『立派な魔法使いと歩き続ける悪魔』 第3話 『半悪魔 麻帆良で仕事をする』
次の日の朝。麻帆良学園女子高エリア――
時間的に早い為か、登校する女子生徒の数はまだまばら。そんな中、8名ほどの女子生徒が不良と思われる集団に取り囲まれていた。
「なぁ〜、いいだろ? 学校サボって俺達と遊ぼうぜ」
「嫌です。通してください」
バイクにまたがる不良の言葉に釘宮 円が毅然とした態度で言い返していた。その後ろでは円とチアリーディング仲間の椎名 桜子と柿崎 美砂が心配そうに見ていて、更に横では運動部4人組の明石 祐奈に和泉 亜子、大河内 アキラ、佐々木 まき絵。そして、那波 千鶴も心配そうに様子を伺っている。
彼女らはいわゆるナンパされてるわけだが、大人数に取り囲まれて半ば強要されているような状態だった。このままでは連れて行かされそうな雰囲気の中、円だけが毅然としていられるのはある考えからであった。
なんとか持ちこたえれば高畑が来てくれると……高畑はデスメガネというあだ名で不良達から恐れられている。そうでなくともしばらくすれば先生や警察とかが来てくれるはずだという考えからだった。そして、彼女の考えは間違ってはいなかった。ある意味では――
「いいじゃんいいじゃん。そんな意地張らないで、俺達と楽しいことしようぜ」
「下心丸見えで何言ってんだか。ナンパならそれらしいことを言えよ。ありがちな漫画じゃあるまいし」
不良の1人が声を掛けた時、そんな言葉が聞こえてくる。それに誰もが戸惑った。円もだ。なぜなら、自分達を助けに来た感じではない。逆に不良達を挑発したようなものだった。
「ああ〜ん? なんだてめぇは?」
「新しく雇われた警備員だ」
その挑発に乗るかのように睨みつける不良を気にせず、全身に黒を纏った青年はそう言い放つ。まぁ、和也のことなのだが……、円達はその言葉を素直に信じることが出来なかった。着ている服装が服装なのと見た目が若すぎて、そう見えないだけだが。
「警備員さん……ですか?」
「ああ、昨日雇われたばかりのな。それでだ、ナンパなら街行ってやれ、ガキども」
アキラが少し怯えたような問い掛けに答えると、和也はそう言って不良らを見るのだが……
「ああ〜ん? てめぇに用はねぇんだよ、引っ込めバカ!」
へらへら笑いながら殴りかかる不良の1人。和也をいきがったバカと見ての行動だった。それに円達は息を呑むが、和也は何事もなくそれを右手で受け止め――
「ぐぎゃ!?」
同時に鈍い音が聞こえたかと思うと殴りかかった不良が悲鳴を上げ……
「うがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
殴った手を押さえるかのようにしながら、いきなり地面を転がり始めた。
「たく、脆いな。軽く”握った”だけだぞ?」
不良の突然の奇行に仲間の不良達が戸惑う中、和也は何てこと無いように言い放つ。良く見れば、殴りかかった不良の手はありえない形で歪んでいた。そう、和也は殴りかかった不良の拳を受け止めると同時に握り締めたのだ。あの大剣を軽々と扱うほどの腕力と握力で。
結果、殴りかかった不良の拳は潰れた。肉の組織はずたずたになり、骨も砕けている。人の手としての復帰は……果たして可能なのかというものだった。それがわかったのだろう。不良達の顔色が変わる。恐怖に染まるのが多かったが、中には怒りに顔を歪める者もいた。
「もう一度言う。ナンパなら街行ってやれ。ついでに言うと学校行けよ、お前らも」
なのに和也は変わらぬ様子で言い放つ。それを見ていた円達も戸惑いを隠せなかった。今のはどう見てもやりすぎのような気がしたからだ。助けてくれたのだろうが……今のを見てしまうと、素直に喜べない状況に戸惑う。
「ふ、ふざけんなぁぁぁぁ!?」
この状況にキレたらしく、不良の1人がナイフを取り出すと同時に襲い掛かる。そのままナイフを振り上げて――
「んぎ!?」
その手を振り下ろす前に和也につかまれた挙句、ナイフを握ったまま自分で刺すような形でわき腹を刺された。
「いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
わき腹にナイフが刺さった激痛に不良は悲鳴を上げる。良く見ればナイフを持っていた方の腕にありえないはずの所にもう1つの関節がある。腕を無理矢理ひねられたため、腕の骨が折れたのだ。その激痛も合わさって、不良は地面を転げ回り……
「ぶぎぃ!? んがあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
地面を転がったためことでナイフが動き更に深く刺さった上に傷口が開いてしまい、その激痛で不良はおおよそ人が発せられないような声をわめき散らしていた。
「お、おい……く……くそぉ!」
あまりの状況に戸惑いながらも、不良の1人がナイフを持って和也に襲い掛かった。許せないというよりも混乱しているが故に……自らの愚考に気付かずに。
「ぼぐっ!?」
不用意に和也に近付いた不良は、かかと落しの要領で頭を踏みつけられ、顔を地面に叩き付けられる。その顔から地面を伝って紅いものが広がると、それを見た不良達に怯えの色が出始めた。今更ながらに気付いたのだ。自分達が何を相手にしているのかと……
「う、うわぁぁぁぁぁぁ!?」
恐怖のあまり暴走してしまった不良の1人がバットを持って襲い掛かり――
「あ……」
和也が頭を殴られるのを見て、円が声を漏らす。やられた……彼女らはそう思ったが――
「ふ……ふはははは……なんだよ、驚かせ、え? ごほぉ!?」
殴った不良は顔がほころぶが、腕をつかまれたかと思うと振り回される要領で壁に叩きつけられた。和也によって、壁にめり込むほどに……
「さてと……俺はやると決めたら徹底的にやる主義なんだが……覚悟はいいよな?」
なぜか首をかしげながら問い掛けてくる和也。先程、殴られたのは気にした様子も無い。血すらも出ていなかった。
「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
「ま! 待ってくれぇぇ!!」
「あ、おい……う、うわぁぁぁぁ!!?」
和也の言葉……ではなく、異様さに不良達は怯え、逃げ出していった。それを呆然と見つめる円達。あまりのことに言葉が出なかった。なんというか、助けられたという気がしない。ただ、残虐行為を見せ付けられた気分だった。ていうか、実際にそうなのであるが……
「ふむ、まだ元気だな」
「あ、ちょっと!」
そんなことを漏らして歩き出す和也を祐奈が呼び止める。呼び止めてしまってから、自分のしたことに戸惑う。なぜ、呼び止めてしまったのかに……
「あの……この人達はどうするのですか?」
「ほっとけ。そのうちどっかに運ばれるだろ」
何を言えばいいか悩んでる祐奈に変わり千鶴が問い掛けるが、和也は素っ気無く返した。これには彼女らも戸惑いの色を浮かべるが……
「あの……これはやりすぎだと思います」
そんな中でアキラが意を決したように言い放つ。確かに彼女の言うとおり、和也のやってることはあまりにもひどすぎる。というのは、彼女らも同じ考えだったのだが……和也はその言葉に振り向くと、不敵な笑みを浮かべ――
「ああいう手の奴らは、徹底的に潰さんと意味も無く逆恨みしてくるからな。それに一応警備員だし、嬢ちゃん達に迷惑を掛けるわけにもいかないんでね」
そう言って、和也は右手を軽く振って去っていった。彼女らはそれをただ見送るだけだった。祐奈、アキラ、円、千鶴は少し顔を赤らめていたが……
さて、そんな彼女らの様子を遠巻きに見ていた者達がいた。小柄で左サイドに黒髪を結い上げる少女、桜崎 刹那。長身でやや色黒少女、龍宮 真名である。
「あいつをどう思う?」
「あんなことをする奴を真っ当な警備会社が雇うわけなかろう。どう見たってこっち側の人間だ。ただ……」
刹那の疑問に真名は答えるが……未だ疑問に残ることもある。先程、和也はバットで頭を殴られた。傷を負ったようには見えず、見た目的にも平気そうに見える。これが魔法使いならば、あまり疑問に思うことでもない。
魔法使いは障壁を張ることで全てとはいかないが、身を守ることが出来る。大抵の魔法使いが張る障壁なら、バットで殴られるくらい防ぐことは可能だ。だが、和也はそれを使った形跡は見られない。感じられる魔力はなかなかのものだが、それだけではバットであろうと身を守ることは難しい。
ではどうして……見る限りでは和也は直接殴られているはずなのに……
「まぁ、只者ではないだろうな。それにこっち側の警備員なら、学園長が何か言ってくるだろうし」
「それもそうだな」
真名の言葉に刹那はうなずくが……彼女もまた、疑問を感じられずにはいられなかった。彼は……和也はどこか自分に似たものを感じる。どうしてなのかは……今はまだ、わからずにいた。
さて、逃げ出した不良達はといえば麻帆良から出て、とある路地にいた。バイクで走ってきたにもかかわらず、なぜか皆息を切らしていたが……
「な、なんなんだよ……あの野郎は……」
不良の1人が思わずそんなことを漏らす。あの野郎とはむろん和也のことだ。口に漏らして、怯えから体が震える。あれは異常だった。仲間4人があっという間にやられ……バットに殴られたのに何事も無かったかのように立っていて……
でも、それ以上に怖いのは和也の表情だった。無表情……まるでそのことに無関心かのように表情が変わらず、ただ淡々と機械のようにそれをこなしていく……それが不良達には怖いと思えた。思ってしまって、怒りがこみ上げてくる。
「くそぉ……馬鹿にしやがって……仲間を集めろ! あの野郎を袋にするぞ!」
不良の1人の言葉に他の不良達が沸き上がる。相手は1人。いくら強かろうと束になって掛かれば敵うはずが無い。そうだ、恐れることなんて無い。自分達はここいら一帯では恐れられたグループなのだ。30人……いや、50人以上で行けば――
そんな根拠の無い自信が彼らの中で強くなる。どうやって痛めつけようかと、彼らの中で色々と思い浮かべる。
「一緒にいた女達も捕まえようぜ。それであいつの前で――」
「嬲って、犯し廻すか? その手のことを考える連中ってのは、どこにでもいるもんだな」
不良の1人が厭らしい笑みを浮かべた時、そんな声が聞こえて不良達は固まる。直後に冷や汗を噴出す。そんなはずは無いと不良の1人が考える。あいつは追い掛けてこなかった。例え、途中から追い掛けてきたとしても追い付くはずが無い。自分達はバイクでここへ来た。あいつは乗り物に乗ってはいなかった。だから、追い付くなんて不可能なはずだ。
そう思い込もうとする。だが、現実は無情だった。自分達の目の前に立つ、和也の姿を見て。
「わかっちゃいたが、やっぱり逆恨みしてたか。それはそれとして、仲間の居場所は全部教えてもらうぞ。ああ、そうそう。別に命を取ろうなんて思っちゃいないから、安心しな」
言いながら歩み寄る和也。不良達は怯えながらそれを見ていた。逃げ出したい。なのに、和也から感じられる雰囲気に体が縛られたように動かない。
「命は取らんよ。それ以外は全て諦めてもらうがな。あ、そのバイクいいな。新車だろ? 俺にくれよ。なに、登録の方は問題は無いさ。知り合いにやってもらうからな」
不敵な笑みを浮かべながら和也は近付いていき、不良達はただ怯えながらそれを見ているしかなかった。
――その日、都内各所で青年数十名が暴行を受け、重傷を負うという事件が起きる。全員が全身打撲の上全身をほぼ複雑骨折。中には重度の火傷を負う者もいた。また、麻帆良で重傷を負った青年4人も発狂寸前という症状を起こす。
警察は事件として捜査するのだが、被害にあったほとんどの青年達はしゃべれる状態ではなく、かろうじてしゃべれる者も「黒い悪魔が……」とわけのわからないことを言って怯えるだけだった。また、被害にあった不良の1人が持っていたバイクが盗まれていることが判明し事件の関連性を含め、警察は調査している。
夕暮れ時、和也はバイクに乗って女子寮へと戻ってきた。どこで買ったのか真新しい黒のヘルメットを脱ぎ、女子寮へと入っていく。周りの女生徒達に見られているのも気にせずに。んで、女生徒達といえば和也を見て騒ぎ出していた。
あの人、誰? 男がなんで女子寮に? あそこって管理人室よね? 管理人さんと知り合い? でも、あの人カッコ良くない? もしかして、管理人さんの恋人?
憶測やら興味やらで話が盛り上がる女子生徒達。そんなのを気にせず、和也はヘルメットを肩に担いで管理人室に入っていった。
「あ、和也さん。お帰りなさい。バイクの音が聞こえましたが、もしかして和也さんのですか?」
「ああ、しばらくここに滞在することになるんでな。朝に仕事ついでに仕入れてきた」
「仕事ね〜。祐奈達が騒いでたよ。カッコいいお兄さんが不良達をボコボコにしたって」
ネカネの疑問に和也が答えると、ハルナが顔を出してきた。奥の部屋にはネギ、アスナ、アーニャ、このか、のどか、夕映もいる。
ちなみにハルナの話だが、実際に彼女らは複雑そうな顔をしていた。まぁ、あんな光景を見せられたら当然かもしれないが。んで、これに興味を持った女パパラッチがいる。彼女が和也にたどり着くのは、そう遠くはないだろう。
「なんだ、集まってなにやってるんだ?」
「あのな〜、うちやのどかも魔法教えてもらおう思ってねん」
和也が部屋に入って問い掛けるとこのかが笑顔で答え、のどかはうつむいているが赤くなりながら笑顔であるのがわかる。
「そうか。で、そっちの嬢ちゃんは?」
「アスナよ。私はその……興味はあるんだけど……勉強とか苦手で……」
「嬢ちゃんは魔法よりも手を先に出しそうだしな」
疑問に答えるアスナに和也はそんなツッコミを入れる。アスナは図星だったようで顔が引き攣っていたが。
「そうよね〜。アスナってば、良くネギをどついてたし」
「ア、アーニャ……それは……」
腕を組み、なぜか威張った様子でそんなことを言うアーニャ。ネギはそれを止めようとするが、すでに遅かった。アスナの額に青筋が浮かんでいる。
「なんですって?」
「何よ、本当のことじゃない」
迫るアスナに負けじとアーニャも言い返す。ネギはどうすればいいかわからずただオロオロするだけだった。ハルナはそれを楽しそうに見ており、のどかと夕映はただ見ているだけ。のどかの方は若干ネギと同じ様子だったが。
「はい、女子寮管理室……ああ、学園長でしたか……はい。和也さん、学園長からです」
そんな中、鳴り響く電話に出たネカネからそう言われ、和也は受話器を受け取る。
「はい」
『不良達の一件、やりすぎではないかの?』
「文句を言うだけなら切るぞ?」
学園長の言葉に和也はそう言い放つ。その様子にケンカ寸前だったアスナとアーニャは和也の方に注目していた。ネギ達も一緒になって様子を見ている。ちなみにだが、学園長が言ってるのは麻帆良で起きたことであって、都内のことは起きたことしか知らない。
いくら和也が悪魔でも、1日で不良グループを壊滅させたとは思わなかったのである。それを実行してしまう和也の行動力に恐ろしいものがあるが……
『わしとしてはもう少し穏便にして欲しいのじゃが……』
「バレなきゃイカサマにならないって言葉を知らないのか? それを言うだけのために電話したなら本気で切るぞ」
学園長に言い返す和也の言葉に、ネギ達は呆れた反面納得もしてしまう。なんとなくだが、和也ならそういう犯罪まがいを平気な顔してやりそうな感じがしたからだ。まぁ、実際にやってるんだが……
『まったく……今日の夜9時に広場に集まって欲しい。警備を担当しておる魔法先生や生徒達との顔合わせをしなきゃならんのでな』
「そういうことは先に言え。じゃあな」
『あ、これ――』
用件だけを聞いて和也は受話器を置いた。と、ハルナが興味深そうな顔をしているのに気付く。
「仕事の話だ。顔を出せだと」
「ふ〜ん、そうなんだ」
和也の返事にハルナはガッカリした様子でそんなことを漏らす。何か面白いことが起きたのではと思ったようだ。だが、一方でこのかは不安そうな顔をしていた。
「でも、うち知らんかった……この麻帆良で昨日みたいなことが起きてるなんて……大丈夫なん?」
心配そうな表情で和也を見つめるこのか。その話を聞いて、ネギやアーニャ、アスナにのどかも不安そうな顔をしている。夕映は見た目こそ無表情だが、心情的にはネギ達と同じ。ネカネはうつむいていて、ハルナだけは気楽そうに様子を見ていた。
「まぁ、嬢ちゃんが知らない所で何が起きたっておかしなことじゃない。それに俺は楽しみたくて受けた仕事だからな。心配する必要は無い」
表情を変えずに和也は答える。和也にしてみれば、それはいつものことだった。先に待っているものがなんなのかわからないのは当然だ。だから深く悩まないことにしている。その方が楽しめるから……というのは和也の考え方なのだが。
一方、それを聞いてかネギ達から不安の色が薄れていた。和也ならどうにかしてしまいそうな気がしたから……しばらくして、ネギとアーニャがこのか達に魔法を教え始めた頃には、管理人室は賑やかになっていた。
その頃、学園長室内では受話器を置いた学園長がため息を吐いていた。和也のことは対外的には魔法使い達の事情を知る傭兵としている。ここ最近、西の者達の襲撃に麻帆良にある重要な品物を狙う者達以外にも不穏な輩が増えた為、警備強化のために雇ったことにした。
そんなことをした理由は和也が悪魔であるということ。悪魔を使っていると知れば、そこを付け込んで来る輩が出てくるのは目に見えている。魔法使いを追い出す口実に使われたり、下手をすれば大きな争いの種にもなりかねない。それでも和也を警備員として雇ったのは麻帆良のため……麻帆良に住む魔法使いや一般の人達のためだった。
ネギがこの麻帆良に来るのは昔から決まっていたようなものだった。なぜか? それは彼のサウザンドマスターの息子だからだ。サウザンドマスターは様々な功績を残している。それは同時に彼を妬み、恨む者も生み出していた。それを理由にネギが襲われる可能性は高い。逆恨みも含めた復讐という名の元に……そうなると魔法学校を卒業し、1人になることが多い修行期間が一番襲われやすくなる。それを防ぐ為に卒業証書に細工をし、この麻帆良に来るようにしたのだ。彼が一人前になるまでには守れるように。
だが、実際はあまりにも早く魔物の襲来という形でそれが難しくなる。今後も昨日のようなことが起きると考えるべきだった。そうなると魔法先生や魔法生徒達の負担も同時に大きくなる。そうなってはジリ貧……いずれ押し切られ、麻帆良に住む人達を巻き込んでしまう。それを防ぐべく、和也を雇ったのだが……まさか、昨日の今日で大それたことをするとは思っても見なかった。
和也には目立つようなことをして欲しくは無い。和也が悪魔であることを隠すのが難しくなるからだ。どうしたものかと、悩む学園長。その悩みが意外な形で解決することに……今はまだ、気付かずにいた。
夕食時となったためネギ達は自分達の部屋に戻り、管理人室には和也とネカネだけになっていた。今は夜の8時……嬉しそうに夕食の後片付けをするネカネ。和也はソファーに横になっていたが、何かを感じ取って体を起こす。
「どうしました?」
「なに、面白そうな気配を感じてね。ちょっと行ってくる」
答えると和也はソファーから立ち上がり、すぐさま部屋を出てしまう。ネカネは心配そうな顔でそれを見送っていたが……
「がんばってくださいね。和也さん……」
ふと微笑を見せるのだった。
「はははは、魔法使いもこうなっては形無しだな」
「くそ……」
黒い背広を着た男性の言葉に小柄な少女、刹那は悔しそうに顔を歪めていた。彼女は捕まっていた。正確には彼女達だが……で、彼女達というのは真名、シャークティ、刀子に2人のシスター。春日 美空とココネ。彼女らは高くそびえたつ木々に張り巡らされた巨大なくもの巣に貼り付けられる形で拘束されている。
なぜ、こうなったのか? それは10分ほど前、和也が何かの気配に気付いた頃に遡る。学園内の各所で複数の侵入を結界が感知。魔法先生、生徒らはチームを組んでその各所へと向かった。
ここへと最初に来たのはシャークティと美空、ココネに刀子だった。ここへ来た理由は一番規模が小さかった為。美空とココネは魔法使いとしてはまだ修行中の身だった。それでも連れてきたのは早く仕事を覚えさせる為。ただ、シャークティがいつも組んでいた魔法先生は別件で不在のため、いつもは別の魔法先生と組む刀子に同行してもらうことにした。
これで大丈夫なはずだった。向かう先の規模は複数の侵入の中で規模は一番小さい。人数としては2・3人であろう。美空とココネに仕事を見せるという意味では最適だった……はずだった。
侵入した者はあちこちに使い魔を向かわせ、自分達を撹乱させて本来の目的を遂行する。それが魔法先生達の推測だった。シャークティもそう思っていた。だから向かった先で複数の使い魔を召喚したと思われる者が人の形をした異形を2体……それを見る限り、陰陽師か呪符使いと思われる……引き連れて歩いていたのを見つけた時は、幸運だったと思ってしまった。美空とココネに仕事を見せられ、首謀者も捕まえられると。
魔法先生達の推測は当たっていた。術者は撹乱のために複数の場所に鬼と呼ばれる使い魔を各所に放ち、本来の目的を果たす。それは間違ってはいなかった。だが、術者の本来の目的のことを深く考えるべきだった。そして、シャークティ達が来たことでその目的を達成する。
正確には目的の1つ……人質を取るということ。そう、術者は警備を分散させ、少人数になった警備を捕らえ、人質を取ろうと考えたのだ。そうとは気付かないシャークティ達は術者が召喚した鬼の群れに取り囲まれてしまう。使い魔や鬼などを召喚出来る数は術者の力量によって左右される。
そこで術者は気を溜め込めた札を何十枚も用意した。こうすることにより、時間制限はあるものの自分の力量以上の数の鬼を召喚可能にしたのだ。その召喚に動揺したシャークティ達。それは美空とココネにも伝わり、怯えさせる結果となり……それで動けない所を土蜘蛛によって捕縛されてしまった。
シャークティ達は助けようとするが、人質に取られたことで迂闊に動けず……そこに刹那と真名が駆け付けるが、タイミング的には最悪だった。美空とココネが捕まってることに気付き、助けようとするが鬼達に阻まれ……刹那達が来たことに気を取られたシャークティと刀子もまた捕まってしまい……彼女らが人質に取られたことで動きが鈍くなった刹那と真名も捕まり、先程の状況になっていた。
「あ、あの〜……この後、私達どうなるのでしょうか?」
美空がそんなことを問い掛ける。一見、笑顔に見えるが引き攣っているのが丸わかりだった。怖いのだ。彼女は元々、自分から魔法使いになろうと思ったわけではない。両親の方針でなるはめになった。だから、こういう類の覚悟が出来ていなかった。
「なに、このかお嬢様を手にするために人質になってもらうだけだ」
「なんだと!?」
術者から出た名前に刹那が憎悪に顔を歪める。彼女にとって、このかは大切な人だった。その人が今毒牙に掛かろうとしている。何よりも許せなかったのが自分。捕まり利用される自分が許せなかった。このままでは自分のせいでこのかは……
「だが、これではいささかつまらぬな……ふむ」
術者はなにかぶつぶつと呟くが、何かを思いついた顔をした直後、指を鳴らす。
「きゃ!?」
「なにを!?」
「いやぁ〜!? ヘンタイ!!」
「ん……」
「なにを……」
「な……」
シャークティらを取り囲む3匹の土蜘蛛達がそれぞれ2本の足をすばやく動かし、彼女らの服を引き裂いていく。たちまち彼女らの裸体が晒され、羞恥で顔を紅く染める。体を動かして裸体を隠そうとするが、くもの巣に貼り付けられそれも叶わない。その様子を術者は含み笑いをしながら見ていた。
「多少痛めつけた方が魔法使い達に見せしめになるでしょうね」
そんなことを漏らす術者の顔が愉悦に歪む。それに明らかに恐怖の色を浮かべる美空。ココネは無表情だが、頬を伝う汗が心情を物語っていた。シャークティ、刀子は怒りを浮かべ、真名はなんとかならないかと策を考える。
(すみません、お嬢様。私のせいで……)
「殺しはしないが……まぁ、女性として生まれたことを後悔するのだな」
うつむき瞳を閉じて心の中でこのかに謝る刹那。術者は数枚の札を持つ左手を上げた時……銃声音。直後になにかが弾ける音が聞こえ――
「え?」
術者は最初、何が起きたかわからなかった。ただ、見た時には自分の手首の先から左手がもがれ、血を噴出しているということ……
「いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
途端に激痛に襲われた術者は左手を押さえながら地面を転がりまわる。そのことに戸惑う鬼達。刹那達も突然起きた光景に思わず顔を向けていた時、またいくつもの銃声音が響き……直後に自分達を取り囲んでいた3匹の土蜘蛛の顔が砕かれ、還っていった。
「なにが――」
起きたことが理解出来ず、戸惑う刹那。その時、それは現れた。紅いコートをマントのように翻しながら、空より舞い降りる者が……
「あいつは……」
その者を見て、真名は驚く。それは祐奈達を助けた……かは疑問だが……和也だった。その彼が現れたことに刹那も驚く。
「なぜ、ここに……」
「あの人は……」
和也の姿を見て、シャークティは怒りの表情を浮かべ、刀子はただ呆然と見つめていた。事情を知らない美空はただオロオロとするばかり。ココネはただじっと和也を見ていたが……
「パーティの次は仮装大会か? なかなか面白そうじゃないか。俺も仲間に入れてくれよ」
『なんや、兄ちゃん。なにもんや?』
両手に銃を持ちながら鬼達を見る和也に、鬼の1体が問い掛ける。それに和也は顔を向け――
「『Devil Walker』……学園長に雇われてな。警備員をやっている」
「『Devil……Walker』……だとぉ……」
和也の言葉を聞いて、術者は苦痛と憎悪に顔を歪めながら立ち上がる。左手首には治療効果のある札を貼り、止血していた。
「学園長……とんでもない奴を雇ったもんだな……」
「知っているのか?」
真名のぼやくような声に気になった刹那が問い掛ける。真名と術者は知っていたのだ。『Devil Walker』の悪評を……
「そうだな。色んな意味でとんでもない奴だ。悪い意味でだが……」
真名のその話を聞いて、刹那はその意味を理解出来ず、呆然としていた。それはどういうことなのか? 刹那がその意味を聞こうとした時だった。
『はん。兄ちゃん1人でどうにかなると思ってるんか?』
鬼の1人が金棒を振りかぶり、和也に襲い掛かる。振り回される金棒。
『な!?』
それを和樹は右腕で鬼の腕と交差させる形で止め、同時に鬼は驚く。目の前に向けられた銃口に。驚いたとほぼ同時に弾丸は放たれ、鬼の頭を砕き……左手の銃は自身の背後に向けられると同時にマシンガンのように放ち、背後から襲いかかろうとしていた3匹の鬼達を貫いていく。
そこに右から鬼の1体が更に襲い掛かる。鬼は金棒を振り落とそうとするが、和也はそれを右手の銃のグリップの底で叩き逸らし、左手の銃で鬼の腹を撃ち砕く。
鬼達に向き直した和也のダンスが始まる。いや、それは演武と言ってもいい。ガン=カタという言葉をご存知だろうか? これはある映画で紹介された架空の武術で、銃(ガン)と武術の型(カタ)を組み合わせたものとされている。
これを聞くと銃を用いた武術と聞こえそうだが、実際はそうではない。この武術のコンセプトは『銃弾を避けるのが無理ならば、撃たれる前に避けてしまえ』というものだ。 相手が撃つ前に向いてる銃口の向きから当たりにくい位置を把握し移動、回避し、なおかつ自分が優位な位置に移動し相手を射止めるというものである。
高い戦略的技能と空間把握能力を要求されるもので、銃だけでなく刀剣や格闘技なども織り交ぜることも可能。ついでに言えば銃などの武器はこの型の補佐的なものである。使いこなせれば複数の相手を同時に出来るほどに飛躍的に戦闘能力が上がる……というのは映画での話だ。
当然であろう。普通の人間が一瞬という名の間にそのようなことをするのは到底無理な話だ。そう、普通の人間ならば……その普通の人間には無理なことが、シャークティ達の前で繰り広げられていた。
襲いくる鬼を蹴飛ばし、直後に銃で撃ち抜き……撃った銃を振り上げ飛び掛る鬼の顎を砕き、蹴り飛ばすと共に振り返って背後にいた4匹の鬼を撃ち抜いていく。
無駄の無いと言っても差し支えないような動きに、的確に放たれる銃撃。それに真名は魅入っていた。自分にはあんなことは出来ない……せいぜい出来て簡単な真似事だけだ。故にその光景に目が離せずにいた。
刹那は別の角度でそれを見ていた。銃であんなことが出来るのなら、背中にある大剣を使ったらどうなるのか? そんな興味が出てくる。
刀子は和也の恐ろしさを改めて確認した思いだった。和也の強さは背中の大剣と銃を使ったものだと思っていた。だが、それは違うと今思い知らされる。あんなのは剣や銃を使ったからといって出来るものではない。それがわかって恐ろしいと改めて感じ……自分が顔を赤らめながら見ていた事に気付かない。
シャークティは複雑な心境だった。昨日は麻帆良で起きていた事件を解決され、今は自分が助けられようとしている。悪魔である和也に。不機嫌そうに見ていたが、ふとあることに気付く。笑っている。かすかにではあるが、和也は笑っていた。シャークティにはそれが含みの無い、純粋な笑みに見えていた。なぜ、あのように笑えるのか……そう思った時に思い出す。
和也のあの言葉……生きてる実感とか人生の楽しさとか、そういうのを感じたくて……こんなのがそうだというのか……こんな戦いをすることがそうだというのか……そう思うと悲しかった……シャークティの中でそんな思いが出てくる。その思いに戸惑いながら、シャークティは戦いを見ていた。
ちなみに美空とココネは呆然と戦いを見ている。ココネの方は若干、興味深そうに見ているが。
さて、戦いの方はすでに鬼達の数が手の平で数えられるくらいに少なくなっていた。その残りに和也は腕を交差させながら銃を向け、弾丸を放つ。が、その弾丸は2体の鬼が持つ金棒に弾かれた。術者が最初から連れていた鬼で他の鬼よりも一回り大きく、身に纏う衣装も違っていた。
『小僧が……いい気になるんやないで!』
『うちらを簡単に倒せると思わないことやな』
構えながら睨みつける鬼達。和也はそれを一瞥してから、銃を向け直す。すると両腕に雷のような魔力が両手の銃へと奔った。その光景にシャークティ達は戦慄した。和也から感じられる異常なまでの魔力に……その魔力が2丁の銃から放たれる。バレーボールほどの大きさの放たれた光球が真っ直ぐと2体の鬼に向かい――
『な!?』
『あほな!?』
それを金棒で弾こうとする鬼達。だが、光球はその金棒を抉り取るように貫き、鬼達の胸さえも抉り取るように貫き、還してしまう。
「動くな!」
その時だった。術者が右手に札を持ち、シャークティ達の下で叫ぶ。和也を睨みながら……
「動くな! 動けば、この女ど、もぉ!?」
札をココネに向け叫ぶが……和也が向けたのは顔ではなく銃口。そして、銃口から放たれた弾丸は術者の両手足を撃ち抜き……同時に残っていた鬼達を撃ち砕き、還していた。
「ぐ……はぁ……がふ!?」
「1つ言っておく。人質は手段と思い込んでるようなら、痛い目を見るぞ」
両手足を撃ち抜かれ苦悶の表情を浮かべる術者の胸を踏み潰し、そんなことを言い放つ和也。鈍い音が聞こえたから肋骨が折れたのであろう。術者が池の鯉のように口を動かしながら苦しんでいた。だが、少しして怒りの表情を和也に向ける。許せなかった。自分の計画を潰されたのが……
「ふむ……」
それに和也は銃口を向ける。それに術者が驚愕の表情を浮かべ、「やめろ!」と言う前に銃声音が響き渡る。まるでマシンガンを撃つかのようにその音は続き……しばらくして、その音が唐突にやんだ。
「気が小さいな。こんなの平気で見る奴がいるのに」
そう言いながら銃をホルダーに戻す和也。術者は死んではいなかった。ただ、左右の耳の傍に銃弾を撃ち込まれただけ。もっとも、その際の衝撃と音で気を失っていた。恐怖で顔を歪めたままで……
「さてと……ふむ、俺としてはしばらく眺めていたいのだがね」
そう言いながら、和也はシャークティ達に顔を向ける。その意味を彼女らは最初わからなかったが、すぐに気付いた。今、自分達は裸体だった。胸も、女性として大事な所も全て晒していた。それを和也に見られている。それに気付いて、羞恥で顔を紅くしていた。
それを面白そうに見ていた和也だったが、背中の大剣を右手に持ち――
「あ……」
軽く一振りしてから地面に刺すと、ほぼ同時に落ちてきたココネを抱きとめていた。顔を紅く染めるココネは降ろされ、地面へと降り立ち――
「わひゃ!?」
同じ要領でくもの巣を切り裂き、美空や他の少女や女性達も助け、抱きとめる。助けられた女性達は一様に顔を紅く染めていた。なぜなら――
「聞くんだが……気のせいじゃなかったら、抱きとめられた時に胸やお尻を揉まれた気がするんだが……」
真名が顔を紅く染めながらも少々怒りを込めた表情で問い掛けてくる。恥ずかしそうにしている美空とココネを除いた女性達も同じ表情である。それに対し和也はと言えば――
「それくらいの役得はあってもいいだろう?」
などと笑みを浮かべて言い切っていたりする。それに真名は呆れ、刹那は怒りの表情を向けながらも両腕で胸や大事な所を隠しており……美空はココネを抱きしめて自分の体を隠している。表情を見ると凄く恥ずかしそうにして、顔を真っ赤にしていた。ココネは顔を紅くしたまま、和也をじっと見ている。
刀子はしゃがんで体を隠しながらじっと和也を見ていて、シャークティは刹那と同じように両腕で体を隠しつつ、和也を睨みながら怒りで震えていた。
と、和也が指を鳴らすとシャークティ達はいくつもの魔方陣に囲まれ、光に包まれたかと思うと引き裂かれたはずの服が元通りになっており、魔方陣が消えると共にそのことを確認したシャークティ達は驚いていた。
「俺としてはいつまでも見ていたいがね。そろそろ他の奴らが来る。嬢ちゃん達はそいつらにまで裸を見せる気か?」
地面に刺した剣を背中に戻しつつ問い掛ける和也。シャークティ達は戸惑いながら顔を向けていた。
わからない。先程、神業ともいうべき戦いを見せたかと思えば、自分達の裸を見たり胸をお尻揉んだりしてそれを役得とか正直に言い切ったり……かと思えば自分達の服を元に戻してくれたりと……その時々で違うものを見せられてしまう。だから、わからない。和也という人物像が……
そんな時であった。和也達の周りに複数の先生や生徒と思われる者達が取り囲み、そのうちの2人アジア系で色黒の男性とオールバックの髪にグラサン、ヒゲが特徴の男性が和也に向かって構えるが――
「待ってくれ。彼は味方だ」
そう言いながら高畑が現れ2人を止める。止められた2人のうち色黒の男性は納得のいかない様子だったが、とりあえずもう1人と共に構えを解く。
「それで、彼は何者なのです?」
「『Devil Walker』……大沢 和也……まぁ、好きなように呼んでくれ。学園長の依頼で警備員をしている」
「『Devil Walker』って……あの……学園長もとんでもないことをするもんだな」
色黒の男性の疑問に和也が答えると、それを聞いたメガネを掛けた男性が呻いてしまう。と、良く見れば数名の先生らがざわめいていた。
「なんなのですか、その『Devil Walker』というのは?」
「私も噂程度に聞いただけなんだが……いわゆる、なんでも屋。犯罪と殺人以外ならなんでも引き受けるそうだけど……やることが犯罪紛いみたいでね。それで依頼人に迷惑を掛けることが多々あるし、多額の報酬を要求することもあると聞いたことが……」
「ぼくは犯罪組織や軍隊をいくつも潰したり、いくつも大きな被害を出すことから『ヒューマノイドタイフーン』とか『トルネードデビル』って呼ばれてる聞いたことがあるよ」
色黒の男性の疑問にメガネを掛けた男性と高畑が答え……それに周りがざわめき出す。一方の和也はと言えば――
「金を持ってる奴から報酬をもらうのは当然だし、依頼を受けるなら全力でやるのは当然だろう?」
なんてことを無表情であっさりと言うもんだから周りの先生や生徒らは睨まれていた。それすらも和也は気にした様子も無いが。
「やれやれ……朝に大暴れしといて、夜にも大暴れか……飽きん奴じゃの〜」
そんな中、学園長が現れたことで静かになる先生や生徒達。和也は静かに学園長を見ていたが……
「学園長……彼を雇ったというのは本当ですか?」
「本当じゃ。そういえば、報酬の話をしていなかったが……どうするのかの?」
「いらん。こんな楽しいことで金をもらうつもりは無い」
色黒の男性に答えた後の学園長の問い掛けに和也はそう言い放つ。途端にざわめき出す先生や生徒達。先程、メガネをかけた男性から多額の報酬を要求すると聞いただけに驚いているのだ。それは刹那と真名も同じだった。あれだけの戦いをする者が報酬を求めない。ある意味信じられないことだったのだ。
そんな中で高畑はやれやれといった様子で、刀子は静かに、シャークティは複雑そうな表情で見守っている。
「ふむ、それは”契約”ということかの?」
「個人的な趣味だ。楽しめるなら、金はいらん」
意味ありげな学園長の問いに和也は無表情で答えるが……聞いていた先生や生徒らは何のことかわからず、首をかしげる者もいた。和也の正体を知る高畑、シャークティ、刀子は納得していたが……一方で事情を知らない刹那、真名、美空はそんな高畑らを見て戸惑っていた。
「そうか……ま、聞いての通りじゃ。皆、よろしく頼むぞ」
学園長の言葉に先生と生徒らはただ戸惑うばかり。中にはあからさまに疑いの目を和也に向ける者もいた。というのも……
「あの……彼は本当に大丈夫なのですか?」
金髪をなびかせながら女子高等部の制服を着る少女が問い掛ける。その後ろには中等部の制服を着た少女が怯えながら様子を伺っていた。
「腕の方なら心配無い。私が保証しよう。私や刹那じゃ彼には敵わない。まぁ、少々やりすぎな感じもあるが……」
「綺麗な淑女に嬢ちゃん達のような可愛らしい少女を痛めつけようとする馬鹿に手加減なんているのか?」
真名の話に和也はそんなことを言うが……真名は思わず驚いてしまう。自分のことを可愛らしい少女と言われたことに……自分のことをそう言う奴は久しくいなかった。それも嫌味とかキザったらしさをまったく感じない、さも当然といった感じで言われたことなど――
そのことに思わず紅くなる真名。もっとも、自身がそうなっていることに気付いてなかったが。
「真名さんの言うとおりです。性格の方は難はありますが……」
「腕の方は間違いなく確かだろうね。ぼくじゃ敵わないよ」
「ええ、確かに……」
シャークティの言葉に続くように語る高畑の言葉に刀子が同意する。それを聞いた先生と徒らはざわめき出した。高畑は麻帆良の中で屈指の実力者であり、それは誰もが認めている。その本人が敵わないと言うのだ。それを聞いて驚いているのだが……
「それは俺が武器を使ったらの話だろ?」
「武器を使ったら……ね」
和也の言葉に高畑は苦笑する。というのも、素手の和也に勝てる自信も高畑には無い。戦いを見ているからこそわかる。和也の強さは戦い続けてきたことで培われたものであると。自分もそうだが、和也の場合その質が違うということを。
「ほほほ、仲が良いことでいいことじゃ」
学園長はそう言うが先生や生徒らにはそうは見えず、思わず汗を浮かべてしまうのだった。
とりあえず解散ということになり、真名、刹那、美空は同じ寮ということで一緒に歩いていた。なぜかココネが美空に肩車されて、一緒に付いて来てるが……そして、彼女達の前方を黒いジャケットに着替えている和也が歩いていたりする。
「聞くが。向かう先は私達と一緒のような気がするんだが?」
「管理人室に居候させてもらってるからだ」
真名の問い掛けに和也はなんでもないように答える。そういえば、帰ってきた時にクラスメイトが管理人室に男が来たと騒いでいたのを思い出す。それが彼だったのかと思いつつ、その後姿を見ているとあの戦いが思い出される。あの演武のような戦いを……それを思い出すと胸が高鳴る。一種の芸術のような戦い方に……故に真名は和也から目が離せずにいた。
「それにしても、美空さんもこちら側の方だったんですね」
「美空って誰のことっすか〜? 私、そんな者じゃないですよ〜」
こちらでは刹那が声を掛けているが、美空はというととぼけていた。まぁ、顔を思いっきり逸らし、冷や汗を浮かべているが……そんな美空の様子に苦笑しつつも刹那も和也の後姿を見ていた。真名と同じようにあの戦いを思い出しながらも、感じるのは不思議な感覚。まるで自分と同じような……それに刹那は戸惑っていた。
美空とココネは顔を紅くしながら和也の後姿を見ていた。なにしろ、裸体を……女性として大事な所まで全て見られてしまったのだ。しかも、胸やお尻まで揉まれて……でも、なぜか嫌じゃない。その感覚に恥ずかしくも戸惑う。
そんな少女達の思いが交錯する中、その1日は終わろうとするのだった。
和也の能力 地獄の炎(ヘルファイヤ)
和也が良く使う黒い炎は地獄で燃え盛る炎である。余程強い力をぶつけない限り永遠に燃え盛り、あらゆるものを燃やし尽くす炎だ。
和也はこれを地獄より召喚し、使うことが出来る。この能力はイフリートなど、上位の炎の力を持つ者なら使うことは出来る。
ただ、この能力は元々あったものではなく、ある方法により入手したらしいが、その方法は――
和也の武器 エイミー&エネミーU(ツヴァイ)
和也が使う2丁銃。大型オートマチックタイプ。和也の魔力を弾丸とし、撃つことが出来る。また、魔力をチャージすることで威力を上げることが可能。
空薬莢が飛び出すがこれも和也の魔力によって生み出されたもの。和也曰く『造った奴の趣味』で付けられた機能。なので、深い意味は無い。
元々は和也の恩師であった者が使っていた銃のレプリカ。ただし、こちらは和也用にまったく違う素材が使われている。
銃の名前は亡くなった恩師の双子の妹らから名前から名付けられた。なお、その恩師はある戦いですでに亡くなっている。
あとがき
というわけで第3話はいかがだったでしょうか? 今回はヒロイン達が登場……え、出過ぎ?いや、それはそこはかとなくスルーしていただけるといいです(おいおい)
さて、今回の戦闘シーンはいかがだったでしょうか? 実は……激しく自信のない場面だったりします。いや、マジで……基本的にどのように動かすかで悩みますしね。楽しんでいただけるといいのですが……
次回は刹那・真名がメインです。お楽しみに〜
|