『立派な魔法使いと歩き続ける悪魔』 第1話 『半悪魔 麻帆良に現れる』
1人の女子高生が街中を歩いていた。時刻は午後6時を回った所。冬の空はすで暗いものの、街灯や建物の明かりで視界が困ることはない。それにまだまだ人通りも多い。この状況で何かが起きるとは普通は考えないだろう。
「今日はちょっと早かったかな? でも、明日の準備もあるしな〜」
女子高生は腕時計を見つめながら歩き……ふと、異変に気付いて足を止める。気が付けば、街灯や建物の明かりが消えている。しかも全て……更にはあれだけいた人通りが今は人っ子1人いなくなっていた。
突然の異変に女子高生は怯えながら周囲を見回してみた。と、噴水の所でいくつかの人影らしきものが見える。それを見てほっとして……でも、すぐにおかしいことに気付く。暗くて良くは見えないが、その人影は座っているように見えるのだが……座り方がどう見てもおかしい。
地面にじかに、しかも両足を広げた形で座っているようだった。それに妙にお腹が出ているように見えるし……服を着ていないようにも……今頃になって気付く悪臭にむせそうになりながら、女子高生はその人影に近付き――
「ひ!?」
それを見て恐怖が込み上げ、思わず悲鳴を上げそうになった。それは人だった。ただし、普通のではなかったが……更には地面や噴水の水にはおびただしいまでの――
その惨状を見た女子学生は首を振りながらそれを否定しようとして……
『ひひひ……かかったかかった……獲物がかかった……』
「え?」
聞こえてくる声に女子学生は戸惑いと恐怖に怯えながら、顔を上げる。なぜなら、声は自分の上から聞こえてきて――
『お前も……になってもらうぞぉ〜』
「い……いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
上にいたものを見て、女子学生は悲鳴を上げた時、それに覆いかぶされて――
――これはこのか達の先輩が消えた時のことである。
「依頼は行方不明になった先輩を探して欲しい。これでいいんだな?」
和也の問い掛けにこのか達はうなずく。じっと見つめたまま。というのも――
(う〜ん、結構若くてカッコいいのに、どこか渋めよね〜)
ハルナはどこか興味津々といった様子で。
(この人は年はいくつなのでしょうか?)
夕映は見た目の若さからそこが気になっており。
(ちょっと怖いかも……)
のどかは男性恐怖症もあってか、少し怯えていて。
(なんやこの人、不思議な感じやな〜)
このかは和也から感じられる雰囲気を不思議そうに思っていた。
「じゃあ、早速だが――」
「あ、ちょいと待った。依頼料とかはどうなるの?」
和也が何かを言い掛けようとしてハルナがそんなことを問い掛ける。というのも、実は報酬に関しては連絡の時には一切触れていなかったのだ。もしかしてふっかけられるんじゃ……と、ハルナは思ったのだが――
「いらん。今回はそれなりに楽しめそうなんでな」
「は?」
和也の返事にハルナは思わずポカンとしてしまう。ただ……というのはいい。むしろ助かることだ。問題は楽しめそうという所だ。楽しめるとはなんなのか? ていうか、そんな理由でただなのか? 思わずそんなことを考えてしまう。
「なんですかそれは? 何が楽しめそうなのですか?」
「何、ここに来た時にすでに当たりは付けていてね。それを見る限り、面白そうだと思ったまでだ。……もっとも、お前さん達にはそうじゃないかもしれないがね」
夕映の疑問に和也は手振りを加えながら答えるが……
「私達には?」
「覚悟はしとけ。依頼はちゃんとやるが、結果までは保障出来ん。そういうことだ」
このかの疑問に和也は顔だけを向け答える。このか達は最初その意味がわからずにいて……でも、理解して顔をこわばらせた。つまり、もしかしたら先輩はすでにこの世には――
「そんじゃ、当たりを付けた所に行くが、お前さん達はどうする?」
左目を閉じながら問い掛ける和也。それにこのか達は互いの顔を向け会い……全員うなずくと和也の後に付いていくのだった。
「あ〜、遅くなっちゃったわね」
「ごめんなさい。私があちこち連れ回しちゃったから……」
街中を歩くアスナ(神楽坂 明日菜)の不満に横を歩くネカネが謝っていた。その後ろでネギとアーニャがそれを見ながら付いてきている。
何をしてるかといえば、買い物の帰り道だ。買い物に来たはいいがネカネ達がまだ不慣れなこともあり、アスナが案内していたのだが……ネカネ達が思った以上にお店があったのであちらこちらを見て回ったらこんな時間になってしまったのだった。
まぁ、品物はちゃんと選んだので、荷物の方はそんなに多くはならなかったのは幸いだが……
「ああ、気にしなくていいですよ。どこに何があるかわからなかったでしょうし」
謝るネカネにアスナは手を振り、笑顔で返していた。ちなみにだが2人の仲はとても良い。
どことなく似ているというのもあってか打ち解けるのが早かったし、意外なのだが気が合うようなのだ。
「まぁ、ちょっとはしゃいじゃったわね……」
「あははは……」
照れ笑いを浮かべるアーニャの横で、ネギは荷物を持ちながら苦笑いを浮かべている。ちなみに持っている荷物は全てアーニャが購入した物だ。
「ごめんなさいね、本当に……お詫びというかお礼というか……夕飯は一緒に食べませんか?」
「え? いいんですか? このかがなんていうかわからないけど……どうしようかな〜」
ネカネの提案にアスナは真剣に悩んでいた。その様子を見ていたネギだが、不意にあることに気付いた。街灯や建物の明かりが全て消えている。まだ多かった人通りが今は人っ子1人いない。
「あら? 何か様子が変……じゃない?」
「え? あれ? なんか暗い……」
ネカネもそのことに気付いて立ち止まり、アスナもまた気付いて辺りを見回してみる。明らかにおかしい状況にアーニャは怯えながらネギのそばに寄っていた。
「あ、あれって人じゃないですか?」
と、ネギが噴水の方を指差す。確かに人影らしきものが見えるのだが……何か様子がおかしい。座っているようなのだが……動く気配が無い。
「とりあえず、行ってみよう」
「ええ……」
「はい」
「あ、待ってよ〜」
アスナの考えにネカネが同意し、ネギが2人に付いていくのを見てアーニャは慌てて追いかける。4人は人影に駆け寄り、やがて漂ってくる悪臭にむせそうになりながらも噴水に近付き、そこでその異常がなんなんのかがわかった。
「なによ……これ……」
その光景にアスナは顔をこわばらせ思わず引いてしまい、ネカネもまた息を飲んでそれを見ていた。ネギはそれを見て表情が固まり、アーニャは信じられないものを見たような顔になっている。もっとも、アーニャの表情は仕方が無いことだ。
それはあまりにもむごい状況だった。レンガ造りの噴水の周辺は血にまみれ、噴水の水もまた赤く染まっている。良く見ればレンガも所々壊されている。その噴水の前には3人の学生と思われる少女達がいたが……その姿もまた異常だった。3人とも一糸纏わぬ姿でへたり込むようにしゃがんでいる。
表情はうつろでお腹が異常に……それこそ妊婦のように……いや、もしかしたらそれ以上に膨らんでいた。また、体も血にぬれ……秘部とアナルからは血と共にゲル状のものが流れ落ちていた。
「なんのこれ……いやぁ……なんなのよ、これぇ!?」
この異常を見たアーニャは混乱のあまり叫んでいた。アスナも同じ気持ちであり、顔が青ざめてしまっている。一方でネギとネカネはアスナとアーニャよりも冷静に状況を見ていた。6年前の惨劇を経験していたからだった。
それでもアスナとアーニャよりも冷静であったというだけであって、実際にはそれなりに驚いており……だからこそ、そのことに気付くのが遅れる。
「いけない! 早くここから逃げないと――」
『ひひひひ……見つけた見つけた……本当の獲物、やっと見つけたぁ〜……』
ネカネがそのことに気付いた時だった。その声が聞こえてきたのは。ネギが声が聞こえてきた上の方に顔を向ける。ネカネがそれに続き、アスナとアーニャもそれを見て上を向き……表情をこわばらせた。
『見つけた見つけた……やっと来た……これで俺は自由になれる……』
それは鈍い声でしゃべりながら、ネギの前に下りてきた。それは人……ではない。確かにある一部分を見れば人に見えなくも無いが……全体を見ればそうではないことは一目瞭然だった。
人に似ている部分は胴体のみ。全身灰色がかった体色をしており、下半身から下はクモのような体……両腕はカマキリの鎌のようなものになっており……顔は一応人の形に近いが……髪の毛は無く、全体に血管が浮き出たようになっており、醜く歪んでいる。それに何よりも体が大きい。ちょっとした小屋くらいの大きさがあるのだ。
『見つけた〜……お前を殺せばぁ……俺は自由だぁ〜……』
「う……この……ラステル・ア・スキル・マギステル……魔法の射手!光の20矢!!」
異形の言葉に恐怖しながらもネギは魔法を放つ。放たれた光の矢は真っ直ぐと異形へと飛び――
「え!?」
「うそ!?」
『あははは……効かないなぁ〜……そんなんじゃあ〜……』
異形の表面で光の矢は弾けるが、傷を付けることは無かった。その事実にネギとアーニャは驚きで声が出てしまう。
「ダメ、逃げないと……」
「逃げるたって……」
ネカネがそういうが、アスナはその後ろを見て固まっていた。何事かとネカネやアーニャも振り向くが……それを見て同じように固まる。いつの間にか、自分達の周りを異形の群れが囲んでいた。
目の前の異形よりも小さく――といっても、普通の人ほどの大きさはあるが――クモと変わらぬ姿をしているものが群れとなって……
『ひひひひ……小僧はぁ……餌にして……女どもは……子供達の苗床になってもらおかぁ〜……』
異形の言葉にネギは青ざめる。餌ということは喰われるということなのだ。それがすぐにわかったからこそ恐怖した。またネカネも異形の言葉の意味を理解し、青ざめる。最初は理解出来なかった。いや、理解したくなかったと言った方がいい。
お腹を大きく膨らませる少女達と自分達を囲むクモの群れ。そして、異形の言う子供……すなわち少女達は……それを理解したが故にネカネも恐怖する。アスナとアーニャは気付いてないのか、こわばった表情で異形を見ているだけ。このままでは自分達は……
『ひひひひ……それじゃあ早速〜』
異形がゆっくりと近付いてくる。ネギは杖を構えるが……表情は明らかに恐怖に歪んでいた。
(このままじゃ、この子やアスナちゃん達が……)
ネカネが最悪の状況を考え、現実のものになることに恐怖し体を震わせてしまった時だった――
少し時間を戻し、和也達は噴水の所に来ていたのだが……
「おかしいです。この時間に人がいないなんて……」
夕映がそのことに気付いて辺りを見回していた。時間は夜の7時を過ぎた所。近くには様々なお店があるので、この時間でも噴水の周囲には人通りがあるのだが……今はそれが無い。
「なに、暴れることになりそうだからな。うるさくならないように人払いをしたんだよ」
「暴れる?」
「人払いって、どうやって?」
和也の言葉にこのかは首をかしげ、ハルナは思わず問い掛けていた。と、和也は不意に立ち止まり――
「悪いがそこに隠れててくれ」
「え? なんでや?」
和也の言葉にこのかがまた首をかしげる。自分達は先輩を探しに来たのになんでこんな所に隠れなきゃならないのか? それはある意味当然の疑問なのだが……
「すぐにわかる。危ないから隠れてろ」
そうとだけ言うと、和也は噴水に向かって歩き出した。その言葉に首をかしげながらこのか達は言われたとおりに植木の影に隠れる。
その時だった。和也が何かをつかんだかのように右手を伸ばすと、その手を握り締め――
『なんだ!?』
突然、ガラスが砕けたような音が響いたかと思うと異形は驚いたように辺りを見回していた。ネギ達も突然聞こえてきた音に驚きながらも辺りを見てみると街灯に明かりが灯り、明るさを取り戻していることに気付いた。
「ここがパーティ会場か? 随分と賑やかなもんだな」
そして、聞こえてきた声に誰もが顔を向け――
「あ……」
「ああ!」
その人物を見てネカネは呆然とし、ネギは嬉しそうに顔を輝かせていた。
「なに……あいつ……」
「Devil Walker……嬢ちゃん達に頼まれてな。人探しをしていたんだが」
睨むように見つめながら、思わず疑問を漏らすアスナに答えるようにその人物は……和也は答えた。
『半端者〜……邪魔するかぁ〜……』
「聞いてなかったのか? 俺は人探しをしに来たって? ところで嬢ちゃん達。あそこにいるのが探してた先輩か?」
異形に答えてから、和也は顔を向けて問い掛ける。ネギ達も釣られてそちらに顔を向けてみると――
「せ……先輩!」
「あ……」
「え? このかに本屋ちゃん? それにゆえにパルまで!?」
うつろな顔で座る少女達の中に見知った顔がいて、思わず顔を出すこのかとあまりの状況に気を失いそうになるのどか。そんな彼女らがいることにアスナは驚いていたが。
「ふむ、となると依頼はこれで完了したことになるんだが……どうする?」
「ちょ、ちょっと!? これで終わりって……こんなのどうしろっていうのよ!?」
和也の言葉にハルナが驚き、思わず声を荒げてしまう。いきなりのことで何がなんだかわからないが、ヤバイ状況であるというのはわかったからだ。
「へいへい……なんとかすりゃいいんだろ?」
和也はそう言うとジャケットを脱ぎ、そのジャケットを振り回し始め……やがて、舞うようにして自分も回り始めた。
「え? なにやってんの?」
ハルナがそれを見て、疑問を漏らした時だった。ジャケットが血のように紅いコートに変わり、和也は回りながらそれを纏い――両腕を広げた形で止まると背中には抜き身の大剣を背負い、腰の左右には大型の白銀に輝くオートマチックガンが収められたホルダーあった。
「さてと……あの時の坊主と嬢ちゃんか……そこの嬢ちゃん達を連れて隠れな。害虫駆除はしっかりとやっておくから」
そういうと和也は両手に銃を持つ。それを聞いたネギとネカネは慌ててうつろな少女達に駆け寄り、アスナとアーニャも慌てるようにそれに続いた。
『半端者〜……邪魔をするなぁ……』
「わりぃな。仕事なんだよ」
異形の怒りの声に和也は答え、引き金を引いた。マズルフラッシュと共に放たれる弾丸はそのまま2体のクモの顔を砕き……同じように砕かれるクモが次々と現れる。
和也は銃を横に構えながら、まるでステップを踏むように横に移動しながら銃を撃つ。移動はゆっくりと……だが、銃撃は速かった。まるでマシンガンのように銃弾を放ち、クモを次々と砕いていくのだ。
『よくも俺の子供達をぉ〜』
異形が怒ったように声を出すと、クモの群れは和也を取り囲み始める。その間にネギ達はうつろな少女達を抱えながらこのか達の所へと来ていた。
「先輩!」
「ちょっと、どうなってるのよあの銃? あんなに撃ってるのになんで弾切れしないわけ?」
このかがアスナが抱えてきた少女に駆け寄っていた時、ハルナはそんな疑問を漏らす。
クモに取り囲まれようとしている和也は両腕を広げ、踊るように回りながら銃弾をマシンガンのように放っていた。その間、マガジンの交換は一度として行っていない。マガジンの大きさを考えても、明らかに多すぎる弾丸を放っているのにだ。
「多分ですが……魔法銃の一種じゃないかと……魔力を弾丸にして撃ってるんだと思います」
「魔法銃って……明らかに異常よ、あれ! だって、撃つとなんか飛び出てるし、威力も明らかに桁違いよ!」
銃を撃ち続ける和也を見ながらネギはそう考えるが、アーニャはそれを否定した。
確かに和也が持つ銃からは撃つたびに空薬莢が飛び出ているし、アーニャが知る魔法銃にしてはあまりにも威力が高すぎるのだが……実はネギの考えが正しかったりする。が、この場合このような話をするべきではなかった。なぜなら――
「魔法……ですか?」
「あ……」
夕映の疑問の声にネギは自分の失敗に気付いた。基本的に魔法のことは一般には秘匿しなければならない。アスナの場合、事故(というには無理があるが)で知られてしまったが、なんとか秘密にしてもらっている。
だが、このか達は魔法のことを知らない。だから、彼女らの前でこのような話をするべきではないのだが……あまりの状況に失念してしまったのである。
とまぁ、ネギ達がそんなことをしてる間も戦闘は続いていた。ついに取り囲んで和也に跳びかかるクモの群れ。だが、和也も跳んでそれを避ける。
「な!?」
「うわぁ……」
その跳躍にハルナは驚き、このかは思わず感心してしまう。和也が跳んだ高さは明らかに普通の人を超えている。それだけでも異常なのに逆さになって銃を撃ち続け、しかも宙に浮いている。実際にはゆっくりと落ちているのだが、それは銃を撃つ反動をロケットの噴射のようにしているように見えた。
「なんですか、あれは……あれは……魔法だとでもいうのですか!?」
その光景に夕映はそう思わずにはいられなかった。確かにこんなのはワイヤーアクションでもない限り、普通は無理である。それを和也は無表情で当たり前のようにやってのけているのだ。
「あうう、どうしよう〜!?」
「ネギ! あんたがあんなことを言うから!」
こちらは夕映の言葉で魔法がバレたと思い、慌てるネギと責任をなすり付けようとしているアーニャ。でも、実際はバレているわけではない。夕映やこのか達には戦う和也の姿を見て、そう思っただけにすぎない。が、この2人の様子をハルナは見逃さず、しまいには目を怪しく輝かせていた。
一方和也は宙返りをし、銃に撃ち砕かれたクモを踏み潰しながら着地すると、銃をホルダーに戻し大剣を構える。そして、剣先を地面にこするように振り上げ、構える……同時に大剣の刀身が黒い炎に包まれた。
「やっぱり、蟲は焼き殺した方がいいか……」
そんなことを言ってため息を漏らし……すぐにクモの群れを睨むように顔を上げると、そこへと向かい駆け出した。同時にクモの群れも襲い掛かるが……和也の大剣がそれを阻むように切り裂き、燃やしていく。
「す……凄い……」
それを見たこのかはそう思わずにはいられなかった。剣を振るう和也の姿はまるでダンスを踊っているかのようだった。しかも、クモ数匹を一度振るっただけでまとめて切り裂いている。それを当たり前のように和也はこなしていく。
やがて、和也がダンスを踊り終えた時には、クモは残り5匹になっていた。
『く……半端者が……俺の子供達をよくも〜』
「多かったんだから、減らしてやったんだよ。逆に感謝して欲しいもんだがね」
怒りの声を出す異形に、和也は悪びれた様子も無く返す。だが、異形は動かない。動けないのだ。和也はただ右手で大剣を持って立っているだけ。構えてもいない。でも、襲い掛かれば斬られる。そんな雰囲気を放っている。
その様子をネギ達は植木に隠れて見ていたのだが……
「ねぇ? さっきからあのバケモノの言っている半端者ってどういうことなのかしら?」
「さぁ?」
アスナの疑問にこのかは首を傾げるが、答えを知るネギとネカネは困った顔をしていた。だって、和也の正体は悪魔だ。それを知れば、アスナ達はどう思うだろう?
6年前のあの時だって、それが問題になるとネカネが思ったからこそ話さなかったのだから――
『うるさい〜……出来損ないの悪魔が〜……ふざけたことをぬかすなぁ〜』
「悪魔ですって!?」
だが、あっさりと異形がバラしてしまい、それにアーニャが立ち上がって叫んでいた。
ネギがそれをなだめようとした時だった。異形が尻を上げたかと思うと、その先端から糸を放つ。放物線を描くように、植木から出たアーニャに向かって。
「え? きゃあぁぁぁぁぁ!?」
「アーニャ!」
異形が放った糸に絡み取られるアーニャ。ネギが飛び出すがアーニャは引っ張られ、異形の左の鎌に吊り下げられる形となっていた。
『動くな〜……動けばぁ〜……こいつの命はぁ〜』
「あ……あうぅ……」
アーニャを見せ付けるように吊り下げたまま前に出す異形。アーニャはただ怯えるだけであった。捕まったことと、異形の間近にいることの恐怖で……
「やれやれ」
和也はといえば、ため息を付くと大剣を真上に放り投げる。それを見て、異形はいやらしく顔を歪めた。
『ひひひひ……出来損ないの悪魔も〜……やはり半端だったな〜……人質がいれば何も出来なく――』
「思うんだがな。雑魚や三流悪党の舌なめずりってのは、悪い癖だとは思わないか?」
まるでそれが愉しそうなことのように話す異形に、和也はそう言い放った。その様子にネギは不思議に思いながら、ふと和也が放り投げた大剣に目を向け……そこで気付いた。
『ああ〜? ……何言ってやがんだ〜……何も出来ない半端者の癖に〜……』
「あ、ネギ!」
馬鹿にしたように和也を見る異形。その時だった、ネギが杖にまたがって飛び出したのは。アスナが止めるのも聞かずに、異形に向かって飛び出していく。
『なんだぁ〜……小僧……』
それに気付いて異形がネギに顔を向ける……のと、和也が両手に銃を持つのはほぼ同時だった。その直後、何かが異形のすぐ横に落ちる。
『あ?』
異形には何が起こったのかわからなかった。
「きゃ!」
だが、気が付けば吊り下げていたはずのアーニャはネギの腕の中にいて――
『あれ?』
自分の左腕が無い。
『いぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!? なんだ〜……これはぁ〜!?』
理解した途端、激痛が異形の体を駆け巡り、和也は両手の銃でクモを撃ち砕いていく。何が起きたのか? まぁ、単純なことだ。和也が放り投げた大剣が落ちてきて、異形の左腕を肩口から切り落としただけ。 最初からこのつもりで和也は大剣を放り投げたのである。
で、その和也はといえばクモをすべて撃ち砕き、異形へと近付いていた。
『く……そぉ〜……半端者がぁぁぁぁぁ!!?』
激昂し駆け寄って残った右の鎌を振り下ろす異形。和也はそれをあっさりと跳んでかわし、両手の銃を撃ちまくる。クモとは違い、弾丸は異形の表面に傷を作っただけだったが、それでも足の何本かは砕き落としていく。
『半端者の分際でぇぇぇぇぇぇ!!?』
傷付けられて更に激昂した異形が糸を放つ。それを異形の上にいる和也は左腕を突き出し、糸を絡ませていく。
『つかま、うえぇぇぇぇ!?』
和也を捕まえて顔がニヤケ……る前に、驚愕の表情へと変わる異形。
「嘘……」
なにしろ和也が絡め取られた左腕を振り上げただけで、異形は釣られた魚の如く引っ張り上げられたのだ。それを見ていた皆が呆然とし、アスナが思わず声を漏らしたのは……まぁ、無理も無いだろうが……
『ぐはぁ!?』
その間に異形は地面に激突するかのように落ち、和也は黒い炎で左腕を絡め取る糸を焼き切り、着地して銃をホルダーに戻し地面に刺さる大剣を抜き取り、異形へと向かい歩き出す。
『ま、まてぇ〜……お、俺が悪かったぁ〜……もうしないからぁ〜……助けてぇ〜……』
「じゃあ、聞くが……逆の立場ならお前はどうするんだ?」
敵わない。そう感じた異形が命乞いをした時、和也がそんなことを聞いてくる。助かる……そう思った異形の顔が卑しく歪むが――
「ちなみにこれが俺の答えだ」
言うと共に構える和也はそのまま黒い炎に包まれた大剣を横に振り抜き、異形を横に真っ二つに切り裂いた。
『な、なぜぇぇぇぇぇ!!?』
「許しを請うぐらいで助かるなんて、本気で考えてたのか? 悪魔にしちゃ、甘い考えだな」
叫ぶ異形に和也は大剣を振り上げながら答え――
『や、やめぇぇぇぇぇぇぇ――』
異形の叫びを無視するかのように大剣を振り落とし、十文字に切り裂く。異形はそのまま黒い炎に包まれ……そのまま燃え落ちるかのように崩れていった。
「す……凄い……」
それを見ていたハルナが声を漏らした時、和也は振り返って彼女らの元へと向かう。
「先輩……」
戦いが終わったのを感じてか、このかは涙を浮かべながら変わり果てた先輩の体を揺するが……反応が無い。ただうつろな顔が揺れるだけだった。そのことにこのかが泣きそうになった時、和也が彼女を引っ張り上げる。
「きゃ!?」
「このか!?」
「どいてろ」
驚くこのかとそれを見て驚いたアスナが駆け寄ろうとした時、和也は大剣を構え……大きくお腹が膨れた彼女達を大剣で薙いだのである。
「なにしてんのよ!?」
ハルナがそれを見て驚くが――
「あ、あれ? 斬れてないです?」
そのことに夕映が戸惑っていた。そう、彼女らは斬られたはず……なのに傷1つ無い。代わりに彼女らの秘部とアナルから赤く濁ったゲル状のものが流れ落ち、お腹が元の大きさへと戻っていく。
やがて、ゲル状のものが出なくなり彼女らのお腹も元へと戻ると、和也は左手の指を鳴らす。その直後、彼女達をいくつもの魔方陣が取り囲み……消えると彼女らの体を濡らしていた血は消え、表情も安らかなものへと変わっていた。
「何を……したんや?」
「なに、可愛い嬢ちゃんの泣き顔ってのもいいもんだが、あんまり泣かれるのもなんだからな。特別サービスで体を元に戻した。襲われた時の記憶も消した。しばらくすれば、いつもどおりの先輩だろうよ」
このかの問い掛けに和也は答えると、大剣を背中に戻し振り返る。そこには警戒するアーニャと……
「カズヤ……カズヤだ……うわぁぁん!?」
泣き出したかと思ったら和也に抱き付くネギ。それをネカネは微笑ましそうに見ていた。
「やれやれ、嬢ちゃんに坊主も元気そうだな」
「ええ……あなたのおかげで……」
かすかに笑みを浮かべる和也にネカネもまた微笑を返していた。
「ちょっと! あんた達、この悪魔と知り合いなの!?」
「あ、あの……他のみなさんは? 確か、他にも行方不明になってたと思ったんですけど……」
ネギとネカネを見て怒り出すアーニャ。彼女にとっては悪魔と仲良くしている2人のことが信じられなかったのだ。
そんな中、のどかが気になっていたことを問い掛ける。他に行方不明になった人がいて、まだ見つかってない。先輩のような目にあったんじゃないかと思ったのだ。
「さてな……ただ、噴水の所に浮かんでるのを見る限り、考えない方がいいかもしれんがね」
答えながら噴水を見る和也。何気に抱きついてるネギの頭を撫でながら。釣られてアスナ達も噴水に顔を向け……表情が強張る。未だ血に染まる噴水の水……その表面に学校の制服と思しき物がいくつも破かれた状態で浮かんでいた。それもいくつも……
それを見たアスナ達は最悪の状況を思い浮かべてしまう。すなわち、行方不明になった人達は皆あの異形によって――
「ところで……いつまでそこで見てるつもりだ? 渋めの紳士と綺麗な淑女の御二人?」
と、和也がどこかへと顔を向けてそんなことを言い出す。何事かと顔を向けるネギ。
「え? あれ……高畑先生?」
「タカミチ……」
木の陰から現れた紳士――高畑・T・タカミチ……そして、褐色の肌を持つシスターと鞘に納まった刀を持つスーツをきた女性……
突然現れた元担任と知り合いアスナとネギが呆然とする中、その3人は睨むようにして和也を見る。そのただならぬ雰囲気に誰もが圧倒されそうになるのだった。
☆キャラクター紹介
大沢 和也
この作品での主人公的存在。悪魔(父親)と人(母親)の間に生まれたハーフデビル。
10年程前に起きた事件がきっかけとなり、デビルウォーカーと名乗って何でも屋を始める。
ちなみにこの時初めて自分がハーフデビルであることを知ったのだが、そのせいか悪魔達に忌み嫌われる存在でありながらそれを気にすることは無い。
なお、10年前に何が起きたかは今はまだ語られていない。
『犯罪・殺人以外の厄介ごと、お引き受けいたします』と銘打っているが、やることほとんどが犯罪に近い……というか、そのもの。
必要とあらば犯罪組織・軍隊を潰し、時には人すらも殺す冷酷さも持っている。(ただし、殺す時はちゃんと理由があってだが)
故に裏の世界では『ヒューマノイドタイフーン』とか『トルネードデビル』のあだ名で恐れられている。ただし、本人はこれを『生きているという実感を感じる為』とか『人生の楽しさを求めてる』とかいう理由でやっていたりする。
常に冷めたように無表情ではあるが時折笑顔を見せたりなど、人並みの感情は持っている様子。
紅いコートに大剣、2丁銃が基本スタイルだが、普通の時は黒のジャケットを羽織っている(夏場はベストになる)
爵位級並と思われる力を持つなど謎は多いが……それはいつか語られていくことになるだろう。
あとがき
というわけで、第1話はいかがでしたでしょうか?
な〜んか、和也が目立ちまくりですが……まぁ、気にせずに(何がだ)
それと2話連続でバトルでしたが……いかがでしたでしょうか? 実は結構苦手な所だったりします^^;
次回は学園長登場〜で、2−Aメンバーも何人か登場します。お楽しみに〜……にしてる人いるのかなぁ〜^^;
後、出来ましたら感想もお聞かせください。
|