」

バゼルの言葉と共にいくつもの魔物が襲い掛かる。

「「ネギィ〜!?」」

それを見たアスナとアーニャが叫び、ネギが杖を構えた……その時だった。突如、ネギのポケットが光ったかと思った時、彼の前に大きな魔方陣が浮かび上がる。

「なんだ!?」

魔方陣が浮かぶと同時に襲い掛かろうとしていた魔物の群れが弾き飛ばされ、そのことにバゼルが驚く。それでも1体の魔物が飛び込もうとするが、鎌の柄をつかまれたかと思うとあっさりと折られ――

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」

逆にその鎌に袈裟斬りされ、断末魔と共に掻き消えていった。

「な……なに?」
「あれって……」

いきなり起きたことに戸惑うアーニャだが、アスナは気付いた。そこに誰がいるかを……

「何事だ……これはぁ!?」
「ふむ、パーティには間に合ったか」
「ああ……あれ?」

バゼルが叫ぶ中、そんなのん気な声が聞こえる。それにこのかは顔を輝かせるが……次の瞬間、その顔が引き攣る。魔方陣が消えると、そこには和也や刹那、真名に美空にハルナとのどかにミーナリア、それにこのかが知らぬ女性や少女がいた。それはまだいい。
問題なのはなぜ和也がネカネをお姫様抱っこしてるかであった。それを見て、思わず思考が停止してしまったのである。

「なんだ、貴様らは! どうやってここに来た!?」

「ん? 別に簡単だぞ? 壊すのも通るのも。ま、急いだ方が良さそうだったんで、ネギに持たせた転移用のゲートを使ってここに来たんだがな。それと逃げるなよ? 悪魔とケンカ出来るんだからな。まぁ、ここに張ってある結界利用して逃げれないようにさせてもらうけど」
「お嬢様! 大丈夫ですか?」

バゼルの叫びに和也はネカネを下ろしながらのん気そうに答える中、ミーナリアが魔力の塊を上へと向けて放つ。その魔力が結界に触れると、結界の色が赤から青へと変わっていく。その中、刹那は急ぎこのかの元へと駆け寄っていた。このかはまだ顔が引き攣っていたが……一方でバゼルの顔が更に歪んでいく。許せなかった。なぜなら――

「簡単だと!? ふざけるな! 半端者のぶんざいで我が結界を素通りし、更には作り変えたというのか!?」

「実際にやっただろうが。あ、それと作り変えたのはミーナリアだぞ。ついでに言えば、モノホンの悪魔だけどな」
「ええ!?」

激怒するバーセルに対し、和也はあくまでものん気なままだった。話を聞いていた美空は驚いていたが。まぁ、ミーナリアが悪魔だということを知らなかったので、当然といえば当然だろう。同じく知らなかったココネもポカンとミーナリアを見ていた。

「カズヤ……転移用ゲートって? 僕、そんなのもらって――」
「朝に渡したあれだよ。入り込んだ悪魔がいたんだが見つからなくてね。だから、狙われてるかもしれない坊主を餌にしたと」

ネギの戸惑いに和也はしれっと答えるが、それを聞いたアスナとアーニャの目が鋭くなる。まぁ、いくら悪魔をおびき出すためとはいえ、10歳の子供を囮に使うというのは許せないものがあったからだ。2人の場合、他のも含まれるが。
一方、バゼルの怒りは膨れ上がるばかりだった。和也が半端者……ハーフデビルであることは見た時にわかった。そして、彼ら悪魔にとってハーフデビルは中途半端な存在……不完全な悪魔。故に大した力を持たぬもの……それが彼ら悪魔の大半の認識である。 なのに、その和也が簡単と言う。それは許せないことだった。半端者のくせに……

「ならば、後悔させてやる! そのような大口を叩いたことをな!」

バゼルの怒声と共にいくつもの魔物が襲い掛かる。和也はといえば、静かにそれを見ていたが……両手を広げるとその双方の手に二本一対の刃が握られていた。
2本とも同じ形……日本刀と同じような反りを持つ両刃の大振りなナイフ。握り手の所にまで刃はあり、そこは片刃になっている。そんな同じ形の二本一対の刃。たった1つの違いは色だろう。右手が黒。左手が白の刃だった。もっとも、魔物達がそれに動じるわけもなく和也に襲い掛かるのだが――
風を切る音が聞こえたと思った時、和也は両腕を交差するように構え……和也に襲い掛かろうとした魔物達が動きを止める。いや、止まったわけではない。襲い掛かろうとした魔物達の半分がバラバラになりながら燃えていき……残った半分はまるでレンガが砕けるような形で体が崩れ落ちていった。
それを見たバゼルは驚愕の表情を見せる。何が起きたのかすら、彼は理解出来ていなかった。

「奔れ、ケルベロス」

その間に和也は黒の短剣を投げ――

「屠れ、フェンリル」

直後に白の短剣も投げる。放たれた2本の短剣は円盤のように高速回転しながら魔物達へと飛んでいき、切り裂いていく。黒の短剣に斬られた魔物は炎に包まれ、白の短剣に斬られた魔物は固まる。まるで凍りついたかのように……しかも、2本の短剣は意思があるかのように魔物に向かって飛んでいく。

「さてと、俺も行くか」

そう言いながら和也は背中の大剣を右手に持ち、魔物の群れへと向かっていく。その様子をネギ達は呆然と見ていた。魔物を切り裂いていく今の和也の姿は言い表すのならば暴風……以前、ネギ達が見たような優雅さは無い。むしろ、刹那達が前に見た的確さに近いが……速さがその時の比ではなかった。
まるでビデオの早回しを見てるかのような動きに、一見するとただ闇雲に大剣を振り回しているようにしか見えない。だが、速く的確に魔物を屠っていく。一振りで2、3体の魔物をまとめて――

「きゃあぁぁぁぁぁ!?」

悲鳴が聞こえ、和也を除く全員がそちらを向くとこのか、アスナ、アーニャが魔物に襲われようとしていた。このかが悲鳴をあげ、アスナは魔物を睨みつけ、アーニャは恐怖からか顔を逸らしていた。その彼女らの前に刹那が刀を構えて立つ。このかを守る為に。

「アイヤー!!」

その魔物に古菲が飛び込んで蹴りを喰らわせ――

「魔法の射手!光の22矢!!」

そこにネギが魔法の矢を撃ち込み――

「斬岩剣!!」

怯んだ所を刹那が切り裂く。それによって掻き消えていく魔物……

「なんだ、やれるじゃないか。じゃ、そっちはそっちで任せる」

剣を肩で担ぎつつ、そんなことをのたまってから再び魔物に向かっていく和也。ネギ達はそれを聞いて呆然としてしまうが、逆にシャークティ、刀子、真名は構えていた。というのも――

「確かに……この状況では自分の身は自分で守った方が良さそうですね」
「ええ……あちらはあちらで忙しいようですし……」
「やれやれ……後で学園長に割増分をもらわないと割りに合わないな」
「がんばってね〜」

シャークティの言葉に、刀子が同意しながら自分の刀を抜き、真名はやれやれといった様子でライフルを構える。で、ミーナリアは明らかにやる気が無いって様子で手を振っていたのだが……

「あんたね! 悪魔なんでしょ! 和也の仲間なんでしょ! 戦いなさいよ!」

「ん〜、和也がやれって言うならいいけど、別に必要なさそうだしね〜」

怒り出すアスナだが、ミーナリアといえばお気楽な感じで返していた。ミーナリアは和也至上主義的な所があるが、和也のために率先して動くことはあまりない。必要なこと、そうでないこと。それをわかった上で行動している。ネカネにはそう見えてしまう。じゃあ、自分は……ふと、そんな不安が出てきてしまう。自分は和也にとってどうなのだろうかと……
その和也はといえば大剣を振るい、次々と魔物を屠っていく。その光景にバゼルは怒りで顔を歪めていた。半端者であるはずの和也に、自分が呼び出した魔物を次々に倒される。彼にとって、それは屈辱以外の何者でもない。殺す……思い付く限りの屈辱的なやり方で……奴を……そのことを考えた時、バゼルの目にあるものが映る。

「いけ〜! やっつけろぉ〜!」

なんだかノリノリで応援しているハルナと、興味深そうに眺めている美空。美空は頭巾とマスクで顔を隠してる……つもりだが。その横ではココネも無表情ではあるが、和也の戦いを見ていた。その彼女らはアスナ達から離れた位置にいる。和也も前に出ていて……
そのことにバぜルの顔が愉悦に歪む。そして、思い描いたことを実行する為に魔物を動かす。己の屈辱を晴らすために。

「ハルナ! 美空! 危ない!?」
「え?」
「なにって、私はそんな名前じゃ――」

アスナがそれに気付いて叫ぶが、ハルナと美空は何のことかわからずきょとんとする。すぐに美空は正体を隠そうとして……気付いた。自分達に襲い掛かる3体の魔物に……

「美空!?」
「く、ここからじゃ狙いが……」

その事実に固まるハルナと美空。シャークティは悲痛な叫びを、真名は焦りで表情を歪めていた。シャークティの位置からでは離れすぎており、真名の位置からでは2人が邪魔になって魔物を狙撃しづらいのだ。

「あ……」

振り上げられる魔物の腕。それを見たハルナはダメだという絶望感から声を漏らす。美空も思わず顔を背け、ココネはなんとかしようと呪文を唱え始め……次の瞬間、魔物達が殴られたかのように横へと吹っ飛んでいった。

「はれ?」

いきなりのことに頭が付いていかず、その光景に顔を向けるだけのハルナ。美空もなにも起きないことに不思議に思いながら顔を向けると、ココネが呆然と何かを見ていた。気になってそちらへと顔を向けると……和也が持っていた大剣に串刺しにされ、壁に張り付けられた魔物達の姿だった。

「ふ、仲間を助ける為に自らの武器を手放すとは、なんと愚か! やはり、半端者ということ……」

壁に張り付けられた魔物達が消える中、それがおかしなことのように語るバぜル。だが、あることに気付いて、言葉が止まる。いつの間にか、和也の右手には2mほどの赤さびた槍が握られていた。刃の部分がやや大きい以外はシンプルな造り。 一見するとあっさりと折れそうなものだが、どこか相容れぬものを感じる。そのためにそれ以上の言葉が出ずにいた。
和也はそれを宙に浮かぶバゼルの真下に刺さるように投げ、それと入れ替わるように3mほどありそうな騎士姿の石像が斧を振り落とそうとする。

「いやぁ〜!?」

その光景に美空が悲鳴を上げるが、その斧は和也が持つものによって防がれる。それはハルバード―― 明らかに和也の身長よりも長く、何よりも文様が刻み込まれた刃は大きかった。全長の約半分はある。それを両手で持ち直すと石像の斧を受け止めた体勢から振り抜き、両断していった。

「く……」

その光景にバゼルは悔しげに顔を歪める。自分が召喚した魔物の群れはすでに半分近くまで減らされていた。投擲されたケルベロスにフェンリル、それと和也とネギ達によってだ。予想外だった。
本当なら、結界によって閉じ込められたネギ達をいたぶりながら殺すつもりだった。だが、ふたを開けてみればどうだ。来ないと思われた仲間が来て、その中に半端者がいて……その半端者によってこのような状況になってしまった。 許せなかった。だから、潰す! その憎悪を胸に更なる魔物達を呼ぼうとして――

「混沌を誘え、ゲヘナ」

和也の言葉を放つと床に突き刺さる槍が爆発したように衝撃を放った。いや、それは衝撃と言えるのだろうか……ある意味、衝撃には違いない。それによって巻き込まれた死神もどきと人形は吹き飛ばされ、体がバラバラになりながら消えていく。
その一方で異変が起きる。歪んでいるのだ、槍を中心にした空間が……精神が相容れることが出来ない何かに。そのことにバゼルは顔を歪める。召喚というのは以外にデリケートな魔法に分類される。何を呼び出すかにもよるが召喚する際、儀式や魔法などで空間を歪め、それを門(ゲート)にし異なる空間にいるものを呼び出す。
が、このように初めから空間が歪んでいる場所ではそれが出来ない。相互干渉を起こし、何が起こるかわからないからだ。すなわち、召喚を封じられたことになる。その事実にバゼルは憤怒し……気付かない。槍の正体に。いや、和也が持つ武器の正体に――
その間、和也はといえば、ハルバードであらかたの魔物を片付けた後、そのハルバードが消え――代わりに戻ってきたケルベロスとフェンリルを手に取り、構えた。

「どうした? これで終わりなのか? それじゃつまらんぞ?」

構えを解かぬまま、和也はバゼルを見ながら挑発する。それにバゼルの顔が更に歪む。いや、人のものではなくなった。タキシードに包んでいた体はそれを破きながら膨張し、背中にはコウモリのような大きな翼が生え――顔はどす黒く変色し、小さな角がいくつも生えた額に、牙だらけの口。瞳は完全に真っ赤になっていた。

「ふざけるな、半端者! 貴様のような奴など、ひねり潰してくれるわ!?」

その場にあるものを震わせるかのような怒号を吐くバゼル。それと同時に残った魔物の群れ全てが和也に襲い掛かる。だが、気付かない。馬鹿にされたと感じて……だが、それは和也の狙い。魔物の群れを自分に向け――

「バースト……ダンス!」

舞い上がる爆炎と吹き荒れる吹雪。それらがケルベロスとフェンリルを振るうごとに起こり、ぶつかって弾ける。それによって生まれた衝撃に魔物の群れは一瞬動きを止められ、ケルベロスとフェンリルによって屠られた。また、爆炎と吹雪はそれ自体が魔物を怯ませ、惑わす。その隙さえも見逃さず、和也は切り裂いていく。
それは一種のダンス。和也が振るうたびに起こる爆炎と吹雪と衝撃。それは一種の舞台演出にも見え、剣舞はそれ自体がダンスとなる。それを魔物の群れは止めることが出来ない。出来ない為に屠られていき、ダンスが終わった時には魔物の群れはそのほとんどが姿を消していた。
気が付けば和也の手からはケルベロスとフェンリルが消え、壁に突き刺さっていた大剣を抜き取り、バゼルへと顔を向ける。

「半端者がぁぁぁぁぁ!!?」

そこに襲い掛かるバゼル。右手の爪を鎌のように伸ばし突き刺そうとするが、和也はそれを大剣で受け止めた。

「半端者ね……俺から見れば、あんたの方がそうだと思うけど? こんなことで怒ってどうするよ?」

「黙れ! 私は完全なのだ! 完璧なのだ!」

「下っ端が良く言うよ」

怒り狂うバゼルに挑発していた和也は吐き捨てるようにつぶやいた。和也にはわかっている。この悪魔は爵位持ちではない。力はあるが一般的には脅威というだけだ。それを召喚した魔物によって補っていたに過ぎない。そのことに和也の中で急速に興奮が冷めていく。このまま続けるのは意味が無いと判断したから……

「ふざける――」

バゼルが憤怒のあまり叫ぼうとした時、それは遮られた。和也に左手で顔をつかまれたことによって。最初はそれを払いのけようとした。だが、出来なかった。見てしまったのだ、和也の目を。“あまりにも冷たく、光が消え去った”瞳を――

「ひぐぅ!?」


それに怯えた瞬間、バゼルの喉は和也の剣によって貫かれていた。

「消えろ」
「があぁぁぁぁぁぁ――」

和也がつぶやくと共に、バゼルの体が黒い炎に包まれる。それに悲鳴を上げ、体を震わせるが……少しして、動かなくなると燃え尽きたかのように、バゼルの体は崩れていく。それと共に、周りの空間も元の景色を取り戻していた。

「お疲れ様。でも、つまらなそうね?」

「最初はそれなりに楽しめたがね。本命があれじゃ、興醒めもいいところだ」

歩み寄るミーナリアに、和也は背中に大剣を戻しながら答える。ネギ達も残っていた魔物を全て倒し終えていた。そのせいか一気に疲れが来て、ネギはへたり込んでしまう。

「ネギ!?」
「あんた、大丈夫!?」
「ネギ先生!?」

それを見て、アーニャとアスナ、のどかが慌てて駆けつけてくる。遅れて夕映も駆けつけていた。その様子をネカネは呆然と見ていた。気が付けば腰が抜けてしまい、へたり込んでいる。戦いの覇気に当てられていたためだ。元々、ネカネは戦う者ではないのだから、当然といえば当然なのだが……でも――

「大丈夫か、嬢ちゃん?」

不意に声を掛けられて、顔を上げてみる。そこには和也がこちらに右手を差し伸べていた。それにネカネは恐る恐る手を沿え、ゆっくりと立ち上がる。なぜか、嬉しくは無かった。気持ちがどんどん沈んでいく。
自分は何をしてるのだろうか? 確かに自分はなんの役に立ってはいない。それは最初からわかっていた。自分はただネギが心配だから、その安否を確認したくて、無理を承知で連れてきてもらった。それはわかっていたつもりだった。でも、和也の戦う姿を見ていると、ふと考えてしまう。自分はあの人のそばにいていいのか……と――

「いつまでそうやってるつもりなん?」
「お、お嬢様……」

むくれた様子のこのか。刹那が慌ててなだめようとしてるが、なにやら和也のことが気になっている様子だ。気が付けば、真名に刀子、シャークティも和也の方を見ている。こちらはこのかに似た様子だが。

「あのさぁ……いつまで握ってるわけ?」

ハルナがそんなことを聞いてくる。ただ、彼女にしてみれば珍しく、どこか面白くなさそうな顔をしていた。いつもなら、この場面を利用してあれこれしてきそうなものだが……それをしない彼女に気付いて、夕映が少し驚いていたりする。ちなみに気付かれていないが、美空とココネもハルナと似た感じで和也のことを見ていたりする。
で、聞かれた和也。ふっと笑みを浮かべ――

「なんだ、して欲しかったのか?」

なんてことを言い出すが……それを聞いた刹那と真名、刀子にシャークティ、ハルナに美空は顔が紅 なってしまう。ココネも少しだが紅くなっていて……ここでハルナと美空がふと気付く。自分は何をしているのか? と――
ハルナは和也が戦う姿を見るのはこれが初めてではないし、美空も助けられたのは2度目である。まさか、そのことで惚れたなんて……と、その言葉を認識すると、気恥ずかしさからか紅くなってしまう。そんな2人の横で、このかはといえば――

「いきなりそないなこと言われても……」

と、もじもじとしていた。顔も若干紅い。どうやら、羨ましかったようである。そんな様子をミーナリアは楽しそうに見ている。

(あ〜……ワシ、どうしたもんじゃろ……)

こちらは石造に意識を移し、様子を見ていた学園長。ネギ達がこの部屋に来た時にはすでにいたのだが……バゼルの結界のせいで石造を動かすことが出来なかったため、助けに行けず……こうして、出るタイミングを完全に逃していたのだった。
どうしたものかと考えていると、和也がこちらに顔を向けていた。しかも、その顔がにやけている。

(もしかしなくても……バレてる?)

それを見てるとそう考えてしまう。そして、もしそれをみなに話されてしまったら、どうなるのか? そのことを考えると、なぜか嫌な予感がしてきて……あえて、ただの石造のふりに徹することにしたのだった。



まぁ、そんなこんながあった後、ミーナリアの転移魔法を使い、全員無事地上へと戻ることが出来た。 ちなみにメルキセデクの書はどうしたかといえば、和也の「んなのテストにはなんの役にも立たない」の一言でほっとかれることとなった。こうして、今回の襲撃事件は幕を閉じる。襲撃事件は……

「さてと……ネギから、大体の話は聞いた。ネギが課題をクリアするためには、お前さん達の成績アップは必要事項となる」

女子寮管理人室の中で和也はそう言い放つ。それを聞くのはテーブルを取り囲むように座るバカレンジャー+アーニャ。その後ろでネギ、のどか、真名、刹那、ハルナ、ミーナリア、美空とココネが同じように床に座り、聞いている。

「管理人さんの部屋に男の人がいるのは聞いてたけど……あの人がそうなの?」
「まぁ、そうなのか……な?」

「で、だ……俺とネギで勉強を教える。クラス平均は取れるようになれ」

そのことが気になるまき絵の問いにアスナは困った様子で答える中、和也はそんなことを言い放つのだが……

「和也さんが勉強が出来るようには見えないのですが……」

「安心しろ。これでも東大模試でA判定取ったことがある」

たぶん、この場にいる誰もが思うこと――ネギは和也が教えるということに感心した様子だが――を、代表して夕映が聞いたのだが……和也の返事はそれをくつがえす……ていうか、ネギとアーニャ、ミーナリアとココネ、古菲以外のみなを驚かせることとなった。
まぁ、ネギ達の場合東大の意味がわからなかったからであり、ミーナリアはそのことを知ってるためである。ちなみにだが、それだけの成績を取りながらも和也は東大に……というか、大学には行っていない。理由はめんどくさいからだそうだ。

「嘘だ〜、って顔してる暇があったら勉強始めろ。ちなみに手順は教えるが、答えは教えないのでそのつもりで。また、あまりにもバカっぽいことしてる奴は覚悟しろ。―――色々と
「なにをでゴザルか?」

両腕を組みながら話す和也の言葉に楓は問い掛けるが……答えない。顔も向けないで。それを見た面々に不安が強くなる。特にアスナと夕衛は冷や汗がだだ漏れだった。知っているのだ。和也はやると言ったら、必ずやると。

「あの……私はチヅルに教えてもらうことになってるんだけど――」
「諦めろ」
「なにを!?」

和也の斬って捨てるような返事に、抜けようとしていたアーニャは思わずツッコミを入れてしまう。

「やれやれ……まぁ、がんばってくれよ」

そういって、真名は立ち去ろうと立ち上がる。美空とココネも続くように立ち上がり、3人が振り返ったところで美空と真名の肩を誰かがつかんだ。振り返ってみると、つかんだのは和也だった。表情は変えず、じっと2人を見ている。

「まぁ、なんだ。お前らも勉強していけ」

「え? なんでですか?」

和也の言葉に美空は若干戸惑ったように聞き返す。その顔は少しばかり紅かったりするが。

「ついでだ。そっちの翼の嬢ちゃんも勉強していけ」

「ついでって……」
「私も……ですか?」

あんまりすぎる和也の返事に、問い掛けた真名の頬に一筋の汗が流れるが……巻き込まれた刹那と共に顔が少し紅くなっている。つまり、和也に勉強を教えてもらえるということで……そんなことを考え始めたために。

「なぁ、今思ったんやけど……和也さんはなんでうちらのこと名前で呼ばないんや?」

「特に意味は無いが……名前で呼んで欲しいなら、今度の期末で成績アップしてみろ。そしたら、名前で読んでやる」

このかの疑問に和也が答えた時、何かが部屋の中を奔った。

「ま、ここ最近仕事にかまけてたからね。少しぐらいやっておかないと……成績を下げると、後々面倒だし」
「あ〜、私も……シスターシャークティに睨まれたくないしねぇ……」

と、戻っていそいそと勉強の準備を始める真名と美空。ココネは今まで見たことの無い美空の様子に興味が出たようで、そのそばに座っていた。

「お、お嬢様……その、勉強を教えてもらえないでしょうか? 私はその……成績があまりよろしくないので……」

「ええよ〜。うちも勉強しようおもてたしな」

なぜか、顔を紅くしている刹那のお願いを快く引き受けるこのか。しかし、どこか様子がいつもと違うことに気付いたのはアスナだけだが……

「私もここでやろうかな?」
「え?」
「ハルナもですか?」

ハルナの言葉にのどかは驚き、夕映は戸惑っている。いつもならからかう方に回るはずの彼女がこのようなことを言い出したのに違和感を感じずにいられなかったのだ。

「いいじゃん。それにこの方がなんか面白そうだしね」

と、笑顔でハルナが返したので、いつもの彼女だとのどかと夕映は安堵したが……なので気付かなかった。ハルナの顔がわずかに紅かったことに。

「確信犯……」
「さて、なんのことかな?」

ミーナリアの言葉に和也は顔を向けずに返す。その間に勉強会は始まっていたのだが……そんなこんなで彼女らは和也とミーナリア――実は彼女も和也並に頭が良かった――とネギの指導の元、期末テストが終わるまで勉強会が行われることとなった。
和也の教え方は以外に上手いが、反面お仕置きも凄かった。どんなものかは……彼女らの尊厳を守る為、あえて語らないことにしよう。

「それは……やめて!? そんな……私はショタじゃないのよぉぉぉぉぉぉ!!?」
「そ……それは飲み物では……いつも飲んでるのと変わらない……いや、それは違うのです……」
「や、やめるでござる……それを近づけては……ケロピーはいやぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ねてないアルヨ……だから、そのバチバチいってるの……近づけちゃダメアル!!」
「ヌメヌメ……ヌメヌメはいやぁぁぁぁぁぁ!!?」
「やめなさい、悪魔!! 私は……そんな胸は……欲しいわけじゃないのよぉぉぉぉぉ!!?」


期末終了までの間、バカレンジャー+1人はこんな感じだったし。まぁ、それもあってか、期末の結果は学年トップというものだったが。そんなこんなでネギとアーニャは無事、課題をクリアすることが出来たのであった。
その一方で――

「私は……どうすればいいの……」

ネカネは迷う。このまま、和也のそばにいていいのか? と……迷いは迷いを生み。その迷いから、彼女は抜け出せずにいた。



和也の武器 ケルベロス&フェンリル

魔神具の1つで二刀一対の黒と白の両刃の短剣。魔神具とは魔神の力を持つ悪魔が使っていたとされる意思を持つ武器の総称である。
ちなみにだが、魔神は魔王・神クラスの力を持つとされているが、真偽は定かではない。理由として、その存在が表舞台に現れることがほとんど無かった為である。そのため、魔神具の数は少ない。
ケルベロスは炎、フェンリルは氷の力を持ち、それに斬られた者は燃やされるか凍らされるかのどちらかとなる。また、意思を持っているので投げ放つことで高速回転しながら、得物を半永久的に追いかける。
とある戦いで所持していた悪魔を倒したことで新たな持ち主として認められ、武器の1つとして持つこととなる。
バーストダンスはケルベロス&フェンリルを使用した時のスキル(技)
爆炎で相手を怯ませ、吹雪で相手を惑わし、切り込んでいくものである。また、爆炎と吹雪による対消滅により衝撃波を生み出し、相手にぶつけることが可能。ただし、あくまでけん制なので威力はさほど無い。


和也のパートナー フリムーダ=アザゼス

見た目は大和撫子といった感じの若い日本人女性だが、その実態は100年以上を生きる老婆。自らを魔導技工士と呼んでいる。和也とはデビルウォカーとなるきっかけとなった事件の時からの付き合い。また、和也の銃と装備の一部はフリムの手によるもの。
魔法と現代科学を掛け合わせて独自に生み出した技術を用いて生きながらえており、和也と出会った頃は本当に老婆のような姿をしていた。だが、付き合っていくうちに飽きさせない和也に惹かれるようになり、もっとそばにいたいというのと、体が老いたからという理由で今の体を創り上げる。本人曰く「この歳になって恋をするとは思わなかった」というが、まんざらでもない様子だ。
今の体を創り上げる際、色々と手を加えており、かなりの身体能力を持つが、元々技術者のため戦闘は苦手である。
なお、姿と体型は和也の趣味にそって創り上げたというが、和也自身はそのことを否定している。



あとがき

というわけで、第5話はいかがでしたか? 今回は手直しの繰り返しでかなり時間が掛かりました。
また、フラグ立てまくってみました。大丈夫か、私?(おいおい)まぁ、彼女らとはどうなっていくかは……これからのお楽しみということで。
次回はシリアス……と見せかけて、趣味に思いっきり走ります!(おい)あの版権キャラを出してみたくなりまして……ブーイングが来るかもしれない……
なお、次回はお待たせしました。18禁となります。どんなのかは、お楽しみに〜


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